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タイトル未設定 - 38話:風邪を引いた魔法使い

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38話:風邪を引いた魔法使い

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「――ぶえっくしゅん!!!」



そんな盛大なくしゃみを、ジュプトルが放つ。

どうやら風邪を引いてしまったらしく、ピカチュウはそんな彼を介抱している。

ジュプトルが風邪を引いたのには、ワケがある…

……それは前日のこと。

ミロカロスが加入して、今受けられる依頼の中でも高いランクをこなしていったことから、【ブレイブス】はシルバーランクとなっていたのだ。

シルバーランクの探検隊は、【凍て付く大地】と【紅蓮の抜け道】と言った、これまでよりレベルの高い場所の依頼を受け取ることが可能…早速ピカチュウ・ジュプトル・ヘイガニ・ミロカロスは、【凍て付く大地】の依頼を受けに入ったのだ。

――しかし、ジュプトルはマンムーの体当たりで弾き飛ばされたピカチュウを助けるため、彼女を受け止めたのだが…

ピカチュウは踏み止まったものの、ジュプトルは反動で流氷が浮かぶ川に落ちてしまい、そのせいで風邪を引いたらしい。


「……うーん。今うちにある薬じゃ、すぐ治らないわねー」

「そんなぁ!どうにかできないの?」

「風邪に良く効く薬の原材料がある場所なら知ってるけど…でも、あなたじゃ無理よ?」


ポケモンタウンの外で薬屋を営んでいるフシギダネが、そう呟く。

何とかならないかピカチュウが訊ねるも、病気に良く効く特効薬があるにはあるのだが…【極寒の霊峰】に行かなければないとのことで、ピカチュウはがっくりと項垂れる。

【極寒の霊峰】は、ゴールドランクの探検隊しか向かうことが許されない場所…その近辺にある【凍て付く大地】に行けるようになったピカチュウでは、どう頑張っても採りに行けないのだ。


「うう…私のせいだ……」

「まあ、ちょっと酷いぐらいの風邪だからまだいいじゃない。4日分ぐらい薬を出すから、それで経過を見ましょ」

「よ…4日……オオスバメさんですら脱走するほどの監禁生活を、あのせっかちなジュプトルが4日もって…」

「…どれだけ体を動かしていないと気が済まないのよ、あなたのパートナー。とりあえず、悪いと思うなら看病に専念。……病人は暫く絶対安静!」




フシギダネが処方した薬を受け取りながら、見送るピカチュウ。

ジュプトルの風邪は咳が相当酷く、熱も高い。

「どうしよう」とおろおろしていると、リザードンとオオスバメの【一生風邪を引きそうにないコンビ】が見舞いの品を持ってやって来ていた。


「おいジュプトル!風邪引いたってマジか!?そんな時は、牛乳飲んで元気出せよ!!」

「風邪って引けるものなんだね!あ、これ、お見舞いの木の実盛り合わせ」

「…オオスバメさんはともかく、リザードンさんも風邪って引いたことなさそうだよね…」

「ん?ああ、前にゴウカザルと一緒に【凍て付く大地】にある川の中に落ちたけどよー……依頼途中だったから帰るに帰れず、結局ゴウカザルだけが5日ほど風邪引いたんだよな」

