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タイトル未設定 - Magic35:奪われた双眼

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Magic35:奪われた双眼

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「――シルエラが…ガナドールの宝珠を……!?」




昔別れたはずの妻が、ガナドール族の宝珠を盗んだ。

そのことが信じられず、バーガーは「どういうことだ」と問い詰めるが…

ルーク枢機卿率いる聖海騎士団はそれ以上答えることなく、いくつかに分かれてシルエラを捜索するべく、ガナドール族の集落を後にしていた。

ユディーヌ審問官も、今の状況でザウバーを捕らえるのは難しいと思ったか、その場から撤退…

残された晴人達は、バーガーに話を聞いていた。


「元妻…って言うと、別れた奥さんのこと…なんだよな?」

「ああ。…ラディス教への考え方の違いで、な。……今思えば、間違っていたのは俺のほうだったってのに」

「バーガーさん…」

「「「…」」」

「――だが、分からねぇ。どうしてシルエラが、ガナドール族の宝珠を盗んだんだ…?」


別れた妻がガナドールの宝珠を盗んでいたと知り、バーガーは頭を抱える。

単なる宝石泥棒…ではないだろう。

バーガーがかつて愛した女性なのだ、理由が必ずあるはず。

凛子や晴人がそう思っていると、ベスティアは地面に拳を叩きつけながら、叫んでいた。


「……帝国め…こちらが黙って従っていれば、勝手なことを…!」

「ベスティアさん…だっけ。どういった理由であれ、あんた達が帝国に従っていた以上…こういう日が来るのは、遅かれ早かれ分かっていたと思うんだがな」

「分かっている!……分かっているが、仕方がなかったのだ…私には皆を守る義務がある。アンギュロス族の時のような悲劇は、繰り返したくない…だが…!!」

「――本当にそう思っているなら、尚更帝国と戦うべきじゃないのかい?少なくとも私は、…アンギュロス族の人々は……他でもないあんた達に、仇を取ってもらいたいと思うがね」



拳を握り締めるベスティアに、イーヴリンが言い放つ。

そんな彼女の黒い髪を、そして銀の瞳を見て…

「まさか」と呟きながらも、そんなことはないと思い、彼女に尋ねていた。


「何故そう言い切れる?」

「あんた達はアンギュロス族と深い友好関係にあった、だから、あんた達が帝国に従っているのを見て…今頃悲しんでいるんじゃないかと思っただけの話だよ」

「……」

「まあ、これからについてはゆっくり考えな。その間に私達は、ガナドールの宝珠を聖海騎士団よりも先に奪い返してくる。――ミカ達も、勿論そのつもりだろうし」

「当然よ!…このまま、帝国の好き勝手にさせたくない!!」

「俺も…シルエラとは話がしたいからな。……安心しろ、絶対取り返してくるからよ」


イーヴリン・ミカ・バーガーが思い思いに告げる。

晴人達も、勿論そのつもりのようで…ザウバーなど当の昔に諦めている。

全員の意見がほぼ一致したところで、何処へ向かうか話し合う…

すると、ベスティアに少しばかり心当たりがあったのか、彼女はミカ達にこう話す。


「……そういえば、カロル火山に最近女の影を見ると聞く。もしかすれば、そこに…」

「カロル火山…か、なんかカエルの小隊が出てきそうな名前だな…」

「晴人、それ…中の人」

「まあいいや、手がかりもないんだし、カロル火山に行ってみるか」





その頃…




ウェルテクス社では、オリジンがセルシウスの経過を見守っていた。

シャドゥも潰された以上は、残るファントムは彼とオリジン自身…

ルルの炎の奥義【フレアンインフィニティ】によるダメージはかなりのもので、オリジンはチッと舌打ちをする。


『まさか、あのような炎の魔法があったとは…想定外だった。暫くの間は様子を見て…』

『…』

『!セルシウス、起きたのか』

『……』


セルシウスは体を起こしながら、頷く。

肉体のダメージはまだ残ってはいるものの、傷自体は治っている。

すると、

…本を読んでいたせいか、隣の研究室と間違えてこの部屋に入ってきた女性の研究員がおり、見慣れない化け物の姿に声を上げる。


「ひっ…ば、化け物ッ!?」

『チッ…厄介な、……セルシウス?』

『…』

「きゃっ!?や、やめ、……!」


セルシウスは腰を抜かしている女性の研究員の首を掴むと、彼女を掴んでいるその手が光を帯びる。

そしてその光はセルシウスの喉元に移動し、吸収すると…

女性の研究員は何故か声を出せなくなり、代わりに、セルシウスは今まで喋れずにいた言葉をしゃべれるようになった。

…女性の“声”を奪ったと言うよりは、“声を出すこと”をできなくし…代わりに自分が“声を出せるようにした”のだろう。発した声は女性の声ではなく、ゲートの…ミカの兄の声そのものだ。



