――セレビィが、ファントムだった
――それも、これまで自分達を苦しめてきたメデューサ
この事実はかなり衝撃的なもので、特に、セレビィをよく知るジュプトルはかなり動揺していた。
それは、ヨノワールの部下の一人であったヤミラミも同様…
【ヤミラミ宝石店】で詳しい話をすることになったジュプトル・ピカチュウ・オオスバメ・オオタチ・オニゴーリ・ヘイガニ・コータス…
ポポッコとギャラドス、ビースト組(リザードン・バンギラス)は、病院のほうに向かったらしく、この場にはいない。
そして…
ヤミラミは「信じられない」といったような様子で、口を開いていた。
「……ウイィ…あの、セレビィがファントムだって……?それ、本当なのか」
「うん…私達も、目の前で見て」
「だけど、……これでようやく合点がいった。確かにセレビィなら、スパイとして潜り込んでいても不自然じゃない」
「「「…」」」
ヤミラミの問いにピカチュウが暗い顔で俯きながら、答える。
更に、その後のオニゴーリの発言には、その場にいた殆どの者が反論できずにいる。
…確かに、セレビィの立ち居地というのはファントム側にはかなり都合のいいものなのだ。
決して怪しまれることがなく、特に指輪の魔法使い…ジュプトルからの信頼が強い彼女は、諜報活動には充分すぎるほどだろう。
となれば、一番納得できるのが……テディスの時の事件。
大半のポケモンが【記憶食い】の能力によってジュプトルに関する記憶を食われた挙句、別の記憶にすり替えられていた…
元々相手の能力が効かなかったオオスバメ以外では、セレビィしか“ジュプトルを襲わずにいた”のだ。
これが意味することは一つ、――セレビィの記憶を食う必要が無いのだ。
彼女はただ、記憶を『食われたフリ』をすればいいだけなのだから。
「――オオタチ…セレビィは本当に、ファントムなのか」
ジュプトルが、重い口をようやく開く。
その問いかけに、ヘイガニが割って入ろうとするが…
その前にオオタチが、尋ね返していた。
「もしかして、僅かにセレビィさんの自我が残っているんじゃないか…って信じちゃってます?」
「そうとしか思えない…そうじゃなければ、あの時のあの反応は!」
「今のうちにはっきり答えを言っときます、――他のファントムだったらそれを信じていいかもしれない。だけど相手は、ファントムの中でも尤もワイズマンに心酔しているメデューサ……99%の確率で嘘だと思いますよ?」
「…だが!」
「落ち着け、ジュプトル!」
なおも食って掛かろうとするジュプトルを、ヘイガニが止める。
セレビィを信じたいジュプトルの気持ちは、ピカチュウには分かるような気がしていた。
彼らは、自分が出会うよりも前から…共に戦ってきた、仲間なのだ。
時の崩壊を食い止めるべく、この世界に光を取り戻すべく戦った、仲間なのだ…
そんなセレビィがファントムだったなど、信じられるはずがない。
ピカチュウも、蜘蛛の糸ほどでもいい…小さな希望に縋り付けないか、模索していた。
「……オオタチさん、ファントムに…生前のゲートの自我が残っていることって、あるの?」
「…まあ、自分がそうですからね。ないとは言えませんが…」
「「だったら!」」
「でも、現状そうである可能性は低いんですよ。――生前のゲートの自我を持ったままファントムになった者がいるとしたら、私以外だと……ワイズマンのみ」
「…ワイズマンもそうだというのか?」
「というよりは、【生前のゲートとファントムの性格が一致している】に過ぎないんですよね。だから私は気まぐれでフリーダムで自由で局地的暴風なんですよ」
基本的に、ゲートと体内のファントムの性格は反発している場合が多い。
穏やかなゴウカザルと血の気の多いグレムリン、心優しいコータスと残虐無比なセイレーンが一番いい例だろう…
ゲートであるポケモンとファントムは、別の存在。性格・考えといったものが一致していることなど、殆どない。
しかし稀に、オオタチとペガサスのように互いの性格や考え方が一致している場合もある。
もしもそうなった場合、ファントムが外に生み出された際…ゲートの意識とファントムの意識が融合し、両者の性格が混ざり合ったファントムが現世へ出されることもあるのだ。
