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タイトル未設定 - 46話:誰にでも使える魔法

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46話:誰にでも使える魔法

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最近ファントム絡みで不審なことが起こっているというルカリオの依頼を受け、リザードンは彼女の護衛に就く。

それと、彼だけでなくピカチュウとオオスバメ…あと無理やり連れて来たジュプトルもついて来ている。

ジュプトルとしては、ファントムを倒せない以上は自分がついて来たところで意味がないと言うが…

それでもピカチュウとオオスバメは、どうにかしてでも彼を連れて行こうとしたのだ。

後からやって来て話を聞いたミロカロスやギャラドスからも、「もしかしたらガーディが3匹重なって驚かせたのかもしれないし、気分転換に外にでも出たらどうだ」と言われ…半ば強引に【雪花屋】を追い出されたのだ。


「……何なんだ、一体…」

「一応、私達にも依頼をしに来てくれたわけだし…それにファントム絡みなら、やっぱり心配じゃない」

「そうそうー」

「…ピカチュウはともかくオオスバメは殴りたいんだが」

「なんで!?」


ぎゃいぎゃい騒がしいジュプトル達をよそに…

ギャラドス達と同じタイミングでやって来た上、「牛乳でも飲んで気力チャージしてろ」と牛乳を持ってきたバンギラスは、ルカリオに話を聞いていた。


「しかし、昨日は直接襲われたって?」

「はい…そうなんです」

「…一発殴り飛ばしただけで撤退となると、雑魚ファントムか…?いや、でも、この後に及んで雑魚が出てくるとかありえないしな……」

「バンギラスなら分からなくもないんだがなぁ…」

「おいリザードン、キマイラがお前の命を食い尽くす前に、その命を神に還してやろうか?」

「ごめんなさいそれだけはやめてくださいお願いします」



鋭い殺意を向けるバンギラスに、土下座飛行しながら謝るリザードン。

…しかし何故だろう、彼なら分からなくもないのは…

一方で、彼はジュプトルのほうが気になったのか、話題を変える。


「――ところでジュプトルだが、…あいつ本当に大丈夫か?」

「まあ…こういうのは当人次第だからな。大丈夫だろ、某ジュカインなんてメガニウムにフラれたショックで技が出せなくなった暗黒時代があったんだ。あいつもどうにか、立ち直れるだろ」

「お前その某ジュカインに謝って来いよ?」

「アニメとゲームの壁があるんで無理ですごめんなさい。……しかし、本当に静かだな」


リザードンはそう言いながら、商店街に目を向ける。

――レギオンの一軒のせいで、商店街で店を営むポケモンの大半が倒れた…

現在は病院にてラッキー婦長達の手厚い看護の下にいるが、レギオンを倒さない限り彼らが元に戻ることはないだろう。

…実はここ数日、ジュプトル達【ブレイブス】やリザードンの元に…この事態を作り出したファントムを倒して欲しいという依頼が殺到していた。

しかしレギオンはなかなか姿を見せず、これでは手の出しようもない…

「何とか見つけ出してみせる」とは言っているものの、泣きながら必死で懇願するポケモン達の顔が、焼きついて離れない。

特にジュプトルは…自分の油断が招いた結果だと、心の内で自分を責め立てているのだ。


(くそっ…あの時俺が、メデューサを斬れていれば……レギオンの存在に気付いていれば!)


