ルシーラ公爵の話を元に、アムニスフィールドのエネルギーをコントロールすると言う施設に訪れていた晴人達。
研究所は随分と寂れており、古さを感じられる。
本当にこんな場所に、皇帝が潜伏しているのか。
そもそも、この施設の機能は正常に動いているのだろうか…
そんなことを思いつつも、晴人は激しい戦いになることを予想してか、ソウセイを始めとした非戦闘員をルシーラ公爵邸に戻るように話す。
「……とりあえず、イシュトヴァーンやオリジンがいるのは間違いないんだ。ソウセイ達は、ルシーラ公爵のところで待っていたほうがいい」
「ですが…」
「ここまで来て、黙って帰るわけにも行かないわよ!あの皇帝には、文句を言ってやらないと!!」
「危険なことなんて、この旅の中で何度もあったじゃない。……お願い晴人、私達も最後まで一緒にいたい」
「そ、そうですよ!今更水臭いじゃないですか!?」
「お前ら…、……分かった。だけど気をつけろよ、一応バーガーやルルに皆のことを頼んでおくけど…オリジンは空間転移を使えるって事、忘れないでいてくれ」
オリジンの能力。
この世界に異世界のファントムが入り込んだことから、空間を自由に行き来するだけではない…
世界と世界の垣根を越えることも、できるのだろう。
そうして、この世界で増やしたファントムを、晴人達のいた世界に放出して一気に絶望に陥れる。
…しかし、ここでユーテキに疑問が浮かんだ。
「でも、確かオリジンって…この世界でファントムを増やして、晴人さん達の世界を支配しようとしているんだよね?」
「まあ、そうなんだろうな。ファントムを増やせば、あいつらの親玉は喜ぶわけだし」
「……だけど…行く先々で偶然そうなったにしても、僕達がファントムを倒して…最終的にはオリジン一人なんだよね。――それって…増やす意味あるのかな?」
「…確かに…」
「考えなしにファントム使ったからそうなったんじゃないの?」
「そうとも言い切れないよ、ミカ。――もしかすればオリジンには、人工ファントムとも違う…【切札】のようなファントムがいるのかもしれないね」
『増やすはずのファントムを減らして、意味があるのだろうか』
ユーテキの意見には、ザウバー達も頷くばかり。
ミカはオリジンの失策ではないかと疑うが、イーヴリンがすぐにそれを否定する。
【切札】…
もし本当にそのようなファントムがいるのならば、それによっては大惨事になりかねない。
しかしそれを使ってこない辺り、今はまだそれが誕生していないのか…それとも【切札】はオリジンが自由に制御できないのか。
いずれにしても警戒するに越したことはないだろう。
「とにかく、今は皇帝を捕まえるのが先だ。――行くぞ!」
「「「おおっ!」」」
「そうだね。それに、この施設を悪用されるとちょっと困るから」
…
……
………
暫く沈黙が続き、晴人達は最後に発言した者を見る。
そこにいたのは――幽霊扱いに定評のある、サウルだ。
当然晴人達は絶叫するようにツッコミを入れ、初めてサウルと出会うことになるソウセイは純粋に驚いていた。
「やあ?」
「「「くっそおおおおおおおおおやっぱりお前かあああああああああああああ!!!」」」
「「「神出鬼没すぎィィィィィィィィィィ!!?」」」
「えっ、…え…いつの間に!?」
「…まったく酷いね。回を追うごとに、僕を見た時の反応が酷くなってないかな」
サウルは溜息混じりに眼鏡を整えながら、言い放つ。
その左目には、例の如く眼帯…
本当に神出鬼没すぎるサウルに肩を落としながらも、ユーテキは彼に尋ねていた。
「でも、サウルさんがここにいるってことは…ここはウェルテクスと関係があるの?」
「「「あっ、そうか!」」」
「いや?――でも、ウェルテクス一族が度々ここに足を踏み入れて…アムニスフィールドのエネルギーの様子を観測していたようだよ」
「いや、それ、…『関係ある』って言うもんだぜ…?」
バーガーが呆れながらも、研究所を見る。
…しかし、ウェルテクス一族が訪れることがあったとはいえ、研究所の外観は古い。
まるで、100年か…もしくはそれ以上経っているかのように。
だが中から聞こえてくる機械音は正常に機能しているようで、古いのは外観だけなのだろう。
サウルは暫く考えた後、ミカ達に暫く同行しても言いか尋ねる。
「――そうだ。僕もちょうど、この研究所を調べたかったんだよ。よかったら、途中まで一緒にいていいかな」
「えっ、それは…いいけど」
「俺達はこれから、皇帝を捕まえないといけないんだ。…あんまり、あんたに構っている暇はないんだぞ?」
「構わないよ。僕は僕で自由にやるから、あまり気にしないで」
「「「いや、気になるよ色んな意味で…」」」
…本当に、何をしに来たんだこいつ
…むしろ、一緒に連れて行って大丈夫なのか?
