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タイトル未設定 - 58話:背負う想い

📚 目次

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気付いた時には、見たこともない施設に…ジュプトルはいた。

どうやら変身は解除されているようで、とにかく自分の状況を知るために彼は歩きだす。

ポケモンタウンでは見たことのないような鉄製の置物がいくつか並んでおり、ゴウンゴウンと独特な音が聞こえてくる。

ここは一体、そんなことを考えていると、彼は自分の近くにあった水溶液を見て思わず後ずさりしていた。

そこにいたのは、ワイズマン――いや、彼の言葉を借りるならポケモンの姿の時はミュウツーと言うべきか。

いくつかの細い管に繋がれ、母親の袋の中で眠っているガルーラの子供のように丸まっているその姿は、ポケモンタウンを焼き払い自分達を圧倒した存在とは似ても似つかない。


「これは…!それに、この場所は」

『とあるファントムの…アンダーワールドですよ』

「!…お前は…」


声のした方に振り替えると、そこにいたのは…ペガサスファントム。

しかし、自分のよく知るオオタチは既に死んだはず。

仮に先程メデューサとの戦いの場に現れた個体だとしても、あの様子からして自らの意思を持たない操り人形と言う方が正しいだろう。

では、ここにいるペガサスは一体?

そんな疑問に答えるかのように、ペガサスファントムは話し始めていた。


『転んでもただでは起きないのが信条でして。死ぬ間際に、精神だけジュプトルさんのアンダーワールドへと移動しました』

「そんなことが…可能なのか?」

『私としても一か八か、だったんですよねー。そして、その賭けに成功した私は残った命…魔力の大半を石塊となったドラゴンファントムに注いだ。信じられます?その時点でドラゴンの力は相当だったのか、あんな状態でも生きてたんですよ!?』

「そうか、だからドラゴンは…」


自分が希望を取り戻したからと言って、そう簡単にドラゴンが復活できるとは思っていなかったが…まさかペガサスが一枚噛んでいたとは。

ただし彼女に言わせれば、あのまま放っておいてもいずれドラゴンは復活しただろうが、それでも復活を速めたのはジュプトル自身が再び希望を取り戻し…そして、自身の全ての力を行使するに相応しい器を手にしたからだという。

ちなみにドラゴンに魔力を注いだ後は、彼女にとっての安全圏にしてワイズマンと接触しても何だかんだで絶望しないで済む場所…オオスバメのアンダーワールドに移住し、暫く様子を伺っていた。

オニゴーリやリザードンの所に行かなかったのは、中にいるファントムに食われたり襲われたりする危険性を避けてのことだろう。

しかもオオスバメは、ワイズマンと接触する可能性があるポケモンの中で最も絶望もしない…ジュプトルが彼女の立場でも恐らくはそうした。



『まあ、ドラゴン復活のために魔力の殆どを持っていかれたので…近いうちに私は消滅しちゃいますけどね』

「しかし、よくワイズマンにばれなかったな」

『今のワイズマンは、【賢者の石】の力を覚醒させようと躍起になっていますからねー。石自体も膨大な魔力を持っているので、死にかけのファントムの魔力には気付かなかったんでしょう』

