――ワイズマンとの決戦から、半年が経った。
ポケモンタウンは復興に向け、少しずつではあるが歩み始めている。
最初の頃はどうしていいか分からない彼らであったが、オーダイル棟梁を中心とした大工衆が率先として復興活動を始め、【ブレイブス】などの探検隊もそれに力添えする形で再興に必要な素材などを集めてきてくれた。
そんな彼らの頑張りに触発されたのか、町の人々も次第に生きる気力を取り戻し、復興に力を注いでいる。
そんなある日、探検隊立ち寄り所――と言っても、ワイズマンに攻め込まれた際に倒壊してしまったため現在建て直し中なのだが――で大騒ぎするポケモンの声が聞こえてくる。
「…えーっ!今、探検隊募集してないのかよー!!」
「ごめんなさいね。町も今こんな状態だし、ここの受付だけじゃなくて【スピード・デリバリー】もてんてこ舞いだから…」
「うう、せっかくここまでやって来たのに…」
「諦めろ、ヤヤコマ。そもそも言ったじゃないか、新聞見る限り今すぐは難しいって」
「だってよケロっちー!」
わんわんと喚くヤヤコマに、やれやれ、といった様子で同行者のケロマツや受付のエネコロロは溜息をつく。
このヤヤコマとケロマツはどうやらポケモンタウンから離れた場所にある集落からやって来たようで、話を聞くにポケモン通信は彼らのいる集落にも渡っていたようだが、それでもヤヤコマは探検隊になりにここまで来たらしい。
…幼馴染のケロマツを巻き込んで。
しかしヤヤコマが探検隊をやりたいと言い出した理由は、単純に名声を上げて有名になろうとかそういう魂胆ではないようで。それが分かっているケロマツは、エネコロロに申し訳なさそうに尋ねていた。
「…すみません。こいつ、ポケモンタウンがどういう状態なのか、ポケモン通信で知って。それでどうにか力になれないかと、探検隊になりに…」
「そうだよ!探検隊になれば色んなダンジョンに行って、飯や材料も持ってこれるんだろ?」
「あら、そうだったの。そうねえ…今すぐ探検隊になるのは難しいけれど、復興作業を手伝ってくれるのはありがたいわ。とりあえずは、ラフレシアさんやカメックスおばあさんといった男手の欲しい所に行ってもらえるかしら?」
「分かったぜ!よし行くぞ、ケロっち!!」
「はいはい…」
我先にと飛び出すヤヤコマを追いかけるように、ケロマツもついて行く。
その際エネコロロの方に振り替えると、小さくお辞儀をし、かなり離れている相棒を追いかけ猛スピードで駆け出す。
…若いっていいわねぇ
そんな年よりじみたことを思いながら、エネコロロはお役所仕事らしく、現在の復興状況について調べるべく部下のエネコ達に指示を出していた。
そして、立ち寄り所を離れて5分。
…ヤヤコマとケロマツは、完全に迷子になっていた。
現在復興作業中とはいえ、この世界で最も発展している集落でもあるポケモンタウンの広さを舐めていた。ここに来たばかりの彼らでは、復興の手伝いはおろか、迷子になるのも当然だと言える。
他のポケモン達に場所を訊こうにも、彼らも自分達のことで手いっぱいのため話が出来そうにない。
「…迷ったな」
「広すぎだよここ!どうすんだよ、このままじゃ手伝いどころか今日の寝床すら見つからねーぞ!?」
「俺に言うな。そもそも勢いだけで行動して、無計画なのが悪い」
「ひっでぇ!」
「――ふむ。君達、随分と元気が有り余っているようだな」
突然声をかけられ、振り返るとそこには…ルチャブル。
背中には何かを背負っているようで、見ればそれは、まだ赤ちゃんのオンバット。
親子なのだろうか、と思ったが…それにしては種族が違うような。
ケロマツがそんなことを考えていると、ヤヤコマは見ず知らずの相手だというのに遠慮なく言い放っていた。
「なあおっさん、ラフレシアってポケモンがどこにいるか知らないか?カメックスっていうばーちゃんでもいいんだけど」