「あぁやっぱり」


――“ナントカは風邪を引かない”って言うけど、本当だったんだね…

ピカチュウはそんなことを思いながら、がっくりと肩を落とす。

むしろ、ゴウカザル(生前)が本当に悲惨。

基本的に運のない人だったんだろうな、などと思いながらも、とりあえず見舞いの品は受け取り…ジュプトルに何が食べたいか訊ねていた。


「とりあえず、皮むきぐらいならできるから…何食べたい?りょ、料理はコータスさんに頼むからちょっと待っててね!」

「……とりあえず…ゴホ、…オオスバメとリザードン………バックターン…」

「――オオスバメさん、リザードンさん。部屋から出てだってさ」

「えー!?大丈夫、今日休みだから看病できるよ!」

「俺、ファントム出ないと暇だし。牛乳寒天でも作ってやろうか?あ、飛鳥鍋も」

「…ゲホゴホゴウェッホンゲブレテルベクシャァァブッフリン!!」

「ジュプトル、自分で凄い咳してるの分かってる!?」



能天気コンビが相当癪に障ったのか、咳をしながらも文句を言うジュプトル。

しかし、その言葉の意味を理解できるものはいないだろう…

仕方なく、オオスバメとリザードンは渋々部屋を出る。

そして台所のほうに向かうと……

以前出会ったサンドパンが、何やらオオタチと意気投合している様子で話していた。

リザードンは「遺跡発掘隊の時の」と彼を思い出し、オオスバメはひたすら首を傾げながら、近くにいたコータスとオニゴーリに訊ねている。


「え、誰?」

「考古学者のサンドパンさんです」

「なんか、さっき偶然オオタチと会って、遺跡に関して意気投合しちまってるんだよ…」

「ふーん」

「でーすーよーねー!遺跡ってロマンですよね、ロマン!!」

「そう…男も女も関係ない、遺跡には古代の神秘が……おぉ、確かこの間のリザードンじゃないか」

「すっげー楽しそうだな、あんた…」

「いや、彼女は話が分かるよ。普通、女の子に遺跡の話をしても興味を示さないことが多くてね……ちなみに、ゴルダックもいくつか彼女を作っていたが、どれも続いたためしはないらしい」


