『石楠花物語中1時代』
○原村高原中学校・教室
授業中。柳平麻衣と岩波健司、後ろの方に座っている。
健司「…」
時計を気にして体を揺すりながらノートを取っている。
麻衣を横目で見る。麻衣、ノートを取っている。
健司M「ううっ…あと40分もある。」
数分後。緊迫した教室内。清水千歳が手を挙げる。小林由美、呆れて腰に手を当てる。
清水「先生、トイレ!」
小林先生「清水君、叉君ですか?早く行きなさい…」
清水「はーい。」
健司M「くそっ、あいつ叉かよ…」
清水、小粋に退室
健司、ノートを取りながら下腹を押さえる。
健司M「ううっ…」
麻衣、心配そうに健司を見る。健司、麻衣を睨む。
終業15分前。 健司、手を止めて固まる。
麻衣「(小声)健司、健司?どうした?」
健司「何でもねぇよ…」
足腰を動かす。
麻衣「(小声)具合悪い?」
健司「何でもねぇんだって…」
健司、苦しそう。小刻みに震える。
数分後。
クラス全員、健司を見る。
健司「…」
健司、座ったまま下を向いている。足元まで水浸し。
清水「タケ、お前…」
クラス、ヒソヒソ。健司、泣き出す。麻衣、机を叩いて立ち上がる。全員、びくりと麻衣を見る。
麻衣「これっ!あんたら黙れ!煩い!」
健司、俯いて者繰り上げている。
麻衣「大丈夫だに。」
男子たちをきっと睨み付ける
麻衣「あんたら、何見てんだよ!見物してる暇あったら自習しな!先生も自習しろって言ってたらに!」
麻衣、バケツに水を汲む。
全員「っ!?」
麻衣、下着を脱ぐ。男子たち、麻衣に釘付け。女子たち、目を丸くして麻衣を見る。健司、目のやり場に困っている。下着とスカートを濡らして再び身につける。
小林先生、戻ってくる。
麻衣「健司、許せ!いざ覚悟!」
麻衣、健司にバケツの水をかける。健司、びしょびしょ。固まっている。
小林先生「自習なさいって言ったでしょ!何やってるの?」
麻衣を見る
小林先生「柳平麻衣さん!あなたは一体何をやっているのです?」
麻衣「岩波君が私をからかって笑うもんでごうわいてこうしたのよ!」
健司にウィンク
小林先生「あなたはもう少しまともな子と思っていました…幻滅です!早く岩波君を医務室へ連れていってあげなさい。あなたは午後の授業は廊下に立っている事!」
麻衣「はい。健司、行こ。」
健司の手を引いて退室。
○同・廊下
麻衣、健司に綺麗に畳んだスラックスを渡す。
麻衣「はい。」
健司「?」
麻衣「何か役に立つときのためにと思って学校に置いておいたの。良かった、役に立つときが来て。」
健司「俺に?」
麻衣「ほいだって、午後もあるんよ。一人だけ体操着のズボンとか履いてたら一発でお漏らししたって事バレちゃう。」
麻衣「あんたいつも男子用のスラックスは大きすぎて履けないって言ってスラックスだけは女子用サイズを履いとるら?だでサイズ私と同じだでピッタリ。だでこれ履きなさいよ。」
健司「麻衣、ありがとう。でもお前は?」
麻衣「(恥ずかしそうに)良いってこんよ。私は気にせんに。」
○同・医務室
大沼奈保子と前景の二人。
大沼先生「どうぞ。」
麻衣「先生、おもらししちゃいました。着替えさせて。」
大沼先生「あらら…サイズは?」
麻衣「Sです。」
大沼先生、麻衣に体操着のズボンを渡す。
麻衣「ありがとうございます。」
大沼先生「ん?」
健司を見て麻衣を見る。
大沼先生「おや?本当はトイレ間に合わなかったのは君ね。」
健司「あ…いや…」
麻衣「(下を向いて小声)どうして分かったのかしら?」