「おい、ヤヤコマ!おっさんはないだろう」
「いや、だって喋り方と空気が」
「すいませんすいません…!こいつ、里から出てきたばかりで礼儀と言うものが全くなくて…!!」
「いや、別に構わんさ。……ふむ…このニオイ、君達、【サラサラ草原】の出身か?」
「あれ、オイラ達、そんなこと言ったっけ?」
「いや…」
「すまない。そういうニオイをしていたからな、つい最近あそこにある資材を調達しに行っていたから記憶に新しいのだよ」
嗅覚には自信があるのでね、と付け加えつつ笑顔でルチャブルは話す。
話を聞く限り、彼はオーダイル棟梁の所で大工の仕事を手伝っているようで…大工とは言っても家を建てることよりは資材を調達する仕事の方が多いらしい。
彼が新人と言うのもあるのだろうが、ルチャブルはソロでダンジョンに向かっても問題ないほどの実力を有しており、家を建てる大工の数が足りないこともあってかそちらの方に回されているのだとか。
大工も大変なんだな、と思いつつ…ヤヤコマはピン、と頭の上で電球を光らせる。
何かを企んでいるようなヤヤコマの顔を見て、ケロマツは嫌な予感がしたのか、顔を引きつらせていた。
「そうだ、オイラ達もあんたの仕事、手伝っていいか?」
「ああやっぱり…」
「ん?私は構わんが、君達はいいのかね」
「復興作業を手伝うなら、大工の手伝いするのも一緒だろ。なあケロっち」
「まあ、それは…そうなんだが…邪魔にならないだろうか」
「いや、私としても手伝いがいるのはありがたい。それにうちの大工の中には、探検隊に所属しているものも何人かいる…彼らに探検隊としてのノウハウを学んだりすれば、いずれ探検隊活動をするとなったときに便利だろう。それにいざという時に仕事に困らないコネを作って置くことも、いいことだろうしね」
「…?……俺達はあんたに、『探検隊になりたい』と一度でも言ったか?」
「いや、すまない。実は立ち寄り所での話を耳にしていてね、どうせならと声をかけたのだよ」
ルチャブルの言い分にヤヤコマが納得する一方で、ケロマツはどうもおかしいと疑っていた。
里から出てきた自分達にとって、こんなにも都合のいい条件を持ってくるとは。
…まさか、ポケモン通信にあったファントム…?
しかし目の前の相手が、嘘をついているようには思えない。
それに何でもかんでも疑ってかかるのは悪い癖だといつもヤヤコマに言われている。何でもかんでも信じてしまうのも大概だとは思っていたのだが、間違っているわけでもないせいでいつも言い返せずにいた。
「いいじゃん、条件も悪くないし…やろうぜケロっち!」
「はあ…まあ、いいか」
「そうと決まれば、と言いたいところだが…少しこの子を預けてきてもいいだろうか。流石にこの子を連れていくのはまだ早い」
「すよすよ−ω−」
「思ってたんだけど、そのオンバットあんたの子供か?」
「親のいないまま放置された卵を偶然見つけてね、他の卵は割られてしまっていたが…この子の卵だけは無事だったので、拾ってそのまま私が育てているのだ」
「へー、あんたいい奴なんだな!…おっ、こいつメスか?オイラと一緒だな!!」
「……………えっ」
「分かる、分かるよルチャブル。…俺でもたまにこいつの性別が分からなくなる」
「ヒデェなお前ら!?」
〜〜〜
【雪花屋】では…
復興支援ライブの準備をしていたPURIN-cesことプリンとコータスが、茶の間で話をしていた。
「…本当なの?あんたが、ファントムだって」
「はい。…すみません」
「あの歌の力を見たら、分からなくもないけど…分からないことは一つ。なんでそれをアタシに言うの?」
「…私は、プリンさんのことを友達だと思っています。だからこそ、嘘はつきたくないと…そう思ったのです」
コータスの言葉に、プリンは「はあ」とわざと聞こえるように大きなため息をついて見せた。