ファントムとゲートの性質が一致し、尚且つ両者の意識が融合して誕生するファントムは、1人いればいいほうらしい。
「大抵の場合は、ファントムとゲートの性質が同じだったとしても、ファントムを生み出した時点でファントムの意識のほうで生まれてきます。……ゲートの意識のほうが勝つ、或いは両者の意識が混ざり合った状態でファントムとなるなんて…本当に数限りある例なんですよ」
「そんな…」
「だったら、コータスはどうなんだ。あいつはファントムとして生まれこそしたが、ゲートの意識を持って…」
「それは、――白い魔法使いによってファントムとしての記憶を消されたからに過ぎないんです。記憶を無くした直後の私は、生前のゲートの記憶に縋って生きるしかありませんでしたから…」
コータスも複雑な事情つきとはいえ、ファントムだ。
もしも彼女と同じケースなのだとしたら、セレビィもきっと…
そんな希望を抱くも、コータス自身から「難しい」と言われ、ジュプトルは頭を抱える。
そもそも現在の人格の形成も、セイレーンとしての記憶を消され、ゲートの記憶を頼りに過ごしてきた結果なのだ。
ピカチュウは白い魔法使いのことを引き合いに出すが、ヘイガニとオニゴーリにはっきりと無理だと言われてしまう。
「だったら、白い魔法使いに何とかしてもらうのは!?」
「…それは一番無理だろ。理由はどうあれ、白い魔法使いは自分が生み出した魔法使い…ジュプトルすら倒そうとした。セレビィを救うために力を貸してくれってのも無理な話だ」
「それに……もしあいつが協力的だとしても、白い魔法使いはセレビィにそれを施すことはない。――なにやら重大な爆弾を抱えているみたいだしな」
――もはや、八方塞。
ジュプトルは少し外の空気を吸いにいくと言い、宝石店を出る。
その後に続く形でピカチュウも退出し、後に残されたオオスバメがオオタチに尋ねていた。
「…でもジュプトルの言うとおり、セレビィの反応も少しおかしかったよね。アレは何だったんだろう」
「高確率で演技、罠ですよ。ジュプトルさんを動揺させようとしてるんじゃないですかー」
「……メデューサの性格から考えたら、ありえないって言い切ることができないっつーのもな…。それより俺は、あのレギオンってファントムが気になるぜ」
「あ、そうそう。リザードンが『俺じゃ壊し甲斐がないってどういうこった!』って激おこプンプンファイヤーだったよね。オオタチ知ってる?」
「あ、でしたねー。……よりにもよって、面倒なファントムを解放しちゃったですこと」
解放、と言う言葉に誰もが首を傾げる。
少なからず、ファントムの内情にはオオタチのほうが詳しい…
彼女はオボンジュースを飲みながら、レギオンについて話していた。
「……レギオンは、私とは別のアプローチの仕方で……誰かのアンダーワールドに入ることができるファントムなんです」
「「「アンダーワールドに!?」」」
「はい。ただ、レギオンは変な性癖ってゆーか…自分のお眼鏡に掛かったアンダーワールドしか壊さない、って奴なんです。それが一般ポケモンだろうとゲートだろうとなりふり構わずやるもんですから、ワイズマンが封印してたとか何とか」
「……そんな厄介な奴が出てきたってことは、ファントムも相当切羽詰ってんのか?」
「ファントムが、と言うよりは、メデューサが…か?ただ、いずれにしろ……ジュプトルは暫く、半凍死させてでも戦わせないほうがいいだろうな」
〜〜〜
その頃、病院では…
レギオンによって被害に遭ったポケモン達が、苦しそうに呻いていた。
キレイハナを始めとするポケモン達は、意識不明の重態。
顔も青白く、何度も魘されているのだ。
妹の傍らでずっと祈っているラフレシアから少し離れた場所で、ギャラドス・リザードン・バンギラスはミロカロスから話を聞いていた。
「どうやら、キレイハナ以外にも沢山被害者がいるみたいね…その誰もが、彼女と同じ症状を訴えているわ」
「くっそ、あの好き嫌い野郎め!」
「好き嫌い野郎…でちょっと思ったんだが、あいつ、リザードンは駄目でオオスバメとジュプトルはいいみたいなことを言ってなかったか?」