「…、…!?……ッ!!」

『――ぁあ…やっと、……手に入れることが出来た…』

『どういうことだ、セルシウス』

『あの炎は…熱かったよ、苦しいぐらいに。だけど……そのお陰で、眠っていた力を呼び覚ますことが出来た…僕に足りないものを埋める、力を…』


セルシウスの言葉を、その意味どおりに受け取るのならば…

ルルの【フレアンインフィニティ】は、セルシウスに大きなダメージを与えていたと同時に、眠れる力を呼び覚ましていたようだ。

ゲートの記憶もない、視力もなければ声も出せない彼の、足りない部分を埋めるための力を…

自分にないものを誰かから奪い取るための、力を。


『今すぐにでも…埋めたい、僕の足りない空白を。……誰でもいい、僕の目に光を…僕を満たしてくれるだけの、記憶を……!』

『……それならば、ウェルテクスの娘達を狙うといい。だが、記憶に関しては不可能に近い。お前を生み出したゲートの記憶でなければ、定着することはないだろう』

『それでも…構わない、僕は……僕を手に入れる。…完全な僕になる…!』


その言葉を聞いたオリジンは、彼をダティーバ大陸に送り届ける準備を始める。

執着と言うものは、恐ろしい。

一度「手に入れたい」と願えば、それを手にするまで執念深く…時には残酷な方法を使ってまでも、手に入れようとする。

今のセルシウスを止められる者は、殆どいないだろう。…オリジンすら、だ。






〜〜〜






あれから2日経ち。



晴人達はガナドール族の宝珠を奪ったという、シルエラを見つけるべく…

カロル火山の近くにある、リノンの村に訪れていた。

ここは地盤が固く殆どの作物は育たないが、このような土地柄でも服を作るのに必要な綿は作れる。

こういった綿を栽培し、グリュッグ国に売ることでこの村の人々は生計を立てているのだ。

遠くにはカロル火山が見え、ミカ達はやや遅めの昼食を取りながら、話していた。


「でも、バーガーの奥さん…どうしてガナドール族の宝珠を盗んだのかな」

「さあな…しかし、それよりも気になるのが…ユディーヌ審問官の言っていた、言い伝えだ」

「『蒼き光に守護されし者、紅き光を受け世界を救う者とならん』…ね」


晴人の言葉に、凛子はメモ帳を見ながらうーんと考える。

ラディス教とはまた違った、しかしどこか似ている言い伝え。

イーヴリンは目を少しばかり泳がせながら、話をしていた。


「…その言い伝えは、アンギュロス族に伝わっていたものとほぼ一致するね。問題は、何故ユディーヌ審問官がそれを知っているかだが……」

「謎が謎を呼んでますねー…」

「バーガーさんは、思い当たる節ない?」

「ラディスの予言と、ちょこっとだけ似てるもんね!」

「似てるっつってもなぁ…」

「ビフテキもルルも、あんまりバーガーに無理言ったら駄目ポポ」


いや、ビフテキじゃないよ…

ユーテキは涙を流しながら訴えるが、ポポは聞く耳持たず。

代わりに、隣にいた瞬平がポンポンとその肩を叩いていたが、逆に空しくなるばかり。

そうしていると、コヨミは少し気になっていたのか、ザウバーに尋ねていた。