大沼先生「分かるわよ、何年保険の先生やっていると思っているの?」
麻衣に
大沼先生「それであなたは彼を庇ってあげたのね?」
健司「ほうです。麻衣は俺をカバってくれたんです!」
話し出す。
健司「ほれなのに小林先生に怒られて、午後は廊下に立たされる…」
麻衣「いいんよ健司!」
健司「良くねぇよ!お前は何も悪くないのに…」
大沼先生「分かりました。そういう事情なら、先生から小林先生に話しておくわ。着替えたら教室にお戻りなさい。」
大沼先生、退室。麻衣、不貞腐れて鼻を鳴らす。
健司「?」
麻衣「ケッ、折角授業サボれる絶好のチャンスだっただに!」
健司「は?」
健司、呆れる。
○同・給食ホール
健司、麻衣の皿に鳥の唐揚げを乗せる。
麻衣「これ、あんたの一番好きな物じゃないの。どいで?」
健司「さっきのお礼。さっきはありがとな。」
麻衣「ありがとう。」
麻衣、笑って食べる。健司、セルリーを箸でつかんで香りを嗅ぐ。顔をしかめて避ける。麻衣、それを見る。
麻衣「あー!あんた原村っ子だらに!ほれなんにセルリー嫌いだなんて村に対して失礼よ!」
生徒たち、クスクス。
健司「ほんな大声出すな。ホール中に聞こえてんぞ!」
廊下。健司と麻衣、前方から小林先生
健司「あ…」
麻衣「先生…」
小林「岩波君と柳平さん、ちょっと私といらっしゃい。」
二人、顔を見合わせる。
○同・会議室
前景の三人
麻衣「先生、話って?」
小林「柳平さん、さっきはごめんなさいね。そしてありがとう。」
麻衣「え?」
小林先生「大沼先生から聞きました。岩波君を庇ってあげたのね。」
麻衣「え…」
小林先生「隠さなくてもいいの。岩波君、本当はトイレに行きたかったのはあなたなのね。」
健司「は…はい。」
小林先生「もうあなたは中学生なんです。授業中でもトイレに行きたくなったら言いなさい。その前に休み時間のうちに済ましておくこと。分かりましたね。」
健司「はーい…」
小林先生「柳平さん、あなたもね。」
麻衣「私はそんな事はしませんよ!」
チャイム。
○宮川商店街
麻衣、健司、田中磨子。ソフトクリームを舐めながら歩いている。
磨子「そう言えばさ、もうすぐ元木グループのラーコ城南にチョコミントのコンサートと蜜蜂家政婦って映画上映が来るの知ってる?」
麻衣「え、何々それ?」
健司「俺、知らねぇ。」
磨子「そうなの。蜜蜂家政婦は古い映画のリマスター版なんだって。とってもいいらしいわよ。みんなで行かない?」
健司「お、それいいねぇ!」
麻衣「私も!」
磨子「よっしゃー決まりね。」
○小口家
ラーコ城南の一室。千里、駄々をこねている。
千里「いいじゃんママ!行かせてよ!」
珠子「ダメよ。」
千里「何で?」
珠子「いけないものはいけません!」
千里「だからどうしてさ?」
珠子「コンサートも映画も高いんでしょ?家にはまだ小さい妹が二人いるんだし、せんちゃんだってまだ中学生でしょ?しかもピアノとチャールダーシュだって習ってるしお琴だって…とてもじゃないけどそんなお金ないわ。」
千里「僕のお小遣いで入れるもん。僕、この日のために7000円貯めたんだよ!」
珠子「分かったわ。じゃあパパがいいって言ったらね。」
千里「どうしてパパにも聞かなくちゃいけないのさ?」
珠子「あなたはまだ中学生でしょ?お金に係わることはパパの了解が必要なんです。」
千里、頬を膨らめる。
夕食時。小口、珠子、千里、頼子、忠子。
小口「え、チョコミントのコンサートと蜜蜂家政婦の上映に?」
珠子「そうなのよ。せんちゃんがどうしてもって駄々をこねるのよ。」