「…俺はその時現場にいなかったから、分かんねぇよ…。だけどフラワー商店の姉妹2人はどっちもOKとか言ってたんだよな、……本当にどういうことなんだ?」
うーんとバンギラス、とギャラドスが唸っていると…
そこへポポッコがやって来て、会話に入る。
「共通点と言い切れるかは分かりませんけど、ある程度の目星はつきましたよ」
「「「ポポッコ」」」
「被害者全員、何らかのボランティア活動をしていたり…困っている人を見ると放っておけない性格だったり、そういった人達みたいです。そうなると、オオスバメさんは凄く納得なんですよね……いい意味で馬鹿ですし」
「あー、それならリザードンはアウトだな」
「無理に食べたら食中り、ってか」
「おいコラ!?バンギラスにギャラドス、お前ら表出ろ!」
ぎゃあぎゃあと喧嘩をする男共に関しては、ラッキー婦長を呼んで“地球投げ”強制退散をしてもらい。
…その間にミロカロスは、ポポッコと話を進めていた。
レギオンが狙うのは、綺麗な心の持ち主。
キレイハナは姉のラフレシアと一緒に、商店街の美化活動に勤めていた…
それ以外にも、被害者は全員「困っているポケモンを助ける!」という純粋な気持ちで探検隊を志した者や、困っているポケモンに手を差し伸べられる優しい者。
――そういったポケモン達の心を壊して、弄んでいるのだ。
恐らくレギオンさえ倒せば解決するのだろうが、放置しておけば放置するほど厄介極まりない相手だろう。
「少し危険だけど、囮作戦というのはどうかしら?」
「いいとは思いますけど…誰を囮にするんですか?コータスさんがうちの中じゃ一番条件にぴったりですけど、超ファントム級の地雷を踏みに行きますかね」
「まあ、色んな意味で地雷よね…コータスは……。一番いい候補はヘイガニか、オオスバメかしら…あぁ、でも、オオスバメはなんか色々と釣れないような気が……」
「純粋さでは勝ってるんですけど、囮にすると尽く嫌な予感しかしないんですよねー……じゃ、ヘイガニさんでFA?」
「ファイナルアンサー」
〜〜〜
【雪花屋】近くの森の中。
ジュプトルは一人、佇むようにして考え事をしていた…
そこへピカチュウがやって来て、その隣に座りながら、話をしていた。
「……迷ってるんだよね?セレビィのこと」
「…」
「その気持ち、分かるよ。私だって、ミズゴロウに裏切られた時凄く辛かった……ううん、多分私なんかより、ジュプトルのほうが気持ちが通じ合っていた分ずっと…辛いと思う」
「……」
「――私もね、できる限り信じたいんだ。セレビィのこと、…セレビィだってきっと…必死に戦っているんだってこと」
ピカチュウとしても、セレビィのことは信じたかった。
突然、意識を取り戻したかのように錯乱し…姿を知られた瞬間、逃げ出して。
…それまで自分達が知っていたメデューサでは、なくなっていた。
ジュプトルは木々に覆われた空を見上げながら、呟いていた。
「……俺は今まで、ファントムの好きにさせまいと戦ってきたが」
「?」
「…今、やっと、他のゲートの気持ちが分かったような気がする。……自分の信じてきたものに裏切られる、というのは、…確かに辛いな」
「……そう、だね。でも皆、ジュプトルのお陰でそれを乗り越えたんだよ」
「館長はむしろ、完全に自力だったがな…。――だとしたら俺も、どうにかして乗り越えないといけないな…それが例え、どんな結果になるとしても」
「ジュプトル…」
倒す、つもりなのだろうか。
ピカチュウはジュプトルに顔を向けるが、…その表情はまだ迷いが見え隠れしている。
「……ジュプトルさん」
そこへ、渦中の存在が現れた。
セレビィはもの悲しげな目でジュプトルを見ており、ジュプトルは咄嗟にウィザードライバーを構える。
だが、セレビィは戦う気配を見せることなく…
悲しげな表情のまま、ジュプトルに語っていた。
「!…セレビィ…」
「今まで黙っていて、ごめんなさい。――だけど私、どうしても本当のことを話すことができなかった…いえ、……話すことさえできなかった」
「どゆこと?話すことさえ、って…」
