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タイトル未設定 - Magic16:宿屋にて

📚 目次

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セルシウスとの戦闘を終え、宿屋に戻った晴人達。

どうやらラディス教の巡礼者が多いせいか、宿屋の部屋も満室に近い状態…

ザウバーとコヨミは無事に部屋を取れたのだろうか、気になって宿屋の店主に尋ねてみると、どうやら2人部屋が3つ・3人部屋を1つも取ってくれたらしい。

そんな状態で、よく9人分の部屋が取れたものだとイーヴリンが思っていると、宿屋の店主は両手の指を胸元で組みながら話していた。


「実はお嬢さんが一人、急に倒れたらしく…青い髪の男の方が担いで来られたのです」

「…コヨミが倒れた!?」

「ちょっと、それ本当!?」


店主の言葉に、晴人とユーテキは声を荒げる。

特に晴人は、懸念していた事態が起こってしまったのか…と焦りを募らせ、コヨミのいる部屋の番号を店主に聞いて急いで向かっていた。

その一方で、凛子達はその場に残って店主の話を聞くことに。

どうやらザウバーは、コヨミをここまで担いできた後

『自分は友人達と一緒に、聖地巡礼に来た』

『しかしその途中で突然彼女が倒れ、休ませるために急いで連れてきた』

…と言っていたそうだ。

コヨミの顔は青白く、近くにいた他の宿泊客も随分と心配している様子だったのは、店主も覚えていたという。



「その時、8名の巡礼者団体の方々が…予め取っていた部屋の予約をキャンセルし、倒れたお嬢さんを休ませてあげてほしいと言ってくださったのです。…ほら、そちらのソファに座っている」

「そうなんですか!?」

「あのっ、ありがとうございます!」

「いやいや、いいんだよ。困ったときはお互い様…持ちつ持たれつさ」

「そうね。私達は、別の宿屋を探すわ」


そういって、8名の参拝客はその宿屋を出、瞬平達は何度もお辞儀していた。

こんなにもいい人達がいるなんて…

瞬平や凛子はそう感動していたが、イーヴリンは小声で話す。


(……まあ、ここはラディス教発祥の地、つまりはラディス神の力が一番強い場所でもあるからね。信仰心の高い人達は、よい行いをしてラディス神の祝福を受けたいんだろう)

((あ、あぁー…))

(なんか…それだけは聞きたくなかったです、イヴさん)

「この行いはきっと、ラディスの神もご覧になっていることでしょう」

(((あ、やっぱり)))



