――ルトラ港。
砂漠の町・セラピアに向かう途中にある港町で、ここから他の大陸への船が出ている。
客船だけではなく漁船の流通も盛んで、港町だけあってかたくさんの魚介類が並ぶ。
最近では海上にもモンスターが現れることがあり、漁船・客船ともに船の出港数は減っているが…
そんなことを感じさせないほど賑やかで、晴人は「へぇ」と売り場をコヨミと見ていた。
「新鮮な魚が揃ってるな」
「そうね」
「…セラピアに行くための準備ができるのはここだけだ、さっさと必要な飲み水や食料を確保して行くぞ」
二人の後ろを通過しながら、ザウバーが呟く。
…確かに、彼らがここに来た目的は、セラピアに行くための前準備。
ろくな準備もなしに砂漠の町に向かうなど、馬鹿のすることだろう。日持ちのいい食材もそうだが、特に水がなくては砂漠に向かう以前の問題。
それは分かってはいるのだが、どうも無愛想なザウバーの言葉に、ミカはむっと来ている様子。
「……なんか、眉間にずっとシワ寄せてて疲れないの?眉間シワ星人」
「なッ!」
「「ぶっ…」」
「「…くくっ…」」
「ぶふくっ」
ミカの発言に、近くにいた瞬平やユーテキ・凛子にイーヴリン・更には晴人も笑いを堪えきれない。
特に晴人の笑いが一番酷い。
嫌な予感を察したコヨミは、ゆっくり後退し…プラモンスター達を遠ざける。
予想通りザウバーが静かに怒り、コヨミ以外の全員に制裁を下そうとする。
「――おい、コヨミ以外の全員今すぐ横に並べ。女はデコピン、男は殴る」
「えーっ!?ちょ、コヨミちゃんだけなんで免除!!?」
「眉間シワ星人ってフレンドリーなあだ名だと思いますけど!?」
「当たり前だ!そして瞬平、貴様は2発だ」
「ええー!?」
「そんな怒っているから眉間シワ星人って呼ばれるんじゃないのかい?…くくく」
「ちょ、イヴさん!あんまり眉間シワ星人…じゃなかった、ザウバーを刺激しないほうが」
「凛子ちゃんも落ち着いて!眉間シワ星人の逆鱗に触れるから!?」
「そうそう!怒ると怖いからね、あの眉間シワ星人!!」
「……………お前ら、全員斬る」
「「「ぎゃー!?なんか一番物騒なほう選んだー!!」」」
「――馬鹿じゃないの…」
彼らの漫才に、コヨミは深い溜息をつきながらそう言うことしかできない。
刺激するほうもするほうだが、いちいちムキになるほうにも問題はある…
そんなことをコヨミが思っていると、クラーケンが何かを見つけたようで、コヨミにそのことを伝えようとする。
クラーケンが騒ぐ方向を見たコヨミは、晴人達に「皆静かにして」と叫び、指を刺す。
…そこにあったのは、リーリエリヒト帝国軍の旗。
それを見た晴人達はすぐさま口を閉ざし、相手の視界に入らないようこっそりと隠れて様子を見る。
晴人は果物屋の影から帝国軍の様子を見ていたが、ザウバーに突っ込まれる。
「あれって確か………聖海騎士団?」
「いや、聖海騎士団なら掲げる旗はラディスのシンボルストーンを象った十字だ。……恐らく帝国お抱えの軍事部隊・ミッドノクスだろう」
「…思ったんですけど、聖海騎士団とミッドノクスって、どう違うんですか?」
「あ、それ私もずっと気になってた」
「そうよね…ミカが教会で騒ぎを起こしたとき、追ってきたのは聖海騎士団だったけど…」
「いい質問だね。――実は聖海騎士団は帝国軍とは違い、ラディス教を強く崇拝する者達で構成されたラディス教の親衛隊。だから、主に帝国の大聖堂や聖地ラディウスで活動しているのさ」
ミッドノクスと聖海騎士団の違いに瞬平が疑問を出し、凛子やコヨミも同意。
それについては、イーヴリンが説明を始め…
