次の日の朝。
雪花屋では朝からどたどたと何者かが走り回る足音が聞こえて来ており、宿泊または避難しているポケモン達は徐々に目を覚ましつつあった。
一体どうしたのかとコータスが上の階に行こうとすると、青ざめたような顔でピカチュウが階段を駆け下りてくる。
その場にはヘイガニやギャラドス、ヤミラミと言った面々も集まっており、ミロカロスが彼女に訊ねていた。
「どうしたのよピカチュウ。あなたが早起きなんて珍し…」
「――ミロカロスさん、ジュプトルは!?」
「え?」
「ジュプトルが、何処にもいないの…上の階を全部回ったんだけど、誰も見てないって…!」
「…ピカチュウ!やっぱりだよ、リザードンやバンギラスも家にいなかった!!」
今度は玄関からオオスバメがやって来て、その話を聞いたミロカロス達はようやく事態を理解する。
――彼らはきっと、ゼロの孤島に向かったのだろう
しかし相手はファントム、どんな手段で来るかは分からない。
そうなった場合、まともにファントムと戦うことのできない自分達では逆に敵に利用されてしまうのがオチだ。
それに何より、万が一のことがあった場合…ピカチュウを連れて行くことはできない。
ヘイガニは苦い表情をしながら、ピカチュウとオオスバメを宥めようとするがそれで落ち着けるような2匹ではない。
「…いいから落ち着けピカチュウ、オオスバメさんもだ」
「だけど!…落ち着いてなんていられないよ、一緒に行くって約束したのに!!」
「今すぐにでもスバッと追いかけて…」
「――何のためにジュプトルが何も言わずに行ったと思ってるんだよ!」
「…ヘイガニ…」
「館長一人で雪花屋、守れると思ってんのか。ここに避難しているポケモン達を守るためには、今ここにいる俺らが誰一人欠けちゃいけないんだよ!館長だってジュプトルほど悪い状態じゃないとはいえ…ファントムになる危険性を孕んでるのは一緒だ!!」
ヘイガニの言葉に、ジュプトル達を追いかけてゼロの孤島に向かうことで頭がいっぱいだったピカチュウとオオスバメは、頭を冷やす。
恐らくは敵も、こちらが総力戦・もしくは少数精鋭で攻めてもいいように動いてくることだろう…
それを警戒して一番余力のあるオニゴーリを残したが、その彼も中にファントムがいることに変わりはない。
オニゴーリだけでも防衛はできるが、それでファントム誕生のリスクを早めてしまうのはいい手段ではない。だからこそ少しでも彼の負担を減らすべく、例えファントムを倒すことができなくても自分達がやらなければならないのだ。
何より、自分達は探検隊。ダンジョンの探検だけでなく、迷ったポケモン達の救助やお尋ね者の確保強力といったポケモン達の生活に関わる依頼も受けている。
そんな自分達が、ポケモンタウンから避難してきた住人達を放置して行くことなど…できるはずがない。
「…、……ごめんね、ヘイガニ。…ごめん」
「ジュプトルの奴、俺にこう言ってた……簡単に死ぬつもりはないって」
「え?」
「必ず生きて帰って来て、ファントムとか借金とか関係なく【ブレイブス】で探検隊をやりたいって。…そう、言ってたんだ……だったらもう、同じ仲間として信じてやろうぜ」
「…うん、そうだよね。――そう、信じて待とう…ジュプトル達が帰ってくる場所、守らないと」
「……」
ピカチュウの言葉をオニゴーリやコータスは、静かに聞いていることしかできない。
特にオニゴーリは、ジュプトルがどれほど危険な状態なのかはフェンリル経由で聞いている。
――指輪の魔法使いの中にいるファントムの力は、もはやワイズマンに近付きつつある
――その状態で戦い続ければ、ファントムの力が希望を上回り表に出てくるのも時間の問題
――そうなれば“今の”俺らでも勝ち目はないだろうな
純粋な戦闘能力ならばオニゴーリにも勝つ希望はある。だが、それを遥かに超える圧倒的な力を前に勝つことは難しくなる…ジュプトルが粘れば粘るほど、ドラゴンファントムは力を増し結果的に誰にも止められない化け物が生まれてしまう。
問題は、ワイズマンがこうなることを予期していたはずだと言うのに…こうなるまで放置していたこと。
自分以上の力を持つファントムを生み出して、どうしようというのか?