しかし、今更悔やんだところでどうしようもない。

自分は敵の術中に嵌り、ドラゴンを失った。オオタチを失った。

…それだけなのだ。世の中は、結果が総て。

そんな彼の様子に気付いたか、リザードンは話を反らそうとする。


「……つか、3つの頭のファントムって何なんだろうな?」

「さあな…カビゴン爺さんから借りた本で、一応特徴が一致するのはケルベロスというものなんだが…」




ケルベロスねぇ、とリザードンがその姿を想像していると…

突然自分達の目の前に、炎の玉が3発も放たれる。

少し離れた場所にある地面に着弾したため、誰も怪我はしなかったが…

煙が晴れたと同時に現れたのは、三つの頭を持つファントム

――ケルベロスだ。


『ぎょーさん集まって、祭りにでも行くんかい?あんさんら』

「ファントム!」

「…あっ、このファントムです!私が見たのは!!」

「よっしゃああああ!頭が3つなら3体分と見なしていいな!?」

「アホ抜かせ、胴体は1つだから1体分だ!」

『なんかアホらしいコントしとるのもおるけど…まあええわ、ワイはケルベロス。ちょっとそこのルカリオに、用があんねん』

「そうは豆腐屋が卸さないってな!変身!!」

<L・I・O・N、ライオーン!>


ケルベロスのツッコミが否定しきれないほど、ボケを発揮するリザードン…

ファントム不足がそこまで深刻だったのだろうか。

「問屋だ、問屋!」と叫ぶバンギラスを無視し、ビーストはケルベロスと肉弾戦を開始。

それを見たジュプトルもウィザードライバーを不意に取り出すが、自分が今変身できないことを思い出し、くっと手に持ったそれから目を反らす。

それを見たケルベロスは、ビーストと腕で押し合いを始めながら鼻で笑う。


『…なんや、魔法が使えないっちゅーんはホンマのことやったんやな』

「それがどうした!俺だけじゃ不服ってかぁ!?」

『冗談抜かせ。ワイは前々から魔法使いとやり合いたい思うとったんや!1人でも2人でも関係あるかい!!』

「…うおっ!?」


ケルベロスはビーストを力で押し切り、そのまま背負い投げを決める。

視界が360度回転したかと思えば、次の瞬間、ビーストは地面に叩きつけられてしまう…

どうやら、見た目以上に剛力のファントムのようだ。

ジュプトルはどうにかしようと思っても、魔法が使えない今の自分では何もできないと、その場から動けずにいる。

しかし、そんなことなどお構い無しにケルベロスはジュプトルに殴りかかり、近くの壁に激突。

ピカチュウとオオスバメは慌てて彼のほうに駆け寄り、バンギラスは舌打ちしながらケルベロスの両手を掴む。

そのまま相手を変えての押し合いが再開され、今度はどちらも引かない。



『……ほお?力だけなら、あの獣の魔法使いよりあんさんのほうがあるなぁ!』

「種族柄そういうもんなんでね…!」

『せやな。もう少し楽しみたいところやけど、――そこ退いてもらおか!』

「!」


ケルベロスの頭部の一つが、炎の玉を吐く。

バンギラスは咄嗟に相手の手を離してそれをかわすが、ケルベロスはその間にルカリオに接近。

ルカリオはすぐさま“インファイト”で応戦し、ケルベロスは両手でそれを往なしながら機会を伺っていた。

拳や蹴りの鋭さなら、ルカリオに軍配が上がる。

しかしケルベロスはパワーでそれを押し切り、――彼女の鳩尾に重い拳を叩き込む。


「がっ…!」

『あーくそ、不意に食らったとはいえ昨日のあの一発といい…このゲート、ホンマにただの書店のバイトなんか…?まあええ!』


ケルベロスは気絶したルカリオを片腕で抱えると、バンギラスとビーストに追いつかれる前にその場から立ち去ろうとする。

…その際、こんな一言を残して。


『―――このゲートの命が惜しかったら、【浅瀬の海岸】まで来るんやな!ほな、さいなら〜』




その体格に見合わない素早い動きに、ビーストは「くそっ」と地面を叩く。

一方で、オオスバメはすぐさま相手の後を追跡。

スピデリ1の超速特急である彼の飛行スピードなら、ケルベロスに撒かれることなく追えるだろう…


「――あーっ、くそっ!やられた!!」

「落ち着け!…一応オオスバメに追ってもらったが、作戦を考えないといけないな」

「…確かに、あのファントム、バンギラスと相撲でも取れるんじゃねーかってぐらい馬鹿力だったな……つーかあいつに一撃入れられるあのルカリオ、マジで何なんだよ…?」

「まあそこは、流石に格闘タイプだからな…。力押しで戦おうにも、バッファマントの突進力でアレに勝てるかどうか……カメレオマントかファルコマントでの撹乱攻撃が、一番妥当だろうな」


