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石楠花物語シリーズ - 石楠花物語シリーズ幼少時代

石楠花物語シリーズ幼少時代

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『石楠花物語幼少時代』




○桜の木の下


   千吉(20)が目を覚ます。






千吉「ここは…?」




   キョロキョロ




千吉「私は確か老いて、御所で死んだ筈じゃ。ここは何処か?黄泉じゃろうか?」




   深呼吸




千吉「桜じゃ…何と春のいい香りじゃろうか。ん?」




千吉「おや?」




   目の前に鏡。




千吉「何と言うこと!?私は確か95にて死んだ筈だに、何故じゃ。これ程若いとは信じられぬ。」




   はっとする。




千吉「では、今頃中宮も近くにいるのではなかろうか?中宮、中宮や、おるのか?何処におる?」




   強い風。桜が散る。




   *** 




   涼しいそよ風。緑の葉が芽吹く。




麻衣の声「殿下、殿下、」


千吉「中宮か?何処におるのじゃ?」


麻衣の声「又お会いになれますわ。」


千吉「え?」




   千吉、背が縮まり若返っていく。




   ***




   千吉、消えていなくなる。そこに麻衣。




麻衣「あぁ…あなた様の方がお早かったのだわ。しかし、お待ちになっていてください殿下。私もすぐにあなた様の元へ参ります。生前の契り通り、来世でも私はあなた様と太平の世の下、永遠の契りを交わせることを願っております。故に、お待ちになっていてください殿下。」






○石楠花平病院・分娩室


   1989年8月10日。産声。小口珠子(22)




効果音…産声




看護婦「おめでとうございます。お母様、産まれましたよ。元気な男の子ですよ。」


珠子「男の子。」




   赤ん坊の手を握る。




珠子「こんにちは赤ちゃん。よく頑張ったね、これから宜しく。せんちゃん。」






   新生児ネームプレート『小口千里』






○京都御苑(夕)


   小口千里(4)が子供用の車に乗ってやって来る。そこへ、柳平紅葉(34)、柳平麻衣(4)。




紅葉「あら坊や、一人で遊んでいるの?お母さんは?」


千里「うん、せんちゃん一人なの。ママはいないよ。」


紅葉「いないって?」


千里「お家。」


紅葉「なら、せんちゃん一人でここに来たの?お母さんに言ってきた?」




   千里、首を振る




千里「せんちゃん家すぐ近くなんだよ。」


紅葉「まぁ大変!!せんちゃん、お家は何処?」




   千里の案内で御苑を出る麻衣、紅葉。




○アパート“土御門”(夕)


   紅葉、ベルを押す。




小口珠子の声「はーい、どなた?(玄関を開ける)はい。」


紅葉「あなたがせんちゃんのお母様ですか?」


珠子「えぇそうですが、家の子が何か?」




  千里を見る




珠子「せんちゃんっ!!」


紅葉「えぇ、この子一人で京都御苑にいまして・・・」


珠子「京都御苑に!?これっせんちゃん、いつも一人でお外へでちゃあダメってあれほど言っているでしょう。どうして言うこと守れないの?ママとっても心配したのよ。」


千里「ごめんちゃい…。ママごめんちゃい!!」




   泣きつく




珠子「もういいのよ、せんちゃん。大丈夫。ママ怒ってないわ」




   麻衣、紅葉、微笑む




珠子「本当にご迷惑をお掛け致しました。申し訳ありません…。」


紅葉「いえいえ。」


珠子「でも、これも何かのご縁ですわ。狭いですが上がってくださいな。」


紅葉「いいのですか?」


珠子「えぇ、勿論。それにこんなかわいい娘さん、息子も喜びますわ。」


紅葉「では、すこしだけ…。」




   ***


   子供部屋。麻衣と千里、おきゃっこをする。




麻衣「あなた、お帰りなちゃい。ご飯にしまちゅか?お風呂にしまちゅか?」


千里「ただいま、お腹ちゅいたな。」


麻衣「待ってくだちゃいね。今ご飯にちまちゅよ。」




   紅葉、珠子、お茶をしながら微笑む




紅葉「まぁ、もう仲良くなってる。子供は打ち解けが早いわね。」


珠子「そうですわね。全く・・・千里にも困ったものだわ、あの子好奇心旺盛でちょっと目を話すとすぐに何処かにいっちゃうのよ。」




千里「ママ、好奇心ってなあに?」


珠子「自分で辞書でもお引きなさい。」


千里「辞書ってなあに?」




   紅葉、笑う。




麻衣「ねえ、私ピアノ習い始めたのよ。せんちゃんも弾くの?」


千里「(興味津々)ピアノってなあに?」


麻衣「黒くて、大きくて、音が出るの。指で押すと白いのと黒いのがへっこんで面白いのよ。」




   千里、想像中




千里「へぇ・・・せんちゃんもやってみたい。」


麻衣「せんちゃんの母さんにやらせてもらえばいいわよ。」


千里「うんっ!!」






○同・台所(夜)


   千里、珠子、小口懐仁(28)、源薬子(80)、源源之助(87)




小口「え、ピアノをか?」


珠子「そうなのよ。今日遊びに来たって言った女の子が習い始めたって言ってて、そしたらせんちゃんもやりたいって言い出して聞かないのよ。」


源之助「しかし千里はお琴教室に通わせたばかりじゃないか。琴もピアノもやらせるのか?」


千里「ねぇママ、ピアノ!せんちゃんもピアノやりたい!!」




   大人たち、顔を見合わせる




千里「パパ、ママ!!」


小口「なら千里、ちゃんとやれるか?途中で飽きちゃってやめるって言わないか?」


千里「言わない、せんちゃん言わないから!!」


小口「よし分かった。」


珠子「ちょっとあなた!!」


小口「珠子、千里に好奇心がある今のうちに色々やらせてあげたらいいよ。私も協力するから。」


珠子「懐仁さん・・・ありがとう、分かったわ。」




   千里を抱き締める




珠子「良かったわねせんちゃん、パパがピアノやらせてくれるって。」


千里「やったぁ!!パパありがとう!!」


薬子「それなら千里に電子ピアノを買ってあげなくちゃね。」


珠子「お母さん、そんなのまだ早いわ。」


薬子「いんや珠子、こいのはね小さい頃からが大切なんだよ。ひょっとしたらこの子はピアニストになるかもしれないよ(笑う)」


千里「ピアニストってなあに?」




   他全員、笑う




懐仁「ピアノを弾くお仕事をする人だよ。」


千里「せんちゃんピアノを弾くお仕事やりたい!!せんちゃんピアノを弾くお仕事やりたい!!」




○ピアノ教室(夕)




先生「君が千里くんね。じゃあちょっと早速弾いてみようか?」




   千里、レッスンを始める。にこにこ弾いている。




○帰り道(夕)


   千里、珠子、手を繋いで歩く




珠子「せんちゃん、ピアノどうだった?」


千里「せんちゃん、とっても楽しかったよ。先生にね、ご本もらったんだよ。」


珠子「そう、よかったわね。頑張るのよ。」


千里「うんっ!!」


珠子「さぁ、お夕食のものを買って帰りましょうか。」


千里「うんっ!!」




○小口家(夜)


   小口、帰宅。




小口「ほーよかったじゃないか。」


珠子「せんちゃんも今のところとっても楽しそうだし、(目で指す)」




   千里、電子ピアノを夢中で弄っている




珠子「お母さんが買ってくださったピアノもあんなに嬉しそうに弾いているわ。」


小口「本当だ。で、琴はどうなったんだ?」


珠子「せんちゃん、嫌いじゃなさそうだし・・・せっかくお琴も買ったんですから、まだやめさせていないのよ。」


小口「そうか。」




   ***


   数ヵ月後。千里、ピアノを弾いている。




   電話。




珠子「はいはいはいはい、(出る)はい小口です。」


小口吉三(90)の声「珠子さんかい?」


珠子「その声は、お父さん。お久しぶりです、お世話になっております。」


吉三「千里と懐仁も変わりはないかい?」


珠子「えぇお陰さまで。」


吉三「それで珠子さん、」


珠子「はい?」






○駐車場(朝)


