簡単無料小説

タイトル未設定 - 54話:兆候

📚 目次

54/60 ページ





ワイズマンの襲撃を受け、崩壊したポケモンタウン。

町の中央からの攻撃のため、被害は尋常ではなく建物の殆どは倒壊していた。

辛うじて無事だったのは町から離れていた雪花屋とスピード・デリバリー、ポケモン通信局、そして一部の住居のみ…

当然今回の件で家や店を失ったポケモン達は雪花屋での避難生活を余儀なくされ、住んでいた探検隊の者達もなるべく寝床を開けようとチームに関わらず複数で寝泊まりすることに。

探検隊立ち寄り所も倒壊してしまったため探検隊の仕事の斡旋が難しく、復旧するまでの間の探検隊の仕事はオーダイル棟梁達と一緒に大工仕事をしたり雪花屋の手伝いをしたりすることになるだろう。

そして…


「…いだだだだ、おい、もうちょっと優しく塗って…いっだー!」

「静かにしてください!傷口が沁みるってことは効いてる証拠です!!」

「だからって…アッー!」


怪我をしたブイゼルに、フシギダネ特製の薬を塗りつけるポポッコ。

その際“宿り木の種”で拘束している辺り、容赦などそこには存在しない。

ワイズマンとの戦いで負傷したジュプトル・リザードン・ブイゼルの3人は現在、ポポッコやピカチュウ達によって手当てを受けていた。

と言っても、一番酷い上に騒がしいブイゼルに相当人数を割いており…リザードンに関してはあまりにも薬が沁みて暴れているせいか、ミロカロスとギャラドスが抑え込み、その間にバンギラスが傷口に薬を抉るようにして塗りつける始末。

いつもと同じ、いや、いつも以上に騒がしい状態にヨノワールやジュプトルは苦笑いしながらも、

それにしても」と話していた。


「しかし、――ワイズマン…思っていた以上に強い」

「ああ…流石にファントムのボスだけはある。一筋縄ではいかないようだ」

「だがそれよりも、人に作られたポケモンと奴は言っていた…そのようなものが本当に存在していたとは」

「何?」

「昔、人間の文献を見たことがあってな。その中に興味深い記述があったのだ」



闇のディアルガに使えていた時代、ヨノワールは人間の残した資料を見る機会が一度だけあった。

ポケモンである彼にとっては殆どどうでもいいものが多かった中で、一つだけ興味をそそられるものがあったという。

それが【生態記録報告書】と書かれたレポート用紙の束だったという。

そのレポート用紙には『ミュウの睫毛から摂取した遺伝子から作られたポケモン』『知能は人のそれ以上に発達している』『今後も経過を見る必要がある』といった内容が掛かれており、人間の技術に疎いヨノワールでもそれが人体実験に近いものだというのは理解できた。


