『石楠花物語中3時代』
○小口家・寝室
大晦日。小口千里、熟睡。目覚まし時計がなる。
千里「んーっ…」
薄目を開ける。
千里「何、もう朝?」
時計を見る。
千里「何だよ、まだ3時半じゃん…」
そこへ小口珠子。
珠子「せんちゃん起きた?起きたわね!」
千里「ママ?何だよこんな時間に。まだ夜じゃん。」
珠子「今日は大晦日でしょ?大晦日と言えば?」
千里「大晦日と言えば?あぁ。」
うとうと
千里「丸上鮮魚店の朝市か…」
寝入る。珠子、布団を剥ぎ取る。
珠子「こらっ又寝るな!」
千里、震えて縮こまる。
珠子「今年も…」
不気味にニヤリ
珠子「勿論行ってくれるわよね?」
千里「えーっ!?」
眠そうに欠伸、起き上がる。
○丸上鮮魚店
4時。駐車場。千里、震えながら買い物かごを持って行列に並ぶ。
千里M「ふーっ寒い。大晦日なんて大嫌いだ…。」
千里N「この大晦日の寒空の下、毎年僕は開店までこの行列に並ばされる。」
震えながらもじもじ。
千里N「たかが年末恒例朝市のためだけに。」
腕時計を見る。4時半。
千里「あと30分か。」
千里N「でも一つだけ僕にも楽しみもあるの。ママがお駄賃として僕に好きな物買ってきていいって言ってくれてるんだ。だから僕はいつも…」
5時。開店。千里、人の波に押されて入っていく。
店の中。千里、オードブルセットを手に取る。
千里N「これが僕の大好物、この時期限定の丸高名物マグロ料理のオードブルセットさ。これがすっごく美味しいの。」
他の買い物をする
千里N「中学生になる年、パパが初めて買ってきてくれた時から僕の大好物。」
レジ。
千里「お願いしまぁーす!!」
○小口家・台所
千里「ただいまぁ!!」
珠子の声「せんちゃんお帰り、ご苦労様。朝ごはん出来てるわよ。」
千里「うー寒いっ。」
欠伸。
千里「僕、少し寝るからご飯はまだいいや。」
台所を出ていく。
珠子「こらっせんちゃんっ!んもぉっ。」
鼻を鳴らして食卓に着く。
珠子「いただきまぁーす…。」
朝七時。
千里の部屋
千里、ベッドに入って眠っている。
○高橋家・麻衣の部屋
麻衣、目覚める。
麻衣「んーよく寝たぁ。いま何時?」
時計を見る。
麻衣「七時か。ぼちぼち起きよう…」
布団を出てガウンを脱ぐ。
麻衣「ふー寒っ。」
○同・台所
房恵、食事の支度をしている。
麻衣「伯母様おはよう。」
房恵「あら、麻衣ちゃんおはよう。今日も早いわね。年末年始くらいもっと眠ってても良かったのに。」
麻衣「何かへー目が覚めちゃった。ご飯食べます。」
房恵「そう?なら一緒に食べましょ。」
麻衣「はい。」
二人、食べ出す。
房恵「でも麻衣ちゃん、大丈夫なの?」
麻衣「何がです?」
房恵「寂しくない?お正月くらいご実家に帰って良かったのよ。」
麻衣「いえ、大丈夫。ほいだって伯母様と年末年始を過ごせるなんてそう出来ないもの。静かな大晦日の朝っていいな、家にいると煩くて。」
房恵「麻衣ちゃん。」
笑う。
房恵「お味噌汁のお代わりいる?」
麻衣「あ、ありがとう。お願いしまぁーす!!」
二人、お茶を飲んでいる。電話が鳴る。
麻衣「あ、」
房恵「いいわよ麻衣ちゃん。私が出る。」
出る。
房恵「はい、高橋にございますが?あらまぁ。はいはい、おりますよ。ちょっとお待ちくださいね。」
麻衣「誰から?」
房恵「麻衣ちゃんのお母様よ。」
麻衣「うちの母さん?こんねに朝っぱらからどーしたっつーだら?」
代わる。
麻衣「はーいっ、おはようございます。代わりました、麻衣です。」
柳平紅葉の声「麻衣?はーるかぶりね。」
麻衣「母さんどーしたんです?」
紅葉「あのね麻衣、急で又申し訳ないんだけどね…」
麻衣「はい?」
麻衣、電話を切って戻る。
房恵「麻衣ちゃん、お母さん何だって?」
麻衣「おば様、ふんとぉーにごめんなさい。ほれがな…」
話をする。
房恵「え?まぁ!又あんた転校かい?」
麻衣「えぇ、仕方ないわ。」
房恵「で?次はどこへ?理由は何なんだい?」
麻衣「今度は母さんが金沢のおば様の家で働く事になったの。ほいで広いお家だで家族全員でおいでといって下さったので行くんですよ。」
房恵「まぁ!今度は北陸まで出ちまうのかい?寂しくなるよ。」
麻衣「おば様、何いっているんですか!違うに決まっています。茅野市の金沢地区ですよ。」
房恵「何だ、ビックリしたよ。私ゃ、麻衣ちゃんが今度は県外へ出ちまうかと思った。」
麻衣、笑う
麻衣「私、県外には親戚はいませんよ。いたとしてもハンガリーだけ。」
房惠「それなら良かった。だったら又、いつでも会えるね。でもあんた、その内にハンガリー行っちまうだなんて言わないだろうね?」
麻衣「安心して。今のところ予定ないわ。」
房惠「そうか。そりゃ良かった。転校しても遊びにおいで。」
麻衣「嫌だわ伯母様、ほれじゃあへー別れの挨拶みたい!」
房恵「いつからいっちまうんだい?」
麻衣「多分春休み明けでしょう。でも今度は」
嬉しそう。
麻衣「私一人じゃないから嬉しいわ!」
二人、笑う。
○岩波家
岩波茂、岩波幸恵、岩波悟、大掃除をしている。
岩波「健司はどうした?」
幸恵「さぁね…」
悟「あぁ、あいつならまだ寝てるよ。」
時間を見る。
悟「へー9時になるぜ。お袋、起こした方がいい?」
幸恵「休みだからっていつまでも寝てて仕方のない子ねぇ。」
階段を上っていく。
○同・健司の部屋
健司、ベッドに熟睡。幸恵、布団を剥がして健司をベッドから転げ落とす。
健司「痛っ!」
驚いてキョロキョロ
健司「何だお袋か。痛ぇじゃねぇーか!?」
幸恵「何なんだよじゃありません!今、何時だと思っているの?早く起きなさい!」
健司「うっせぇーな。今は冬休みなんだし、しかも大晦日だろ?年末年始くれぇゆっくりと寝かせてくれよ。」
幸恵「普段から休みっていったらお昼まで寝ている人は誰でしたっけ?せめて年末年始位は早く起きて貰いたいわ。ほら大掃除よ。お兄ちゃんもやってるのよ。あんたも早く着替えて家の事をやってちょうだい、分かったわね。」
健司「ほーい。」
幸恵、退室。健司、めんどくさそうに舌打ち。幸恵の後ろ姿を恨めしそうに睨み付けながら着替え。
○同・台所
健司、欠伸をしながら入ってくる。
悟「おいタケっ!!お前いつまで寝ているんだ、遅いぞ。」
健司「大晦日くらいもう少し寝かせろっつーの。」
お腹が鳴る。
健司「あー腹へった。お袋、朝ごはんは?」
幸恵「色々とあるでしょ?自分で装って食べなさい。」
健司「チェッ。」
岩波「お前が遅いからへー片付けちまったんだ。自分でやるのが嫌だったら朝早く起きて家族で揃って食べるようにしなさい。」
健司「ほーいっ。」
健司、朝食の準備している。
○小口家・千里の部屋
千里、伸びをして起きる。
千里「ふぁーよく寝たぁ。」
目覚まし時計を見て青ざめる。
千里「嘘だろ?どうしよう…」
正午。鐘が鳴っている。千里、頭を抱える。
千里「年末年始早々お説教されちゃうよぉ…」
肩を落としながら着替え。
千里「ふーっ寒い。早くご飯食べて暖まろっと。」
退室。
○同・台所
珠子、夕子、頼子、忠子。お昼を食べている。そこへ千里。
千里「おはよ…」
夕子「何がおはようだよ!!」
千里「ひぃっ」
夕子「あんた二度寝したんだってね。全く呆れた人だよあんたって子は!ほれ、書き初めはやったのかい?」
千里「書き初めはは二日だろ…」
夕子「冬休みの宿題は?」
千里「うるさいなぁ!年末年始くらい宿題や勉強の話は頼むからしないでくれよ!」