   珠子、懐仁、荷物を車に積んでいる。




薬子「珠子、本当に引っ越しちまうんだね。」


珠子「ええお母さん。そんなに寂しがらないでよ、叉落ち着いたら戻るわ。」


薬子「そうしておくれ。」


源之助「千里、お前も元気でいるんだよ。叉帰っておいで。」


千里「ねえ、引っ越しってなあに?」




   懐仁、千里を抱き上げて車に乗せる




懐仁「茅野のおじいちゃんのところへ行くんだよ。」


千里「茅野のおじいちゃん?」


懐仁「そう。茅野のおばあちゃんが死んじゃったんだってさ。だからおじいちゃんが寂しくないようにパパたちが一緒にすんであげるんだよ。」


千里「死んじゃったってなあに?」




   全員、笑う




珠子「もう出発しましょう。」


千里「ねえ引っ越しってなあに?死んじゃったってなあに?」




   車、出る。薬子、源之助、手を振っている。






   ***


   車内、高速道路。千里、大人しくペロペロキャンディーをなめている。






○ひばりヶ丘幼稚園・さくら組(朝)


   土橋十惠(29)、園児たち




十惠「というわけで、今日からさくら組に新しいお友だちが入ることとなりました。せんちゃん、入ってきていいわよ。」


千里「・・・。」




   ドアの外から神経質気味に覗く




十惠「せんちゃん、恥ずかしがらなくて大丈夫よ。おいで。」




   千里、恐る恐る入室




十惠「自己紹介できるかな?」


千里「自己紹介ってなあに?」


十惠「えっとね、じゃあせんちゃん、お名前言えるかな?君のお名前は何て言うの?」


千里「小口千里です。」


十惠「はい、ありがとう。小口千里君です。みんな仲良くしてね。」


全員「はーい!!」


十惠「それでは早速・・・」




   時間が始まる




   ***


   翌朝。




○同・下駄箱


   柳平麻衣(4)が靴を履き替えている。千里、登園。麻衣に気づく。麻衣、千里に目をやる、そこへ岩波健司(4)が岩波幸恵に手を引かれて登園。




健司「やだやだやだ、お母さん行っちゃあ嫌だ!!」


幸恵「聞き分けないこと言うんじゃありません。ほら、頑張ってきなさい。」


健司「お母さん!!」


麻衣「健司くん、どうしたの?」




   健司、幸恵に泣きついている。




幸恵「もぉ、男の子なのに恥ずかしいわよ。女の子だって泣いてないじゃないの。」




   健司を振り払おうとしている。




麻衣「私と一緒に行こ。」


健司「麻衣ちゃん…」


麻衣「健司君。な!」




   微笑んで手をとる。




麻衣「大丈夫だに。一緒に教室行こう。健司君のお母さん、いってきます。」


幸恵「ありがとう麻衣ちゃん、宜しくね。健司、頑張るのよ。」




   健司、麻衣に連れられていく。


 


健司「お母さんーっ!!わぁーんっ!!(泣きじゃくる)」




   幸恵、少し恥ずかしそうに帰っていく。




   千里、様子をずっと見ている。




○同・ユリ組




   麻衣と健司、出席シールを貼って入る。




麻衣「先生、おはようございます。」




   矢ヶ崎るり子(24)、微笑む




るり子「おはようございます、あら健司君、又泣いてるの?」




   健司、者繰り上げている。




るり子「入園してもう半月も経つんですから、しっかりしないとね。」


健司「へーお家帰りたいよぉ!!お家帰りたいよぉ!!お母さんぁーん!!あーんっ!!(大声で泣く)」




   麻衣、健司を席に座らす。隣同士。




   園児作業をしながら健司を慰める麻衣。班は麻衣、健司、田中磨子、横井哲仁




磨子「健司君、又泣いてるの?」


横井「男の癖にいつまでも泣いてるんじゃねぇーよ!!」


健司「ほいだって…ほいだって…あーんっ!!」




   ***


   


   健司も泣き止んで班のみんなと仲良くし出す。






   お昼。鳩時計が鳴く




るり子「さぁみんな、お昼なのでお仕事をやめて。手を洗って、お弁当を出してください。」


園児たち「はーいっ!!」




   動き出す。




   ***




るり子「それではみんな、準備は出来ましたか?お弁当とお箸はありますか?それでは、いただきます。」


園児たち「いただきます!」




   食べ始める




磨子「わぁ!今日の私のお弁当は春巻きだ!」


横井「俺なんて唐揚げだい!」


健司「僕なんか照り焼きだよ!麻衣ちゃんは?」


麻衣「私は・・・じゃん、(にこにこ)蜂の子さんと蝗さんだ。」


健司・磨子・横井「おえっ・・・」




   わいわいがやがや。るり子、微笑んで食べる。


   








   1994年10月。


   風が強い日。其々に作業をしている。




   強風、全6クラスで物音。全クラスの園児、一斉にキョロキョロ。




るり子「あら、何の音かしら?みんなも聞こえた?」


園児たち「聞こえた。」






十惠「ひょっとしたら風さんが何か落としていったのかもしれませんよ。みんなで探してみましょうか。」


園児たち「はーい!!」








   園児たち、教室中を探す。




磨子「先生も探そうよ。」


るり子「そうね、一緒に探そうか。」






麻衣「あれ?」




千里「あれ?」




   ユリ組とさくら組。麻衣と千里、本棚の陰に手を伸ばす




るり子・十惠「何か見つけたの?」




麻衣・千里「先生何かあったに(あったよ)。」




   麻衣、千里、千代紙の包みをるり子、十惠に渡す。




るり子「みんな、麻衣ちゃんがこんなものを見つけました。」




十惠「せんちゃんが見つけました。」




るり子・十惠「開けてみましょう。」






   種が出てくる。




るり子「あら?みんな、これなんだか分かりますか?」




   ガヤガヤ




十惠「これは、お野菜の種です。みんなで蒔いて育ててみましょう。」




園児たち「はーいっ!!」






   小さなプランターに全クラスの子供たちが種まきの作業をしている。






るり子「これはきっと風さんが、クリスマス会の練習頑張るみんなのために送ってくれたんですよ。」


十惠「それではみんな、クリスマス会の練習も頑張りましょうね。」


園児たち「はーいっ!!」






○同・ホール


   お遊戯の練習。園児たち、家鴨に扮している。麻衣、千里、隣同士。千里、麻衣をチラチラ。麻衣、ツンっとしている。






   終了後






麻衣「あんた、いつもどいで人んとこばっかり見てくるだぁ?変なのぉ!!」


千里「だってぇ・・・君こそどうしていつも僕には怖い顔するの?」









同・トイレ


   男女共同。麻衣、健司のトイレを手伝っている。




健司「麻衣ちゃん、待っててね。行かないで。」


麻衣「ここにおるに。待ってる。いい?へー出た?」


健司「うん、出たぁ!」




   千里が駆け込んでくる。麻衣、健司を交互に見る。




千里「何やってるの?」


麻衣「又変な子が来た!矢ヶ崎先生に健司君のおしっこ見てあげてねって言われたの。」


千里「ふーん…」




   用を足し出す。




千里「次はクリスマス会の練習だよ。」


麻衣「ほんなこん分かってるわよ!!行こ、健司君。」


健司「う、うん…」




   麻衣、健司の手を引いてトイレを出ていく。




麻衣「何よあんたなんて、変な子!!」




千里「何で怒るのさぁ!!僕変な子じゃないもんっ!!変な子って言う方が変な子何だよぉ!!」


  




⚪柳平家・和室


   麻衣、柳平糸織(5)、柳平紡(5)が飯事をしている。




麻衣「んーもおっ!!」


柳平紡「麻衣、どーゆーの?」


麻衣「つむ…」


柳平糸織「何か嫌なこと?」


麻衣「名前は知らないさくら組の男の子がいっつも私と会うと嫌な顔して何か言ってくるの。変な子!!」


紡「さくら組?私さくら組だだけど…どの子ずら?」


麻衣「背の小さくて、目の大きい男の子…」


糸織「せんちゃんかなぁ?」


麻衣「とにかく、ほの子が嫌なんよ!!」




   ふんっと鼻を鳴らす。




⚪○」岩波家


   幸恵、健司のピアノの練習を見ている。健司、不貞腐れながらピアノを弾いている。




   一曲終わる




健司「僕ピアノなんて嫌だ。やめる!」


幸恵「ダメよ健司、せっかく始めたんだから続けなさい!」


健司「僕がやりたくて始めたんじゃないもん。お母さんが勝手に決めたんだもん。」


幸恵「お母さんはあなたに将来後悔してほしくないからいっているのよ。」


健司「どいで?」


幸恵「どいでって…」




   うっとりと




幸恵「格好いいからよ!今どきピアノ、バイオリン、バレエもできる男の子なんていったらモテんのよぉ!!だからあなたももし今から習っていなかったらきっと後で後悔するわ。」




