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タイトル未設定 - 55話:願うことなら、ただ誰かの希望に

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6 Episode6 生きている証 (10ページ)

55話:願うことなら、ただ誰かの希望に

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ジュプトルとピカチュウが【芽吹きの森】に向かった、同時刻。




雪花屋の方では、リザードンとブイゼルが手当てを終えていた。

…が、それは治療をする前に比べてかなり疲弊している…

それもそのはず、彼らは治療中ずっと暴れていて、最終的にオニゴーリに“絶対零度”を食らわされるほど。

それでようやく大人しくなったのだから、火事場の馬鹿力と言うのは恐ろしい。


「ぐ…ぐおお、痛てぇ…沁みる……」

「し、死ぬ…この痛みは死ねる…」

「何を言っているんですか。お二人が暴れなかったら、もう少し早く終わっていたのですよ」

「まあ、自分達の責任ってことで。それにしても…本当に暴れましたねー」

「ったく。ここには、避難しに来たポケモン達も住んでるってことを忘れんなよ…そいつらにまで不安がらせたら、元も子もないぜ」


床の上でひっくり返っているリザードンとブイゼルに、コータスやポポッコは荒れ果てたピカチュウとジュプトルの借り部屋を眺める。

ちなみにこの部屋の修繕費に関しては、リザードンに責任もって支払わせるとオニゴーリが脅したため、リザードンは頭を抱えていた。…流石にジュプトルの管轄外の破壊で、ジュプトルに支払わせるほど鬼ではないようだ。

ヨノワールもまた呆れたように溜息をついており、茶でも飲もうかと下に降りた所…歌声が聞こえてくる。

気になって声のする方に向かうと、そこでは探検隊達が基本的に使う食堂(ちなみにジュプトル達はオニゴーリに扱き使われて料理の手伝いをさせられた後、コータス達と同じ時間帯に食べている)を貸し切り…歌を歌っているプリンの姿。

彼女の話を、そういったものに疎いヨノワールも聞いたことがある。

PURIN-ces…かつて小悪魔系アイドルとして人気を評していた彼女だが、対抗馬であるピクシー・ノートがファントムだと発覚して以降、元々の路線に戻ったという。

今の食堂はさながら彼女のコンサート会場と化しており、しかしその歌は、どこかで聞き覚えがある。


「『繋いだ手、離さないで 後悔なんてしたくない…消して諦めない小さな光は、いつか 大きな光になるから』…♪」

「この歌は…RIN-RINと言う、プクリンが歌っていたような。……いい歌だ」

「あら、てっきり歌に興味はないと思ったのだけれど…案外そうでもないみたいね」


ヨノワールの後ろから声を掛けてきたのは、ミロカロス。

彼女は音楽にある程度詳しいというヨノワールが意外だと思ったのか、くすくすと笑みを見せている…

照れ隠しに少しぐらい咳払いしつつ、ミロカロスに話を聞く。


「…世界を旅していた時に、聞いたことがあるだけだ。それにしても、何故彼女はこんなところで…」

「こんな時だからよ。彼女の母親は、自分が歌うことで誰かを元気付けられたらって思って歌い始めた。だからこそ、今、ファントムの襲撃で傷付いている人達のために元気の出る歌を歌いたいって」

「……」

「まあ、私もついさっきコータスから聞いたばかりなのだけど。知ってる?彼女、あの子と友達らしいのよ…最初の出会いは最悪だったみたいだけど、色々とあったんでしょうね」



ミロカロスによれば、どうやらコータスはピクシー・ノートの一件以降…PURIN-cesとは友達として付き合っているらしい。

しかしヘイガニやピカチュウに言わせれば、最初の出会いはまさしく最悪。

性格も正反対で、少し厳しい口調でありながらも実は誰よりも自分の在り方に苦悩していたプリンと、穏やかで落ち着いた印象を受けるコータスがまさか友達として仲良くなるなど、誰が予想できただろうか。

そうしていると、ギャラドスもやって来て…2人の会話に加わる。


「俺だって、ファントムの件で連続放火魔として無実の罪を着せられて、その時にヘイガニと会わなかったら今もこうして暮らしてねぇ。大工だって、探検隊の手伝いだってしてねぇさ」