レモンティーを一杯一気飲み。
千里「冬休み中やるのは嫌だからね、そんなのもうとっくに済ましたさ。」
自信満々。
千里「とにかくママ、もう僕お腹ペコペコ。お昼は何?」
珠子「クルミのお汁粉よ。」
千里「やったぁ!美味しそう。」
珠子「せんちゃん、あなたお餅いくつ入れる?」
千里「んとねぇ、3つかな?いや、4つ。」
夕子「よくばっちゃいけないよ。まずは2つにしときな。」
千里「大丈夫だって!」
夕子「新年早々お腹痛めたって知らないよ。見てやんないからね。」
千里、嬉しそうにお汁粉を頬張る。
夕子「今日は大阪からお前の叔父が来るからね。きちんとおし。」
千里「寧々叔父さん?やったぁ!」
夕子、千里を睨む。千里、びくり。
千里「はいっ。」
夜。鐘が鳴る。
○小口家・千里の部屋
千里、勉強をしながら頭を悩ませている。
千里M「あーあ進路か。僕、何になりたいんだろう?方向性は色々あるんだけどな。」
千里M「バレエとピアノは大好き。でも仕事に出来るほど実力ないし…服飾とか料理もありかな?パパを次いで消防士さんに、いやいやいやこりゃどう考えたって僕には無理だろうな。」
時計がなる。
千里「しまった!勉強をすっかり忘れてた。タイムリミット…5問も解けてないじゃん。これじゃあ又叔母さんに叱られる。」
震え上がる。
千里「大体こんなんじゃあ僕、高校すら入れないかもしれないよ。」
部屋を出ていく。
電話。
千里「あ、」
受話器を取る。
千里「はい、こちら小口…」
嬉しそう
千里「麻衣ちゃん!」
麻衣の声「せんちゃん、これから空いてる?」
千里「うん、空いてるけど?」
麻衣「だったらこれから私のお家へ来ない?かりんのトルタを作ったのよ。」
千里「わぁ本当に?行く行く行く!!絶対に行くっ!」
有頂天で家を出ていく。
○高橋家
チャイム。
千里の声「麻衣ちゃん来たよぉ!」
麻衣「はーい!」
千里が入ってくる。
麻衣「いらっしゃい。さぁ、上がって。」
千里「ありがとう、お邪魔します。」
○同・麻衣の部屋
麻衣「どうぞ。」
千里「うんっ!!」
畳に座る。
麻衣「ちょっと待っててね、お茶用意するわ。」
退室。千里、キョロキョロ
麻衣、お茶の支度をしている。
千里M「彼女、本が好きなんだな。色々ある…」
そこへ麻衣。
千里「あ。」
麻衣「どうぞ。出来立てのかりん水と初物のかりんで作ったんよ。お口に会うかどうか分からんけど食べてみて。」
千里「やったぁ!いただきまぁーすっ!」
食べる。
千里「ん、すっごく美味しい!」
麻衣「良かったわ。どんどん食べてね。はい、」
お茶をつぐ。
麻衣「ほしてこれはかりんの紅茶だに。これも今年初物のかりん水で作ったの。」
千里「うわぁーっ!」
ごくごく
千里「どれもすっごく美味しい!お代わり!」
麻衣「はーい!」
千里、どんどん紅茶を飲む。
千里「僕、フルーツの紅茶にはまっちゃいそうだよ。」
麻衣「ほれは良かった。」
トランプを取り出す。
麻衣「トランプでもやる?」
千里「二人で?」
麻衣「ほれもほーよね、なら折角だわ。みんなも呼ぼう!!」
十数分後。眞澄、マコ、真亜子、後藤、小平が加わる。
数時間後
麻衣「楽しかった!なぁ、ところでみんな…」
眞澄「何?」
麻衣「私、みんなに言いたいことがあるの。」
マコ「言いたい事?」
麻衣「えぇ…」
真亜子「どんなこと?」
後藤「早く言ってみろよ。」
小平「そうだよ…」
麻衣「では言います。実はな…」
話し出す。
他六人「えー?転校ー?」
麻衣「ごめんな急で。」
眞澄「で、何処に行くのさ?」
麻衣「南諏訪だに、茅野の。」
真亜子「茅野か。少し遠くなっちゃうね。」
麻衣「でもすぐお隣で、諏訪圏の内だし。又会おうと思えばすぐに会えるに。だでいつでも遊ぼ。」
千里、俯いて寂しげ
麻衣「せんちゃん…」
千里「いつ?」
麻衣「三学期中はずっとおる。来春からよ。」
察する。
麻衣「みんな。せんちゃんはみんなが思っている以上に傷つきやすくて落ち込みやすいの。だからどうか、どうか彼を守ってあげて。友達なら何があっても、どんな時でも支えてあげて。」
千里「麻衣ちゃん…」
麻衣「もし彼を泣かせるような事をしたらこの柳平麻衣が黙っちゃいないに!分かった?」
眞澄、マコ、真亜子、小平、後藤、びくりと麻衣を見つめる。
麻衣「レイミーテンデ?」
千里、寂しそうに俯いている。
夕方。玄関で別れて帰っていく。
○柳平家
柳平麻衣(15)、押し入れの整理。
麻衣「ん?」
古い冊子を手に取る
麻衣「何これ?」
読み出す。
○諏訪城南中学校・教室
卒業式
藤森明美先生「と言うわけで、本年をもって柳平麻衣さんは南諏訪茅野中学校へ転校する事となりました。」
麻衣「たったの一年間でしたがありがとうございました。とっても楽しかったです。」
藤森先生「こちらこそ。柳平さん、向こうに行っても頑張ってね。」
麻衣「はい。それと先生、一つお願いいいですか?」
藤森先生「何ですか?」
麻衣「小口千里君の事なんです。」
千里M「え?」
麻衣「彼、遅刻ばっかりで忘れ物ばっかりだけど、決して人をいじめたり傷つけたりしないとても優しい人なんです。それどころかとても涙脆いし傷付きやすいの。だからどうか、学校にいる時は先生とみんなが彼を支えてあげてください。そしてもし、去年の初めの様な事があっても彼を怒らないで下さい。(深々お辞儀)宜しくお願いします。」
千里、泣きそう
藤森先生「(微笑む)分かったわ、柳平さんは優しいのね。出来る限り先生も小口君を支えます。しかし…」
千里を見る
藤森先生「あなたが本当に悪い時は今まで通り叱りますし、今年からは昇降口に立たせますからね!」
千里「ひぃぃ!」
全員、笑う。
○高橋家
柳平けいと、紅葉、麻衣、房惠
紅葉「房惠さん、本当に一年間ありがとうございました。」
房惠「いえいえ、お礼を言うのは私ですよ。本当に助かりました。」
柳平けいと「房惠さん、叉こちらにもお寄りください。」
房惠「そうさせていただきます。」
麻衣を見る
房惠「麻衣ちゃん、本当に行っちゃうのかい?寂しくなるよ。」
麻衣「私も。でも伯母様、叉遊びに来るわ!」
車に乗る。
車、出ていく。麻衣と房惠、手を振り合う。
麻衣の声「ねぇ母さん。しおやつむたちは?」
紅葉の声「もう金沢の家にいるわ。」
○同・千里の部屋
千里、ベッドに泣き伏せる。
千里M「麻衣ちゃんが転校しちゃうなんて、もう学校で毎日会うこと出来ないんだ。寂しいよ、麻衣ちゃん。」
○諏訪城南中学校・教室
藤森先生「それでは今日は諏訪六芸術祭についてお話をしたいと思います。」
千里、ぼわーっとしている。
藤森先生「我がクラスは…」
千里を見る。
藤森先生「小口君?ちょっと、小口千里君!」
千里「んー…」
虚ろ
藤森先生「あなたは、一度痛い目に遭わなくちゃ分かりませんか?」
千里を立たせ、お尻を思いっきり叩く。
千里「痛い!」
藤森先生を見る。
千里「藤森先生…」
藤森先生「今年であなたは3年生なのよ!受験生なのよ!それなのにどうするの?」
千里を真っ直ぐ立たす。
藤森先生「はいっ。先生は何のお話をしていたか聞いていましたか?」
千里「ごめんなさい、分かりません。」
藤森先生、鼻を鳴らす。
藤森先生「はい、分かりません。」
千里を睨み付ける。
藤森先生「やる気がないのなら…」
大声
藤森先生「廊下に立ってなさい!」
千里「はいぃっ!廊下に立ってます!」
慌てて出ていく。
○同・廊下