店主の言葉に納得しながらも、せっかく空いた部屋を使わないわけにはいかない。

ユーテキと瞬平は2人部屋の1つに隔離するのは確定として、残りはどうやって部屋を分けるか…

コヨミには世話をする人間をつけたほうがいいということで、コヨミと凛子が同じ部屋で寝ることに。

3人部屋はルル・ミカ・イーヴリンで分け、残った2人部屋はザウバーと晴人という風に決まっていった。

店主から鍵を貰い、それぞれの部屋に向かう途中で…未だ暗い顔のミカに、凛子が声を掛けていた。


「…ミカちゃん、本当に大丈夫?」

「凛子。大丈夫……とは、言い切れないかな。正直、結構ショックだった」

「…お兄さん、生きているって思っていたのにね…だけど、……まさかファントムを生み出していたなんて…」

「うん…正直、お兄ちゃんのファントムと戦って…勝てる自信はない。だけど」

「だけど?」

「……何としても、止めないと。そうじゃないと、お兄ちゃんが報われないよ」

「…ミカちゃん…」


ミカの表情を見た凛子は、何とも言えない表情を見せる。

…悲しみを必死で抑えている

それは近くにいたルルやイーヴリンにも見透かされており、特にルルは詳しい事情を知らないながらも、ミカにとって辛いことが起きているというのは理解したようだ。

同時に、――ミカの大事な家族を利用するオリジンへの怒りが、こみ上げてきていた。




晴人はコヨミが眠っている部屋に、急いで向かっていた。

セルシウスとの戦闘のダメージが大きいが、そんなことは言っていられない。

どこだ、と彼が内心焦りながら部屋を探していると、ある部屋の前にザウバーが立っていた。


「ザウバー!…コヨミの様子は…」

「今はゆっくり寝ている。……どうやら、ここまで歩き通しだったから…疲れていたようだな」

「…よかった…魔力が切れて、動けなくなっていたらどうなることかと……」

「……どういうことだ?」


眉を吊り上げながら、ザウバーが訊ねる。

そういえばこの世界に来てから色々あったせいか、コヨミの体のことはまだ誰にも話していなかった。

イーヴリンやルルには多少噛み砕いて話していたが…それでも、彼女の踏み入った話には触れていない。

コヨミ自身、あまり話したくないことでもあるし…そんな彼女の気持ちを察してか、晴人も聞かれなければ答えることはなかった。

とにかく実際に見てもらったほうが分かるだろうということで、晴人はザウバーを連れ、コヨミの部屋に入っていた。

丁度彼女も目を覚ましたようで、晴人は近くにあった椅子に座りながら、彼女の右手に触れる。


「……晴人…?」

「大丈夫か、コヨミ?…倒れたって聞いて、心配したんだぞ」

「ごめんなさい、晴人…。私、晴人の負担になりたくなくて、魔力を分けてもらうのを避けてた……でも、私が無理をして倒れるほうが負担になるって、言われて分かった」

「コヨミ。……とりあえず、やっとくか」

<プリーズ、プリーズ>



晴人はそう言うと、自身の中に残っている魔力をコヨミに分け与えるべく、彼女の右手に填められた“プリーズ”リングをウィザードライバーに翳す。

すると、ウィザードライバーを介して晴人の魔力がコヨミに注がれ、コヨミの顔色がよくなる。

それを見たザウバーは目を見開き、晴人も説明をしようとするが…

その前にコヨミが、自分から話していた。


「……私はね、晴人から魔力を貰わないと…生きられないの」

「コヨミ…」

「それは…つまり、……この間のファントムが言っていた…【人形】と言う言葉と、関係があるのか?」

「そうね。――私は…ある儀式でファントムを生み出して、死ぬはずだったゲート……だけど私は、何故か記憶のない状態で体が残った」

「ファントムはゲートから生まれる際、ゲートの姿と記憶を奪い取る…って言ったほうが近いのかな。とにかく、コヨミの体は……抜け殻みたいなものなんだ」

「……」


抜け殻、と言う言葉にザウバーは暫く口を閉ざして考えていた。

「まあ無理もないか」と思いながらも、晴人はコヨミを見ている…

コヨミは基本的に、積極的に自分から話すタイプではない。それが自分の体に関係することなら、尚更。

しかし、彼女自身…瞬平や凛子と出会って感じるものがあったのだろうか、徐々に素直になりつつある。

…ひょっとすれば、『ザウバーになら話してもいい』という気持ちがあるのかもしれないが…それはそれで、どうしてなのだろうと言う疑問が浮かぶ。

が、それもコヨミ自身がすぐに説明することで、疑問が氷解していた。



「晴人、私…キルベルト公爵の屋敷で一回、ザウバーの手を掴んだ。だから……彼は私の手が冷たいことを、知ってるはず」

「!……成程、だったら…黙りっ放しってわけにも、いかないよな」

「…とにかく、男二人がずっといても色々と都合が悪いだろう。後のことはコヨミと一緒に寝る奴に任せて、俺達は部屋を出るぞ」


ザウバーの言葉に「それもそうか」と納得した様子で、晴人は彼と一緒に部屋を出ていた。

そんな二人の背中を見送りながら、コヨミは天井を見上げ、考えている。






〜〜〜






ミカは部屋で1人、考えていた。

まだ、色々と考えの整理できない部分があるのだろう。

…それもそうだ、実の兄の死亡が確定しただけでなく、ファントムを生み出していたのだから。