「……私は時々、自分の体が自分のものでなくなるの。つまり…私の中には、セレビィとしての心とメデューサとしての心……2つの心が存在している」
「2つの…心…?」
「そんなこと、本当にあるの!?……だけどオオタチさんは、そんなこと一度も」
「多分、彼女すら知らないことだと思うわ…私だって、今日初めて…分かったことだから……」
――話は、半年前へと遡る。
セレビィもまたあの儀式の日に遭遇しており、セイレーンの歌で絶望し、ファントムとなった…
しかし彼女は、不完全なファントムとして誕生したのだ。
メデューサとして非道の限りを尽くし、ワイズマンに忠誠に誓っていた…しかしそれは、彼女の中に生まれたもう一人の“彼女”。
本物の“彼女” …セレビィは、ファントムである“彼女”が出ている間の記憶は、殆どないと言ってもいい。
だが、先程の戦いの影響で…偶然にも本来のセレビィの心が、表に出てきたのだ。
そして、その際に総てを悟った……自分が、ファントム・メデューサだったのだと。
「私は……もう一人の私が酷いことをしてきた間の記憶は、まったくない。だけど、…総て分かったの……私は、償いきれないほどの罪を犯した」
「セレビィ…」
「ジュプトルさん、お願い、――私を倒して…」
そう言いながら、セレビィはメデューサの姿となる。
どうやら、今はセレビィの心が表に出ている状態のようで…メデューサの心が打ち勝ち、体の所有権を奪い取るにはまだ時間があるという。
――だからこそ、私が私である間に…『セレビィ』のままで逝かせてほしい――
それが、彼女の頼みだった。
その言葉にジュプトルの心は、激しく揺さぶられる。
「だが、セレビィ、お前は…お前はそれでいいのか?」
『構わない!――ジュプトルさんに倒されるなら、本望だから』
「ッ、……まだ方法があるかもしれない!それからでも遅くはないだろう!?」
『駄目なの!……恐らくあいつは、メデューサは、私のしようとしていることに気付いてる…今このチャンスを逃すと、もう二度と私は表に出てこられなくなる…』
「セレビィ…!」
『お願い、ジュプトルさん。……私が、私であるうちに…早く……!』
悲痛な声で懇願する、メデューサ…いや、セレビィ。
メデューサの姿はしていても、その心は完全にセレビィそのものだった。
ジュプトルは暫くその場で立ち尽くしていたが、意を決したかのようにウィザードライバーを装着する。
そのままランドスタイルに変身すると、“コネクト”でウィザーソードガンを取り出し、セレビィの首筋に向けていた。
「……セレビィ、これが、お前の…決断、なのか」
『ええ、そうよ。…だから…ジュプトルさん、』
「――!!」
ランドスタイルは勢いよく剣を振り下ろそうと、ウィザーソードガンを天高く掲げる。
だが…
『大好きだった』
その小さな呟きが聞こえた瞬間、ランドスタイルの剣を持つ手が止まる。
すると、そこへあまりにも帰りが遅くて心配したのか…オオタチとオオスバメ、ヘイガニがやってくる。
更に、リザードンやバンギラスといった病院組も合流し、空気を察したヘイガニが叫んでいた。
「おい、ジュプトル!」
『……ジュプトルさん、早く…トドメを……』
「…できるわけ、ないだろう。――お前が、お前の心のまま助かる希望があるかもしれないのに…殺せるわけがない……!!」
「ジュプトル…」
『ジュプトル、さん…でも……』
「それに、方法がないわけでもない。――【賢者の石】…あれさえあれば、もしかすればお前がメデューサから解放されることもできるはずだ。……それまで…」
その刹那、――ランドスタイルの背中を無粋な一撃が襲った。
背を袈裟斬りにするように放たれたその斬撃は、レギオンの鎌によって繰り出されたもの…
更にその傷には亀裂のようなものが走り、奥からは別の世界のようなものが見える。
恐らくあれが、アンダーワールドなのだろう。
ランドスタイルはその場で膝をつき、セレビィを見るが
……氷のように冷たいその微笑は、自分達の知るメデューサのものだった。
「セレ、ビィ、」
