リザードンがバリヤードを連れ、戻ってくる。
ようやく監督が見つかり、スタッフも役者も一安心…
その一方で、キルリアは嬉しそうにジュースを渡しながら、バリヤードと話す。
「監督、何処に行っていたんですか?皆心配したんですよ」
「え?あぁ…ちょっと、散歩に。ほら、この辺りの森の何処で撮影すれば雰囲気に一番あったものになるかなあって」
「凄い…監督って、そこまで考えていたんですね。でも、せめて何人か連れて行ってください。凄く…心配しましたから、私」
「そ、そうか。すまないな」
キルリアが顔を赤らめている一方で、ぎこちない態度のバリヤード。
遅れてやってきたセレビィやオオタチ、ヘイガニも「見つかったんだ」と思いながらも…
キルリアの様子を見て、大体察したようだ。
彼女は完全にバリヤードにホの字で、バリヤードも薄々それに気付いているのだと。
…しかし…
実際のバリヤード、否、リザードマンは心の中で悪態をついていた。
(……何なんだこのキルリア、さっきから必要以上に…ウゼー……)
ファントムは基本的に、相手の感情や心情といった【心の動き】を理解することができない。
だからこそ、ジュプトルに言わせれば「人の心の弱みに付け込んでえげつないことができる」そうなのだが…
それはリザードマンだけでなく、フェニックスやメデューサ、ワイズマンもそうだろう。
唯一、どうなのか分からないのはペガサスファントムなのだが。
一方でジュプトルは、バンギラスと一緒に話をしていた。
…内容は勿論、バリヤードのことだ。
「……まさかとは思うが、可能性は高いと思う」
「だろうな…よし、俺のほうでちょっと調べてみる。その間、リザードンの世話頼むぜ」
「安心しろ。暴走しても館長が俺ごと凍らせる」
「…自分も殺られる前提かよ……まあいい、行ってくる」
「――よし皆、撮影始めるぞ!」
スタッフの一人であるキノガッサが、声を上げる。
キルリアやエルレイドも指定の位置につき、カメラマン達もカメラの位置を調整し始めていた。
一方のバリヤードは、やる気のなさそうな顔で席に着き、監督の仕事を行う。
…彼にとって、ゲートであったバリヤードのこの職業は、長らく身を隠すためのものだったのだろう。
しかし、それも怪しくなってきた以上、ポケモンタウンにはいられない…
少なくともメデューサやフェニックスは、セイレーンの情報さえ売れば見逃してくれると分かっている。今日の夜にでも彼らと合流して、姿を消すべきだと考えていた。
映画の完成など、彼にとってはどうでもいい。
(しかし、俺を生み出したゲートも…何が面白くてこんなもの作ってたんだか。めんどくせーことこの上ないってのによ)
〜〜〜
【ポケモン通信局】
バンギラスはそこにある古い新聞記事を読み耽り、あるものを探していた。
そうしていると…
誰から話を聞いたかは定かではないが、オオタチがにゅるりと資料と資料の隙間から「てーつだーいまーすよー」と現れた時は、流石のバンギラスも壮絶に引いた。
しかし、一人で探すのは膨大な数の資料だったので、正直オオタチの手でも借りたいレベル。
早く捜さなければならないのならば、尚更。
「任せてくださいよー。これでも私、探し物は超得意なんでー」
「…本当か?」
「第5世代で追加された夢特性は【お見通し】なんですよ!?この名探偵オオタチに掛かれば、どんな何事件も解決ですから!」
「迷探偵じゃなくてか?…ところで、お前、ジュプトルから話を聞いてきたのか?正直、あいつがここまで気を利かすにしても…ヘイガニだと思ってたんだが」
「んー、それはトップシークレットでー。……あ、これとか関係ありそうじゃありません?」
オオタチがそう言って放り投げたのは、小さな記事のあるページ。
そのページの殆どが【Bバースト】の活躍に関するものだったので、あまりにも小さく見落としてしまいがちになるが…
バンギラスはその記事を見て、頭を抱えていた。