「…ユディーヌ審問官は、ザウバーの腕の光と何か関係があるんじゃないかって言ってたけど…」

「……さあな。それに、蒼から紅へ…というのはラディスのシンボルストーンにも見られた現象だろう。一概に、言い切れることではない」

「それを言い出したら、確かにミカちゃんが最初にシアーズになった時も…蒼い瞳が、紅い瞳に変わっていったし……」

「まずありえないとは思うが、晴人もウォーターからフレイムになれば…蒼い輝きの魔法使いから、紅い輝きの魔法使いになるんだよなぁ」


凛子やバーガーも、ううんと唸りながら話している。

そうしていると…

彼女達の目の前にあった空き地で、小さな子供達が元気に遊び回っている。

鬼ごっこだろうか…そのうちの一人の少女は、紫色の綺麗な髪をなびかせていた。

その少女は鬼に捕まり、代わりにその子が他の子供達を追いかけ始めている。

そんな無邪気な姿を見ながら、バーガーは娘のことを思い出す。


「…エミィ、元気にしてるんかなぁ」

「エミィって…娘さん?」

「おうよ。……俺とシルエラが別れた時は、物心ついてなかったからな…俺のことは今頃忘れてるんだろうなぁ」

「バーガーさん…」




「――エミィちゃん!こっちこっちー!!」



子供の一人が、『エミィ』という名前を呼ぶ。

まさか、と思いながらもバーガーや凛子、ミカ達が声のしたほうを見ると…

呼ばれて反応したのは、紫色の髪をした女の子だった。

髪の色からしてバーガーに近いが、こんな偶然があるものか。

エミィは友達を走って追いかけるが、石に躓いて転び、誰もが声を上げる。

それを見たバーガーは咄嗟に走り出し、声を掛けていた。


「…おい、大丈夫か?エミィ」

「うん…おじちゃん、なんでエミィのお名前知ってるの?」

「あ、それは…その…さっき名前で呼ばれてたからな!足は怪我してねぇよな?」

「大丈夫だよ!おじちゃん、ありがと!!」


そう言って、エミィは元気に立ち上がる。

そして、振り返って追いかけっこを続けようとしていた彼女に…

バーガーは思わず、こんなことを尋ねていた。


「シルエラ…いや、お母さんはどうしてるんだ?」

「お母さんのこと知ってるの?おじちゃん」

「まあ…な。昔からの知りあいだ」

「お母さんは…時々どこか遠くに行ってるの、今もそう。だけどエミィ寂しくないし、隣のルーマおばちゃんも優しくしてくれるし」

「……そうか」

「――エミィちゃーん!」

「――どーしたのー?」

「あ、今行く!…それじゃあおじちゃん、またねー」



エミィは元気に手を振りながら、バーガーに別れを告げる。

そんな彼の様子を見て、晴人やイーヴリンは複雑そうな顔をしていた…

一方でミカはどうして父親だと名乗らなかったのか気になっていたが、それに答えたのはザウバーだ。


「でも、どうして父親だって言わなかったんだろう。エミィちゃん、絶対喜ぶと思うのに…」

「…一緒にいなかった期間が長すぎる。子供の感じる時間と、大人の感じる時間はまったく違う…それと同じで、長い間一緒にいなかった父親だと名乗っても、そう簡単には受け入れられないだろう」