そうは思いながらも、サウルは既にその気のようで、晴人達は仕方なく彼の同行を許していた。
〜〜〜
研究所の中に入ると、機械は最新式のものから旧型まで様々なものが存在していた。
ユーテキは当然目を輝かせ、触れようとする前にミカが耳を引っ張る…
中に警備や敵はいないようで、このまますんなり通ることもできるだろう。
…と思ったのもつかの間、次の階層に行くための階段やエレベーターらしきものが見つからない。
「どうしたもんだか」と晴人が頭を抱え、ユーテキも壁の奥に通路がないか調べ始める。
そうしていると、ソウセイがサウルにあることを尋ねていた。
「…あの、少し聞いてもいいですか?」
「何だい?」
「サウルさんはウェルテクス一族について調べているんですよね」
「そうだけど、それが?」
「……俺の気のせいならそれでいいんです。でも、サウルさんはザウバーさんに似ている気がして」
ソウセイの言葉に、サウルは驚いたように目を見開く。
しかし、表情全体で見ればあまり驚いてはいないようにも見える…むしろ、「興味」が強いようにも思える。
「オッドアイの彼と?――世の中には顔のよく似た人間が3人いる、と言う迷信めいた話があるわけだけど、もしかしたらその一種なのかもしれないね。それに人間は様々な異なる遺伝子と交わりあって生まれ、更に次の世代に子孫を残すために別の遺伝子の持ち主と交配する…その過程で」
「遺伝子レベルの話ではなくて。何と言えばいいのか…確かに顔は似てないと思います」
「うん、似てないね?」
「だけど、――腕を隠すほどの手袋をしている所とか、何かを隠すような眼帯とか、……その眼帯…目を怪我している、というわけではないんですよね?」
「…。もし仮に、僕が彼に似ているとして。それで君はどうするんだい?単なる知的好奇心の解消にも」
「ならないと思います。でも、何となく聞いておかないといけない気がして」
長話をされる前に一刀両断する、ソウセイ。
そんな彼に調子を崩されながらも、サウルが目を向けた先にいたのは…
見事隠し扉を見つけたはいいものの、スイッチを押した体勢が悪かったのか…階段から転げ落ちるユーテキと瞬平の姿。
「何やってんの」とミカ達は叫び、急いでその先に渡る。
ソウセイも慌ててその後を追いかけようとするが、サウルが一人、別の場所に向かっていることに気付き…そちらのほうに走り出す。
サウルの進んだ先にあったのは、通路の中にぽつんと置かれた本棚。
「これは…」
「君はこんな場所にある本棚を見て、どう思う?」
「…怪しいです、物凄く」
「けど、なかなか気付かない場所にあるから誰も気に留めない。本の中に混じっているスイッチを押すことで、本棚が動いて道が開ける…ってスペースもないしね」
確かに。
ソウセイは頷きながら、本棚を見る。
本棚は通路にぴったりの大きさで、これでは定番の【スイッチを押したら本棚が動く】ができない。
…しかし、よくよく本棚を見てみれば、一番下の段は大人が一人分は入れそうな大きさ。当然、積んである本の大きさではスペースが空きすぎている。
そして、微かに聞こえる機械の音…空気の音。
ソウセイは一番下の本棚にある本を強引に取り払うと、一番下の本棚だけが背面の木の板がなく、更にその先にある通路に入れることに気付く。
「…これは!」
「大正解。君、結構頭回るんだね」
「これ…晴人さん達に伝えたほうが、いいような」
「いいよ。彼らには、彼らの事情がある…どうせ皇帝はこの先にはいないだろうし、話したいなら後で君が話せばいいじゃないか」
「……はあ」
ソウセイとサウルは本棚を潜り抜け、その先の通路を渡る。
その先にあったのは…
古い機械ばかりが並ぶ、異質な空間だった。