――アレはお兄ちゃんとはまったく違う

――何としても止めないと

気持ちは固まってはいるのだが、次にセルシウスを前にした時、戦えるのかと言われれば…

ルルとイーヴリンも気を使ってか、部屋を出る。恐らく、凛子とコヨミの部屋に向かっているだろう。


「……やっぱり、未だに信じられないよ…、お兄ちゃん……」


まだ物心のついていなかった頃だったせいか、兄と過ごした記憶はおぼろげなものだ。

だが、セルシウスの人間体を見て…更にそれが、11年前に彼を生み出して死んだ兄だったと知って、断片的にではあるが兄との記憶が甦りつつあった。

おてんばでヤンチャ盛りのミカは、いつも家の中や外を走り回っては転び…

そのたびに泣いては、兄がやってきて、「気をつけないと駄目だろ」と軽く叱りながらも小さい彼女を背中に抱えてくれていたのだ。

兄は基本的にはいつも両親の研究を見学することが多く、二人が忙しいときはその邪魔をしないよう、ミカと一緒に遊んでいたほど…

時々、祖父のタルムードと共にクラウスの家に遊びに行ったこともある。

優しくて、真面目で、少し照れ屋な兄…

少しずつ思い出せば思い出すほど、セルシウスの姿が重なり、ミカは頭を抱える。




「…ミカ、いるか?」


扉の向こうから声を掛けたのは、晴人だ。

どうやら途中で凛子に出会い、ミカの部屋の場所を教えてもらったらしい。

ちなみに凛子とザウバーは今、ルルやイーヴリンと一緒に…瞬平とユーテキの部屋にいるそうだ。

ミカは「鍵開いてるから入っていいよ」と扉の向こうの晴人に告げると、晴人は部屋に入り、近くにあった椅子に座る。

そして、互いにどう切り出していいか分からず、暫く時間が流れ…

意を決して晴人が尋ねようとする前に、ミカが尋ねていた。


「あのさ、ミカ」

「…晴人って、最初にセルシウスの人間の姿を見たとき…すぐに分かったって、オリジンが言っていたよね。なんで?」

「……そのことなら…俺、実は前にウェルテクス屋敷で…ミカのお兄さんが唯一写っている写真を見ていたんだ。それとまったく瓜二つの姿だったから……まさか、って」

「そう…なんだ。――私さ、レヴィーやベッグフォードさんからお兄ちゃんが生きているかもしれない、って聞いたとき…凄く嬉しかった」

「…」

「でも、…それと同時に気付くべきだったよね。もしかしたらお兄ちゃんは、ファントムの可能性もあるって。ファントムとして立ちはだかるかもしれないって」


無理もない、と思いながら、晴人はミカを見ていた。

誰だって…死んだはずの大事な家族が生きていると知ったら、希望を抱く。

晴人も両親を事故で失っているのなら、尚更。

ミカの兄がファントムである可能性をなかなか言い出せなかったのも、本当にそうであるか分からない状況で…「家族が生きている」と聞いて喜んでいるミカを悲しませるようなことが、できなかったからだ。



「……なんか、ごめんね。心配掛けさせちゃって」

「いや、別に」

「思えば、こうやってゆっくりと振り返る暇がなくて…今まで気付かなかったけど、私、晴人達のこと結構振り回してるよね」

「そうでもないさ。……たぶん、俺達がこの世界に来たのは…この世界の水面下で動いているファントムを、倒すためなんだって今なら思える」

「晴人」


晴人は指のフレイムウィザードリングを見ながら、話を続ける。

ずっと考えていた。

何故自分達は、“ワールドムーブ”リングでこの世界に来たのか。

…その目的はただ一つ、【ルキナで暗躍するファントムを倒すため】

そのためには、ファントムとの関係性が強いリーリエリヒト帝国との衝突は、避けられない…

帝国ミサの場での事件があってもなくても、いずれミカ達とは一緒に行動する運命だったのだ。

今なら、そう思える。


「ファントムは確実に帝国との繋がりがある。……そして、ウェルテクス一族が死んだ原因も…帝国の中にある」

「…」

「目的は違うけど“帝国”という目標は一緒なんだ、一緒に旅をして当然だと思うし…それに何より、俺達は巻き込まれたなんて思っちゃいないよ」

「……ありがとう、晴人」

「それから、ミカ。…あんまり無理する必要はないんだからな、お前には、俺達がついてる」


その言葉に、ミカは嬉しくなったのか…目に涙を溜めながらも、小さく頷いていた。

…そうだ

…自分は1人じゃない

…皆がいてくれる、同じ目的を持って傍にいてくれる、仲間が

目を強く擦り、涙をぬぐうと……ミカは満面の笑みで、「うん」と言っていた。





――その頃、瞬平とユーテキの部屋。

そこでは、壮絶なカオスが巻き起こっていた…

原因は、瞬平が言い出したこの一言


「皆で何かゲームをしません?」


…から始まった、【換装!亜種ゲーム】だ。

亜種ゲーム…久し振りのために説明をするが、【どたばた!オーズ兄弟】から登場した頭脳ゲームのこと。

仮面ライダーオーズには100を越える亜種フォーム+コンボがあり、その中の亜種115(タトバ含む)+コンボ5つを使って行われる。

例えば最初の人間が「タカキリゾ」とコールした場合、次の人間はカマキリとゾウの部分を1つずつ繰り上げ、「ガタゴリ○」という風に、○の部分をコンドル・バッタ・チーター・ゾウ・タコの中から選ぶ。