  


   健司の肩を叩く




幸恵「それにあなたは岩波の息子なんです。だから岩波家の次男として誇れるような男になれるように頑張りなさい。」


健司「ちぇっ。」




  


   拗ねる。




健司「分かったよ。でも僕…明日から絶対に幼稚園はやめるもん。」


幸恵「あら、まぁどうしてそんなことを言うの?それは絶対に行けませんよ。」


健司「嫌なもんは嫌なの!!」


幸恵「何故?理由を言ってごらんなさい。」


健司「哲仁君が僕の事をいつも苛めるんだもん…行きたくないんだ。」


幸恵「まぁ?それくらいで行かないですって?」




   腰に手を当てる




幸恵「行けませんっ!!男の子なんですからそれくらい我慢なさいっ!!虐められたらやり返せるくらいの強い男の子にならなくちゃなりませんよっ!!」




   健司、泣きそうな顔で幸恵を見る。




幸恵「何ですその目は?悔しかったらやり返しなさい。お母さんそれくらいでは助けてあげませんよ。」


健司「そんな…お母さんのバカ…意地悪…鬼…。」




   再びピアノを弾き出す。







 ○ひばりヶ丘幼稚園・ユリ組 




  健司、横井にちょっかい出されて泣かされている。麻衣と磨子が庇う。るり子が仲介に入る。




  クリスマス会の当日。




⚪・さくら組


   年中、全員が集まっている。




るり子「それではみんな、いよいよ今日が本番ですよ。練習通りに頑張りましょうね。」


園児たち「はいっ。」


るり子「その前に…」




   お皿を取り出して一人一人に配る。






るり子「これは風さんが、送ってくれた種で育ったお野菜です。ステージの前にこの元気のお薬を食べてから行きましょう。」




   一人一人のお皿に少しずつマヨネーズで和えた二十日大根を乗せる。




るり子「それではみんな、頂きます!!」


園児たち「頂きます!!」




   みんな、微笑んで食べ始める。






るり子「食べ終わりましたか?では皆さん、行きましょう。先生に着いてきてね。」


園児たち「はーい!!」




   全員、ついて出ていく。










○同・ホール


   クリスマス会当日。多くの人が観に来ている。カメラを回している。千里、麻衣のとなり。時々腹部をおさえ、もじもじ踊る。




   麻衣、千里に目を合わさずにツン。




   千里、動きを止めて泣き出しそう。




麻衣「?」




   踊りながら近づく




麻衣「(小声で)あんた、どうしたの?」


千里「んん・・・」


麻衣「(名札を見る)千里君、具合悪い?」


千里「おしっこ、」


麻衣「(小声で)えぇ!?」




   きょろきょろ




麻衣「(小声で)先生っ!!土橋先生!!」




   十惠、飛んでくる




十惠「どうしたの?」


麻衣「千里君が!!」


千里「(泣き出す)もれちゃう!!」


十惠「せんちゃん、先生と一緒におトイレに行きましょう!麻衣ちゃん、ありがとう。」




   急いで手を引く




千里「もれちゃったぁ!!(泣く)」


十惠「あらあら・・・ほらせんちゃん、こっちにいらっしゃいお着替えしなくちゃね。」




   麻衣、走っていく




   雑巾を持って戻る




十惠「麻衣ちゃん?」


麻衣「先生、千里君を連れていってあげて。私が拭いとく。」




   拭き出す




十惠「麻衣ちゃん・・・ありがとう(微笑む)」




   他園児、みんなで雑巾を持って来て拭き始める。




るり子「みんな…」




   会場、ざわざわ




○小口家・台所


   小口懐仁、珠子、千里でクリスマス会をしている。




珠子「せんちゃん、今日はお祝いね、沢山食べてね、お肉もまだお代わりあるわよ。それと、」




   箱を取り出す。




珠子「ケーキが、まだあるのよ。」


千里「…」


珠子「せんちゃん?どうしたの?食べないの?」 




   微笑む




珠子「あー分かった、今日の事気にしてるな。」


小口「千里、今日はどうしたんだ?ステージ前に済ませなかったのか?」


千里「(泣き出す)ごめんなさい・・・。」


小口「泣くな千里、パパもママも怒っていないぞ。」


珠子「そうよ。せんちゃん、心配しなくていいのよ。大丈夫。」


千里「パパ・・・ママ・・・本当?」


小口「あぁ、勿論だとも。」


珠子「だからね、食べて。」


千里「うん。いただきます。(食べ出す)美味しい・・・。」




   微笑んで沢山食べている。




珠子「(袋をガサガサ)あら、先生がきちんと洗って乾かしてくださったんだわ。」




   千里、真っ赤になる。




小口「千里、お肉食べるか?」




   千里、にっこり


   


小口「よしよし(頭を撫でる)しかし千里、」




   悪戯っぽく




小口「お前は来年はもう年長さんなんだなぁ、早いもんだ。せめて来年には、おねしょは治してもらいたいものだね。」


千里「え?(赤くなる)」


小口「千里、こうしてみようか?もし、小学校に上がるまでにおねしょが治らなければ・・・」




   もぐさを取り出す




小口「これを、据えちゃうぞ。」


千里「それなあに?(興味津々)」


小口「お灸だよ」


千里「お灸ってなあに?」






珠子「ちょっとパパ、せんちゃんはまだ6歳なのよ。怖がっちゃうからやめて!!」


小口「悪い悪い、はい千里…」




   手渡す。




小口「クリスマスプレゼントだ。」


千里「わぁ、やったぁ!!パパありがとう!!」


珠子「ふふっ、良かったわね。実はママからもあるのよ。」




   千里、すっかり機嫌が直ってるんるんと開け出す。




千里「うわぁ!!」




   珠子からは新しいトゥーシューズとレオタード。小口からはテディーベアとメトロノーム




千里「わぁ、くまさんだ!!パパ、ありがとう・・・ん?(不思議そう)これはなあに?」


小口「千里、去年からピアノを習い始めただろう。だからこれを役立てなさい。メトロノームだよ。」


千里「メトロノーム?(訳がわからず遊んでいる)」


珠子「ママからはこれよ。レオタードとトゥシューズ。」


小口「おいおい、レオタードとトゥシューズって珠子、そんなのどうするんだ!?」


珠子「あら、もちろんせんちゃんに着せるのよ。」


小口「まさかママ、」


珠子「そうよ、せんちゃんにバレエ習わせてみようと思うの。(うっとり)きっとこの子なら、足も細くて長いしかっこいいから、花の王子のように美しいと思うのよ。」


小口「珠子・・・君の親バカにはあきれるよ。」


千里「バレエってなあに?」


珠子「せんちゃんがとってもかっこいい男の子になれるものよ。きっと気に入るわ。」


千里「(にこにこ)パパにママ、本当にありがとう!!」


珠子「(微笑む)ママ楽しみだわ。せんちゃんは大きくなったらピアノの先生になるのかしら?それともバレエの先生かしら?」


小口「いや、もしかしたら世界的に有名になったりするかもしれないぞ。(笑う)」


千里「うんっ!!」


小口「おぉ、そうかそうか、期待してるぞ千里。」




   千里、笑う。小口、千里を抱き締めて頭を悪戯っぽくグリグリと撫でくる。 






⚪同・和室


   千里、両親が川の字に眠っている。




珠子「それじゃあせんちゃん、頑張ってね。今日はオムツなしで寝てみようか…」


千里「嫌…」


珠子「大丈夫よ、心配しないで。パパの言うことは気にしちゃダメ。せんちゃんがあんまりにも可愛いから苛めたくて冗談でいってるんだから。本当にせんちゃんの怖いことはしないわ。」


千里「…本当に?」


珠子「夜中にママがおしっこに起こしてあげるから。」


千里「うん、ありがとうママ…お休み…。」


珠子「ええ、お休み…」


小口「お休み…」




   明かりが消える。






   