一体彼は何をしたいのか…
そんな事を考えていると外の方が騒がしくなり、慌ててピカチュウ達は雪花屋の外に出る。
するとそこにいたのは、大量のグール。
…そしてその先にいたのは、ジュプトル達が倒したはずのベルゼバブ。
ベルゼバブの姿を視認したギャラドスは信じられないような顔で叫ぶが、ミロカロスやポポッコは違和感に気付いたのか狼狽える彼を諌める。
「…ベルゼバブ!?嘘だろ、あいつはジュプトルが倒したはずだぞ…」
「待ってギャラドス、…様子がおかしいわ」
「はい。私は直接見るのは初めてですけど…生気、のようなものが全く感じられません…まるで、死体が動いているかのような……」
「……まさか、…オーディン…?」
「ウィッ?どういうことだ、コータス」
「ファントムの中に、死んだ者を蘇らせ操るファントムがいると聞いたことがあります。……でも、まさか本当に存在していたなんて…」
死んだものを蘇らせるファントム。
それだけ聞けばオオタチ…ペガサスファントムと同じかと思われるが、コータスはそれを否定する。
ペガサスファントムが死の理を完全に覆し生命を繋ぎ止める力があるとすれば、オーディンファントムは死んだものの肉体を再形成し意のままに操る力。
そこに心や意思というものは存在せず、ただ動かされているだけの傀儡人形。
「まさしく生命の冒涜ね」とミロカロスが吐き捨てるように言ったその横を、ヘイガニの介護で変身準備を整えたオニゴーリが通る。
「しかも余計なことをさせず邪魔臭いグールを大量に展開してこっちの消耗を図る、か。…小手先ばかりでしゃらくさいが、合理的ではあるな」
「だけどベルゼバブは確か、空間湾曲の能力を持っていたはず…それがもしあいつにもあったら、館長も苦戦ぐらいは」
「使われる前に殴り飛ばす」
「…ですよねー」
「雪花屋を一部だけでも壊した奴は弁償してもらうぞ。――お前らファントムやグールに至っては、命で支払ってもらうがな!変身!!」
<チェンジ、ナウ>
〜〜〜
話は、少し前に遡る。
メデューサはゼロの孤島の最奥にある薄暗い洞窟の中を、一人進む。
洞窟には苔が至る所に存在しており、それを気持ち悪いと思いながらもメデューサは歩き続け、漸く目的の場所に辿り着く。
そこにいたのは、一匹のメタモン。
通常のメタモンは明るい紫色をしているのだが、このメタモンは水色。恐らく、元々の変異種なのだろう。
メデューサに気付いたメタモンはにやりと笑うと、余裕に満ちた様子で彼女に言い放つ。
「…そろそろ迎えが来ると思っていた」
『オーディン。ワイズマンの目的のため、来てもらうわよ。…もし拒絶するなら…』
「目的…か。君はワイズマンの本当の目的を、理解しているのかい?」
『何ですって?』
「奴は寂しい男だよ。人間に利用され続け、その誕生も普通のポケモンとは遥かに異なる…そして、誰よりも先に異端の存在と化した。奴は孤独だ、昔もそして今も」
『何をいきなり…ワイズマンを侮辱するようなら、容赦はしないわ』
「侮辱ではないさ。事実だよ…ワイズマンがこの世界の総てのポケモンをファントムにしたい理由は、彼自身の心の平穏のため」
そう言うとメタモンは本当の姿を現し、本当の姿を現す。
黒い山羊のような姿、鋭い鎌、血のような真紅の瞳…
死神、という異名で陰ながらにその存在が噂されていた彼らしいその姿は、普通の者なら畏怖していたことだろう。
だがメデューサは違う。
ワイズマンを妄信する彼女は彼の発言をワイズマンへの侮辱と受け取り、石化させ無理矢理にでも連れて行こうとしていた。
…しかしそんな彼女を止めたのは、思いもよらぬ存在。
3つの犬の首を持つファントム、ケルベロスだ。
『ケルベロスッ!?生きていたのか…何処までも邪魔を!』
