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タイトル未設定 - 23話:楽しい映画を作ろう

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23話:楽しい映画を作ろう

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この日、ピカチュウはミロカロスによって技の特訓を受けていた。

他のメンバーとピカチュウの実力に開きがある以上、彼女を鍛えておけば少し上の難しい依頼も楽にこなせるだろう…

そう思ってのことだった。

しかし、ピカチュウの技のバリエーションは貧弱で、バトルの役に立ちそうなものは少ない。

そこでミロカロスは“アイアンテール”と言う新しい技を、ピカチュウに教えていたのだ。


「…ほら、打ち込みが甘いわよ!」

「ええーいっ!」

「尻尾にもっと力を溜めて!あなたの弱点でもある地面タイプは、その多くが岩タイプを持っているわ。だから鋼タイプのアイアンテールを覚えるのは、あなたにとって悪いものでもないわ」

「そ、それは分かってるけど…」

「つべこべ言わないで次!」

「は…はあーいっ!」


ピカチュウは何度もミロカロスに尻尾を叩きつけるが、力を溜めるのが上手くいかず跳ね返されてしまう。

あれから3kgは痩せたとはいえ、ミロカロスの豊満なボディにダメージを与えられるにはまだまだ遠い…と言ったところか。

偶然居合わせたヤミラミも「頑張ってるなぁ」と思いながらピカチュウを応援していると、オオスバメがやって来て彼に声を掛けていた。


「あ、ヤミラミさーん。速達でーす!」

「ウイッ?俺にか??」

「うん。はい、これ」



オオスバメから渡されたのは、小さな小箱。

なんだろうと思って開けてみると、そこに入っていたのは…赤色の魔宝石。

ぎょっと目を丸くしながらも、ヤミラミは慌てた様子でオオスバメに尋ねていた。


「おっ、オオスバメ。お前…これをどうやって!?」

「頼まれた」

「いや、まあ確かに、スピデリって荷物を依頼されてナンボだけどさ…それにしたって、ピンポイントでお前に頼むって……ランドの魔宝石のこともあるし、ホントにどうなってんだ?」

「そこらへんの個人情報は開示できませーん」


オオスバメは翼で×を作りながら、はっきりと断る。

彼の口ぶりからするに、直接ヤミラミに渡すよう依頼相手に頼まれたらしい…

ヨノワール…とも思ったが、彼は【神の頂】を探すために途方もない旅に出ていた。

それでは、一体誰がこれを?

疑問に思いながらも、新しい魔宝石が渡されたと言うことは、ジュプトルの戦いに役立つものであることは間違いない。

ヤミラミは急いで宝石店に戻って魔宝石を研磨しに行き、オオスバメはミロカロスと1話空けての再会なのか、素っ頓狂な顔をしながら彼女に尋ねていた。


「あれ、ミロカロスさん…前に見た時より太った?」

「あら。これでも3kg減量したのよ」

「んー…俺個人としては、今のほうが健康的でいいと思いますけど。前は他のミロカロスよりも痩せすぎって感じで、ちゃんと食べてるのかなーって思ってたし」

「まあモデルやっていた頃は、一般のミロカロスより20kg近く痩せていたからね。今の体重からあと7kg痩せて…その体系を保てるようにしていくわ。やっぱり気になっちゃうのよね、影で『モデルを辞めて太りだした』なんて言われるの」

「体壊さない程度に頑張ってくださいね。スピデリの仕事もそうですけど…探検隊って、体の健康が一番ですから!」

「………ピカチュウ、私、今のセリフを“アクアテール”に乗せて叩きつけてやりたいのだけれど…いいかしら」


『こいつにだけは言われたくない』

そんな顔をしながら、ミロカロスはピカチュウに尋ねる。

ピカチュウにしてみれば、ミロカロスよりも…【スピード・デリバリー】でムクホークを始めとした他のポケモン達より重労働と言えなくもない労働を自分で強いているオオスバメのほうが、体を壊して倒れかねない。