「そのレポートの内容によると、その頃の私が言えたものではないが…よくもまあそのようなことが出来たものだ、ということをしていたらしい」

「具体的には?」

「…分かりやすく例えるなら、肉体的にも精神的にも重い苦痛だな。身に覚えはあるだろう」

「ああ、オニゴーリ館長…」

「それをもっと酷くしたものだ」

「――おいコラ、そこの2人は絶対零度でも食らいたいってか?」


話を聞いていたらしいオニゴーリの低い声が、背後から響く。

流石に魔王を相手にするにはコンディションが悪すぎるため、ジュプトルは当然としてヨノワールすら土下座で謝罪していた。

そこへピカチュウが、オレンの実や傷薬を持ってジュプトル達の手当てをしようとやって来る。


「ジュプトル、ヨノワールさん、フシギダネさんからオレンの実や薬を貰って来たから怪我見せて!」

「ん…いや、俺はいい。ヨノワールを先に」

「でも、ジュプトル。…ワイズマンと戦ったんでしょ?それなのに」

「私もまだ大丈夫だ。それよりも…どちらかというと、他の者達を優先して……」

「――ぎゃあああああああー!バンギラスやめろ、お前殺す気かああああああああああー!!」

「ええい、お前が大人しくしないのが悪いんだろうが!ギャラドス、ミロカロス、抑えろ!!」

「そう言っても、こいつ力が…」

「ああもう、火事場の馬鹿力を発揮するにも別のところでしてほしいわ!」




あまりの痛さに悶絶するリザードン。

その痛みの大半は薬ではなくバンギラスの塗り方にあるのだが、リザードンの暴れようも凄まじくこのままでは色々と他に迷惑が掛かることだろう…

ミロカロスとバンギラスだけでは抑えきれないと知ったヘイガニやオオスバメ達が協力し、ピカチュウも慌てて加勢に向かう始末。

そんな彼らを見てジュプトルはふう、と一息つくが、ヨノワールは彼の様子を見てすぐさまその腕を引き部屋の外に連れ出す。

おい、とジュプトルが叫ぶとヨノワールは近くに誰もいないことを確認し、ジュプトルに訊ねていた。


「…ジュプトル、怪我の具合はどうだ?」

「何をいきなり…先程の戦闘もファイナルスタイルの反動が主であって、体に問題はない」

「本当にそう言い切れるのか?」

「…」

「答えろ、ジュプトル。――お前は私達が思っている以上に、まずい状態ではないのか」


その言葉に、ジュプトルは何も答えない。

しかし、ドラゴンが自分の体内から出てこようとするだけで特に問題はない、というよりそれ以上の異変はないのだから答えられようがないのだ。

だがファイナルスタイルはかなり危険なのは間違いなく、このままではジュプトルに大きな影響を与えかねない。

そんなことを言っても聞き入れてもらえる相手ではないと思いつつも、釘を刺すようにしてヨノワールはジュプトルに言い放っていた。


「…ジュプトル。分かっているとは思うが、ファイナルスタイルはここぞという時以外で使うな…そうでなければお前は完全にファントムに、食われてしまう」

「…、……分かっているさ。分かっているが、それでどうしようもなくなることなんて…いくらでもある。ワイズマンが相手ならば、尚更」

「だとしてもだ。ファントムとの戦いは、リザードンやオニゴーリ館長に任せて…お前はワイズマンとの戦いに集中するべきだ。それでリスクは大分減らせる…なのにどうして死に急ぐ必要がある!」

「…俺はそう簡単に死ぬつもりはない。それはお前が一番よく分かっているだろう」



それはそうだが、とヨノワールは低く唸るように言い放つ。

ジュプトルは暗黒時代から諦めが悪く、いつでも真っ直ぐに未来を見据えていた。

その真っ直ぐさが腹立たしくもあり、また、心のどこかでそれを眩しいと…羨ましいとさえ思っていたこともあったのだ。

だが、今ではそれが仇となっている。

ミライやポッチャマが救ったこの世界を守る、そのために自らの命を賭けることも厭わない。――そのようなポケモンなのだ、彼は。


「…どうだかな。しかしジュプトル、――何があっても…お前は生きろ。その権利がお前には充分ある」

「ヨノワール。…貴様がそんなことを俺に言うとは、人生どうなるか分かったものではないな」

「私もそう思っている。今ではお前を友とさえ認めている、…以前では考えられなかったことだ」

「確かに。…3年前まで命を狙い狙われていた関係とは思えないな、俺達は」






〜〜〜






ワイズマンは、夢を見ていた。

それは自身がミュウツーとして、時の崩壊が起こるその直前まで実験台にされていた記憶。

幻のポケモン・ミュウの遺伝子サンプルから作られたミュウツーは、研究者たちにとっては興味の対象だった。

彼らは奇異の目で彼を見、好奇心で彼と接し、様々な実験を繰り返す。

それは知的好奇心を満たすために。また、ミュウとは違う…人類が作り出した最強のポケモンを作り上げるために。


…やめろ

…私は貴様らの道具ではない

…私は貴様らの玩具ではない

…私は…

――私は何故、ここにいる――!


しかし時の崩壊が起こり、事態は急転した。

研究所はミュウツーの実験どころではなくなり、突然風が止み、水が止まり、光も音も無くなった世界に人々は混乱に陥る。

それが、ミュウツーにとっての好機だった。

彼は自らのサイコパワーで培養液のガラスを破壊すると、機械の管を引き千切り、破壊の限りを尽くしたのだ。

これまで自らを虐げてきた人間への復讐、と言うべきか。

破壊衝動に駆られて逃げ惑う人々の首をへし折り、命乞いをする哀れな老人は遠慮なく頭を潰してやった。

――気持ちよかった

生まれて初めて得た解放感。今自分は自由なのだと実感した、自分を縛るものは何もないのだと。



そして後に訪れたのは、虚無だった。

研究所は破壊しつくし、研究員達は総て殺した。

しかしそれでもまだ足りない、何か足りない。

この世界の狂気に晒されて狂ったのか、非道な実験により狂ったのか、それとも元から狂っていたのか。

ミュウツーには、もうそれすらもどうでもよかった。

分かっているのは、有り余る力を手に入れた自分は人としてもポケモンとしても存在することはできないのだということ…

破壊衝動、解放感、それらを終えた後の心がぽっかりと空いたような感覚。


(――ああ、私は…寂しかったのか)