彼女はどうにも生真面目すぎるようで、このまま黙っているのが耐え切れなかったのだろう。
ポケモンタウンを崩壊させた元凶…更にはプリンやその他のポケモン達の中には、ファントムによって辛い思いをしたり大事な人間を失ったりした者が多い。
「それ、他の誰かには話したの?」
「いえ。まだ…」
「じゃああまり大っぴらに言うのはやめときなさいよ。あの鬼館長の心配事、あまり増やすもんじゃないわよ」
「…ですが」
「あんたって本当に馬鹿じゃないの。黙ってればいいのにさ…」
「…はい」
「……しょうがないから、今の話は黙っていていてあげるわよ。一応…友達、だし」
照れくさそうにしながらも、“友達”だと言ってくれたプリン。
その言葉に、先程まで沈んでいたコータスの顔がパッと笑顔になる。
彼女としても不安だったのだろう。
本当のことを打ち明けてしまえば、オニゴーリや【ブレイブス】の面々はともかく、プリンのようなファントムによって苦しめられていたポケモンは離れてしまうのではないのかと…
そんな彼女の不安はプリンも薄々と感じ取ってたのか、仕方ないとばかりに言い放つ。
「…プリンさん!」
「そもそもアタシに酷いことしたのはピクシー・ノートだし、どっちかって言うとアタシの方があんたに悪いことしたっていうか……とにかく、これで前のことはチャラ!いい!?」
「はい、ありがとうございます」
「……全くもう、本当に調子狂う…」
「――プリンさーん!もうすぐ会場入りの時間よー!!」
そう言ってやって来たのは、リーシャン。
以前、ジュプトルに一目惚れをして色々引っ掻き回してきた勘違い娘だが…何も知らない世間知らずの自分を恥じ、ルージュラの勧めもあってかPPCに入社していた。
今はプリンのマネージャーをしており、…傍から見ればかなり不安にしかならないコンビ(特にバンギラスとヘイガニ視点では)なのだが、『あのオオスバメも仕事できるから大丈夫』と彼らは自分自身に言い聞かせていた。
しかし、今の話を聞かれていたのではないだろうかとコータスは不安になるが…コッソリとプリンは耳打ちする。
「…大丈夫、あいつニョロトノ以上にそそっかしいから、たぶん立ち聞きなんてしてないわよ。っていうか、立ち聞きしてたらすぐさま『どういうことなの!?』って部屋に入ってきてるだろうし」
「そ、そうなんですか?」
「まあニョロトノより扱いやすいし、新人っていうのもあるんだろうけど、あいつと違って自分の趣味を押し付けてこないしね。そういう意味では今、結構楽しいのよ」
「…【あの】リーシャンさんも成長しましたねぇ…」
ポケモンタウンの中心部では、ヒヒダルマ・ニダンギル・ジャローダが復興作業中のポケモン達にまかない料理を作っていた。
それを運んでいくのはドレディア、しかし手が足りなくなればヒヒダルマ自身が持っていくこともある。
ニダンギルが食材を切り、ジャローダが尻尾でフライパンを握り炒め、ヒヒダルマが素早く盛りつけ運んでいく…
しかし思っていたより人数が多くなってきたため、これはニャースの手でも借りたいとヒヒダルマが思っていると、一匹のポケモンが声をかけてきていた。
そのポケモンはこの辺りでも有名人のためか、ヒヒダルマ達だけでなく昼食を食べに来たポケモン達も驚く。
「よお、大変そうだな。手伝ってやろうか」
「お前は…」
「げっ、まさか、【Bバースト】の…リザードン!?」
「おいニダンギル、手を止めるな」
「す、すまん…つい」
「嘘だろ、【Bバースト】のリザードンって言ったら…ゴールドランクの?」
「あれ、そういえば【Bバースト】ってつい最近解散して、リザードンは【ブレイブス】に移籍したって…」
ゼロの孤島から帰還した後、リザードンはすぐにゴウカザルの死を発表。