小口「いいじゃないか珠子。千里、楽しんで来い。」
千里「本当に!?パパありがとう!」
千里、小口に抱き付く。
小口「おいおい、やめなさい。」
珠子、笑う。千里、躍り舞う。
○ラーコ城南・エントランス
ホワイエ。麻衣、磨子、健司、
他人々。諏訪湖花火を見ている。千里は自宅から見物。
花火、終わる。
麻衣「磨子ちゃん、健司、始まるに!」
健司「あぁ。」
磨子「凄いわくわく!!」
○同・小口家
千里「じゃあ僕、行ってくるよ。」
珠子「気を付けてね。始まる前にはトイレ済ますのよ。」
千里「そんなこと分かってるよ。」
小口「そうだよ珠子、千里だってもう中学生なんだ。」
珠子「何時に終わるの?」
千里「10時前には終わると思うよ。」
珠子「分かったわ。終わったらすぐに戻りなさい、寄り道はダメよ。」
小口「珠子!」
千里「いってきまぁーす。」
千里、退室。
○同・エントランス
チョコミントが登場。コンサートとミーティング。千里、うっとり。
終わる。
健司「ふぇー楽しかった。」
麻衣「ふんと、磨子ちゃんありがとな。」
磨子「いやいや、こいのはみんなで見た方が楽しいからね。」
健司「さてと、帰るか?」
千里、うろうろ
健司「お?おーい!」
千里「ん?」
気が付く
千里「健司君に、みんな!」
近付く
千里「どうしたの?」
麻衣「せんちゃんこそどうしたの?」
千里「僕、このマンションに住んでるんだ。それでたまたまこのイベントあったから見に来た。」
磨子「へぇ…」
健司「そういやお前、チョコミントにお熱だもんな。」
千里「(真っ赤)やめろよ!」
麻衣、磨子、笑う。
千里「君達もチョコミントに来たんだろ?」
健司「あぁ。」
時計を見る
健司「なぁ、俺たち折角会ったんだ。ちょっと遊ぼうぜ。」
麻衣「お、いいね!」
千里「でも僕、門限が…」
健司「アパート内にいるんだもん、ちょっとくらい遅れたっていいじゃん。」
磨子「そうそう、あんたももう中学生なんだからさ。自由に遊んでいいのよ。」
千里「そうか!そうだよね!」
微笑む
千里「なら屋上の広場とかが面白いかも。行こうよ。」
四人「賛成!」
○マンション・エレベーター内
麻衣「ここって一体何階まで?結構上るのね。」
千里「確か15階じゃないかな?」
麻衣「わぁお…」
○同・屋上
ベランダ。麻衣と磨子、健司のバイオリンで踊っている。千里、ジュースを飲みながら猫と遊んでいる。
花火。
麻衣「あ、花火!」
磨子「本当だ、綺麗!」
健司「サプライズ打ち上げってやつか。」
千里「見に来てよかった。初めはママが反対してたから来れないかと思ってたけど…」
十数分後、静まる
健司「もう終わりか。」
麻衣「風も冷えてきたぁ…」
千里、震える
麻衣「せんちゃん大丈夫?」
千里「うん、大丈夫。ちょっとトイレ行きたくなっちゃっただけ。(笑う)」
磨子「じゃあ漏れちゃう前に下りまい!」
千里「(恥ずかしそう)まだ漏れないよ!」
○同・エレベーター内
麻衣、千里、健司、磨子
麻衣「ほいじゃああんたのお家も分かったで叉、遊びに来る。」
千里「うん!待ってるよ。健司君とアサちゃんもんね。」
健司「もちの…」
磨子「ろんさ。」
数分後
健司「でも、もう特区にドア開いてい筈だよな?」
麻衣「ほーいえば…」
磨子「自棄に遅いかも…」
千里「何が?」
磨子「ねぇせんちゃん、このエレベーターっていつもこんなにトロい?」
千里「僕いつも階段だから乗った事ないんだ。どうなんだろ?」
健司「でもいくらなんでもこれ遅すぎるだろ。故障か?」