漸く理解した。この虚無は、“寂しい”というものなのだと。

人でもポケモンでもない彼に、家族というものは存在しない。友人と言えるものも、仲間と言えるものも。

この寂しさを埋める方法を探し続けた。

その途中、狂気に当てられ狂ったポケモン達に襲われることもあったが…彼らとは分かり合うことがなかった。何故ならば、力の加減が効かずに文字通り“捻り潰して”いたのだから。



だが、そんなミュウツーにも転機が訪れる。

ミライとポッチャマ、この2匹の功績により過去が変わり絶望的な未来が変わったのだ。

それにより時が動き出し、朝日が昇る。

…眩しい

…このような光を見るなど、何年ぶりだろうか

その光はポケモン達にとっては希望の光だった。だが、一部のポケモンにとっては違う。

この光こそ、絶望の始まり。そして…新たなる狂った世界の始まりだった。


「…ぐっ!?ぐ、…ぐあああぁぁぁッ!」


ミュウツーは突然胸を突くような痛みに襲われ、その場に倒れる。

…何故だ

どうして私だけこのような目に遭わねばならない

私は存在してはならないというのか、あの太陽ですら私を拒絶するというのか

ならば私は、私のすべきことは


「――壊して、やる…私を否定する、この世界の総てを…。私を拒絶する、この世界の総てをぉぉおぉぉぉおぉおおぉぉぉおおおぉッ!」




その瞬間、ミュウツーの姿は全く別のものとなる。

胸を突くような衝動から解放されたことを知り、川を流れる水をふと見下ろすミュウツー。

だが、そこにあったのは己の姿とは全く違っていた。

不気味な姿。前の姿も相当だったが、この姿は見るからにポケモンのそれとは違う…

そうしていると、彼に話しかけてくる声。

背後から現れたのは1匹の老いたケンタロスで、おかしそうに笑いながらミュウツーだったものに話し始める。


「何じゃ、随分と戸惑っておるようじゃのう」

『誰だ、貴様は…私の何を知っている。私は一体どうなったというのだ!』

「…ほう、お前さん、ゲートのままでファントムになったのか。興味深いのう」

『ゲート…?ファントム…一体、何の話だ』

「目覚めたばかりで分からぬか。いや、むしろワシが知りすぎておるのがおかしいのか…一つだけ言えることがあるとするならば、ワシはお前さんの【同類】じゃよ」


そう言い放つと、ケンタロスの姿は巨大な黄金の獅子となる。

その体には見たこともない動物の衣装が所々に存在し、見るからに異形だということがよく分かる…

まさしくキマイラとも言うべきそれは、その場に座りながらミュウツーだったものに説明をしていた。

――まず彼の話によると、自分達は時の停止が起きたことによる時空間の異変によって流れ込んできた遺物を知らず知らずのうちに溜め込んでおり、時が動き出したことにより蓄積されたそれが一気に表に出たとのこと。

絶望の因子、とでも言うべきだろうか。

とにかくそれによって自分達はポケモンでも人でもない存在、『ファントム』へと昇華した。

通常ならばファントムは、ゲートと呼ばれる絶望の因子を持ったポケモンとは全く違う人格・気質で誕生する。

しかしミュウツーは元々の破壊衝動が強く、それが彼の中にいたファントムと噛み合いそのままの人格で生まれて来たのだとキマイラは説明する。



『絶望の因子を持つポケモンは他にも存在する。ただ、それに目覚めておらぬだけでな』

『つまり、――私は一人ではない、ということか?』

『む?』

『私は人でもポケモンでもなかった存在だ。だが今となっては、ファントムとして生きている…貴様もファントムで、ファントムとなれるポケモンもいるということは…私には同胞がいるということになる』

