ゾゾの力によって、ビスマルク港に移動した晴人達。
そこで彼らを待っていたのは…
港の周辺で、ざわざわと話をしている漁師や住人達の姿。
彼らの視線の先を見ると、そこにあったのは
――霧が完全に晴れ、海の上に浮かぶ巨大な塔。
アレがエミルビス塔なのか、と遠目から見ても分かるその大きさに、晴人達は息を呑む。
「あそこに、ステイアの手がかりが…?」
「あると、思います。…少なくとも、サウルさんはそう仰っていました」
「とにかく、あそこに移動しよう。ルル…あそこまで飛べそうか?」
「うーん…だいじょーブイ!あの距離なら、はるとん達と一緒に魔法で移動しても問題ないの」
「長い間、ずっと霧に守られてきた場所だし…モンスターが住み着いている、なんてことはないと思うし大丈夫なんじゃないかしら?」
ルルと、更には凛子の意見を聞き…
晴人達は納得したように頷きながら、ルルの周りに集まる。
流石にゾゾを連れて行くことは不可能で、彼だけはここに残すことに。
「それじゃあ、…いっくよぉ〜!」
ルルの転移魔法で、晴人達の姿が消える。
彼らを見送った後、ゾゾはちょっとどこかで休もうかと座る場所を探していた所…
ステイアと言う謎の存在に怯え、心身ともに疲れ果てた一人の男性に、紫のヒビが入っていた。
そして、だれもがその異常に気付かないまま、彼は完全に絶望し…誕生したのは、ウェントスと呼ばれる風のファントム。
ゾゾも何らかの異常な魔力を感じ取り、ようやくファントムがいることに気付く。
「うわっ!?」
『はぁぁぁはははははっ!いいねぇ、その顔…もっと恐怖で歪ませてやるよぉ!!』
「「「うわあああーっ!?」」」
「「「ば、化け物ーっ!」」」
「くっそぉ!…何とかして撃退したいけど、今の俺の魔力じゃ…」
ウェントスはあたり構わず暴れまわり、ゾゾもそれを何とかしようと思いながらも…
やはり、ここ連日の移動で消耗した魔力は回復しきっていない。
今、魔法が使えても、“ファイアボール”のような弱い術しか使えないだろう…
だが、そんな彼らのピンチを救ったのは、思いがけない人物だった。
『――イグニス、アクア、ソルム、テネブラエ、ルーメン、グラキエス、トニトルスに続き…ウェントスか』
『何だお前は?俺と同じみたいだが…』
「お前…確か、……オリジン!」
『ウェントス。私と共に来い…もっと大勢の人間の前で、暴れさせてやる』
『…。……へぇ、そいつは興味深いねぇ…こんな辺鄙な場所を襲っても、極上の恐怖は得られないからなぁ』
『……決まりだな』
にやり、と口元に笑みを見せると…
オリジンはウェントスを連れ、どこかへと消え去っていった。
ビスマルク港の人々は、「何だったんだ」「何処へ消えた」「空に現れた怪物の仲間?」と誰もが疑問を漏らしている。
その一方で、ゾゾはオリジンがウェントスを連れてこの場を去ったことに、疑問を感じていた。
いきなりファントムが生まれたことに関しても、疑問が尽きない。
「何なんだよ…このルキナに、……何が起こってるんだよ…ホントに…!」
〜〜〜
―――エミルビス塔
恐らく、ミカ達が生まれるよりも前のものであるはずのこの搭は、老朽化している部分はなく、壁も真新しい。
それどころか、搭の周辺にはかつてこの場所にあったであろう町並みが続く。
人気こそないものの、建物はどれも新しく作られた家と大差ない。
本当にここに、ステイアの手がかりがあるのだろうか…?