千里「やめろよ、縁起でもない…」
ガタンっ。四人、びくり。電気が点滅する。千里、泣きそう。
健司「これなんか、やばくねぇか?」
麻衣・磨子「うん、うん…」
健司、緊急ボタンを押す。千里、泣き出す。遠くで火災ベルの音。
健司「やべぇぞ。火災が起きたんだ!」
千里「僕達どうなっちゃうの?」
健司「助けを呼ぶしかないだろ、方法を考えよう。」
○同・マンション内
懐仁「珠子、早く!」
珠子「あなた先にお逃げになって!」
懐仁「バカを言うな!死ぬぞ!」
珠子「死んだって構いません。それよりもあの子を探さないと…きっとあの子どこかで泣いているわ!」
懐仁、強引に珠子を引きずる
珠子「私は母親です!あなた放して、せんちゃん!ママのせんちゃん!何処にいるの!?」
火が迫る。マンション内、火の海。懐仁、泣く珠子を引きずって脱出
○同・エレベーター内
磨子「(千里を見る)ん?」
麻衣「せんちゃん?」
下腹を押さえて駆け足。
千里「も、もう漏れちゃうよぉ!」
健司「お前もっとましな事言えよな!」
千里「だって屋上からずっと我慢してたんだもん!」
健司「だったらどいで乗る前に済ましてこねぇんだよ!」
千里「こんな事になるなんて思ってもいないんだもん!」
数十分後。麻衣と健司、ぐったり。千里、トイレも限界といった様子。
千里「アサちゃん、今何時?」
磨子「今は24時ね。閉じ込められてからもう3時間も経ってる。トイレは大丈夫?」
千里「もう大丈夫じゃないよ!」
磨子「こんなところでお漏らししないでよね!」
千里「僕だってしたくないよ!」
○マンションの外
多くの人だかり。その中に柳平紅葉、田中悦、岩波幸恵、柳平けいと、小口、珠子。
紅葉「私の娘がまだマンションの中なんです!」
悦「私の娘も柳平さんの娘さんと一緒にマンションの中にいますわ!」
幸恵「私の息子もです!どうか探してください!」
柳平「今私たち警察もこの放火について動いております。」
小口「私は諏訪消防のものです。これより救出作業に向かわせていただきます。」
柳平「大丈夫ですか?」
小口「お任せください。必ず救い出します。」
紅葉「宜しくお願い致します…気を付けてください。」
小口「では…」
消防隊、マンション内に入っていく。
○エレベーター内
麻衣、意識を失う。健司、蒼白になって揺する。
健司「おいっ麻衣っ!麻衣!しっかりしろ!麻衣っ!くそぉ…」
エレベーターの扉、自然に開く。外は真っ暗。磨子、千里、健司、悲鳴をあげる。
健司「焦るなっ!」
磨子「どうすんのよ!?傾きでもしたら私達、真っ逆さまよ!?」
千里「もうダメっ…」
千里、お漏らし。ショックを受けて泣き出す。
千里「漏れちゃった…」
磨子「あらら、やっちゃった。大丈夫だに、こんな状況の中だもの仕方ないわ。」
磨子、千里を抱き寄せて慰める。麻衣、意識がない。
健司「ヤバイ、エレベーター中も火が回って来る!麻衣、麻衣、しっかりしろよ!死ぬなっ!おいっ!」
麻衣「…」
健司、目を閉じ涙が流れる。
磨子「健司、せんちゃん!」
健司、麻衣を片手で支えている。
強い振動。麻衣、手を離れる。
健司「麻衣っ!」
麻衣、エレベーターの闇の中へ落ちていく。
磨子「麻衣ちゃん!?」
千里「麻衣ちゃんっ!」
健司「麻衣ーっ!」
三人、蒼白になる。 健司、泣き叫ぶ。磨子と千里、泣き崩れる。 健司、意を決してエレベーターから飛び降りる。
千里「健司君っ!」
磨子「バカっ、あんたまで何やってんのよ!?」
小口、火の中を探し回っている。
