5人目の魔法使い、ソーサラー…
メデューサ経由で彼の存在を知ったファントム達は、どよめいていた。
まさかこの状況下で、5人目の魔法使いが現れるとは想定していなかったからだ。
ゲルダは腕組みをしながら、メデューサに尋ねる。
『メデューサ。……そのソーサラーと言う魔法使いは、どういう奴なの?』
『…はっきり言って、奴とまともにやりあうのは難しいわ。セイレーンを盾にすればいけるかもしれないけれど、それでもただで済まされるかどうか』
『まったく…元はと言えば、あなたがちゃんと件のオニゴーリを絶望させていればこんなことには…』
『なら、あなたはあれ以外の方法で奴に絶望を与えられたと言うの?そんなに自身があるというのなら、当然奴の始末も可能よね』
まさしく、一触即発の空気…
カトブレパスにハイドラは険悪な空気を漂わせる彼女達に冷や汗を掻き、サイアはくすくすと笑っている。
だが…
そんな彼女達を諌めるのは、ワイズマンだった。
ワイズマンは彼女達の争いを制止させると、指示を出す。
『――不毛な戦いはそれまでだ。メデューサ、ゲルダ』
『ワイズマン…!』
『それで、如何いたします?私としては、総ての責任を負うという意味でもメデューサに向かわせるのが一番だと思いますが』
『いや、恐らくこの中のファントムで件の魔法使いを倒せるのは……私ぐらいだろう』
『……確かに』
メデューサは、実際にその恐ろしさを知っているからこそ断言できる。
…ソーサラーは、生半可な相手をぶつけても返り討ちに遭うだけ…
中のファントムの魔力も、戦闘能力も、総てが段違いなのだ。
彼女自身、対抗できるのはワイズマンしかいないのではないかと自覚している。
だが、ワイズマンが自ら打って出るとなると…『万が一』を考えるファントムが、いないはずがない。
もしもここでワイズマンが倒れてしまえば、ファントム達はバラバラになる
――いや、そもそも特にこれと言った仲間意識を持たない種族なのだ。むしろ、ワイズマンの代わりにファントムの頂点に立とうと考えるものも出るだろう。
そうしていると、一匹のマスキッパ…レギオンがワイズマンの前で跪き、頭を垂れる。
「……ワイズマン。私に出撃命令を」
『…ほう?貴様なら倒せるとでも言うのか、レギオン』
「確証はありませんが、他のファントムよりは勝機がありますゆえ。……尤も、すぐに奴を狙うことはしません」
『では、どうするというのだ?』
「……奴の周囲にいるポケモン、総ての心を壊す。そうして孤立させれば、…奴のアンダーワールドに付け入る隙を得ることができるでしょう」
『――ふむ、いいだろう。レギオン…好きに暴れるがいい』
お任せを、と言うと、マスキッパは去っていく。
だが、レギオンを自由にすると言うことは、ゲートであるポケモンの心も壊すと言うこと…
これは流石に問題があると思ったか、ゲルダが意見する。
『ワイズマン、…宜しいのですか?』
『倒してもらうつもりは、元々ない。――むしろ魔法使い達にレギオンを始末してもらいたいところだが…もしかすれば、ということもあるかもしれないな』
『…』
『それよりもメデューサ。……奴のベルトは、白い魔法使いのものと同じだったのだな?』
『ええ。…それは確かです』
そうか、とだけ呟くと…
ワイズマンはメデューサ達に背を向け、にやりと笑う。
(自らの命を削って生み出したベルトを託したと言うことは、――奴はもう死期が近いということか)
(総ての命を生み出した神は死んだ、これにより私は……いずれ訪れるであろう、ファントムの世界の神となる!)