…但し『絶望してファントムを生み出し、グレムリンとして暴れていた』と言うことではなく、『ファントムに殺された』として。
リザードン自身も古の魔法使いとして活動していたことから、ここ暫く【Bバースト】が探検隊活動をしていなかった理由も誰もが納得し…全ての事件が解決してからの解散宣言も、まあ分かると納得していた。
だが、問題はリザードンはフリーの探検家になるでもなく、他のゴールドランクの探検隊に移籍するでもなく…シルバーランクの【ブレイブス】に移籍をしたこと。
この件に関しては誰もが騒然とし、以前シルバーランクの探検家であったミロカロスも当時ブロンズランクだった【ブレイブス】に加入した前例もあってか、ここに来て【ブレイブス】の知名度は飛躍的に上がっていた。
ただ、ミロカロスと違いリザードンは移籍した理由も“指輪の魔法使いが所属しており、尚且つファントム事件で協力関係にあった探検隊”だからと、殆どの者が納得できるものなのも大きい。
ちょっとした騒ぎになっているリザードンとその周囲をよそに、ポポッコとバンギラスは…平然と昼ご飯を食べていた。
「…あの人、自分のこと全く分かってないわよねえ」
「本当にな。あいつは馬鹿だと常々思っていたが、本物の馬鹿だとはっきり分かったよ…」
「それで、ジュプトルさんのことだけど。……やっぱり、本当のことを伝えるわけには」
「いかねぇよ。…ただでさえ今もファントムがいるって状況で、指輪の魔法使いがいませんって知らせるようなことをすれば、……大変なことになる」
ジュプトルのことに関しては、バンギラスの頼みで何とか誤魔化してくれとポポッコは言われていた。
嘘をつくのも記事にするのも嫌いな性分である彼女ではあったが、それを報道することのリスクについては皮肉にも、【ブレイブス】の専属記者になったことで十分に分かっている。
リザードンがキマイラを失い、魔法使いの資格をも失ったことはいずれファントム達にも知られるだろう…
あくまでもヨノワールが賢者の石を使い、消せたのは『ファントムを生み出す絶望の因子』だけ。ワイズマンのサバトによって既に誕生してしまったファントムを消すことは、不可能だった。
…僥倖だったのはオニゴーリが対象から外れていたことだろう。
流石に、既にファントムが一部誕生していることを知って魔法使いを全滅させるほど、ヨノワールは頭が回らない状態ではなかったというわけだ。
「リザードンさんが【ブレイブス】に来た理由も、…ジュプトルさんが関係しているの?」
「ああ。…最後に会った時に、あいつは…ピカチュウのことを、【ブレイブス】のことを任せると……リザードンに告げていた。その時からあいつは、死ぬ覚悟でいたんだろう」
「と言うよりは、これ以上の被害の拡大を防ぐためには絶望の因子を消す必要があった。ワイズマンのサバトは、因子を持たないポケモンにもそれをばら撒き、ファントムにするものだったから」
「…絶望の因子を消し、ファントムの誕生を止めること。同時にそれは、ドラゴンと完全同化し生み出す寸前にあったジュプトル自身が、死ぬことでもあった…」
【賢者の石】の力により、世界中に蔓延した絶望の因子は消滅し、これ以上ファントムを生み出すことはなくなった。
だがドラゴンファントムと同化していたジュプトルは、絶望の因子が消滅したことによりファントムを生み出せず…ドラゴンが消滅すると同時に、この世界を発つ結果となっていたのだ。
石の魔力も1回分しか願いを叶えられなかったことを考えると、ジュプトル一人を生かしてこの世界の全てをファントムにするか、最小限の犠牲に抑えてファントムのこれ以上の誕生を止めるかでは…どちらを選ぶべきかは明白だった。
「…ピカチュウさんには、ジュプトルさんのこと、どう説明したの?」
「あの時は、ワイズマンと一騎打ちをした結果…相討ちになったと言うしかなかった」