ビーストとバンギラスがそう話している、その横で…

ジュプトルは何もできなかった自分を、怨んでいた。

そんな彼の背中を見て、ピカチュウは悲しそうな顔をしながらも……意を決し、声を掛けていた。


「くっ…、……」

「ジュプトル…。……ジュプトル、ルカリオさんを助けに行こう」

「だが、ピカチュウ…俺は…」

「魔法が使えないからって諦めるの!?…そんなのジュプトルらしくないよ、ジュプトルはいつも、何があっても諦めてこなかったじゃない!」

「!…それは…」

「今ここで行かなかったら、絶対後悔する…そんなの絶対駄目だよ。魔法が使えなくても、できることはなにかあるはずだよ!私が知っているジュプトルなら、絶対そう言う!!」



ピカチュウの言葉一つ一つが、胸に突き刺さる。

だがそれでも、どうしようもないものはあるのだ…

ジュプトルが反論するその前に、ファルコマントをつけたビーストがジュプトルとピカチュウを脇に抱えると、そのままケルベロスの向かったほうへと飛んでいく。


「――はいはい、無駄話はいいからさっさと行くぞ!」

「おい、ちょっと待て…おいっ!?」

「ぎゃー!リザードンさん、心の準備…じゅんびいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!」

「あーあ……まあ、今回はリザードンの馬鹿が正解か」


やれやれ、と溜息をつきながらも、バンギラスもまた走って現場へと向かう。

仕方ない。彼には空を飛ぶ手段がないのだから。





〜〜〜






【浅瀬の海岸】…

この海岸には小さな洞窟があり、不思議のダンジョンとしての階層も少ないため、レベルの低い探検隊の修練場にもなる。

その入り口前にオオスバメが待っており、どうやら洞窟の中にケルベロスは入っていったらしい。

何かの罠があると考えても、間違いないだろう。

洞窟の中は少しばかり寒く、ピカチュウ達はなるべくビースト――炎タイプだからか彼の周囲は暖かいようだ――の傍から離れないよう、距離を詰めて歩く。

そして、洞窟の中で一番拓けた場所に出ると…

ルカリオが地面に横たわっており、ビーストとバンギラスが前に出たその瞬間、ケルベロスがビースト目掛けて飛び掛る。


『――待っとったでぇ!』

「くそっ、いきなりかよ!」

『あんさんも相当せっかちなほうや思うがな?早いとこファントム食わへんと、今のあんさん…相当やばいんやろ??』

「…ははあ、成程、自分から餌になりに来たってか!じゃあ遠慮なく食ってやるよ!!」

『それを言えるだけの力が、あんさんにあればええけどなぁ!』

「くそっ!」

<バッファ、ゴーッ! バ・バ・バ・バ・バッファ!!>


少しばかり拓けているとは言っても、ファルコマントを使うには地上と天井との距離が狭すぎる。

ビーストは咄嗟にバッファマントを装着し、ショルダータックルで応戦。

ケルベロスはそれを両手で受け止めると、「本当のタックルとはこうだ」とばかりに強烈な一撃をお見舞いする。