〜〜〜
森の中で一人、ジュプトルは“リーフブレード”による素振りをしていた。
魔法が使えなくとも、できることがある。
そう信じて、彼は自らの力を高めるための鍛錬をしている。
…ドラゴンは未だ、戻らない。
いや、確かに死んだ相手に“戻らない”というのはおかしいのだろうが。
だが、あのドラゴンがそう易々と死ぬはずがない…それなりに長い付き合いだからか、ジュプトルには何となくそう感じられる。
そうしていると、ヤミラミが声を掛けていた。
「ウイィ、ジュプトル!」
「どうした、ヤミラミ」
「実はさっき、速達の手紙が届いて…ヨノワール様が!こっちに戻って来るんだ!!」
「本当か!?」
「ああ。ほら、証拠の手紙!」
そう言って、ヤミラミはジュプトルに手紙を見せる。
筆跡から言って、ヨノワール本人のものであることには間違いないだろう。
――ヤミラミ(B)へ
そちらの戦況は、かなり激しいことだろう。
だが、私はお前達ならばどんなに苦しい戦いでも屈しないだろうと、思っている。
私は“万能の魔法使い”と呼ばれるメイジ…実際はかなりボケボケのブイゼルなのだが、奴と共に行動している。恐らく、お前達も何らかの形で知っているだろう。
本題だが…
我々はようやく、【神の頂】を発見することができた。
吹雪のせいでなかなか【氷雪の霊峰】に向かうことすらできなかったのだが、この手紙を出す1日前に吹雪が止み、現地民のマンムーの力を借りて目的の場所に到着できたのだ。
そこでようやく、アルセウスと邂逅することができたのだが…
積もる話は、ポケモンタウンに戻ってからにしようと思う。
手紙で伝えるには、長すぎると思うのでな。
その際にセレビィのことは聞いた。
……奴が既にファントムだったと言うのは、盲点だった。アレはジュプトルとは別の意味で、頑固だからな。
ただ、そのことに関しては早めに伝えたほうがいいかもしれない。
長い手紙はあのせっかちには苦痛だろうが、その場合は2枚目だけ見せてくれても構わない。
セレビィをファントムにしたのは、白い魔法使いだった。
彼は日食の儀式の時点で、ジュプトルだけではなく…セレビィも儀式の場に、呼んでいたのだ。
…結果として彼女は、セイレーンの歌に耐え切れず、ファントムとなってしまったそうだが…
そもそもゲートの誘拐は、白い魔法使いだけがしたことではない。
奴の動きを事前に察知したワイズマンが、何体かのゲートたる資格を持ったポケモンを儀式の場に紛れ込ませていたそうだ……恐らくセレビィは、そうやって連れて来られたのだろう。
後は、知ってのとおりだ。
最後に一つ。
これはアルセウスからの警告でもあったのだが…
ドラゴンを甦らせることは、できる。
だが、ドラゴンを甦らせると言うことは…お前が再び、ファントムを生み出す危険性を孕むということだ。
アルセウスも危惧するほどの魔力になるまで育ったドラゴンだ…お前の希望を食い破り、誕生した時には、……ソーサラーと言う魔法使いでも勝てるかどうか分からない。
当然、ビーストやメイジの手には負えないだろう。
魔法使いとしての自分を諦め他の魔法使いのサポートに徹するか、世界を滅ぼす覚悟で魔法使いとなるか…
私に決めることは、できない。
だが、私としては、前者であって欲しいと願っている。ジュプトルにまで死なれては、つまらないからな。
――ヨノワールより
その手紙を読んだジュプトルは、押し黙る。
大体の予想はできていたが、あの儀式の場にセレビィもいたとは…
ジュプトルもかなり弱っていた状態だったので、ミノタウロスを生み出して死んだミズゴロウぐらいしか、あの場にいたポケモンを思い出していなかった。
…恐らくは、セレビィもジュプトルのことを知らないままファントムを生み出したのだろう。
「どうするんだよ、ジュプトル。…俺としても、もうこれ以上お前が危険になる必要は無いと思ってる…ほ、ほら、お前は今まで頑張ってきたじゃないか!」
「…ヤミラミ」
「だから、だからさ。……ファントムとの戦いは、館長やリザードン…ブイゼルに任せて」
「心配してくれるのは分かっている。…だが、俺は」
「――あっ、いた…ジュプトルーッ!!」
2匹が話しているところで、ピカチュウが慌ててやって来る。