彼女によると、ミッドノクスは帝国直属の精鋭部隊で、他国への軍事戦争は主にミッドノクスが中心となって行われる。
一方の聖海騎士団は、ルーク枢機卿の指揮の下で動く、ラディス教を守るための親衛隊。
当然、リーリエリヒト帝国の皇帝でもあり、ラディス教の教皇でもあるイシュトヴァーンの命を受け動くこともあるのだが、戦う理由は【異教徒からラディス教を守るため】。
「成程。皇帝で教皇でもあるから、皇帝直属の軍だけでなく…教会の持つ軍事力も、その2つとは違う裏の部隊も扱えるって事か…」
「そういうこと。まあ、この辺は晴人達だけじゃなく…他国の人間にしても、リーリエリヒト大陸内の人間にしても分かりにくい部分でもあるから、しょうがないんだけど」
「…うん、私も全然分からなかった」
「僕も。……でも、ミカの場合、ミッドノクス・聖海騎士団・特務機関G…総てひっくるめて【敵】認識してるからあんまり深く考えなくてm……アッー!!」
「「…馬鹿(だろ/でしょ)」」
うんうんと頷くミカの横で、余計なことを言うユーテキ…
当然彼は殴られ、ユーテキは撃沈。
近くにいたザウバーとコヨミが声を揃えて倒れるユーテキを見下ろしつつ言うが、そんな彼は軽く無視してミッドノクスの動向に目を向ける。
問題は、何故帝国軍がここにいるのか。
自分達を追って来たにしても、大軍過ぎる…
晴人がそう思っていると、果物屋の店主が話していた。
「あんた達、旅の人だろ。あんまりここに長居しないほうがいいよ…あいつら、近々どっかの国と戦争起こす気なんだから」
「「「戦争!?」」」
「そうさ。近くの森に軍事キャンプを立てているのを見たって奴がいる、まったく…戦争してくれればそれだけ儲かってくれるからいいんだけどさ、時々剣の持ち方も知らない若い奴を連れて行くんだ」
「それって……その人達を盾にしているって事!?」
「そうでもあるし、運よく戦果を上げれば軍に入れてもらう事だってできる。……まぁ、大抵の場合…武勲はヴィルギニア元帥が自分のものにしちまうから、そういうことは滅多にないんだけど」
「――やだーっ!ソウセイ兄ちゃんを連れて行かないでー!!」
「お願いします、どうか、どうかうちの息子だけは…」
「ええい、煩い!リーリエリヒトを守るための戦いに参加できるのだ、光栄に思うがいい!!」
「さあ、行くぞ!」
「ヒスイ母さん、シンク!」
少し離れた場所で、騒ぎが起きる。
どうやら、早速誰か1人連れて行かれたみたいだ。
ミカはすぐさま助けようと武器を構えるが、イーヴリンに肩を掴まれ、止められてしまう。
「どうしよう、助けないと!」
「落ち着けミカ!ここで騒ぎを起こしたら、大きな被害が出る可能性もある…それにここでミカが出て行くのはかなりまずい」
「なんで!」
「…自分でも知っているだろう、帝国の狙いはミカ自身の不思議な力。そしてオリジナルJMだ。あいつら、手柄を上げるためならどんな手段でも取るよ……それこそ、この町の人達を人質にしたりね」
イーヴリンに説得され、ミカはどうすることもできない状況に拳を握り締める。
それは晴人達も同様で、今すぐ連れて行かれた人を助けたい。
だがここで戦闘にでもなったら、町の人達が危ない…
それから2〜3人ほど追加で若い人間を連れて行き、食料を殆ど徴収し、今は戦争に必要な武器や防具の類を手に入れるべく武器屋や防具屋に向かっていった。
ミッドノクスの面々が見えなくなったのを見ると、ミカとユーテキ、瞬平に凛子は急いでシンクという子供の元に向かう。
「……大丈夫!?」
「誰か連れて行かれたみたいだけど…もしかして、お兄さん?」
「そうだ…くそーっ!帝国軍なんて大嫌いだッ、お父さんだけじゃなくて…ソウセイ兄ちゃんまで僕達から奪って!!」