「…成程な。しかし、これがワイズマンのアンダーワールドだと言うのなら話は別だ。今すぐにでもここから出て奴を倒…」

『え、誰がワイズマンのワンダーワールドって言いました?』

「……は?」

『これはワイズマンとは別の、とあるファントムのアンダーワールドです、その方が都合よかったですし』


そう言いながら、ペガサスファントムはあるものをジュプトルに投げ渡す。

いくつかの紙を束ねた資料のようだが、見たこともない言語で書かれているため解読は不可能。

…いや、見覚えはあるのだ。しかしどこで見たのか、思い出せない。

そうしているとペガサスは「あちゃー」と小馬鹿にした様子で、簡潔に話し始めていた。


『そういやそれ、人間の言語で書かれているから他のポケモンじゃ読めませんよね。カビゴンじっちゃに対するノリでつい渡しちゃいましたよ』

「…お前、あそこのカビゴンのじいさんと面識あったのか」

『んー、まあ一応。簡潔に説明しますと、それは【M-2作成経過報告書】…ワイズマンの元となったポケモン、ミュウツーに関する資料なんですよ』

「…ワイズマンの!?」

『ヨノワールさんは言葉を濁しましたけど、本当にエグいことしてたみたいですよ。…そもそもミュウツーを作るために、何十回と試行錯誤していたようですし』

「……ワイズマンが…ミュウツーが誕生するまでに作られた、“ソレ”は…どうなったんだ?」

『…ポイ、ですね』


ペガサスも口にするのは気分が悪いのか、かなりのオブラートに包んで告げる。

人間の言語、ということは人間が…ミライと同じ種族が関わった実験。

人間全てが悪いものではないことは分かっているのだが、どうもやりきれない。

ペガサスの話では戦闘訓練も行われていたようで、その際にはM-2バインという特別な拘束具を身に着けた状態で凶暴なポケモン達と戦わされていたようだ。

こんなものをオニゴーリにでも見せようものなら、この施設を秒ともたずに倒壊させていた可能性が高い。アンダーワールド上の出来事なので必要以上の干渉はできないのだが、それでも彼は絶対にやるだろう…そういった信頼は、これまでの行いで十分に培われている。

そうしていると、鋼鉄製の分厚い扉の奥から今となっては全く見なくなった存在――人間がいくつか現れ、ジュプトルやペガサスがそこにいるとも気付かない様子でこちらに向かってくる。

ぶつかる寸前まで接近されジュプトルは思わず身構えるが…研究者達はスッと自分達の体を通り抜け、ミュウツーのいる培養液に辿り着く。


『あくまでアンダーワールドを通して、当時の記憶を除いているだけですからねえ。あちらさんが私達に気付くこともなければ、ジュプトルさんも彼らに触れることはできませんよ』

「…そういうものなのか?いつもアンダーワールドで戦うときには、そういったことは…いや、それ以外で干渉しようと思ったことがないから分からなくても当然、か」

『そうそう』

「――M-2、バイタル安定。これより投薬実験を開始します」

「――ああ。幻のポケモン、ミュウを超えうる存在とするには…他のポケモンの遺伝子を組み込んでみるべきだ。まずはサンプルAを」

「――はい」




そう言って、一人の白服の人間がミュウツーのいる機械の傍に取り付けられていた小さな箱に細長い瓶の中に入っていた液体を入れたかと思えば、培養液の中にある透明な管から何かが流れ込む。

暫く経った後、ミュウツーの口から気泡が激しく溢れだし、悶え苦しむ。

「やめろ」とジュプトルが叫ぶが、アンダーワールドへの直接の介入ができない以上、それを止めることはできない。

――なんでこんなことができる

――ミライと同じ人間が、どうしてこんな残酷な

ジュプトルが戸惑っていると、ペガサスは机の上に堂々と座りながら…報告書の一つをパラパラと捲っている。


『…ワイズマンは私達と違う存在。その命が誕生した経緯も、ファントムとなった経緯も、何もかも』

「…オオタチ」

『彼を本当の意味で理解できるポケモンなんて、いないんですよ。このアンダーワールドの持ち主だってそうです、彼は結局投薬実験用の遺伝子サンプルのためだけに捕まえられ、利用された存在』

「……お前は、こんな光景を俺に見せてどうしたいんだ?」

『ワイズマンが本当の意味で望んでいることは何か。どうしてワイズマンがあなた方魔法使いを今の今まで放置していたか…分かりますか?』


その言葉に、ジュプトルは考える。

そういえば依然、ワイズマンはこんなことを言っていた…

――私はミュウという幻のポケモンの睫毛が偶然とある遺跡から採取されたことにより、人工的にミュウを作り出そうという試みの元…産まれた。冷たく暗い、培養液の中でな

――普通のポケモンはタマゴから生まれるのだろう?随分と羨ましいものだよ…卵から生まれるまで貴様達は親に保護され、産まれて来る

――しかし私は違う。生まれた時から私は、実験台でしかなかった。ミュウを作るための、ミュウの力を持った最強のポケモンを作り出すためのな!

今、目の前で行われている光景を目の当たりにしたことで、ようやく彼の言葉の意味が分かってきた。


「奴は…ワイズマンは、最強のポケモンとして作られた。その本能は奴らの繰り返す実験により、ワイズマン自身の中に深く根付いている…」

『…』

「奴は戦いを求めている。自分よりも強い存在との戦いを、だからこそ…あの時ワイズマンは、館長との戦いを楽しんでいた。サイアやゲルダと言うファントムとの乱入に興を削がれたかのように去っていった」