サラッとゴルダックの悪口が混ざっていたものの…

それはともかく、考古学者になったきっかけを思い出した彼は、以前のギスギスした雰囲気とは違い、角が取れて丸くなった石のようになっていた。

やはり、あの毒舌じみた性格も、『何としてもゴルダックより先に、未知の遺跡を発掘して世に発表したい』という想いからそうさせたものだったのだろう。

そんな彼の変化についていけないオニゴーリとコータスはさておき、サンドパンはリザードンに話をしていた。


「そうだ、確か君は最近噂の魔法使いだったな」

「ああ、そうだけど…」

「まだマグマラシが生きていた頃…二人で道の遺跡に関する情報がないか、古い資料を調べていた時…こういう噂を聞いたことがあるんだ」

「「「噂?」」」

「ああ。――『天界の笛を授けられし奇跡を求める者、ラディエラの花を探せ さすれば、【神の頂】への道が開けるだろう』……と」




【神の頂】という単語に、ピカチュウ達は驚く。

考古学者であるサンドパンならそういった類の話には詳しいかもしれないが、まさかこんなところで聞くことになるとは。

…だが、話にある【笛】とやらがなければどうしようもないだろう。

その上、ジュプトルが風邪を引いているというのに。

そうしていると、“ラディエラの花”と聞いて…オニゴーリが「ああ」と声を上げていた。


「ラディエラの花…確か、どんな環境にあっても枯れない花で、確かその蜜は万病に効く特効薬になると言われているな」

「館長、それって本当!?」

「ああ。俺の地元じゃ結構有名だぞ」

「地元……あ、そういえば館長、【極寒の霊峰】出身だったっけ。…じゃあ、【極寒の霊峰】に行けば」

「…ジュプトルの風邪が治せる!」


フシギダネの言っていた特効薬とは、ラディエラの花の蜜だったのだ。

それが分かったピカチュウは、早速行こうとするが…

その尻尾をヘイガニが鋏で掴み、「待たんかい」とばかりに意見する。

そもそも、【極寒の霊峰】はゴールドランクの探検隊しか行けない場所。そこにシルバーランクの【ブレイブス】であるピカチュウが行っても意味はないのだ。


「落ち着けって。早く治してやりたい気持ちは分かるけどさ、そもそも【極寒の霊峰】まで行く権限、俺らにはないんだぜ?」

「はうっ!!…そ、そうだったぁ…」

「……俺に依頼する形で同行すれば、問題はないんじゃないか?依頼報酬は、【雪花屋】への借金のうち1000ポケ支払うって形にすれば」

「連れて行ってくれるの!?」

「俺もちょっと用があったしな。その間のジュプトルの面倒は……コータス、任せた」

「分かりました」






〜〜〜






その頃…

【神の頂】を探すヨノワールとブイゼルは、【輝きの洞窟】まで足を運んでいた。

この洞窟には魔宝石……とは少し違うもののの、時々宝石が発掘されるとして、今探検隊の間で有名になりつつある場所。

当然、ここには鉱石を主食とするポケモンも住んでおり、お宝を発掘しに来た探検隊VS貴重な食料を守るために戦うポケモン…というバトルが起こるのは日常茶飯事なのだとか。

――こんな場所に来て、どういうつもりなのだろうか

――まさか、魔宝石というのを探しに?

ブイゼルがそんなことを思っていると、ヨノワールが誰もいないはずの場所に声をかけていた。


「…ヤミラミ(C)、いるのだろう。私だ、ヨノワールだ」

「……ウイィ、よ、ヨノワール様…?」

「久しいな。【神の頂】に関する情報は、手に入ったか?」

「ウイッ…い、いえ、申し訳ないですッ!」


ははー、とまるで印籠を向けられた役人のような土下座を見せるヤミラミ(C)。

ヨノワールとヤミラミ(C)の関係がまったく分からず、ブイゼルは首を傾げるばかりであったが…

そこは、ちゃんとヨノワールのほうから説明があった。

このヤミラミ(C)を含めた何体かのヤミラミは、彼が昔“ちょっとした役職”に就いていた時の部下なのだという。

――最も、その“ちょっとした役職”とは、闇のディアルガの腹心時代…なのだが。

そんなことはともかく、ヨノワールはヤミラミ(C)に労いの言葉をかける。



「そうか…まあ、無理もないだろう。ディアルガ様の住まう場所…【時限の塔】とは違い、見つけるのが非常に困難な場所だ。それこそ、パルキアの【空間の裂け目】のように……」

「ポケモンタウンに待機しているヤミラミ(B)からの情報源では、ジュプトルが白い魔法使いに襲われた…みたいな感じでしたけど」

「…白い魔法使いに!?……そんな馬鹿な」

「それから、半年前の儀式は白い魔法使いが起こしたとか…なんとか。それ以外の、AやD〜Fからは目立った情報はないです。ハイ」


『白い魔法使いに襲われた』

『半年前の儀式は、白い魔法使いが起こした』

…そんな話を聞いたブイゼルは、「まさか」と思っている。

彼にとって白い魔法使いは、命の恩人に近い。

そんな彼が、ファントムを大量に生み出すような危ない儀式を行うはずがない…

ヨノワールも彼の気持ちを察しているのか、ある仮説を立てていた。


「…もしも白い魔法使いが実際に儀式を起こしたのだとしたら、3つの可能性が考えられる」

「3つの可能性?どんな」

「1つは止むを得ない事情で儀式を起こしたか、2つ目は白い魔法使い=黒幕ではないのか。そして3つ目は……ファントムの誰かが白い魔法使いに化けているか。いずれにしても、断定はできないな」

「…、……それも含めて、聞いてやればいいってことだな」

「そういうことだ。しかし気になるな…一体どのようにして、ゲートを絶望させた……というより、ゲートの中にある“絶望の因子”を活性化させたのか」




以前、ヨノワールは『ゲートがファントムを生み出す行為』について、2つの可能性を立てていた。

1つ目は強い絶望の力を持ったファントムによって、ゲートの中にある絶望の因子…つまりファントムを生み出すほどの素質を刺激し、活性化することにより仲間を増やす方法。

絶望の因子を刺激するには、絶望によって生まれたファントムが、自分達と同じようにゲートを“絶望”させる…

そうすることによって絶望の因子が活性化し、アンダーワールド内にファントムが生まれ、更にゲート内のアンダーワールドを破壊して外に飛び出す……という仕組みだ。


そして2つ目は、その要因こそ分からないものの、ファントムが関わらない方法で絶望の因子が活性化され、自分の心を支える希望を上回った瞬間にファントムを生み出す…というもの。