「……【有名監督バリヤード、謎の失踪】…この記事は確か、2年前か……じゃあ、日食の儀式とは関係ないな…」
「日食じゃないと駄目なんですかー?」
「そりゃあ、バリヤードがファントムの可能性があるとしたら…半年前の儀式があった日じゃないと、辻褄が合わないだろ」
「…それなんですけど、本当にファントムって、その儀式の日にしか生まれてないんですかね?」
オオタチの言葉に、バンギラスは首を傾げる。
しかし…
これまでだったら、「何言ってんだ」と一蹴できたことだろう。
だがジュプトルやオニゴーリ経由で『儀式以前にファントムになったポケモンがいる』と言う話を聞いた以上、オオタチの意見は否定できない。
ファントムを取り纏める“ワイズマン”や、単体で複数のゲートを絶望させられる“セイレーン”がこんな易々と表舞台に出てこれるようなポケモンでないと考えると…
「――まさか、あいつ…リザードマンか?」
「それからー……あっ、もっと興味深い記事発見!」
「何?」
「【子役スターの星、アチャモ失踪 何者かによる誘拐か】…それから、もっと似たような記事がありますよー」
オオタチはそれから、何枚かの資料をポイポイとバンギラスに投げ渡す。
失踪事件。
傷害事件。
殺人事件。
一見すると、どれも違うポケモンの犯行と思われやすいが、――いずれにも共通点があった。
そして…
「これが本当だとすると、…セイレーンの情報を聞き出す以前の問題だ。何とかして、止めさせないと…!」
夕方。
その日の撮影は何とか終わり、スタッフ達が帰っていく…
コータスが夕飯の準備をし、その近くではピカチュウが死にかけ…ミロカロスは明日の特訓メニューを考えている。
彼女曰く、「技のコツは徐々に掴めて来ている、明日は【デコボコ山】の依頼をこなしつつ実戦での特訓をしよう」とのこと。
デコボコ山は岩タイプのポケモンが多く、確かにアイアンテール特訓にはいいだろう。
それに、倒しきれなくても水タイプのミロカロスがいれば何とかなる。
「ピカチュウ頑張れ」と思いながらヘイガニとジュプトルが茶を啜っていると、バンギラスがオオタチを頭に乗せて戻ってきていた。
「――大変だ!」
「「「バンギラス!」」」
「お前、何処行ってたんだよ…つか何でオオタチも?」
「そんなことどうでもいい。リザードン、それからジュプトル、……バリヤードは一刻も早く倒せ!」
『バリヤードを倒せ』
その言葉を聞いたセレビィは顔を顰め、夕飯を食べに来たついでにフレイムドラゴンリングをジュプトルに渡しに来たヤミラミも驚いている。
だが…
バンギラスは片腕に抱えていた資料を机に乱雑に置くと、それらを1枚1枚リザードン達に渡す。
「…これは?」
「失踪したポケモンに関係する取材記事だ」
「これとあのバリヤード監督に、何の関係があるって言うんだ?」
「大有りだ。――記事をよく見てみろ…そうすれば、分かる」
真剣な表情のバンギラスに言われ、リザードンやギャラドスらは取材記事をよく目を凝らしてみる。
しかし…
その総てが、とんでもない内容だった。
「――『なお、被害者のパラセクト氏は、バリヤード監督の映画【ラスト・エンゲージ】に出演しており』…」
「『今回死亡したカメール氏は、奇しくも本日放映されるバリヤード監督の【アクアマリン】が最初で最後の主演映画となり』…」
「『バリヤード監督の映画【ハリケーン】に出演していた女優のアーボック氏が先日未明、意識不明の重体で』…」
「……おい、何だこれ…全部あのバリヤードの映画に出演していた奴らじゃねぇか!?」
「ああ、そうだ。――どういう理由でやってるのかは知らないが、全員あいつの映画に出たことのある被害者だ…しかもこれが、ファントム絡みなら一層止めないと…ヤバイ!」
ファントム絡み。
その言葉を聞いて、ピカチュウ達は驚く。
しかし、記事は総て半年前の日食よりも前のものばかり…
単なるシリアルキラーではないのかとギャラドスやオニゴーリが尋ねるが、バンギラスが首を横に振る。