『ふふ、―――あははははははははははは!流石の魔法使いも、自分の愛しい相手には弱いみたいね……こんなに簡単に隙を作ってくれるなんて』
「嘘、じゃあ…さっきまでのあの話は」
『作り話に決まっているでしょう?本物のセレビィは、半年前の儀式の日に死んだ…そもそも一つの器に2つの魂が存在するなんて、ありえない話でしょうに』
「……ッ!」
「こいつっ…フェニックス以上の腐れ外道がッ!」
<L・I・O・N、ライオーン!>
<ファルコ、ゴーッ! ファッファッファファルコ!!>
リザードンは怒りに身を任せ、ビーストへと変身する。
ファルコマントを展開したビーストはすかさずメデューサへと切りかかるが、頭部の蛇の目が光り、現れた岩で阻まれてしまう。
その間にレギオンはランドスタイルの体に発生した亀裂の中に入り、そこからアンダーワールドへと侵入する。
「しまった」とビーストは叫ぶが、体の中に入ってきた“異物”がアンダーワールド内で起こす衝撃で、ランドスタイルは変身を解除してしまう。
『迷いながらも、今は存在しないものを助けようとする心…実に美しい。さぞ、壊し甲斐があることだろう…!』
「ぐっ、…あああああああああああ!?」
「「「ジュプトル!」」」
「くそっ…リザードン、メデューサはいい!ジュプトルのアンダーワールドに!!」
「だが、メデューサを倒してからじゃないとどの道…!」
そう、――そもそもアンダーワールドに自由に出入りできるファントムに対して魔法使い1人と言う時点で、詰んでいるのだ。
しかも、攻撃対象がジュプトルということは…ヘタをすればジュプトルの中のファントム・ドラゴンを倒されかねない。
だが、ここでメデューサを放置しても…メデューサは周囲にグールの種をばら撒きバンギラス達を足止め、その間にジュプトルを殺すだろう。
ジュプトルを殺害した場合、アンダーワールド内にいるビースト・レギオンもただでは済まされないだろうが…どちらもメデューサにとっては消えても構わない存在。
唯一、レギオンの能力対策ができるオオタチもいるのだが……彼女曰く「戦闘能力がない」。
――しかし、次のメデューサの行動は、意外なものだった。
なんと彼女もまた、レギオンの生み出した亀裂からジュプトルのアンダーワールドへと入っていったのだ。
『クク…』
「なんっ…だ、だが、これでどっちも潰せばいいだけになった!」
「リザー…ド……」
「喋るんじゃねぇ!俺が蹴りをつけてくる!!」
<エンゲージ、ゴーッ!>
ビーストもまた、ジュプトルのアンダーワールドの中へと入っていく。
彼の中にあったのは、昼もなお暗い大樹の森。
――いや、これは、かつての暗黒世界だ。
そして、その中にいたのは…今はもう絶滅してしまった、人間。きっと彼女こそ、話に聞いていたミライなのだろうとビーストは理解する。
恐らくこれは、ミライとジュプトルが最初に出会った時の光景。
だが…
空に、地上に、森に紫の亀裂が入ったかと思えば…ドラゴンは激しく暴れ回り、よく見ればその背ではメデューサとレギオンが攻撃を加え続けている。
『グオォォォォォォッ!』
『くっ、大人しくしなさい…!』
「ドラゴン!……待ってろ、今すぐ蹴散らしてやる!!」
<キマイライズ、ゴーッ!>
ビーストキマイラを呼び出したビーストは、その上に乗り、ウィザードラゴンの頭上を取る。
更に、そこからひらりと飛び降りると…ウィザードラゴンの背の上に乗り、メデューサに斬りかかっていた。
だがそれをレギオンが受け止め、二人の激しい攻防戦となる。
「くそっ、退きやがれ!」
『本来ならば君の相手はしたくないのだがね…この暴れ竜を倒せる、いい手段があのクレイジーガールにはあるそうなのだよ』
「何だと!?」
『私を誰だと思っているの?――我が名はメデューサ…その瞳を向けられたものは総て、物言わぬ石となる!』
メデューサはそのまま、バイザーの奥に隠された眼光を赤く光らせる。
すると、その光を向けられたウィザードラゴンの体はたちまち石へと変化していくではないか…
「まずい」とビーストがレギオンを早めに倒そうとするが、急ぐあまり剣が鈍り、逆にレギオンの攻撃を腹にまともに食らってしまう。