『まあ館長と戦ってる時が一番楽しそうだったのは言うまでもないですよねー。……それで?』

「……それで、奴は…。……そうすることしか知らない、寂しい奴なのかもしれないな」



そう、彼はそれしか知らない。

心無い人間によって生み出され、実験を繰り返され…

外に出たかと思えば、体の自由を奪われ、他のポケモン達と戦わされ…

『戦う』以外のことを知らないのだ。

戦うことしか知らない戦闘マシーン…その誕生も、生まれた意味も特殊であるためか、戦い以外に自分自身への価値を見出せない。

そんな生き方は、――寂しいとしか言いようがないだろう。


「…しかし、どんな理由があったとしても…この世界のポケモンをファントムとしていい理由にはならない」

『そうですね。ジュプトルさんにとってはありがた迷惑ってやつですかね?』

「お前…、……いや、お前は【時の停止】から解放された瞬間に絶望の因子が覚醒してファントムになったんだったか」

『ですよー。…あ、何か動きがあったみたいですね』


ペガサスが気の抜けた返事を返すと、周囲の状況が一気に変わる。

次に広がったのは、先程とは打って変わって倒壊した施設。

ミュウツーのいた培養液はというとガラスが粉々に砕け散り、中にいた存在はどこにもいない。

そして何より、…大量の腐臭と血の臭いが充満している。

先程まで鳴っていた機械音は止まり、別の培養液も時間が止まったかのように気泡がぴたりとその場で留まっていた。


「…ッ!?これは…」

『言ってる傍から、【時の停止】ってやつが始まったんでしょうね』

「奴は、ワイズマンは…」

『あ、また』



今度は一気に場面が飛び、外に出る。

少しずつ昇っていく光…今となっては当たり前となったその光景は、時間が動き出したことを知らせる新たなる始まりの日差し。

ジュプトルがその光を懐かしんでいると、ペガサスが勝手に歩き出す。

それに気付いたジュプトルは慌ててその後を追いかけ、少し進んだ場所にあったのは河原。

…そこでは、ワイズマンと…キマイラファントムが話していた。


「あいつは、キマイラ…!そういえば、元はワイズマンの仲間だと言っていたが…」

『――絶望の因子を持つポケモンは他にも存在する。ただ、それに目覚めておらぬだけでな』

『つまり、――私は一人ではない、ということか?』

『む?』

『私は人でもポケモンでもなかった存在だ。だが今となっては、ファントムとして生きている…貴様もファントムで、ファントムとなれるポケモンもいるということは…私には同胞がいるということになる』