この例で続けるならば、タカキリゾ→タカゴリーター→サトラタ→ラウバ→シャキリドル…という具合に。

勿論、途中でタジャドル・ガタキリバ・ラトラーター・サゴーゾ・シャウタの5コンボのいずれかを言って、いったんリセットすることも可能。

その場合は、シャキリドル→タジャドル→タカジャバ→…という風になるのだ。

尚、万が一にでも120種類総てをいえれば「プトティラ」と宣言し、また最初から始める。



順番は、瞬平→ユーテキ→イーヴリン→ザウバー→ルル→凛子の順。

尚、罰ゲームは………変顔の披露。


「サキリドル!」

「ガタジャーター!」

「タカトラーター」

「ラトラドル」

「ラジャバ!」

「タカキリドル!」

「ガタジャゾ!」

「タカゴリタ!」

「サウバ」

「シャキリタ」

「ガタウタ!」

「シャウバ!」

「シャキリゾ!?」

「えーと…ガタゴリバ」

「ラトラーター!」

「ラトラバ」

「ラキリー…ター?」

「…ガタウーター」

「シャトラーター…?」

「ラトラゾ!」

「ラゴリドル」

「シャウタ」

「シャウドル」

「…シャジャバ」

「タカ…キリ…ゾ?」

「ガタゴリタ」

「サウタ」

「シャウゾ」

「シャゴリバ?」

「サキリバ!」

「ガタキリーター!」

「ガタトラタ」

「ラウゾ…?」

「シャゴリタ」

「サウドル!」

「シャジャーター!」

「タカキリゾ………あっ」


35亜種2コンボも続いた時点で、瞬平…アウト。

罰ゲームは当然彼となり、凛子達は大喜び………特にザウバー辺りが、内心でガッツポーズする始末。

くうう、と悔しがりながらも、瞬平は約束どおりの変顔を披露




―――した瞬間に、ミカと晴人、ついでに体調がよくなったコヨミもやってきたため、3人にも変顔を露見される始末だった。


「皆、心配………してなさそうね、特に瞬平」

「…瞬平、お前、何してんの?」

「誰と変顔で勝負してるの…ユーテキと?」

「ふぁ、ふぁるほはん」

「いいから変顔戻せよ。……本当に、何してたの凛子ちゃん…?」


状況がいまいち飲み込めない晴人達に、凛子が説明をする。

そして…

話を聞いていた晴人は、ミカやコヨミの気分転換になればと、亜種ゲームの参加を促す。


「だったら、ミカやコヨミもやればいいんじゃないか?亜種ゲームでもやれば、気分が変わるかも」

「うーん…負けたら変顔以外なら、やってもいいかな」

「だったら……負けたら、一発ギャグっていうのは?」

「それもどうかと!?」

「よーし、ルル、絶対負けないの!」


ユーテキが「負ければ一発ギャグ」の空気にツッコミを入れつつも、もはや全員乗り気

…ちなみにザウバーは、嫌がっているのに帰してもらえない組。

――こいつらまさか、遠足気分じゃないだろうな…?