そうこうしているうちに、首、頭、翼、胴体、手足、尾とウィザードラゴンの肉体は石へと変化し、そのまま地面に墜落。
墜落の衝撃でビーストは遠くまで吹き飛ばされ、それをチャンスと見たメデューサは杖で一突きする。
その追い討ちにレギオンの鎌の斬撃が放たれ、――ウィザードラゴンは声を上げることなく絶命した。
次の瞬間、ビーストは勢いよくアンダーワールドの中から弾き飛ばされ、レギオンとの戦いによるダメージもあってかすぐに動くことはできない。
「があっ!?」
「リザードン!」
「おい、ドラゴンはどうした……まさか!」
『――ドラゴンは始末した、次は貴様の番よ…古の魔法使い』
メデューサは念には念を入れ、周囲にグールをばら撒く。
これで、ピカチュウ達からの邪魔が入ることはないだろう…
レギオンはビーストの始末には興味がないようで、ドラゴンを倒した後、そのまま撤退していた。
とはいえ、手負いのビーストが何とか立ち上がる前にメデューサが彼を攻撃しようとする。
…しかし、グールを振り切ったピカチュウの電気ショックがメデューサに当たり、体を震わせながらメデューサに言い放つ。
「……酷いよ、…ジュプトルは信じてたのに…セレビィの心がまだ生きてるって、助かる希望があるかもしれないって信じてたのに……」
『騙されるほうが悪いに決まっているでしょう?』
「そうかもしれないけど、でも、――こんな汚い方法でしか…あなたはジュプトルに勝てなかった。こんな卑怯な方法を取らないと勝てないような人が、……ジュプトルを馬鹿にしないでッ!」
『…黙って聞いていれば!』
「「「ピカチュウ!」」」
メデューサの怒りの矛先は、ピカチュウへと向けられる。
先程ウィザードラゴンを仕留めた、あの石化の光をピカチュウに向け…石にして粉々に砕く気だ。
しかし、その直後ピカチュウを突き飛ばし、庇った者がいた。
…オオタチだ。
一瞬何が起こったのか分からなかったピカチュウは、自分の代わりに石になっていくオオタチに向けて叫ぶ。
「……オオタチさんッ!?そんな…どうして、」
「…参ったなー、自分でもどうしてか分からないんですよーあはは」
「なんで、何で私を…オオタチさんが残っていれば、ジュプトルを…ドラゴンを救えるのに!どうして!!」
「――流石に、石になって壊れたものを治せって言うのは無理な話だって。そもそもコータスさんの状況でさえ…できるか…分から…な……っ………」
「オオタチ!」
次第に、石になっていく
言葉を出すのも精一杯で、
…あー、どうしてこんなことしたんだろうなぁ
自分としては、慎重に事を進めたつもりなんだけど
やっぱ、情を移すと面倒なもんだねー…
まあ、どっちについたとしても、どちらかを天秤に掛けた時点でこういう終わりしかなかったんだろうね
後悔はしてませんよ?
なんか不思議と、やってよかったーとか思えるんですよねー
……あ、後悔…あるにはあるかな
こんなことしてるってばれたら、館長に大目玉食らうんだろうなー…
でもね、私だってファントムですよ
ただでは死にませんよ
元々、魔法使いもファントムも引っ掻き回してきたもんだ。今更両陣営を引っ掻き回すなんて、お茶の子さいさいですから
「――希望は、何度でも…みが…る、……を捨て…い…り、その命…終える…で、ずっと……」
「――【賢者の石】…、…………ルさ…の、中に……」
「――オオスバメさん、後は……任せまし………」
その言葉を告げた瞬間、オオタチは完全に石化するよりも前に…
メデューサによって、先に石になっていた部分を、砕かれていた。
石になって壊されるよりも、残酷な死に方。
元々がファントムであった彼女は、命を落としても亡骸が残ることはない…ただ灰のように、消え去るだけだ。
『……まさか、自分から殺されに来るなんて…まあいいわ。邪魔者が一気に二人、消えただけでも……』
それだけ言うと、メデューサは踵を返し…そのまま去っていく。
だが、後に残された者達は…
リザードンは地面を勢いよく殴りつけ、バンギラスはぎり、と歯軋りをする。
オオスバメはジュプトルの様子を見に行き、ヘイガニやギャラドスは怒りと悲しみの入り混じった表情を見せる。