バケツを一つ、頭の上で持って立っている。教室に目をやる。
藤森先生の声「それではね」
説明をしている。
千里「芸術祭?」
盗み聞き
千里M「え…」
目を見開く
千里M「僕らのクラスも出るの?何やるんだ?」
千里、バケツの水を溢す。
○南諏訪中学校・教室
小平百恵先生
小平先生「と言うわけで転校生が入って早々ですが、芸術祭について話をしたいと思います。」
麻衣「芸術祭?」
小平先生「今年の終わりに諏訪六市町村芸術祭というイベントがあります。そこに私たちも出る事となりました。演目は…」
○同・帰り道
麻衣、伊藤すみれ、佐藤加奈江、大寺八千代、高橋司、宮澤達弥、向山俊也
高橋「配役かぁ…」
宮澤「演奏じゃなくて劇をやる事になったのか。」
麻衣「ジプシーの夢か。チャールダーシュの作品よね。」
すみれ「麻衣、よく知っているわね。」
麻衣「チャールダーシュ教室の発表会でやった事があるのよ。」
すみれ、加奈江「おぉ!!」
すみれ「あなたチャールダーシュ踊れるの?」
麻衣「少しな。」
加奈江「みんな何をやるか決まった?」
高橋「俺は勿論…」
気障っぽく
高橋「決まってるだろ、主役さ。」
宮澤「狡い!ヒーローは僕がやるんだ!」
向山「いや、俺だ!」
加奈江「向山、あんたはやりたいんだったら痩せろ!」
男子たち、揉め合う。
すみれ「麻衣は?」
加奈江「チャールダーシュが踊れるんなら勿論、ヒロインじゃろうなぁ。」
麻衣「バカはよして!」
すみれ「あなた可愛いし、一番主役には相応しいわよ。」
麻衣「嫌よ主役なんて!」
しっかりと
麻衣「でも何の役になろうとやるからには精一杯頑張らなくっちゃね!」
加奈江「そうね。」
すみれ「しっかり練習しなくっちゃ。」
帰っていく。
○柳平家・和室
麻衣、チャールダーシュを熱演中。
麻衣M「とか言いながら、主役のオーディション受けようとしとる私だったりして…」
○小口家・千里の部屋
千里、ピアノを弾いている。
千里M「うちのクラスは演奏か。」
嬉しそう
千里M「しかも真っ先に僕、ピアノに決まっちゃって!」
躍り廻る。
千里「せんちゃんとっても幸せ!」
珠子「せんちゃーん?」
入ってくる。
珠子「せんちゃんお茶…」
固まる。
珠子「あなた、何やってるの?」
千里「え、あの…いや…」
ばつが悪そう。
○縄文キッチン原村
麻衣、健司、田中磨子、リータ。食事をしている。
健司「芸術祭?」
磨子「何それ?」
麻衣「二人んとこは出んのね。」
リータ「あぁ。」
麻衣「私んとこはそれで演劇をやるんだけどさ…」
健司「んむ。」
健司、チーズとサラミを食べている。
麻衣「ちょっとあんた、ほんねに食べて大丈夫だだ?」
健司「ん、大丈夫、大丈夫!」
磨子「お腹痛くするわよ。」
健司「あのなぁ…」
目を細めて磨子を見る。
健司「俺の腹はほんねに柔じゃねぇーんだよ。」
食べ続ける。
磨子「ふんっ、後でどーなったって知らないんだで。助けちゃやんねぇーよ。」
リータ「そうそう。人の忠告聞かないあんたが悪いんだ。」
健司「ふーんだ、いいもーんっ。俺は大丈夫だもん。」
麻衣「呆れた!」
磨子「ところで麻衣ちゃん?」
麻衣「ん?」
磨子「今言おうとしてた事って何?」
麻衣「あぁ。実は私、みんなにお願いがあるの。ほいだもんで明日、私と一緒に来てほしいところがあるのよ。付き合ってくれる?」
磨子「いいけど。」
健司「何処行くんだ?」
○岩波家
呼び鈴。
磨子「健司、おはよう。迎えに来たに。」
麻衣「健司?」
リータ「おーい健司坊っちゃん!」
三人、顔を見合わせる。
健司、お腹を押さえながら出てくる。
健司「うーっ…みんなおはよ。」
磨子「ちょっとあんた、どーしただ?」
麻衣「具合悪そうね。」
健司「麻衣、悪い…」
リータ「どーしたんだよ?」
健司の腹を思いっきり蹴る。
健司「痛っ!やめろよ!」
リータ「ひょっとして、腹痛い?」
健司「ひょっとしなくても腹痛いよ。だで今日は3人で行ってくれ。」
磨子「はぁーっ?」
健司、トイレに駆け込む。3人、やれやれ。
磨子「バカな男。」
リータ「ほーれ、言わんこっちゃない。」
麻衣「んだんだ自業自得。」
磨子「言うこん聞かんのが悪いんよ。」
三人「お邪魔しましたぁ!」
健司の家を去る。
○同・トイレ
健司、便座に座っている
健司M「なんつう友達概のねぇやつらなんだ。ううぅっ…」
○アールカサール跡地
麻衣、磨子、リータ
麻衣「後から私の友達も来るわ。」
目を輝かせる。
麻衣「それにしても凄い、まだ建物も残っているのね。」
磨子「本当、重みを感じるわ。」
リータ「ハンガリーを思い出すよ。」
麻衣「私も。」
そこへ後藤秀明、小平海里、丸山修、千里。
後藤「やっと着いた。ここか?」
小平「で、あいつは何処にいるんだ?」
千里「あいつって?」
小平「いたいた。おーい!!」
麻衣「ん、おーい!」
千里「え?」
紅くなる
千里「あ…」
後藤「柳平になんか話があるって呼ばれたんだよ。」
にやにや
後藤「良かったな千里、ガールフレンドだぞ。」
小平「でも、急に何だ?俺達を呼ぶなんて。」
麻衣「ちょっとね。無理を承知でお願いしたい事があって。とりあえずアールカサールに入ってみまい。そこでゆっくり話す。」
○アールカサール内
磨子「麻衣ちゃん、話してよ。」
麻衣「えぇ、実は諏訪の芸術祭の事なんだけんど。」
後藤「芸術祭?ほれなら俺たちのクラス出るぜ。」
麻衣「本当?私達も出るのよ。」
小平「マジで?」
小平「ってより、話くらいなら他の喫茶店や公園とかでも出来たんじゃねぇの?なんでわざわざこんなところなの?」
麻衣「このアールカサール、私の祖母のいた劇場だったからよ。」
千里「君のお婆ちゃんが?」
後藤「どういう事だ?」
麻衣「これよ。」
冊子を見せる
麻衣「私の祖母は戦前戦後、日本で一世を風靡したジプシープリンセスでチャールダーシュの花形ロマだったのよ。これは当時のチャールダーシュ劇のシナリオ。部屋を整理してたら出てきたの。」
麻衣「調べてみたら今やこの劇は幻となっていて、台本もないし他に誰も演じる事が出来ないため、再演されないまま忘れ去られてしまったとっても貴重なものなんですって。だから私、この台本を元に劇を再現してみたいの。」
小平「それで俺たちにも力を貸してほしいってか。」
麻衣「やっぱり無理よね。」
小平「いや、いいよ。面白そうじゃん!」
後藤「俺、やるよ。」
小平「俺もやる。」
磨子「私も。」
リータ「面白い事なら私も協力してやるよ。」
麻衣「みんなありがとう。」
千里、恐る恐る手をあげる
千里「僕もいいかな?」
麻衣「とっても嬉しい!」
小平「台本見せてくれるか?」
台本を見る
小平「こりゃ劣化激しいな。」
後藤「殆ど読めない。」
千里「だったら僕が何とかしてみるよ。」
麻衣「あんたが?」
千里「任せておいて。」
足音が聞こえる。
千里「ん?」
磨子「誰か来る?」
リータ「誰だろ?」
7人、キョロキョロ。
中央ステージ。女性が一人、チャールダーシュを踊る。途中、青年が現れて共に踊る。
7人、じっと見つめている。若い男女は踊り続ける。
○同・外
7人が出てくる。
丸山「何だったんだろ?」
小平「幻かな?」
磨子「なんか凄く素敵だったわね。」
千里「僕、泣いちゃったよ…」
涙を拭う。
麻衣「私も感動しちゃった…」
リータ「んも。二人とも泣き虫なんだなぁ!」
微笑む。
リータ「ひょっとしてこの劇もあんな風になるのかも。だとしたら素敵だよな。」