そんなことを思いながらもちゃんと付き合ってくれる辺り、いい人なのだろうか。

順番も新たに、ミカ→晴人→ユーテキ→コヨミ→イーヴリン→瞬平→ザウバー→凛子→ルル…という順だ。




「タカキリゾ!」

「ガタゴリバ」

「サキリタ!」

「ガタウバ…」

「シャキリドル」

「ガタジャバ!」

「タカキリドル」

「ガタジャーター!」

「タトバ!」

「ラ…ラキリバ!」

「サゴーゾ」

「…サゴリバ?」

「サキリドル」

「ガタジャゾ」

「タカゴリゾ!?」

「サゴリタ」

「サウバ」

「シャキリーター!」

「ガタトラーター!」

「ラトラバ」

「タジャドル!」

「タカジャーター」

「タカトラタ」

「ラウタ!」

「シャウーター」

「シャトラタ」

「ラウドル!」

「シャジャバ」

「タカキリバ」

「ガタキリタ」

「ガタウバ……あっ」



29亜種2コンボ続いたところで、コヨミが罰ゲーム。

やはり、言いだしっぺが負ける法則なのか…

――あのコヨミが一発ギャグなんて、できるのだろうか

晴人と凛子がハラハラとしながら見守りつつも、コヨミは立ち上がり、一発ギャグを披露していた。

その内容とは、近くにいたユーテキの2本のアホ毛…というか跳ねっ毛を掴み、それをラジコンの操縦桿のように動かし始める。


「……スタンバイOK…発進!フビンナーY!!」

「ガーガーガーピピピ、ハッシンシマス。ハッシンシマス……って何で僕使うの!?フビンナーYって何!!?」

「…ぷっくくく…!」

「くすっ…」

「わー!ユーちゃん面白いのー!!」

「むしろ、そのままコヨミに操縦してもらったほうが強いんじゃないのか」


コヨミの、ユーテキをも巻き込んだ一発ギャグに…爆笑とまでは行かなかったが、周囲は笑っている。

しかしあのユーテキ、いや、フビンナーY、ノリノリであった。

特にザウバーの一言にユーテキはorz…と落ち込み、晴人や凛子も腹を抱えて笑い始めている。

弄ばれたユーテキはムスッとした顔をしながらも、ミカが楽しそうに笑っているのを見ると、何とも言えなくなっていた…






〜〜〜






翌日…




セルシウスもオリジンもここに待ち構えていた以上、帝国の増援が来るかもしれない。

そう思った晴人達は、朝早くから早速大聖堂の奥にある“ラディウスの聖窟”に向かっていた。

イーヴリンは昨晩のうちにある程度情報を集めていたらしく、それによると、聖海騎士団はラディウスの聖窟の奥地にオリジナルJMを集めているそうだ。

ラディウスの聖窟は信仰心の深い人間しか立ち入ることはできず、奥にはリーリエリヒト帝国にある大聖堂のシンボルストーンが飾られているモニュメントと同じものが掛けられてある。

当然、「信仰心の深い人間」しか立ち入れない以上、中に入るには合言葉に近い…祈りの儀が必要なはず。

凛子はイーヴリンに訊ねるが、彼女も流石に分からないそうだ。


「…祈りの言葉だけじゃなく、動作も必要だって聞くからね。一発でやらないと、怪しまれるよ」

「そうよね…せめて、それが分かればいいんだけど」


そんなことを話しながら大聖堂の中に入ると、聖堂にいる神父達は赤いローブを纏った人間にお辞儀をする姿が見える。

その姿に見覚えのあった晴人や凛子は、「あ」と声を上げる。


「あいつ、確か帝国ミサの場にいた…」

「確か、ユディーヌ審問官……だったわね」

「…あいつが…」


そうそう、と納得するミカやユーテキの横で、ユディーヌ審問官を見て目を細めるザウバー。

しかし、万が一ユディーヌが近くを通れば、帝国ミサの場で直接騒ぎを起こし…確実に顔を覚えられているミカとユーテキは危ない。

晴人達は…もしかすれば配下の特務機関Gによって情報が知られている可能性もあるが、何もしなければ一般人と大差ない……晴人は指輪さえ見せなければ、何とかなるだろう。

顔を割られていないザウバーやルル、イーヴリンに晴人の後ろに隠れながら、ミカとユーテキは様子を伺う…

ユディーヌ審問官はこちら側にやってきて、流石に「ばれたか」と誰もが内心驚いていたが……ユディーヌ審問官は彼らの横を素通りする。



その際、ユディーヌ審問官はハンカチを落とし、それに気付いたルルが拾い上げてユディーヌに渡そうと声を掛ける。

「ルル」とミカは叫ぼうとしたが、そんな彼女の口をユーテキが慌てて押さえ、凛子と瞬平も彼女達の騒ぎが見えないよう体で隠す。


「ねぇ、これ落としたよ?」

「…ありがとう。君は……ここに祈りを捧げに来たのか?」

「うん!ルル達、水…」

「わー!わー!!」


水源JM、と言いかけたルルの言葉を遮るかのように、晴人が慌てて声をあげる。

そんな彼の態度にユディーヌは首を傾げていると、晴人は詳しい話をルルの代わりに行う。

…ちなみに、ドライバーオンリングとフレイムウィザードリングは、予めコヨミに預けているため、その両手に指輪はない。


「……ゴホン。実は俺達、ラディス教の巡礼をしている最中なんだ」

「そうか。見たところ、異国人のようだが」

「異国の人間がラディス教を崇拝してはいけない、という理由は?」

「…ないな。ラディスの神は総ての者に平等……そう、イシュトヴァーン様は仰られている」

「そうだ、ところで俺達、ラディウスの聖窟で身を清めたいと思っているんだけど…祈りの儀の方法が分からなくて。よかったら、教えてくれないか」


――よりにもよって、ユディーヌ審問官に直接聞くなんて

イーヴリンやユーテキ、ザウバーは晴人の大胆不敵さに内心驚く。

しかし、ユディーヌは暫く考えた後、祈りの儀について説明をしていた。




「君の言う祈りの儀は…正式には、【聖なる祈り】と言う。まずは両手を合わせて目を閉じ、その地に跪く…その後に、『清き蒼い御心の元に、あなたの教えを守りここに聖なる祈りを捧げます』と祈りの言葉を捧げるのだ」