その一撃でビーストは軽く吹き飛ばされ、ケルベロスが距離を詰めたところにバンギラスが割って入って受け止めていた。


「くっ!やっぱバッファでも駄目か!!」

『かーっ、あっちの魔法使いは吹っ飛ばせても、あんさんともなると重量もあってか一筋縄じゃいかへんな…!』

「岩・悪舐めんなコラァ!」

『元炎タイプやからって、舐めてると痛い目見るでオラァ!!』

「…すっげーガラ悪い、馬鹿力同士の戦いだな…よし、援護するぜバンギラス先生!」

「……『援護』じゃねぇだろ!お前がメインで戦うんだよ、魔法使いィィィィィィィィィ!!」



ケルベロスがビーストと戦っている間、ピカチュウとオオスバメはジュプトルを連れてルカリオの救出に向かう。

今、フリーなのは自分達のみ。

相手がバンギラスやビーストとの戦いに集中している間に、捕まったルカリオを助け出せれば…

そんな希望を持って走り出すと、ピカチュウの前に闇色の球が放たれる。

「あれは」とジュプトルが叫んだ先にいたのは、――メデューサだ。


「…!メデューサ…!!」

『まさか本当に、こんな単純な方法でくるとはね…元・魔法使いさん?』

「もしかして、最初からメデューサの作戦…!?」

「えー、そうかなー…なんか『本当はこんなことやってる暇なんてないのよ!』な空気ビンビンだけど」

『煩い!……まあいいわ、魔法も使えなくなった奴に、何ができるというの?』


そう言いながら、メデューサは杖でジュプトルを指し示す。

更に、メデューサはジュプトル達が何もできないのをいいことに、ルカリオの腹部を踏みつけにする。

ぐう、と苦しそうな声が聞こえ、ピカチュウはすぐさまやめるよう叫ぶ。

それを煩わしそうな顔で見ながら、メデューサは言い放つ。


「…やめてっ!」

『まったく…あなた達は何も気付いていないのね。私達はゲートを絶望させて、ファントムを生み出す……それなのに、あえて気絶させるなんてありえないでしょう?』

「え、なんで?」

「…、……待て、まさかそいつはっ!」


オオスバメの素っ頓狂な言葉には心底呆れつつも…

ジュプトルはメデューサの意図が分かり、ルカリオを見る。




『そう、このルカリオはゲートなんかじゃない。――あなた達をおびき出すための、囮よ』


“囮”

その言葉に、ピカチュウ達は信じられないような顔でルカリオとメデューサを交互に見る。

メデューサも腹立たしそうな顔をしつつも、説明を続けていた。


『ええ、本当はケルベロスを騙すために使ったただのポケモンなのだけど…』

「そんな…どうして」

『私達ファントムは、何もゲート以外に危害を及ぼさないわけじゃない。それはフェニックスやレギオン、ベルゼバブに…セイレーンを見ても分かるでしょう?』

「…!」

『ゲートを絶望させるためなら、どんなことだってやるわ。……目の前でゲートにとっての大事な者を殺したり、その周囲にいるただのポケモンを虐殺したり、…中には自分の快楽のために不特定多数のポケモンを苦しめたりする者もいるけれど』