『…まあ、そうとも言えるのう』


難しそうな顔をしながらも、キマイラは答える。

…その言葉で、充分だった。

ミュウツー…いや、ワイズマンにとっては昔の自分の存在などどうでもよかった。

人でもない、ポケモンでもないことに悩む必要などない。自分と同じ存在はいるのだから。

しかし、とキマイラはワイズマンに一言付け加える。


『じゃが、――ファントムとして生まれたポケモンはそう多くない。絶望の因子から解放されたポケモンは少ない上に、ポケモン総てがそうであるわけではないのじゃ』

『ならば、どうすれば全てのポケモンをファントムにできる?』

『そうじゃのう…伝説の【賢者の石】、それさえあれば或いは。しかし何故そのようなことを願う?ポケモン総てをファントムにしてどうするのじゃ』

『それは…』





――そこで、ワイズマンの意識が覚醒する。

相当魘されていたようだ。

カトブレパスやメデューサは心配しているかのように彼の様子を伺っており、ワイズマンはゆっくりと起き上がる。


『わ、ワイズマン様。…大丈夫ですかい?』

『問題はない。――少し、懐かしい夢を見ていた』

『夢?』

『私の野望の実現のためにも、【賢者の石】は必要となる。同胞をいくら失ったとしても、賢者の石さえあれば…全てのポケモンはファントムとなるだろう』

『ワイズマン…では、私に魔法使い達の始末を命じてください!』


メデューサはその場に跪き、首を垂れる。

だが、それをワイズマンは良しとはしなかった。

メデューサの忠誠心の高さは立派なものだが、忠誠が深すぎて命令を逸脱する行為も見られる…

そんな彼女の暴走を許すわけにはいかず、だが命令がなければ勝手に動きかねない以上、ワイズマンはメデューサにこう言い放つ。


『いや、メデューサ。貴様はオーディンの元に向かい、協力を取り付けるのだ』

『オーディン…まさか、奴の力を借りる気で?』

『念の為の保険だ。いずれ魔法使い達は、ここに攻め入って来る…ならば相応のもてなしをするのが礼儀というもの。……カトブレパス、貴様は補佐として動け』

『ほ、補佐ですかい?』

『補佐と言っても、魔法使い達の足止めをする程度でいい。賢者の石、それを手に入れるためにも…邪魔者は引き離していた方がいいからな』

『ははあっ!』



(そう、賢者の石さえあれば私の野望は叶う)


(この世界をファントムのものとする日は、近いのだ…!)






〜〜〜






「――大変だーっ!【芽吹きの森】付近に、ファントムが出たぞーっ!!」



そう言ってジュプトル達のいる部屋に駆け込んできたのは、1匹のオニドリルだった。

その声を聴いたジュプトルは、ウィザードライバーを持ち、駆け出そうとする。

今のところ、すぐに動ける魔法使いは彼一人。

他は治療中…どころか、暴れて碌に手当てすることが出来ないのが2匹と、雪花屋が襲われた時のためにオニゴーリは残っておく必要があるだろう。

戦いに行こうとするジュプトルを見てピカチュウは止めようと手を伸ばすが、しかし、そう言っても話を聞く相手ではないことは分かっている。

何よりも、ポケモン達の身を…ゲートの身を第一に考えて行動しているジュプトル。

そんな彼を止められるはずがなく、だったらせめてとあることを彼に進言していた。


「ジュプトル!お願い、私も連れて行って!!」

「駄目だ、何があるか分からない…危険なんだぞ!もしまたゲルダやサイアの時みたいなことがあれば…」

「だけど、だけどそれでも…私は、最後までジュプトル達の傍にいたい。一緒に戦うことは出来なくても、近くにいてあげたい……だって私は、私達は、…探検隊【ブレイブス】の仲間だから…!」

「仲間、か」


――“仲間だから”

そう訴えるピカチュウであったが、この言葉には僅かに嘘が含まれている。

と言っても、「仲間」と言う言葉に偽りはない。嘘があるとすれば、…押し殺されたピカチュウの気持ちだろう。

恐らく何を言ってもピカチュウはついてくるだろう、それがどんなに危険なことだとしても。

ジュプトルは暫く考えた後、仕方ないといった様子で許可を出していた。


「…分かった。だが、一つだけ約束しろ…無茶と油断だけはするな」

「!…あ、ありがとう!!」

「約束ついでに、その馬鹿がファイナルスタイルなんて使わないよう見張ってろ。最悪の時にはこのゴローンの石を投げつけて止めとけ、凍らせたから威力は倍増だ」

(((あの館長容赦ねぇ…)))

