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タイトル未設定 - Magic39:遠き記憶

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――気付けば自分は、炎の中にいた。



周囲を火で取り囲まれ、仲良くしていた子とも散り散りになった。

両親は最後まで山賊と戦い、自分は隠れているようにと言われ、服を入れる箱の中に息を潜めるようにして隠れる。

真っ暗な箱の中では、大人達の悲鳴や馬の嘶きが聞こえる。

怖くて私は、その中で震えることしか出来なかった…

そして暫く経って、悲鳴や刃のぶつかる音などが聞こえなくなり、私は箱から出て外を歩き回っていた。

…見渡す限りの死体

…体を裂かれるように斬られた父の姿

私は悲鳴を上げ、その場に泣き崩れた。そして悟った…自分は一人になってしまったのだと。

だが…

そんな時に、“あの方”が私の前に現れた。


『……生き残りか』

『あなたは…?』

『ついてくるがいい。いい我が手足となるだろう』



――神の使いだった。

地獄の光景から私を救ってくれる、まさに救世主とも言える人だった。

近くにいたあの方の付き人らしき者は、「いいのですか」と何度も問い詰めるが、あの方はそれを一蹴し私を帝都まで連れてきていた。

…その道中で、私に顔を隠せるフードのついたローブを買って、着せてくれたのだ。


『よいかユディーヌ、お前はその素顔を人前に晒してはならない』

『どうして?』

『それがお前のためなのだ』


そう告げたあの人の顔は、優しかった。

…私にとっての救世主は、この方なのだ

…ならば私は、私の力はこの方のために使うべき

…それが、私を助けてくれたイシュトヴァーン猊下への恩に報いることに繋がる…




ユディーヌは十数年経っても焼け焦げている大地に、足を踏み入れていた。

今となっては、どうして自分はここで…山賊に襲われたのか分からない。

しかし、イシュトヴァーン皇帝がそれを助けてくれたのも、また事実。

ユディーヌは東の方向を見つめ、その先に聳える遺跡のようなものに目を向けていた。

――アンギュロス遺跡。

あの遺跡にはきっと、イシュトヴァーン皇帝が予言を遂行するために必要なものが隠されているはず。


「…しかし、何故だ…何故あれを懐かしく感じる。……まあいい…私の命は猊下のためにある、私は…猊下への忠誠を誓うのみだ」





ミカ達がリノンの村を出発して、3日後。

グリュッグ国では、ガナドール族の族長・ベスティアと彼女率いるガナドール族の戦士が集っていた。

前に聖海騎士団に攻め込まれたことで、多くの者が負傷していたが…

それでも彼らは帝国と戦うために、立ち上がった。

そして…

グリュッグ国に参加するすべての部族の代表が集まり、更にはアウデンティア国・ツァールハイト国・フライハウト団の代表も一同に介する、大きな会議が行われていた。

議席の一番奥に座っていたウォルフガングは、集まった面々の顔を一通り見ると…彼らにこう、話していた。


「さて…諸君、【共和連合】を結成する前に一つ、我々を指揮するリーダーを決めようではないか」

「ウォルフガング殿が指揮をするわけにはいかないのですか?」

「グリュッグ国のみの戦いならば、そうしていただろう。…しかし、様々な国の人間が集まって、リーリエリヒトと戦うのだ……そうなれば、より優れた統率力を持つ者がリーダーとなるに相応しい」

「「「…」」」

「そう言われましても、そうすぐには思いつきませんねぇ」


のほほんと構えるパヴェルに、カルラは軽く頭を抑えていた。

そんな彼女の気持ちが分かるのか、ソウセイと…ついでに、アウデンティアから他の魔法使い達と一緒にやってきたゾゾは苦笑いをしている。

だが、彼女の言うとおり、ウォルフガングの言う『より優れた統率力を持つ者』が思いつかないのも事実。

現に、ルーキスのメンバーはカルラを推し、リーリエリヒト大陸からやってきたレヴィー以外のフライハウト団のメンバーはベックフォードを推す。

当然アウデンティアの魔法使い達はパヴェルを推し、グリュッグ国に参加する部族達は…実力を一番分かっているウォルフガングしかいないと声を揃える。



そうしていると…

カルラは少しばかり考えた後、ソウセイに提案していた。


「――ソウセイ、あなたは誰か思いつきませんか?」

「俺ですか!?」

「あなたはフライハウト団の一員でもあり、魔法使いの仲間でもあり、グリュッグを知る部族の友人であり、私達ルーキスの…ツァールハイト軍のことも知っている。あなたの意見を元に、選んだほうがいい気がします」