「私もよ。ファントムに利用されていた身とはいえ…そのお陰でピカチュウ達と出会った、本当に大事なことが何なのか分かって、そして今の自分がある」

「まあ、ポケモンとポケモンの繋がりなんてそんなもんじゃねぇかなぁ。どこで誰がどうなって、どうなるか分かったもんじゃねぇ……館長に壮絶な喧嘩を売ったサンドパンだって、和解して今や館長の友人の一人って聞くしよ…」

「…あれは…凄く、意外だったわ。……本当に…どこをどうしたらああなった、としか」


――どのような喧嘩の売り方をしたのだろうか

ギャラドスとミロカロスがサンドパンの話をした瞬間、これまでの穏やかな表情とは一変し真剣なまなざしになったのを見たヨノワールは…そんな感想を抱く他なかった。

しかし、それを聞いてはいけない気もする。

だが2匹の話を聞いていたヨノワールは、改めてPURIN-cesの方に目を向けながら考えに浸る。

…ここに集まっているのは、形はどうあれファントムによって心の傷を負った者達

特にPURIN-cesやギャラドス、ミロカロスなど…絶望の因子を持つがためにファントムに利用され、絶望させられた者もいることだろう。

ジュプトル達によって希望を取り戻しただけでなく、その時の出会いがきっかけで繋がりが生まれ…助け合っている。

以前のヨノワールならば理解できなかった感情だが、今ではそれが理解できる。

……同時に、ジュプトルがこの世界を守りたいと思う気持ちも。




(奴は、ミライやポッチャマの守ったこの世界を守るために戦っているだけではない)


(この世界に住むポケモン達の、彼らの繋がりを守るために戦っている)


(――しかしそのために、奴は倒すべきファントムに近付きつつある。それも、その膨大な魔力ゆえに制御の効かない…獣)


(お前は、お前はそれでいいのか…ジュプトル?)






〜〜〜






その頃、オオスバメとヘイガニはというと…

「大勢いるなら食料が足りなくなるよね」と言う理由でオオスバメが勝手に木の実を調達しに出かけ、慌ててヘイガニがそれを追いかけるという形で外に出ていた。

更にそれを見過ごせないとばかりにムクホークも後を追い、3匹揃って木の実を集めている。

籠の中にはオレン、モモン、ナナシ、カゴ、クラボ、チーゴ、セシナ、パイル、ブリー、ズリなど、さまざまな種類の木の実が入っており…これだけあれば食料も充分に行き渡るだろう。