「…私の夫…コハクも、半年ほど前に連れて行かれました。……その上、ソウセイまで連れて行かれたら…私は……」
「…酷い…こんなに小さい子から、お兄さんもお父さんも奪っていくなんて……」
「許せない…!こんなの許せるわけないでしょ…!?」
シンクやヒスイの言葉を聞き、瞬平や凛子は怒りに肩を震わせる。
それには晴人やコヨミも同意しているようで、何とかして彼らを助け出すことはできないのか考えていた…
しかし助けに行こうにも、晴人達は聖海騎士団・特務機関Gに顔を割られている。
当然、情報はミッドノクスにも伝わっているだろう…
だとすれば、ソウセイや他の若者を助け出すためには、軍事キャンプに忍び込む必要があるが…誰かが中に忍び込んでいたほうが、スムーズに事を運べるのも確か。
この中で、敵の内部に忍び込めそうな者といえば…
「「「………」」」
「おい、何故俺を見る」
「ザウバーは敵に顔が割れてないでしょ、忍び込んでこの子のお兄さん達を助けてあげて」
「何?」
「…いや…コヨミちゃん、冷静に考えても無理だよ。ザウバーが面倒ごとに首突っ込むはずがないじゃん……」
全員が一斉にザウバーを見、コヨミが代表して意見する。
ザウバーは眉間にシワを寄せるが、すぐさまユーテキが否定し、「それもそうね」とミカも同意。
二人の発言に目つきが鋭くなりつつも、瞬平と凛子が必死で宥めているシンクのほうを見る。
「…ぐっす、兄ちゃん……」
「シンク君、大丈夫だよ。お兄ちゃん達が何とかするから!」
「そうよ。だからもう泣かないで、ね?」
「……」
ザウバーは深い溜息をつきながら、シンクのほうに歩く。
瞬平や凛子は内心驚いた様子で彼を見ていたが、次の彼の発言には、誰もが驚いていた。
「…おい、そこのチビ」
「ちょっザウバーさん発言!発言優しく!!」
「…憎まれ口は昔からだ、目を瞑れ。……大事な兄なのか」
「そうだよ…ソウセイ兄ちゃんは、いつも優しくて…いなくなった父さんの分まで、僕達家族を養おうと頑張ってたんだ……なのに…!」
「……だったら泣くな。泣かないで待っていろ、…お前の兄は必ず助け出す」
「「「えっ」」」
思いもよらない返事に、近くにいた晴人達ですらぽかんと口を開ける。
「何だその顔は」と言わんばかりの視線を向けていたが、晴人は馬鹿正直に尋ねる。
「……何が言いたい」
「いや、お前が人助けというか慈善活動なんてするんだと思って。どういう心境の変化だ?」
「…フン。帝国軍内にも何かしらウェルテクスの情報はあるだろう、ウェルテクス一族の生き残りであるミカを探すなら尚更な。それのついでに行ってやるだけだ」
「ふうん。まあ別にいいけど」
「ただ、流石に帝国軍の中に入り込むのには俺1人ではリスクが大きい…それに、志願兵として侵入したらあまり自由に身動きが取れなくなる」
「…つまり、ある程度の信用は取っておきたいと?」
凛子の言葉に、ザウバーは頷く。
一体どういった方法で中に入るべきか…
そんなことを考えていると、瞬平に妙案が浮かんだようだ。
「あ。ちょっと危険ですけど、こういう方法はどうですか…?」
「「「?」」」
〜〜〜
ミッドノクスが駐屯している、軍事キャンプ場。
港から少し離れた場所にある森の中にあり、彼らはここで他国の軍との戦争の準備をしていた…
その中でも一際立派なテントに、ヴィルギニア元帥はいた。
彼は腹心でもありミッドノクスを纏める隊長・オフレッサーと共に、他国軍との戦争に備えた作戦を立てていた最中。
そんな彼らの元に、マクシミリアンというミッドノクスの一員でもある男がやってくる。