「そうでもないんだよ。――バリヤード本人も、2年前に1週間ほど失踪している時期があった…つまり……あいつはその失踪期間に誕生した、ファントムだ」
「「「!!」」」
「そ、そんなことありえるのか?」
「ええ。ファントムって確か、日食の日に誕生したんじゃ…」
「ファントム総てが日食の日に生まれたとは限らない。ジュプトル達の情報が正しければ、日食以前に生まれたファントムも当然いるはずだ……それこそ、ファントムを治めているワイズマンとかな」
「…成程、辻褄が合ってきたぞ。あのバリヤードは、俺が半年前に取り逃がした……リザードマンか」
ジュプトルもバンギラスの言いたいことが、分かったらしい。
…メデューサとフェニックスが追いかけていた理由
…2年前の失踪
…白い魔法使いから聞いた、日食以前から存在するファントムの情報
それら総てを繋げると、――バリヤード=リザードマンと考えるのが妥当だろう。
セイレーンの可能性も否定できないが、白い魔法使いが「セイレーンはワイズマン達も行方が分かっていない、だがそれを知っている可能性があるのはリザードマン」と言っていた以上、リザードマンである可能性が濃厚になっていた。
それを聞いたセレビィは、ダン!と机を叩きながら必死で彼を探そうと提案していた。
「…それが本当なら、今すぐあのバリヤードを探さないと!手遅れになる前に!!」
「セレビィの言うとおりだ。あいつの行きそうな場所を、虱潰しに探すぞ…だが、コータスとピカチュウは残っていてくれ。ミロカロス、あんたも一応ここにいてくれると助かる」
「ええ、彼女達は私に任せて」
【雪花屋】にはコータス・ピカチュウ・ミロカロスを残し、残りは全員バリヤードを探しに行く。
セレビィはいざとなれば“時渡り”で姿を消し、オオタチもすばしっこいので襲われても相手を撒けるだろう…
ギャラドスやオニゴーリ、バンギラスはよほど強いファントムでなければ倒せはしなくても撃退できる。
ヤミラミは……役に立たないと自分で分かっていたので、自主的に居残り。
「ウイィ…しかし、大変なことになったなぁ……いや、いつもそうなんだけど」
「大丈夫でしょうか…」
「ゼェゼェ…コヒューコヒュー…」
「……でも、俺はピカチュウのほうが心配になってくる」
「それは…私もです。ミロカロスさん、どのぐらいスパルタでやったんですか…?」
「ここまで激しくやった覚えはないのだけど…この子も頑張り屋さんなのね、休憩しないでやっていたみたいだし」
〜〜〜
――バリヤードは、夜の森の中にいた。
そこには、先程のキルリアも一緒に。
夜の森の中を、二人で歩く…夜中にあまり出歩いたことのないキルリアにとっては、好意を持っているバリヤードと一緒に歩く道のりに、嬉しさと不安で胸がドキドキしている。
あまり疑いを持たない辺り、純粋で…それだけバリヤードのことが好きなのだろう。
「さて、と…ここなら誰も来ないな」
「あの、バリヤード監督…どうして私を?」
「明日の撮影で、幻想的な森の中でダンスを踊る…って内容があっただろ。夜の撮影になるから、今のうちにカメラテストも兼ねて練習させたほうがいいんじゃないかってね」
「そんなに私の…いえっ、映画のことを真剣に考えていたんですね…。分かりました!準備ができたら、教えてください」
そう言って、キルリアは何の疑いも持たずに位置につこうとする。
そんな彼女を見て、バリヤードは「簡単な奴」と鼻で笑う。
だが…
そんな彼の背中に銀の銃弾が当たり、キルリアも何事かと叫ぼうとしていたが、背後に潜んでいたヘイガニが「ごめん」と謝りながら殴って気絶させる。
バリヤードの背後には、ジュプトル。
「――悪いな。殺人か失踪か傷害か…どっちかの事件を起こされる前に、お前を倒すことになった」
「お前は…ッ!」
「覚えてないわけはないよな。……変身!」
<ハリケーン、プリーズ フー、フー、フーフーフフー!>
「まさか…あの時の魔法使い!……まだ生きてたのか…!!」
バリヤードはそう言うと、リザードマンとしての本性を見せる。