『…まあ、そうとも言えるのう』


難しそうな顔をしながらも、キマイラは答える。

確かに、今のワイズマンはポケモンでもなければ当然人でもない…“ファントム”という存在。

それを訊いてどうするのか。ジュプトルはそう思いながらも、彼らの言葉に聞き耳を立てていた。


『じゃが、――ファントムとして生まれたポケモンはそう多くない。絶望の因子から解放されたポケモンは少ない上に、ポケモン総てがそうであるわけではないのじゃ』

『ならば、どうすれば全てのポケモンをファントムにできる?』

『そうじゃのう…伝説の【賢者の石】、それさえあれば或いは。しかし何故そのようなことを願う?ポケモン総てをファントムにしてどうするのじゃ』

『それは…』



…しかし、肝心なところでアンダーワールドは砂嵐のように掻き消える。

どうしたんだ、とジュプトルが叫ぶと…

ペガサスは頭を抱え、ジュプトルにすぐさまこのアンダーワールドから出るよう言い放つ。


『…結構やばい状態、みたいですね』

「オオタチ、このアンダーワールド…まさか…」

『余計な詮索は後にしましょうか。一旦放り出しますんで、そこから改めてエンゲージリングで入ってください。――でないと…“彼”が、死にます』

「…そういうことかッ!」






〜〜〜






「――うおおおおおッ!」



ビーストハイパーは雄叫びをあげながら、ミラージュマグナムとダイスサーベルで周囲のファントムを蹴散らしていく。

これまで、何体ファントムを倒しただろう。

しかしその魔力は倒した瞬間に霧散し、キマイラへの吸収を許さない。

消耗されていく魔力。このまま戦いが長引けば、いずれビーストハイパーの命はキマイラによって食われてしまうだろう。

バンギラスもそのことを懸念してか、群がるグールを殴り飛ばしながらビーストハイパーに叫ぶ。


「リザードンッ!雑魚の相手はいい、本体を…ファントムどもを呼び出している張本人を倒せ!!」

「分かってる…っての…!」


しかしこれまでの戦いで、ビーストハイパーの体力は激しく消耗している。

あの様子では、長く持ちそうにない。

そのことはビーストハイパー自身よく分かっているのか、息を切らせながらも、残されていた力を振り絞りオーディンに向かっていく。

だが、オーディンは尚もファントムを生み出し…目の前に立ちはだかったのは、ケルピーファントム。

その姿を見たビーストハイパーは足を止め、構えたミラージュマグナムを落とす。


「…ブイ、ゼル」

『…』

「何してんだ!…リザードンッ!!」

「分かってる、…分かっているんだよ…あいつはあの時、この手で……。…あああああッ!」


自らが奪った命。

元の意識が残っていながらも、自分を生かすために偽り…与えてもらった命。

そして、それと共に託された想いは、残っている。

…分かっているのだが、それでもどうしても、心が押し潰される。胸が締め付けられるかのように痛い。

ビーストハイパーはダイスサーベルでケルピーを切り払い、オーディンに立ち向かう。

オーディンは黒い鎌を構え、振り下ろされる一撃を食い止めながらも、ビーストハイパーに言い放つ。



『…成程、ここまで勝ち残った実力は確かなようだ』

「当たり前だ!…俺はこれまで、たくさんのファントムを食らってきた。たった少しの間とはいえ、共に戦った仲間すらも!!」

「…おい、リザードン、それは一体どういう…」

「だからこそ!俺は立ち止まらねえ…ゴウカザルだけじゃねえ、オオタチやブイゼル…あいつらの命を背負っている以上、俺は…止まるわけにはいかねぇんだよおおおおッ!!」

<シックス!セイバーストライク!!>

『!』


鳥や牛と言ったエネルギー体の塊が、無数に放たれる。

オーディンは何とか捌ききろうとするも、その圧倒的な数の前には儚い抵抗に過ぎない。

次第に守りが弾き飛ばされ、オーディンの体に食らいつく。

6の目を出した、再高威力のセイバーストライクだ。生半可なファントムでは立つことすら難しいだろう…そもそもオーディンとて、何の犠牲も払わずにファントムを大量に生み出せるはずがない。

ビーストハイパーはオーディンの魔力を吸収しようと試みるが、――その前に心臓に激痛が走り、ドサリと倒れる。

自分を相手していたグールが突然消滅し、自由になったバンギラスが駆け寄るが…ビーストは既に変身を解除しており、別の場所で倒れているオーディンもまた、消えようとしていた。


「リザードン、しっかりしろッ!…早くあのファントムの魔力を、あいつに…」

『…それは、無理だ…』

「何だと!?」

『私は魔力を…自らの命という代償を支払い、人形を蘇らせていた…。まさかあそこまで粘られるとは、思っていなくてね……先程のファントムで、もう…魔力は打ち止め…だったのだよ……』

「――しまった…!」


そもそも蘇ったファントム達は、倒したところでその魔力が吸収されない

…いや、正しくは、吸収されてはいるのだが…それまでにビースト自身が消費した魔力に比べると割に合わないほど、少ない魔力しかない。

戦う量が増えれば当然それだけビーストはキマイラの魔力を消費し、戦いが長引けば長引くほど不利になる…オーディンはその戦闘力よりも物量でビーストを殺す、“ビーストキラー”だったのだ。