「うーん、こういうのって俺個人で決めていいのかな…。……」


ううん、と唸りながら考えるソウセイ。

そんな彼を見て、ゾゾは「責任重大だな〜…」と同情している。

ソウセイは確かに、この共和連合結成のために集まっている面々と、それなりの面識はある。

唯一アウデンティア国のみはそこまで関係が深くないのだが、操真晴人という“魔法使い”のことをよく知っているのも事実。

そして…


「――今、名前を挙げられた…4人でいいと思います」

「「「4人も!?」」」

「えっ、何でだよ。一人のほうが分かりやすいし、いいんじゃないの?」

「カルラさんの決断と行動力、ウォルフガングさんの武勇と戦の知識、パヴェルさんの魔法とどんな窮地でも動じない精神力、そしてベックフォードさんの帝国内の知識と配慮の深さ…それら総てを合わせなければ、帝国には勝てない」

「「「…」」」

「それに帝国は一枚岩のように見えて、全然そうじゃないと思うんです。帝国軍はヴィルギニア元帥やミッドノクスと言う主力を失い、聖海騎士団も今のラディス教や帝国のやり方に疑問視しているものもいるはず」


確かに、とカルラが頷く。

現在、皇帝は予言を実現させるために他のことが散漫で、そんな状況下でヴィルギニアと言う帝国軍の指揮官を潰したのは痛い。

先を見据えるならば、ウェルテクス社の兵器に頼らず、今ある人間組織の勢力を強化することだった。

帝国の皇帝でもあり、ラディス教の教皇でもあるイシュトヴァーンによる“政教一致体勢”というのが、軍の統率面で足を引っ張っている。流石に皇帝でも、帝国軍と聖海騎士団の総ての戦況を把握できるわけではないのだから。




「俺達共和連合軍が勝てる見込みがあるとするならば、今言った面々の良さを最大限に生かし…連合軍総てが力を合わせて戦うこと。俺はそう思います」

「「「……」」」

「…って、なんかすいません、若輩者が生意気な口利いて…」


慌てたように頭を下げるソウセイだが、他の人々はどっと笑うのみ。

一方で…

彼の話を聞いていたベックフォード・カルラ・ウォルフガング・パヴェルは、ソウセイの4人体制案に乗っていた。

そもそも、共和連合とはいえ、結局は自分達の指揮する組織のことしか把握していない現状。

その状態で統率者を一人に任せるとなると、どうしても勝手の分からない部分が出てきてしまう。

戦況は通信JMで連絡を取り合い、その都度攻勢を変えていくほうが、まだ纏まるのだ。


「いや、君の意見は正しい。――確かに、帝国は個々の能力なら高い…だがそれが必ずしも、連携に繋がるとは限らないだろう」

「そうですね。それに、ウェルテクス社の兵器を使おうにも、乱発は不可能…」

「奴らは功を焦った。…ファントムという怪物も帝国の戦力に入れるとなると、厳しい部分があるが…」

「ファントムはファントム専門の魔法使いにお任せしましょう。――長きに渡る帝国の横暴から、ルキナを解放してあげましょう。そうでないと、ルキナを愛しアムニスフィールドを作った古代人に…怒られてしまいます。帝国領内はフライハウト団の皆さんがよく知っているはず、彼らの話を元に、作戦を立てましょう」