実際、ブイゼルも落石事故に巻き込まれ、死を覚悟した瞬間に絶望し…ファントムを生み出しかけていた。

しかし、普通ならそれだけでファントムを生み出すには至らない。

ジュプトルのように、中にいるファントムの力を徐々に強めているのなら可能性はあるのだが…ブイゼルはどうもそういう感じはしない。

――そこで考えられるのは、絶望的ともいえる暗黒世界での生活の間に蓄積された絶望が、ブイゼルが死を覚悟した瞬間に彼の希望を上回って絶望し、ファントムが生まれようとしていた……ということ。

それならば、ジュプトルが未だ『保っている』のにも合点がいく。

……そして、ヤミラミ(B)から聞いていた『ファントムに襲われても酷い眼に遭っても絶望しないミラクルを何度も披露するオオスバメがいる』という話にも、納得がいくのだ。

2匹の場合は暗黒世界でも何らかの強い希望を持っていたことで、絶望の因子への絶望の蓄積を避けてきたか軽減していた。だからこそ、そう簡単に絶望しないのだろう…ただしジュプトルに関しては、敵の干渉があったためどうなるのかは分からない。



「…ありえないとは思うが、ファントムを利用してゲートを大量に絶望させたか……そうでなければ、あまりにも非効率的過ぎる」

「前に話した、ファントムが原因じゃなくても絶望することで〜ってパターンは?」

「それはまずないだろう。かなりの数のゲートを集めた以上、それらを一度に絶望させるとなると…その方法では個人差がありすぎて無理だ。それにその方法では、ジュプトルの奴は魔法使いになっていない」

「ってことは…ゲートを集団絶望させるだけの力を持ったファントムを利用した、って考えるのが一番なのか?」

「そうなるな。……しかし、一体どんなファントムなのだ…」

「――だから、それもひっくるめて聞けばいいってことだろ?自分で言ったことを忘れんなよな」


あっけらかんと答えるブイゼルに、「確かに」とヨノワールは頷いていた。

…分からないのなら、それを含めて全て白い魔法使いに聞けばいい

…そのために、【神の頂】を探しているのだから

ヤミラミ(C)の話によれば、【輝きの洞窟】にはそれらしい場所も話もなかったとのことで、別の場所に移動しようとしていた。

――その時だった。

ブイゼルがふと、気になったことをヨノワールに尋ねていたのは。


「……なあ、ちょっといいか?」

「何だ」

「アルセウスは【賢者の石】と呼ばれるプレートを隠した…その場所を知っているのは、恐らくアルセウスと白い魔法使いだけ……となれば、一体どこに隠したんだろう」

「単純に、この世界のどこかに隠した…というわけではなさそうだな。それならば、ファントムの力を以ってすれば…世界一帯を焼け野原にして見つけることだってできる」

「そう。でも、そうしないってことは…やっぱ特別な隠し方をしたってことじゃないかな。――ほら、よく言うだろ。【木を隠すなら森の中】…膨大な魔力を秘めたプレートを隠すなら、」

「……!」




ワイズマン達の本拠地。

そこでは、メデューサが紫のカーテンの奥にいるワイズマンに話をしていた。

…そろそろ、魔法使いを放置してまでゲートを探し続ける理由に。

“ファントムを増やす”