最初にジュプトルを見た時、彼は半年前に自分の目の前に現れた魔法使いのことを思い出していた…
しかし、すぐに彼がその時のジュプトルだと結びつくことはなかったのだろう。
半年も会わず、もしかしたらこの先また会うことはないと思っていたのならば…尚更。
――その様子を影で見ていたメデューサも、今ここでリザードマンを倒されることだけは避けていた。
ここは奴を逃がす手伝いをしてやるか。
そう思い、戦いの場に向かおうとする彼女の前には……リザードンとバンギラスが待ち構える。
『お前達は…!』
「悪いな。お前らがまたあのバリヤードに接触するって分かってんだ、邪魔しないわけには行かないだろ」
<セット、オープン! L・I・O・N、ライオーン!!>
「…リザードン、館長によれば…そのファントムは魔力を吸収できる。ジュプトルなら変身解除で済むが、お前だと一気にキマイラに食われる可能性が増えるだけだぞ!」
「おうっ、要するに…こいつで行けってことだろ!」
<カメレオ、Go! カカッカカッ、カメレオ!!>
ビーストに変身したリザードンは、カメレオマントを右肩に展開し、周囲の森を生かした戦いを始める。
カメレオマントの伸びる舌で枝から枝へと飛び移り、メデューサの攻撃を避け続ける…
直情径行のきらいがあるリザードンは好かない戦法だが、無計画に突撃すればバンギラスの言うとおり、自分が一気にピンチになるため指示に従っていた。
「面倒な奴」と舌打ちしながら、メデューサはバンギラスを狙うが…
ビーストの動きが追えない以上自分を狙うと分かっていたバンギラスは、“悪の波動”でカウンターを仕掛けていた。
『ぐうううっ!?』
「…?」
「バンギラスを狙ったって無駄だぜ、こいつの技、冗談抜きでおっかねーからよ!」
『……小癪なッ!』
ウィザード・ハリケーンスタイルとリザードマンの戦い。
ウィザードHSはコピーによるウィザーソードガン二刀流で戦い、リザードマンを追い詰める…
しかし、ここで奴を倒しても意味はない。
できるだけ情報を聞き出すべく、ウィザードHSは鍔迫り合いをしながら尋ねていた。
「……お前、ゲート…バリヤードから誕生して、これまでに何人ものポケモンを襲った!その理由は…何だ!!」
『さぁねぇ、多すぎて覚えてねぇよ!理由なんて、ほんの些細なものだ…例えば俺に口煩く意見してきたり、付きまとったり、転んでジュースをかけたり』
「…そんなくだらないことで、多くのポケモンを傷つけたり…失踪させたりしていたのか……!?」
『誰にだってムカつくことぐらいあるだろ?それと一緒だ!あのキルリアも、しつこいぐらいに俺に付きまとって…面倒そうだから消してやろうと思ったまでだ、そうすりゃ映画を打ち切られて今すぐにでも逃げられるしな!!』
そう言いながら、リザードマンはウィザードHSの腹を蹴る。
ウィザードHSは盛大に舌打ちをしながら、ヤミラミから先程貰ったばかりの指輪を取り出す。
その形からして、フレイムスタイルの強化版とも言える指輪…
唯一ブリザードやグラビティと言った他の指輪がなかったものの、スペシャルの魔法が使えることには変わりないだろう。
「…お前より館長の物理的暴力のほうが、まだ筋も通っているし俺も納得できるからまともだと言うのが、よく分かった……お前は盛大に燃やした上で、情報を絞り尽くして叩き潰す!」
<フレイム、ドラゴン ボー、ボー、ボーボーボー!>
ウィザードHSは、フレイムドラゴンスタイルへと変身…
更にその上で、一本のウィザーソードガンでスラッシュストライクを発動させた瞬間、
――燃え盛る炎の剣を、直接投げていた。
『って、…いきなり投げつける奴があるかーッ!?』
「悪いな、ちょっと邪魔だった!お前もだが」
<チョーイイネ! スペシャル、サイコー!!>
ウィザードFDの胸部からは、ウィザードラゴンの頭が飛び出てくる。
それを見ていたヘイガニは、『何あのど根性ガエルみたいな出方』…まあ確かにそう思いたくなるのも、無理はないのだが。