「ヴィルギニア様、オフレッサー様。ちょっとよろしいでしょうか」
「どうした?」
「実は……JMハンターを名乗る男が、我がミッドノクスに入りたいと申しておりまして」
「一介のJMハンターが?どうせ金目当てか敵国に雇われたスパイだろう、追い返しやがれ!」
「俺もそう思ったのですが…そのJMハンター、ミッドノクスに入れてくれるのならと……例の呪術師やウェルテクスの少女を引き渡すと言っています」
「「何!?」」
マクシミリアンの話では…
突然軍事キャンプにやってきたかと思えば、『ミッドノクスのメンバーを呼べ』と言う大胆不敵なJMハンターの男がいるという報告を受け、近くにいた彼が呼ばれた。
話を聞けば、男の要求はミッドノクスに入隊したいという。お近づきの印に、先程捕まえたばかりのウェルテクスの娘と呪術者の男を引き渡してもいいとの事。
マクシミリアンも最初は冗談かに思えていた。
ウェルテクスの娘や呪術者には不思議な力がある、それを、ただのJMハンターに捕まえられるのかと。
しかし、半信半疑であったことはお見通しだったのか、男は実際にウェルテクスの娘・ミカと異国の呪術師・晴人を連れてきたのだ…
「――ちょっと、離しなさいよッ!」
「くっそ、コーヒーに睡眠薬を混ぜるなんて卑怯だろ」
「…これが、こいつらの持っていたオリジナルJMと、怪しげな指輪だ。これで信用してもらえるだろうな」
「確かに…ユディーヌやシラスから聞いていた通りの風貌だな。お前1人で捕まえたのか?」
マクシミリアンの案内でやって来たヴィルギニアとオフレッサーは、互いに信じられないような顔をしながら…縄で縛られているミカと晴人を見ていた。
例のJMハンターと言う男は、腰に二刀を帯刀しており、右目を眼帯で隠している。
その傍らには、フードを深く被っている小柄な少女…どうやら彼女は、JMハンターの男の連れらしい。
男はオフレッサーの言葉を少し訂正しながら、横にいる少女を指差す。
「俺1人と言うよりは…横にいる連れの占いのお陰だ。こいつの占いはよく当たる」
「そこの女が?」
「占い師か。生憎と、俺達は占いなんてものは信じない性分でな」
「……それならそれで構わないわ。でも、私の占いが当たるのは事実よ…見て」
占い師の少女はそう言いながら、水晶玉をヴィルギニア達に見せる。
そこに映し出されているのは、ここから少し離れた場所で仲間を探している、ユーテキと瞬平の姿…
どうやら、いなくなったミカと晴人を探しているのだろう。
オフレッサーは驚いたような顔をしながら、少女に尋ねる。
「…こいつらは?」
「恐らく、この人達の仲間よ。……場所は…ここから20分ほどで行ける、山岳地帯の付近」
「どうやら、何人かに分かれて砂漠を越えるための準備をしていたようだな。…俺もこいつの占いを頼りに、この二人を『ウェルテクスについて知っている』とおびき出して捕まえた」
「なんか怪しいな…何でテメェがウェルテクスについて知ってるんだ?帝国がこいつらを探しているなんて、一介のJMハンターが知っているもんなのか」
「――JMハンターの持つ情報力を侮ってもらっては困るな。いくらか金を積めば、どんな情報だって手に入る」
「私達は帝国に恩を売りたいだけよ。でもその場限りの大金には興味ないから…ミッドノクスに入って、もっと荒稼ぎしたいだけ。私は占いで帝国軍の未来を占える、彼はミッドノクスに入ってもおかしくない実力を持っている……仲間に入れて、損はないわ」
占い師の少女の話を聞き、ヴィルギニアやオフレッサーは考えていた。
…どんな形であれ、ウェルテクスの娘や異国の呪術者を捕まえられたのは好都合