「――分かりました。それでは早速」


リーダーも纏まったところで、ベックフォードを中心に話し合いを始めていた。

その一方で…

パヴェルはゾゾとソウセイに、「お使い」を頼んでいた。


「ゾゾ、それからソウセイ。少しお使いを頼んでいいですか?」

「まあ…パヴェル様の頼みなら」

「それで、何を?」

「簡単なこと。……“彼女達”を迎えに行ってあげてください」






〜〜〜






――アンギュロス遺跡。




アンギュロス族が自分達の神への祈りを捧げていたと同時に、歴戦の戦士の墓も兼用するこの遺跡。

所々見える棺に、ミカはユーテキの腕をガッシリ掴みながら歩く。

一方で瞬平も、近くにいた凛子を盾にするように歩き、後ろ足で弁慶の泣き所を蹴られていた。

その一方で…

珍しくミカが周囲を気にしながら怯えて歩いていることに、晴人は首を傾げている。


「…ミカ、お前大丈夫か?」

「大丈夫…絶対大丈夫!お化けなんていない!!」

「…ミカー?」

「大丈夫だってば!おおおおおおおおお化けとか、そんなのいるわけないし…ユーテキ何ビビッてんの!?」

「えっ僕!?むしろミカのほうが怖がってるじゃん!」


腕を思いっきり掴まれているというのに、自分が怖がっている扱いを受けるユーテキ…

確かに普段なら間違いなくそうなのだろうが、今日は明らかにミカのほうが怖がっている。

瞬平?普段どおりなので問題なし。

コヨミは白々しい目でミカを見ながら、尋ねていた。


「…もしかしてミカ、お化けが出ると思ってる?」

「そっ…そんなわけないでしょ!?お、お化けなんてね、軽く捻り潰してあげるんだからっ!……バーガーが」

「俺かよ!?まぁ確かにホーリーランスで浄化できるが!」

「……あ、そこ何か動いた」

「ひゃっ!?」

「ぐえっ!」


コヨミの冗談に、ミカは裏返った声を出し…

思いっきり腕を握り締められたユーテキなど、車輪に潰されたカエルのような声を上げる始末。

“あぁ、やっぱり怖いのか”