『その者は既に死んでいる。私が生き返らせたにすぎない…尤も、生前の記憶も心もないただの操り人形だがね』
『何…?』
『私はある意味でワイズマンの理解者だ。恐らくは君もそうだと思ったのだが…それを見る限り、真に彼の心を理解しているわけではないようだ』
『黙りなさい!私以外に、ワイズマンをこんなにも愛しているファントムは…理解しているファントムはいない!!』
『いいや、君は生前のゲートが持っていた【感情】に踊らされ勘違いしているだけだ。理解者ではない。……これから話す全てを聞いて、それでも理解者でいられるかな』
こいつは一体何を言っているというのか
昨日今日までこのような陰湿な穴倉にいた奴が、ワイズマンのことを理解しているはずがない
ずっとあの方と共にいた私のほうが分かっている!
口に出してはいなかったがそう言いたげな目をしていたのだろう。オーディンは半ば呆れ気味にメデューサを見ながらも、静かに語りだしていた。
『そもそも彼は、人間によって造られた異端分子だった』
『人間の興味本位によって生まれ、人間によって我々も知らないような非道な実験を受け続け、そして…時の崩壊が起こった』
『己を虐げてきた人間どもを排除し、ようやく訪れた自由…しかし彼を待ち受けていたのは虚無』
『行く当てもなく、すべきこともなければ、自分と同じような作られた存在はいない…言いようのない孤独。彼はそんな中であの暗黒世界を生きてきた、一人の理解者もいないまま』
『そして時が動き出し、彼の中に蓄積された絶望の因子がファントムへの覚醒を齎した……しかしそれが、彼にとっての希望を生み出す結果となった。彼と同じファントムが、…初めての友であり理解者となるキマイラファントムが接触してきたからだ』
『自分と同じ存在がいる。それだけが彼の支えとなっていた…そして、彼はこの世界のポケモン達をすべてファントムへと昇華させようと考えたのだ。――心の隙間を、寂しさを埋めるかのように』
『……もっとも、その唯一の理解者であったキマイラは今となっては自分に牙を向ける存在となってしまったようだがね』
オーディンはそんなことを言いながら、次々と魔法使いたちに倒されたはずのファントムを蘇らせていく。
サイア、ヘルハウンド、エキドナ、リザードマン、カトブレパス、グレムリン、…ペガサス…
未だ生きているセイレーンと、不死再生という強すぎる能力を持ったがために復活が困難だったフェニックス以外のファントムが次々と蘇り、メデューサは目を見開く。
それら全てが、生気も自我も失われた人形そのものであり目に光は宿っていない。
――死を操るファントムとは聞いていたが、まさかここまでとは…
――自分も死ねば、奴の人形にさせられる…
ぞっと背筋が凍るような思いをしつつも、彼女はオーディンの話に疑問を感じ、彼に尋ねる。
『…その戯言が仮に本当だとして、あなたは何故それを知っているの?』
『……私も、彼の理想に乗ったクチなのでね。いわば同期、というわけだ』
『その割にはこんな陰気な場所に閉じ込められて、同志と言っても大したことなかったのね』
『私にしてみれば、君ほど愉快なピエロはいないと思うがね』
『…あなた、よほど死にたいのかしら』
『それでも構わないが、今ここで私が死ねば蘇ったファントム達はすぐさま砂となって消える…そのようなことを、君の大好きなワイズマンは望んでいるとでも?』
『ぐっ…!』
『それに、君には理解できないだろう。他の者と異なるということが、どれだけ苦しいことなのか。我々と同じ孤独を抱えるはずだった君のゲート…彼女は幸せだったよ。私やワイズマンの苦しみを、理解できないまま絶望したのだから』