千里「是非再演してみたい!僕らの手で。」
全員「うんっ!」
鐘が鳴る
リータ「あ。」
腕時計を見る。
リータ「うおっ、もうこんな時間か?」
小平「急いで帰らなくっちゃ!」
後藤「母ちゃんに怒られる。」
7人、走り出す。
○小口家
千里「ただいまぁ。」
夕子「千里っ!」
夕子、仁王立ちをしている。
夕子「先に宿題をしろと言っただろう!」
千里「ごめんなさい。でも今日は待ち合わせがあって…」
夕子「言い訳はなし!早くおやりっ!」
千里「はい…」
夕子「終わるまで夕飯はなしだからね。」
珠子が出てくる。
夕子「母さんに助けを求めてもダメだよ。」
珠子「そうよせんちゃん。勉強に関してはママもせんちゃんの味方はしてあげられませんよ。叔母さんの言う通り、夕食前におやりなさい。」
千里「はーい…」
千里、不貞腐れて部屋に入る。
○同・千里の部屋
千里、台本を見る。
千里「ピアノにジプシー劇か。よしっ頑張るぞ!!」
パソコンを開いて打ち出す。
○アールカサールの中
健司「話は麻衣と磨子から聞いてる。俺は麻衣と磨子そして千里と幼馴染みの岩波健司です。」
後藤「お、よろしく。俺、後藤秀明。」
小平「小平海里。仲良くしよう。」
丸山「丸山修、よろしく。」
後藤「ってこんで全員揃ったな?」
全員、頷く。
後藤「今日から俺達はアールカサール劇団だ。」
麻衣「アールカサール劇団?」
小平「そう。折角やるんだからなんかいい名前考えて芸術祭に出ようぜ。」
健司「そこでこれを演じるって訳だな。」
麻衣「わぁ素敵!出場しましょうよ!」
健司「賛成!」
リータ「異議なし。」
磨子「私も!」
千里「僕も!」
微笑んで冊子を見せる
千里「台本、出来たよ。」
麻衣「え、こんなに早く?」
捲っていく
麻衣「凄いわ、でもどうして?」
千里「さぁどうしてでしょう?」
千里、悪戯っぽく意味深
丸山「台本が読める様になったなら練習が始められるって事だよね。」
後藤「誰が何役だ?」
小平「そりゃもう、主役は決まっているだろうさ。」
悪戯っぽく千里と麻衣を見る
小平「ヒロインは勿論、再演をしたいっていった柳平だろ?主演男優は台本の復元をした千里だ。」
麻衣と千里、顔を見合わす。千里、ドキリ
千里「と言うことは君が?」
麻衣「ほ。あんたのお嫁さん役よ。」
千里、泣き出しそうになる。麻衣、にっこり
麻衣「異議なし!」
後藤「(小声)よかったな千里。お前の嫁さんだとよ。」
小平「じゃあ早速ステージに上がって読み合わせしようぜ。」
全員「賛成ー!」
***
芸術祭まで三ヶ月。
小平「あれ、そういやタケのやつは?」
磨子「あ、あいつ?あいつならダウンして寝てる。」
小平「は、なんで?」
麻衣「叉も腹壊したんだとさ。」
小平「ったく、この大事な時に!」
後藤「まぁいいよ。あいつ主役じゃないんだし台詞や歌も少ないでなんとかなるんじゃね?」
丸山「そうだね。彼、頭いいし。」
小平「んじゃ練習始めようか?」
千里「待って!」
小平「ん、何だ?」
千里「ここってさ…」
千里「(小声)トイレ何処?」
小平「トイレ?」
後藤「さぁ?」
千里「えぇ?」
丸山「トイレ行きたい?」
外を指す。
丸山「もしどうしてもダメそうなら、ん。」
千里「え…」
顔をしかめる
後藤「それじゃあ、みんないいか?練習始めるぞ!」
5時。鐘が鳴る
後藤「5時か。でも後もうちょっとだ、最後までやっちゃお。後は最後の…」
有頂天
後藤「千里と柳平のフリシュカだけだから。」
他メンバー大歓声。
麻衣、一人で踊る。そこへ千里。
終わる。麻衣、満面の笑み。歓声と大拍手。
千里、しゃがんで麻衣をお姫様抱っこ。俯いて啜り泣く。
麻衣「せんちゃんどうした?」
千里「麻衣ちゃん、ごめん。」
麻衣「え?」
レオタードと千里を見る
麻衣「ちょっと大丈夫?」
千里「ごめん、本当にごめん。」
麻衣「いえ、私のこんはいいけど…」
泣き出す千里を慰める麻衣。
麻衣「泣かないでせんちゃん…」
千里「うっ、うっ…」
麻衣「早いとこ帰ろ。あんたが風邪引いちゃう」
千里「怒ってないの?」
麻衣「何怒るこんがあらずけやぁ?」
千里「だって僕、君に最低な事をしてしまったんだよ。」
膝に顔を埋めて泣き出す。
麻衣「わざとではないもの。私はあんたを責める事もなければ怒ってもいないに。」
後藤「やっぱ柳平だな。お前みたいな優しい女、俺見た事ないぜ。」
小平「俺も。そんな事言われたら男なら誰だって好きんなっちまうよな。」
丸山「もしこれが永田や北山、鈴木なら千里のやつぼこぼこにされてたよな。」
小平、後藤、丸山「言える言える。」
○諏訪城南中学校・教室
千里、落ち込んで机に突っ伏せている。
後藤「千里、元気出せよ。」
小平「そんねに心配しなくても大丈夫だって。柳平もあんな風に言ってくれてたじゃんか。」
千里「僕がいると昔からいつもろくな事にならないんだ。僕はいつも何かこうかトラブルばかり起こしていつもみんなに迷惑をかけてる。特に麻衣ちゃんにはそう…」
後藤「そんな事ないって。もし例えそうだったとしても、俺たちもみんなお前の事責めたりしないよ。柳平だって。」
千里「いつも優しくて決して怒らない。怒るどころかこんな僕を支えてくれる…」
大泣き
千里「だから余計に申し訳ないんだよ!本当は僕を殴りたい気持ちを、僕が弱々でダメダメだから、僕を傷つけない様に隠してくれているんじゃないかって…」
後藤、小平、顔を見合わす。
千里「僕みたいなのがいない方がみんな集中して練習出来るだろ。だから僕は降りる。」
後藤、小平「はぁ!?」
○アールカサール跡地
アールカサール劇団。
麻衣「せんちゃん、どうしたのかしら?」
健司「ほういやあいつ最近見ないよな。」
磨子「具合でも悪いんじゃない?最近、夏風邪流行ってるし。」
小平「いや、学校には毎日来てるぜ。」
麻衣「本当に?じゃあ小平、なんか知らない?彼に何か変わった事とか。」
小平「あるよ。」
麻衣「はぁ!?あるなら早くそれ言いなさいよ!」
小平「柳平に関する事なんだ。」
麻衣「私に?」
○小口家・千里の部屋
千里、塞ぎ混んでいる
小平N「や、千里のやつ何かお前に負い目を感じているみたいでさ。」
麻衣N「どいでよ?」
小平N「あいつが言うには…」
○アールカサール跡地
麻衣「はぁ何ほれ?せんちゃんがほんな事を?」
小平「だもんであいつ、お前やみんなの足手まといになるもんで役を降りるって言ってた。」
健司「というこんは?」
後藤「最悪、本番もタケが主役をやるってこんだな。」
健司「お!」
小平「ほいじゃあ、練習始めるぞ。」
麻衣「せんちゃん、」
健司、踊りながら麻衣を気にする。
終わる。
健司「なぁ麻衣。」
手を引く
健司「ちょっと…」
麻衣「何よ!」
森の中
健司「麻衣、お前このまま千里を放っておくのか?戻って欲しくないか?」
麻衣「ほりゃ私だって叉彼に戻って貰いたいわよ。一緒に演じたいわよ。」
健司「だったらあいつの家に行って説得してきてくれよ!俺、この数週間千里の代役で主役を演じてきた。初めは嬉しくて、このままあいつがいなけりゃ本番も俺が主役を出来るって思ってたよ。でもやっぱり違うんだ。主役はあいつじゃないといけないんだよ。なぁ麻衣、俺やみんなのためにもあいつを説得してきてくれよ。みんな千里を待っているんだって。」
麻衣「だったらあんたがいけばいいでしょう、せんちゃんの家も知っているんだから。」
健司「お前じゃないといけないんだよ!」