どうやら相当急いでいたようで、かなり息を切らし…目には涙が溜まっていた。
それだけで何か起こったのだと察したジュプトルは、ピカチュウに尋ねる。
「……どうした、何かあったのか!?」
「それが、それが…ルージュラさんと、ミロカロスさんが……!」
「あいつらがどうした!?」
「落ち着けジュプトル!…ピカチュウ、落ち着いて話してくれないか?」
ジュプトルを窘め、ピカチュウを優しく宥めながら尋ねるヤミラミ。
ピカチュウは少しばかり深呼吸した後…
多少は落ち着いたのか、詳しい話をしていた。
「……ルージュラとミロカロスさんが、レギオンに襲われたの…!」
〜〜〜
――病院。
そこでは相変わらず、レギオンによる被害者が押し込められており…ラッキー婦長達もてんてこ舞い。
その一室で、青い顔をしながらベッドに横になっているルージュラとミロカロスがおり、既にヘイガニとリザードン、コータスとオニゴーリが集まっていた。
ジュプトル・ピカチュウ・ヤミラミも部屋に通され、何があったのかヘイガニに尋ねる。
「ヘイガニ!…一体どうして、2人が…」
「分からない…俺、偶然ポケモンタウンのほうで2人を見かけたんだけど……様子がおかしくて。そしたら、ルージュラさんが急に倒れたかと思えば、ミロカロスさんも……」
彼は第一発見者で、倒れたミロカロスの中からレギオンが出てくるのを目撃している…
恐らく2人は、レギオンが襲う条件を満たしていたのだろう。
リザードンは近くにある机を叩きながら、悔しそうな顔を見せていた。
「畜生!……俺を狙わないってのはこの際どうだっていい、俺らの仲間を狙うなんざ舐めた真似しやがって!!」
「どうやら2人は、買い物をしていたみたいですね。ルージュラさんはPPCのトップですから、護衛を兼ねての同行なら…確かにミロカロスさんほどの適任はいませんし」
「しかし、一体何が目的なんでしょうか…」
「さあな。…だが、ファントムにとっての起爆装置その1をこう簡単に世に放ったということは……最悪の事態を考えないといけないな」
「――おい、しっかりしてくれ!……サーナイト園長!!」
「姉さん!姉さん…姉さああああああんッ!!」
「静かにしてください!」
廊下から、騒がしい声が聞こえてくる。
ピカチュウとジュプトル、リザードンにヤミラミが顔を出すと…
そこでは、担架で運ばれるサーナイトの姿と、彼女に付き添ってきたギャラドスと妹のキルリア・看護師の1匹であるラッキーがいた。
どうやら、サーナイト保育園のサーナイトも被害に遭ってしまったのだろう。
キルリアはそのまま病室まで付き添い、ギャラドスはジュプトル達を見つけると、声を掛けていた。
「お前ら…どうしてここに?」
「ギャラドス、まさかとは思うが…そっちでも何かあったのか?」
「…ああ、サーナイト園長が突然倒れたんだ。それも、……レギオンのせいで…!」
ギャラドスの話によれば…
オオスバメから「保育園に行くなら子供達にグミ持ってって!」と頼まれ、大工の仕事も休みだったことから、子供達に会いに行くのも兼ねて向かっていた。
だが…
彼が偶然保育園に到着したと同時にサーナイトが倒れ、更にその中からレギオンが現れたかと思えば、その場からすぐ逃げ去っていったのだ。
子供達の面倒は近くを通りかかったルカリオに任せ、妹で女優でもあるキルリアと共にここまで付き添ってきたのだと言う。
こんなにも連続して行われる、レギオンによる襲撃事件。
一体、何が目的なのか…
ジュプトルとリザードンがそう考えていると、次々とポケモンが担架で運ばれてくる。
手が足りないのか、キングラーにシザリガー、カイリキーと…オーダイル棟梁の弟子達も借り出されている始末だ。
しかし、担架で運ばれてくるポケモン達を見て、ジュプトル達は驚きを隠せない。
――歌手活動を続けている、PURIN-cesことプリン
――遺跡の発掘調査をしている最中の、サンドパン
――妹の死を乗り越えた、音楽家のコロトック
――少しは勘違いを控えるようになった、恋する乙女のリーシャン
いずれにしても、魔法使いによって救われたゲートばかりだ。
「…あいつらは…!?」
「おい、マジかよ…ファントムを生み出さないって分かっているゲートも、あいつ狙ってんのか…!」