晴人がそう思っていると、ルルはどこかに走り出し、慌てて皆で追いかける。
ルルとポポの向かった先にあったのは、人がいなくなった今でも機能し続ける噴水。
「ルル!一体どうしたんだ」
「はるとん!…凄いんだよぉ、ほら、あそこ!!」
「おっきな噴水ポポー!」
「…本当だ、しかもこの噴水どこかで見たことがあるような…」
「……あそこじゃないのか?セラピアの町の、水源JMの安置場所」
イーヴリンの言葉に、ユーテキは喉の近くまで出掛かっていたものを思い出し、「それだ!」と叫ぶ。
確かに、この噴水にはセラピアの町にある水源JMの安置場所と同じような
…いや…それよりももっと高度な技術で、作られているのだ。
ユーテキによれば、これほど凄い技術はウェルテクス社でも見たことがないらしく…それ以前に、今よりも数世紀ほど先と言えるほど無駄がなく、素晴らしい技術なのだとか。
そんなことを言われても、科学関係に疎いミカ達にとっては、どこがどう凄いのか分からない。
そうしていると…
人の気配など一切なかったはずなのに、凛子に声をかけてくる男性の姿がそこにあった。
「……すみません」
「きゃあ!?…ひ、人…?」
「うそ、全然気配がなかったのに…」
「驚かせて申し訳ありません。なにぶん、人間を見るのは久しぶりなものですから」
「人間…って、お前もそうなんじゃないのか?」
驚く凛子とコヨミをよそに、バーガーが尋ねる。
しかし、男性は首を横に振ると…
表情を変えることなく、自己紹介を始めていた。
「――私はプロトワン・ヒューマン…アムニスフィールド創造計画の一端として、【ステイア】によって製造されたアンドロイドです」
「「「プロト…?」」」
「アンドロイド……って、…君が!?」
アンドロイド、と言われても…
目の前にいる男は自分達と同じ人間のようにしか見えず、唯一そうだと分かるのは、表情一つ変えないところだろう。
“プロトワン・ヒューマン”は当然名前ではなく、固体識別名。
それはちょっと可哀想だと思ったのか、コヨミは彼を『プロト』と名付け…
晴人達はプロトに、話を聞くことにしていた。
「プロト。…ここに人間はいないのか?」
「おりません。モルガナの町に住んでいた人間達は、大陸のほうに移住しました。……私達アンドロイドも、【ステイア】が“彼女”の経過を見届けた後、モルガナの町とエミルビス塔を隠す特殊バリアーを展開したと同時にコールドスリープモードに入ったので…詳しいことは」
「…あの霧は、アンドロイドたちの機能を停止させていたみたいだね」
「それだけじゃないと思いますよ。恐らく、エミルビス塔の機能も、あの噴水も、特殊バリアー以外の全機能を停止されていて…サウルさんがそれを解放したと同時に、再起動したのかも」
ソウセイの説明に、成程、と晴人達は納得する。
プロトは確かに先程、『コールドスリープに入っていた』と言っていた…
バリアーが展開されていたときまでは正常に機能し、長い時を経てコールドスリープが解除されたと言うことは、やはりサウルが解放したこのエミルビス塔を隠す霧状の特殊バリアーが彼らをそうさせていたのだろう。
つまり、今はプロト以外のアンドロイド達も動き始めていることになる。
一応、晴人とイーヴリンが【ステイア】について訊ねるも、プロトは『自分達を作った主であり、研究者チームの総称』と答えるだけでそれ以上のことは分からないようだ。
瞬平はどうしたものかと悩んでいると、コヨミがプロトに訊ねていた。
「プロト。……あなた、あのエミルビス塔には詳しいの?」
「はい、内部構造は把握しています」
「だったら…私達を、案内して欲しいの。【ステイア】のこと、知りたいから」
「…分かりました。案内しましょう」
そう言いながら、プロトは先頭を歩き始め、エミルビス塔の中に入っていく。
そんな彼の姿に、ミカとユーテキは「まるで人形みたい」と呟くが…