「まあ、状況が状況だし…憧れであったヨノワールさんが殺したようなものだと、教えるわけにはいかなかっただろうし。だけど、バンギラス」
「?」
「あの子は…たぶんそんなに馬鹿な子じゃない。本当は相討ちなんかじゃないって…いずれ気付く」
「……だろうな」
「ゆっくり、ピカチュウが落ち着いて話を聞けるときでいい。…ヨノワールさんと一緒に本当のこと、話してあげて。ちゃんとした意味で、前に進めるために」
「…ああ」
〜〜〜
【芽吹きの森】
ジュプトルの生まれ故郷であるというこの場所に、ヘイガニとミロカロスは足を運んでいた。
彼らの目の前には、いくつかの石が積み重なった石碑…
墓、と言った方が正しいだろうか。
その前には既に花が置かれており、恐らくこれは…ピカチュウが置いて行ったものだろう。
ヘイガニは持ってきた花を置くと、ミロカロスと共に黙祷を捧げる。
「ジュプトル…お前さ、ホント馬鹿だよ。まるで俺が嘘ついたみたいじゃねーかよ」
「…本当よね。本当に…もう少しやり方ってものが、なかったのかしら」
「ミロカロスさんはどうするんだ?【ブレイブス】で探検隊、続けるのか」
「それなんだけど…実はPPCの会長にSPになってもらえないか、誘われているの。SPと言ってもそんなに時間を拘束されるわけじゃないし、探検隊活動の方を優先してもらえる…というより、あと半年ぐらいは返事を返さなくてもいいって言われてるのだけど」
「PPCの…ああ、ルージュラさんか。結構仲良かったもんな…つか半年って長いな!」
「あの人もピカチュウのこと、気遣ってるのよ。今は誰かが支えてあげないといけないし」
ずっと前から気になっていたことを、ヘイガニはミロカロスに尋ねていた。
ミロカロスは【ブレイブス】に入った経緯が、どうもよく分かっていない。
ジュプトル達に救われたと言えばそれまでなのだが、それにしてはやけにピカチュウのことを気にしていると思っていたのだ。
アイアンテールの訓練をつけたり、更には10万ボルト習得のためにスパルタ的な教育をしたりと、ピカチュウの実力が上がって来た理由を上げるとするならばミロカロスの努力があってのことだと言えるほど、ミロカロスはピカチュウの特訓に積極的に付き合っていた。
となれば、ピカチュウ自身に【ブレイブス】加入への決定汰があったのだろう、と。
ミロカロスはゆっくりと目を開けると、ヘイガニの問いに答えていた。
「…私はね、言ってしまえばギャラドスと同じようなものなのよ。どうにも放っておけない相手がいて、だけどその相手に救われた。だから、できるだけ傍にいてあげたいの」
「それって…ピカチュウのことか?」
「そうね。私はあの子の励ましに、一番救われたわ。あの子の言葉があったからこそ、私はもう一度やり直そうと決意できた…私を絶望から救ってくれたのは、ピカチュウだったのよ」
「…そうか。そういや、そうだったもんな」
思えばヘイガニも、ピカチュウとジュプトルがあまりにも危なっかしすぎたこともあったが…
彼らとならば退屈しないという理由で、【ブレイブス】に加入していた。
確かに退屈することはなかった、と言うより、常識人が全滅しているせいでツッコミに苦労する日々であったが…楽しい日々だったと言えるだろう。
それと同時に、…ここまで深入りしなければ、このような悲しみを負うこともなかったのだろうと思うこともある。
ミロカロスもそんな彼の気持ちが分からなくはないのか、捧げられた花束を見てしばし考えた後…ポケモンタウンに戻ろうと告げていた。
「…さて、あまり長居をしているとどこかのせっかちに怒られそうだから、そろそろ戻りましょうか」
「そうだな。…そういやピカチュウの奴、ねぼすけのくせに墓参り早くに済ませたんだな」
「今日は【ブレイブス】に加入したいって言ってきた、新人探検家の子にいろいろ教えるんだって張り切ってたわよ。それにしても、……結構複雑よね」