「……あなた達は…!」
声を掛けられ、振り返る2匹。
すると、そこにいたのは姉の病室から出てきたキルリアだった。
他にも、面会に来たり患者に付き添っているポケモン達も集まっており、ジュプトルとリザードンに群がっていた。
理由は、ただ一つ。
……ファントムによる被害が拡大しているのに、未だ原因のファントムを倒せていないのは何故か…だ。
「――ねえ、あなた達…あの変な怪物と戦っているんでしょう!?お願い、姉さんを…サーナイト姉さんを助けて!」
「いつになったら、私の息子は目を覚ますんですか!?」
「ファントムって化け物を倒せるんだよな!?いつになったら倒してくれるんだよ!」
「どうしてこんなに被害が拡大するまで、放置していたんだ!?」
「わ、わわ、ちょっと、落ち着いて…!」
「――病院内だぞ静かにせんかあああああああああ!」
騒ぎを起こすポケモン達を一喝するのは、オニゴーリだ。
【雪花屋】の鬼館長がここにいると知った大半のポケモン達は、彼の顔を見た瞬間萎縮する。
さすがこの世界が誇る鬼神である。
それはさておき、ようやく静まり返ったところで、オニゴーリが事情を話す。
「ファントムだって馬鹿じゃない。ましてや、他人の心の中に入り込むファントムだ…いくら魔法使いとはいえ、簡単に捕まるはずがないだろ」
「だけど…それじゃあいつ、姉さんは…」
「だが、いつまでも指を咥えて見ている奴らでもない。……無駄に騒ぎ立てて追い詰めるより、大事な家族や友人が目を覚ますのを待ってろ。自分達が騒いだところでどうにもならないのは、分かっていることだろ?」
「「「…」」」
オニゴーリの説得に、キルリアを始めとした被害者の家族や友人達は頭を冷やしたのか…
ジュプトルとリザードンに軽く頭を下げた後、散り散りに去っていった。
ピカチュウとヤミラミはほっと胸を撫で下ろし、ジュプトルとリザードンもオニゴーリに礼を言う。
だが、これだけで終わるはずがなかった。
すぐさま1匹のラッキーがこちらに向かって走ってくると、リザードンやギャラドスといった明らかにガタイのいいポケモンに協力を要請していた。
「あ、す、すみませぇーん!患者を運ぶのを手伝ってくれませんか、オーダイル棟梁だけじゃ運べなくて…!!」
「おいおい、遂に棟梁まで借り出されたのかよ!」
「……ちょっと待て。この辺で、棟梁どころか俺らまで借り出さないといけないポケモンって…」
リザードンは純粋に驚くが、ギャラドスの言葉に…表情が凍る。
ジュプトルも、ピカチュウも…
その場にいた他のポケモン達、特にポポッコも大体の意味は分かったのだろう。
サッと血の気が引き、リザードンとポポッコは脇目も振らずに走っていく。
ピカチュウ達も暫くその場で固まってはいたものの、オニゴーリを先頭に、現場まで向かう。
〜〜〜
ギャラドスとオーダイル、バクフーンによって何とか運び込まれていたのは…
――バンギラスだった。
彼もまた、レギオンの被害に遭ったのか…顔がすっかり青ざめている。
リザードンはすっかり取り乱し、ポポッコは彼の右手に握られた紙を回収すると、その内容に目を通していた。
「バンギラス!おい…嘘だろ、――バンギラスうううううううッ!!」
「……」
「おい…バンギラスさんまで狙うって、正気かよ…!?」
「そんな…」
「…くっ!」
「――畜生…あいつ、絶対に許さねぇ!バンギラスの仇は絶対に取る…!!」
「……その前に、もっと最悪な事態になるのを止めないといけないですよ」
憤りを隠せないリザードン。
彼の気持ちが分かるのか、ジュプトル達も大きく頷く。
しかし、ポポッコはやけに冷静に――同僚がやられて感情を乱さないわけではないが、頭に血が上って判断力を鈍らせないようにしているのだろう――言いながら、バンギラスの手に握られていた紙を見せる。
彼の取材用のメモ用紙の1枚で、レギオンに入り込まれた時に書いたのだろう…随分と字が荒い。
そこに書かれていたのは、たった一言。
【 オオ ス バ メ が あぶ な い】
一体、どういう意味なのか。
誰もが困惑していると、ポポッコは大体の意思を汲み取ったのか、話し始める。