そもそも、ファントムにとってゲートの資格を持たないポケモンはどうでもいいのだ。

大事なのは、【ゲートを絶望させること】

そのためならば、簡単に傷つけたり殺したりすることもできる。

…絶望させるためなら、ゲートの四肢を切り落とすこともするファントムもいるのだ。

命を軽く思っているファントムにジュプトルは憤りながらも、今、自分に戦う力がないことを思い出し苦悩する。

そんな彼を見て、メデューサはほくそ笑みながら…言い放つ。


『悔しいでしょう?殺してやりたいでしょう、私を…私達ファントムを。だけどあなたにはそれができない、――魔法使いじゃなくなったあなたには』

「……ッ!」

『あなた達は指を咥えて、黙って見ていることしかできない!ゲートでも何でもないこのポケモンが、あなた達のせいで平穏な生活を奪われ…命を落とすとしてもね!!』

「メデューサ…あなたって人は…!」

『尤も、魔法が使えたとしてもあなたはこのポケモンを守るために私と戦えたかしらね?――私の大好きな、優しい優しいジュプトルさん?』



メデューサの言葉に、ジュプトルは拳を握り締める。

…しかし、どうすることもできないのが事実…

メデューサの言うことは、何ら間違っていないのだ。

事実、自分はメデューサの戯言に乗せられ、結果としてドラゴンを失った…

何も言い返せないジュプトルを見てメデューサは笑い、近くで聞いていたケルベロスも「予想してたよりずっと陰険なこと言うやっちゃな」と溜息をつく。

だが…

メデューサに向けて“冷凍ビーム”が放たれ、それをかわしたかと思えば、次に彼女の脳天目掛けて槍が向かってくる。

何とかそれをかわすも、槍は近くの壁に突き刺さり、メデューサが睨みつけた先には…ヘイガニとセイレーンがいた。


「……ちょっとその口、閉じててもらうぜ…セレビィ、いや、――メデューサ!!」

『ヘイガニさんはジュプトルさん達のところへ!…メデューサは私が引きつけます!!』

「ヘイガニ…コータス!?」

「うそ、どうして…ポケモンタウンから結構離れてるのに…」

「いや、オオスバメさんが呼んだんだけど…え、もしかして話、聞いてない?」

「あ、伝えてない」

「おいコラ配達員!!」


…そもそも、オオスバメのスピードならケルベロスに追いつくのは容易い。

ケルベロスも途中から明らかに減速し、流石のオオスバメも罠だと思ったのか…

一度ポケモンタウンのほうに向かい、【雪花屋】にいたコータスとヘイガニに『【浅瀬の海岸】に来て!』とだけ言って目的地に先に向かっていったのだ。

「そんなことだろうと思ってました…」と呟きながらも、セイレーンが蹴りでメデューサを攻撃し、その間にヘイガニがルカリオを抱えてジュプトル達のほうに向かう。

――自分はただ、見ていることしかできなかった

――なのに、こいつらは

何もすることができなかった自分自身に、ジュプトルは心の中で叱責するが…

そんな彼を見て、ピカチュウが言い放つ。




「……どんなに弱い奴でも、今の弱い自分から強くなることができる」

「ピカチュウ…?」

「仲間がいれば、自分ひとりのちっぽけな力よりももっと強くなれる…。……ジュプトルが、私に言った言葉だよ」

「…」

「あのね、ジュプトル。……誰もが皆、最初から強いわけじゃないんだよ。皆、心の何処かに弱さを抱えている…それはセレビィだってそうだろうし、ジュプトルもそう。…私だって、館長だって、他の皆だってそう」


だけどね、とピカチュウは少し言葉を溜めながら…次の言葉を告げる。


「私、これまでの戦いの中で思うんだ……弱いことは別に、悪いことじゃないって。それがあるからこそ、自分の心と…自分自身と向き合うことができるんだって」

「……」

「だから私は、初めてジュプトルと出会ったときの私より…ちょっとだけ強くなれたと思う。他の皆も、ジュプトルとの出会いを経て自分自身の心と向き合って…強くなれたんだよ。ゲートを絶望から救うって言うのはきっと、……そういうことだと思うの」

「………」

「大事なのは、今の自分とどう向き合うかなんだよ。――どんな困難にも、勇気を持って、勇敢に立ち向かっていきたい……それが、【ブレイブス】。私自身が目指したい、探検隊としての自分」

「…ピカチュウ」

「どんなにちっぽけな力でも、勇気さえあれば…どんな困難にも立ち向かっていける。【勇気】は、私達の誰にでもある…誰にでも使える、魔法なんだよ」



“勇気は、誰にでもある魔法”

