簡単無料小説

石楠花物語シリーズ - 石楠花物語小学六年生

石楠花物語小学六年生

7/14 ページ

『石楠花物語小6時代』


○ バス内

   修学旅行。柳平麻衣と小口千里。最前列で隣同士。


麻衣「遂に修学旅行か。私たちも6年生って訳ね。」

千里「うん…」

麻衣「でも結局あんた何よ?図書委員って…」

千里「何で?いけない?」

麻衣「児童会長になるとか言ってなかったっけ?」

千里「言ってたよ。でも僕みたいなのが出来っこないしね。諦めました。」

麻衣「ふーん。でも何か私たちって気が合うな。委員会も同じだなんて。」

千里「うん…」


   少し赤くなって麻衣を見る。


千里M「君と一緒になりたいから僕もここにしたんだよ…」

麻衣「ん?」

千里「いやっ。別に何も…」

麻衣「ほ?」


   ルンルンとして乗っている。


麻衣「私が書記でせんちゃんが委員長か。何か…」


   にっこり


麻衣「一気に大人になった感じね。」



○遊園地

   河原輝先生、栗平先生、タワーコースターを指差す。


栗平先生「さぁ、全員一人一回はあれに乗ってもらうぞ。いいな?」


   全員、ふざけてキャーキャー。千里、青ざめる。


   順番で千里達の班が乗り込む。


千里「ひぃーっ!」


   死にそうな顔をしている。


麻衣「せんちゃん、大丈夫?」

千里「だ、大丈夫じゃ…な、な、ないっ…」


   上へ上っていく。


千里「く、く、く、く、…くるっ…」


   落ちる


麻衣「きゃぁーっ!」


   楽しんでいる麻衣。


千里「ぎゃぁー!」


   失神する千里。


麻衣「せんちゃんっ?ちょっと、せんちゃん?」


   降りる。麻衣、千里を支えてあるく。


麻衣「ちょっと大丈夫?怖いんならどいで無理して乗るんよ…バカね。」

千里「ううっ、ごめんよ…酔った…」

麻衣「少し休みましょ。河原先生…」


   河原先生、麻衣、千里


   十数分後。


河原先生「千里君治った?大丈夫?」

千里「はい…もう大丈夫です、ありがとうございます…」

麻衣「じゃあ二人で優しいの乗りましょうか?何か。」

千里「え?」


   赤くなる。


河原先生「それがいいわ。麻衣さんと二人で行ってきなさい。」


   微笑む。


河原先生「いいわね、デート。」

麻衣「せんちゃん行こっ。」


   千里の手を引いてかけていく。


   麻衣、千里をエスコートしている。



○豊平縄文小学校・教室

   麻衣と千里始め、6年児童がいる。


先生「みんなぁ、6年生のお兄さんお姉さんが、修学旅行のお土産を持ってきてくれましたよ!」

一年生「ありがとうございます。」


   6年生達、お菓子を配ったり、個人にお土産を渡したりしている。沖田直介、沖田せり、日陰陽一と麻衣、千里。


麻衣「はい。君、お名前は?」

直介「僕、沖田直介。」

せり「私、沖田せり。」


   沖田を見る。


せり「お兄ちゃん。」

千里「え、お兄ちゃん?」

麻衣「って事は君たちは双子?」

直介、せり「うんっ!」

麻衣「へぇー可愛い。実はお姉ちゃんも三つ子でね、同じ歳に兄弟がいるんよ。」


   お菓子とお土産の品を渡す。


麻衣「はいっお土産。食べてね。」

直介、せり「ありがとうございます!」


   陽一の元にいく。


千里「はいっ。僕からは君に。」  

陽一「お姉ちゃんありがとう。」

千里M「お姉ちゃん言うた!一年生にまでお姉ちゃん言われた…」


   悄気る。麻衣、笑いながら千里を宥める。


   6年生、教室に戻る。


麻衣「ほいじゃあな。又、教室にも遊びに来てね。」

一年生「はい。」



○同・教室

   休み時間。麻衣と千里、スピネットを弾いている。そこへ陽一、直介、せり


せり「お姉ちゃん!」

麻衣「あ!」

せり「ピアノのお姉ちゃん遊ぼ!」

千里「あ!」


   3人、麻衣たちのところへかけてくる。


せり「何弾いてたの?」

陽一「ねぇ弾いて、ピアノもっと弾いて。」


   麻衣、千里、紅くなって顔を見合わせる。


麻衣「こいのはせんちゃん、君の方が上手いで君がやりなさいよ。」

千里「何いってんだよ。君の方が上手いから君が!」

直介「ねぇってばぁ!」

千里「はいはい、分かった分かった!」


   麻衣を見ながら弾き出す。千里、麻衣に目配せ。 


麻衣「えぇっ?」


   麻衣、チャールダーシュを踏み出す。せり、直介、陽一、聞き入る。


  チャイム

  