「――リザードンさんの証言が確かなら、レギオンはジュプトルさんとオオスバメさんを特に気に入っていた。だとすれば、レギオンはいずれオオスバメさんにも行き着くはず…」
「「「…!」」」
「ウイィ…でも、オオスバメだぞ?そんな簡単に絶望するはず」
「…いや、レギオンはゲートを絶望させる必要なんてないんだ…。あいつは多分、自分の気に入った奴の心を壊して、――快楽を得ているから…!」
「ヘイガニさんの言うとおりですね。奴にはゲートを絶望させる気がない、かといって、心臓に毛どころか針金が生えているバンギラスを狙う辺り……何か目的があっての襲撃でしょう」
それでも心臓がモジャンボなリザードンさんを狙わないのは凄いですが、と余計なことを付け足しながらも…
確かに、バンギラスがレギオンの好む【綺麗な心の持ち主】とは言いづらい。
実際、オニゴーリほどじゃないが暴力的だし。
しかも今日でかなりの数のポケモンを…それも自分達に関わりのある者を狙っている時点で、何かが目的なのだ。
しかし、いずれにしてもオオスバメの身が危険なのは確実。
全員、手分けしてオオスバメを探しに向かっていた。
……その際、オニゴーリはヘイガニに声を掛け、衝撃的な一言を言い放っていた。
「ヘイガニ、………悪いがベルトつけて、変身させてくれ」
「ファッ!?何で!!?」
「…俺、手がないから……胴体もだが」
「……あんた、この前どうやってソーサラーになったんだよ…!」
「俺が知るか!その時不思議なことが起こったとしか言いようがない!!」
「…駄目だ…なんかもう駄目だうちの魔法使い達、――なんで俺かバンギラスさんに絶望の因子がなかったんだ…!」
その頃、オオスバメは暢気に配達をしていた。
その際ポケモンタウンが少し騒がしいことに気付くも、まあいつものことだろうと軽く流していた。
ペルシアンに届け物をした後、スピード・デリバリーの本部に戻ろうとしていた彼だったが
――1匹のマスキッパが、声を掛けていた。
「…申し訳ありません、オオスバメさんですね?」
「はーい。どうかしましたか?」
「……あなたのその心を、壊させてもらいます」
「へ?」
オオスバメが素っ頓狂な声を上げると同時に、マスキッパは姿を変え…
レギオンへと変化していた。
前に見たことがあるファントムだからか、オオスバメは特に驚きもせず、声を上げていた。
「あ、この前のファントム!……ええと、レイモンだっけ?」
『ほう、特に動じる様子がないとは…ますます壊したくなってきましたよ』
「わっつ?」
「……オオスバメッ!」
「オオスバメさん、離れてー!!」
首を傾げるオオスバメの元へ、ジュプトルとピカチュウがやってくる。
彼らはかなり切羽詰っており、流石のオオスバメも只事ではないと思ったようだ。
ジュプトルはレギオンにすかさず飛び蹴りを放つも、大して効き目がない。
リザードンは今、別の場所を探している…ここに来るまでには、時間が掛かるだろう。
オニゴーリに関しては変身に戸惑っているとしか、言いようがない。
オオスバメが逃げるまでの時間をどうにかして稼がなければならないところだが、レギオンは複数のグールを呼び出し、ジュプトルとピカチュウを遮る。
『ふむ…悪いが私は、用があるのでね。君達の相手は後にしたいのだよ』
「くっ!」
「わわわ…!」
「わーん、俺の心を覗いてもあんまり得しないよー!?」
『得するかどうかは、私が決めることです。……はっ!』
レギオンは勢いよく鎌を振るうも、オオスバメを完全に捉えることはできなかった。
だが、少しでも掠ればそこからでも亀裂が発生し、アンダーワールドに突入することができる…
加えてレギオンの鎌は攻撃範囲が広く、オオスバメを逃がさないよう間髪入れない攻撃を続ける。
このままでは、いずれオオスバメが鎌で切られる。
ジュプトルはどうにかグールを蹴散らし、レギオンに“リーフブレード”を放とうとしていたが…
そんな彼を妨害するかのごとく、別のファントムが割って入ってきていた。
――ハイドラだ。
魚のような見た目をしたファントムで、彼を生み出したのはユキノオーと呼ばれるポケモン。
だからなのか、見た目以上の怪力を誇り、ジュプトルを容赦なく殴り飛ばす。
「ぐあっ!?」
「ジュプトルッ!」
『…何用ですか』