「……ジュプトルさんもですよ。決してピカチュウさんを悲しませないでください、何を以ってして彼女が悲しむかは…自分で分かっていますよね?」

「…、……ああ。分かっている…行くぞ!」

<ハリケーン、プリーズ フー、フー、フーフーフフー!>




ピカチュウを背中に乗せ、ハリケーンスタイルは【芽吹きの森】に向かう。

そこでは、ダンジョン近くの森に集落を構えるキモリ達が住んでいるのだが…今は、殆どの者が医師になって動かない。

酷い、とピカチュウは思いながらも周囲を見渡し…ハリケーンスタイルは警戒を続ける。

そうしていると、ガサガサと草むらが揺れる音が聞こえ、「誰だ」とハリケーンスタイルが叫ぶとそこには1匹のキモリ。

かなり怯えているようで、自分以外の仲間が突然石になってしまえば無理もないだろう。


「お前は…生き残りか」

「うう…も、もしかして、噂の指輪の魔法使いさん…?」

「ああ」

「私達は、探検隊【ブレイブス】。ねえ、ここで何があったの?」

「分からない…分からないんです。俺、いつものように皆で食べる木の実を探していたら…突然変な怪物に襲われて。その怪物は空からやって来て、皆を石に…」

「…空?」

「ジュプトル、危ない!」


ピカチュウの声に反応したハリケーンスタイルは、キモリを小脇に抱え、跳躍力を生かして瞬時に横跳びに回避する。

空から光線が放たれ、先程までジュプトル達のいた場所は石のように固まってしまう…

上を見上げると、そこには先程のオニドリル。

しかし彼はこちらを見て目でニヤリと笑うと、黒い翼を持った馬の怪物へと変貌していく。

これが、キモリの集落を襲ったファントム…カトブレパスの正体。


「あっ…あいつです!あいつが、皆を…」

「貴様か、ここのキモリ達を石にしたのは…人の故郷と知っての狼藉だろうな」

『ワイズマンは補佐でいいとは言っていたが…ここで魔法使いの石像をプレゼントすれば、メデューサを差し置いて俺が幹部格!ってモンだ』

「ファントムの幹部になろうって奴の気が知れないな。ピカチュウ、こいつと一緒に安全な場所まで下がっていろ」

「分かった!…ジュプトル、無茶したらオニゴーリさん特製の氷結ゴローンの石だからね!!」

「…なるべくそれは食らいたくないものだな!」

<フレイム、プリーズ ヒー、ヒー、ヒーヒーヒー!>



そう言いながら、ウィザーソードガンを構えるフレイムスタイル。

しかし、相手は見た目以上に素早いのかなかなか銃弾が当たらず、体当たりを食らわせてくる。

頭には鋭い角を有しており、辛うじてかわしはしたが右腕に角が僅かに掠ってしまう。

すれ違いざまに再び銃弾を当てようとするが、やはり相手はそれも難なくかわし、今度はフレイムスタイルも角を警戒してバク宙で避ける。

互いに一進一退の攻防。

しかし依然として攻め手を譲らないカトブレパスの方が優勢で、指輪を変えようにもその隙すら与えられない。

遂には突進…と見せかけて腹部に強烈な蹄キックを浴びせ、フレイムスタイルは大きく蹴り飛ばされる。

その衝撃で腰のリングホルダーから指輪が1つ転がり落ちてしまうが、それを拾っている余裕などジュプトルには…ない。


「…ぐうっ!」

「ジュプトル!」

「ああっ…」

『はっ、弱い弱い!こんなのに他のファントム達は負けたのか、情けない話だぜ!!』

「ならば自分で、確かめるんだな…!」

<ウォーター、ドラゴン ザバザババシャーン、ザブンザブーン!>


フレイムスタイルはウォータードラゴンへと姿を変え、スペシャルによって呼び出されたドラゴンの尾でカトブレパスを薙ぎ払う。

しかしその一撃は容易くかわされ、カトブレパスは急降下からの突進攻撃を加えようとしていた。

だが…

瞬時に“リキッド”の魔法で液状化したウォータードラゴンの体を貫通し、「何」とカトブレパスは振り返る。

その一瞬の隙を狙い、ウォータードラゴンは“ブリザード”の魔法で相手を氷漬けにしていた。

やった、と喜ぶピカチュウとキモリであったが、トドメとして放とうとした尻尾の一撃が…出ない。

いや、石になってしまって動かないのだ。