千里と磨子、朦朧。そこへ小口。
小口「やっと見つけた。おいっおいっ!千里に磨子ちゃん!」
千里、目を開ける
千里「パパ…?」
小口「千里、しっかりしろ!分かるか?」
千里「パパ…エレベーターの下に友達が二人いるんだ。男の子と女の子がいるの…」
小口「分かった千里、その子の事も必ず助ける。待っていなさい…」
小口、千里を抱き抱えて連れ出す。
次に磨子。千里、意識が戻りつつある。
千里「パパ、パパぁ!麻衣ちゃんが!麻衣ちゃんを助けて!」
小口「大丈夫だ千里、必ず麻衣ちゃんの事も助けるからね。もうすぐ救急の人が着くから千里はママと病院に行って待っていなさい。」
小口、エレベーターの下にロープで降りていく。千里、狂乱。千里、救助隊員に連れられていく。
千里「パパぁーっ!」
意識を失う
○諏訪湖かりんの里病院・病室
千里が目を覚ます。側には珠子がいる。
珠子「良かったせんちゃん、気がついたのね。」
千里「ここ何処?僕、死んじゃったの?あの世?黄泉の国?」
珠子「何言ってるのせんちゃん!あなたは死んでなんていません。ここは病院よ。分かる?ママよ、分かる?」
千里「ママ…?」
弱々しく微笑む
千里「僕、生きてたんだね。良かった…」
ハッとする
千里「麻衣ちゃんは!?健司君は!?アサちゃんは!?」
珠子「安心して、みんな無事よ。麻衣ちゃんの事もちゃんと助けてくれたわ。」
千里「(涙を流す)良かった…ありがとう。パパ…」
はっとする
千里「パパは!?パパは何処にいるの?パパは大丈夫なの!?」
珠子「せんちゃん…(深刻な顔をする)」
千里「(表情が曇る)ママ…?」
珠子「パパね、何処にいるか分からないんですって。」
千里「え…?」
珠子、千里を抱き寄せる。
珠子「麻衣ちゃんと健司君を助けた後、パパの姿だけ行方不明なのよ。」
千里「そんな…それってまさか…」
珠子「(悲しげに首を降る)分からないわ。生きているか…亡くなってしまったか…」
千里「そんなぁ…やだっ!やだよ!パパ…パパぁ!」
珠子に顔を埋めて泣き出す
千里「僕のせいだ!僕のせいなんだ!僕がママの言うこと破って寄り道なんかしてたからこんなことになっちゃったんだ!僕がイベント終わったらまっすぐ家に帰っていればパパは無事だったのに…」
珠子「なに言ってるのせんちゃん、あなたのせいなんかじゃないわ!」
そこへ磨子、麻衣、健司。点滴を付けている。
麻衣「せんちゃん!」
磨子「せんちゃん!」
健司「千里!」
千里、涙目で三人を見る。
千里「麻衣ちゃんにアサちゃんに健司君…」
涙が込み上げる
千里「良かった。良かったよ!また会えて良かった!」
麻衣の両手をとる
千里「麻衣ちゃん、また会えて本当に嬉しいよ!ありがとう、ありがとう生きててくれて…」
麻衣「何よ、急に。」
磨子「でも麻衣ちゃん、あなたには本当に心配したんだから。」
麻衣「はぁ?」
健司「(涙笑い)ったくほーだよ。ほいなのにお前って女は、ほんな状況になってもしぶとく生きてんだもんな。大した女だぜ。」
磨子「エレベーターの下に転げ落ちたときは私達…」
泣き出す
磨子「本当に死んじゃったかと思ったんだから!」
麻衣「エレベーターの下に?私が?」
健司「覚えてない奴は罪だよな…」
磨子「そうそう。こっちはこんねに心配したっつーだに。」
千里「そうだよぉ。」
健司「でもこの一件のお陰で俺達…」
赤くなって言葉を飲む
健司「何でもない…」
磨子「何よ、話しかけたことくらいちゃんといいなさいよね。」
麻衣、磨子、健司、千里、泣きながら笑い会う。