麻衣「ほいだってせんちゃんは…あんただって小平の話聞いたらに、せんちゃんは私に会う事を避けているのよ。だから私が行けば余計に彼を傷つけちゃう。
麻衣M「あ!だったらもしかして私が降りれば彼は戻ってくれるかも。だからもし…」
健司「あいつが本当にそう思っていると思うか?」
麻衣「え?」
健司「お前、あいつの事なら何でもよく分かっているくせにそれはわ分かんねぇのか?」
強く
健司「今のあいつに一番よく聞く薬はお前なんだよ。お前のいつもの優しさが必要なんだよ。お前の優しさはお前にしか出来ないんだ!」
麻衣「健司…」
○小口家・和室
日向。千里、膝を抱えている。
珠子「せんちゃん?」
近づく。
珠子「最近ずっと練習行ってないみたいだけどいいの?」
千里「いいの。」
珠子「どうして?」
千里「役降りたから…」
珠子「えぇ?だってあなた主演だったんでしょ?」
千里「そうだよ。だからこそ降りたんだ。僕に主演が勤まりっこないもの…」
珠子「あの事気にしてる?」
千里「え?」
珠子「数週間前のあの事?」
千里「…」
珠子「やっぱり。そんなの気にしなくても大丈夫よ。」
千里「でも僕は!」
呼び鈴。
珠子「あら?ちょっと待っててね。はい。」
○同・玄関
珠子「あら、麻衣ちゃんいらっしゃい。どうしたの?」
麻衣「せんちゃんどうしていますか?彼、ずっと練習に来ていないし友達から降りるなんて話も聞いたので心配で…」
珠子「ありがとう。せんちゃん、せんちゃん、麻衣ちゃんが心配して来てくださったわよ。」
千里M「え、麻衣ちゃん?」
俯く。
珠子「これっ千里!」
千里、顔を伏せながら出てくる。
麻衣「せんちゃん大丈夫?」
千里「麻衣ちゃん、僕は君に…」
麻衣、言葉を遮る
麻衣「へー謝らないで。ふんとぉーに何も気にしとらんわ。」
にっこり
麻衣「小平から聞いた。役降りるなんて本気で言ってるの?」
千里、無言で頷く。
麻衣「バカなこん言わんで!一緒に頑張りましょうよ。」
千里、顔をあげる。
千里「でも僕がいればろくな事がない。結局みんなに迷惑かけるだけになっちゃう。」
麻衣「それだっていいじゃない!誰もあんたが失敗しても責めるやつなんておらんに。もしあんたが何か失敗しちゃっても私達はあんたを責めない。あんたをフォローするから。」
強調
麻衣「それにあの役はせんちゃん、あんたしか出来んのよ!」
千里「麻衣ちゃんごめん。でも僕はやっぱり…」
麻衣「私のパートナーはせんちゃん!あんたしかおらんの!」
千里、赤くなって瞬き。麻衣を見つめる。
千里「え?」
麻衣「だでもしあんたがどうしても降りるっつーんなら。」
キッパリ
麻衣「私もヒロイン降りる!」
千里「え、えぇ?」
赤くなってポカーン
千里M「麻衣ちゃん本気でいっているの?僕のために?」
麻衣「ほれ!」
千里の手をとる。
麻衣「行くに。」
千里「ちょ、ちょっと行くにって…」
おどおど。夕方
千里「こんな時間に一体何処に行くって言うのさ?」
麻衣「諏訪の図書館よ。」
千里の手を引いて玄関を飛び出す。
麻衣「おばさん、ちょいとせんちゃんお借りしまぁーす!」
珠子「はーい。」
ふふっと笑う。
珠子「せんちゃんもいいお友達を持ったわね。」
○諏訪市図書館
千里「ここで何をするのさ?」
麻衣「あんたにジプシープリンセスを初演した私の祖父母がどんなんだったかを今、見せてやるわ。」
千里「そんなの今度だっていいだろ。」
麻衣「ダメなの!今やらなくちゃいけんの!」
本を探す。
麻衣「あったあった、これだわ。」
分厚い本を読み出す。
麻衣「このページをご覧なさい。」
麻衣「この劇を初演した時、祖母はまだ今の私たちと同じくらい、祖父は18歳だったんですって。祖父の方はほら、ここ読んで。」
千里、目を丸くする。
千里「嘘だろ?」
麻衣「そう。今のあんたと全く同じだったのよ。」
千里「そうだったんだ。」
麻衣「だから時代は違ってもあんたみたいな子はいっぱいいるの。これ見た限りではあんたなんてこの人よりもずっとましじゃない!」
千里「あぁ…」
麻衣「だで自信持ってよ。私もみんなもあんたのこん待ってるんだに。」
千里「え?」
麻衣「この人ですら本番を演じてアールカサールの花形になっているんだであんたは大丈夫よ。」
千里の手を握る
麻衣「お願い。私のためにも降りるなんて言わないで。」
千里「うん…」
麻衣、立つ
麻衣「約束よ。だで明日こそ練習に来てね。おやすみ。」
手を振って退場。千里、本をまじまじ。
○アールカサール跡地
翌日。アールカサール劇団。
後藤「あれから一ヶ月か…」
小平「千里のやつ学校でも何も言っていないし、本気であいつ降りちまったのかなぁ?」
丸山「折角、柳平と一緒になれるなんつって喜んでたのにな。」
健司M「麻衣のやつ、あいつに会ってないのかなぁ?」
強がる
健司「ふんっ。でもあいつがいないお陰でこうやって俺が主演になれてるんだ!本番が楽しみだぜ!」
磨子「まぁ強がっちゃって。」
リータ「本当はあんた、千里に帰ってきて欲しいんだろ。」
健司「ち、違げえよ!」
千里の声「おーい!」
全員、振り返る。
麻衣「せんちゃん!」
健司「千里!」
全員、にこにこ。
健司「おっせぇーよ、早く来いよな。」
後藤「みんな待ってたぜ。」
小平「やっぱりチャールダーシュ侯爵はお前じゃなくっちゃね。」
丸山「でもどうして急に来る気になったの?」
千里「えへへ、実はね。」
メンバー、わいわい。
***
本番。多くの観客。アールカサール劇団、演じる。
主役は麻衣と千里。祖父母の幽霊が見に来て微笑んでいる。
大拍手。閉幕。
○同・森の中
千里と麻衣
麻衣「せんちゃん、今日は本当にありがとう。」
千里「いや、お礼を言うのは僕の方だ。僕こそありがとう。僕、やっぱり降りなくてよかった。君のお陰で頑張れたんだ。」
麻衣「私は何もしていないわ。」
微笑む
麻衣「私ね、今回こうやって改めてチャールダーシュを演じてみて思ったの。私はもっとチャールダーシュが踊りたい、こんな舞台をやりたいって。だから決めたわ。私、高校を出たらチャールダーシュの道に進もうと思うの。」
千里「チャールダーシュか。」
にっこり
千里「君ならきっと花形プリンセスになれると思うよ。僕も応援する。」
麻衣「ありがとう。あんたは?」
千里「もうすぐ学校の芸術発表で演奏をやるんだけど、僕はピアノソロをやる事になったの。」
麻衣「わぁ素敵!」
千里「その練習が始まった時から思い始めたんだ。やっぱり僕って本当にピアノが好きなんだって。いつでもどこでもピアノと一緒にありたいって。」
うっとり
千里「寝ていても起きていても頭の中にはいつもショパンやリスト、モンティの戦慄が離れない。だから僕、高校は音楽専門を受けようと思ってる。」
麻衣「わぁかっこいい!私もあんたには一番ピアノが似合っていると思う。だってピアノを弾いている時のあんたはとっても幸せそうで輝いているもの。」
肩を抱く
麻衣「私もあんたを応援してる。あんただったらきっと素晴らしいピアニストになれるわ。」
千里「そんなにいわれちゃ照れちゃうけど…ありがとう。君にそう言ってもらえると嬉しいな。」
麻衣「演奏会、必ず見に行くな。」
去り際
麻衣「あんた何のお花が好き?」
千里「僕?僕はエリカとミルテが好きなんだ。」
麻衣「まぁ、私と同じね。ほいじゃあエリカとミルテでいっぱいの花束持って必ず行く!」
去る
千里「うん!」
***
(フラッシュ)
美代の死
***
千里「え?