石になってしまうと想像以上に重くなるのか、満足に尻尾を動かせず苦戦するウォータードラゴン。そうしている間にも、ピシリと氷に亀裂が入っている。


「ぐ…あの野郎!」

「ジュプトル!別のスタイルにチェンジしないと、氷が…」

『――おらあっ!』



ビシビシ、と氷はひび割れ、遂にはカトブレパスが自力で脱出する。

しかしその前にウィザードはランドドラゴンに変身すると、相手の石化光線を完全に浴びせられる前に地面に穴を掘って逃げていた。

だがそれに慌てることなく、カトブレパスは周囲一帯を石に変え…簡単にランドドラゴンが抜け出せないようにする。

ピカチュウとキモリも慌てて逃げるが、石が浸食するスピードの方が速く…遂には足が地面にくっつく形で固まっていた。


「きゃあ!?」

「うっ…も、もうおしまいだ…!」

『出てこないな、指輪の魔法使い…もしかして逃げたかあ?だったらこいつらを嬲って、誘き出すまで…ん?』

「――生憎と、『勝ち目がない時以外で逃げる』と言う選択肢はないんでな!」

<ファイナルタイム!>

<オールドラゴン、プリーズ>


カトブレパスの頭上に影が落ちたかと思えば、ウィザード・オールドラゴンが巨大な翼を広げ向かってくる。

尻尾は石化したままではあったものの、その重さもあってか落下スピードはかなり速い。

慌ててカトブレパスはオールドラゴンを石像にしてやろうとしていたが、彼が石化光線を放つ前に…風を纏った尻尾の一撃が、振り降ろされていた。


「自分の能力に首を絞められたな、馬面トリめ」

『うぎゃあああああっ!わ、ワイズマン様…だが、これで…!!』

「やったあ!」

「す、凄い…凄く強い魔法使いがいるって、本当だったんだ…!」


石になっていた尻尾も元通りになり、ふう、と一息つくとウィザードの姿はハリケーンドラゴンへと戻る。

ピカチュウとキモリの足も、そして石になったキモリ達も元通りになり、平和が訪れた…




かのように思われたが。

「そうだ」とピカチュウは思い出したかのようにフシギダネの薬を取り出し、ハリケーンドラゴンに言う。


「…そうだ、ジュプトル!さっきの戦いで怪我したよね、ちゃんと治さないと」

「え?…あ、ああ、そういえばそうだったな…だが別に、今でなくとも」

「もー、こういうのはちゃんと早いうちに治しておかないと!ほら、変身解いて怪我見せて!!」

「…いや、それよりも、さっきのファントムの言葉が気になる。もしかすれば…あいつ、俺をポケモンタウンから引き離すための囮だった可能性が…」

「ええっ!?そ、それだったら早く戻らないと…ああ、でもジュプトルの怪我も…」

「怪我は後ででいいだろ。早く戻るぞ!」


そう言い放ち、ハリケーンドラゴンはピカチュウを左手の小脇に抱え、急いで立ち去っていく。

ピカチュウは「相変わらずせっかち」と思いながらも、ポケモンタウンに再び危機が訪れているかもしれないと思うと、不安を寄せる。

オニゴーリがいるならば心配はいらないと思うのだが、もしまたワイズマンが来れば…

しかしそのワイズマンとジュプトルが戦ったとして、本当に勝てるのか?

勝てると信じたい。だが、万が一のことがあれば…



そして…

ハリケーンドラゴンはどうにか誤魔化せたか、と思いながら翼を動かしている。

実はカトブレパスの角が掠った時も、蹄で蹴られた時も、――既に痛みを感じていなかった。

しかし完全に感じていないというわけでもなく、痛みの感覚がやや鈍っているといったところか。

更に彼の体の異変は、これだけでは終わらなかった。


(傷を受けた痛みが、もう完全にない。むしろ掠り傷自体が…)


普通なら僅かにでも傷を作り、それに気付くと暫くはその違和感が気になる。

しかしハリケーンドラゴンには、その違和感が無くなっていたのだ。

右腕の方を確認してみると、あろうことか既に回復している。

恐らく掠り傷だったからこそこの治りの速さなのだろうが、それでも今までに比べれば異常だ。

この異変が何を意味しているのか。

――ハリケーンドラゴンには、言わずとも分かっていた。


(俺が、…少しずつ、ファントムに近付いているとでも言うのか…!)






