『ご覧頂くのは本日ガイア時刻午後3時30分ごろに起きた生々しい映像です。【大樹林】から発進を遂げようとした避難用ロケット72便は飛び立った直後、大型原住生物の攻撃により大規模爆発の末撃墜されました。これが爆発した瞬間です。これにより撃墜されたロケットは24機。全体の約3割が撃墜されたことになります。これについてグスタフ・オルガ防衛大臣は・・・』
「で、このあと【大樹林】はどうなった」
「壊滅した第1、第2中隊に代わり第3中隊がエリア3へ進撃する原住生物を迎撃に向かったものの先の映像の通り迎撃部隊は壊滅。ロケットは撃墜され、それを皮切りに防衛の任に就いていた第3中隊の残党も次々と敗れ、付近を航行していた第4遊撃艦隊に救助要請を打電。旗艦である大型強襲揚陸母艦【カスミ】以下3隻から発艦したヘリ部隊が原住生物を牽制しつつ残存兵力を回収、そのまま撤退したとのことです」
「つまり大樹林は」
「…陥落しました」
「いったい何箇所陥落させれば気が済むんだ?樹海のヘソから始まり、海軍の要所である【大水源】、【神酒の海】、【アルカディア】。さらに樹海のヘソ同様に要所であった【S.A.C.B.】も陥落したそうじゃないか。大雑把に言って要所だけでもこの被害だ。細かく言えばきりがないが全領土の7,8割はたった3日で陥落させられた。いったいどういう頭をしていたらこんなことになるんだ」
と、全身の血が完全に煮えたぎってしまっているミレアム神聖ホコタテ王国国王は完全に縮こまり青ざめているハインケル国連事務総長に言葉の猛攻を加えていた。
「軍に深くない立場なんだ。致仕方ないだろう」
「仕方ない?これが仕方ないで済む状況か!!」
ハインケルを擁護しようと声を発したヴェルダン大バルト連邦総統に今度は怒りをぶつけた。
「そんなことよりも残存部隊はどうなっているんですか?」
そんな空気をまるでお構いなしというかのように雪代大東亞皇国内親王はハインケルに問いた。
「目下、陸軍は各地で指揮系統の断裂もあり散々した状態で原住生物を迎撃中。海軍は空軍と協力し陸軍の救援やエリアの奪還、海上輸送を展開しておりますが先の強襲揚陸母艦のように本来その任務に適任でない艦を出撃させなければならぬほど被害を受けています。おそらくあと3,4日で全域の陸軍は壊滅。空海軍は1,2週間、もって一ヵ月ほどかと」
「なるほど。ありがとうございます」
「さて、この状況をどう打破しますかな?いくら準備を整えつつあるといってもまさかここまで急速に状況が悪化するとは思っておらず我々の本隊が出撃可能となるのは、あと5日は優にかかる」
「こちらも同じです。大バルトはどうです?」
「こちらは少し手間取っておりまして本隊が出られるのは一週間を超えるものと聞いております」
とヴェルダンは苦虫を潰したような表情を浮かべていた。
「今回は国内やホコタテで起きた戦争ではなく惑星外での戦争だ。そうスピーディーにことは進みませんな」
「ですがこのままでは【希望】をはじめとする残存都市も落ちるだろう」
「どうしたものか…」
「ここは小、中規模でも強力な戦力をもつ部隊、兵装を先発隊として本体よりもはやく出撃させるしかありませんね」
「と、いうと?」
「各国の?超兵器?ならびに?超兵士?を主戦力とした精鋭部隊を送るのです」
その瞬間、その場の空気が一瞬凍りついたような錯覚をミレアムとヴェルダンは覚えた。
第一級国家機密である従来の兵器を遥かに凌ぐ兵器、?超兵器?。又、各国が有する陸海空軍のエリート部隊のさらに一握りもいない生きる伝説ともいうべき存在の最高の兵士、?超兵士?。各国ともどもこの強力な切り札を使ってみたいという気持ちをもてども仮に失った際の軍の士気の低下、自身の計り知れない喪失感を軽視することはできず、あくまで相手を威圧するための?言葉の兵器?として専ら使用していた。
現に、超兵士が投入された戦争は神聖ホコタテ王国と西エルドラド帝国との間で勃発した【エルドラド戦争】、同王国とレンギル公国との間で勃発した【半年戦争】、大東亞皇国と南ゲルテ帝国との間で勃発した【大南洋海戦争】の3つ程度で大バルト連邦は未だに投入したことがなかった。しかも【エルドラド戦争】で投入された?四天兵?の異名をもつ神聖ホコタテ王国の4人の超兵士のうちの1人であり、西エルドラド帝国に侵略、占領されたアーラド帝国の超音速戦闘機を使用し単機で敵主力艦隊上空に侵入、凄まじい対空砲火を交わし、わずかに開けたキャノピーから同じくアーラド帝国製のML1スナイパーライフルで敵艦隊旗艦に乗艦していた艦隊司令の頭をたった一発の銃弾で吹き飛ばしたという多大な功績を残した神の狙撃手、ブリッツ・ヘイム中佐を西エルドラド陸軍との交戦の末に失っており、その影響で士気は著しく低下。一時は敗戦寸前にまで追い込まれたという過去があるため、それ以後第一線への超兵士の投入は避けられている。つまり、超兵器、超兵士、ともにあくまで力の象徴であって、実際に使用して失ってしまうのを極度に恐れているのだ。
以前に超兵器を使用すると豪語したミレアムもただ単に言葉の端として言っただけで本気で投入する気はさらさらなく精鋭隊と一般隊で組織した本隊を介入させて終戦に持ち込む魂胆であった。
たしかに超兵器や超兵士という切り札で多大な功績を上げれば士気は確実に上がるだろう。だが、この敗戦が続き苦しい状況で万々が一物量と勢いに押され敗戦、最悪破壊されれば士気の低下は致命的なものとなりガイア奪還は困難を極め、国内でも軍の在り方の一新などの意見が沸騰、大規模な混乱に陥ってしまうだろう。だが、ここで先発を送らず、勢いのついた原住生物が全土を支配した状況下で本隊を投入したところで必ずしも奪還できるとは限らず、返り討ちにあい、壊滅する危険性も十分にある。これ以上の領土拡大を食い止め、この不利な戦局を一変させるにはこの超兵器、超兵士を動員した?史上最大の賭け?に打って出るしか道は残されていなかった。
「やむをえませんな…」
「……」
ヴェルダン、ミレアムともに不安の色を隠すことはできなかった。
「では今夜、各国各軍の幕僚長を招き、軍から見た意見を参考にしつつ先発隊の軍備の詳細を話し合いましょう。それまでにできる限りの宇宙輸送艦の配備や兵装、兵士の確保を進めてください」
「わかりました」
「さて、これが吉と出るか凶と出るか…」
「吉、いやそれ以上になることを祈りましょう。では」
雪代の言葉を最後に各々は立ち上がりS.P.の護衛を受けながら議場を後にした。
議場には歴史上類をみない大事が起ころうとしているという事実を未だに飲み込めず口を半開きにしたまま静止するハインケルがぽつんと残されていた。