   夜中。珠子がうっすら目覚める。




珠子「…?せんちゃん…?」




   布団を捲る。




珠子「あらら、やっちゃった…」




   揺する




珠子「せんちゃん、せんちゃん?これっ、千里起きなさいっ!!」


千里「んー…」


珠子「パジャマとパンツ替えなくちゃ!!」


千里「えぇ・・・(寝ぼけている)」




   ギクリとなりハッと目覚める。




千里「え…?」




   布団の中を覗いてから泣きそうになって珠子を見つめる




千里「ママ…」


珠子「大丈夫よ、せんちゃん…まだ5歳だもんね。」




   抱き締める。




珠子「ほらほら、大丈夫だからせんちゃん、泣いちゃダメよ。」


千里「ママぁ…ごめんなさい、ごめんなさい…」




   静かに顔を埋めて泣き出す。






   珠子、千里のパジャマを着替えさせて、布団も片付けている。千里は震えている。




珠子「でもどうしましょう…せんちゃんのお布団…明日新しいの買わないと無いわね…今夜はどうしましょう?」






千里「ママ…」




   もじもじ




千里「おしっこ…」


珠子「一人で行ける?」


千里「ママは?」


珠子「仕方のない子ねぇ。」




   千里と部屋を出ていく。






⚪同・トイレ


   珠子、廊下で待っている。千里、ドアを少し開けたまま用を足している。




千里「ママ、いる?」


珠子「いますよ、ゆっくりしていいわよ。」


千里「行かないでね、僕が出るまでずっとそこにいてね。」


珠子「はいはい、分かっていますよ。」




   暫くして千里が出てくる。




珠子「お帰りなさい。」


千里「ママ、ありがとう。」


珠子「さぁ。今夜は特別ですよ。せんちゃんのお布団濡れちゃってるから、ママのお布団で一緒に眠りましょう。」


千里「うんっ!」






   二人、部屋に戻る






⚪同・和室


   千里、珠子の布団に入って一緒に眠っている。






⚪同・台所


   翌朝、朝食をする三人。




小口「千里、昨日またやったな?」




   微笑む。千里、俯いている。




千里「パパ…ごめんなさい…」


小口「ハハハ、何だ、パパは怒ってないぞ。千里はまだ5歳なんだもんな。それに昨日は初めておむつ外したんだよな。えらいぞ。」




   頭を撫でる。




小口「パパなんて、お前よりもずっと大きくなるまでおねしょしてたんだ。お前のおばあちゃんによく怒られたもんだ。」


千里「パパも?」


小口「あぁ。」






   そこに小口吉三






吉三「千里、もう起きとったか。おはよう。」


千里「おじいちゃん!おはよう!」


吉三「懐かしい話をしておるじゃないか懐仁。」




   微笑む。




吉三「お前の父さんは、中学に行ってもまだ寝小便をしていたんだ。


小口「父さん・・・」


吉三「千里、お前も父親譲りのねしょんべん小僧だな。」






   千里、真っ赤になる。




吉三「ハハハ、こいつはぁ。」




   千里を撫でる。懐仁、珠子も微笑む。




○ひばりヶ丘幼稚園・男女共用トイレ


  一年後。麻衣、個室から出て手を洗う。そこへ千里。




千里「麻衣ちゃん、(恥ずかしそうにもじもじ)去年のクリスマス会、どうもありがとう。」


麻衣「何が?」


千里「僕の・・・事、助けてくれて。」


麻衣「そんな前のこと私、覚えてないもん。」




   千里、微笑む




麻衣「何よ?用がないんならもう私いくけど?」


千里「う、うん。」




   麻衣、走っていく。千里、ため息をしてから用を足し出す。




麻衣「この後はクリスマス会の練習よ。もうおもらししちゃっても助けてあげないんだから。」


千里「うん。」










⚪同・ホール


   クリスマス会の練習が行われている。




   1997年。年長が歌の練習をしている。




健司「先生、気持ち悪い。」


るり子「健司君、どうした?具合悪いの?」




   健司の手をとって医務室に連れていく。




麻衣(健司君…どーゆーんだら?大丈夫かな?)




   麻衣の隣に千里がいる。




   歌を続けている。




麻衣(っ!?ん?)


 


   冷や汗




麻衣(何か気持ち悪い…ふらふらする…)




   だんだんと青ざめる




麻衣(へー…ダメ…)




   しゃがんで蹲る。




千里(麻衣ちゃん?)




   隣へしゃがむ




千里「麻衣ちゃん?大丈夫?」




   麻衣の手を握るが、麻衣、それを振りほどく。




千里「るり子先生、麻衣ちゃんが!!」




   そこへ丁度戻ってきたるり子。




矢ヶ崎先生「どうしたの?」


千里「麻衣ちゃんが…」


矢ヶ崎先生「せんちゃん、ありがとう。」




   麻衣の手をとる。




矢ヶ崎先生「ほら、麻衣ちゃん、どうしたの?医務室に行こうね、気持ち悪いの?」




   麻衣、よろよろと医務室に向かう。






⚪同・医務室


   麻衣、椅子に座らされて体温計を図る。




麻衣「うぅっ、」


 


   吐く。るり子、驚いて背を擦る。




矢ヶ崎先生「まぁまぁ、どうしたの?大丈夫?(麻衣の額に触れる)うーん、少しお熱があるみたいね。」




   布団を敷く。




矢ヶ崎先生「お母さんに連絡するから、それまでしばらくここで寝てようね。」


麻衣「はい…」




   布団に横になる。






   廊下には千里、時々見に来ている。




矢ヶ崎先生「あら、せんちゃんどうしたの?」


千里「麻衣ちゃんは?」


矢ヶ崎先生「ありがとう、心配してくれてるのね。麻衣ちゃんならもう大丈夫よ。」


千里「良かった…」




麻衣(せんちゃん・・・か。あの子、私を助けてくれたんね。)




   隣には五段の戸棚がある。麻衣、目を閉じていつの間にか眠ってしまう。




   麻衣、体がふわりと浮く感覚で目を覚ます。




麻衣「?」




   麻衣は仰向けで寝たまま。下には麻衣が寝ており、隣は戸棚の一番上。




麻衣(え?)




   ものすごいスピードで戻ってくる。




  






⚪同・黄泉の国


   麻衣が目を覚ます。




麻衣「私…死んじゃっただ…?」




   大きなものや天使たちも沢山いる。ピンク色のキラキラ光る綿菓子の様な世界。




麻衣「ふんとぉーに…死んじゃった…ダメよ、まだダメ」




   右往左往




麻衣「戻らなくっちゃ…死んじゃうなんて嫌!!」




   強い風と共に雲がドーナツ型に割れる。




麻衣「うわっ、きゃぁーっ!!!」




   割れた穴からまっ逆さまに落とされる。




麻衣「助けてぇ、母さん、父さん、チョナァーっ!!」






⚪ひばりヶ丘両久保幼稚園・医務室


   麻衣が目を覚ます。紅葉、るり子がいる。




るり子「麻衣ちゃん、良かったわ。目が覚めたのね。」


麻衣「先生、」


るり子「丁度お母さんが来てくださったわよ。」


紅葉「麻衣、ビックリしたわよ。一体どうしたの?大丈夫なの?」


るり子「えぇ、少しお熱があるようなのでおうちでゆっくり休ませてあげてくださいね。」


紅葉「はい、分かりました。色々とありがとうございます、お世話かけました。ほら、麻衣、歩ける?帰りますよ。」


麻衣「えぇ、大丈夫。」




   立ってお辞儀。




麻衣「先生、ありがとうございました。さようなら。」


るり子「はい、さようなら。お大事にね。」


麻衣「はいっ、」


矢ヶ崎先生「せんちゃんがとてもあなたの事、心配してたわよ。」


麻衣「え、せんちゃんが?」




   るり子、微笑む。麻衣、キョトンとしている。紅葉に手を引かれて帰っていく。






⚪同・ユリ組


   数週間後。園児たち、作業をしている。




磨子「麻衣ちゃん、今日もお休みなのね。」


健司「まだ治らないのかなぁ?僕、心配だよ」


磨子「来週はクリスマス会よ、麻衣ちゃん一緒にクリスマス会できるかなぁ?」


健司「来てくれればいいな…」


横井「あいつがいなくちゃお前、何にも出来ないもんなぁ!!守ってくれるのいないもんなぁ。」


磨子「私がおるらに。」




   横井をこずく。




横井「痛ってぇ、何するんだよ磨子、いきなりぃっ!!」




   健司、小さく笑う。




横井「お前、生意気なっ!!笑ったなぁ!!」


健司「ごめんなさいっ…」




   しゅんとして下を向く。










⚪同・ホール


   クリスマス会当日。




   年長の発表が始まる。




千里「麻衣ちゃん、大丈夫?」


麻衣「せんちゃん…」




   照れ臭そう。




麻衣「へー大丈夫。この間は…ありがとな。とっても嬉しかった。」


千里「いや、えへへ。」




   照れて笑う。




  