コヨミのことをすぐに思い出し、慌てて2人はコヨミに謝っていた。
一方のコヨミは、同じように思われても仕方がないと思っていたのか、謝り倒す二人に「気にしていない」と言い…
一方で凛子は、コヨミを励ましていた。
「大丈夫。コヨミちゃんは、ちゃんと笑ったり、怒ったりできるじゃない…だから私は、コヨミちゃんが“人形”じゃないって言い切れる」
「凛子…」
「ああ。それに、何も感じない人形だったら…自分の存在について悩んだりなんかしない。コヨミは、人間だ」
「晴人さん達の言うとおりだよ!僕も、コヨミちゃんはちゃんとした人間だって言える!!」
「うん…そうだよ、コヨミはちゃんと生きてる…。……ごめんね、コヨミ」
「晴人、瞬平、ミカ…。……皆、ありがとう」
必死で『コヨミは人形じゃない』と主張する晴人達を見て、嬉しくなったのか…
くすり、と微笑むコヨミ。
そんな彼らを遠巻きに見ながらも、相変わらず無表情のプロトは、黙って案内を続けていた。
エミルビス塔の構造は、非常に特殊だった。
塔を登るには、所定の位置に搭載されたワープ装置を使っての移動。
円形の紋様の上に立ち、全員乗ったのを確認してプロトが壁にあったスイッチを押し、別の階層に移動。
――もはや、魔法としか言えない所業だ。
ルルにとっては「魔法とあまり変わらない」らしいのだが、ユーテキに言わせれば、「ウェルテクス社でもこんな凄い技術はない」とのこと…
しかし、晴人達が元々いた世界も、科学が発展しているとはいえ、ここまで跳躍した科学技術ではない。
そうしていると、ある部屋に到着してすぐ、晴人とコヨミは声を上げていた。
「…ここは!」
「前に見た、…【ステイア】の研究室…?」
「「「えっ!?」」」
「そういえば、前に話してたね。ウェルテクス一族の使っていた研究所で、古い映像記憶装置を見て…っていう」
イーヴリンは前に晴人・コヨミ・ザウバーが体験したことを思い出し、考える。
――晴人達が見たと言う映像装置はかなり古く、ザウバーの腕の紋章の力を使っても1回きりが限度だった
――だけど、この施設はプロトを含め、今まで全機能を停止していた
――まるで、時が止まったかのように…当時の姿を、そのまま残しているかのように
だったら、とイーヴリンは急いで記録装置のようなものがないか、探し始める。
バーガーや晴人も大体察したのか、急いで瞬平や凛子達と一緒に記録装置を探し始め…
ミカがふと、部屋の片隅にあった機械に気付き、ユーテキに声をかける。
「ねえ、ユーテキ、これって記録装置…なのかな?」
「どうなんだろう…まだ使えるみたいだけど」
「とりあえず、調べてみるに越したことはないだろうな」
「分かった。じゃあ、動かすからちょっと待っててね」
晴人にも促され、ユーテキは装置を少し弄る。
そして…
赤いスイッチを押した瞬間、いきなり部屋に大勢の科学者達が現れる。
瞬平とユーテキが腰を抜かし、ルルが触れてみようとするが……手がすり抜けてしまう。
しかも、気付けば装置の近くにあった、人が1人入れそうなケースの中に…いつの間にか桃色の髪の女性が横たわっていた。
それを見たミカは、「どこかで見たことがあるような」と思いながらも…
突然近くにいた科学者が話し出し、そちらに目を向けていた。
『――完成だ』
『遂に我らステイアの、【アムニスフィールド創造計画】…その要となる、【鍵】が誕生した』
『おめでとう、諸君』
『これでアムニスフィールドは、悪しき者の手から守られるだろう』
「これは…」
「【ステイア】の記録で、間違いないな」
「でもこの人、誰かに似ているような…」
「うーん………あっ、そういえばちょっとだけ、ミカちゃんに似てる気がするよぉ!」
ルルの言葉に、全員が一斉にミカを見る。
確かに、ケースの中の人物と見比べれば…ミカは彼女に、どことなく似ている。
しかし一体どうして。
ただの他人のそら似か?