しかしそれでも病気になったことがない(と、ヘイガニから聞いている)辺り…頑丈なのだろうが。




そんなことをしていると…

【雪花屋】にたくさんのポケモン達が訪れ、機材のようなものを置き始めていている。

何かの撮影であることは、間違いないだろう。

その後でジュプトルがやって来て、ピカチュウは慌てて彼に何の騒ぎか尋ねていた。


「ジュプトル!…この人達、一体どうしたの?」

「あぁ、お前…今朝はまだ夢の中だったな。実はこいつら、ここの近くで映画を撮るらしい」

「映画!?……って、何?」

「元々、人間の残した文明の産物の一つ…と言われているから、俺もよく知らないんだが。何でも、あそこにあるカメラでポケモン達の動きを撮って…それを繋げて、一つの物語にするらしい」


人間であったミライと組んでいたからだろう。

基本的に世間の一般常識に疎いジュプトルだが、人間に関する話にはある程度強い。

一番詳しいのは、昔の伝承などを知っているカビゴンぐらいだろうが…

ピカチュウは「へー」と納得して何度も頷いていると、一匹のキルリアがやってくる。

どうやら今回の映画は、彼女を主役として撮るらしい。

相手役であるエルレイドやケッキングも現れ、いよいよ騒がしくなってきた。


「…エルレイドは分かるけど、なんでケッキングも…?」

「どうやら、『魔女の呪いで怪物にされてしまったキルリア姫を助けるために立ち上がった、勇者エルレイドの物語』……らしいとオオタチが言っていた。雪花屋は森が近いからな、森の撮影のために暫く機材を置かせてほしいと監督のバリヤードが、館長に頼んだそうだ」

「あら、あのキルリア…」

「知ってるの、ミロカロスさん?」

「ええ。【サーナイト保育所】をやっているサーナイトの、妹よ。駆け出しの女優らしいけど、その演技力はかなりのものだわ」



ミロカロスは一度、彼女の演技を目にする機会があったらしい。

まだまだ新人ではあるが、体全体を使っての表現力は目を見張るものがあるという…

そうしていると、撮影の準備が整うまで待っていたキルリアがミロカロスに気付き、彼女に尋ねる。


「あの、確かモデルの…ミロカロスさん?」

「ええ。元、だけれど。どうしたの、モデルを辞めて…前の美しさが見る影もないって思った?」

「あ、いえ。確かに前よりだいぶふっくらとしてますけど…健康的で、顔色がよくなって、それに凄く嬉しそうな顔をしているから」

「モデルって色々制限があって、ストレスが溜まるだけだったのよね。3ヶ月前にスカウトされて、1週間ほどで20kgの減量をするために、運動量も倍以上になって食事の量も制限されて…今思えばアズマオウが私を絶望させるために、トップモデルとしての地位を築かせようとしていた……つまり利用されていたの」


ファントムを生み出すためにやらされたダイエット後の体を保つぐらいなら、一度元の体重まで戻してリセットしたい…

それから自分の力でゆっくりと痩せて、ベストの体重を無理なく保てるようにしたい。

…モデルを辞めてリバウンドしたと言われればそれまでだが、ミロカロスにとっては『モデルとしての自分』は『ファントムに利用されていた頃の自分』。

だからこそ、そんな自分と決別するために一度体重を戻して、『新しい一歩を踏み出した自分』にした。

そしてこれからは、『【ブレイブス】の一員として探検隊活動に励む自分』の人生を歩み、その過程で少しずつ痩せていきたい…誰かに利用されるために痩せるのではなく、純粋にただ、自分のために。

――そんなミロカロスの話を聞いて、ピカチュウは感心していた。

モデルをやっていた時より確かに太ったが、そのぶん心に余裕ができ、大らかに…そしてどんな困難をもその身で受け止めるようになっていたのだから。

キルリアもそんな彼女の生き方を、小さく微笑みながら肯定していた。


「私は…今のミロカロスさん、凄くいいと思います。だってミロカロスさん、モデル時代より…今が一番輝いていますから」

「そうだよね!オオスバメさんやキルリアちゃんも言ってたけど、体も健康的で…心も冷たく誰かを拒絶するようなものから、大らかでふっくらとして優しくて……今がずっと綺麗だもん!!」