“理解できないだろう”
分かり切ったかのような発言をするオーディンに、メデューサは完全に頭に血が上り石化させようとしたが…
その前に彼が蘇らせたペガサスとエキドナが取り押さえ、更にはカトブレパスに腹を殴られる。
ゲホ、と大きく咳き込み膝をついたメデューサは、憎々しそうな目でオーディンを見上げる。――しかしその瞳は、どこか悲しそうだった。
『君はワイズマンのことを、…逸れ者だった私達の苦しみ…悲しみを一生理解することはないだろう。無知で自らの考えを持たない人形というものは、実に愚かなことだ』
『き、さま…!』
『それよりも、もうじき指輪の魔法使い達がやってくる。……大好きなワイズマンのために君ができることは、何かね?――愚かなファントム、メデューサ』
『……いいわ。奴らを潰した後、貴様を物言わぬ石に変えてやるわ。ワイズマンの隣には、私一人いればいい…!』
『…やれやれ、本当に、愚かな』
――そんな彼が、どうして指輪の魔法使いの中にいるファントムの力の高まりを放置していたのか
――そのことについても疑問に思わないとは、本当に愚かな
しかしその言葉をオーディンから投げかけることは、この先あるはずもない。
もはや今の指輪の魔法使いを止められるものは、ほぼ存在しないだろう。ワイズマンですら勝てるかどうか分からない…
そんな彼の中にいるドラゴンファントムが完全に誕生しようものなら、この世界はどうなるか。
そもそも何故今の今まで、ドラゴンファントムを…指輪の魔法使いを放置していたのか。メデューサはワイズマンに対して妄信的でいるあまりに、気付いていないのだ。
『知らない、というのは愚かなことであり……幸せなことなのかもしれないな』
〜〜〜
バンギラスはどうにか夜の海を渡り切り、【ゼロの孤島】に到着する。
既にジュプトルとリザードンは到着済みで、少し休憩を取るついでに彼を待っていたようだ。
その際牛乳瓶がいくつか転がっていたことに関しては、バンギラスはもはや何も言わなかったが…リザードンが差し出してきたきのみパンには思わず面食らう。
「ほらよ、お前も一応食っとけ。一番体力使ってるだろうしな」
「お前らと違って相当な…ところで、このパンは?」
「この牛乳もなんだが、ポポッコがわざわざ作って置いておいてくれたんだよ。流石に飯を食わないで戦うのは無理だろうってな」
「あいつがか?……料理できたのか」
「案外うまいもんだぜ。つか、お前一緒にいて気付かなかったのかよ」
「…そういえばいつも弁当を持ってきて食べていた気がするな…あまり気にしたことなんかなかったな」
お前無頓着すぎ、とリザードンが笑いそれを真に受けたバンギラスが彼に殴りかかる。
その一方で…
ジュプトルは眉間に皺を寄せながら、きのみパンを口に含んでいた。
先程の牛乳も大概だったが、このパンは…“ただのスポンジを食べている”ような感触しかしない。
いや、何かを食べていると感じられるだけまだいい方だろう。少なくとも触覚は正常であるということは分かるのだから。
――だが、味覚だけは――
「帰ったらバンギラスがひでーこと言ってたってポポッコにチクってやろうぜ!なあジュプトル」
「!…あ、ああ、そうだな」
リザードンに力強く背を叩かれ、ジュプトルはおっかなびっくり反応を返す。
適当に返事を返してしまったせいで彼すらバンギラスの制裁対象に入ってしまっているのだが…それにジュプトルが気付くことはないだろう。
彼は向けられる殺意を知ってか知らずか「少し先を見てくる」と告げてこの場を離れ、バンギラスは仕方なく渡されたきのみパンを食べていた。
時間が経っているためかパン自体は冷たかったものの、それでもふわふわとした食感にきのみの甘味が口の中いっぱいに広がる。