晴人やイーヴリンなどがそう思いながら、微笑ましげにミカを見ている。

ユーテキに関しては…まあ、ドンマイ。



「…やっぱり怖いんじゃない、お化け」

「ミカって…幽霊、信じてるんだね」

「幽霊っぽいモンスターは倒せるのにな…」

「モンスターはモンスターだから大丈夫なの!お化けは…お化けは、セイバーを振り回しても倒せないじゃないっ!?」

「「「基準はそこ!?」」」


倒せるお化け(サマエルといったモンスター)はともかく、倒せないお化けは無理だと言うミカ…

「こんな調子で大丈夫なのか」とザウバーが頭を抱えていると、一際大きな棺を見つける。

それはイーヴリンや凛子も気付いていたようで、あれは明らかに開けたら危ない類。

触らぬ神に祟りなし、と誰もがスルーしようとしていると

――空気を読まないことに定評のあるルルが、思いっきり棺の蓋を開けていた。


「この中に誰か入ってないかな〜?」

「「「ルルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!?」」」

「ルル、流石にそれは駄目ポポ!早く蓋を閉めるポポー!!」

「あ、なんか黒い霧みたいなのが出てきた」

「「「そして手遅れえええええええええええええええ!!!」」」

「…きゃーっ!?きゃー、きゃあああああーっ!!?」


ルルの開けた棺から、不吉な霧のようなものが出てくる。

…あれは怨念だ、恐らく何かの怨念だ

誰もがそう考え、一目散に退避する。

その際バーガーは聖職者としての立場から、迷える魂を成仏させる手段に出ていた。

ただし、装備していたのは十字架にニンニク、――それは対吸血鬼専用だ、バーガー。




「――今更思ったんだけど、幽霊が怖いと思うから…それっぽいのが出そうなこの雰囲気に負けるんだ。だから、……幽霊より怖いものを考えよう…ミカ……!」


ゼェゼェと息切れしながら、晴人がミカに提案を出す。

確かに、「怖い」と思うから些細なことで怖がってしまうのだ

――流石に、さっきの“アレ”は規格外すぎたが。

しかし幽霊よりも怖いものが見つからず、ミカは他のメンバーの話を聞こうとする。

だが…

瞬平を始めとした殆どの者が、こんなことを言い出す始末。


「あ、…晴人さん…ミカちゃんの料理が怖いと考えれば、幽霊なんてヘッチャラになってきました」

「私も、…ミカちゃんの料理のほうが恐ろしいと思えるわ…」

「そうね。あれは…恐怖を超越した何かよ」

「ポワトリンの正体と同じぐらい…だしな……」

「僕なんて、…ミカにこれまで受けてきた所業の数々に比べたら幽霊なんて…!」

「まあ、ミカの料理ほど恐ろしいものはないわね」

「というか…アレはもう、料理ですらないぞ。ただの化け物だ」

「猛威を振るいまくってる何かだと思うの!」

「確かに、アレに比べればさっきのやつも、あんまり怖くないポポ…」

「だな。――よし、ミカ、自分の料理を怖がれば怖いものはなくなるぜ!」

「………皆、後で1人1発ずつ殴られたい…?」


皆が皆揃って、自分の料理のほうが恐ろしいと言う事態。

流石にミカも皆の発言への怒り>幽霊への恐怖となり、ユーテキのマフラーを掴みながらズンズン進む。

まあ、幽霊が怖くなくなったのなら結果オーライね、と凛子は苦笑しながらも、その後を追うように歩く。

その際彼女は、壁に刻まれた壁画を見て、首を傾げる。



「…この絵…」

「それは、昔のガナドール族が描いた壁画さ。翼の女性が、ミカファール神」

「そうなの?でもこれ、何かに似ているような…」


どれどれ、と晴人が壁画の絵を見て、同じようにして首を傾げる。

…黒い髪

…6枚の白い翼

…天の羽衣を身に纏い、蒼い珠を持つ女性

壁画はだいぶ古く、風化して崩れたり消えたりしている部分が多いので、すぐにはピンと来なかった。

壁画の内容は、ミカファール神の持つ珠から剣を持った人間が禍々しい黒いモノと戦っている姿を描いている者。

「ひょっとして」とルルはイーヴリンに尋ねていた。


「これが、イヴお姉ちゃんの言っていた…救世主さん?」

「かも、しれないね。よく、救世主はミカファール神から産み落とされた…それこそ神の子、とも言われているから」

「神の子、な…ラディスの予言と関係ないとも言い切れねぇが、まあ、ラディス教とミカファール教は崇拝の対象がまったく違うから……まずないだろうな」