「そう?うふふ、お世辞でも嬉しいわ」

「あ、そろそろ撮影の時間だわ。――それでは」




キルリアはお辞儀をした後、撮影のためのスタンバイに入る。

そんな彼女に手を振るピカチュウ。

そうしていると、ミロカロスは笑顔で“アイアンテール”特訓の続きに入っていた。


「――さて、嬉しいお世辞を言ってくれた所で…特訓を再開するわよ」

「うええええええー!?」

「あなたも強くなりたいんでしょう?私もいい運動になるし、一石二鳥じゃない。――そういうわけだからジュプトル、“アイアンテール”完成まで……ピカチュウを借りるわ」

「あっ、ちょっ…じゅぷとるうううううううう!?」

「……すまんピカチュウ、頑張れとしか言いようがない…」


ミロカロスは基本、スパルタだ。

ピカチュウの体をがっちりと締め付け、ずるずると引きずっていく…

ジュプトルも昨日の段階で「あまり厳しくしすぎるとピカチュウが倒れる」と注意していたが、逆に“圧し掛かり”で返り討ちに遭っていたそうだ。

…なお、ヘイガニとギャラドスも犠牲者の模様。

引きずられていくピカチュウを見届けながら、ジュプトルは呟いていた。


「しかし、…監督の到着が遅いな…」






〜〜〜






――バリヤードは、必死で走っていた。

何かから必死で逃げているのだろう、しきりに背後を気にしながら、我武者羅に走り続ける。

だが…

そんな彼の前に、メデューサとフェニックスが現れる。


「!」

『探したわよ。…あなたには色々と、聞きたいことがあるの』

『余計なことしなけりゃ、すぐ終わるからよぉ』

「い、一体何なんだ…ほっ、保安官を呼ぶぞ!?」

『まだそうやって惚けるつもりなのかしら?――いい加減教えてもらうわよ』


そう言ってメデューサが目を光らせ、バリヤードの動きを止めようとしていた

…その時だった。

彼女の杖を持った手に氷の礫が当たったかと思えば、次の瞬間、フェニックスを背後から切りつける影。

そこにいたのはオニゴーリとビースト、そしてバンギラス。

オニゴーリは買出しの途中で、ビーストことリザードンとバンギラスは【雪花屋】に行く途中、偶然にもバリヤードを襲うフェニックスとメデューサを見つけ、今に至る。

特にビーストは、ここでフェニックスに会えると思っていなかったのか…ダイスサーベルを構え、言い放つ。


「…やっと見つけたぜ、ゴウカザルの仇…!」

『あぁ?何だテメェ、いい度胸してやがるな…喧嘩なら好きなだけ買ってやるぜ!』

『……何かしら?ゲートを不必要に殺す趣味はないのだけれど』

「悪いが、ファントムに追い詰められているポケモンを放置しておくほど人でなしじゃないんでな。どういう目的かは知らないが…妨害させてもらう。――バンギラスはそいつを頼む!」