   開幕。歌と躍りが始まる。




   




   終わる。大きな拍手。で、幕が閉じる。






   ***


  


   1月。早朝。大きな地震。




○同・園庭


   母親たち、地震の話で持ちきり。園児たち、走り回って遊ぶ。






○小口家


   電話。




珠子「はいはい、小口にございます。あぁお父さん、久しぶり!えぇそうよ。」




   話をしている




珠子「うん、うん、え?」






   ***


 


   珠子、小口




小口「え、お義母さんが!?」


珠子「突然らしいの。今日の地震も大きな影響らしいわ。」


小口「そうか・・・なら珠子、京都に帰ろうか?」


珠子「いいわよ、少し様子を見に行くだけで。」


小口「でもお前の実の母親だろ。それに、お義母さんがいなくなってお義父さんも寂しいだろうし・・・」


珠子「それは・・・そうだけど、せんちゃんもこっちに慣れて折角お友達も出来ているのに可哀想だわ。」


小口「あの子もまだ小さいんだ、わかってくれると思うし、お友だちなんて向こうでも叉すぐに出来るさ。」




   ***




   食事時




小口「という訳なんだ父さん・・・」


吉三「左様か・・・では実にここを、去るのじゃな。」


珠子「えぇ、来年の春には。」


吉三「寂しくなるのぉ」


千里「ねえ、パパにママ、おじいちゃん、何のお話ししているの?(不安そう)」


珠子「大丈夫よせんちゃん、そんな顔しないでも。」


小口「そうだよ。千里、そうだ千里!小学校に行ったら何やりたい?お友だちいっぱい作ろうな。」


千里「うん。」






   ***




   就寝時。珠子、小口、千里、川の時になって眠っている。




小口「なあ千里、実はパパとママ、お前が幼稚園を卒園したら京都の家にお引っ越しをしなくちゃいけないんだ。いいよな、」


千里「お引っ越しってなあに?」


小口「京都のお祖父ちゃん家に戻って暮らすんだよ。」


千里「何で?」


小口「京都のお婆ちゃんが死んじゃったんだって。だからお祖父ちゃんが寂しくなっちゃうから千里に来て欲しいんだよ。」


千里「おばあちゃん、死んじゃったの?」


珠子「千里・・・」




   無邪気な顔の千里、珠子、静かに泣きながら抱き締める。




千里「ママ、やめてよ。僕苦しいよ・・・。」






○ひばりヶ丘幼稚園


   千里、寂しそうに廊下を歩いている




麻衣「せんちゃん!!」


千里「・・・麻衣ちゃん。」


麻衣「一緒に遊ぼ。」


千里「うん!!」




   麻衣、千里の手を引いてかけていく




紡「麻衣とせんちゃん、すっかり仲良しになってよかったな。」


糸織「あぁ。」




   おきゃっこをする麻衣と千里。千里、しょんぼり




麻衣「なぁせんちゃん、さっきから変よ。どうしたの?」


千里「何でもない・・・」


麻衣「具合悪いの?それともおしっこしたいの?ならいってきてもいいのよ。私待ってる。」


千里「大丈夫・・・。」




   しょんぼり




麻衣「ん?」






○柳平家


   三つ子




麻衣「でな、せんちゃんこの頃ずっとおかしいのよ。元気がないの。」


紡「お仕事のときもいつもそうだ。千里君、しょんぼりしてる。」


糸織「お話もあんまりしないし、お弁当もあんまり食べない。」


三つ子「うーん・・・」






○小口家


   千里、眠っている。




珠子「これせんちゃん、せんちゃん、千里っ!!起きなさい!!幼稚園に遅れちゃうわよ。」


千里「行きたくない・・・。」


珠子「せんちゃ・・・(布団を捲る)あらあら叉こんなにお布団を濡らしちゃって。風邪引いちゃうでしょ、早く起きなさい!!」




   千里の体に触れる




珠子「ん?(額に手をやる)せんちゃん、ちょっと待って。」




   体温を測る




珠子「あら、いけない!!この子こんなにお熱があるわ。あなた、あなた!!」






小口「本当だ。じゃあ今日は幼稚園は休ませよう、珠子、千里をよろしく。」




   にっこり




小口「千里、今日はいい子でゆっくり寝ているんだぞ。パパ、帰りにお土産買ってきてやるからな。」


千里「ありがとうパパ・・・お仕事頑張ってね。」


小口「あぁ。」




   小口退室。




珠子「幼稚園にママ、お電話するからね。せんちゃん、何食べたい?」




   電話を掛ける




珠子「あの、さくら組でお世話になっております年長の小口千里の母ですけれども・・・」






○ひばりヶ丘幼稚園


磨子、横井、健司、麻衣。




磨子「麻衣ちゃん、最近ずっと元気ないに。どーゆーの?」


麻衣「来てないの・・・」


磨子「え?」


麻衣「さくら組のせんちゃん・・・」


磨子「さくら組のせんちゃん?」


横井「あー、あの年中のクリスマス会でおしっこ漏らしたあいつか!!」


磨子「やめなさいよ、てつ!!」


麻衣「ずっとね、高いお熱だして寝てるんだって・・・可哀想。」


健司「だったらお見舞いにいってみなよ。」


麻衣「せんちゃんのお家、私知らないもん・・・」


健司「るり子先生か、十惠先生に聞いてみれば?」


麻衣「あ、そうか。」






   ***




十惠「え、せんちゃんって小口千里君の?


麻衣「お願いします。私どうしてもせんちゃんのお家へお見舞いに行きたいの!」


十惠「うーん・・・分かったわ。ちょっと待ってね。」




   机をがさごそ




十惠「麻衣ちゃん、地図は分かる?」


麻衣「少しなら」




   十惠、書く




十惠「出来たわ。分からなかったらお家の人に見てもらってね。麻衣ちゃんの事、せんちゃんのお家にも話しておくわね。」


麻衣「はい、先生ありがとうございました。」






○小口家


   


麻衣「ここね。」




   吉三が出てくる




麻衣「ひっ!」


吉三「どなたじゃね?」


麻衣「こ、ここ・・・小口千里君のお家ですか?」




   吉三、麻衣をまじまじ。麻衣、たじたじ。




吉三「(にっこり)千里のお友だちかい。孫の見舞いに来てくれたのかね、どうぞ上がりなさい。」


麻衣「はいっ。」




   ***


   家の中の一室。千里がつまらなそうに寝ている




麻衣「せんちゃん、」


千里「誰?(気がつく)麻衣ちゃん・・・どうして?」




   珠子、お茶を持ってくる




珠子「今さっき十惠先生からお電話があったのよ。麻衣ちゃんがどうしてもせんちゃんのお見舞いに来たいっていっているからお家の場所を教えましたってね。」


千里「そうだったんだ。」


麻衣「お熱は?」


千里「頭痛いよ。(咳をする)」




   麻衣、千里の体を擦る




千里「ありがとう麻衣ちゃん、僕とっても嬉しい。」




麻衣「せんちゃん、早く元気になって幼稚園に来てね。叉一緒に遊ぼう。」


千里「うん、僕も一緒に遊びたい!」




   珠子、微笑む




○ひばりヶ丘幼稚園


   下駄箱、麻衣が靴を履き替えている。千里、登園。




千里「麻衣ちゃん!」


麻衣「せんちゃん・・へーお風邪大丈夫なの?」


千里「(マスクをしている)お熱下がったから、これをやってればもう幼稚園行ってもいいって。」


麻衣「そっか、よかった、ほいじゃあ今日は教室の中で遊ぼう。」


千里「うんっ!」




  


   ***


   麻衣、千里。鞠つきをやっている




麻衣「イチリトララトリトラ、ホーホケキョウの高御座、ちょんがらほい!」


千里「麻衣ちゃん上手!!」


麻衣「次、せんちゃんの番ね。」


千里「ねぇ・・・麻衣ちゃん(もじもじ)」


麻衣「何?」


千里「あの、えーと。」


麻衣「おトイレに行きたいの?行っていいに。」


千里「うーん、」


麻衣「何よ?それとも言いたいことがあるの?ならはっきり言ってよ!」


千里「あの…あの…そのお、麻衣ちゃん。」


麻衣「何?」


千里「僕…実は、引っ越ししちゃうの…。」


麻衣「引っ越し?…何処へ?いつ?」


千里「卒園式が終わったらすぐにだって。京都…」


麻衣「京都?」


千里「うん、こっからねとっても遠いとこなの…」


麻衣「ふーん…」


千里「僕、麻衣ちゃんには言いたかったの…。麻衣ちゃんとは、お友達になりたかったから・・・。」


麻衣「ふーん、そうなの・・・。」




   千里、寂しそうにいなくなる。麻衣も寂しげ。




   ***


   