バーガーはそんなことを言いながら、先に続く道を見る。

長年足を踏み入れた人間はおらず、アンギュロス遺跡は床までも埃や砂が溜まっているのだ。

しかし…

やけに新しい足跡がはっきりと残っており、その先にユディーヌ審問官がいるのだと推測。

それは晴人達も分かっていたようで、ごくりと息を飲みながら、先に進んでいた…






〜〜〜






足跡を頼りに、遺跡の最深部に辿り着く晴人達。

神殿の奥の壁にはミカファール神を象った大きな石像があり、その下に…

ユディーヌ審問官の姿があった。


「「「ユディーヌ審問官!」」」

「お前達は…何故ここに」

「あんたがアンギュロスの遺跡に向かった、と言う話を聞いてね。……ちょっと確かめに来たんだ」


イーヴリンはそう言い放つと、一瞬のうちにユディーヌ審問官の懐まで飛び込む。

そして、フードの部分を切り裂くと…

そこから現れたのは、銀の瞳と黒の髪。

間違いなく、アンギュロス族の特徴だ。しかし、驚くべきはそこではない。

特にバーガーは信じられないような顔で、ユディーヌ審問官に叫んでいた。


「ユディーヌ審問官、あんた、――女だったのか!?」

「くっ…!」

「やっぱり女の人だったんだぁ!」

「ルルの勘は当たってたポポ!」

「え?ちょっと待って、ラディス教の要職って女の人は就いちゃいけないんじゃなかったの!?」

「そうよ、確か、女神崇拝を禁じているラディス教は…女の人が審問官のような立場になれないって、聖地ラディウスで…」


フードの奥から現れたのは、若干の幼さを残した顔立ち。

整った顔でありながらも、どこか柔らかさを感じる輪郭部…ユディーヌ審問官は、女だったのだ。

女性だと最初に思っていたルルとポポは声を上げるが、ユーテキと凛子は別の意味で叫ぶ。

彼らの言うとおり、ラディス教は女神崇拝を何より禁じている。

だからこそ、女神を崇拝するアンギュロス族を滅ぼし…ラディス教の要職に女性が就任することは、これまでに一度もなかった。

…しかし同時に、何故ユディーヌ審問官が今まで体のラインを隠すようなローブに身を纏っていたのか、これで説明がつく。



「…女だからどうした。私は、命の恩人でもあるイシュトヴァーン猊下にお仕えする身…その忠誠心に変わりはない!」

「女であることは、この際関係ない。――ユディーヌ…あんたは、皇帝に騙されているんだ」

「そうよ!あなたの一族は、アンギュロス族は、イシュトヴァーンによって滅ぼされたの…あなたを助けたのはきっと、アンギュロスの力を利用するためなの!!」

「何…?そのようなこと、あるはずがない!そのような嘘に、私が惑わされるとでも…」

「本当なんですよ!……ここにいるイヴさんは、ユディーヌさんの仲間なんです。皇帝によって滅ぼされたアンギュロス族の末裔なんです!!」


イーヴリンやミカ、瞬平がユディーヌに事情だけでも聞いてもらおうとする。

しかし、彼女はなかなか耳を貸さない…

それどころか、自分を救ってくれたイシュトヴァーンのほうを正義だと信じているのだ。

晴人もハリケーンリングを指に嵌めながら、ユディーヌに尋ねる。


「あんたは襲われた時、まだ幼かった…だから自分の家族を失った原因を山賊のせいにして、自分を拾ったイシュトヴァーンのことを美化しているに過ぎないんだ」

「何を…!」

「疑問に思ったことはないのか?自分の一族を滅ぼせるような力が、ただの山賊にあるのか。イシュトヴァーンが何故あんたのいた集落に来ていたのか」

「疑問に思う、だと?猊下は私の命の恩人、それ以外に…」

「――自分の持つ記憶の総てが真実だと、言い切れるか?」


晴人だけでなくザウバーの問いに、ユディーヌは困惑しつつある。

それと同時に…

今まで忘れかけていた当時の記憶が、蘇ってきていた。




『いいのですか、猊下!――その者は、アンギュロスの生き残りですよ!!』

『構わん。考えようによれば、アンギュロス族の力は我々リーリエリヒトにとって大きな力となる』

『しかし、長きに渡り空席の審問官にするために育てるなど…女がラディス教の要職に就くことは禁じられていると知ってのことですか!!』

『煩いぞ、私の決めたことに一々口を出すな!』


イシュトヴァーンを諌める兵士と、彼の会話。