オーディンは消えゆく体で、空を見上げる。

先程までの青い空はどこへやら、気付けば空一面が黒い雲に覆われ…それを見たオーディンは、小さく呟く。


『…もうじき、ワイズマンの儀式が…サバトが、始まる』

「サバト…だと!」

『そう。――恐らく、手始めに…この世界に残る絶望の因子を持つ存在…ゲートが犠牲となるだろう。……そうなれば、今度は…』


――今度は、因子を持たないポケモンや絶望の因子から解放されたゲートも、ファントムとなるだろう

――【賢者の石】の力を使えば、そのような大掛かりなサバトも可能

――そうなれば、この世界はファントムの世界に

――ワイズマンの求める、“救済”の世界の一つに…




『…私も、見てみたかったよ。尤も…ポケモン全てがファントムに、なったところで……また別の差別というものが生まれる、だろうがね…』




静かにそう告げると、オーディンは砂のように崩れ去り、消滅する。

今の言葉の意味は一体…

バンギラスはそう考えるが、すぐさまリザードンの方に視線を戻す。

彼ももはや、キマイラにその命を食い潰されかねない。そうなれば、リザードンは死に…ジュプトルだけでワイズマンと戦わなくてはならなくなる。

一体どうすれば、とバンギラスが悩んでいると、突然リザードンの中からジュプトルが飛び出してくる。


「…ジュプトルッ!?お前、今までどこに…いや、それよりも、何処から出てきた!!?」

「それを話すと長くなる。…それより、…リザードン…」

「さっきまでオーディンと言うファントムが生み出す、再生ファントムを相手に戦っていたんだ。そして、そのせいで消耗が早まり…」

「…そうか」


そう言ってジュプトルが取り出したのは、――エンゲージリング。

それを見たバンギラスが、そして、今にも死にそうなはずのリザードンまでもが、「待て」と叫ぶ。

今ここでエンゲージを取り出したということは、キマイラを倒すつもりでいるのだろう。

リザードンの魂をキマイラが食うよりも早く、キマイラを倒せばリザードンは助かる。

…しかし同時に、リザードンは古の魔法使い…ビーストとしての資格を失うことになるのだ。

もはやそれしか方法がないとはいえ、このままでは確実にジュプトルはワイズマンと戦うことになる。それどころか、キマイラとの戦闘が…彼の限界を速めかねない。


「やめ、ろ…俺のことは、放っておけ…。……お前は…!」

「リザードン。――もしものことがあったら、ピカチュウのこと…【ブレイブス】のこと。お前に任せていいか」

「ふざ、けんなよ…それじゃ、お前、……まるで…!」

「ジュプトル!…ワイズマンはお前一人で勝てる相手じゃない、館長でどうにか渡り合えるって相手だ。……つまり…」

「例え俺が死んだとしても、俺が生きてきた証は…皆の中で生きている。だから、俺は死なない。お前達が覚えている限り、俺は生き続ける……そう、ピカチュウにも伝えてくれ」