「まあ、そうだな…よりにもよって、なあ」
ヨノワールは静かに、ポケモンタウンを発とうとしていた。
復興作業は、ここにいるポケモン達ならばどうにか立ち上がり…前以上の発展を遂げたポケモンタウンとなることだろうと信じて。
…ファントムの被害は、未だ留まるところを知らない。
ブイゼルのような眼を持つ者がいない以上は、誰かがポケモンタウンの外に出てファントムの被害を調べる必要があるのだ。そしてそれこそが、生き残ってしまった自分への使命だとヨノワールは感じている。
そうしていると、彼の見送りに来たのか…ピカチュウがやってくる。
「あっ、いた…ヨノワールさーん!」
「!…ピカチュウか、何故ここに…」
「オオスバメさんから聞いたんだよ、ヨノワールさんが旅に出るって。その前に、彼に紹介してあげたくって」
「彼?……!!」
その背後についてきたポケモンを見て、ヨノワールは目を見開く。
嬉しそうな、恥ずかしそうなそんなはにかんだ笑顔を見せるのは…一匹のキモリだった。
その首には、ハリケーンウィザードリングが掛けられている。
ピカチュウの話では、彼は半年前に【芽吹きの森】でファントムに襲われていた際にジュプトルによって助けられ…彼のように誰かを助けられる探検隊になりたいと、【ブレイブス】の門を叩いたという。
最初の頃は、キモリが持っていたハリケーンリングをどうやって手に入れたのかと言う話でギャラドスやリザードンなどに詰め寄られ、最終的に全員纏めてオニゴーリに“氷の礫”を落とされていたが…
キモリの話によればジュプトルが落として、そのままポケモンタウンに戻っていってしまったらしく…「あのせっかちらしい」と誰もが納得していた。
「あ、あの、ヨノワールさんですよね!?あの、探検家の…!」
「…ああ。君は、【ブレイブス】の一員…か?」
「はい!探検家としても、まだまだ未熟で…やれることは少ないけれど、それでも俺、皆を守れるような立派なポケモンになりたいです!!!」
「……キモリ、一つだけ…いいか」
「はっ、はい」
「どんな形であっても構わない。…君は、生きるんだ」
「…?分かりました!」
――そう、君は生きるんだ
――間違っても、あいつのようには
そんな言葉を胸の内に潜めながらも、ヨノワールは静かに立ち去っていく。
有名な探検家であるヨノワールに会えて感激しているキモリの横で、ピカチュウは空を見上げ、思いを馳せる。
雲一つない、澄み切った青空。
この空の上で、今日も太陽の光は輝いている。…ジュプトルが2度に渡って守った、この世界で。
(ジュプトル、私、負けないよ)
(泣いてたら…ジュプトルやブイゼル、オオタチさんに笑われるから)
(ジュプトルが最後まで命を輝かせて守ったこの世界を、今度は私達が守る)
そうしていると、上空から騒がしいポケモンがやってくる。
今日も元気にスバッと一発、オオスバメだ。
ジュプトルを失った後、【ブレイブス】の面々は落ち込んでいたのだが…オオスバメだけは次の日には何事もなかったかのように日常を送っていた。
薄情な奴、…と思われないのは普段の行いのせいだろうか。そういう奴なのだ、オオスバメは。
しかしそんな前向きな彼に触発され、立ち直れたというのも事実。
「オオスバメさん、どうしたの?」
「大変だよ!ポケモンタウンの方で、ファントムが暴れてるんだ!!」
「ええっ!?ファ、ファントムが…」
「それで、皆はどうしてるの!?」
「ギャラドスさんが避難誘導してるよ!とりあえず乗って、スバッと1分で送るから!!」
「…あの、ここからポケモンタウンまで1分って…かなりの速さで飛ぶん、ですよね…?」
「……大丈夫、キモリ。次第に慣れるから」
「それじゃあいってみよー♪」
「…あ、駄目だ、ヨノワールさん。俺ちょっと生きれるか怪しくなってきました…」
