「たかが朝の五時に召集を掛けられた程度で体が応えるとは…そろそろ退役時だな」
そうボヤキながらヴラド・ヒンデンブルクは神聖ホコタテ王国の王都:ジェネシスにある王国最大級の軍事施設「フォーレス・オブ・ドミニオン」の上層階の通路を歩いていた。
上層階層は士官クラスの軍人や高級官僚や要人といった限られた人間のみ侵入を許されているだけあって、下層、中層に比べすれ違う人間が減っておりヴラドにとっては一々?答礼?する回数が減って楽な限りだった。
暫く歩いていると目的地である第一特別会議室と記されたプレートを掛けた扉が見えてきた。
ヴラドは書類を見、ここであることを確認すると返事が発せられることがないことを承知で2度ノックをし、扉を開けた。
内には其々独特というには甘すぎるようなどこか殺気にも似たオーラを感じさせる士官服に身を包んだ男女3名が椅子に腰を掛けこちらを一瞥することもなくただただ座っていた。
「ヴラド・ヒンデンブルク准将、お待ちしておりました」
その中で最高階級である大佐の階級章を肩と胸に付けた?紅い悪夢?の異名を持つ赤い制服の女性=スカーレット・ナイトメアが徐に立ち上がり敬礼を行った。それに続くように残りの二名も立ち上がり敬礼を行った。
「待たせてすまなかった」
と、反射的に答礼をすると三名は再び席に収まった。
「私も含め我々が招集されたのは他でもない、ガイアへの出撃命令が下ったためだ」
「王国はブリッツ・ヘイムの戦死以来我々の出撃に消極的でしたのにまた随分急に」
皮肉めいた目をこちらへ向け先ほど敬礼を逸早くしてきたスカーレットがブラドに問い掛けた。
「予想以上の国連の無能さによるものだろう。事実、たった五日の間にガイアにおける占領領土のうち八割以上を喪失している」
「ふ、国連も口だけで使えなかったということだ」
今度は深緑の士官服の上からでもその体躯が覗える?西の豪傑漢?ことデュアル・サイクロプス少佐が口を開いた。
「あんな役人に戦争ができるわけがない。当たり前の結果さ」
次にイバラが巻きついた十字架のネックレスを黒い士官服の胸元に下げている?銀髪の女騎士?ダルク・バルバルシア大尉が右手だけに嵌めた手袋を撫でながら毒を吐いた。
「二人とも、話が進まない。黙りなさい」
将官として専ら司令部で働いているヴラドに変わりこの二人の上官を務めているスカーレットが二人を制した。
「ふん」
「はいはい」
完全なる縦社会である軍において上官の命令は絶対であり、この二人といえども二階級以上階級が上であり、直属の上官であるスカーレットに楯突くことはできなかった。
「続けるぞ。我々はガイア攻略本隊に先駆けて急遽編成された各国連合軍先発隊の主力部隊の指揮をとり本隊到着までに海上重要拠点である【大水源】、【神酒の海】、【アルカディア】のうちの一つ、【大水源】の攻略を命じられている」
「各国連合軍の主力というと…」
「各国の特殊部隊や精鋭部隊だ。王国はデルタ・ウォーリア(陸軍)、シーウルフ(海軍)、ロイヤル・ホーク(空軍)の派遣を決定している。同様に大東亞は銀嶺(陸軍)、海龍(海軍)、翔鶴(空軍)を。バルトもアルゴス(陸軍)、ノーチラス(海軍)、グリフォン(空軍)の派遣を決定している」
「それだけの部隊を動員するということならばそれを指揮する部隊も我々だけではないのでしょう?」
「そのとおりだ。大東亞、バルト。ともに我々と?同系統の部隊?を動員し連合軍の精鋭たちを指揮するそうだ。我々同様に秘匿状態の部隊だが、動員される都合上接触する機会もあるだろうが精鋭中の精鋭だ。名が知れた兵であることに間違いはないだろう」
「面倒くさいなぁ…」
「ダルク。黙らないと殺すわよ」
「はいはい」
「…で、【大水源】の攻略方法だが、海上からなけなしの防衛艦隊の援護砲撃を得られるとのことで空爆となる。無論、ここは空戦に長けたナイトメア大佐に出てもらうこととなる。【大水源】を攻略、軍港としての機能を回復させれば輸送ロケットより超圧縮された艦艇の船体を放出し造船、?超兵器?を中心とした迎撃艦隊を組織し沿岸区域を中心に土地を奪い返す。艦隊、陸戦隊指揮はバルバルシア大尉。陸軍はサイクロプス少佐。各々得意分野を持つわけだ。存分に戦ってほしい。出撃は明朝。先発隊の中でも前半隊での出撃だ、スクランブルに備え艦艇にて待機するように。これで以上だが何か質問は」
任務の内容を聞いたことで先ほどの緩さは完全に消え、三人の顔は兵士そのものといった研ぎ澄まされた表情を浮かべていた。
「では、?超兵士部隊?ローゼンクルセイド。任務開始」
三人は無言を返答にその場を立ち去った。