幼かったユディーヌにはその意味は分からなかったし、今まで忘れていた。

信仰心が元々人一番強かった彼女は、ラディスの神を受け入れ、熱心に祈りを続けていた。

そうして、いつしか彼女は『元々どんな神を崇拝していたのか』を忘れ、『自分は熱心なラディスの教徒でもありラディス教を守る審問官』として育っていった。

自分の家族が殺された原因も、イシュトヴァーンが「山賊によって襲われた」と話していたことを真実だと思い込み、そのまま生きてきたのだ。

忠誠心が深いあまり、愛情にも近い思慕の念を抱いて…生きてきたのだ。

ザウバーは腕組みをしながら、ユディーヌに尋ねる。


「……物心もつかない子供の記憶は、特に曖昧だ。お前は知らないうちにイシュトヴァーンによって記憶の刷り込みをされていたのだろう」

「…のような…そのようなことが、――あるはずがない!」

「「「…」」」

「私は…猊下への忠義を尽くす。それが私の存在する理由、私が私である理由だ!」


ユディーヌは槍を構え、ミカ達に刃を向ける。

やはり、17年間にも及ぶ忠誠のほうが勝ったのだろう。

イーヴリンも、こんな形でアンギュロスの生き残り同士が戦うことを皮肉のように思いながらも、剣を構え、ユディーヌとぶつかりあっていた。

晴人達もその援護をしようとするが、イーヴリンが「待て」と叫ぶ。


「ユディーヌは私に任せて欲しい。…私自身の手で、止めたいんだ!」

「イヴ!」

「――無謀な。1対1で…私に勝てると思うな!」

「その鼻っ柱の強さ、へし折ってやるよ!」



剣と槍がぶつかり合う。

そんな中…

イーヴリンは何故か、彼女と初めて戦うような気がしなかった。

遠い昔、どこかで戦ったことがあるような、そんな不思議な感覚だった。

昔といえば、小さい頃、【救世主】を守るために戦うと言う使命を持っていたアンギュロス族だったからか…幼い頃から、戦闘訓練を受けてきていた彼女。

そんな彼女と、いつも一緒に手合わせをしていたのは…一番仲の良かった、族長の娘だ。

――どうして昔のことを、今、思い出すんだろうね

――それも、血の繋がらない…“姉”の記憶を

――同じアンギュロス族と、戦っているからだろうか

そんな中…

ユディーヌも何故か懐かしいような気持ちになり、しかし皇帝への忠誠心との板ばさみになっていたせいだろうか。

……銀色の瞳から、涙が零れ落ちていた。


「!ユディーヌ、あんた…」

「な、何故だ。…何故、涙が……くそっ!」





しかし…

アンギュロス族同士の戦いは、“あの男”によって中断せざるを得なくなった。

彼はウェルテクス社から借りた武器を構え、晴人達に向けて発射。

それを事前に察知した晴人の声掛けで全員その場にしゃがみ、戦っていたイーヴリンとユディーヌもそれをかわす。

だが、――その先にあったミカファール神の石像は、後ろの壁もろとも跡形もなく崩れ去っていた。

そして、現れたのは…グラントの姿。


「ほう、ウェルテクス社の兵器もなかなか便利なものだな」

「「「グラント!」」」

「…ッ!」

「グラント、何故ここに…」

「あなたを迎えに来ました、ユディーヌ様。……しかし、女性だったとは…」


ユディーヌの正体に多少動揺はしながらも、問題ないかのように別の方向を見るグラント。

その先にいたのは、ザウバー。

彼を始めとした他の面々は武器を構えるが、グラントは何食わぬ顔で…

『自分をここまで連れて来た存在』に、言い放つ。


「……奴らの相手は任せた」

『お任せを』



そうして、一瞬にしてユーテキの背後を取り、その背を切り裂く存在。

…オリジンだ。

「どうして奴がここに」と思いながらも、晴人が変身しようとし、バーガーやミカも応戦しようとしていた。

しかし、オリジンは空間転移を巧みに利用し、晴人が変身する前に腹部を殴り飛ばす。

更にはミカやバーガーの攻撃も2本の腕で受け止め、ルルの魔法も3本目の腕で防御する。

その間にコヨミや凛子、瞬平は晴人に近寄り、彼の安否の心配をしていたが…

オリジンはコヨミを捕まえ、その喉首に剣を突きつける。


「うっ!?」

「「「コヨミ!」」」

「「「コヨミちゃん!」」」

「…交換条件だ。あの娘を助けたければ、我々と共に来てもらおうか」

「……そんな交換条件に、俺が乗るとでも?」