『ワイズマンの命令だ。お前の援護をしろってな!』
『お好きにどうぞ。私の狙いは…このオオスバメですから!』
「わわっ…!?」
かなりの大きさの衝撃波が、襲い掛かる。
オオスバメは辛うじてかわすも、翼の一部分に掠ってしまった…
レギオンには、それで充分だった。
掠った部分から亀裂が発生し、オオスバメは地面に落ちる。
それと同時にレギオンは彼のアンダーワールド内に侵入し、ジュプトルは咄嗟に走り出す。
邪魔はさせないとばかりにハイドラが妨害しようとするも、――彼の首にいくつもの鎖が巻きつかれる。
そうしてやって来たのは、ようやく変身が完了したソーサラーだ。
<チェイン、ナウ>
『ぐがっ!?』
「オオスバメは放置しても問題ない、――相手なら俺がしてやるよ…魚野郎!」
「館長!……で、でも、館長がオオスバメさんのほうに行ったほうが…」
「……悪いが、“エンゲージ”は持ってないんだ」
非常に高い戦闘能力を有するソーサラーだが、エンゲージウィザードリングは残念ながら所持していない…
ブイゼルも万能の指輪“コモン”ウィザードリングを持ち、それでエンゲージの代用は可能なのだが、そうなるとアンダーワールドでの戦いが非常にやりにくくなってしまう。
故に、アンダーワールド戦を想定した魔法使いというのは、ウィザードとビーストのみ。
ソーサラーの戦闘能力ならば逃げる前に倒すことは可能で、メイジはそもそもファントムを見極める目があるため取り逃すことがないからだ。
――しかし、そんな話を聞く前にジュプトルはレギオンの入った亀裂から、オオスバメのアンダーワールド内に侵入。
彼が入ったと同時に亀裂は消え、ピカチュウが声を上げる。
「…おおおおおっ!」
「ジュプトル!?無茶だよ…ジュプトルッ!!?」
「大丈夫だ!…オオスバメの心を壊せずジュプトル共々出てきたところで、木っ端微塵にするまでだ!!」
『はっ、随分な自信だな…まあいい。ここでお前を倒せば、メデューサを差し置いて俺が幹部だ!』
「だから、――レギオンを木っ端微塵にするために…テメェには早期退場をしてもらうっつってんだよ?」
ソーサラーがディースハルバードを構え、ハイドラに刃の部分を叩きつける。
その一撃は予想以上に重く、体が引き裂かれそうなほどの衝撃をハイドラは感じていた。
現にその一撃で肺に近い器官を潰されたのか、口から血を吐く。
赤、というよりは、濁った青。
ファントムの血の色は、種類によって違うのだろう。水中系は青、昆虫系は緑…という具合に。
しかしハイドラが立ち上がる前に再びディースハルバードの一撃をまともに浴び、何とか一矢報いようと鋭い冷気を放つ。
ソーサラーを一瞬にして凍りつかせ、「やった」と喜ぶも
――そもそも氷タイプのオニゴーリであるソーサラーを、凍らせられるはずがなかった。
自力で氷の中から抜け出すと、本当の冷気とはこうだと言わんばかりに“フィンブル”ウィザードリングを填める。
「…その程度で凍らせたつもりか?」
<イエス! フィンブル、アンダースタン!!>
『なっ…!?』
その瞬間、ハイドラの氷漬けが完成する。
しかし、ハイドラも元々は氷タイプのポケモンから生まれたファントム…そう長くは持たないだろう。
ソーサラーはディースハルバードを構えると、長い柄を振り回しながら氷の塊に接近し…遠心力を生かした一撃を、叩き込む。
“ブリザードストライク”
そう呼ばれる固有の必殺技を浴びせただけでなく、追い討ちの“エクスプロージョン”も放つソーサラー。
…ハイドラは大爆発を巻き起こすかのように、呆気なく散っていった。
「……冥途で懺悔しな」
「…、……やっぱり館長って、敵にしちゃいけないんだね…」
相変わらずコータス以外のファントムに容赦を見せないソーサラーに、ピカチュウは軽く貧血に近い状態になりながらも…
オオスバメのアンダーワールド内に入っていったジュプトルを、心配していた。
「…大丈夫かな、2人とも…」
「他の奴ならともかく、オオスバメだぞ?心配要らないだろ…それに、ジュプトルもな。……信じて待っててやれ」
「……うん」
***
ネタバレ:次回、レギオン死す
というか、ハイドラ…
今回出てきて今回やられるって、相当のスピード撃破じゃないですかー!やだー!!