他にも酸っぱい味や辛い味といったパンがあり、恐らくパンの色に応じた味になっているのだろう。
そこでふと、バンギラスは疑問を抱く。
「…なあリザードン、ジュプトルが食べていたのは…何色のパンだ?」
「あー、黄色とか赤だったな。俺はこっちがお勧めだぜって言って黄色のほう渡したら、結構食べて」
「…そのパン、ナナシの実やウブの実を使ったやつだろ」
「よく分かったな。そうなんだぜ、酸味が結構いい感じでさあ」
「……馬鹿、お前、…あいつは酸っぱい味が…」
「え、――ッ!」
クールな素振りを見せるジュプトルだが、実際はかなりのせっかち。
だからだろうか。彼は酸っぱい味の木の実はそれほど好きではなく、特にウブの実など食べようものなら悶絶してしまう。
どちらかと言えば結構甘党な方だ。そういった意味では甘い味が好きで辛い味が苦手なピカチュウと仲がいい。
…そんな彼が、酸っぱい味の木の実を使ったパンを食べて…平気なはずがない。ウブの実を使っているなら、尚更だ。
ジュプトルの身に起きている異変に気付き始め、不安になって追いかけようとする2匹であったが……そんな彼らの耳に、ドォン、という大きな音が聞こえてくる。
「なんだ」とリザードンが叫ぶと同時に、鬱蒼と生い茂った樹海から1体…また1体とグールが現れる。中には以前ジュプトルやリザードンが倒したはずのファントムがいくつかおり、生気のない顔でゆっくりと現れる。
更にカトブレパスやテディスのように飛行能力があるファントムは、空を飛びポケモンタウンの方角へと向かっていくではないか。
『『『…』』』
「ゲルダに、ケルベロス…嘘だろ。前に倒したファントムばかりじゃねぇか…!」
「フェニックスの奴がいないというのは、ある意味で救いだろうがな」
『――ようこそ、古の魔法使い』
更に奥からは見慣れないファントムが現れ、自分達に挨拶してくる。
恐らくは、奴の仕業だろう。
そう判断したリザードンはビーストドライバーを取り出し、目の前のファントム…オーディンを睨み付ける。
「お前…は新顔のファントムだな。こいつらはお前が…」
『蘇らせた。……紹介が遅れたな、私はオーディン…死を司るファントム』
「「死を…」」
『私はこれまで命を落としたファントムを、…全てとは言えないが…蘇らせることができる。操り、自分の手足のように動かすことができる』
「成程な。…俺たちの邪魔をしてくるファントムに相応しい、嫌らしい能力ってことかよ…だが、食っちまえば全部一緒だ!変身!!」
<L・I・O・N、ライオーン!>
その頃…
ジュプトルはと言えば、偵察途中に襲い掛かって来たメデューサとの戦闘を繰り広げていた。
メデューサの杖から放たれる光線を交わしながら、ジュプトルは指輪に手をかける。
しかし、ある指輪がないことに気付き…チッと舌打ちをしながらも、ランドスタイルに変身していた。
<ランド、プリーズ ドッドッドドドドン、ドッドッドドン!>
「メデューサ…貴様だけは、俺が倒してみせる。これ以上、セレビィを冒涜させるものか!」
『くだらない…くだらないッ!貴様も、あのファントムも、下らない……どいつもこいつも、皆ッッッ!!』
「何…?」
『私こそが、ワイズマンの理解者。私だけが、愛するあの人の隣にいればいい!…ワイズマンが悲しんでいる?同族を増やすことでその悲しみを埋めようとしている?……くだらない妄言!くだらない被害妄想!!奴はワイズマンを何も分かっていないッ!!!』
ここに来る前に何かあったのだろうか。
メデューサは非常に激昂している様子で、怒りに任せた攻撃を…まるで八つ当たりするようにウィザード・ランドスタイルにぶつけてくる。