   ユリ組




   健司、横井にちょっかい出されて泣かされている。磨子、面白がって健司をからかっている。麻衣、寂しげに教室に入る。




○同・ホール


   卒業式が行われている。千里、泣きべそをかいている。麻衣、複雑な顔をしている。






○小口家




   川の字に眠っている千里、小口、珠子




小口「千里、いよいよ明日は京都へ行くんだよ。」


千里「うん…」


小口「心残りはもうないかい?」


千里「う…う、うん…」


珠子「どうしたの?」


千里「何でもない…」


珠子「え?」


千里「おやすみ・・・。」




   切なそう




小口「千里…」




   千里、泣き出しそうな顔で目を閉じる。




珠子「せんちゃん?」






⚪・庭先


   珠子、布団を干している。




珠子「この子ったら、引っ越しだって言うのに、夕べなんて二度もおねしょしちゃって。」


小口「昨日何か思い詰めているみたいだったからな・・・ひょっとして千里もお友達と別れるのが辛いんだろう。」




   千里を抱き上げる




小口「(笑って)昨日は二回もやったんだって?寝る前にお水飲んだな?」




   じゃらす




小口「この悪戯坊主め、この!この!」




   珠子、微笑む






   ***




  小口、車のトランクを閉める。吉三、出てきている。




小口「よしっと、出来た。では、そろそろ行くか?」


珠子「そうね。」


吉三「寂しくなるのぉ。千里や、立派な男になるんだよ。又いつでも遊びにおいで。」


千里「うんっ、ありがとう。おじいちゃんも元気でね。」




   小口は運転席、珠子、後部座席に乗り込む。珠子、千里を抱いて隣に座らせる 


珠子「せんちゃん、どうしたの?」


千里「麻衣ちゃん…」


珠子「麻衣ちゃん・・・この間の女の子ね(京都で会った事を思い出す)。」




珠子M「あのこ、まさかあの時の?」


小口「仕方ないよ…千里。麻衣ちゃんもご用があるんだ。




   千里、泣きそう




小口「ほら、泣くな千里。麻衣ちゃんはずっとここにいるんだろ?だったらこっちに来た時に遊べばいいよ。京都のお土産も麻衣ちゃんに買ってさ。ほら、だからもう行こう千里。」


千里「うん…」




   車は動き出す。







   ○柳平家・庭先




   紡、糸織、麻衣、ゴム跳びで遊んでいる。




紡「麻衣、千里君とこふんとぉーにいいだ?」


麻衣「いいの・・・。」


糸織「でもさ、君の事助けてくれた男の子だろ?あんなに仲良く遊んでたじゃんか。お見舞いにだっていったら?そんなに仲良かったお友達なのに、お別れ言いなよ。」


紡「ふんとぉーは麻衣だってあの子にお別れ言いたいだらに。」


麻衣「うーん…」






   庭先を飛び出る。






   千里の車、庭を出ていく






   麻衣、途中で花を摘んでポケットに入っていたマシュマロの包みを取り出す。







○諏訪インターチェンジ前


  


   車、あと数メートルで料金所というところを走っている。麻衣、追いかける




麻衣「せんちゃんーっ!!せんちゃん、待ってぇ!!」




   車、走り続ける




麻衣「止まって、せんちゃんーっ!!」




千里(…?麻衣ちゃんっ?)




   慌てて




千里「パパっ、パパ!!」


小口「ん、どうした千里?」


千里「ちょっと車止めて。」


珠子「え?」




   車、ドライブインに入る。




   千里、急いで車を飛び出る。




   麻衣、息を切らして駆け寄る。千里、同様。




千里「麻衣ちゃん…来てくれたんだ!!」


麻衣「ふんとぉーに…行っちゃうだ?」


千里「うん…(俯く)」


麻衣「へー会えんの?」


千里「又遊びに来るよ。そしたら…その時は…叉僕と遊ぼ…」


麻衣「えぇ、絶対、約束だに。」




   小さな野の花束を渡す。


 


麻衣「これ、私が作ったの…あんたにあげる。」


千里「僕に…くれるの?」




   麻衣、黙って頷く。




麻衣「あんたのこんは、あんたがあの日助けてくれたこんは、私忘れはしん。…ほして…ほれと…」




   巨大マシュマロを千里の口に押し込む。麻衣、千里を無理矢理車の後部座席に詰め込んで思いっきりドアを閉める




麻衣「へー行って!!さようなら、又な…」


千里「麻衣ちゃん…」


麻衣「さようなら!早く行って、お願いっ。」




   車、走り出す。麻衣、泣きながら車を追いかけて手を振る。




   車、高速道路に入っていく。麻衣、料金所の前に立って手を振る。




   




○車内


   千里、巨大マシュマロを口に入れたまま泣いて振り向く。麻衣に大きく手を振る。




小口「千里、良かったね。最後に麻衣ちゃんに会えて。」


珠子「あの子、本当に来てくれたんだわ、家の千里なんかの為に。とっても優しい子ね。大切にするのよ。」




   千里、強く花束を胸に抱いて泣いている。
















『石楠花物語幼少時代』




○桜の木の下


   千吉(20)が目を覚ます。






千吉「ここは…?」




   キョロキョロ




千吉「私は確か老いて、御所で死んだ筈じゃ。ここは何処か?黄泉じゃろうか?」




   深呼吸




千吉「桜じゃ…何と春のいい香りじゃろうか。ん?」




千吉「おや?」




   目の前に鏡。




千吉「何と言うこと!?私は確か95にて死んだ筈だに、何故じゃ。これ程若いとは信じられぬ。」




   はっとする。




千吉「では、今頃中宮も近くにいるのではなかろうか?中宮、中宮や、おるのか?何処におる?」




   強い風。桜が散る。




   *** 




   涼しいそよ風。緑の葉が芽吹く。




麻衣の声「殿下、殿下、」


千吉「中宮か?何処におるのじゃ?」


麻衣の声「又お会いになれますわ。」


千吉「え?」




   千吉、背が縮まり若返っていく。




   ***




   千吉、消えていなくなる。そこに麻衣。




麻衣「あぁ…あなた様の方がお早かったのだわ。しかし、お待ちになっていてください殿下。私もすぐにあなた様の元へ参ります。生前の契り通り、来世でも私はあなた様と太平の世の下、永遠の契りを交わせることを願っております。故に、お待ちになっていてください殿下。」






○石楠花平病院・分娩室


   1989年8月10日。産声。小口珠子(22)




効果音…産声




看護婦「おめでとうございます。お母様、産まれましたよ。元気な男の子ですよ。」


珠子「男の子。」




   赤ん坊の手を握る。




珠子「こんにちは赤ちゃん。よく頑張ったね、これから宜しく。せんちゃん。」






   新生児ネームプレート『小口千里』






○京都御苑(夕)


   小口千里(4)が子供用の車に乗ってやって来る。そこへ、柳平紅葉(34)、柳平麻衣(4)。




紅葉「あら坊や、一人で遊んでいるの?お母さんは?」


千里「うん、せんちゃん一人なの。ママはいないよ。」


紅葉「いないって?」


千里「お家。」


紅葉「なら、せんちゃん一人でここに来たの?お母さんに言ってきた?」




   千里、首を振る




千里「せんちゃん家すぐ近くなんだよ。」


紅葉「まぁ大変!!せんちゃん、お家は何処?」




   千里の案内で御苑を出る麻衣、紅葉。




○アパート“土御門”(夕)