『お前は必ず乗る。この娘は、数少ない同胞…そうだろう?』


グラントだけでなく、オリジンに言われ…

チッと舌打ちをしながらも、ザウバーは刀を地面に置く。

そのままオリジンのほうに歩き出し、彼にコヨミを解放するよう言い放つ。


「…俺がお前達の元に行けば、こいつら全員に手を出さないと言い切れるのか?」

『イシュトヴァーン皇帝が欲しがっているのは、お前の持つ左腕の力。その力こそが、アムニスフィールドの力を得…予言遂行のために必要なものだと、判断された』

「つまり、俺が【鍵】だと?」

『そうだ』

「……分かった、ならまずはコヨミを解放しろ。話はそれからだ」


オリジンはその言葉ににやりと笑うと、




――ザウバーの鳩尾に拳を叩きつけ、気絶させていた。

更にそのまま彼を掴み、コヨミも連れたまま宙に浮き上がる…

それを見たユーテキは、「待って」と叫んでいた。


「コヨミちゃんを解放するって約束だったのに…話が違うじゃないかっ!」

『簡単に騙されるほうが悪いのだ。それに、人質がいたほうが協力もしやすいだろうしな』

「晴人…晴人ッ!」

「コヨミ!」

「…ザウバー!」


晴人やミカが手を伸ばそうとするが、オリジンは既にグラント・ユディーヌと共にその場から消えるようにいなくなっていた。

…俺が不甲斐ないせいで、コヨミは

晴人は拳を握り締め、地面に叩きつける。

彼女の魔力の補充は昨日のうちにしておいたが、それもいつまで持つか…

それよりも問題なのは、ザウバーが敵に捕まったこと。

帝国は彼の左腕の力に着目し、アムニスフィールドの力を手に入れようとしている。

ザウバー自身が言うように、アムニスフィールドのエネルギーをコントロールするための【石】と遂になる、エネルギー解放のための【鍵】なのだろうか。

誰もがそう思っていたが、それを否定したのはユーテキだ。


「だけどおかしいよ、アムニスフィールドもシンボルストーンも、古代人が作ったんだ…アムニスフィールドの全エネルギーを解放する【鍵】がザウバーなのは、いくら考えてもありえない!」

「確かに…」

「じゃあ、ザウちゃんはアムニスフィールドと関係ないってこと?」

「どうなんだろうな…とにかく、分かっているのは…【鍵】じゃないことがばれたらザウバーと、それからコヨミの命は…」



「――おおーいっ!」

「皆さん!大丈夫ですか?」


意気消沈する彼らの前に現れた、2つの影。

…ゾゾとソウセイだった。






***




離脱はザウバーでした

…ただしコヨミも追加でな!←

まあ、そりゃあコヨミと言う人質の命が掛かっていれば、首を縦に振らざるを得ないもんな。


ユディーヌは自分がアンギュロス族だということ、それらは皇帝に滅ぼされたことを知らなかったんですよね。

というか、覚えていないと言うべきか…

アンギュロス族としての戦闘力を帝国のために振るってもらう…まあ、何処にでもある考えですよね。

しかしユディーヌにとっては、アンギュロス族の使命よりも皇帝猊下に仕えることのほうが大事になっていたわけで。

命の恩人と思っていたわけですから、そりゃあ真実を伝えても簡単に受け入れられないですよね。



原典ではベックフォードさんに全権を任せていますが…

ツァールハイト国・アウデンティア国・グリュッグ国と国を挙げての参加者の中に、帝国に対する地下組織のリーダー(しかもクラウスの後任)に任せるのもどうなんだw

と思ったので、4人体制にしてもらいました。

というか、ゾゾの言うとおり責任重大すぎるソウセイw

まあしょうがないよ、フライハウト団の一員・カルラを絶望から救った・晴人(=魔法使い)の知り合い・ガクー族のダゴイと友好関係にある、4コンボ達成しちゃってるしww


ユディーヌ審問官、女です。

…いや名前でバレバレですけどね!

どうして誰も「女の名前だろ」ってツッコミを入れなかったのか…たぶん、ヴィルギニア辺りはやってくれてそうですが。

これでもしも女だと判らなかった人がいたら、…イカスミパスタと言ってもらうか…?←

自分も名前+2章のルルの会話で女とは思ってましたし。

それよりも…

ファントムが殆どいなくなったせいで、雑務しなくちゃいけなくなったオリジンェw




次回は…

まあ、うん。うん。

ザウバーは頑張って生きて欲しい←