誰もがそう思っていると、バーガーが「おい」と声を上げる。
彼が指を指した方向にいたのは、――サウルの姿。
だが、その瞳は両方とも蒼…左目は紅くないのだ。
これこそ、他人のそら似ではないのかと瞬平や凛子が意見するが…すぐに否定される結果となる。
『これまで、100体近くのアンドロイドを作ってきたが、アムニスフィールドの力を受け止められるのは彼女だけだった』
『他のアンドロイド同様、暫くは感情が理解できないでしょうが…これから経過を見ていくうちに、学習していくでしょう』
『だが、誰が当面彼女の経過を確認するか…』
『……それでしたら、僕がやります』
『――お前か、サウル・ウェルテクス』
…その名前を聞いた晴人達は、驚愕した。
あの人物がサウルではないのかと言う疑いは持っていたが、まさか、【ウェルテクス】という姓だったとは思いもよらなかったのだろう。
特に、ツァールハイト大陸にある初代一族の使っていた屋敷で、桃色の髪の女性の肖像画を見ていたミカ達は。
「嘘、サウルがウェルテクス一族って…」
「じゃあ、あの肖像画の女の人は、奥さんだったってこと?」
「…気になるな…しかも私達が見た肖像画の女性、何処となくあのケースの中にいる女性に似ていないかい」
「「「あ!」」」
イーヴリンからの指摘に、ミカ達が叫ぶ。
凛子も瞬平も、女性の顔をよく見た後で「間違いない」と声を上げる。
謎が謎を呼ぶ事態に、晴人は頭を抱えていたが…
突如、立体映像が乱れ始め、周囲の情景が元に戻っていく。
だが…
それだけではなかった。
晴人達の目の前にはステイアが光臨し、複数の声で言い放つ。
『…愚かな人間よ』
『そして、ウェルテクスの娘よ』
『この塔に何の用だ』
『まだアムニスフィールドを傷つけるつもりか』
『まだ断罪が足りないとでも言うのか』
「――ちょっ、ちょっと待ってください!僕達はそういうつもりじゃ…」
『黙れ』
『人間などみな同じだ』
『私利私欲のためにアムニスフィールドを壊し』
『我々の願いを穢した』
『人は…』
『守る価値などなかったのだ』
瞬平が反論しようとするも、すぐにステイアによって切り返されてしまう。
『なんだかたくさんいるみたい』というコヨミの言葉を背中で受けつつ、晴人はウィザードライバーを腰に巻く。
…相手の実力は未知数。
様子を伺う意味でも、“リキッド”である程度の攻撃を防げるウォータースタイルを選択していた。
「瞬平、下がれ!……変身!!」
<ウォーター、プリーズ スィ〜スィ〜スィ〜スィ〜♪>
『異世界の技術か』
『このルキナに存在しないものが』
『…貴様もアムニスフィールドを穢すか!』
ステイアの黒い霧が、周囲を覆う。
その瞬間、霧に触れた機械は燃え始め、火の手が回る。
流石にこの状態で戦ってはコヨミ達が危ないと思ったか、ウィザードWSはシューティングストライクで消火活動を行う。
しかし、ステイアの周囲には黒い霧が充満し、これでは近付こうにも近付けない。
ただでさえ頼みの綱の“リキッド”は、高温の熱にはほぼ無力なのに。
「完全に話を聞く気がないな…」
「晴人っ、目には目を…炎には炎よ!ヘルムートで焼き払うッ!!」
「そうするしかないか!」
<フレイム、ドラゴン ボー、ボー、ボーボーボー!>
「…はああああああ!」
ウィザードWSはフレイムドラゴンに直接チェンジし、ミカもヘルムートの力を表に出す。
だが…
その姿を見た瞬間、ステイアの反応はこれまでと違っていた。
『――なんだ、あの姿は』
『我々の知らない形態か…』
『あの人間の持つエレメントに触発され、新たに誕生した姿とでも言うのか』
『長い年月を経ても尚、進化を続けていると言うのか』
『シアーズ以外の形態を、自力で生み出したとでも言うのか』
――敵は、水の聖獣・シアーズを知っている
――けれど、火の聖獣・ヘルムートは知らない
一体どういうことなの、とコヨミは叫び…ソウセイと凛子は、「もしかして」とある程度の見当を立てているようだ。
しかし、ヘルムートはそれに惑わされることなく、騎乗している竜の炎で霧を焼き払う。
「やった」とルルが喜び、バーガーとイーヴリンが援護をしようとするが
…ステイアが今度は竜巻を巻き起こし、機材をも吹き飛ばし、その中の一つがユーテキとコヨミに襲い掛かろうとしていた。
それを見たウィザードFDとヘルムートは、反射的に風属性の形態となる。