「ああ!…こっちだ」

「あっ、ああ…」



バリヤードはバンギラスに連れられ、安全な場所に避難する。

それを見たメデューサはチッと舌打ちをしていた。

その態度を見るからに、あのバリヤードと接触しなくてはならない理由があったのだろう。

とにかく、2体の…それも幹部格のファントム相手からバリヤードを守りつつ奴らを撤退させるには、バンギラスが【雪花屋】まで行ってジュプトルを呼んでくる他ない。


『…余計な真似を』

「あいつに何の用だ?…と言っても、お前らのすることなんて限られてるんだろうが」

『――ワイズマンはファントムと言う種の繁栄を願い、それを現実にするべく、あるファントムを探している……それに必要な手がかりを握っているのが、奴だ』

「…ファントムのことは、同じファントムがよく知っていると思ったんだがな」

『ワイズマンが求めているのは、私達が生まれる前に誕生したファントムのうちの1体…でもそれを、お前達が知る必要はない』


メデューサはそう言いながら、頭の蛇で攻撃を始める。

その攻撃をかわしつつ、オニゴーリは考えていた。

――ファントムは日食の儀式で誕生したはず

――それ以前に生まれたファントムがいる、と言う話が本当なら

そうしていると、後方で派手な音が聞こえてくる。

…ビーストとフェニックスの戦いが過激化しているのだ。しかし、純粋な火力ならば2度目の復活を経たフェニックスに部が大きい。


『どうしたぁ?そんなんじゃ俺を倒すのは不可能だな!』

「はっ!いい気になっていられんのも、今のうちだ!!」

<カメレオ、Go! カカッカカッ、カメレオ!!>


ビーストはカメレオマントを展開し、姿を隠しながら攻撃する。

フェニックスは「何処に消えた」と憤りながら周囲を破壊して回るが、――次にビーストが現れたのはその真上。

反応した時には既に遅く、ビーストはダイスサーベルでフェニックスの体を切り裂く。

フェニックスは急いで距離を取るが、ビーストは「逃がしはしない」とばかりにダイスサーベルを回し…4の目を出す。

そのままダイスサーベルを振るうと、4体のカメレオンが一斉にフェニックスに襲い掛かり…その舌でフェニックスの腹部を貫いていた。




――やったか

ビーストはそう思いながら、フェニックスの魔力を吸収しようとする。

だが…

フェニックスの魔力を完全に吸収するよりも早く、フェニックスが復活してしまう。

そのスピードは明らかに、バンギラスから聞いていたよりも速い。


『……ふー、危なかった…成程、魔力を奪い取って俺を復活させないための魔法使いか……しかし残念だったな。前の俺ならそれでよかっただろうが…魔力を奪われる前に再生できりゃ、こっちのモンだ』