空は既に朱い色に染まっており、夜の闇が訪れる時間となりつつある。


「これだけ集めれば十分ですね。じゃあ先輩、帰りましょう」

「え、でもこれだけで足りるかな…俺らはともかく、リザードンとブイゼル結構食べるよ?」

「いやあんたも結構食べるだろ…ファントムがまた来ないとも限らないんだ、早く雪花屋に戻らねーと」

「うーん…まあいいや。足りなかったらまた採ってくればいいし」

「――残念だが、『また』は来ない…永遠にな」

「「「!」」」


ヘイガニたちが振り返ると、そこには光のない紫の眼光がこちらを見ていた。

…ミュウツーだ。

なんでここに、とヘイガニは目を見開き、視線をミュウツーから離さない……いや、離すことができないのだ。

“目を離したその瞬間から、殺られる”――頭の中で何度もその言葉が警鐘を鳴らしていた。

初めて見るポケモンでありながらも、放たれるその圧倒的なプレッシャーにムクホークは震え、全身が強張るのを感じる。

しかし…

オオスバメは驚いたような顔で、これまで会ってきたファントムと同じ反応を返してきた。


「あ!さっきのファントム…なんでまた!!」

「ほう、話には聞いていたが…私を見ても臆さないか。あそこまで魔法使い達のやられる様を見ていれば、そこのポケモン達のように恐怖に慄くかと思ったのだが」

「っていうか、何の用?」

「知れたこと。私の目的のために…【賢者の石】が欲しい、それだけのこと」



ミュウツーはそう言うと、静かにワイズマンとして姿を変える。

それを見たムクホークは完全に震え上がり、動けなくなってしまう。

ヘイガニも対峙するのは二度目とはいえ、それでもこの恐怖を拭うことなどできない…

次の瞬間、ワイズマンの掌から闇の弾丸が放たれたかと思えば、それは動けないムクホークを狙う。

それに気付いたヘイガニはムクホークに向かって体当たりをし、その攻撃は二人の背後にあった気に直撃する。

闇の弾丸は複数の木々を薙ぎ倒し、粉々にしていく。

あまりの威力にヘイガニとムクホークは完全に言葉を失い、オオスバメも「これはまずい」と理解したのか2人にここから逃げるよう促す。


「これ、結構ヤバいかも…2人とも、逃げるよ!」

『逃がさん!』


再び、ワイズマンの手から黒い闇の弾丸が放たれ…それはヘイガニとムクホークに向けられる。

だが…

間一髪のところで魔法の障壁が発動し、更に背後からワイズマンに襲い掛かる影。

ワイズマンは即座にそれに反応すると、闇の剣を作り出し攻撃を受け止める。

そこにいたのは、ライドスクレイパーを構える万能の魔法使い・メイジ…

先程、リーシャンが部屋にやって来たかと思えば「オオスバメ達が外に出ていった」と伝え、オニゴーリやリザードン、ブイゼルがすぐさま探しに出たのだ。

全員手分けして探していたところ、ブイゼルがこの騒ぎを聞きつけ嫌な予感を感じ変身したところ……その勘が当たっていた。それも、思っていた以上に最悪な形で。


「間一髪、だな!」

「ブイゼル!」

「ったく、いきなりいなくなったかと思えば…お前ら、雪花屋を出てどっか行くのを見てたリーシャンって奴に感謝しろよ!」

『万能の魔法使いか…君に用はない。が、そこのオオスバメを絶望させられるのならば…誰でも構わん』

「まだそんなこと言ってんのか…このオオスバメはどう足掻いても絶望しないぞ?諦めろよ」

『残念だが…私は私の野望のため、賢者の石を手に入れる。その邪魔をするというのならば…死んでもらおう』




次の瞬間、ワイズマンの掌から黒い光線が放たれる。

その攻撃をメイジはライドスクレイパーを使って空に逃れることで回避し、オオスバメはヘイガニを乗せて余裕で離脱し、ムクホークも漸く我に返りギリギリのところで攻撃をかわしていた。

そのままオオスバメとムクホークは雪花屋に向かい、ワイズマンは尚もムクホークを狙おうと魔法で追撃しようとするが…メイジはそれを“リフレクト”で防ぎ、ワイズマンに向き直る。


「あんた…なんでさっきからムクホークを!」

『簡単なこと。…あのオオスバメを絶望させるために、奴の周囲を消す…そうして1匹、また1匹と大事な物を奪われれば……いくら鈍感でも気付くことだろう。――自分の存在がある限り、大事な者が死に絶え、自らの存在そのものが“大事な存在”への絶望になるのだと』

「ちっ…流石ファントムの親玉。考えることが腹黒いな!」

“イエス!ライトニング、アンダースタン”