千里「麻衣ちゃん…」
○小口家・千里の部屋
千里、勉強をしながらそわそわ。お茶を持った珠子が入ってくる。
千里「あ、ママ。」
珠子「せんちゃんお勉強頑張ってるわね。特別にご褒美。」
お皿にシュークリームを乗せる。
珠子「シュークリームおまけしとくわね。本当はママのだけどあなたにあげる。」
千里「わぁやったぁ!いただきまぁーす!」
シュークリームを頬張りながら紅茶をごくごく。珠子、微笑む。
珠子「こらこら、そんなに慌てて飲んだら又おトイレ行きたくなるわよ。」
千里「僕、今すごく喉が乾いているんだ。」
コップを差し出す。
千里「お代わり!」
珠子「はいはい。」
千里、シュークリームを全て完食。お煎餅を食べ出す。
千里「んーおいしっ。このお煎餅ってどこんの?」
珠子「せんちゃん、ゆっくりとよく噛んで食べなさい。食べすぎないようにね、お夕食が食べれなくなってしまいますよ。」
千里「はーい。」
珠子「それとせんちゃん…」
千里「何?」
珠子「もうすぐ芸術発表よね。」
千里、お茶を吹き出して噎せる。珠子、背を擦る。
珠子「大丈夫?」
千里「大丈夫、大丈夫だよママ。ありがとう。」
珠子「ママも凄く楽しみにしているのよ。」
千里、しゅんと下を向いて俯く。
珠子「どうしたの?悩みごと?」
千里「ママ…」
下を向いたまま。
千里「僕、僕、不安でとっても心配なんだ。」
震え出す。泣き出しそう
珠子「話してごらんなさい。」
千里「麻衣ちゃんにこの事を話したんだ。そしたら麻衣ちゃんも来てくれるって、」
珠子「よかったじゃない!」
千里「麻衣ちゃんは僕に好きな花は何かって聞いたの。だから答えたんだ。そしたら麻衣ちゃん、僕の好きな花いっぱいの花束作ってくるって。」
泣きながら
千里「これじゃあまるであの日の美代ちゃんと同じなんだよ。美代ちゃんはあの日、僕のピアノの発表会に僕の好きな花束を買ってきてくれようとして死んじゃったんだ。だから、だからもしあの日と同じように麻衣ちゃんまでいなくなっちゃったら…」
珠子「あなたそんな事を気にしていたの?」
抱き寄せる。
珠子「大丈夫よ。麻衣ちゃんは大丈夫。」
千里「ママ…」
珠子「最悪な事ばかり考えていると、本当にその最悪な事が現実に起きてしまうのよ。」
千里の手を引いて立たす。
珠子「だからせんちゃん、もう昔の辛い出来事を引きずって悩まないで。」
千里「…」
珠子「そんな顔していたら麻衣ちゃんに心配されちゃうわよ。あ、そうだ。ママ、せんちゃんのピアノ聴きたいわ。何か弾いてくれる?」
千里「いいよ。何がいい?」
珠子「せんちゃんが好きで得意な曲で。」
千里「分かった…」
千里、電子ピアノを弾き出す。珠子、うっとりと聞き惚れている。
○諏訪アールカサール会館
スタッフ控え室。千里、うろうろ。
千里M「麻衣ちゃん本当に来てくれるつもりなのかな?もし、もしもあの日みたいになってしまったらどうしよう。そしたら僕のせいだ!」
頭を抱える。
○上諏訪駅前通り・花屋
店員「いらっしゃいませ。」
麻衣「エリカとミルテある?大きな花束にしてください。」
店員「畏まりました。」
麻衣、ルンルン
店員「ありがとうございました。叉お越しくださいませ。」
麻衣「ありがとう。」
店を出る
麻衣「もうこんな時間!急がなくっちゃ。」
走る。
横断歩道。麻衣、渡る。猛スピードのトラックが接近。
麻衣「っ!?」
○諏訪アールカサール会館
千里M「麻衣ちゃん!?」
アナウンスの声「続きまして、諏訪城南中学校の演奏で…」
千里M「僕らだ…麻衣ちゃん。」
***
(フラッシュ)
麻衣「大丈夫、私達がおるらに。安心してせんちゃん。」
麻衣「♪大丈夫、大丈夫、あんたはモーマンタイン!な。」
千里「麻衣ちゃん…(涙を噛み締める)」
千里、入場。大きな拍手。
ピアノにスタンバイ。悲しそうに弾き出す
***
会場。珠子、夕子、小口頼子、小口忠子。
頼子「千兄ちゃんピアノ上手です。」
忠子「まことにございます。」
珠子「でしょ。千兄ちゃん才能あるわね。」
夕子、珠子を見る。珠子も夕子を見る。
一曲目終わる。二曲目。千里、弾きながら客席を見る
千里「!!」
麻衣が来ている。
千里M「麻衣ちゃん、来てくれたんだ。」
目を潤ませて弾いている。
千里M「無事だったんだね、良かった。」
演奏が終わる。千里、立ち上がって礼をする。大拍手。
麻衣「(大声)せんちゃん!」
花束を持ってステージに歩み寄る。
麻衣「せんちゃん!