「ここは、【エミルビス塔】という…かつてアムニスフィールドを作った研究者集団【ステイア】の、研究施設の防壁のコントロールルームなんだ」
「エミルビス塔…防壁のコントロールルーム……?……【ステイア】…??」
「そう。で、これの電源を落としてしまえば、」
「あ、ちょっと!?」
勝手に機械を弄ろうとするサウルを見て、ソウセイは叫ぶ。
しかし、止めようとしても既に遅く…
サウルは防壁システムを解除してしまった後だった。
『…システム停止シマス』
「いいんですか、勝手にこんなことして…」
「君達はウェルテクスの真実について調べている。――どうしてウェルテクス一族が作られたのか、何故ミカという少女が聖獣になれるのか、【ステイア】とは何か…それを知るための総ての情報が、エミルビス塔にはある」
「…!」
「エミルビス塔は、言ってみれば巨大な研究施設さ。孤島のね。君は興味ないのかい、アムニスフィールドを作るほどの研究者達が、どんな場所でそれを作り上げたか…それ以前に、この世界の中に隠された大きな謎を……知りたくはない?」
そう話すサウルの笑顔は、どこか怖かった。
…知りたくないと言えば、嘘になる。
ソウセイも、晴人達がウェルテクスについての話を纏めているのを又聞きする程度だったが、それでも疑問に思っていた。
アムニスフィールドを作るほどの技術…
ミカとアムニスフィールドの関係…
ウェルテクス一族は何故作られたのか…
「……確かに知りたいです。でも、それを俺以上に知りたいのは…ミカちゃん達だ」
「そうだね。――ならば、彼女達と行けばいい…ウェルテクスの……【ステイア】の真実を」
「あの、…先程から言うステイアは…アムニスフィールドを作った研究者の総称、でいいんですよね」
「そうだけど?」
「それほど凄い技術を持ちながら、彼らの技術は何一つ表舞台に出てきていない…俺はウェルテクス一族が大々的に技術を伝えることでカモフラージュしていると思ったこともあるけど、たぶん……もう1つの予想のほうが当たっていそうなんです」
「もう1つ?」
「……誰の目にもつかない場所に隠して、研究成果を外部に漏らさないようにした」
ソウセイは、アムニスフィールドを作るほどの研究者達の研究内容がどうして外部に浸透していないのか理由を考えた。
1つは、ウェルテクス一族が表立って研究成果を公表することで、他の研究者達のそれを隠していた。
…しかし前に聞いた話が正しければ、ウェルテクス一族も初代から3代目まではツァールハイト大陸にある屋敷で隠居しており、4代目ぐらいからその研究を外に広め始めたとのこと。
『研究を外に広める危険性』が薄れたと言えばそれまでだが、どうも腑に落ちない。
初代が亡くなった後だとしても、2代目・3代目が止めたりするはずだ。それをしなかったということは、――ウェルテクス一族は【ステイア】の研究成果を護るためのカモフラージュではない。
そしてもう1つは、――【ステイア】の研究成果自体を何処かに隠したか――
「俺は最初、海に捨てたんだと思いました。そうすれば、海の底を探索するほどの技術が進まなければ知られることはない…でもここに来て、“防壁”という話を聞いて…分かったんです」
「……」
「【ステイア】の研究成果は、そのエミルビス塔に保管されている。外部からの進入を許さない防壁を使って、ずっと隠されて来ていた……今、この時までは」
「どうやら君は、その場所に心当たりがあるみたいだね?」
「ええ、――それらしき場所を見たことがありますから。だけど、尚更どうしてそんなことを…オリジンがいる状況でそれを解放したら、それを利用される可能性が!」
「……しかし、それでは君達の知りたがるウェルテクスの真実が一生分からない。【ステイア】の生まれた意味も、彼らの想いもね」