そんなことはともかく、胸のウィザードラゴンの頭部から火炎放射が吐き出され、リザードマンは文字通り火達磨になる。
しかしそれで倒すには至らない、――いや、【わざと】止めを刺さないようにしていたのだろう。
『ぎゃあああああっ!?熱い…熱いぃぃぃッ!!?』
「お前によって犠牲になったポケモンは、もっと苦しんでいた…。……そんな奴を増やさないためにも、お前は倒す…だがその前に、一つだけ聞きたいことがある」
『なっ…何ィッ……!?』
「言っただろ、お前は盛大に燃やした上で情報を絞り尽くして叩き潰すと。――セイレーンと言うファントムはどこにいる、お前は知っているんだろう!」
“セイレーン”
その言葉を聞いたリザードマンは、考える。
…メデューサ達ならまだ生かしてくれる希望はあるが、目の前の魔法使いは教えたところで取り逃がすはずがない。
しかし、話せばそれだけ時間を稼げるはずだ。
その間にこの状況から脱出するための策を探し、逃げるしかない。……彼はそう考え、ゆっくり話し始めていた。
その頃にはオニゴーリやオオスバメも合流し、彼らもヘイガニと一緒になって話を聞く。
『セイレーン…あいつを探して、どうするんだ…?』
「決まっている。半年前の悲劇を繰り返さないためにも…絶対に倒す!」
『…確かにセイレーンは、歌で相手の心を情緒不安定にさせる……ファントムもゲートも、そうじゃないただのポケモンもな!』
「え、そんなファントムいるんだ?」
「…お前は大丈夫そうだけどな…」
「ああ、オオスバメさん、絶対絶望しないだろって保障があるよ…」
えー、と文句を言いたげにするオオスバメの声。
しかしそれは盛大にスルーし、ウィザードFDはリザードマンに詰め寄る。
リザードマンは一歩ずつ引きながら、話を続けていた。
『……そもそもセイレーンは、かなりの悪女だよ。さっきも言ったとおり、無差別にポケモンを絶望させ廃人にしやがる…愉快犯だ。だからあいつが、ピンポイントでゲートを集めて…ファントムを生み出そうとするなんて、ありえない』
「何故そう言い切れる。セイレーンは、ファントムを一気に増やせるんだろう?」
『セイレーンは、そのファントムも絶望させてぶっ壊して使い物にならなくさせるって言ってんだろ!ワイズマンの命令も全然聞かねぇし!!…俺も実際に半年前、あいつの歌を聴いて死にそうになったよ……』
「「「…」」」
『――お前らは知らないだろうがな、日食の日…セイレーンの……!!』
<エクスプロージョン、ナウ>
リザードマンの背後から、爆発が起こる。
そして、そこに現れたのは…白い魔法使い。
「どうして奴がここに」とウィザードFDは思うが、白い魔法使いは“チェイン”ウィザードリングで容赦なく敵を縛り付ける。
その姿には、どこか恐ろしさも感じられるほどに。
『がっ…あ!?……お、お前は…!』
「白い魔法使い!」
「え、あの人がそうなんだ?」
「でも、一体何をしに…」
『お前に生きてもらっては困るのでな』
そう言いながら、白い魔法使いはフルート状の杖“ハーメルンケイン”をコネクトで取り出す。
そして、その先端の鋭い部分をリザードマンの心臓に突き刺し…
リザードマンはその場で、爆発していた。
彼が倒された以上、セイレーンに関する情報は手に入らない。
結局振り出しに戻り、メデューサは撤退する。
一方で変身を解除したジュプトルは、白い魔法使いに問い詰めていた。
「…一体何故、あそこで奴を倒した?もしかすれば、何か情報が…」
『近くには他のファントムがいた。――それに知られるようなことがあれば、いくらお前でも今度こそ絶望しかねないだろう…中にいるファントムの力をある程度使えるようになったのなら、尚更な』
「「「…」」」
「それほど、セイレーンっておっかないファントムなのか…?あんたも知っていたなら、何で倒さなかったんだよ!あんたも一応、魔法使いなんだろ!!」
ヘイガニの質問に、白い魔法使いは閉口する。