○諏訪湖
9月。麻衣、健司、千里、磨子。花火を見ている。湖岸には多くの客。
健司「これで夏も終わりだな…」
麻衣「えぇ…」
千里「(涙を拭っている)パパ…」
磨子「元気出しな、せんちゃん。あんたのパパはとっても勇敢だった。」
麻衣、磨子、泣く千里を慰める。
花火が終わる。四人、湖岸を出る。
○ラーコ城南
焼け廃墟。千里、身震い。
千里「ここ…」
泣きそう
千里「ここでパパは死んだんだよね。」
健司「千里…」
麻衣「あんたにとっては辛い思い出の場所よね…」
磨子「いいよ、泣きたきゃ泣きな。」
千里「パパ…」
千里、泣き出す。麻衣、千里を抱き締める。
麻衣「せんちゃん…」
4人、しんみり。
○ヨットハーバー
3学期末。千里、後藤、小平、眞澄。ジュースを飲みながら。
後藤「千里、先日のテスト何点だった?」
千里「最悪…赤点さ。」
小平「点数教えろよ!」
千里「嫌だよぉ!まだママにも見せていないんだ…」
眞澄「チーちゃんのママ、怒らすと恐いからね。まぁ勉強しないチーちゃんもチーちゃんで悪いんだけどさ…」
千里「うっさいなぁ…」
後藤「いいからさ。な、教えろよ。俺たちだけの秘密にするから。」
小平「絶対笑わないって約束する。」
千里「本当に?」
二人「うん、うん。」
千里「なら…」
鞄から答案を出す。
小平「なんだお前、今持ってんじゃん。」
千里「ママに見つからないようにいつもこの中に隠してあるんだ。」
千里、答案を見せる。眞澄も覗き込む。
千里「…」
小平「音楽、満点。理科、60点。英語、89点。なんだ、いいじゃねぇーか。」
後藤「これのどこが恥ずかしいんだよ?」
千里、赤くなって下を向く。
後藤「国語、10点。数学、5点。社会科、0点!?嘘だろ!?」
小平、後藤、顔を見合わせる。眞澄、クスクス。
後藤「こりゃ俺たちより悪いや。」
小平「まるで漫画みたいな点数だな。」
眞澄「私、まさか本当にこんな点数取る採る人がいるだなんて思わなかった。」
千里、答案用紙を持って足早に退場。
○小口家
引っ越し先のアパート。玄関に珠子。
千里「(ギクリ)マ、ママ…ただいま。」
珠子「お帰り千里。なんかママに隠している事があるわね?」
千里「え?」
珠子「とぼけても無駄よ。この間のテスト見せなさい!」
千里「はい…(シュン)」
珠子、千里からテストの答案を取り上げる。千里、強く目を閉じる。
珠子「100点、60点、89点…いいじゃないの!10点、5点…0点!?」
千里「ひぃーっ!」
珠子「千里ーっ!ちょっと奥間へおいでなさい!」
○同・千里の部屋
千里、泣いている。そこへ小口頼子
頼子「千兄ちゃんどうしたの?又ママに叱られたの?」
千里「頼ちゃんか。何でもないよ…」
頼子「千兄ちゃん、元気出してね。」
焼きそばカレーパンを手渡す
頼子「これ食べて。私んのだけどあげる。」
千里「頼ちゃん、ありがとう。」
頼子、退室。千里、焼きそばパンを食べ出す
○柳平家
麻衣、紅葉、柳平。
麻衣「え、転校?」
紅葉「ごめんね麻衣、諏訪の伯母様がどうしても泊まり込みであなたに来てほしいって言うのよ。」
麻衣「なら転校なんてしなくても伯母様のところからここへ通えばいいじゃない?」
紅葉「城南から原村へどうやって毎日通学するの?」
麻衣「ほれはぁ…」
柳平「そう言う事なんだ、ごめんな麻衣。」
麻衣「(つんっとする)分かったわよ。つむとしおは?」
柳平「つむは辰野へ近隣ホームステイの交換授業で数ヵ月行く事になっているだろう?」
紅葉「しおはこのままここに残るわ。」