サウルはそう言いながら、眼帯を外す。
すると、そこから現れたのは…蒼い海の対比となる、紅き炎の色。
「その目は…!」
「君の言うとおり、僕は彼に似ている。――いや、彼が似ているというべきなのか…」
「どういうことですか?」
「彼の紅い目も、ウェルテクスの紋章も、初代ウェルテクス一族の男から…長い時を経て隔世遺伝したものだ。恐らくファントムを拒絶しようとして、覚醒してしまったんだろう……これまでウェルテクス一族に、初代以外の男は生まれなかったからね」
その言葉を聞いたソウセイは、大体の察しがついていた。
――サウルは、その初代ウェルテクス一族の男…だと。
しかし、その一方で分からないことがある。
“初代”というからには、自分よりも遥か昔の人間のはずだ。それなのに、サウルはこうして生きている。
それも、若い姿で。
そうしていると、サウルは皮肉めいた顔をしながら、話していた。
「アンドロイド、って知ってるかな…知らないよね。まあ、簡単に言うと…人造人間だ」
「人によって造られた人間、……ですか…」
「僕は初代ウェルテクス一族の記憶を複写(コピー)した状態で、目覚めの時を待っていた。“彼女”を寂しくさせないために……だけど、残念ながら僕が目を覚ました時には、彼女はもう死んでいたんだ」
「……心中お察しします」
「人造人間の寿命は分からないけど…僕は【ステイア】の技術ではなく、初代ウェルテクス一族単独の技術で作られたから、そんなに長く持たないと思うよ」
『彼、そっち専門じゃなかったからね』
そう話すサウルの手の動きが、鈍い。
もはや体の限界なのだろう。だからこそ、誰にでもいいからある程度の真実を話して…総ての真実が眠るエミルビス塔への道を示した。
ソウセイがいなければ、恐らくはザウバーに総てを話すつもりだったのだろう。
…初代ウェルテクス一族であるサウルの、血と力を継ぐ彼に…
「もしも専門の人の技術だったら、どうなっていたんですか?」
「まだ生きられた可能性は…あるかもしれない。でも、【ステイア】の作り出したアンドロイドは…人に解け込むための学習機能がついている。だから、どこかで人間の生命サイクルを学んで死を迎えることができる。……当然、子作りもできるだろうね」
「…そんなアンドロイドが…、……可能なんですか!?」
「そういう『ありえない』を『できる』のが、【ステイア】だった」
「…、……じゃあ、世界のどこかで……そのアンドロイドが生きている可能性も…?」
「あるんじゃないかな。僕はよく分からないけど」
そう笑顔で話すサウルだが、――この数十分で学んだソウセイの彼の印象は【すぐ誤魔化す】
話は総て真実なのだろうが、…やはりどこかで適当に誤魔化しているのだ。
なので、ソウセイは『生きてるんだな』と思いつつ、サウルに尋ねた。
「…これからどうするんですか?」
「さあ。どうすればいいんだろうね、僕」
「……」
「まあ、好きなようにやってみるよ。幸い、まだ時間はあるしね」
〜〜〜
階段から転げ落ちるユーテキと瞬平を追いかけ、階段を下りた晴人達。
その途中、ソウセイとサウルがいないことにミカが気付くが、警備ロボも敵の姿もない1階にいるのなら安心だろうと思っていた。
そして…
そのまま階段を下りると、その先には、イシュトヴァーンが立っていた。
「……来たか」
「「「イシュトヴァーン…!」」」
「お前は…正当な裁きの場に引きずり出す。これ以上、破壊兵器を乱用されてもらいたくないんでな」
「ふっ…【神の剣】はまだ、完全ではない。そこにいるウェルテクスの娘の力…それを手中に収めて始めて、完全なる【神の剣】となるのだ」
「――その前に、アムニスフィールドが完全に終わるぞ。猊下…あんたも気付いているはずだ、今のアムニスフィールドの状態は、その兵器によって齎されたものだと!」