どうもそれだけがゲートを探す目的ではないと、メデューサは思っていたのだ。


『ワイズマン。……そろそろ、教えてくれませんか』

『…』

『あなたの理念に賛同する忠臣が私しか残っていない以上、教えてくれてもいいはずです。――何故ゲートを探すのか、どうして魔法使いを放置するのか』

『……私は、あるゲートを探している。素晴らしい素質を持ったゲートを…そしてそのゲートこそ、――アルセウスが【賢者の石】を隠したゲートなのだ』

『賢者の石…!?』


賢者の石については、メデューサも知っている。

…というより、情報は勝手にやって来ていた。

アルセウスが持つ17枚目のプレートにして、万能の力を持つ特別な魔宝石とも言われている賢者の石。

しかし、まさかその賢者の石が…ゲートの中にあるとは。


『賢者の石さえ探し出せば、我が悲願…ファントムしか存在しない世界が作られるのだ。そうなれば、いくら魔法使い共がゲートの中に誕生したファントムを倒して回っても、無意味』

『成程…世界を作ったとされるアルセウス、それが持つ賢者の石の力さえあれば、ゲートであろうとなかろうと全てがファントムとなる……』

『賢者の石を持つゲートは、絶望の因子が活性化された瞬間、体に亀裂が入った瞬間赤い光を見せる…その赤き光こそ、賢者の石が存在する証。そのゲートを絶望させれば、ファントムではなく賢者の石が生み出される……そういうことだ』

『しかし、その話が本当なら、尚更魔法使い共を野放しにするわけにはいかないのでは?』



メデューサの言う事にも、一理ある。

賢者の石を安全に確保するためには、やはり魔法使いを減らすのが一番…

それを避けてまで、どうして奴らを残すのか?

そうしていると、ワイズマンはカーテンの奥から姿を現すと、くっくと笑いながらメデューサに説明していた。


『――古の魔法使いは始末しても問題ない。だが、指輪の魔法使いと万能の魔法使い…奴らの中にはファントムがいる。絶望の因子を蓄積させ、奴らの持つ希望を絶望が上回った瞬間……これ以上にない力を持ったファントムが生まれる。それ以外に理由はない』

『ですが、そんなものが誕生してしまえば、ワイズマン…あなたが危険に』

『構わんよ。むしろ、希望を振りまいているはずの魔法使いが、絶望に堕ちて絶望振りまくファントムとなる……最高にして最凶の皮肉にならないか?』

『…っ』


ワイズマンの話を聞いたメデューサは、ぞくりと背筋に寒気を感じていた。

…もしも本当にそんなファントムが生まれてしまえば

…ワイズマンだけじゃない、私の命も保障されないだろう

…そうまでして誕生させる必要があるのか

賢者の石を持つゲートを探し出しファントムの世界を作る…という思想には賛成こそできるものの、ウィザードとメイジの中にいるファントムの力を凶悪的に高めた状態で生み出す、というのには反対だ。

――やはり、どうにかして始末せねば

メデューサがどうするべきか考えていると、彼女の中にある考えが浮かぶ。




(いや、…可能だわ。私なら……だけど、私だけでは不可能に近い…ならば、“奴”を解放するのもあり……か)


(それに…先に賢者の石を手に入れ、ファントムだけの世界を作り上げれば…指輪の魔法使いのファントムを比較的安全に生み出すことができる)



(賢者の石を持つゲート…それなら、大体の目星はついている)


(そうでなければ、白い魔法使いが必要以上に干渉することは絶対にない…)



(――賢者の石は確実に手に入れる。他でもない、セイレーンを利用して…!)