その言葉を聞いたジュプトルは、この場を見渡す。

ファントムとはいえ、直接の戦いが不得手…そうでありながらも自分達を助けに来た、セイレーン。

自分達の事情に偶然巻き込まれているだけなのに、どんな危険な場所にも来てくれるヘイガニ。

フェニックスへの恨みの感情を乗り越え、誰かのために戦うようになったビースト。

そんな彼に付き合う形で、今、ケルベロスと純粋な力で押し合っているバンギラス。

ファントムに騙されたり直接の被害に遭ったりしているのに、自他共に認める頑丈な精神力で立ち向かうオオスバメ。

そして…自分の弱さを知りながらも、こうして勇気を出して共に戦ってくれるピカチュウ。

今はここにいなくとも、自分達と共にファントムに立ち向かえる仲間達…

――誰もが、自分なりの【勇気】を持って、戦っているのだ。


「……俺は、何をしていたんだろうな」


そう言い放つと、目にも留まらない速さでメデューサとセイレーンの戦いに割って入り…

“リーフブレード”をメデューサの首筋に向けていた。

「どうせ斬れない」と高を括るメデューサだが、ジュプトルはその場で体を翻すとメデューサに鋭い一撃を与える。


『ぐうっ…!?』

「セレビィは…俺の仲間は、俺の心の中にいる……それだけで充分だ。――お前は、セレビィじゃない…セレビィの皮を被った、化け物だ!」

『貴、様…!……魔法も使えないくせに、粋がるんじゃないわ!!』

「いいや、たった一つだけ…使える魔法がある。……お前達には決して使えない…【勇気】という魔法がな!」




「よく言った」とビーストはビーストハイパーへと変身しながら、言い放つ。

一方で、バンギラスと押し合いを続けているケルベロスは…

割とその辺のノリがいいのか、「確かに」と頷いていた。敵なのに。


「…よく言ったぜ、ジュプトル!また一つ、面の皮が厚くなったな!!」

『いやー、ベタな展開やけどおもろいわ。メデューサの悔しそうな顔も見れたし』

『……ケルベロス!どっちの味方なの!!』

『あんさんの味方やあらへんのは事実やなぁ!』

『こ、こいつ…ッ!』

「――おい面の皮が厚い奴2号!お前も手伝え!!」

「せやな!」


ビーストハイパーはダイスサーベルを振るい、ケルベロスを攻撃する。

しかし、ケルベロスは右側の頭部から炎を吐き、ビーストハイパーはそれをかわすのに手一杯…

3つの頭を持つケルベロス相手に、ビーストハイパーとバンギラスだけでは対処しきれない。

…その時だった。

ケルベロスに向かって拳が飛んだかと思えば、寸前の所でそれが止まり、不意を就いた膝蹴りがケルベロスの腹にまともに浴びせられる。

――意識を取り戻したルカリオの“フェイント”だ。


『ぐっ!?…あんさんもホンマ、一体何モンやねん…書店のバイトやあらへんやろ絶対!』

「煩い、黙っとれやこのアホ犬!」

『おーい、言葉移っとるでー!?何やこいつ、本持って蝶ネクタイつけた星か!時間でも止めるんか!!』

「「――今だッ!」」



ルカリオの“フェイント”で注意が反れた。

ビーストハイパーとバンギラスは同時にタックルを行い、ケルベロスが初めて揺らぐ。

ケルベロスはルカリオを無視し、ビーストハイパーに接近戦を挑む。

元々強い肉弾戦に加え、火炎放射による攻撃…

自分一人では到底押さえ切れそうにないと理解したビーストは、バンギラスに叫ぶ。


「バンギラス!炎と相手の拳、どっちも耐えられるか!?」

「拳はタイプ的に不安だが…確実に仕留めるって言えるなら、やってやってもいい!」

「よし任せた!」

「…任されたッ!」


バンギラスはケルベロスとビーストの間に入り、ケルベロスの火炎放射をまともに食らう。

しかしそこは岩タイプ、火によるダメージは少ない。

そのすぐ後に放たれた拳の重い一撃はまともに入ったものの、それを何とか耐えると、全体重を掛けて相手の拳を押さえ込む。


『なんやて!?』

「――リザードンッ!」

「おうよ!……お前は今までのファントムの中でも、いい意味で手強かったぜッ!!」

<マグナムストラーイク!>

『…ぬおおおおおおおおおおおおっ!?』


ビーストハイパーはミラージュマグナムを構え、最大の一撃を放つ。

それはキマイラが他のエネルギー弾となり、ケルベロスの体を確実に捉える。

一緒に巻き込まれる前にバンギラスは離れ、大爆発…

それを見たメデューサはチッと舌打ちしつつも、「まあいい」と吐き捨てるように呟きながらその場から撤退する。


『くっ…!……まあいいわ、むしろ消えてくれて清々した…!』

「メデューサ!」

『指輪の魔法使い、そして、古の魔法使い……次に私と会う時が、あなた達の最期よ!』





メデューサも完全に撤退し、この場にはジュプトル達しかいなくなる…

リザードンは変身を解除し、ジュプトルの背中を勢いよく叩く。


「――どうにか吹っ切れたみたいだな!」

「ぐふっ!?…どうだかな、状況は以前最悪なままだ……今回はよかったが、次からはファントムもお前を自滅させるため姿を見せなくするだろう」

「だったら、その前にあいつらのアジトを見つけて…片っ端から食うまでだ!」

「…お前は、本当にオオスバメ並みの能天気だな…」


ジュプトルは頭を抱えるも、着眼点としては間違っていない。

相手が攻めて来ないというのならば、自分達から攻め込めばいい…

――問題は、それをするにはこちら側の戦力が圧倒的に少ないということ。

そして…相手のアジトの見当が、まったくつかないということだろう。

コータスもその辺りの記憶は非常に曖昧で、オオスバメもオオタチから聞いたことは一度もないらしい。

どうしたもんだか、とリザードンが宙を見ると……ルカリオは訝しげな顔をしながら、尋ねていた。


「…あの、実は以前、私の友達……ハッサムって子で、隣町に住んでいるんですけど。…その子もファントムって化け物に襲われて、それを魔法使いに助けられたって話なんです」