麻衣「(花束を手渡す)とっても良かった。私、感動しちまった。」
千里「麻衣ちゃん…」
花束を受けとる。
千里「麻衣ちゃん良かった。無事に来てくれたんだね。ありがとう、ありがとう。」
千里、ステージ上から麻衣を軽くハグ。会場からざわめき。
麻衣「え?」
珠子「せんちゃん…」
夕子「みっともないったらありゃしない。」
小平、後藤、千里を冷やかす。千里、我に返って慌てて麻衣から手を離す。
○同・ロビー
麻衣、演奏会案内のチラシを手に取る。ハンガリー王室チャールダーシュ公演の案内。
麻衣「今日?」
キョロキョロ
麻衣「あ!」
セサトル・フロレストが遠くに歩いている。麻衣、追いかける。
○同・スタッフルーム入り口
麻衣と警備員。
麻衣「だでお願いしますよ!そこを何とか!ね!ね!」
警備員「行けません。帰りなさい!帰りなさい!」
麻衣「少しでいいですからセサトルさんとお話をさせてください。」
警備員「だからダメといっているでしょう。」
そこへセサトル
セサトル「valami visszaélés nekem?」
麻衣「あぁ!」
必死。
麻衣「Uram Seszator! Azt javasoltam, hogy te vagy a guru a híres Csárdás a világon. Vagyok, akik törekszenek a cigány színésznő Csárdás.Azt Csárdás szeretne tanulni Magyarországon.Kérjük, hogy helyt ad a kívánságom.」
セサトル、黙って聴いている。
麻衣「Kérjük!」
セサトル「Értem. Hogy ez komolyan.」
警備員に
セサトル「Kérjük,hogy nyissa meg az utat.」
麻衣に手招き。
セサトル「Kérem, mutassa meg tehetségét.Jöjjön velem.」
麻衣「Köszönöm szépen!」
麻衣とセサトル、スタッフルームへ入っていく。
○柳平家・台所
家族全員「え、ミシュコルツヘ!?」
麻衣「えぇ…」
真剣な顔をして
麻衣「私、本気でやってみたいと思ったの。この道に懸けてみたいの!」
深々と
麻衣「だからお願いします!滞在費用、レッスン費用、渡航費用はセサトルさんが持ってくださると仰有っていました。」
柳平、腕を組み目を閉じる。
麻衣「父さん!」
***
柳平「分かった…」
真顔でまじまじ
柳平「麻衣、お前が信じた道ならやってみなさい。」
麻衣「父さん!」
紅葉「あなたには負けました。やってみなさい。」
麻衣「ありがとう!」
○上川バイパス
千里と麻衣。
千里「え、外国へ行っちゃうの?」
麻衣「たったの三ヶ月だけどな。」
千里、寂しそうに肩を落とす。
麻衣「ほんな顔せんで。戻ったら必ずあんたに会いに来る。」
千里「麻衣ちゃん…」
寂しげに微笑む。
千里「約束。」
指切りスタンプ
***
飛行機が飛んでいく
***
○白樺高原
ぼわーと湖岸に腰を下ろす健司、磨子、リータ
リータ「行っちまったな…」
健司「行っちまったな。」
磨子「麻衣ちゃん度胸あるわ。感心しちゃう。」
健司「ふんとぉーに大した女だよな。」
立って石を蹴る。
磨子「ははーん。やっぱりあんたも麻衣ちゃんいなくて寂しいね。」
健司「ば、バカいえ!寂しくなんてないよ。」
リータ「強がっちゃって。」
二人、健司を冷やかす。
健司「だで違うっつーの!あんなうるさい女がいなくて清々してるよ。」
○ミシュコルツ
町中。麻衣、歩いている。
麻衣M「今頃みんなどうしているかしら?」
お腹が鳴る
麻衣「あーお腹空いた。どっかで食べて帰ろうかしら。」
○アールカサール・店内
薄暗い。
麻衣「たまにはアールカサールってのもいいかもね。」
ブブ「Szia hölgy,egyedül ?」
麻衣「Igen,」
ブブ「honnan származól?」
麻衣「Jöttem japan.született Magyarországon」
カウンター席につく。
麻衣「Mit ajánl menüt?Kérjük, adja meg nekem.」
十数分後。
麻衣「ん、おいし…」
麻衣M「このアールカサール美味しいわね。」
ブブ「Itt van egy ebben az időben, Csárdás Show.Nem tudja?」
麻衣「Igaz az?」
ブブ「Igen. Hamarosan kezdődik.」
麻衣「O!」
激しいジプシーバイオリンの演奏とチャールダーシュ舞踊。
麻衣M「素敵…いつしか私もあんな風に踊れるようになって舞台に立ちたいわ。」
目を閉じる。
麻衣M「そうなるとジプシーバイオリンは健司かしら?ピアノがせんちゃんで磨子ちゃんがツィンバロンね。」
バイオリンを弾く健司、ピアノを弾く千里、ツィンバロンを叩く磨子。合わせて踊る麻衣。想像して頬を染める。
○岩波家・健司の部屋
数週間後。磨子、健司、リータ。
磨子「明日は麻衣ちゃんのお誕生日よね。」
健司「あぁ、そうだな。」
リータ「いつ帰るんだって?」
磨子「又、連絡するって言ってたわ。」
健司「ったく、まだ中学生の分際で外国なんて行くなっつーの。」
磨子「でも麻衣ちゃんはハンガリーの生まれじゃないの。」
健司「だったら?」
不貞腐れる。
リータ「何怒ってんだよ?」
健司「べーつーにー。」
磨子、クスクス。
健司「何がおかしいんだよ磨子!」
磨子「寂しいからでしょ?だから怒ってんずらに。」
リータ「ふーん。」
健司「だ、だで違うって!」
リータ「だってほーじゃんか。」
磨子「隠さなくたっていいんだよ、坊っちゃん。」
健司「てっめぇらなぁ!」
磨子とリータに食って掛かる。
電話。
磨子「健司、電話よ。」
健司「どーせ兄貴が出るでいいよ。」
悟の声「タケ、電話だぞ!」
健司「俺に?ほーい。」
部屋を出て階段を降りていく。
健司、受話。
健司「はい、岩波健司ですけど?」
麻衣の声「あ、健司?私です、柳平麻衣だに。」
健司「麻衣!」
磨子とリータ、過敏に反応して顔を見合わせてニヤリ。聞き耳をたてる。健司、嬉しそう。
数分後。健司、戻って来る。
磨子「誰?」
健司「麻衣だった。」
リータ「何だって?」
健司「(クールに)明日帰るってさ。」
磨子とリータ、笑いを堪える。
健司「何、笑ってんだよ!」
リータ「べーつーにー?」
磨子「べーつーにー?」
健司「ちぇっ。」
健司、顔を反らす。フッと微笑む。
健司M「麻衣…」
○小口家・千里の部屋
千里、仰向けに眠っている。
千里M「麻衣ちゃんいつ帰ってくるのな?早く会いたいな。麻衣ちゃん…」
ふふっと笑う。
千里M「君はハンガリーで今、何しているんだろう。」
2時を回っている。
千里M「もう2時か。今夜は眠れないや。」
***
飛行機が着陸
***
○国際空港・日本
麻衣、ゲートから出てくる。
麻衣「やっと着いたぜ日本!エルイェン!エルイェン!エルイェン!」
歩き出す。
麻衣「ほーだ!みんなに連絡せんくちゃな。」
キョロキョロ
麻衣「電話電話…あったあった!」
公衆電話をかける。
○上諏訪駅
千里、改札口付近にいる。そこへ麻衣。
麻衣「おーいせんちゃん!」
千里「?」
嬉しそうに微笑む。
千里「麻衣ちゃん!」
二人、近寄る。
千里「お帰り。元気だった?」
麻衣「お陰様で。あんたこそ元気そうでよかった。」
千里「あぁ。」
麻衣「あ、これ」
鞄から小さな包みを取り出す。
麻衣「あんたへのお土産だに。」
千里「え、僕に?」
麻衣「大したもんじゃないけど気に入ってくれれば嬉しいわ」
千里「ありがとう!!開けていい?」
麻衣「えぇ!!」
千里、ルンルンと開け出す。チャールダーシュ人形。
千里「わぁ可愛い!ありがとう。とっても嬉しいよ。」
麻衣「良かった。」
千里、ぜんまいを巻く。人形、オルゴールに合わせて踊り出す。
千里「わぁ!」
麻衣「チャールダーシュ人形だに。」
箱の中を指差す。
麻衣「箱の中にこの曲の楽譜も入っとるんよ。」
千里「へぇ…」
麻衣「良かったら弾いてみて。」
千里「うん!」
楽譜をまじまじ。
千里「僕にはまだちょっと難しそうかも…」
クスッと笑う。
千里「ん?」
がさごそ。麻衣、悪戯っぽく千里を見つめる。
千里「何?」
小さなお菓子の袋が出てくる。
麻衣「おまけだに。」
千里「え、えぇ?こんなにいいの?」
麻衣「勿論。喜んでもらえるなら私も嬉しい。」
千里「ありがとう。」
マシュマロを一つ口に入れる。
千里「ん、おいし!僕、マシュマロ大好きなんだ!」
二人、微笑む。
○電車の中
麻衣、千里。