「コヨミッ!……ミカ、ツァターンだ!!」
<ハリケーン、ドラゴン ビュー、ビュー、ビュービュービュビュー!>
『分かったっ!』
今度は荒れ狂う風の聖獣・ツァターンとなるミカ。
更に、ウィザード・ハリケーンドラゴンと共に風の力で竜巻を相殺し、何とか仲間を守りきる。
だが、間髪を入れずに今度は地響きが巻き起こり、ウィザードHD達のいる階層の床が抜け落ちてしまう。
この状態では流石に全員を救出して回れない。
そう判断したウィザードHDはランドドラゴンにスタイルチェンジし、それに合わせてツァターンの姿も自動的にライサへと切り替わる。
ウィザードRDは“グラビティ”で仲間を浮き上がらせ、安全に下の階層に降り立つ。
念のためにライサは仲間の傷を回復させ、ゆっくりと降りてくるステイアを見上げるが…
ステイアは確信したかのように、ライサに言い放つ。
『…やはり、そういうことか』
『その男の、水以外の属性の形態』
『それらを取り入れることで、更なる進化を果たした』
『制御装置が破壊されたのも、要因の一つだろう』
『ウェルテクスの娘よ、お前は…もはや隠しきれない場所まで来てしまった』
『そう、だからこそ…』
『――アムニスフィールドは崩壊した、…お前の【鍵】としての力が……悪しき者の目に触れたことによって!』
次の瞬間、空から流星のようなエネルギー体が降り注ぐ。
それを見たコヨミとウィザードRDは、ザウバーの使っていた“メテオスウォーム”という術を思い出す。
だが…
その威力は彼のそれとは段違いで、尚且つ数も多いため、避けきれない。
「いっ、…隕石ぃ!?」
「しかも…凄くたくさん振ってくるよぉ!?」
「ルル!凛子とコヨミ、ソウセイとついでに瞬平を守れ…あいつらがこれを受けたら、一溜まりもねぇぞッ!?」
「わ…分かったのっ!」
バーガーの言葉に従い、ルルは魔法の障壁で非戦闘員であるコヨミ達を守る。
…事実、彼の判断は正しかった。
味方全員を守ろうとすれば、それだけ障壁の範囲は広くなり…強度も脆くなる。
ここは敢えてコヨミ達4人を守ることに集中させることで、彼らの安全を確立させていた。それにルルさえ残っていれば、“ヒール”で傷を回復させることも可能。
念のためにRDも“ディフェンド”による岩の壁で相手の攻撃を緩和させ、そして……
〜〜〜
コヨミや凛子、瞬平にソウセイ…
彼らが気付いた頃には、ミカと晴人は変身状態を解除されていた。
それだけではない。
ユーテキ、バーガー、イーヴリンも、“ディフェンド”の力でステイアの攻撃が軽減されたとはいえ…その威力に、倒れてしまった。
ルルもコヨミ達を守るのに全力を使ったせいか、殆ど動ける状態ではない。
この状況下でステイアの追撃がくれば、…確実に終わる。
誰もがそう思っていると、予想に反してステイアは撤退していった。
『『『…』』』
「帰っていく…?」
「ぼ、僕達、…助かったんでしょうか…」
「分からない。分からないけどまずは、――晴人君達を何とかしないとッ!」
「とにかく、急いで回復アイテムを!それから、念のために包帯や消毒液も!!」
ソウセイの指示に従う形で、凛子達は晴人達の手当てを行う。
今この場からステイアが撤退したのは、いいことなのだろう…
しかし問題なのは、あんな敵を相手にどうやって自分達が太刀打ちできるのかということ。
ミカの持つ力でも相殺するのが精一杯だったと言うのに、圧倒的な力を持つステイアを相手に、このルキナを守ることができるのか…
そうしていると、ソウセイがステイアのある言葉が気に掛かったのか、不意に呟く。
「『人は守る価値なんてなかった…』、ステイアは、そう言ってましたよね」
「…確か、そうだったわね」
「あれってどういう意味なんでしょうか?」
「そのままの意味なのかもしれないけど、そうなるとステイアは…」
「――アムニスフィールドを作ったと言われる、【ステイア】と同じなのかもしれない……ということなのかしら」
自分達を襲った「ステイア」と、アムニスフィールドを作った【ステイア】は同じ存在…
凛子の発言に瞬平は驚くが、コヨミとソウセイは納得したかのように頷く。
元々、偶然とは思えないほど同じ名前。
そして、ステイアが話すときの…まるで複数の人格を持っているかのような、不自然な喋り方。