しかし…
暫くした後、彼ははっきりした口調で、言い放っていた。
『私がセイレーンを見逃す理由は一つ。ワイズマンに対抗する切札だから、だ』
「「「ワイズマンに対抗する…」」」
「…切札?どういうことだ」
『セイレーンの歌はファントムの心にすら影響を与え、廃人と化すことができる…それに似た力を持ったレギオンと言うファントムは既にワイズマンに封印された以上、セイレーンしかワイズマンの心を破壊できない』
「でも、そのセイレーンだってファントムだろ!」
「そうだ。それに、半年前の日食の儀式にセイレーンが関わっているとしたら…」
『――彼女は最後の希望だ。だからこそ、ワイズマンに知られては困る。……お前達も、セイレーンを探そうとはするな。……知らないことが幸せと言うことも、あるのだから』
そう言い残すと、白い魔法使いは踵を返し…
最後にちらりとオニゴーリを見たあと、“テレポート”の魔法でその場から姿を消していた。
「一体何なんだ」とジュプトルやヘイガニが思う一方で、オオスバメは首を傾げていた。
(何でリザードマンってファントムは、あの人を見て怯えていたんだろう…)
(……まあ、厄介な魔法使いが増えたようなものだから、仕方ないんだろうけどなぁ)
〜〜〜
翌日。
バリヤード監督のことに関して、ジュプトル達はどう説明すればいいのか考えていた。
流石に映画の撮影中に倒してしまうのは、まずかっただろうか。
しかし、そうしなければ今頃キルリアがどうなっていたのかも分からない以上…これが一番正しかったのだろう。
問題は、スタッフや役者にどう説明するべきか。
代わりの監督は、バンギラスがフーディンに頼んで他の監督を紹介してもらうことで、何とかなっていたが…
バリヤードを好きだったキルリアだけは、「納得行かない」と喚いていた。
「どうして!…どうして監督は急にいなくなったんですか?まだ撮影があるのに…私、まだ監督と一緒に仕事をしたかったのに……!!」
「そ、そうは言っても…」
「一身上の都合としか、聞かされていないし…」
「私は納得できない!…バリヤード監督じゃないと嫌、あの人が撮らない映画なんて出たくないッ!!」
「キルリア…」
共演するエルレイドやケッキングは、おろおろとした様子でキルリアを宥めようとする。
そうしていると…
そこへオオタチがやって来て、空気ブレイクV3を発動していた。
「お茶菓子ですよー」
「…あの、君、今それどころじゃあ…」
「ちょっ、ちょっと落ち着いて!キルリアちゃん!!」
「離して!監督に会わないと…バリヤード監督ッ!!」
「――そうだ、その監督さんから、お手紙預かってるんですよー?」
オオタチはそう言うと、白い便箋をキルリアに見せる。
キルリアはケッキングを振り払い、オオタチから便箋を奪い取ると…
その手紙の内容を見て、泣いていた。
「……『実は僕は恐ろしい怪人に襲われていて、僕を助けてくれた人達の案で、暫くの間ポケモンタウンを離れることにした』」
君を始めとした、出演者の皆には本当に悪いと思っている。
だけど、僕のせいで映画のスタッフや役者の皆…それにキルリアちゃんに、迷惑をかけることはできなかった。
だから、監督としては本当に申し訳ないけれど、今回の映画の撮影を途中で降りることにしたんだ。
そうしなければ、皆が巻き込まれてしまう。
皆が頑張って作っている映画を、僕のせいで台無しに出来なかったんだ。
けれど、監督が変わっても撮影は続けて欲しい。
確かに僕は、もうこの映画には関われない…この先ずっと、君やエルレイド君達の映画を撮ることはできないだろう。
しかし、遠く離れた場所からでも、映画を通して君達の姿を見ることができる。
君達が役者として頑張り、大成していく姿を見るのが…今の僕の幸せ。そして希望なんだ。
だからキルリアちゃん。
僕がいなくなっても、これから来る監督さんの指示に従って、素晴らしい映画を撮ってほしい。
君の演技は、世界に通用する素晴らしいものだ。