…こちらにとってもイシュトヴァーン皇帝猊下の信頼を勝ち取れる、大きなチャンス
二人を渡す条件は「自分達をミッドノクスに入れること」なので彼らの入隊を認める結果にはなるが、ミカや晴人を引き取った後ならどうにでもなる。
互いの考えが一致し、ヴィルギニアは二人の入隊を認めた。
「……よし、いいだろう。こっちとしても、戦力は欲しいからな」
「そうか。――分かっていると思うが…この二人を引き渡した直後に始末しようと思うな。俺はお前らが武器を構える間に、その首を跳ね飛ばす自信はあるぞ?」
「なんだと!?」
「はっ、いい度胸じゃねぇか。それよりも…オフレッサー、俺はこいつらを連れて帝国に戻る。お前だけでも指揮は取れるだろ」
男の態度にオフレッサーは憤るが、ヴィルギニアはむしろその大胆不敵さを気に入ったようだ。
とにかく今は、急いでミカと晴人の身柄をイシュトヴァーンに引き渡すべき…
そう思った彼は馬車の準備をするべく、テントを後にする。
その一方で、彼はマクシミリアンに山の麓付近にいるミカ達の仲間を捕まえるか…抵抗すればその場で殺すよう指示する。
マクシミリアンは何人かのミッドノクスメンバーに声をかけ、軍事テントを離れる…
オフレッサーはヴィルギニアが馬車を準備する間、晴人とミカが逃げないようテントの外に出て、入り口で見張りを行う。
その際、JMハンターの男と占い師の少女はテントから出て行き…
人目がなくなったのを見計らい、晴人が声をかけた。
「――まさか、こんなにも上手くいくなんてな…」
「…ミッドノクスって脳筋ばかりなのかな」
「まあいいや、それじゃあ俺達は…脱出しますか」
「それなんだけど…私達一応、オリジナルJMも武器も魔法の指輪も奪われてるじゃない。どうやって脱出するの?」
「大丈夫。予め、コネクトリングだけは隠し持っておいたから」
そう言いながら、晴人は服のポケットから…コネクトウィザードリングを取り出す。
これさえあれば、晴人の指輪やミカの武器の置いてある場所から回収することが可能…
――そもそも瞬平の作戦は、『ミカと晴人がわざと敵に捕まる』というものだった。
当然、最初はユーテキから「無茶だよ」という意見が出たが…イーヴリンやザウバー、凛子に晴人はむしろ瞬平の策に乗っていた。
確かに一度ミカや晴人を捕まえておき、それと交換条件に敵の中に入り込むことができれば…ある程度は自由に動くことができる。
『それだったら、いくつか罠を仕掛けておくのもいいかもな。例えば……ちょっとコヨミが危険になるけど、コヨミの占いでわざとユーテキ達の居場所を教えて、そっちにおびき出すとか』
『そ、それはそれでこっちが危なくない…?』
『大丈夫。水晶玉に映るのは、ガルちゃん達の見ている光景だから…それを利用すれば相手を騙すこともできるわ』
『つまり、わざと水晶玉の映像で居場所を教えて…その直後に別の場所に移動すれば、捕まるリスクは軽減されるって事ね』
晴人の案にユーテキは内心怯えていたが、コヨミや凛子の言葉である程度安心したようだ。
更に、わざと捕まえられるミカと晴人・わざと彼らを敵に売り渡す役目のザウバーとコヨミ・囮になる瞬平とユーテキ以外にも…連れて行かれた人達を安全な場所まで避難する役目も、必要だろう。
これはむしろイーヴリンと凛子以外に適任はいない。
早速晴人達は準備を始め、ミカと晴人は持ち物をウィザードライバーとコネクトリング以外ザウバーに預けていた。
当然二人を縛る縄も、簡単に緩むよう細工をする徹底振りで。
その際、赤い右目を隠すように眼帯で覆うザウバーを見たミカは、指摘をする。
『で、なんで眼帯つけてるのよ?』