メイジはコモンリングを翳し、雷の魔法でワイズマンを捉える。

…が、ワイズマンは無傷。

続いてワイズマンは「本物の雷はこうだ」と言わんばかりにメイジのそれより太く、広範囲の黒い雷光を放つ。

かわそうにも回避行動が間に合わず、メイジは黒い雷に撃ち貫かれる。

そのまま地面に墜落し、飛行に使用していたライドスクレイパーは柄の部分が無残に砕かれていた。これでは、空を飛んで撤退することもままならない。


「…!」

『やはり、役不足だ。――私の相手をしたいのならば、指輪の魔法使いと黄昏の魔法使いを呼ぶのだな』

「くそっ…だからって、こんな所で負けるわけには…」

「……ブイゼル!」


メイジの耳に、『今この場で尤も聞いてはならない声』が…聞こえてくる。

…ヨノワールだ。

彼もまた、リーシャンから話を聞き…コータスやギャラドス、ミロカロスらと共にオオスバメ達を探しに出ていたのだ。

その途中で命からがら逃げてきたオオスバメ達と出会い、メイジがワイズマンと戦っていると知り、駆け付けた。



「な…あんた、どうしてここに…」

「一旦退け、今の状態で戦うのは危険だ!」

『それを私が許すとでも?』

「!…逃げろ、ヨノワール…早くここから逃げるんだ!!」


――お願いだ

――あんたはここにいちゃいけないんだ

――あんた“だけ”は、ワイズマンと関わっちゃいけないんだ…!

メイジはそう叫ぼうとしたが、その前にワイズマンが特大級の闇の塊を両腕に掲げる。

その圧倒的な魔力に、ワイズマン自身から放たれるプレッシャーに、メイジもヨノワールも戦慄するしかない。

そして、その魔力の闇が放たれ彼らを飲み込もうとした……その時だった。

ワイズマンの中にある“ふしぎのプレート”が、何かを感じ取ったかのように激しく疼き出す。


『…!?なんだ、これは…プレートが引き合っている…だと?』





この異変は、至る所で起きていた。




急いで雪花屋まで戻ろうとするウィザード・ハリケーンドラゴン。

だが、突然彼のウィザードライバーが光り出し…その背に乗っていたピカチュウも、それを見て驚きの声を上げる。

その光は、鮮やかな緑。

生い茂る夏の日の常葉を思わせるその色は、ウィザードHDに不思議な温もりを与えていた。


「な、なにこれ?なんか光ってるよ!?」

「これは…」



別の所でオオスバメ達を探していたオニゴーリ。

彼は念の為にソーサラーに変身した状態で探しており、コータスと共に辺りを注意深く見渡していた…

そんな時、突然白い魔法使いドライバーが光り出し…驚いたようにそれを見る。

その光は黒く、しかし邪悪さなどは一切感じさせない。


「オニゴーリさん、これは…」

「…まさか、アルセウスがこのベルトを作るために使った…プレートか?だが、どうして今になって…」



同じく別の場所で探していた、リザードンとバンギラス。

その際に、ビーストドライバーが黄金色に光輝いたかと思えば…リザードンが気付いた時には、精神世界に立っていた。

その中で佇む、ビーストキマイラ。

彼は自らの体内の中にある“プレート”の力が、何か強い力に惹かれているのを感じ取ったようだ。


『…感じるのう、この強い力…身に覚えがあるわい』

「な、何だって?」

『この魔力…間違いない、【賢者の石】じゃ。――ワイズマンとちょっとお茶目をしていた頃を思い出すのぅ』

「お…お茶目で済む問題かよ。っていうか、あんた何でそもそもワイズマンと一緒に戦ってたんだよ。それと、そのワイズマンと戦うことに抵抗は」

『ワシとワイズマンの目的は、こうなった今でも相反しておらぬよ。ワイズマンはファントムを増やし、ワシは腹が満たされればそれでよい……まあ、お前さんのことも気に入っておらぬわけではない。案内するぞ』



この世界とは異なる世界線。

一人の青年が執務に追われながらも、しかし心を許した伴侶と共にそれを片付けていた矢先のこと。

ふと、テーブルの上に置いていたウィザードライバーが光り出し…

その光は冷たさを思わせる水色。だがこちらも、ベルトに触れて急激な冷たさを感じるということはなく……むしろ、温かい。


「…なんだ、これは?」

「さあ…そもそもこのベルトを持って来た、ソーサラーって魔法使い……一体誰だったのかしら」

「…それは俺にも分からない。が、一つだけ言えるのは…“こっち”の住人ではないということだな。しかし、なぜ突然…」




そして、メイジの持つメイジドライバーもまた…深い海を思わせるほどの綺麗な青色で輝きを放っている。

しかし、それ以上に強く、大きな光を放つものがあった。

…ヨノワールの腹にある巨大な口が突然強い紅の光を放ったかと思えば…ワイズマンの強大な力を、一瞬にして掻き消したのだ。

プレートが反応している。一つに戻ろうと、あるべき形に戻ろうと引き合っている。

それを見たワイズマンは心を高揚させ、歓喜の声を上げていた。


『…まさか。まさか貴様が、【賢者の石】を所持していたなど…ッ』

「あ、ああ…」

『く、くく。――どこまでも食えん奴だ、だが、魔法使いになれる可能性のあるあのオオスバメを放置していた理由が分かった…何が神だ。結局は世界を守るために、あのオオスバメを捨て駒にしていたに過ぎん!』