多重人格と言えばそれまでだが、一度に何人もの人間が話しているかのようにほぼ同時に離していることから、【ステイア】の意識の集合体とも言えるだろう…
しかし、アムニスフィールドが作られたばかりの時代から生きている彼らが、何故。
――そんなことを思っていると、気がついた晴人やルルは目を覚まし…晴人が詳しい話を凛子達から聞いている間、ルルは「あれ?」と首を傾げていた。
「ねえ、プロトってどこ行ったのかな?」
「あ、そういえば…」
「……研究室に行くまでは、姿を見かけてたのに…」
「――あっ、あそこ!」
凛子が声を上げ、指を刺した先を見ると…
そこにはプロトが倒れており、大きな瓦礫に足を挟まれたのか身動きが取れないでいる。
バーガーやイーヴリンといった他の仲間も目を覚まし、皆で協力してプロトの上にある岩をどけようとしていた。
そして、何とか力を合わせて瓦礫をどけると…
プロトの右足からは機械のコードに見えなくもない、人工的な血管が見えていた。
骨も、どことなく鉄の塊のような印象を受ける。これだけ見れば確かにアンドロイドだというのは分かるのだが…こうならなければ分からないほどの精巧な造りに、ユーテキは息を呑んでいた。
「…プロトタイプでこの出来って、【ステイア】は一体どれだけ凄い科学者チームだったって言うのさ…?」
「ユーテキ…」
「――いえ、私はあくまで試作品。プロトタイプです。現にあなた方がご覧になった、【鍵】様は殆ど人間と言っても遜色ないようになっております。毛細血管の数も、流れる血液も、体を構成する臓器や骨も、体中に行き渡った神経も、そして学習機能の大きな要である脳も…人間そのもの」
「ってことは、……人の手で人間を造った…ってことになっちまうのか!?」
「そんなとんでもない話…いや、けれど、……それが真実…か」
――人の手で“人間を造る”
もはや神様と呼ぶべきその技術力の高さに、誰もが言葉を失っていた。
晴人も、コヨミも、凛子も、瞬平も、ミカにユーテキにイーヴリンにバーガー、ルルやソウセイ…
この場にいた全ての者は、その言葉に息を呑まざるを得ない。
『信じられない』
誰かがそう言いかけるも、その言葉を口に出すことはできなかった。
「……ねえ、ルル…晴人。一応聞くけど、魔法で人を作るってことは…できるの?」
「それは…ルルには分からないの。クッキーやケーキみたいなお菓子や、やかんにハサミみたいな……ルル達の手に持てる程度の大きさなら、魔法で作ることもできるけど……」
「人間を造るなんて大それた魔法、アウデンティアにはないポポ!」
「俺も、少なくとも俺自身は人を生み出す魔法なんて持ってない。――第一、そんな魔法があるとしたらそれこそ奇跡だとしか…」
『――アウデンティアに、人を生き返らせる魔法がないわけではないのです』
突然、ユーテキの懐から声が聞こえ…
慌ててポケットからそれを取り出すと、パヴェルが通信JMを使って話を始めていた。
どうやらルルの目や通信JMによる音声で状況は全て把握しており、パヴェルは晴人達に話していた。
『魂を呼び戻す“レイズデッド”という術があれば、死んだ人間の魂を現世の器に呼び戻すことができます。拾得者が大変限られる、とても難しい魔法なのですが…』
「ですが、その魔法ってもしかして、呼び戻した人間の器…つまり体がなければ」
『ええ、ソウセイの言うとおり、レイズデッドで呼んだ死者の肉体がなければ魂の定着はできません。それ以前に、レイズデッドは生命の理を脅かす可能性のある禁忌の術……甦らせる対象の魂が輪廻転生の理に既に加わっていた場合、それを呼び戻してしまえば…その代償に術者が命を落とすことになるでしょう』
「…えーと…」
「難しくて、僕達にはよく…」
「…おじちゃん、どういうこと?」
「えーと、それはだな……」
「――うーん………まあ、分かりやすく、そうだな……あるところに、牛と豚と…挽肉を作る人がいるとするぞ」
ソウセイは大体分かっているようだが、それ以外は難しい言い回しに頭を抱える。
晴人もパヴェルの言いたいことをある程度理解しており、解説役を買って出ていた。
――あるところに、仲良しの牛と豚がいたとする。
牛を死者、豚をレイズデッドの術者と仮定しよう。
しかし、ある日…牛が挽肉になってしまうことが決まり、挽肉業者によって連れて行かれてしまった。
この挽肉業者は、輪廻転生を司る何かってことにしておいてくれ。