「ザウバー」

「それだけじゃない。最悪の場合、死んだか自分達家族を捨てた…と思われている可能性もある。そんな状況で、お前は俺の娘だと明かしてみろ」


ザウバーの言いたいことは分かったのか、ミカもそれ以上は言わないでいた。

長すぎた空白の時間。

埋めようと思っても埋められない、家族の溝。

バーガーの立場を考えて初めて、ミカは彼が父親だとエミィに名乗らなかった気持ちが分かっていた。

…それと同時に、父親だと名乗れない辛さも…

それよりも、ここにバーガーの娘であるエミィがいるということは、やはりここから近いカロル火山に向かっている可能性も否定できない。

今すぐにでも追いかけて、ガナドール族の大事な宝珠を返してもらおうと動く晴人達だが





「――きゃーっ!?」




…エミィの叫び声が、聞こえてくる。

その声を聞いてバーガーはすぐさま走り出し、その後を追いかけるように晴人達も走る。

すると、ぞくりと背筋の凍るような冷たい冷気。

エミィを含めた子供達の前には、――セルシウスがいた。

エミィはバーガーに気付くと、他の子供達と一緒に彼のいる場所に逃げる。


「…さっきのおじちゃん!」

「エミィ!一体何があった!?」

「あそこに…男の子が一人ぼっちで座ってたから、一緒に遊ぼうって言ったの。そしたら、いきなり…」

「ファントムの姿になった、ってか。――ここはおじちゃん達に任せて、お前らは逃げるんだ!凛子、瞬平、コヨミ、エミィ達は任せたぜ!!」


分かった、と言うかのように凛子達3人はエミィ達を連れて安全な場所まで避難する。

彼らが遠くに逃げたのを見ると、晴人はフレイムリングを指に填め、ユーテキ達もそれぞれ武器を構える。

だが…

やはり踏ん切りのつけられないミカはまだしも、ザウバーも頭を抱えている。

そんな彼に「どうしたの」とユーテキが叫ぶ。


「ザウバー、大丈夫!?」

「…ああ。それより、あいつは…」

「氷のファントム、セルシウス……そして、――ミカの兄が生み出したファントムだ」

「何だと!?」

『――君達の“光”を、僕は手に入れる…僕自身を知るために……』



セルシウスが突然喋り始め、晴人達は驚きを隠せない。

だが、ミカは…

その声を聞いて、かつての兄の記憶を思い出す。

いつも優しくて、一緒に遊んでくれた兄…あの事件が起こるまで、いつも傍にいてくれた兄。

激しく動揺するミカにザウバーが叱咤し、晴人も変身体勢に入る。


「お、兄…ちゃん」

「――ミカ、あいつはお前の兄じゃない!……敵だッ!!」

「お前は下がってろ、…俺達がこれ以上の悲劇を…止めてやる!変身!!」

<フレイム、プリーズ ヒー、ヒー、ヒーヒーヒー!>


ウィザード・フレイムスタイルがウィザーソードガンを構え、セルシウスに斬りかかる。

それに続く形でイーヴリンとバーガーも向かい、それぞれ月長皇(げっちょうこう)と獅子戦吼(ししせんこう)で攻撃。

セルシウスは氷の刃を左手から放つが、ルルが魔法の障壁で防御。

ウィザードFSはユーテキと共に遠距離からの銃による援護をしながら、ルルに叫ぶ。


「ルル!この前の魔法を頼む!!」

「任せて!――【フレアン】…」

『僕は…、……僕は死にたくない…助けて、――ミカ…!』


ミカを呼ぶその声に、ミカはドクンと激しく心臓が波打つのを感じる。

…セルシウスはここに来る前、オリジンから、こんな話を聞いていた…

“ウェルテクスの娘…ミカは、未だにお前と戦うことに迷いを感じている”

“いざとなれば、それを利用しろ”

普通に考えれば、ミカを利用しようとしているのは明らか…ルルも「ミカちゃんを惑わせないで」と怒りながら、【フレアンインフィニティ】を放とうとするが




――その前に、ミカが立ち塞がっていた。

ミカの行動には誰もが驚き、ルルも発動しようとしていた炎の魔法を中断させる。


「…待って!」

「うえっ!?み、ミカちゃん…」

「何してるポポ、そこにいると危ないポポー!」

「だって、……だって倒せないよ…もしかしたら、お兄ちゃんのままかもしれないじゃない…!」

「いい加減にしろ、ミカ!そいつはお前の兄なんかじゃない、お前を騙しているだけなんだ!!」

「ザウバーの言うとおりだよ…ミカ、しっかりして!」

「ファントムはゲートとはまったく違う…セルシウスは、お前が自分を倒せないのをいいように利用しているだけなんだ!」


ザウバーやユーテキ、ウィザードFSが説得しようとするが、ミカは頑なにセルシウスを守ろうとする。

…普通は、こうなのだ。

家族の情を利用し、訴えかけ、その肉親がゲートであれば騙し続けて絶望させる…

尚更それをしなかったシャドゥへの疑問を募らせつつも、ウィザードFSは銀の銃弾でセルシウスを狙撃しようとしていた。

しかしミカが咄嗟の判断で、セイバーでそれらを弾き飛ばし…セルシウスを庇う。


「「「ミカ!」」」

「…ミカ…そいつを守ってどうする、そいつはファントムだ…お前の兄とはまったく別人なんだぞ。それを守ると言うのか!」

「ザウバーには分からないわよ!……家族を奪われて…お兄ちゃんがファントムになって、でもそのお兄ちゃんが助けを求めてきて……守らないわけには行かないじゃない。私はお兄ちゃんに守られて、こうして生きてる…だから今度こそ!!」