ランドスタイルは冷静さを欠いているメデューサに、「いったい何があったのか」と思いながらも…
『同族を増やすことで悲しみを埋めようとしている』という彼女の言葉に、どういうことかと尋ねていた。
「どういうことだ。まさか、そんなことのためにファントムを増やしていたとでもいうのか!?」
『それはオーディンの妄想!あの強くて完璧なワイズマンが、そんなことで…そんなことでファントムを増やそうと考えているはずがない。そうであるはずがない!!』
「…仮にお前の言葉に同意するとして、ならばどういった世界を作るつもりだったんだ。それをお前は知っているのか?」
『ワイズマンはファントムが支配する世界を作ろうとしている。ファントムのみが君臨する世界を!ポケモンすら凌駕する、私達選ばれた種族の繁栄を!!』
「それを、――ただの一度でもワイズマンが言ったことはあるのかッ!?お前の言う支配を遂げるのなら、何故俺を…俺の中のドラゴンを放置するどころか、その力を強める必要があるッ!!」
その言葉に、メデューサは一瞬だけ攻撃の手を止める。
ワイズマンはその真意を、ただの一度とて自分達に告げることはなかった。
…ジュプトルの、ウィザードの中にいるドラゴンファントムを放置しその魔力を高め続けていた、その理由も…
そもそも彼がファントムの頂点に立つとして、それを脅かす存在をどうして放置するのか。
しかしメデューサは首を横に振り、頭部の無数の蛇を伸ばしランドスタイルを攻撃する。
“ディフェンド”の魔法で土壁を発生させるが、それは次第にボロボロと崩れ始め、遂には砕かれ…6体の蛇がランドスタイルを捉えていた。
チッ、と舌打ちをしつつもランドスタイルはウィザーソードガンを振るい、勢いよく切り落とす。
切り裂かれた蛇の胴体から黄土色の血を流しながらも、メデューサは尚も根拠のない空虚な言葉を言い放つ。
『…それが、貴様に関係あるかあッ!』
「ぐっ…!……どうやら、知らないのはお前も同じようだな…となれば、尚更ワイズマンに直接聞くべきか」
『また、見下すようなことを…いいわ。そちらがそのつもりなら、こちらにだって考えはある…!』
そう言いながら、メデューサは一体の蛇を見当違いの方向へと伸ばしたかと思えば…ずっと隠していた“それ”をウィザードLSの前に突き出す。
そのファントムの姿を、ウィザードLSは良くも悪くも…覚えている。
かつての仲間。気まぐれでお調子者でありながらも、コータスを助け…ピカチュウを庇って死んだ、ペガサスファントム…
彼女は、オオタチは確かにあの時メデューサの石化光線からピカチュウを庇い、メデューサによって砕かれたはずだ。砂となって消えていった姿も、はっきりと覚えている。
困惑しているランドスタイルを見て嘲笑うかのように、メデューサは言い放つ。
「オオタチ…!?いや、だが、あいつは確かに…」
『そう、私が殺した。……けれど、殺したはずのファントムが蘇る…としたら?』
「なんだとッ!?」
『さあ、大事なお仲間を貫く覚悟はあるかしら?あなた達のせいで死んでいった、大事な大事な…お仲間をッ!』
そうだ、大事な仲間だった。
あんなにいい加減で適当でやりたい放題するオオタチでも、自分達の仲間だったのだ。
ランドスタイルは構えていたウィザーソードガンを下ろし、それを見たメデューサは手に持っていた杖ですかさず彼を貫こうとするが
『…がッ…あ…?』
――逆に、ペガサスファントムごと鋭利な爪に貫かれていた。
ランドスタイルはいつの間にかランドドラゴンへと姿を変えており、その変身に指輪を介した様子はない。
…何故
…いつもの指輪の魔法使いなら、躊躇うはず
…それに、こいつ、【直接強化形態へと変身した】…!?