「…こ、これ……は…」


紅い光が次第に収まりを見せ、ヨノワールは自らに起こった異変に戸惑っている。

しかし次の瞬間、ヨノワールを包み込むようにバリアが展開され…

それを見たメイジはなりふり構わず魔法を放つが、バリアが壊れるどころかすべての魔法を跳ね返し、それが全て彼に返って来る。

だが、それでもメイジは攻撃を止めなかった。

それがアルセウスとの最後の約束だった。『賢者の石はヨノワールの中に隠してある』『守るも壊すも任せる』と。

最初は信じられなかったが、それでも賢者の石がヨノワールの中にあると分かれば…守らなければならない。ワイズマンにそれを渡してしまえば、世界が終わってしまうから。


『君も実に愚かだ。アルセウスに踊らされ、いいように動かされ…君は一人ぼっちの舞台で道化を演じていたに過ぎない』

「…黙れ…」

『君も、指輪の魔法使いも、古の魔法使いも、黄昏の魔法使いも、セイレーンも、あのオオスバメも…総て!総てアルセウスの掌で踊っていたに過ぎない、この私でさえも』

「…黙れ!返せよ、……ヨノワールを…」

『君は彼が賢者の石を持っていると知っていた。…ならば何故黙っていた?それを話せば、守り切れる確率は遥かに上がった。私に奪われるということもなかっただろう』

「…えせ、……ヨノワールを…【賢者の石】を!」



『君もアルセウスと変わらない。自分自身のエゴのために、多くを犠牲にしようとした…何も知らないあのオオスバメを犠牲にしようとした。【賢者の石】の傀儡として』


『では聞くが…君はいつから、この者を“仲間”ではなく【賢者の石】として見ていた?【賢者の石】を守るために……何を犠牲にしようとした?』


『――そんな君が、どの口を以ってして私に「腹黒い」と言ったものか。……君も結局、私やアルセウスと変わらない…目的を果たすためなら犠牲をも厭わない、“怪物”だ』



そう吐き捨てるように言い放ちながら、ワイズマンはヨノワールを吊れ去っていく。

その瞬間、…メイジの心が折れる音がした。

【賢者の石】がワイズマンの手に渡っただけではない、…ワイズマンの放った言葉に…絶望したのだ。

彼は総てを知っていた。知っていて、黙っていた。

何も知らない方がヨノワールのためだったから………

違う。

結局はエゴだったのだ。全てを話していれば、こうはならなかった。

ヨノワールはオオスバメと違い冷静な判断ができる、自分の中に【賢者の石】があると分かれば自分を抑えられる。

…だがブイゼルは、隠したままの方がいいと思った。自分一人の判断で…その結果がどうなることを、考えもしなかった。

――その結果が、これだ

【賢者の石】を奪われ、ヨノワールを奪われ、…自分自身のエゴのためにオオスバメを犠牲にしようとした


「俺、俺は…俺は何のために…戦って。……誰かのため…違う、俺は結局…俺のためにしか戦ってない。……自分のことしか…考えてないじゃないか…!」


ジュプトルは自分を犠牲にしてまで、この世界を…この世界に住むポケモンを守ろうとしている。

ヨノワールもジュプトルの力になるため、魔法石を探していた。

リザードンは自分の命に時限爆弾を背負わされながらも、ゴウカザルのような犠牲を生まないため戦っている。

ピカチュウも、ヘイガニも、オオスバメも、コータスも、バンギラスや他の皆も…自分にできることを精一杯やって、魔法使い達と共に戦っていた。

…じゃあ、自分は?