…それはともかく、豚は何としても牛を助けたい。だからこそ業者に話して、何とか牛を挽肉にしないでほしいと頼む。この交渉をレイズデッドという術とする。
この時、まだ牛が挽肉にされていない=輪廻転生の輪に入っていなければ、挽肉業者も豚の説得に根負けして牛を返してくれる。
しかし、既に牛が挽肉になっている=魂を呼び戻しても定着できる体がない、つまり挽肉になってしまった牛はもう元に戻らないってことだ。
「……で、面倒なのがさっきパヴェル様が言っていた、甦る対象の魂が輪廻転生云々」
豚が何度説得しても、牛は既に挽肉にするための順番が近づいている=輪廻転生の輪に入っているから、返しようがない。
それでも彼を返してもらいたい豚は、何度もそれを業者に頼み込む。
だけど業者だって大変なんだ。殺処分するのもコストは掛かるけど、たかが1匹の牛でも肉にできないとなるとそれだけ損をする。
そこで業者は「牛を返す」と言って、豚をある機械の前に連れて行く。
そして豚の目の前で牛を機械から降ろすが、今度は豚を機械に乗せ、牛の代わりに殺処分されてしまう。
――これが、【甦らせる対象の魂が輪廻転生の理に既に加わっていた場合、それを呼び戻してしまえば、その代償に術者が命を落とす】ってことなんだよ。
晴人の説明に、ミカ達は息を呑む。
…そう、輪廻転生の中に入ってしまった魂を呼び戻すということは、自らの身を犠牲にしてまで救うということ。
当然、自分の身代わりになって死んだ豚を見て、牛は悲しむ…
そういうことなのだ。禁忌を犯す、その犠牲というのは。
恐らくパヴェルは分かっていたのだろう、ミカがどうしてその質問をしたのか。その理由、その意味が。
『――あなたの気持ちも分かりますが、それで自分が命を落としてしまえば意味がありません。何のために、彼はあなたを助けようとしたのですか?』
「そう、ですよね。…ごめんなさい、パヴェル様」
『構いません、大事な人を甦らせたい…そう願うのは、誰だって同じかもしれない。ですが、その死をどう乗り越えていくのか……それは、生き残った者次第です。あなた達は、もうそれが分かっているのでしょう?』
「「「…」」」
『さて、暗い話はこのぐらいにして……今すぐリーリエリヒトに帰還してください。ゾゾは既に、【面影堂】に送ってあります』
先程とは打って変わって、真剣な様子のパヴェル。
一体どうしたのか…
誰もがそう思いつつも、これ以上ここに留まる理由はない。
ルルの魔法で早速リーリエリヒトに戻ろうとし、ユーテキはせめてその前にプロトを直したいと彼を探すが……姿は既に、どこにもなかった。
***
書くのに何週間掛かったかなー…
作成日が7月30日だから、……1ヶ月掛かってんじゃねーか☆←
ゾゾは本当に被害者w
しかし、敵方の戦力も地味に集まってますね…
まあ再生怪人の扱い同様、適当に倒されそうな気がしなくもないですが。
オリジンの真実の目って、自分の未来は分からないみたいですし。
…でもたぶん、オリジンって今考えるとワイズマン=笛木の目的とサバトの本当の理由を大体分かっていそうな気がしなくもないです。
……あ、だから【少しでも裏切りを考えたら死ぬよ☆】的なものを掛けられてるのか(1話参照)
プロトは今後出番があるのかないのか…
あるとしても、うーん。ですね。
しかし殆ど人間に近いアンドロイドって……ステイア本当に何なんだよ…
そして、記録装置の中に残されていた衝撃の内容。
これが意味するものとは…?
ステイアキターw
水以外の属性の形態云々…というか、今回ウォータードラゴン地味にハブられてるww
でも、この会話から大体のヒント…というよりは、根幹が分かってきましたよね…
まあもうネタバレしてもししょうがないと思うのでぶっちゃけますが、
【本来ならミカはシアーズ以外の聖獣にはなれなかった】んです。ですが、【晴人の持つウィザードの水以外の属性に影響を受けて】ツァターン・ライサ・ヘルムートが生まれた…ということです。
たぶん、インフィニティーがいたら……設定の都合上ハブにせざるを得なかった、雷と光をつかさどる聖獣・ガリナが出せたと思います。
輪廻転生に関する説明は、明らかにコア大戦でのヒマワリ(確かエグルが暴走形態になった時のやつ。セルメダルや負の気の増えるメカニズムを、をヒマワリの種云々に例えたやつ)のようなノリw