「「「魔法使い?」」」

「どんな奴だった?」

「えーと…オレンジ色のマントを着けていて、『花道オンステージ!』って自分で言いながらファントムに向かって行ったとか」



更に、ルカリオの話によると…

その魔法使いは、一度ファントムを逃がしはしたものの…すぐに人混みならぬポケ混みの中からポケモンに化けたファントムを見つけ、倒したという。

その話を聞いたヘイガニとバンギラスは、「もしかして」と顔を見合わせる。

ジュプトルやピカチュウもすぐに理解できたようで、声に出していた。


「まさか、…そいつにはファントムとそうでないポケモンの違いが分かるのか?」

「だとしたら…その魔法使いに会いに行けば!」

「あ、でも、……その人ってすぐに箒に乗って、どこか遠い場所に行ったらしいんです。ハッサムの話だと、ブイゼルが変身したとか何とか…」

「ブイゼルって…あの時のブイゼル!?」

「あいつ、魔法使いだったのか……というか、『花道オンステージ』って1世代違うだろ…」


とにかく、ブイゼル…仮面ライダーメイジの行方は、ルカリオにも分からないらしい。

しかし、彼の能力さえあれば、ファントムを一網打尽にできるのも事実だ。

当面はファントムを捜索しつつ、魔法使いになれるブイゼルを探すという方向で…ジュプトル達は動くことになる。






***




――勇気は、夢を叶える魔法(ドヤァ

とか言ってみます。

個人的にはリヒターさんの中の人にバンギラスやってもらいたいもんです。

あ、そうそう、この【ぷとぷとっ!】でも猛威を振るったファントム・ユミルが出てくる【星降る桜のウィザード】は、ナナシさんの経営するサイト【○○○じゃない!】にて見られます!!(何故か宣伝)


冒頭辺りのポケモンタウン、実はもうちょっと鬱っぽい展開にしたかったんです。

鎧武の13話…よりは糾弾はないんですけどね。

もっとこう、「早くどうにかしてください!」的な。

ですけど…

それやると尺が足りなくなるので、もう、レギオン回前編に回しちゃおうかなと。

その時まで覚えているかは微妙ですが。

それにしてもルカリオちゃん、……なんで戦闘力凄いあるの…



意外と忘れがちなこと:ヘイガニはそもそも一番無関係

…うん…メインキャラの中で、一番ファントム事件に無関係なんですよこいつ……

オオスバメは自分から突っ込んでいく、ギャラドスとミロカロスも(一応被害者ゆえに)とりあえず突っ込む、ポポッコはジャーナリストなのでとことん突っ込む、ヤミラミは指輪を作れるので突っ込まざるを得ない

……ヘイガニはその気になれば、一番抜けられると思うの…こいつゲートじゃないし、バンギラスみたいにガチでやり合えるわけでもないし……

ところで、冷凍ビームをぶちかました時点で「館長!?」と思った方……ブログコメントのほうで「蟹汁」と叫んでください。


ピカチュウとジュプトルの会話は、2話と4話から持ってきました。

ディケブラでもそうでしたけど、過去にあったネタで「あ、これ使える」と思ったものは伏線じゃなくても持って来ます。

名前の由来的に【ブレイブス】は狙った節がありますが、「勇気は誰にでも使える魔法」に繋げるためではなかったですね。元々。

当然、ピカチュウのエンゲージ理由も、それに関するジュプトルの台詞も……今回の状態に凄く合ってたので拾ってきました。

――というかルカリオちゃん強すぎるw

余談ですけど、ケルベロスとルカリオは執筆中、作者にずっと「オズモーンとテールかw」と突っ込まれてました。

その名残が「言葉移っとる」「本持って蝶ネクタイつけた〜」「時間でも止めるんか」。

……関係ない話ですが、作者の蒼炎の軌跡プレイ中、ツイハークが必殺を乱発するたびに何故か「ザウバーwww」とか呼ばれてました。




次回!

…主に戦闘は次々回になるんだろうけど、ウィザダン史上最も運の悪いファントムが誕生したような気がする…