自分は何のために、戦ってきたというのか。

紫の皹が全てを支配していく中で、メイジは変身を解除し…ブイゼルのまま、涙を流していた。


「俺は、……俺はぁ…ッ!」






〜〜〜






“彼”は、ゆっくりと目を開く。

既に辺りは薄暗くなっており、完全に日が落ちるのも時間の問題だろう。

…今までのは、夢だったのか

…そうだ、帰らないと

…雪花屋に帰れば、いつも通りヨノワールもいて、皆もいて、それで

ゆっくりとした足取りで歩く“彼”だが、少し喉が渇いていることに気付き、水を求めて歩き出す。

そうしてようやく見つけた水。それを飲もうと膝を折った…その時だった。

水面に映る自らの姿が、それまでと違い…鬣の長い馬になっていることに。その鬣は左の眼を隠し、よく見れば水を救おうとした手も薄緑色で……鮮やかなオレンジを思わせる手は、そこにはなかった。

――ケルピーと呼ばれる、水馬のファントム。

“彼”は…ブイゼルは、ファントムになり果てていたのだ。



(ああ、そうか)


(夢じゃなかったんだ。夢じゃ…なかった…)



事情を理解するのは、早かった。

既に諦めていたからだろうか?

絶望してファントムになったとしても、ブイゼルの時の自我が残っていたとしても…不思議とそれを受け入れている。

むしろ、それが当然の報いだと言わんばかりに。

何故、自分が生前の自我のままファントムとして生まれ変わったのか?

その理由は分からない。オオタチなら知っていただろうが、ジュプトル達の話が正しければ彼女はもうこの世にはいない。

誰も、答えが分からないだろう。…ワイズマンでさえも…



(ごめん、皆)


(俺はジュプトルやリザードンみたいに、強くはなかった。世界を救う…なんて大それたことができる器じゃなかった、ってことだ)


(でも、でも不思議と後悔はないんだよ)


(なんでかな…それは多分、やることが決まってるからかな)