バーガーが、拳を構えながら言い放つ。
しかし、イシュトヴァーンは聞く耳を持たない…
それどころか、晴人達が最初にミサで会った時とはまるで別人であるかのような、目つきをしていた。
『怖い』
それがコヨミやルルなどが抱いた今のイシュトヴァーンの印象であり、人の身に余りすぎる兵器はここまで人を変えるものなのか…とイーヴリンや晴人は思っていた。
すると、ザウバーはギリオンの姿が見えないことに気付き、イシュトヴァーンに尋ねる。
「……ギリオン宰相補佐はどうした?」
「奴はここにはいない。貴様らを返り討ちにする策があると言って…先刻、姿を消した」
「「「…」」」
「イシュトヴァーン…言っても無駄なのは分かってるが、あいつはファントムだ。何かしらの目的があって、この世界に来た……あんたに近づいたのも、リーリエリヒト帝国を…あんたを利用するためでしかない!」
「…奴が異能の存在であることは、当の昔に知っていた」
「どういうこと!?」
晴人の意見に対するイシュトヴァーンの問いに、凛子が叫ぶ。
彼は、ミカ達を見下すような目をしながら…
ギリオンのことを、話し始めていた。
「私に仕えて11年…見た目も全く変わらない、歳を取らない人間などいるはずがない。しかも奴は、シラスと共にウェルテクス一族暗殺の話を持ちかけてきた時…シラスが席を後にした際、こう話していた」
「「「…」」」
「どんな…話を?」
「『あなたはいずれ、強大な力を持って世界を手中に収める者となる。私はその手伝いを、影ながら致しましょう』……と」
11年前から始まっていた、オリジンの計画。
ここで、晴人は自分達の世界とオリジンが流れ着いたこの世界の時差が気に掛かるが…
恐らく世界を自由に渡ることはできても、その世界のどの時間軸に流れ着くのかはオリジンにも予測不可能なのだろう。自分が生まれた世界以外の場所を知らないのなら、尚更。
しかもイシュトヴァーンの話では、オリジンは11年前のウェルテクス一族殺害よりも前に、ウェルテクス社に所属していたとのこと。
そのことは一番詳しいであろうユーテキに視線が集まり、ユーテキも頷く。
「…イシュトヴァーンの話は本当だよ。たぶん、ミカの両親…ステラさんやバグバードさんがウェルテクス社を経営していた時代から、シラスと共にいたんじゃないかな……」
「そういえば父さん達も、『歳を取らない不気味な人間がいる』と話していたことがあったが…まさか、それがギリオン宰相補佐だったのか」
「――そして、今この瞬間…私は絶対的な力を、手に入れる。……ここが貴様達の墓場だ!」
イシュトヴァーンがそう言い放ち、壁にあったレバーを下ろす。
すると、その部屋一帯が紅い光に包まれ…更に逃げられないよう、出入り口が封鎖される。
しかし…
この光を浴びた瞬間、ミカは膝から崩れ落ちるように倒れ、人の姿が保てなくなる。
だがシアーズ・ツァターン・ライサ・ヘルムートとその姿が忙しなく切り替わっている所を見るに、コントロールが利かなくなっているのだろう。
晴人は急いでシアーズに切り替わったミカを見てウォータードラゴンへと変身するが、姿はシアーズに固定されても…彼女の力をコントロールすることは不可能。
『あ…ぐぅぅ、……あぁぁ…!』
「…何故だッ!?シアーズで留まりはしたが…ミカが、力をコントロールできていないっ!」
「ど、どういうことなんですか!?」
「そんなの、私達に言われても!」
「…もしかしたら、この光が原因で…?」
「「「!」」」
突然、力をコントロールできなくなったシアーズ。
そんな彼女にウィザードWDは叫び、瞬平は凛子に尋ねるが逆に怒られてしまう。