「何だとっ!?」

「あいつ…復活するたびに、再生スピードも速くなっていくのか。いや、それほど力が強くなっている…?」

『仕返し…だッ!』


フェニックスは不敵な笑みを浮かべ、大剣カタストロフをビーストに振るう。

炎の剣の一撃はビーストを確実に捉え、あまりの威力に変身を解除してしまうほど…

しかし、その姿を見たフェニックスは「お?」と首を傾げながら、リザードンに言い放っていた。


『なんだテメェ、この前のリザードンじゃねぇか。…まさかテメェが、魔法使いになってたなんてな。こいつはお笑い種だ』

「…フェニックス…!」

『復讐、敵討ち。まぁ考えられる理由はこの辺りか…だがな、お前程度にやられるフェニックス様じゃねぇんだよ!』

「ジュプトルに2度・ついさっきそのリザードンに1度やられた癖してよく言うな。【弱い犬ほどよく吼える】、という先人の言葉はあながち間違いでもないか」

『何だと!?……おいそこのオニゴーリ、まずはテメェから殺してやろうか!』



オニゴーリの言葉に、フェニックスはぎゃんぎゃん喚く。

しかし、その瞬間メデューサから氷のように冷たい視線が向けられる…

オニゴーリは貴重なゲートに変わりなく、それを「殺す」と言うのだから、当然なのだろうが。

だが、フェニックスとメデューサはすぐさまこの場から敗走する結果になる。

その理由は……


<エクスプロージョン、ナウ>

『があっ!?』

『きゃああっ!?』

「な、何だ?」

「今の魔法は…」


突如爆発が起き、フェニックスとメデューサを襲う。

リザードンは何とか起き上がり、オニゴーリが周囲を探していると…

そこには、白い魔法使いが立っていた。

初めてその姿を見るリザードンは「あいつが例の…」と呟くが、白い魔法使いは彼を見て言い放つ。


『…そうか。お前がビーストとなったのか』

「お、おう…」

『その程度では今のフェニックスを完全に倒すことは、不可能だ。――奴を倒したいのなら、力を求め…知恵を振り絞り、勇気を持って困難に立ち向かうこと』

「…は?どういう意味なんだ、それ」

『意味は自分で考えるがいい』

『何をワケの分かんねーことを、ゴチャゴチャと…!』




フェニックスが白い魔法使いに殴りかかろうとした、次の瞬間。

“テレポート”で瞬時に移動した彼は、フェニックスの背後を取り、そこから直接“ライトニング”の魔法でフェニックスを攻撃する。

ジュプトルのハリケーンドラゴンが使える“サンダー”よりも強力な、雷の魔法。

それをまともに浴びたフェニックスは一撃で倒されるが、…また復活。

しかし今日で2度も倒された上に多少ビーストドライバーに吸収されたせいか、復活に使う魔力の消費は著しく…意気が完全に上がっている。

メデューサも白い魔法使いの未知なる実力に、このまま戦っても負けるだけだと思ったのだろう…

フェニックスを連れ、その場から撤退していた。


『くっ…!』

『…逃げたか。懸命な判断だ』

「――おい、大丈夫か……って、お前は…!」


バンギラスから連絡を受け、マシンウィンガーに乗ってやってきたジュプトルも、白い魔法使いの姿を見て驚く。

しかし、白い魔法使いは何事もなかったかのように踵を返そうとしたが…

その前に、ジュプトルが尋ねていた。


「待て!……お前は、何処までファントムのことを知っている…どうして俺やバンギラスに、ベルトを渡した!!」

『…総て答えるには、まだ時期が早すぎる』

「悪いが俺は、セレビィ曰く『クールそうに見えてせっかちな部分がある』らしくてな。……ここで問い詰めておかなければ気がすまない」

「それは俺も賛成だ。――ベルトを託した理由を言いたくなければ、これはどうだ?」

『…何だ』

「日食のせいでファントムが急増した…という話は本当だとしよう。だが、その儀式の前に“ワイズマン”というファントムは誕生していた……ならば、それと同じくして、日食よりも前に誕生したファントムがいくつか存在しているんじゃないのか?」



ジュプトルの後に続いた、オニゴーリの質問に…

白い魔法使いは「話しても支障がない」と思ったか、語り始めていた。


『……私が確認できている限りでは、ワイズマン・リザードマン・セイレーンと呼ばれるファントムがそうだ。…それ以外にもいるだろうが…私も流石に、総てを把握しているわけではない』