***




ジュプトル…

彼に救いは、あるのか。

ウィザブレも大体(主にザウバー辺りが)重かったですが、ウィザダンはジュプトルが…

……

味方から死人が出ないって確定している紙ディケって、もしかしてすっごく緩い?

(※ただし精神的には一部緩くない模様)


リザードンとブイゼルめw

次回はお前達が頑張らなければならないというのに…

館長?

館長はほら、雪花屋の守りがありますから…

もしかしたらソーサラー…出番自体はあることになりそうです。が、直接前線に出てファントムに絶望を齎すのは前回で最後です。

敵に絶望与える魔法使いもどうかと思うけどな!



ワイズマン、いや、ミュウツー…

その過去は割と重い。

割と、になるのは大体オオスバメのせいだ。

あいつはあの底抜けアホキャラだからこそ、過去のギャップが酷かったんだ。

そう考えるとソーサラーの付属品程度で済んだヘイガニって本当に一般人だな!!!

他は


ジュプトル→儀式によって魔法使いになった・主人公・現在ファントム化進行中

ピカチュウ→被害者A・ヒロインその1・下手すればヴィオレ様の二の舞になりかねない状態

ヘイガニ→ほぼ巻き込まれ

オオスバメ→尽くファントムの作戦を台無しにすることに定評のあるアホ・過去が壮絶に重い・ジュプトルに救われた過去持ち

コータス→セイレーンファントム・記憶を白魔によって奪われている・ヒロインその2・一度(二度?)死んだ

オニゴーリ→妻を失う・コータスが殺され絶望→魔法使いに・ウィザダン界最強として君臨する種族値ALL80

リザードン→フェニックス(+ベルゼバブ)によってゴウカザルを殺される・ファントム側との因縁が強い本編との逆転現象(ジュプトルの因縁は実際メデューサのみ)

バンギラス→共通の友人であるゴウカザルを殺される・ファントムに対して突撃取材(たまに戦闘もする)・実は館長の次に最強だったりする

ギャラドス→被害者B・放火事件の濡れ衣を着せられる・ベルゼバブの策によって子供達が怪我を負い絶望

ミロカロス→被害者C・太っていた頃の過去をばらされ絶望・希望を取り戻すきっかけになったピカチュウとは良き指定関係

オオタチ→ペガサスファントム・オオスバメを使って色々やっていた・ファントムと魔法使いを天秤にかける・ピカチュウを庇って死亡

ポポッコ→バンギラスの友人・真実を追求する記者根性(ただし状況によっては見逃してくれる)・割と常識人

ヤミラミB→指輪を作る・メインの中で影は薄いが喋り方に個性はある・ミロカロスにランドドラゴンリングを渡そうとした

ヨノワール→ジュプトルとは過去に因縁がある・ブイゼルと共に神の頂を目指す・ジュプトルのことを今では友と認めている

ブイゼル→ファントムを見分けられる目を持つ・ヨノワールと共に神の頂を目指す・役に立つのか立たないのか



ぶっちゃけ、ちゃんとした一般人って言えるのはヘイガニと、後ポポッコぐらいなんですよね。

ギャラドスとミロカロスはゲートだったから分かる

あとポポッコはたまーに(ウソッキーもなんですが)バンギラスからファントム関係の記事を書かせてくれないか、って頼んでます。要するにネタくれ

ウソッキーは面白いから・タイムリーネタだから、って感じなんですがポポッコはバンギラスがすぐにでも突撃取材するんだろうなって分かった上で「自分が寸分違わず書くから思う存分自分の取材して来い、真実見逃すなよ」精神。

実際ポポッコたちに任せて、すぐさま別のファントムの事件を調べる奴ですからねバンギラス。

そしてその無尽蔵の体力を記者として遺憾なく発揮するどころか、遂にはケルベロスと戦ってませんでしたっけあいつ…

マジでファントム絡んでこなければヘイガニって普通の生活送れてたよな!?(まあ最終的には色々巻き込まれるんでしょうが)


ジュプトル…

もはや彼に救いはないのか、それとも。

賢者の石次第と言ったところでしょうが、ミュウツーにもそれを手に入れたい理由が存在する。

そしてその理由は単純な支配欲によるものなのか、それとも…?




次回。

前も言ったと思うんですけど、ブイゼルの中にいるファントムってケルピーなんですよね。

水馬のファントム。