一方で、シアーズに異変が起こったその直前に、イシュトヴァーンが設置されていたレバーを倒したことを思い出したコヨミの言葉に、誰もがイシュトヴァーンを見る。
彼は不敵な笑みを浮かべながら、ゆっくりと歩いていた。
「――そう。この施設はそもそも、アムニスフィールドを観測するだけでなく、そのエネルギーを制御するための施設……その技術を転用すれば、この場一帯のJMを総て無力化することができる」
「…そうか…ミカの力は、オリジナルJMを通してアムニスフィールドから直接力を受け取っている……アムニスフィールドの力の供給が絶たれるということは、」
「ミカちゃんが力をコントロールできなくなって、暴れちゃうってことなの!?」
「それだけじゃないポポ、JMが使えないってことは…ルル達の使うJMも使い物にならないってことポポー!」
「そういうことだ。…娘の力…使わせてもらうぞ!」
イシュトヴァーンはそう言い放ち、先頭にいたイーヴリンを剣の一振りで薙ぎ払う。
しかし、次に来るバーガーへの攻撃は、ウィザードWDが“バインド”の魔法でイシュトヴァーンの動きを止める。
それを見たユーテキは“クラッチショット”、ザウバーは“シャドウエッジ”、ルルは“スラストファング”で遠距離攻撃を仕掛け、その間にバーガーはイーヴリンを“キュア”で回復させていた。
<バインド、プリーズ>
「ぬうっ!?…貴様、何故JMの力を使える!」
「残念だったな、俺が使っているのは魔宝石…JMじゃあない。だから、俺の魔法を無力化するのは不可能なんだよ」
「…誰でもいい、僕達がイシュトヴァーンを押さえている間に、あのレバーを引き上げて!そうすれば…ミカも落ち着いて、JMも使えるようになるっ!!」
「分かった!――行くわよ、瞬平君!!」
「ええっ、ぼ、僕もですかー!?」
ユーテキの言葉に真っ先に反応したのは、凛子。
彼女は瞬平の服のフードを引っ張り、無理やり連れて行く…
だが、イシュトヴァーンは「させぬ」とばかりに鎖を自力で引き千切り、凛子と瞬平を斬ろうとしていた。
しかし背後を見せたイシュトヴァーンにイーヴリンが“月長皇”で斬りかかり、更にザウバーとウィザードWDが剣で相手を切り裂く。
凛子と瞬平は力を合わせてレバーを上げようとするが、今まで使われていなかったせいで錆付いていたのか、2人の力だけではなかなか上がらない…
それを見たコヨミやポポも一緒になってレバーに力をかけ――その際、ポポは瞬平の頭に乗って踏ん張っていた――、3人と1匹の力で少しずつレバーが上がっていく。
このまま、上げきることができれば。
ウィザードWDがそう思いつつ、“スペシャル”で呼び出したドラゴンの尾でイシュトヴァーンを拘束しようとしていた
――その時だった。
彼らの背後から突如光線が浴びせられ、ウィザードWD達だけでなく…それはイシュトヴァーンをも巻き込む。
瞬平や凛子、コヨミにポポは何とか無事だったものの…敵味方問わない見境のない攻撃に、誰もが動揺していた。
そこから現れたのは、オリジン。そして…
更にその背後にいたのは、――人工ファントムに押し潰されて死んだはずの……シラスだった。
「オリジン…それに、」
「「「…シラス!?」」」
「な、なんで…あの人って確か、人工ファントムに押し潰されて死んだはずじゃあ……」
「ほっほっほ。あの程度で死ぬはずがないでしょうに」
『シラス様は人工ファントムに押し潰される直前、私が助け出したのだ。…まあ、五体満足の状態でとはいかなかったが』
「えっ…?でも、そこにいるシラスは、ちゃんと立って…」
ユーテキがシラスの健常な体を指摘した、次の瞬間。
シラスの姿は見る見るうちに変化し、人工ファントムの姿となる。
だが、キルベルトと違うのは自分の意識をはっきりと保ち、力をコントロールできていること…