ポケモンタウンでは突然現れたファントム騒ぎに、人々が大混乱に陥っていた。
しかも町の中心部、昼食時と言うこともあってか騒ぎは次第に拡大していく。
偶然居合わせたギャラドスは、同じく居合わせたバンギラスやポポッコ、リザードンと協力しながら避難活動に当たる。
途中、騒ぎによって親とはぐれてしまったであろうピィと出会い、ギャラドスが声をかける。
「おいっ、大丈夫か!」
「う、うう…怖いよう…お母さん……」
「大丈夫だ、お前の母さんはきっと見つけてやるからよ。…ポポッコ、こいつ連れて先に逃げろ!」
「分かりました!ギャラドスさんは…」
「飯屋の連中を連れてそっちに行く!人のこと悪く言えたもんじゃねぇが、血の気が多いのか分からんニダンギルが店員庇って大怪我してんだよ!!」
「…暴れてるファントムって何でしたっけ」
「ヘルハウンドとかいう炎のファントム…」
「鋼タイプのくせに馬鹿じゃないですか!?…と言っておいてください!」
おうとも、とギャラドスはポポッコにピィを任せ、向かっていく。
そこでは先程まで賑わっていたヒヒダルマの店――と言っても、簡易テントの小さなものである――がヘルハウンドによって荒らされており、周囲は炎上。どうにも炎に弱いポケモンばかりが多い働き手たちばかりと言うことで逃げ遅れていたのだ。
ヒヒダルマだけならば逃げられただろうが、店主として自分一人だけ逃げるわけにはいかなかったのだろう。
しかも自分を庇ってニダンギルが怪我をしている以上、引こうにも引けない。
「う、うう…」
「おい、しっかりしろ!…お前は本当に馬鹿か!!」
「ジャローダさん、ナナシの実、何とか1個残ってました…!」
「くそっ、ファントムめ…せっかく皆が、楽しい飯時を過ごしてたってのによお!」
『うるせえ!楽しいだと…俺がこんな姿になっても、楽しんでいるお前らが憎いんだよぉっ!!』
ヘルハウンドから灼熱の炎が放たれる。
ヒヒダルマだけならばどうにか受けきれるだろう。だがその炎はヒヒダルマから対象が逸れ、逃げ遅れていたジャローダ達に向かっていく。
…しまった
…あいつの狙いは最初から
なんとか彼らを助けようと駆け出すヒヒダルマだが、足の遅さのせいで間に合いそうにない。
万事休すか、とジャローダとドレディアが目を瞑りニダンギルが覚悟を決めようとしていた…その時だった。
<ブリザード、ナウ>
そのような音声が響いたかと思えば、自分達に向けられた炎が強力な冷気によって掻き消される。
ヒヒダルマやジャローダ達だけでなく、ヘルハウンドが戸惑っていると…
ゆっくりと、炎の中から影が現れる。
それはポケモン達にとっての希望の足音であり、ファントムにとっての絶望の足音となる存在。
黄金に輝くそれは、この世界に残された最後の希望の魔法使い。
黄昏の魔法使い――またの名を、仮面ライダー・ソーサラー…
「あ、あれは…」
『げえっ、絶望の魔法使い!』
「黄昏って何度言えば覚えるんだお前らは!…まあいい、どうせ覚える暇もないまま消えるんだからな」
そう言いながら、ソーサラーはディースハルバードを構える。
ヘルハウンドがたじろぎ、他のポケモン達が見守る中…
ソーサラーは、静かに言い放つ。
「さあ、――冥途で懺悔しな」
***
そうだよね、館長は残るよね。
そんな最終話。
しかし原作で劇場版限定の敵だったソーサラーが味方サイドで、尚且つ最終的な生存者(魔法使い的な意味で)になるとは誰が予想できたか
…いやむしろ生き残る予想しかできなかったわ…
いつかのスピンオフのフラグを回収。
ちなみにエネコロロはメスですし映司と言う名前ではありませんので、あしからず。
なおルチャブルは年齢で言ってしまえば館長とそう変わりはない26歳。
ヤコちゃんケロマツは…ピカチュウやヘイガニ辺りが近いのかな?