『……ミカ、こっちを向いて』


セルシウスはくすりと笑いながら、ミカを呼ぶ。

彼女はそれに反応し、振り返ろうとするが…



――その直後に誰かに肩を捕まれ、思いっきり引き寄せられていた。

あまりの力にミカはそのまま後ろに倒れ、「誰」と叫ぶが

…彼女の目の前にあったのは、セルシウスに顔を鷲掴みにされているザウバーの姿だった。


「が、あ…っ!」

「「「ザウバー!」」」

『…この際、君でもいいや……僕の足りないものを、埋めてくれるなら…』


セルシウスの右手が光り、その光は目のある部分に移動する。

そして更に、彼はそのままザウバーの記憶を奪い取ろうとしていたが…

その前にバーガーが踏み込み、掌底破(しょうていは)を浴びせる。

セルシウスはそのままザウバーから手を離し、イーヴリンが彼に駆け寄る。


「ザウバー!大丈夫かっ!?」

「…、……ッ!」

「…ザウバー?」

「目が、――見えない……何も…!」

「何だって!?」


『目が見えない』

それを聞いたイーヴリンは、遅れてやってきたユーテキを利用し、ザウバーの目の前で…ユーテキに対し2本の指で鼻フックをする。

「痛いよ」と叫ぶユーテキであったが、ザウバーは目の前でユーテキが何をそんなに騒いでいるのか分からないようだ。

しかし…

それまで空洞であるかのように真っ黒だったセルシウスの瞳に、紅と蒼の色を持った瞳が宿る。

それと同時に、セルシウスの視界は広がり…「あぁ」と感動に満ちた声を漏らす。



『眩しい…成程、これが“目”か……』

「あんた…まさか、ザウバーから目を!」

『目を、というよりは…“視力”が正しいのかもしれない。僕は僕を満たすためなら、何だってする……今度は、記憶……僕の記憶』

「そんなことさせないもんっ!【フレアンインフィニティ】!!」


ルルはこれ以上セルシウスの好きにさせまいと、炎の奥義を放つ。

だが…

視力を手に入れたセルシウスはそれを難なくかわし、「嘘」とルルが叫ぶ。

これまで目でものを見ることが出来なかったセルシウス。

しかし、ザウバーから視力を奪ったことで視界が良好となり、ルルの攻撃が避けられる結果になったのだ。

セルシウスはくすりと笑いながら、ミカを見…


『それじゃあ、またね?――ミカ』


一度リノンの村から、撤退していた。

このまま戦っても、セルシウスのほうに分があっただろう…

しかしここで退いたのは、手に入れた「視力」を充分に楽しみたい。

なおも余裕を残す相手に、「どうやったら勝てるんだ」と呟くウィザードFSの横で…

ミカは自分のしてしまったことに、激しく落ち込んでいた。






〜〜〜






宿屋。




エミィ達を家に送り届けた瞬平達は、セルシウスがザウバーの視力を奪ったという話を聞いて驚きを隠せない。

だが…

それ以前に、ここに来るまでに何度か頭をぶつけたり足を引っ掛けたりしたのか、戦った時よりも少しボロボロのザウバーを見て、凛子が尋ねていた。


「…誰もザウバーに手を貸さなかったの?」

「いや、俺達も『見えないんだから無理すんな』って言ったんだ。だけど…」

「この意地っ張り、『障害物を教えてくれるだけでいい』って言って、こっちの手を借りようともしないんだよ」

「そういえば、片目を隠した状態で戦う訓練はしていたんだっけ?……でも、今回はそれとは訳が違うから、素直に手を借りればいいのに」

「………」


バーガーやイーヴリンが呆れるように言い、晴人は以前ソウセイ達を助けに帝国軍の軍事キャンプに忍び込む際の会話を思い出す。

額に痣が出来ながらも、それでも他人の手を借りないザウバー…

一体どうしてなんだろうと瞬平は思っていたが、それよりも問題はセルシウスをどうするか。

……そして、セルシウスに騙され…その結果ザウバーが視力を失う原因になってしまったミカを、どう励ますかだ。


「…とにかく、セルシウスは記憶を欲しがっている…だが、他の人間の記憶なんてセルシウスには意味がない。――となると、確実に狙われるのは…ミカの記憶」

「厳密に言えば、ミカの中にある兄…自分を生み出したゲートの記憶、か」

「そうなると…狙われる可能性が高いのは、ミカってことになるね」

「シルエラのこともあるし…こうなったら、あいつを確実に倒すためにもミカを含めた何人かでカロル火山に登るしかねぇな」



晴人やイーヴリン、ユーテキにバーガーが話す。

特にバーガーの意見は、シルエラからガナドールの宝珠を聖海騎士団より先に取り返さなければならない現状の解決にも繋がる。

セルシウスは氷のファントム…

当然火山は苦手で、しかし自分の欲する記憶の持ち主がそこにいるとすれば、必ず来るはず。

問題は…