シラスの変貌に誰もが驚きながら、ウィザードWDはゆっくり状態を起こしつつ、オリジンに叫んでいた。
「そうか…お前、……シラスを人工ファントムとして作り変えたのか…!」
『ご名答』
『この姿の私は、もはや本物のファントムをも凌駕する存在…ファントムの長、そうですなぁ……マクスウェルとでも名付けましょうか』
「くっ…しかし、何故だ。何故味方である私まで攻撃を…!」
イシュトヴァーンも、納得いかないとばかりに立ち上がる。
…それもそうだ。
マクスウェルも、オリジンも、イシュトヴァーンの味方であったはず。
それを承知でウィザードWD達ごと攻撃したと言うことは、
『猊下…あなたの権力と国力は、充分利用させていただきました。これほどまでに、私の筋書き通りに行くとは……思いませんでしたなぁ』
「シ、ラス…!」
『お忘れですか、猊下。――私はリーリエリヒト帝国における【宰相】補佐…残念ですが、最初からこの手筈だったのです』
そう言いながら、オリジンが取り出したのは…
イシュトヴァーンが別室に隠していたはずの、シンボルストーン。
――総ては、この時…この瞬間のため。
イシュトヴァーンも、ユディーヌも、聖海騎士団やミッドノクスですら…シラスとギリオンによって、踊らされていたに過ぎないのだ。
マクスウェルは大声で笑った後、イシュトヴァーンに言い放つ。
『もうあなたは用済みなのですよ、イシュトヴァーン』
そして…
マクスウェルは口から光線を放つと、イシュトヴァーンを一撃で無に帰していた。
***
タイトルはサウルのことだと思ったかい?
残念、シラスだったのさ!
原典でもシラスは、5章のラストで登場します。 要するに、死んでなかったってことなんですよね。
まあ今回はオリジンがいるので、生き延びていた理由も割と納得いくことになってますが…
サウル…フリーダムw
そして、そういえばソウセイって今回が初めての邂逅ww
しかしサウルの遺伝子理論を、即効で「遺伝子レベルの話じゃない」と切り返すソウセイ…
知的好奇心の解消とか言われても、即「ならないとおもいます」とぶった切るソウセイ…
サウルのほうが、逆にやりづらかったんじゃないのか…とか思いますね。
新事実:勿体つけるのが得意なサウルに対し、頭のいいソウセイは割と絡ませやすかった
今回は非常にネタバレ。主に6章の。
これが他の人だったら、どうなっていたんだろう…
サウルにメチャクチャ振り回されて、今回得られた大半の情報を6章に持ち越し…ってことになっていたんだろうなぁ。
はぐらかすのも、勿体つけるのも得意ですからね。あの忍者。
そういう意味では…ソウセイ……お前、マジ便利…
イシュトヴァーンはウェルテクス社の技術も、オリジンの力も利用している感じでしたが…
実際はその逆で、シラスとオリジンがイシュトヴァーンの持つ国力を利用していたんですよね。
【神の剣】を与えていたのも、自分達がより動きやすくするために。
でも…
実際、シラスもなんか利用されてる感じなんですよねっていうか明らかに利用されてます。主に、オリジンによって。
ちなみにシラスは、45話の後…オリジンに助けられたことによって生きてはいましたが、五体満足とは言えないほどの状態だったんですよね。
で、オリジンがシラスに人工ファントム技術を施し、人工ファントムの肉体で失った体の部分を埋めた…という感じ。
実際、原典でも6章の最初辺りで合成獣と戦った後に、怪物化したシラスと戦うことになりますが…
何で怪物化したのか忘れた(多分ミカの持つ力のせいなんだろうけど)ので、人工ファントムで辻褄を合わせました。と言うかそうじゃないと納得できん。
次回は…
何で本当に、ザウバーの言うこと聞かなかったよお前ら……