戸惑いを隠せないメデューサを、貫いたペガサスファントム越しに見ながら…ランドドラゴンは、静かに告げていた。
「ああ、大事な仲間だ。…大事な仲間だが…ここにいるこいつは、俺達の知っている“オオタチ”ではない。――人形だ」
『なん、ですって…』
「そしてお前は、“セレビィ”ではない…愚かで卑劣なファントム、メデューサ。…それだけの…話だ」
そう言い放つと、ランドドラゴンはその爪を勢いよく引き抜く。
メデューサの腹部からは大量の血が流れ、がくりを膝をついてしまう。
負ける
この私が、指輪の魔法使いに
嫌だ
こんなところで、死にたくはない
…ワイズマン…
『嫌…いやよ、こんな…ところで…ワイズマン…ッ』
メデューサはそう言いながら、ゆっくりと歩きだす。
その腹部からは大量の血が流れ、あの様子ではワイズマンの所へ辿り着く前に命を落とすことだろう。
ランドドラゴンはそんなことを思いながらも、別の場所で戦いが起こっている音が聞こえ、リザードンとバンギラスの援護へと向かおうとしていた。
だが…
『……その前に、ジュプトルさん…教えてあげますよ。…あなたの抱いた疑問について…』
そんな声が聞こえたかと思うと、ランドドラゴンは足元がブラックホールに吸い込まれていくことに気付く。
――これはレギオンと同じ
――それに、さっきの声は
ランドドラゴンがその存在に声をかけるその前に、…彼の体は完全に何者かのアンダーワールドへと引き込まれていった。
***
もはや手遅れじゃねーかよ!
トリプル役満だよ!!そんな57話。
ピカチュウ(とついでにオオスバメ)にとっては辛いでしょうが…こればかりはヘイガニのほうが正しいとは思いますね。
ぶっちゃけ、オオスバメだけなら逃げきれますが…ピカチュウは人質に取られてしまう可能性が大きいですし。
あと一応、あの館長もファントム生む危険性はありますしね。
復活のベルゼバブ…
問題は、オニゴーリ館長もといソーサラーならどう足掻いても負ける気がしないという。
使われる前に殴り飛ばすって普通は結構難しいんですが、――館長…凍らせられるからなあ…
キマイラ的には、ワイズマンの理解者でもある…のですが、リザードンへの情もあるっちゃあるんですよねえ。
気のいいおじいちゃんだもの。
メデューサは圧倒的な力を持つワイズマンに心酔しており、愛情にも近い感情を持っていた。
そんな彼女からしてみれば、オーディンの言葉はワイズマンが弱い存在であると言っているようなもので、他の何よりもワイズマンを愚弄しているかのように聞こえているんでしょうね。
いつぞやのリーシャンよりも話数重ねてる分キッツいな。
ジュプトル…お前、もう…
性格の設定としては(オオタチ以降恐らく書いた設定を忘れてる可能性もあるのですが一応)
ジュプトル→せっかち
ピカチュウ→臆病
オオスバメ→陽気
コータス→穏やか
オニゴーリ→意地っ張り
ヘイガニ→真面目
セレビィ→寂しがり
オオタチ→気まぐれ
リザードン→能天気
バンギラス→図太い
ミロカロス→頑張り屋
ギャラドス→照れ屋
ポポッコ→真面目
ブイゼル→うっかりや
ヨノワール→冷静
となっています。バンギラスに関してはもう放っておいてください、これしかあいつを体現できなかった。
ピカチュウのほうが頑張り屋とは思ったのですが、あの子、結構昔のスピンオフで臆病ってはっきりと書かれていたんですよね…そこだけは見つけられました。
ペガサス(オオタチ)ほど刺すのに躊躇いのないファントムもいない
という冗談はさておき。
メデューサは一応まだ死にません。ですがまあ、大体の末路は…予想できるかと。
しかし、ジュプトルをアンダーワールドに呼んだのは…?
次回!
ジュプトル四面楚歌