オンちゃんは年齢:オンちゃん。
なお、強キャラのような余裕を見せるルチャブルすら困惑するヤヤコマの性別。
プリンとコータスがここまで仲良くなることも誰も予想できんよな…
あとはリーシャンか。
そして壮絶なるニョロトノへの風評被害w
リザードンはジュプトルとの約束を果たすために、【ブレイブス】入り。
前にも言ったかと思いますが、ポポッコは基本丁寧語ですが、ウソッキーやバンギラスに対してだけはタメ。言ってなかったらごめんなさい。
絶望の因子を消す=ファントムと同化していたジュプトルも死ぬ
ファイナルスタイルになった段階で既に詰みだったんですよね、ジュプトル…
賢者の石がまだ使えれば他にも方法は取れたのでしょうが、自分でフラグを砕いてしまいましたし。ただあそこでサバトを邪魔しなければ、被害はもっと深刻化していたわけで。
ポポッコも何だかんだで、ピカチュウのこと心配なんですよね。
だけどずっと後ろを見て立ち止まってしまうほど、弱くないということも分かっている。
ミロカロスは掘り下げた理由があまりなかったから疑問に思っていた方もいたでしょうが。
彼女が【ブレイブス】に入る最大の決め手が、ピカチュウだったんですよね。
ピカチュウのひたむきな言葉に希望を取り戻した。
けれどピカチュウは純粋で、言葉は立派でも、実力がついて行かない…
そんな彼女を見守るだけでなく、探検隊として相応しい実力をつけさせるために(鬼のスパルタ)特訓をつけ。
ギャラドスの加入理由も「ヘイガニに救われた」ことと「お人よし過ぎて危なっかしい」っていうことですしね。
あ、ちなみにギャラドスさんジュプトルロスト後に暫くしてから【ブレイブス】に正式加入しました。
このキモリ、54話で出てきたキモリ君です。
ついでに、ここで54話の「指輪が1つ転がり落ちるが拾っている余裕などない」・57話での「ある指輪がないことに気付き」のフラグを回収。
54話の段階でハリケーンリングを落としており、それをキモリが拾っていたんですよね。
キモリ君にとってはジュプトルは自分達を助けてくれたヒーローであり、あこがれの存在であり、いつか超えたい背中であり。
…ただ、ピカチュウ達にとっては結構複雑な部分もあるでしょうね…
個体が違うとはいえ、キモリ族だもの。
オオスバメ宅配便は色んな意味で死ねる。
まあ、あのオオスバメがジュプトルが死んだぐらいで落ち込むかと言うと…
むしろ『ジュプトルの分まで生きる』ってなってそうですよね。
こいつ地味にサバトの対象だったのにちゃっかり回避してますし…オニゴーリだけはヨノワールが事前に反らしてくれていただけだったのにお前…
この世界唯一の魔法使いとなった館長。
…介護変身必須な人が魔法使いとして残るというのは、大変ですね……キモリが(?)
残された魔法使いだからこそ、一人戦い続ける宿命を背負う羽目になった。
別個体のキマイラでも封印できればリザードンも戦えるんですが、仁藤よろしくヘルヘイムの果実でもないとなー。
と言うわけで、全60話…これにてウィザダン完結です!
命を最後まで輝かせて戦ったジュプトルのこと、忘れないでくださいませ。
皆が覚えていることで、彼は皆さんの中で生きていますので。