麻衣「私これから健司達と会うの。だであんたも来なさいよ。」
千里「僕もいいのかな?」
麻衣「勿論よ!あんただってはーるかぶりにみんなとも会いたいら?」
千里「うんっ。」
○白樺高原・白樺湖岸
麻衣、千里、健司、磨子、リータ
麻衣「んてなわけで…」
健司「ってちょっと待てよ麻衣!」
麻衣「何よ?」
健司「お前、帰国して俺達よりも先にそいつに会ったのかよ?」
麻衣「ほいだって彼と約束してただもん。」
健司「彼だぁ!?」
麻衣「誰と先に会おうが私の勝手だらに。あんたに先に会わなくちゃならん理由があるだ?」
包みを健司に放り投げる。
麻衣「はい、あんたにお土産。」
磨子とリータに渡す。
麻衣「磨子ちゃんとリータにも。」
磨子「やったぁ!ありがとう麻衣ちゃん!」
リータ「私にも?フーッ!」
喜んで開け出す。
リータ「うまそ!いただきまぁーす!」
磨子「美味しそうなお菓子!早速食べていい?」
麻衣「どーぞどーぞ!」
磨子、リータ食べ出す。健司はビリビリと包みを破って箱を開ける。
健司「おお!」
麻衣「あんたには特別。」
ハンガリーサラミ、蜂蜜、ジャム、お茶の詰め合わせ。
麻衣「大事に食べな。」
健司「やりぃ!サンキュー麻衣!」
サラミをまるかじり。
健司「んーうまっ。最高!」
麻衣「呆れた!」
ククッとわらう。
十数分後。健司、バイオリンを弾く。磨子、アコーディオンを弾く。麻衣と千里、踊る。リータは一人でステップを踏む。
磨子「ところで麻衣ちゃん?」
麻衣「んー?」
磨子「あなたこれからどうするの?チャールダーシュの学校とか行くの?」
麻衣「それはまだ分からないけど…」
踊りながら
麻衣「セサトル教授が特別個人レッスン受講に学費免除で奨学推薦して下さったから来年から定期的にミシュコルツへレッスンに行く事になったわ。」
健司「マジで?」
麻衣「ほーだに。」
リータ「うわぁを。」
磨子「すっごーい!麻衣ちゃん良かったね!おめでとう。」
麻衣「ありがとう。」
麻衣「せんちゃんは?」
千里「へ?」
麻衣「確か音楽の高校に行きたいって言ってたわよね。」
千里「う、うん…」
麻衣「あれはどうするの?」
千里「うん。実は僕、京都の芸術高校を受けようと思うんだ。」
麻衣「京都の芸術高校?ってこんは京都へ行っちゃうのね。」
千里「いや、まだ行くって決まった訳じゃないよ。受験に落ちたらこの諏訪の高校にするつもりだからさ。」
麻衣「何言っているのよ!あんたの実力だったら受かるわよ。私、いつでもあんたを応援しているでね。」
千里「麻衣ちゃんありがとう。」
磨子、リータ「きゃあー!何て青春の一ページ!」
健司、鼻を鳴らす
○小口家・千里の部屋
千里、ピアノを弾く。
珠子の声「せんちゃーんご飯よ。いらっしゃい!」
千里「はーい。」
曲が終わると蓋を閉めずに電気を消して部屋を飛び出す。
○同・台所
千里、珠子、夕子、頼子、忠子。夕食をしている。
珠子「もうすぐね。頑張りなさい。」
千里「うん。」
夕子「もしこれで合格出来なかったらピアノなんてへーやめちまいな。」
珠子「ちょっと夕子!」
千里、ご飯を掻き込んでテーブルを叩く。
千里「嫌だ!絶対に嫌だ!僕はピアノもバレエもやめないよ。ごちそうさま…」
いらいらと退室。
千里「僕、ピアノの練習しなくちゃいけないから。」
千里の部屋。千里、いらいらピアノを弾いている。
○塩尻駅・ホーム
麻衣、千里
千里「麻衣ちゃん、わざわざありがとう。」
麻衣「せんちゃん、リラックスね。私、茅野からずっと応援してる。」
千里の手を握る
麻衣「あんたはやれば出来る子です。検討を祈る。」
千里「うん!」
電車の合図。
千里「では、行ってきます。」
特急に乗り込む。動き出す。
麻衣、手を振って見送る。
○京都芸術高校・試験室前廊下
順番待ちの生徒が並ぶ。千里もいる。
千里M「いよいよ演奏実技か…」
何度も楽譜をチェック
千里M「ちゃんと弾けるかな?間違えて減点されたらどうしよう…」
目を固く閉じる。
千里M「チョナー…」
声「次、お願いします。」
千里、青ざめる。
千里「はい…」
楽譜を置いて入室。
○同・試験室
五名いる。千里、空いた椅子に座る。ドアが閉められる、千里、不安げにキョロキョロ。
千里M「試験ってこんなんなの?閉じ込められちゃったよ。」
強くズボンを握る。
千里M「…」
極度の緊張
千里M「どうしよう、凄く緊張してきちゃったよ…」
試験管「小口千里くん…」
千里「…」
試験管「小口千里くん」
千里、びくりと顔をあげる。
千里「はいっ…」
ピアノにスタンバイ。
試験管「演奏を始めてください。」
千里「はい。」
弾こうとする
千里「あの…」
試験管「何ですか?」
千里「いえ…何でもありません。」
試験管「では始めてください。」
千里「はい…」
演奏を始める。
千里M「う、思う通りに弾けない。」
もじもじ。
試験管「二曲目お願いします。」
千里「はい…」
苦しそうに涙目。弾き出す。間違えてばかり。もじもじ。
弾きながら泣き出す。床が濡れだす。
終了。千里、ゆっくり立ち上がる。俯いている。
試験管「小口くん。医務室に行きなさい。」
千里「はい。」
注目の中。千里、退室。
○同・男子トイレ
男子便器前。千里、泣いている。そこへ敷田哲郎(15)、藤丸為希(15)
敷田「ん?」
千里に近づく。
藤丸「何やってるの?」
敷田「お前も受験生か?」
千里「…」
俯いて者繰り上げている。
藤丸「お前、もしかして試験の時の?」
敷田「やっぱりそうだ。」
千里、声をあげて泣き出す。
敷田「大丈夫、大丈夫だから泣くな。」
藤丸「ちょっと待ってろよ。」
○同・廊下
敷田、藤丸、千里を庇いながら歩く。
藤丸「どいで早くに申し出ないんだよ。」
千里「だって、だって…」
者繰り上げている。
千里「試験室に入ってからなんだ。僕はあー言ったプッレッシャーや緊張に弱いんだよ。だから…」
敷田、藤丸、黙って聞く。
敷田「ところでお前どこの人?関西?」
千里「生まれは京都。今は諏訪。」
敷田、藤丸「諏訪?」
敷田「諏訪って?」
藤丸「何処だ?」
千里「長野県だよ。」
敷田、藤丸「長野県から?」
目を丸くする。
藤丸「偉く遠くからきたんだな。」
敷田「一人で来たのか?」
千里、黙って頷く。泣きそうになる。
敷田「おいおい、又泣きそうになってる」
藤丸「もう泣くな。な、な。」
二人、千里を慰める。
***
特急。千里、心ここにあらず。窓の外を見つめている。
○小口家
千里、夕子、珠子。
千里「ただいま。」
珠子「おかえりせんちゃん。どうだった?」
千里「ママ、ごめんなさい。」
泣き出す
千里「僕もうダメだ。」
泣きそう
千里「もう音楽系の高校は叔母さんの言う通り諦めるよ。第二志望の茅野中央を受けます。」
夕子「千里?」
珠子「どうしてそんな事を言うの?」
千里、ビニール袋を差し出す
珠子「これは?」
千里「僕が実力を発揮できなかった理由だよ。ママも叔母さんも、僕の事怒るだろ。覚悟は出来てます…」
珠子「せんちゃん…」
優しく肩を抱く。
珠子「(微笑む)今日はお疲れ様。ご飯にしましょう。」
千里の肩を抱いて慰めながら部屋を出ていく。夕子もふフット笑って出る。
千里「ママ…」
珠子、夕子、微笑む。
夕子「(大声)頼子に忠子もおいで。ご飯だよ。」
頼子と忠子の声「はーい。」
五人の声「いただきまぁーす!」
千里の声「いただきます…」
珠子の声「さぁ、まだまだ沢山あるわよ、」
夕子の声「みんなどんどんお食べ。」
珠子の声「せんちゃんの為にママ、いっぱいお肉買っておいたわ。」
千里の声「やったぁママ。ありがとう。」
珠子の声「せんちゃんは卵二個ね。」
千里の声「うん!」
○小口家・千里の部屋
千里、書類を持っている。手を震わせて俯き加減で泣いている。そこへ珠子
珠子「せんちゃんお茶よ。」
千里「…」
珠子「せんちゃん?泣いてるの?」
千里「ママ、ママ…」
珠子に泣きつく
珠子「まぁまぁ一体どうしたって言うの?」
千里「僕、僕、僕…」
声を出して泣く。
○同・台所
家族全員、集まっている。
夕子「千里おめでとう、良かったね。」
グラスを掲げる。
夕子「これから頑張るんだよ。では改めて、小口千里の難関校合格にかんぱーい!」
全員「かんぱーい!」
千里「みんなありがとう。本当にありがとう。」
珠子「でもせんちゃん、気を抜いてはいけませんよ。」
千里「はいっ。」
嬉し涙
夕子「へー泣くのはおよし。お前は男だろうに。」
千里「分かってるよぉ、分かってるけど嬉しくて涙が…」
頼子「千兄ちゃん、泣いちゃダメですよ。よしよしよし」
忠子「千兄ちゃんは泣き虫にございます。」
***
麻衣、千里、健司。それぞれの家、バルコニーに出て星空を見つめている。
続。