   紅葉、ベルを押す。




小口珠子の声「はーい、どなた?(玄関を開ける)はい。」


紅葉「あなたがせんちゃんのお母様ですか?」


珠子「えぇそうですが、家の子が何か?」




  千里を見る




珠子「せんちゃんっ!!」


紅葉「えぇ、この子一人で京都御苑にいまして・・・」


珠子「京都御苑に!?これっせんちゃん、いつも一人でお外へでちゃあダメってあれほど言っているでしょう。どうして言うこと守れないの?ママとっても心配したのよ。」


千里「ごめんちゃい…。ママごめんちゃい!!」




   泣きつく




珠子「もういいのよ、せんちゃん。大丈夫。ママ怒ってないわ」




   麻衣、紅葉、微笑む




珠子「本当にご迷惑をお掛け致しました。申し訳ありません…。」


紅葉「いえいえ。」


珠子「でも、これも何かのご縁ですわ。狭いですが上がってくださいな。」


紅葉「いいのですか?」


珠子「えぇ、勿論。それにこんなかわいい娘さん、息子も喜びますわ。」


紅葉「では、すこしだけ…。」




   ***


   子供部屋。麻衣と千里、おきゃっこをする。




麻衣「あなた、お帰りなちゃい。ご飯にしまちゅか?お風呂にしまちゅか?」


千里「ただいま、お腹ちゅいたな。」


麻衣「待ってくだちゃいね。今ご飯にちまちゅよ。」




   紅葉、珠子、お茶をしながら微笑む




紅葉「まぁ、もう仲良くなってる。子供は打ち解けが早いわね。」


珠子「そうですわね。全く・・・千里にも困ったものだわ、あの子好奇心旺盛でちょっと目を話すとすぐに何処かにいっちゃうのよ。」




千里「ママ、好奇心ってなあに?」


珠子「自分で辞書でもお引きなさい。」


千里「辞書ってなあに?」




   紅葉、笑う。




麻衣「ねえ、私ピアノ習い始めたのよ。せんちゃんも弾くの?」


千里「(興味津々)ピアノってなあに?」


麻衣「黒くて、大きくて、音が出るの。指で押すと白いのと黒いのがへっこんで面白いのよ。」




   千里、想像中




千里「へぇ・・・せんちゃんもやってみたい。」


麻衣「せんちゃんの母さんにやらせてもらえばいいわよ。」


千里「うんっ!!」






○同・台所(夜)


   千里、珠子、小口懐仁(28)、源薬子(80)、源源之助(87)




小口「え、ピアノをか?」


珠子「そうなのよ。今日遊びに来たって言った女の子が習い始めたって言ってて、そしたらせんちゃんもやりたいって言い出して聞かないのよ。」


源之助「しかし千里はお琴教室に通わせたばかりじゃないか。琴もピアノもやらせるのか?」


千里「ねぇママ、ピアノ!せんちゃんもピアノやりたい!!」




   大人たち、顔を見合わせる




千里「パパ、ママ!!」


小口「なら千里、ちゃんとやれるか?途中で飽きちゃってやめるって言わないか?」


千里「言わない、せんちゃん言わないから!!」


小口「よし分かった。」


珠子「ちょっとあなた!!」


小口「珠子、千里に好奇心がある今のうちに色々やらせてあげたらいいよ。私も協力するから。」


珠子「懐仁さん・・・ありがとう、分かったわ。」




   千里を抱き締める




珠子「良かったわねせんちゃん、パパがピアノやらせてくれるって。」


千里「やったぁ!!パパありがとう!!」


薬子「それなら千里に電子ピアノを買ってあげなくちゃね。」


珠子「お母さん、そんなのまだ早いわ。」


薬子「いんや珠子、こいのはね小さい頃からが大切なんだよ。ひょっとしたらこの子はピアニストになるかもしれないよ(笑う)」


千里「ピアニストってなあに?」




   他全員、笑う




懐仁「ピアノを弾くお仕事をする人だよ。」


千里「せんちゃんピアノを弾くお仕事やりたい!!せんちゃんピアノを弾くお仕事やりたい!!」




○ピアノ教室(夕)




先生「君が千里くんね。じゃあちょっと早速弾いてみようか?」




   千里、レッスンを始める。にこにこ弾いている。




○帰り道(夕)


   千里、珠子、手を繋いで歩く




珠子「せんちゃん、ピアノどうだった?」


千里「せんちゃん、とっても楽しかったよ。先生にね、ご本もらったんだよ。」


珠子「そう、よかったわね。頑張るのよ。」


千里「うんっ!!」


珠子「さぁ、お夕食のものを買って帰りましょうか。」


千里「うんっ!!」




○小口家(夜)


   小口、帰宅。




小口「ほーよかったじゃないか。」


珠子「せんちゃんも今のところとっても楽しそうだし、(目で指す)」




   千里、電子ピアノを夢中で弄っている




珠子「お母さんが買ってくださったピアノもあんなに嬉しそうに弾いているわ。」


小口「本当だ。で、琴はどうなったんだ?」


珠子「せんちゃん、嫌いじゃなさそうだし・・・せっかくお琴も買ったんですから、まだやめさせていないのよ。」


小口「そうか。」




   ***


   数ヵ月後。千里、ピアノを弾いている。




   電話。




珠子「はいはいはいはい、(出る)はい小口です。」


小口吉三(90)の声「珠子さんかい?」


珠子「その声は、お父さん。お久しぶりです、お世話になっております。」


吉三「千里と懐仁も変わりはないかい?」


珠子「えぇお陰さまで。」


吉三「それで珠子さん、」


珠子「はい?」






○駐車場(朝)


   珠子、懐仁、荷物を車に積んでいる。




薬子「珠子、本当に引っ越しちまうんだね。」


珠子「ええお母さん。そんなに寂しがらないでよ、叉落ち着いたら戻るわ。」


薬子「そうしておくれ。」


源之助「千里、お前も元気でいるんだよ。叉帰っておいで。」


千里「ねえ、引っ越しってなあに?」




   懐仁、千里を抱き上げて車に乗せる




懐仁「茅野のおじいちゃんのところへ行くんだよ。」


千里「茅野のおじいちゃん?」


懐仁「そう。茅野のおばあちゃんが死んじゃったんだってさ。だからおじいちゃんが寂しくないようにパパたちが一緒にすんであげるんだよ。」


千里「死んじゃったってなあに?」




   全員、笑う




珠子「もう出発しましょう。」


千里「ねえ引っ越しってなあに?死んじゃったってなあに?」




   車、出る。薬子、源之助、手を振っている。






   ***


   車内、高速道路。千里、大人しくペロペロキャンディーをなめている。






○ひばりヶ丘幼稚園・さくら組(朝)


   土橋十惠(29)、園児たち




十惠「というわけで、今日からさくら組に新しいお友だちが入ることとなりました。せんちゃん、入ってきていいわよ。」


千里「・・・。」




   ドアの外から神経質気味に覗く




十惠「せんちゃん、恥ずかしがらなくて大丈夫よ。おいで。」




   千里、恐る恐る入室




十惠「自己紹介できるかな?」


千里「自己紹介ってなあに?」


十惠「えっとね、じゃあせんちゃん、お名前言えるかな?君のお名前は何て言うの?」


千里「小口千里です。」


十惠「はい、ありがとう。小口千里君です。みんな仲良くしてね。」


全員「はーい!!」


十惠「それでは早速・・・」




   時間が始まる




   ***


   翌朝。




○同・下駄箱


   柳平麻衣(4)が靴を履き替えている。千里、登園。麻衣に気づく。麻衣、千里に目をやる、そこへ岩波健司(4)が岩波幸恵に手を引かれて登園。




健司「やだやだやだ、お母さん行っちゃあ嫌だ!!」


幸恵「聞き分けないこと言うんじゃありません。ほら、頑張ってきなさい。」


健司「お母さん!!」


麻衣「健司くん、どうしたの?」




   健司、幸恵に泣きついている。




幸恵「もぉ、男の子なのに恥ずかしいわよ。女の子だって泣いてないじゃないの。」




   健司を振り払おうとしている。




麻衣「私と一緒に行こ。」


健司「麻衣ちゃん…」


麻衣「健司君。な!」




   微笑んで手をとる。




麻衣「大丈夫だに。一緒に教室行こう。健司君のお母さん、いってきます。」


幸恵「ありがとう麻衣ちゃん、宜しくね。健司、頑張るのよ。」




   健司、麻衣に連れられていく。


 


健司「お母さんーっ!!わぁーんっ!!(泣きじゃくる)」




   幸恵、少し恥ずかしそうに帰っていく。




   千里、様子をずっと見ている。




○同・ユリ組




   麻衣と健司、出席シールを貼って入る。




麻衣「先生、おはようございます。」




   矢ヶ崎るり子(24)、微笑む




るり子「おはようございます、あら健司君、又泣いてるの?」




   健司、者繰り上げている。




るり子「入園してもう半月も経つんですから、しっかりしないとね。」


健司「へーお家帰りたいよぉ!!お家帰りたいよぉ!!お母さんぁーん!!あーんっ!!(大声で泣く)」




   麻衣、健司を席に座らす。隣同士。




   園児作業をしながら健司を慰める麻衣。班は麻衣、健司、田中磨子、横井哲仁




磨子「健司君、又泣いてるの?」


横井「男の癖にいつまでも泣いてるんじゃねぇーよ!!」


健司「ほいだって…ほいだって…あーんっ!!」




   ***


   