「リザードマン、というと…俺が日食の後で初めて会った……」

「それで…セイレーン、というのは」

『その歌声でポケモンの心を情緒不安定にさせ、一気に絶望へと追い込む力を持ったファントムのことだ』

「…歌声」


【歌声】

そのキーワードを聞いたジュプトルは頭を抑え、考え始める。

…そして…

日食の日の記憶の断片を、思い出していた。

――自分が確認できたのは…隣にいたミズゴロウぐらいで、残りのポケモンは顔もよく簿えていない。

総てを確認し、状況を理解するよりも早く…歌声が聞こえてきたからだ。

その歌を聞いた瞬間、自分の中にあった心の支えが瓦解していくような感覚に襲われ、気付けば紫色のヒビが体中に走っていた。


「――思い出した…俺はその儀式の日、歌を聴いた。その瞬間、心が急に不安定になって…絶望して、それで……」

「気付けば自分だけ生き残ってた、ってか?」

「逆に言えば、ジュプトル以外はその場で全員絶望してしまった…ということか」

「それで、そのセイレーンと言うファントムは」

『…今も存在している。だが、行方はファントム側にも分かっていないようだ…ある1体を除いて』


ある1体。

その言葉を聞いたリザードンは、「勿体つけずに教えろよ」と言う。

しかし…

オニゴーリは自然と推測できていた。と言うか、納得せざるを得ない。



「親玉のワイズマンが探している以上……必然的に残った1体、…リザードマンとか言うファントムか?」

『そうだ。奴は偶然、儀式の場に居合わせ…ウィザードと戦い…そして生き延びた』

「って、お前取り逃がしてたのか」

「ああ。あの時は使える魔法の種類も少なかったし、魔法使いとしての初陣のようなものだから勝手が分からなくてな…退けるのがやっとだった」

「ま、俺もバンギラスのお陰で何とかやってける現状だしな。しかも誘拐直後で混乱してる状態での戦いじゃ、仕方ねぇよ」

『セイレーンの居場所をワイズマン陣営に知られるのは、得策ではない…一刻も早くリザードマンを倒して、その可能性を潰す他ない。それがお前達の今の使命だ』


白い魔法使いの言葉に、ジュプトルとリザードンは頷く。

だが、ジュプトルはどうしても腑に落ちないと考えていた…

――今の口ぶりでは、リザードマン『のみ』を倒せと言っているようなもの

――危険なのはセイレーンと言うファントム…と言う話が本当ならば、セイレーンも倒すべきではないのか

オニゴーリも同様のことを思っていたらしく、白い魔法使いに尋ねようとしていたが…

その前に白い魔法使いは消え、リザードンは叫んでいた。


『…』

<テレポート、ナウ>

「…消えたッ!?」

「重大な部分ははぐらかしたな…」

「まあ、リザードマンを締め上げればセイレーンの居場所も分かるだろ。とにかく、今は【雪花屋】に戻るぞ」






〜〜〜






【雪花屋】に戻ったジュプトル達を待ち受けていたのは、

…随分とボロボロになったピカチュウと、いい汗を掻いてすっきりしているミロカロスと、ピカチュウに栄養ドリンクを渡すコータスというカオス。

それだけではない。

映画の監督であるバリヤードがやっと到着したかと思えば、すぐまたいなくなっているのだ。

特にキルリアが一番心配しているようで、メタグロス保安官に相談するべきじゃないのかと話していた。


「…何の騒ぎだ、コータス?」

「実は、先程映画監督のバリヤードさんが到着したんですが…撮影間近だと言うのに、何処にも姿を見せないんです。今さっき、オオタチさんやオオスバメさん、セレビィさんにヘイガニさんが探しに行ったんですが…」