〜〜〜






【極寒の霊峰】。

ピカチュウはガクガクブルブルと震えながら、オニゴーリとヘイガニの後をついていく。

野生のポケモンは、基本的にオニゴーリが倒し、時々ヘイガニがフォローするという形で何とかなっていた。

彼女が相手するとしてもそれは、まだ起き上がる気力が残っていたり…狭い通路の後ろからやってきた場合だろう。

割と一方的な連係プレーで進んでいると、大広間に出る。

――全てが氷に覆われた世界の中に、赤い花が転々と咲き乱れている…

遅れてやってきたピカチュウは、その幻想的な光景を見て溜息しか出なかった。


「…綺麗…」

「確かに、こんな場所あったんだな…こりゃ地元出身しか分からないわけだよ」

「ま、こんな場所まで来る探検隊はいないからな。最奥地だし」

「あ、そっか」


ピカチュウ達はオニゴーリの案内があったからこそ、到達できたが…

普通なら、ラディエラの花が咲いているこの場所まで来ることはできない。

それは何故か?

ただでさえ不思議なダンジョンは入るたびに階層の様子が変わる上に、この最奥地に行くまではかなりの入り組んだ道を進む必要がある…

通常の依頼範囲である「奥地」からラディエラの花が咲いている最奥地までの道のりは、不思議なダンジョン特有の『入るたびに地形が変わる』というものはないのだが、それでも地元出身でなければ迷いかねない複雑な通路。

前に【キングース】が【極寒の霊峰】での探検中にこの最奥地に足を踏み入れ、――最終的にオニゴーリに依頼して迎えに来てもらうという、あまり表沙汰になっていないが恥ずかしい事故も起こるほど。

……まあ、何の準備もしないで足を踏み入れた結果、最奥地で迷子になってしまうポケモンはかなりいるので、そのたびオニゴーリが借り出されるというのは……言わないほうがいい。絶対零度を食らいかねないから。



「とりあえず、蜜を瓶に入れればいいのかな?」

「花ごと持っていけばいいんじゃないのか?枯れないって話だし」

「…それなんだけど、どうしてラディエラの花って枯れないのかな?」

「さあ…?館長、知ってるか??」

「俺も詳しいことは知らないが、所謂ブリザーブドフラワーって奴なんだろうな。――ジュプトルの風邪なんて一厘分の蜜で足りるだろうし、フシギダネに持っていく分だけ探検隊バッグに入れろよ」


はーい、とピカチュウは花を一厘だけ摘むと、それを探検隊バッグの中に大事にしまう。

その一方で、オニゴーリもラディエラの花を一厘持ち帰るようで、

…それを見ていたヘイガニは、オニゴーリの【用事】が大体分かるような気がしていた。

でもそれは言わない。聞くだけ野暮というものだ。


「そういえば、ここに【神の頂】への入り口があるかもしれないって話だけど…」

「ああ、そういえば、そんな話をサンドパンがしてたな」

「だけど…結局、天界の笛っていうのがないとどうにもならないし。俺達がどうこうするよりも、ヤミラミに頼んで【神の頂】に関する情報をヨノワールさんに伝える…ってほうが一番いいだろ」