『…俺の目は特徴的過ぎるからだ。JMハンターの仕事もそうだが、あんまり顔を覚えてもらわれると後々面倒なんだ』
『それにしては、普段からつけてないけど』
『……流石に片目を隠したままで戦うのは、少し難しいところがあるからな。一応、幼少時から訓練はしているが』
『じゃあ、もしかしてスイカ割りも一発でできる?』
『………それはこの状況に関係ある質問か?』
晴人は指輪を嵌め、コネクトを使って武器を回収する。
念のために指輪の数を確認した後、ランドリングを指に嵌め、にやりと不敵な顔を見せていた。
<ドライバーオン、プリーズ>
「それじゃ、捕まった人達の脱出までの時間稼ぎでもするか」
<シャb…ランド、プリーズ ドッドッドドドドン、ドッドッドドン!>
〜〜〜
コヨミとザウバーも、周囲を気にしつつ捕まった人々を探していた。
予め、捜索用にクラーケンとユニコーンを放している…彼らが上手く見つけてくれれば、問題はない。
そうしていると、クラーケンとユニコーンがコヨミ達を見つけ、ある場所に案内する。
軍事テントの中でも1つだけぽつんと残されている、不自然なもの。
そこからは咽び泣く声が聞こえ、どうやらあそこにいるのか、と二人は自然と理解していた。
だが…
「…?」
「どうした」
「この感じ…ファントム!でもどうして急に…」
「…ファントム?」
コヨミはテントからファントムの気配を察知し、うろたえる。
当然だ。
彼女はファントムの気配を感じ取ることができる…それで前にも、ゲートのフリをしていたレムを見つけることができた。
一応話では聞いていたものの、実際に目にするのは初めてか、ザウバーは訝しげな顔をする…
しかし次の瞬間、テントの中から悲鳴が聞こえ、コヨミは急いでテントを開ける。
……そこにいたのは、怯える3人の若い男と、今にもファントムが生まれそうな男。
どうやらこれから自分の身に起こることを考え、絶望してしまったのだろう…紫色のヒビはかなり広がっている。
「う、うわぁぁぁ…!」
「な…何なんだ一体!?何がどうなってるんだー!」
「これはっ…」
『――ガガガガガガガガガッ!』
怯える男の中には、先程連れて行かれたソウセイという男もいる。
彼がファントムを生み出したわけではないのかと安堵するコヨミだが、それでも分からない部分がいくつかある。
…まずゲートは、ファントムが関与する形で心の支えを壊されることがなければ、絶望してファントムを生み出すことはないはず。
もしかしたら帝国軍の中に別のファントムがいた可能性もあるが、それでもコヨミが気付けないのはおかしい。
一体どうして、と考える彼女の横で…ザウバーは刀を抜きながら、推測を告げる。
「……考えられるのは2つ。帝国の上層部にファントムがいるか、この帝国軍にファントムとやらがいるが…何らかの形でお前の探知から逃れられたかだ」
「ザウバー…?」
「前者の場合は、例えば…ウェルテクス社を牛耳るシラス宰相や、特務機関Gなどを纏めるユディーヌ審問官といった帝国に関わりのある人物がファントムとして覚醒し、それらが関わった作戦の犠牲によってファントムが誕生した場合だ。可能性としては、充分にある」
「…確かに、ノームにセルシウスは…帝国に協力している感じのファントムだった。……もし帝国がファントムと関わりがあるのなら…」
『…イハクゴタイ、タエカタ…セレアサバロ!』
誕生したばかりのファントム…ヴォルトは、強力な電撃を放ちながら襲い掛かる。
ソウセイや残りの2人は攻撃が当たらないよう身を屈め、ザウバーとコヨミは慌ててテントから飛び出す。
ヴォルトは体中が帯電しているファントム、迂闊に近づけば危険だ。
