午後4時、ホコタテ軍宇宙コロニー
「ついに出撃か。期待に添えるよう戦果をあげなくては」
と、白崎梓中尉はコロニーの外に広がる広大な宇宙空間を眺めながら独り言ちていた。
「出撃前の精神統一ですか?中尉」
突然投げかけられた言葉に少し驚き、肝を冷やしたものの梓は背後を振り返り、同時に頭が真っ白になった。
梓は皇国空軍に入隊した時、いや、その前から尊敬というだけでは表せない畏敬の念にも似た感情を抱く3人の兵士がいた。紅い戦闘攻撃機で天を駆り、幾多の敵航空機、艦船を海の藻屑へと変えていった女兵士。神聖ホコタテ王国ローゼンクルセイド所属?紅い悪夢?スカーレット・ナイトメア大佐。航空戦において敵うものはこの世に居ないとまで言われている北の超兵士。北バルト連邦ノーチラス所属?空帝王?ライエルン・ルーデル大佐。そして最後の一人が今目の前に立っている梓が尊敬する中で唯一の陸軍出身者であり、攻撃ヘリにおいて勝るものなしと言われ、白兵戦も含め今まで幾多の任務を完遂してきたスカーレットと同じく女兵士。?女皇の舞刀?天城玲華少佐だ。
「あ…」
梓は憧れの相手との初対面だけありうまく言葉が紡ぎ出せなかった。
「ん?邪魔したかな?」
「え、いえいえいえそんなことはありません!」
「ならよかった。そういえば、神酒の海攻略作戦の先発隊に配備されたそうね」
「は、はい。大水源にはナイトメア大佐、アルカディアにはルーデル大佐が出撃するそうですが、中尉の私に務まるかどうか…」
「中尉、腕は階級だけできまるものじゃない、皇国軍人の実力をあの二人に見せつけなさい」
「頑張ります!」
「あら、天城少佐じゃないの」
「この声は…」
「(まさか…!!)」
ある考えが頭を過り、梓は急いで音源である向かって左の通路へ首を向けた。
「お久しぶり」
案の定、そこには赤い軍服を身にまとったスカーレットが腰に刺した軍刀に左手を預け、立っていた。その後ろに立っている黒い軍服の女性は側近だろうか?銀色の髪に目をひかれた。が、それ以上にスカーレットの存在感は大きかった。
「お二人はお知合いなんですか?」
「皇国と王国に宣戦を布告した要塞都市ゲイテルに報復する形で勃発した【ゲイテル戦争】のときに会ってからちまちまとね」
「いいなー」
「若干面倒くさいけどね」
「誰が面倒くさいですって?」
「あ、な、た、が」
「少佐の分際で大きな口の叩き方だことで」
「戦場で階級は関係ない。生きるか死ぬか。ただそれだけ。でしょう?」
「階級が戦果を語っているということを理解してのことかしら」
「腕はなくとも金と人脈があれば上がれるでしょう」
「超兵士にそんなことが通じないことは存じているでしょ」
「まあね」
「で、この中尉さんは」
スカーレットは素早く梓の階級章に目を走らせると玲華に問いた。
「皇国超兵士部隊【月夜見】の新任さん」
「ふーん、あなたが超兵士ねえ」
「は、はいよろしくお願いします」
「よろしく。で、航空作戦で…」
「ちょっと、私を中に入れてよ」
と、不満そうに先ほどの銀髪の女性が口を挟んだ。
「ああ、忘れてた」
「大水源上空で撃ち落とすわよ」
「やってみなさい」
「やって…」
「そういう話は地元でやって頂戴」
「…」
「あのーこの方は?」
当然ながら見知らぬ相手なので梓はとりあえず玲華に訪ねた。足もとから頭の先まで一通り眺めたところ、右手だけにされた手袋に?無駄に?肌蹴た胸元に輝く荊の十字架のネックレス、そして何より今まで見たことがない銀色の髪などが目に付いた。
「この人はダルク・バルバルシア大尉。海軍陸戦隊が縄張りだけど元は陸軍遊撃隊出身。あなたと同じ超兵士よ」
「超兵士…」
「私の情報ってそんなに漏れてるの?」
「重要性が低いんでしょうね」
「なによそれ」
「あのーはじめまして」
「うん、はじめまして」
それにしても玲華さんにナイトメア大佐、それにバルバルシア大尉…なぜ全員美形なのだろう。軍は顔で選んでいる?!と、そんな思慮を梓は巡らせていた。
「で、あなたが神酒の海攻略のいわば要なのでしょう?」
「そのようで」
「大佐と中尉。この差がいかに掛け離れているか思い知らせてあげましょう」
と、スカーレットは口元を少し引き揚げ高らかに言った。
窓の外に一つ、流れ星がそんな空気も余所にすーっと走って行った。