確かに、とヘイガニの言葉に賛同するピカチュウとオニゴーリ。

彼の言うとおり、天界の笛がなければどの道【神の頂】への道は開かないということ…

そもそも【神の頂】を探して真相を聞くのはヨノワールの役目だということ…

後、ついでにジュプトルは(風邪を引いた云々は無視して)絶対こんな寒い場所に行きたがらない草タイプということも踏まえ、そのまま立ち去ることにしていた。

だが…

そんな彼らの背後を、白い魔法使いが見守るようにしてじっと見ていたのには、誰も気付かなかった。





探検隊バッジを利用してポケモンタウンに戻り。

…早速、フシギダネがラディエラの花の蜜で作ってくれた薬をジュプトルに持っていくピカチュウ。

温かいお茶の中に入れても問題ないということで、鼻水が酷かったこともあってかジュプトルはそれを飲む。

すると、先程よりも気だるさがなくなり、何より寒気を感じなくなっていた。

顔色もすっかりよくなり、「流石万病に効く特効薬」とヘイガニ達は感心する。


「……、…ちょっとは楽になった。ありがとう」

「そ、そんな。オニゴーリ館長が案内してくれたからであって、私は何もしてないもん」

「治ったら館長にお礼言っとけよ。ついでに土下座と借金返済」

「…あ、別の意味で頭痛が」


もー、とピカチュウが呆れたような声を上げる。

そうしていると、リザードンが鍋を持ってジュプトルの部屋にやってくる。

…見事に白い辺り、飛鳥鍋。

流石牛乳好き、とヘイガニやピカチュウが思っており、遅れてコータスがやってくる。


「――おーいジュプトル!飛鳥鍋できたぞー!!」

「くそ、静養のために追い出したい奴その2が…!」

「っていうか、…うわぁ白い!?鍋白いよ!!?」

「マジで飛鳥鍋作ったのかあんた!?…いや、それはいいんだそれは…味は大丈夫なのか!!?」

「味付けに関しては私も手伝いましたので、大丈夫です。というか、牛乳を一瓶分入れたこと以外は、あまり注意する部分はありませんでした」

「「「それも相当!」」」

「…あ、そういやコータス、さっき館長から貰ったあの花ってどうしたんだ?」



――あ、やっぱりそうですかー

ヘイガニはそう言いたげな顔をしながらコータスを見ており、ピカチュウとジュプトルも生暖かい目で彼女を見る。

いつの間にか入り込んでいたオオタチとオオスバメは「プロポーズ!?」と楽しそうにしているが、コータスは必死にそれを否定。

なお、貰ったラディエラの花は部屋のほうに飾ってあるそうだ。


「なーんだ、てっきりプロポーズ用の花かと…」

「たっちぇーのちぇーぃ−ε−」

「違います!というか、オオタチさんはその現場を見てたじゃないですか!?」

「あれ、そうだっけ?ソレハオオタチデハナイノデハナイデスカナウェーイ」

「………オオタチさん、今日の夕飯は抜きでいいですね」

「あっごめんなさい、それは絶対やめてくださいおねがいします!」


流石のオオタチでも、夕飯抜きはキツイと言ったところか…

そんな彼女を見てピカチュウ達は大笑いし、少し調子のよくなったジュプトルも、苦笑していた。

ただしその際、盛大なくしゃみをしていたが。


「――ガルヘルピポメラガルガロベベリガブルシェッ!?」

「「「だからそのくしゃみ何!!?」」」






***




ギャグ回なのか、シリアス回なのか…

一つだけ分かっているのは、こんな回で凄い重要な話が出てきたということw


ジュプトル風邪ネタは一回やりたかったんです。

前回の恋愛沙汰ネタもですけど。

まあ、やろうとした理由はピカ→ジュプ←セレやらオニコーが要因として挙げられるわけですが

…そのどれもが生かしきれていないという、作者クオリティ!

しかし、オオスバメとリザードンw

馬鹿は風邪を引かないとは言いますけど、こいつらは尋常じゃないですね…

それにしても生前のゴウカザル、……不憫や…



割と今回、超重要な話が出てきましたね。

『賢者の石はあるゲートの中に隠されている』

でも、そのゲートって一体誰なんでしょうねー…隠すって言うんですから、結構意外性があるとは思うんですが。

オオスバメだった日にはファントム総詰みだけどな!←

あいつ絶望しないもん!!


一厘分の蜜で事足りるといわれるジュプトルw

まあ、実際、…足りそうですよね←

なお、飛鳥鍋というのは奈良県の郷土料理で鶏がらの出汁に牛乳を加えてまろやかさとコクを加えるもので、具は普通の鍋と同じ。

飛鳥時代に唐から来た僧侶が、寒さをしのぐためにヤギの乳で鍋料理を作ったのが始まりとされるそうです(出典:Wikipedia)

リザードン得意料理の一つ。 お前どんだけ牛乳好き!




次回は…

あ、そういえばウィザダンのグレムリンって、最初からあの強化形態です。

(これを更新するまでに、その強化形態が出ているのかは知らない)