最後まで君の映画を撮ることができないのは残念だけど、君は僕がこれまで見てきた中で、最高の女優になれる逸材だ。
僕の言葉なんかで励ましになるかどうかは分からないけれど、女優として頑張って欲しい。
最後に。
君の最高の演技を、君の幸せを、何処までも続く同じ空の下で…見守っているよ。
「監督…、……バリヤード…監督ぅぅぅ……!」
「「「…」」」
泣き崩れるキルリア。
それを見守るエルレイド達。
そんな彼らを邪魔しないように、そそくさと部屋を出て行くオオタチだが…
彼女の前に、様子を見ていたオオスバメが現れた。
「あ、オオスバメさん。やっほー」
「やっほー。……あの手紙って、オオタチが書いたのかな」
「え、なんでバレちゃってるんですか?」
「オオタチぐらいしかいないと思って。…ジュプトルもヘイガニも、どう説明するか下のほうで悩んでいたみたいだし、じゃあオオタチかなって」
「てへぺろー」
オオタチによると…
彼女は偶然にも、バリヤードがリザードマンの本性を表して白い魔法使いに倒されるまでの一部始終を、ジュプトル達とは別の場所で見ていたそうだ。
そして、キルリアのフォローに頭を抱えるジュプトル達の代わりに、フォローを買って出たのである。
「知らないほうが幸せ、ってよく言うでしょ。あのキルリアには、これが一番だったと思うよー」
「まあ、そうかもね。…でもオオタチ、それってキルリアだけに言えたことかな?」
「何がですかー?」
「いや。俺もオオタチも、ジュプトル達も…本当は知らなくていいことは世の中にたくさんあるんだろうね。……でも、いつか現実に直面することだってあるんだから…知らないままでいたほうがいいのか、なんて分からないんだけど」
「私は面倒なことにはあんまり立ち入らないって決めてますー。オオスバメさんはその逆で、とことん首突っ込むタイプっぽいから…考えて行動したほうがいいと思うよ?」
「仰るとおりでーす」
オオタチの苦言に、オオスバメもてへペロしつつ解答。
だが…
彼の胸中には、ある疑問が渦巻いていた。
(……でも、一応調べたほうがいいのかな。…フェニックスのことも気になるし…)
***
今回のフォロー担当:オオタチ
空気ブレイクV3をしておいて…空気を読んだ、だと……?
ちなみに、オオタチとオオスバメはフリーダム同士で気が合うからこそ仲がいい。
自分も殺られる前提のジュプトルw
「館長の暴力のほうがまだ筋通ってるし納得できる」ww
ジュプトル、お前本当は死にたがりなんじゃ…
まあそれはさておき、確かにリザードンを止めようとしたらどう足掻いてもライダー大戦→オニゴーリに半殺しにされる未来しかありませんし。
オニゴーリの手の出し方は凄まじく早いけど、怒る理由もジュプトルが納得できるものばかりだから文句も言えないわけですし。
…バリヤード(リザードマン)と比べられるってのも、アレだけどな…!
リザードマンがファントムを襲っていた理由って、ジュプトルの言うようにマジで下らないです。
まあ、言いがかりとかそういうレベルですかね…
それで殺されたり怪我させられたりしたら、なんとも言えないわけですが。
そして…
フレイムドラゴンwなんでお前の扱いって、オーズ兄弟でもそうだけど酷いんだww
割と大真面目に、
ハリケーンドラゴン>ウォータードラゴン>ランドドラゴン>フレイムドラゴン
…って気がするぞ…扱い的に……
オーズ兄弟だと、出番的に結構どっこいどっこい。 フレドラさんはINFINITELYで名誉挽回のチャンスが(ウォドラ共々)ありますし。
オオタチの嘘手紙…
でもまあ、やっぱり世の中には知らないままでいることも大事なんですよね。
タイトルは【優しい嘘】との間で迷いましたけど、【知らない幸せ】にしました。
色々と今後に繋がりますし。こっちのほうが。
次回は…
ドラゴタイマーとミラージュマグナム、どっちにしようかなぁ……
追記:白魔のせいで、ペガサスは完全に忘れられていた模様