<エンゲージ、プリーズ>



それだけ言うと、ジュプトルはリザードンのアンダーワールドの中に入っていく。

その表情は、どこか悲しそうな…しかし何かが吹っ切れたような顔。

――そして…それが、リザードンとバンギラスが最後に見たジュプトルの姿となった。






〜〜〜






リザードンのアンダーワールドの内部。

そこでは、ゴウカザルと共に【Bバースト】として活動していた頃の思い出だけでなく、バンギラスを交えた幼少期の思い出も入り混じっていた。

そして、そこで待っていたのは…ペガサスファントムとキマイラ。

キマイラはジュプトルを見下ろし、そして、目を細める。


『…グルルル…』

『ジュプトルさん、この怖いおじいちゃん、魔力が尽きかけて理性が無くなってるんですよぅ。私も何度食べられかけたかー』

「そうか」

<ハリケーンドラゴン ビュー、ビュー、ビュービュービュビュー!!>


ジュプトルはハリケーンドラゴンへの変身を遂げ、それを見たペガサスファントムは目を丸くする。

…そもそもドラゴンへの直接変身は、できない。

必ずフレイムやハリケーンと言った基本形態に変身してからでないと、そこから更に上の力…ドラゴンの力を借りたスタイルへの変化はできないのだ。

それが出来ているということは、もはやジュプトルは。

ペガサスファントムは邪魔にならないようにその場から離れ、そして…キマイラの爪とハリケーンドラゴンがぶつかり合う。

最初はキマイラのほうが押していたものの、ハリケーンドラゴンが次第に押し返し、更に…ドラゴタイマーを介さずして、オールドラゴンへと変化する。


『ジュプトルさん、もう、そこまで』

「――薄々、分かっていたことだ。恐らくワイズマンとの戦いが、俺が俺でいられる限界になるだろう。……だとしてもッ!」

『グ、ガァァァ…!』

「俺は、最後のその一瞬まで命を輝かせると決めた。ピカチュウ達の暮らす世界を守ると決めた。……だからこそおおおおおッ!」



…分かっていますよ、そんなこと

…だからこそ、最後の最後で決意を揺らがせたかった

…だけどジュプトルさんにとっては、余計に決意を固めるだけに過ぎなかったんですね

ペガサスファントムがそう思いながら、オールドラゴンとキマイラファントムとのぶつかり合いを見ている。

魔力の限界が近いのか、キマイラは次第に疲弊し始め…一瞬体勢を崩す。

その一瞬を見逃さず、オールドラゴンは急加速し――キマイラの腹を突き破る。

キマイラの巨体は地面に大きな音を立てて倒れ、オールドラゴンは地面に降り立ち、変身を解除したかと思えば…キマイラに尋ねていた。

死の間際にようやく正気に返ったのか、キマイラは掠れたような声で…ジュプトルと話す。


「…キマイラ」

『ほっほ…こうして会うのは、初めて…になるのかの。……お主はもはや、ドラゴンそのものと言っても過言ではない…できればその魔力、口にしてみたかったものじゃ』

「お前は、ワイズマンがどういう奴なのか知っていた上で…協力していたんだな。あいつが、どう生まれたのか…何をされていたのか、全て」

『…成程、そこの…ペガサスの能力か。……そうじゃよ、ワシは、知っていた上で協力した。全て知っていた上で…』

「――全て知っていた上で、何故、最終的にリザードンについた?」

『ほっほっほ。…ワシは、ワイズマンとあのポケモンを天秤にかけたことは一度とてない。あのポケモンは面白い、何処までワシを扱えるか見ていたかった。…それだけじゃよ』


そもそもいつ完全に仲間になったと言ったかの、と告げられ、「確かに」とジュプトルは納得する。

キマイラはビーストドライバーに偶然封印されただけであり、アルセウスによって何らかの洗脳を受けていたわけではない。

全て自分の意思で、リザードンがどこまで運命に抗えるか見ていた。

…そして、ワイズマンの目指す理想がどうなるのかを…見守っていたのだ。


『オーディンも、ワシの同期でな。…奴は他のメタモンと色が違うということで、何かと不便な思いをしていた。……だからこそ、ワイズマンに共感する部分があったんじゃろう』

「ワイズマンの目的を知っているファントムは、他にはいないのか?」

『…恐らくはワシとオーディンぐらいじゃよ。それだけ、他のファントムに弱みと言うものは見せなかった……寂しいモノじゃな』

「…ああ。そうだな…弱みを見せられないというのは、悲しいことだな」



そうじゃな、と小さな声で告げたと同時に…キマイラは、消滅していた。

それを見届けたペガサスファントムは、別のアンダーワールドに向かうための渦を発生させる。

…既に彼女の肉体も限界が来ているのか、うっすらと消えかかっていた。


『ジュプトルさん、ここを通ってくださいなー。ここが一番の近道になると思うし』

「オオタチ。…お前には散々振り回された嫌な思い出しかないが…、……すまない。ありがとう」

『やだなー、もー。そんな湿っぽい顔しないでくださいよー。…行ってらっしゃい、ジュプトルさん』

「…ああ」


それだけ告げると、ジュプトルは渦の中へと入っていく。

そして…

彼の姿を見届けたと同時に、ペガサスファントムは静かに消えていた。

たった1枚の、白い羽を残して。






***




もうジュプトルに死亡フラグ以外のものが見えない。

そんな58話。


ワイズマンに関しては54話で話したいことは大体話してしまったので、多少触れる程度で。

オオタチは…まあ、うん、しぶとい。

そしてオオスバメという選択は間違っていない。あいつ絶望しないもん←

サラッとオオタチとカビゴン爺さんのつながりについて語られたのはさておいて。



ワイズマンは戦闘狂。

と言うよりは、それしか自分の生き方が分からないんですよね。

館長は一応所帯持ってたこともあるんで、それ以外の生き方は知ってますけども。

だけどこれからどう生きるのか、という不安は光を…時間を取り戻したポケモン達の殆どは思ったことでしょうね。

オオスバメなんてあの過去でよくあそこまで立ち直った挙句に一周回ってアホの子爆発したなあ(ひどい)


オーディンさん無自覚でもひどない?

しかし、オーディンの真価は物量作戦による消耗だけでなく、ビーストにとってはファントムを倒したとしても割に合わないにもほどがある相手であること。

ようやくファントムを倒したのに手に入れた魔力がちっぽけなものでは、キマイラを満たすには至らない。

オーディンを直接叩こうにも、オーディン自体も魔力の消耗が激しいため、ようやく倒したころにはほんの少しの魔力しか残っていない…



ちなみに今回の作業BGM、死灯-エヴィヒカイト-にした方がよかったなあ。曠劫たる未来を死で灯せー

え、じゃあ何を聴いていたんだって?

…君ト云ウ音奏デ尽キルマデ(どの道似たようなもん)


ジュプトルゥゥゥゥゥ…

お前本気で死ぬつもりじゃねーかよ…

しかも通常形態無視してのドラゴンやらドラゴタイマー無視してのオールドラゴンって…



次回

最終決戦、そして…