麻衣「ちぇっ、私一人か。で、諏訪の何処へ転校させんの?」
紅葉「諏訪中よ。」
麻衣「ふーん諏訪中ね。ん、諏訪中?」
少し考える。
麻衣「諏訪中っ!」
(フラッシュ)
千里の顔
(戻って)
麻衣M「せんちゃんと一緒になれるって訳か。ビックリするだろうな彼…」
千里「(自宅で勉強をしながら)クシュンッ!風邪かなぁ…?」
麻衣「いいわ。私、伯母様のお手伝いに行ってあげる。」
紅葉「本当にごめんね。」
麻衣「いえいえ!でも何の用事なのかしら?」
○白樺高原
麻衣、健司、磨子
健司、磨子「え、転校っ!?」
麻衣「ほーなんよ、急にしろって。」
健司「折角一緒になれたのになぁ、残念だ。」
麻衣「でも転校ったって諏訪の内だだもん。いつだって遊べるらに。」
磨子「そうか!で、今度は何処なの?」
麻衣「諏訪中よ。」
磨子「ふーん諏訪か。」
健司「諏訪中…諏訪中だとぉ!?」
麻衣「ほ、ほーよ?」
健司「じゃあお前、まさかあの千里と叉、一緒の学校になるのか?」
麻衣「ま、ほいこんなるわね。」
健司「ほいこんなるわねって…(やきもき)」
健司、立ち上がって石を湖に投げ入れる。
磨子「どうしたんよ、健司?」
健司「ベーつーに…」
麻衣、伸びをする。
麻衣「ほれにしても早いんね。
へー2月…2月?
麻衣「あ!」
麻衣、健司にプレゼントを渡す。
健司「なんだよ?」
麻衣「まいぴうからのバレンタインだに。」
健司「は?バレンタイン?」
麻衣「ほーだに。義理で。」
健司「ほ、ほんなの分かってらぁ!開けていいか?」
麻衣「いいに。」
健司、開け出す。麻衣、クスクス。
麻衣「ごたっち。やっぱりB型さんね。」
健司「おぉっ!」
健司、嬉しそうに目を見開く
健司「お、チョコレートケーキじゃん!ひょっとしてこれ手作り?」
麻衣「勿論!」
健司「わぁーサンキュウ!俺、これ大好き!いただきまぁーす。」
健司、手で持って食べ出す。
磨子「あんたさぁ、みっともないからやめなさいよ。」
麻衣「ほーほー、ほれが御曹司の食べ方ぁ?」
健司「(食べながら)うっせぇーなぁ、こういう風に食べた方が旨いんだよ!」
健司、何切れもケーキを食べる。磨子、麻衣、呆然。
健司、ワンホールを完食して満足気。
健司「んー食った食った…」
麻衣「呆れた人!ワンホールを一人で一度に食べちゃうだなんて。」
磨子「人間じゃないな…」
健司「人間じゃなくて結構。磨子、お前からは何もないのか?」
磨子「あーりーまーせんっ!誰があんたなんかにあげるのよ?義理でもお断りよ。」
健司「ちぇっ。」
腕時計を見る
健司「へー昼になるのか。さーてと、なんか腹へったな。カツカレーでも食くか!」
麻衣、磨子、健司をこずく。
麻衣、磨子「健司っ!」
健司「痛っ!」
○小口家
別の日。電話が鳴る
頼子の声「はい小口です。はい、はい、はい、千兄ちゃんですね。お待ちください。」
大声
頼子「千兄ちゃん、後藤さんって人から電話だよぉ!」
千里「後藤君?はーい…」
受話器を変わる
○上川城南
高橋家前。麻衣と高橋房恵。
麻衣「よしっと、終わった。」
房恵「麻衣ちゃん御苦労様。それでいつから来てくれるんだい?」
麻衣「新学期直前よ。来年度からは宜しくなして。」
房恵「楽しみにしてるわ。こちらこそ宜しくね。もう帰るの?お茶飲んでいきなさいよ。」
麻衣「はい!ありがとうございます!」
房恵「美味しいドボシュトルタが焼き上がったのよ。」
麻衣、房恵と共に家に入る。
直後。千里、後藤、小平。
後藤「小平、何処だよ?」