ザウバーは舌打ちしながら術式を唱え、遠距離による攻撃を行う。
「――“シャドウエッジ”!」
『…』
「…効いてない…!」
『……その程度の術でファントムを倒せるとは、思わないほうがいい』
「「!」」
上空から聞こえた声に、ザウバーとコヨミはすかさず見上げる。
すると…
そこにいたのは、4本の腕を持つファントム。
その威風堂々とした様子から、かなりの実力を持つファントムであることが分かる。
コヨミはその魔力にぞくりと寒気を覚え、ザウバーは鋭く睨み付けながらファントムに言い放つ。
「…このファントム、今までに会ったのとは全然違う…!」
「……貴様、誰だ?」
『紹介がまだだったな。……我が名は“オリジン”、指輪の魔法使いのいる世界からやって来た…といえば通じるだろうか?』
「私達の世界から!?」
『しかし…新たなファントムの誕生を知って来てみれば、なんとも興味深い。ファントムを生み出した後のゲートが、形を保って動いているとは』
オリジンはふむ、と興味深げな顔をしながらコヨミとザウバーを見ている。
ザウバーはというと鋭い形相をしたまま、オリジンを見据えている…
「……とにかく、敵か」
『そう憤るものでもないだろう。せっかくの男前が台無しだとは思わないか』
「…黙れ」
「……?この地響きは…」
緊迫した状況の中、コヨミは地面から聞こえる音に気付く。
その音は丁度自分達の足元から聞こえ、コヨミとザウバーは急いでその場から離れる…
すると、そこから現れたのは、ドリルリングを使ってここまで穴を掘ってきた、ウィザード・ランドスタイル。
後から穴を通ってミカも現れ、ウィザードRS共々この状況に戸惑っている。
「……え、何でここにファントムが…2体も!?」
「ちょっ、何この空気?私達、瞬平とかユーテキみたいなことやっちゃった!?」
「晴人!」
「…ミカ」
『ほう、役者が揃ったか』
状況が飲み込めないウィザードRSとミカ。
2人の登場に戸惑うコヨミと、呆れるザウバー。
ほくそ笑むように彼らを見ているオリジン…
三者三様の光景が、軍事キャンプ場で展開されていた。
***
序盤から弄られまくっているザウバーェ。
眉間シワ星人、本当なら前回で出したかったんです。
でもまあ…文字数の都合でw
少なくとも今回の話で、ウィザブレには人物紹介が必須だと分かりました←
とりあえず、ゆっくり纏めていくので目を通していただければ。
ちなみに…
お気付きでしょうが、マヨネーズは恐らく最終回まで出ません!
今回はある意味で、アプリ本編でも漫画でも不遇な帝国軍ことミッドノクスの救済。
帝国軍自体は、ミッドノクスという一団がなくても存続は可能なんです。
ミッドノクスは、『帝国軍の中でも精鋭とも言える集団』というだけですので。
ちなみに、今回出てきたモブキャラの名前。
コハク→琥珀、ランド
ヒスイ→翡翠、ハリケーン
ソウセイ→蒼星、ウォーター
シンク→真紅、フレイム
…って流れで決めました。ちなみにソウセイだけなんかおかしいのは、ローゼンメイデンの蒼星石を参照にしたため。
琥珀は色の名前じゃないですが、大体ランドみたいな色なので…
ザウバーの巻き込まれ率クソワロタw
そして、コヨミと結構組みますね…
ちなみに、ザウバー→コヨミ→晴人ということはないので、あしからず。
スピンオフ見てると、割とザウちゃんはコヨミの晴人への好意は気付いてると思う。
じゃなきゃ、鍋にチョコを直接入れて、火をかけて溶かそうとするのを見て止めようとはしないよ…!
あ、ちなみにヴォルトの言葉は「、」とか「…」で区切りながら、言葉を並べ替えてます。
今回の場合は、
「ゴタクハイイ、…タタカエ…アバレサセロ!」ですね。