「――なっ、ファントム!?何だって、ここに…」


聞き慣れた声が聞こえてくる。

ケルピーがゆっくりと振り返ると、そこにいたのは…リザードンとバンギラス。

バンギラスの手には、壊れたライドスクレイパーが握られており、恐らく彼らはここで大掛かりな戦闘があったと思い“ブイゼル”を探していたのだろう。

…そして、“ファントム”に出くわした。

そう言えばリザードンは、ここ最近ファントムを食えていないと言っていた。恐らく限界も近いことだろう。


『……何だって、だあ?そんなこと分かりきってるだろーがよぉ…』


自らを偽るのは慣れている。

自分は結局、皆を騙していた。本当に大事な仲間を…ヨノワールを騙していた。

どうせ自分は一人ぼっちの舞台で、道化を演じることしかできない。

大勢の観客が見守る中で、世界を救う物語の主人公になることなど…できないのだ。

懐には、未練がましく持っていたメイジドライバー。

それが何を意味するのか、リザードンとバンギラスは思考を巡らせることだろう…それでいい。どうかそのまま、俺に騙されていてほしいとケルピーは願った。


『ワイズマン様に頼まれて、【賢者の石】を奪いに来た。…今やあの石は、ワイズマン様の手の中だ』

「な…何だと!?」

「くそっ、遅かったのか…!それで、オオスバメは…!!」

『オオスバメぇ?…あいつもつくづく災難な奴だよなあ…絶望しないのをいいことに、【賢者の石】の傀儡として生かされていたなんてよぉ』

「なっ、…に?」

「どういうことだ…それにブイゼルは!あいつはどうしたんだ…どうしてメイジドライバーを!!」



――やっぱり

やっぱり俺はこうやって、騙すことが性に合ってるのかもしれない

皆を、自分を偽ることがお似合いなんだ

…それでいい

今は、それでもいいんだ

“こう”すればきっと、リザードンは戦うだろう。

……それでいい…

俺は自分のエゴのために戦うことしかできない、自分自身のことしか考えられない馬鹿なファントムだ


『万能の魔法使いはどうした、だってぇ…?そんなの、分かりきってるだろうがよぉ…』


だからこそ

俺自身の最後のエゴを、貫く

俺は絶望しか与えられない。魔法使いであれファントムであれ、俺はこの世界を破滅へと追いやった張本人だ

今更、コータスのように何事もなかったかのようになんてできない。

自分自身の罪は、今ここで清算する。

――リザードンの、古の魔法使いビーストへの…【希望】として


『……死んだよ。面白かったぜぇ?無様に抵抗して…そして最後は……“こう”なっちまったんだからよぉ!!!』




その瞬間、ケルピーは地面にメイジドライバーを叩きつけたかと思えば…

太い足の蹄で、それを粉々に踏み潰していた。

そして、それは同時に…『ブイゼル』だった頃の自分への、決別となった。






***




過去最強最悪の展開かもしれません。

自覚がある分、館長の時より絶望度凄いし…いや、多分それを越えそうな奴が今後出てきそうではあるんですが…


PURIN-cesことプリン、コータスと仲良くなったみたいです

本当に色々あったよなあ、あの2匹…

ちなみにプリンは最終回でも出そうかな、とか考えてます。最終回登場予定の方って今の所メインメンバーの一部を除けば

・ケロマツ

・ヤヤコマ

・ルチャブル

・プリン

・オーダイル棟梁

・???

…ですね。ここからさらに増えたり、逆に減ったりするのかもしれない…

あ、ケロマツ・ヤヤコマ・ルチャブルは意地でも出しますんで。スピンオフで予告したし



ファントムによって被害に遭いながらも、それでも、その時の出会いがあって今の関係がある…

不思議なものですよねえ

ちなみに、サンドパンさん…あんな盛大に死亡フラグを立てた割に、館長と仲良くなったとかどうなってるんだ。

むしろどうやって仲良くなれた…というか、38話の段階である程度和解してたっぽいからなあ。

ちなみに今回の話で出てきたリーシャン、以前の勘違い娘です。

リーシャンに関しては今ではすっかり反省している…のですが、オオタチに謝ろうと雪花屋に足を運んでいるんですけどなかなか会えないんですよね。

…会えないんですよねぇ…


オオスバメは本当にメンタル固いなあ!

そして賢者の石ですが、まあこれは予想していた方が多かったんじゃないかなと。

それにしても、星の停止に関わっていた未来組が揃いも揃って生存フラグへし折られ…いや、セレビィ以外はまだ希望が残ってますが

というかヨノワールにはまだ生存する希望が残ってますが。4割ほど

アルセウス…

悪気はないんです。悪気はないんですよ、うん…

でも冷静になって考えてみて、ヨノワールにとってはいい迷惑だし、何より賢者の石のスケープゴートにされたオオスバメはマジで酷い

白魔にまともな人っている…?いても人間年齢50歳の彼…??

あ、サラッとエイジスとヒナちゃん出ましたね←



ブイゼルに関してはノーコメント。

むしろ仮面ライダーでメンタルへし折れた奴がまた1匹、増えただけです…

被害者を挙げると

・士

・ソウジ

・ショウイチ

・カズマ(まあこれは一時期、しかも最序盤)

・映司

・王環さん

・エイジス

・ヒナちゃん(一時期復讐鬼)

・ケイスケ

・ヒロシ

・カズヤ

・っていうかリイマジ昭和の皆さん

・つくばん

・ジュプトル(44話のあの展開は絶対へし折れるっていうかへし折れてます)

・ポコピー

・シャウタ(主に水泳のトラウマとか強盗とか)

・ユウスケ(DCDRW・紙ディケ辺りで絶対へし折れてる)


リザードンは微妙と言えば微妙…仮面ライダーになる前なら余裕でカウントです。

館長は…ジュプトルとリザードンの女装を見たら絶望するからなあ…

え?星の精??

ニールとダールはもうカウントしなくていい。テールはもう読者判断に委ねる(今後の展開的に)

ちなみに館長だけブイゼルがノーコメントだったのは、館長がある意味別格すぎるからで…いやもう、本当に別格すぎて……




次回

……ジュプトルはこれまで、嘘をついたことはないんですよね。何気に