カロル火山に向かうメンバーには、確実にザウバーを入れられないという所だ。

もし間違って火口に落ちでもしたら、――笑い話では済まされない。


「で、当然ここには何人か残らないとならないけど…ザウバー、あんた誰になら世話されたいの?」

「おいイヴ、その質問はどうなんだ」

「しょうがないじゃないか。あんたを火山に連れて行けるはずもないし、かといって私達の手を借りようとしないし……誰だったら素直に借りられるんだい?」

「…、……それは」

「――だったら私が残って、ザウバーの面倒見るわ」


そう立候補したのは、コヨミ。

流石にそれは、と瞬平が自分がザウバーの世話を買って出ようとするが

…想定外にもザウバー本人が、それを了解していた。


「……頼む、コヨミ」

「ほら、ザウバーさんだって頼むって………えええええええええええー!?」

「ちょっ、なんで!?何でそうなっちゃうのザウバー!!?」

「女の子!コヨミちゃん女の子だから、…流石に…流石にその、……お風呂とか困るんじゃ!?」

「それは自分で何とかする」

「「「いやいやいや、無理だ無理です無理だろう無理でしょうザウバーさん!?」」」




あまりの展開に、コヨミ以外の全員が全力で否定。

しかし、双方なかなか折れず…

しかも瞬平の手は、今以上に危ないことになりそうだから借りないとまで言われ…

「仕方がない」とばかりに、晴人が提案していた。


「――分かった、じゃあ、俺も残るよ」

「えっ?でも、晴人さん…」

「火山の中で戦うなら、ファルファラ氷洞と違ってセルシウスもかなり弱っているはずだ。ユーテキ達だけでも、大丈夫だろ」

「でも…やっぱり心配だわ。どうせなら、私と瞬平君も…」

「……大丈夫、それよりも、2人はもしシルエラさんと会っている時にセルシウスと戦闘になった時…彼女の安全を確保して欲しいの。…ザウバーも、晴人が残っても問題ないわよね?」

「…ああ」


複雑そうな顔を見せながらも、晴人が残ることをザウバーは了承。

そんな彼を見て、ミカは辛そうな顔をしながらも…

ガナドール族の宝珠を取り返すべく、凛子達と共にシルエラのいそうなカロル火山へと向かっていった。



彼らがいなくなった後…

晴人はずっと気になっていたことを、ザウバーに尋ねていた。


「――前から思ってたけど、お前なんでコヨミには素直なんだ?」

「…さあな」

「それって、……俺達の手をなかなか借りなかったことと、関係あるのか?」

「……」

「…。……ザウバー、もうそろそろ話して。晴人だったら、絶対あなたの力になってくれる」


コヨミはそう言うと、晴人の右手を握り…

それをザウバーの肩に、触れさせていた。

「おい」と叫ぶザウバーだが、晴人は彼の肩に触れた瞬間、……服の上からだというのに冷たい彼の体に…「まさか」と思っていた。

コヨミは前からずっと知っていたのか、黙っていて申し訳なかったというような表情を見せ…

ザウバーも知られてしまった以上は、素直に話をしていた。




「――俺は、コヨミと同じだ。……ファントムを生み出して、なお…生きている」






***




今回はザウちゃんがひたすら不憫。

不憫といっても…

沖さんクラスのやつじゃなく、どっちかといえば、……王環さん?←

でもまぁ、ややソウジさん寄りの不憫といっても通じる不思議。


セルシーに厄介な能力がw

ちなみに、セルシウスが奪っているのは「声を出すこと」と「目でものを見ること」であって…

奪った相手の声をそのまま奪ったり、ではないんです。

しかし記憶に関しては、自分を作ったゲート…つまりはミカの兄に関する記憶でなければ定着しない。

そして…

エミィちゃん来ましたよーバーガーの娘さん出ましたよー。



ザウちゃん寒いの苦手なのに、セルシーと当たるって…

そういえばザウバーとセルシウスは、何気に初邂逅なんですよね。

15話の時点ではルル、33話の時点ではバーガー(+ゾゾ)…という具合に、5話で邂逅しなかったメンバーは1人ずつ会ってるんですね。

まあ、15話はコヨミと一緒に宿屋の予約を取りに行って、33話はコヨミと一緒にカフェのバイトしたりしていたザウバーなので…しょうがないといえば、しょうがない。

そしてミカェ…

でもしょうがないですよね、アレは誰だって迷う。


ザウバーがなかなか手を借りない理由。

…と言いますか…

他人に若干触れたがらないor触れられたくない理由は、今回のラストの通りです。

ということは、ザウちゃんの生み出したファントムが出てくることもあるんでしょうかねー。

その割には、ザウバー…コヨミと違って衝撃波出すわコヨミを逆に蘇生させるわ戦うわしてるんですが。




次回は…

セルシー決着か、聖海騎士団決着か。

結構悩みどころです。