小平「あの家だよ。あれ?もういないや。」
千里「残念…」
後藤「なぁ小平、どんな子だったんだ?詳しく教えろよ。」
小平「や、俺もよくは見ていないけどさ…確か小柄で痩せてておかっぱで眼鏡をかけてたな。如何にも大和撫子って感じの子だったよ。」
後藤「あの永田眞澄とは大違いってやつか!」
小平「その通り。」
小平「北山マコにも当てはまらないぜ。」
後藤「言えてる言えてる…」
後藤「それを言うんなら鈴木真亜子も…」
千里、青ざめて二人の気を引く
後藤「なんだよ千里、お前もそう思うだろ?」
二人、笑う。千里、大きく首を振って固まる。
千里「…」
三人の後ろに眞澄、北山マコ、鈴木真亜子。
眞澄「私が何ですって…?」
真亜子「よくも言いたい放題いってくれてるじゃないか…」
マコ「いい根性してんじゃないの…」
後藤・小平「ん…(恐る恐る振り向く)」
眞澄「ちょっと、三人ともこっち来なさいっ!」
マコ「ただじゃおかないんだから!」
真亜子「ぼっこぼこのぎったぎたにしてやるわ!」
眞澄、マコ、真亜子、小平、後藤、千里を引きずっていく。
千里「僕は言ってない!僕は言ってない!何にも言ってないーっ!」
千里「僕は何も言ってないのにぃーっ!冤罪だぁーっ!」
眞澄、マコ、真亜子、三人をぎたぎたのぼこぼこにする。手を払って鼻を鳴らして去っていく。三人、くたばっている。
○原村高原中学校・教室
卒業式後。麻衣のお別れ会。麻衣、花束やプレゼントを貰っている。
麻衣「(泣きながら)ありがとうみんな、ふんとぉーにありがとう。」
清水「寂しくなるな、柳平。」
岩井木「又、原村にも遊びに来いよ。」
西脇「僕らも諏訪に遊びに行くからさ、又遊ぼうよ。」
茶目子「諏訪でいじめられんじゃないわよ。」
野々子「手紙とか電話してよね。」
麻衣「ありがとう。あんたらも元気でな。」
健司「麻衣、色々ありがとう。転校してからも磨子と叉、三人で遊ぼうな。」
麻衣「えぇ勿論。先生も今までありがとうございました。さようなら。」
小林先生「柳平さん、向こうに行っても頑張ってね。さようなら。」
麻衣、泣きながら送り出される。
○柳平家
麻衣、柳平、紅葉、柳平紡、柳平糸織。
麻衣「あーあ私、諏訪でやっていけるかしら?」
紅葉「大丈夫麻衣。あなたなら大丈夫だわ。」
柳平「あぁ。もし何かあればすぐに飛んで行くさ。」
紡「ほーだに。学校が違うったってさ、私達遠く行くわけじゃないだだもん。会いたくなりゃ電車でディンディーンと、な。」
糸織「ほーだに。僕はこのまま原村にいるしさ。」
麻衣「みんな…」
紡「なに泣いてるんよあんたは。この泣き虫麻衣!」
車の音。
紅葉「あ、いらしたかしら?」
けいと「おぉ、これはこれは!今日から麻衣がお世話になります。どうしようもない娘ですが面倒見てやってください。」
房恵「いえいえ。麻衣ちゃんはとてもいい娘さんですわ。それでは暫くお借り致しますわね。では麻衣ちゃん…」
麻衣「はい、伯母様!」
紡「気を付けてなぁ!」
糸織「辛くなったらいつでも戻ってこいよぉーっ!」
紅葉「くれぐれも体には気を付けて。伯母様の言う事きちんと聞くのよ。いい?」
麻衣「勿論よ。」
柳平「それでは…」
房恵「はい。では麻衣ちゃん、そろそろ参りましょう。」
麻衣「えぇ、宜しくお願いします。」
麻衣、房惠、車に乗り込む。車、走り出す。
○岩波家・健司の部屋
健司、バイオリンを弾いている。
健司M「麻衣…俺、お前の事好きんなっちまったかもしれないんだ。お前が俺を助けてくれたあの日から…」