まあ、相手が悪かったってのもあるけど。
ネタバレになるかは分かりませんが、館長が撃破するポケモンは氷タイプ縛りで行きたいと思っています。
なるべく、ですけどね。
そもそも館長は【代打】ですので、そんな戦闘させる予定じゃなかったんですよ…
ヨノワールの手紙w
相変わらず、ジュプトルに割と手厳しいww
でも、風邪云々とかがなかった辺り、ヤミラミが読むことも考慮していた感じですね。
まあ、そうだよな…ジュプトルって実際に、流氷漂う水の中に落ちて風邪引いたしな……
しかし、レギオンも遂に動き出しましたね。
被害者の大半が知り合いとあってか、かなりの数になってますし…
……
ちなみにこの作戦、オニゴーリのアンダーワールドに付け入る隙を作るための作戦なんですが…
――オオスバメは狙ったらアカンやろ、レギオンさん…!
前に言ってた「別の話に回したい、鎧武13話っぽい話」というのは今回の病院のことです。
まあ、こっちは館長のお陰で鎮圧しましたが…
本来はこれ、バンギラスの役割なんですよねーバンギラスどうしたんでしょうねー
……ってバンギラスウウウウウウウ!
しかし冷静に考えてみると、ファントム被害者って少ないなー…
・ピカチュウ(2話)
・オーダイル(4話)
・コロトック(7話)
・プリン(16話)
・ゴウカザル(20話) ※グレムリン
・ミロカロス(22話)
・ダグトリオ(25話) ※ドワーフ
・サンドパン(29話)
・ギャラドス(35話)
・リーシャン(37話)
・オニゴーリ(42話)
・ジュプトル(44話)
・オオタチ(44話) ※死亡済みでーすby.オオタチ
で、↑のやつにファントムに誘拐された奴(※ルカリオ)とか、
何度もファントムに狙われている奴(※オオスバメ)とか、
地味にファントムとの先頭に生身で突っ込む奴(※バンギラス)とか、
息子の命を盾に取られた奴(※ヨルノズク)とか、
ファントムになった挙句に白魔に利用されメデューサに利用されという不憫な奴(※コータス)とか、
ある意味まんまと白魔に嵌められたと言える奴(※リザードン)とか、
ワータイガーとして生まれたけど1話で出番終了した奴(※コロボーシ)とか、
何だかんだでベルゼバブに利用されていた奴(※ニョロトノ)とか、
誰かを絶望させるために殺された奴(※マグマラシ以下略)とか、
――絶望してどうのこうのって言うのが関係ない場所でなら、被害者すっごい多いんですけどねぇ…
その中でも【ゲートに誘拐された】ヘイガニって、凄い異質だと思うんだ……
次回、
――遂にpixivで先行登場したあのスタイルが!
…
しっかしオオスバメ、もしかしたらワイズマンに会っても「あ、ファントム!」なんじゃなかろうかと不安に思う今日この頃。