「成程…手を合わせて、目を閉じて、地面に跪いて…祈りの言葉。それでいいのか?」

「ああ。それでは、君達にラディスの加護があらんことを」


そう告げると、ユディーヌはその場から去っていく。

晴人は凛子のほうに目を向けると、彼女はメモ帳にしっかりと祈りの言葉をメモしていた。

これで、ラディウスの聖窟に入ることができる…

彼らがそう思っていると、先程ユディーヌと話していた神父がルルに声を掛ける。


「そこの少女、良き行いをしましたね。あなたには、ラディスの神のご加護が必ずあることでしょう」

「ねえ、さっきの女の人凄くいい人だね!ルル達に、色々教えてくれたもん!!」

「ははは。あの方は女性ではありませんよ、それに、女神崇拝を禁じるラディス教において…審問官だけでなく、その他の重役に女性が就くことなどありえません」

「そうなの?顔しか見えなかったけど、銀色の瞳の…凄く綺麗な人だったのになぁ」


銀色の瞳、と聞いてイーヴリンは顔を顰める。

ルルの言葉が気になった彼女は、晴人とルルに尋ねる。


「……銀色の瞳?それは本当なのか」

「うん!ルル、フード越しだったけど…見たよ!!」

「ああ、俺も。…どうしたんだ?」

「いや、何でも。……それより、さっさと聖窟に行こうじゃないか」


そう言いながらイーヴリンは先陣を切って歩き出し、その後をミカとユーテキが追いかける。

彼女の態度に疑問を感じながらも、晴人もルルも最後尾から追うように歩き出していた…



その頃。

聖堂を出たユディーヌは、後ろに聳える白く美しい聖堂を見ながら…フッと笑っていた。


「…あれが指輪の魔法使いと、その仲間達……成程、グラント達から聞いていた通りの出で立ちだ」


ユディーヌは、特務機関Gから晴人の特徴を聞いていて…その上で、聖なる祈りを捧げるための順序を教えていた。

少なくとも、今この場でユディーヌ1人で晴人達を捕らえることは不可能。…ミカに不思議な力があるのなら、尚更だ。

あの時点で戦いを挑めば、聖窟の奥地で待機している聖海騎士団にも騒ぎが伝わり、結果的に手柄を横取りされかねない。

彼らがここで何をするつもりかは知らないが、イシュトヴァーン皇帝の信頼が厚いのを利用して顔を利かせてきている聖海騎士団を引っ掻き回してくれるのなら、それでもよかったのだ。

…それに、自分がラディス教の審問官・ユディーヌと知った上で、堂々と聖なる祈りについて聞き出そうとした晴人の大胆さに、感心する部分もあったらしい。


「この聖地で何をするつもりかは分からないが、聖海騎士団にとってはいい薬になるかもしれないな」






***




基本的にギャグを目指そうとした回。

その結果が亜種ゲームだよ!


※ザウバーは今回、コヨミの件に関してわざととぼけています

主に魔力切れで動かなくなる部分に関して、ですが。

そういえばコヨミの体の話って、ウィザブレではあんまり詳しくやってないんですよねw

そういう説明回も兼ねて、前回・今回の流れがあります。

ちなみに…

5話で晴人がウェルテクス屋敷でアルバムを見たのも、セルシウスへのフラグでもありました。



ミカ…

まあ当然、気にしちゃいますよね。

あの状況でスバッと割り切れるのはオオスバメぐらいだ、気にすんな←

そして亜種ゲームをする瞬平達w

ここでも出るか亜種ゲーム!

むしろ久し振りだぞ亜種ゲーム!!

相変わらず不憫だな瞬平とユーテキ!!!


ちなみに、誰がどのタイミングで間違えるのかは作者にも分からないので…大抵はコヨミのように想定外なパターンになります。

…まあ、それを利用してユーテキを弄ったので、結果オーライですがw

ユディーヌ審問官とも、戦闘にはなりませんでしたが…顔を見せあうことにはなりましたね。

しかしユディーヌさん、したたかw




次回は…

あの人に絶大なフラグが!!