そして、ピカチュウは…
今までオオタチのいた場所を見ながら、泣き叫んでいた。
「……オオタチ、さん…オオタチさあああああん………!」
***
裏話:実はドラゴン死亡の後、メデューサがジュプトルを殺そうとした時に庇って刺されて死ぬというのがオオタチの設定
オオタチェ…
予告どおりの死亡回でしたか……←
というか、…44話って…
そもそも、オオタチの設定自体がメデューサに殺されるっていう。
当初からこんな感じでした。
で、メモがてら書いていた設定(ただし、時々付け足したり消したりしてるので割と滅茶苦茶)はこんな感じ↓
・オオタチ
【雪花屋】には建設当初から働いている。
料理や掃除が得意で、気分がいいと鼻歌を歌う。
でもオンチ。
正体は「ペガサス」で、ファントムとウィザードどちらが自分にとって得なのか選んでいる。
そのため、強化用の魔宝石をオオスバメ経由でウィザードに渡す・ベルゼバブに策を施すなど、やや中立寄りの動きを見せていた。
いつごろ誕生したのかは不明。そのせいか、今までワイズマン陣営に存在を知られることはなかった。
ただしセイレーンの件(正確に言うとメデューサがコータスを殺した)ことをきっかけに、完全にウィザード陣営に協力することを決める。
ファントムの能力としては極めて異質で、【他者のアンダーワールドへの介入】と【自らの生き血によるファントムの蘇生】を得意とする(後者はコータス救出に役立てていた)。
基本的には本物のオオタチとしての性格と、ペガサスの性格はそこまで大差がなく、魔宝石を見つけてくることに関しては天才(オオスバメ曰く)。
ちなみに、オオスバメは彼女の正体を知っていた上で協力…と言うか、互いに隠す気がない・気にしないという大雑把性格なので、互いに深く考えずにいたのは確か。
最終的には、仲間を庇って死亡。
初期段階からペガサス&途中で死ぬのは確定でした。
ただ、オオタチと違って設定が二転三転してるのは、アルセウスとか白い魔法使い、フェニックスにジュプトル。
フェニックスは実は当初の設定はスピデリの一員でした、いや、ガチで。
…でも、何故か途中からそれを騙ってオオスバメを自分と接触させようとーって感じになりました。
特にジュプトルなんて、今メモを覗いたら「おい待て館長」な設定が出てきました。
館長、あんた「コータスやオオタチが特殊なのであって、セレビィも必ずそうとは限らない」とか言ってないじゃないですか…
他は今後の展開以外、大体当たってたけど。
余談ですけどメデューサの設定も、メモ覗く限りはこんな感じでした↓
・メデューサ
その正体は「セレビィ」
ワイズマンからウィザード=ジュプトルの監視を命じられ、【芽吹きの森】からポケモンタウンにやってきた。
ブレイブスに入ろうとも考えたが、四六時中一緒ではいつか怪しまれると思い(特に周囲のオニゴーリとオオスバメ、意外な者ではヘイガニが鋭いため)、探検隊立ち寄り所で働きつつ監視することに。
セレビィのジュプトルに抱く恋心も引き継いでしまったせいか、正体がばれた際、ウィザードと戦いになるがその時に「こんな体(=ファントム)でジュプトルさんと一緒にいられるはずがない」と彼への思いを吐露。
…しかし実際はジュプトルを油断、あわよくば絶望させるためのメデューサの策だった。
うん、今回の展開と絶対違うわ!←
まあ、大体頭の中で片付けてるからでしょうね…一応メモに残しても、書いているうちに色々変わっていったり……
ただ、このメモで一番笑えるのは
オオスバメ→むしろこいつが絶望するのは何かを教えてほしい(断言)
ヘイガニ→周囲の魔法使いやらゲートやら元ゲートやらファントムやらに囲まれているせいか、自然とツッコミポジションに
…おい、オオスバメ………おい!www
ヘイガニは…うん、もう諦めろ。
次回…
というか、45話〜50話の大雑把なネタバレをします。
登場ファントムはケルベロス・デュラハン、あと出たら明らかにオオスバメ回になりかねない感満載のレギオンさん。
ただこのファントム達、ケルベロスはともかくデュラハン・レギオンはどう足掻いても噛ませ役……ゲフン。