   健司も泣き止んで班のみんなと仲良くし出す。






   お昼。鳩時計が鳴く




るり子「さぁみんな、お昼なのでお仕事をやめて。手を洗って、お弁当を出してください。」


園児たち「はーいっ!!」




   動き出す。




   ***




るり子「それではみんな、準備は出来ましたか?お弁当とお箸はありますか?それでは、いただきます。」


園児たち「いただきます!」




   食べ始める




磨子「わぁ!今日の私のお弁当は春巻きだ!」


横井「俺なんて唐揚げだい!」


健司「僕なんか照り焼きだよ!麻衣ちゃんは?」


麻衣「私は・・・じゃん、(にこにこ)蜂の子さんと蝗さんだ。」


健司・磨子・横井「おえっ・・・」




   わいわいがやがや。るり子、微笑んで食べる。


   








   1994年10月。


   風が強い日。其々に作業をしている。




   強風、全6クラスで物音。全クラスの園児、一斉にキョロキョロ。




るり子「あら、何の音かしら?みんなも聞こえた?」


園児たち「聞こえた。」






十惠「ひょっとしたら風さんが何か落としていったのかもしれませんよ。みんなで探してみましょうか。」


園児たち「はーい!!」








   園児たち、教室中を探す。




磨子「先生も探そうよ。」


るり子「そうね、一緒に探そうか。」






麻衣「あれ?」




千里「あれ?」




   ユリ組とさくら組。麻衣と千里、本棚の陰に手を伸ばす




るり子・十惠「何か見つけたの?」




麻衣・千里「先生何かあったに(あったよ)。」




   麻衣、千里、千代紙の包みをるり子、十惠に渡す。




るり子「みんな、麻衣ちゃんがこんなものを見つけました。」




十惠「せんちゃんが見つけました。」




るり子・十惠「開けてみましょう。」






   種が出てくる。




るり子「あら?みんな、これなんだか分かりますか?」




   ガヤガヤ




十惠「これは、お野菜の種です。みんなで蒔いて育ててみましょう。」




園児たち「はーいっ!!」






   小さなプランターに全クラスの子供たちが種まきの作業をしている。






るり子「これはきっと風さんが、クリスマス会の練習頑張るみんなのために送ってくれたんですよ。」


十惠「それではみんな、クリスマス会の練習も頑張りましょうね。」


園児たち「はーいっ!!」






○同・ホール


   お遊戯の練習。園児たち、家鴨に扮している。麻衣、千里、隣同士。千里、麻衣をチラチラ。麻衣、ツンっとしている。






   終了後






麻衣「あんた、いつもどいで人んとこばっかり見てくるだぁ?変なのぉ!!」


千里「だってぇ・・・君こそどうしていつも僕には怖い顔するの?」









同・トイレ


   男女共同。麻衣、健司のトイレを手伝っている。




健司「麻衣ちゃん、待っててね。行かないで。」


麻衣「ここにおるに。待ってる。いい?へー出た?」


健司「うん、出たぁ!」




   千里が駆け込んでくる。麻衣、健司を交互に見る。




千里「何やってるの?」


麻衣「又変な子が来た!矢ヶ崎先生に健司君のおしっこ見てあげてねって言われたの。」


千里「ふーん…」




   用を足し出す。




千里「次はクリスマス会の練習だよ。」


麻衣「ほんなこん分かってるわよ!!行こ、健司君。」


健司「う、うん…」




   麻衣、健司の手を引いてトイレを出ていく。




麻衣「何よあんたなんて、変な子!!」




千里「何で怒るのさぁ!!僕変な子じゃないもんっ!!変な子って言う方が変な子何だよぉ!!」


  




⚪柳平家・和室


   麻衣、柳平糸織(5)、柳平紡(5)が飯事をしている。




麻衣「んーもおっ!!」


柳平紡「麻衣、どーゆーの?」


麻衣「つむ…」


柳平糸織「何か嫌なこと?」


麻衣「名前は知らないさくら組の男の子がいっつも私と会うと嫌な顔して何か言ってくるの。変な子!!」


紡「さくら組?私さくら組だだけど…どの子ずら?」


麻衣「背の小さくて、目の大きい男の子…」


糸織「せんちゃんかなぁ?」


麻衣「とにかく、ほの子が嫌なんよ!!」




   ふんっと鼻を鳴らす。




⚪○」岩波家


   幸恵、健司のピアノの練習を見ている。健司、不貞腐れながらピアノを弾いている。




   一曲終わる




健司「僕ピアノなんて嫌だ。やめる!」


幸恵「ダメよ健司、せっかく始めたんだから続けなさい!」


健司「僕がやりたくて始めたんじゃないもん。お母さんが勝手に決めたんだもん。」


幸恵「お母さんはあなたに将来後悔してほしくないからいっているのよ。」


健司「どいで?」


幸恵「どいでって…」




   うっとりと




幸恵「格好いいからよ!今どきピアノ、バイオリン、バレエもできる男の子なんていったらモテんのよぉ!!だからあなたももし今から習っていなかったらきっと後で後悔するわ。」




  


   健司の肩を叩く




幸恵「それにあなたは岩波の息子なんです。だから岩波家の次男として誇れるような男になれるように頑張りなさい。」


健司「ちぇっ。」




  


   拗ねる。




健司「分かったよ。でも僕…明日から絶対に幼稚園はやめるもん。」


幸恵「あら、まぁどうしてそんなことを言うの?それは絶対に行けませんよ。」


健司「嫌なもんは嫌なの!!」


幸恵「何故?理由を言ってごらんなさい。」


健司「哲仁君が僕の事をいつも苛めるんだもん…行きたくないんだ。」


幸恵「まぁ?それくらいで行かないですって?」




   腰に手を当てる




幸恵「行けませんっ!!男の子なんですからそれくらい我慢なさいっ!!虐められたらやり返せるくらいの強い男の子にならなくちゃなりませんよっ!!」




   健司、泣きそうな顔で幸恵を見る。




幸恵「何ですその目は?悔しかったらやり返しなさい。お母さんそれくらいでは助けてあげませんよ。」


健司「そんな…お母さんのバカ…意地悪…鬼…。」




   再びピアノを弾き出す。







 ○ひばりヶ丘幼稚園・ユリ組 




  健司、横井にちょっかい出されて泣かされている。麻衣と磨子が庇う。るり子が仲介に入る。




  クリスマス会の当日。




⚪・さくら組


   年中、全員が集まっている。




るり子「それではみんな、いよいよ今日が本番ですよ。練習通りに頑張りましょうね。」


園児たち「はいっ。」


るり子「その前に…」




   お皿を取り出して一人一人に配る。






るり子「これは風さんが、送ってくれた種で育ったお野菜です。ステージの前にこの元気のお薬を食べてから行きましょう。」




   一人一人のお皿に少しずつマヨネーズで和えた二十日大根を乗せる。




るり子「それではみんな、頂きます!!」


園児たち「頂きます!!」




   みんな、微笑んで食べ始める。






るり子「食べ終わりましたか?では皆さん、行きましょう。先生に着いてきてね。」


園児たち「はーい!!」




   全員、ついて出ていく。










○同・ホール


   クリスマス会当日。多くの人が観に来ている。カメラを回している。千里、麻衣のとなり。時々腹部をおさえ、もじもじ踊る。




   麻衣、千里に目を合わさずにツン。




   千里、動きを止めて泣き出しそう。




麻衣「?」




   踊りながら近づく




麻衣「(小声で)あんた、どうしたの?」


千里「んん・・・」


麻衣「(名札を見る)千里君、具合悪い?」


千里「おしっこ、」


麻衣「(小声で)えぇ!?」




   きょろきょろ




麻衣「(小声で)先生っ!!土橋先生!!」




   十惠、飛んでくる




十惠「どうしたの?」


麻衣「千里君が!!」


千里「(泣き出す)もれちゃう!!」


十惠「せんちゃん、先生と一緒におトイレに行きましょう!麻衣ちゃん、ありがとう。」




   急いで手を引く




千里「もれちゃったぁ!!(泣く)」


十惠「あらあら・・・ほ