「オオスバメとオオタチは…あまり期待できないな……」

「先程ギャラドスさんもそう言って、探しに出かけました。…私も行くべきでしょうか?」

「かといって、入れ違いになってもアレだろ。とりあえず、あそこのキルリア宥めといてくれ」


オニゴーリの言葉に頷くと、コータスはキルリアに落ち着くよう話をしにいく。

しかし、キルリアはいつまで経っても落ち着く様子がない…

仕方なくバンギラスやオニゴーリ、ジュプトルにリザードンも説得しようとするが、それでもキルリアの勢いは止まらない。


「…だけど、変な怪物に襲われたって言うし…もしかしたら!」

「それだったら、多少頼りないが…ジュプトルにリザードンがいるから大丈夫だ。保安官達も毎日お尋ね者の検挙で忙しいんだから、」

「でも、もしもあの人が危険な目に遭ったら!…私は…」



その言葉を、半分死に掛け状態で聞いていたピカチュウは…すぐに理解した。

キルリアは、バリヤード監督に恋しているのだと。

と言ってもキルリアの一方的な一目惚れである可能性も否定できないのだが、それでも気になる人が今頃危ない目に遭っているのでは…という気持ちは分からなくもない。

しかしピカチュウは動けない。

そんな彼女の気持ちを大体察したか、ミロカロスがジュプトル達に提案していた。


「…私達のほうで探しましょう。コータスとピカチュウと…それから館長は、ここでキルリア達と待っていて」

「そのほうが早いだろうな」

「よし、じゃあ俺は空から探すぜ」

「…お前、大事な時に大事なものを見落とすからな…くまなく探せよ」


バンギラスに釘を刺されるリザードンはさておき…

残った何人かも協力してバリヤードを探すことになり、キルリアは不安そうになりながらも大人しく待つことにしていた。

その際、彼女を心配してエルレイドが声を掛けてくる。


「大丈夫さ、勝手に撮影を放り出すような監督じゃないからね。…それよりも今度、【Cafe アゲハント】でお茶でも…」

「……」

「こんな時に何を口説いてんだ女誑し」

「不謹慎ですよ、エルレイドさん…」

「コヒューコヒューコヒュー…」

「「そしてピカチュウ(さん)は喋れるようになってから発言して(くれ/ください)」」





その頃…

バリヤードは、メデューサによって追い詰められていた。

背中には木。逃げ場は何処にもない。


『…何も取って食うつもりじゃないの。セイレーンの居場所を教えてくれれば、それでいいわ』

「せ、セイレーン?…何のことだか」

『知らないとでも思った?あなたは日食の前に生まれたファントムの一人…そして、絶望の歌姫とまで言われたセイレーンの手がかりを知る唯一のファントム』

「……なんだ、知っていたのか」


諦めがついたかのように、バリヤードは姿を変え…

その姿は、リザードマンと呼ばれるファントムへと変わっていた。

メデューサもフェニックスも、日食の儀式の後に産まれたファントム。リザードマンが彼らのことを知らず、いきなり追われている理由が分からずに逃げるのも当然だろう。


『…それで、セイレーンは今、何処にいるの?』

『それを教えて欲しかったら、まずは誠意を見せてもらいたいもんだな。俺は一応、お前より先輩なんでね』

『……何?』

『調子に乗るな、と言いたいだろうが…それは俺も同じなんだよ。だけどここで俺を殺せば、セイレーンの居場所は分からなくなる…だったらまずは、俺の言うことを聞いてもらわないと』



リザードマンの態度に、メデューサは苛立つ。

…だが、セイレーンの情報を知るのも彼だけなのは確か…

ここは脅してでも問い詰めるか?

そう思っている彼女だが、何者かの気配を感じる。

瞬時にその場からメデューサは姿を消し、リザードマンもバリヤードの姿に戻る。

……現れたのは、バリヤードを探しに来たリザードンだった。


「おっ、こんな所にいたのか。もうすぐ撮影だぜ」

「あ…ああ。もうそんな時間か」

「よかったら乗せてくぜ。森の中を走るよりは速いからな」

「じゃあ、そうさせてもらうよ」


バリヤードはリザードンの申し出を受け入れ、その背中に乗る。

そして、リザードンは大きな翼を広げて空を飛び、撮影所まで向かっていた。

…その内面で、バリヤードは大きく舌打ちしていた。




(――あーあ、面倒なのに見つかっちまったよ…つーか、映画の撮影なんて何処が楽しいんだか……)


(まあ、あのおっかないファントムにはセイレーンを差し出して…後は適当な理由で監督辞めて、トンズラこくとするか)






***




ミロカロスと白い魔法使いで費やされた大半。

何やってんのこの人達。

お陰でバリヤードが持て余し気味だろ…いや、若干風邪引いてる状態で書いてるのがアレなんだけど。

(※6/29現在)

本当はオオタチ辺りが「皆で映画を撮ろうよー!」なノリで、自主映画を始めるつもりだったのにね…

その名残がタイトル。

タイトルと内容の噛み合わなさが凄まじいですが…割と気に入っているタイトルなので、もうそのまま使いました。


オオスバメの魔宝石配達率w

ランドの魔宝石・ハリケーンドラゴンの魔宝石・ウォータードラゴンリング・フレイムドラゴンの魔宝石…

むしろオオスバメ以外の入手経路が少なすぎる。

(ハリケーン→白魔から貰った、フレイム→探検ついでに、ウォーター→オニゴーリから貰った、ランドドラゴン→ヨノワールから貰った)

そのうち、ドラゴタイマーを郵送するんじゃないだろうな。こいつ…



リザードン→1度フェニックスを倒すも再生され一蹴

オニゴーリ→ゲート+白魔の援護もあってか無傷

ジュプトル→そもそも来た時には終わってた

…魔法使いェ…

しかし、今回で色々と新たな事実が判明しましたね。

そしてセイレーンの異常性スゲェ。


リザードマンはやや中立陣営、ってところでしょうか。ペガサスと比べると、ファントム側っぽいですが。

というか…

バリヤード本当に色々持て余しまくって逆に影薄いな。

次回、どう足掻いてもフレイムドラゴンの噛ませになること確定だし。

彼の正体に関しては、割とすぐ気付かれると思います。

リザードンがアホラーターなだけで、ジュプトルはバカキリバと言えるほど馬鹿じゃないむしろ考える頭はある(ただせっかちなだけ)わけですし…館長もバンギラスもいますし。

問題は、リザードマン=バリヤードに止めを刺すのは誰かというのと、バリヤードを倒した後の映画の撮影&キルリアetc…

この辺の問題を解決できそうなのって、フォローに長けたヘイガニぐらいしかいないような。




次回は…

フレイムドラゴンが出ます。多分。

覚えていればペガサスも…