陽一「あ、3時間目が始まるんだ!行かなくちゃ。」

せり、直介「うんっ!」


   3人、走っていく。


せり「ピアノのお姉ちゃん達、じゃあね!又遊びに来るからね。」


   手を振って戻る。麻衣と千里、手を振る。千里、がくり。


千里「又言いそびれた…」

麻衣「せんちゃんドンマイっ!その内あんたは男の子だって分かってくれるに。」

千里「僕ってそんなに男の子に見えないかなぁ?」



○小口家・庭先

   千里、恥ずかしそうに布団を干している。そこへ麻衣が登校。


麻衣「あ、せんちゃんおはよう…」

千里「おはよ…」 


   気が付いてギクリ。麻衣もドキリ。


麻衣「ご、ごめんっ!何も見とらん!何も見とらんで…」

千里「待ってて。僕も今行く…」


   ばつが悪そうに家の中に入っていく。


頼子の声「千兄ちゃんのお布団、どうして濡れてるの?」


   千里、頼子を睨む。


珠子「湯タンポの水が溢れちゃったのよ。」

頼子「ふーん…」


   千里、恥ずかしそうに家を出る。


千里「麻衣ちゃんおはよう。」

麻衣「せんちゃんおはよう。」

千里「う…ん、おはよう。」


   真っ赤になって下を向く。


千里「軽蔑だよな。この年になってやっちゃうなんてさ。」

麻衣「ほんなこんしんわよ。大丈夫。きっと修学旅行で疲れたんよ。」

千里「麻衣ちゃんありがとう。」

麻衣「いやぁ…」


   麻衣、照れる。


千里「でも…」

麻衣「分かっとる。誰にもいわんに。」

千里「ありがとう。君ってさ…」


   照れて。


千里「とっても優しいんだね。」

麻衣「ほんなこんないに。当たり前。」

千里「ふふっ…」


   二人、歩いていく。


千里「今日は音楽のテストか。頑張るぞぉー!」

麻衣「えぇっ!」



○豊平縄文小学校・体育館

   全校集会。


校長先生「では最後に、皆さんに残念なお知らせがあります。」


   ガヤガヤ


校長先生「静かにっ!今週いっぱいで河原輝先生が退職なさる事となりました。」


   更にざわざわ。千里、ショックを受けた様な顔。


校長先生「河原先生はこれから新しい夢へと向かって旅立ちます。皆さん、笑顔で河原先生をお見送りしましょう。」



○同・教室

   千里、落ち込んでいる。泣きそうに目を細める。


掛川十「おい千里君、一体どうしたんだ?朝から元気ないぞ。」

千里「うん…」

掛川「河原先生の事か?」

千里「うん…」

掛川「そりゃ、みんな寂しいけどさ。河原先生が安心して出ていくには僕たちが元気でいなくちゃ。それに後1週間もあるんだからさ。」

千里「うん…」

掛川「お別れ会の時に思いっきり泣けばいいよ。」

千里「うん。かけちゃんありがとう…」


   そっと掛川に寄り添う。


掛川「やめなよ…」


   ふふっと笑う。


掛川「よしよし…」



○小口家・居間


千里「ただいまぁ!」


   千里、玄関を上がる。玄関には豹柄の細くて高いハイヒールと白のスニーカー。


千里M「ん、誰かお客さんが来ているのかなぁ?」


   鞄を部屋に放り投げて居間へと走っていく。


千里「ママ、僕お腹空いた。おやつ何?」



   居間。源夕子、源洲子、珠子がお茶を飲んでいる。千里、固まる。


千里「お、お、お…叔母さんっ…」

夕子「千里、帰ったのかい。」

千里「いたの?」

珠子「あら、せんちゃんおかえりなさい。」


   にっこり


珠子「今日からおばさんたちも一緒に住むって話だったでしょ。」

洲子「千里ちゃんね?」


   微笑む。


洲子「大きくなったわねぇ。叔母さんの事覚えてる?」

千里「はい、ご無沙汰しております。千里です。」


   丁寧にペコリと頭を下げる。


千里「洲子叔母さんと夕子叔母さんでしょ?」

夕子「千里、どうして私の事だけちょっと嫌そうに言うんだい?」

千里「そんな事ないよ!ママ…」


   珠子を廊下に連れ出して


千里「(小声)叔母さんたちに何か変なこと話してないだろうねぇ?」

珠子「変な事?安心して、何も話してないわよ。」


   千里、胸を撫で下ろす。


珠子「ただちょっとせんちゃんに関して心配な事を色々と相談してただけよ。夕子叔母さんは塾の先生で、洲子叔母さんは看護婦さんでしょう?」


   千里、青くなる。


千里「ま…まさか…」

珠子「せんちゃんのおねしょが中々止まらない事やおもらししちゃう事があるって事、そして勉強をちっともやらなくて点数が上がらないことよ。」

千里「んがぁーっ…!」


   愕然として頭を抱える。千里の部屋へ入る。


夕子の声「これっ千里っ!今母さんから聞いたよっ!遊びに行く前にきちんと宿題をおやりっ!私のいる限りはビシバシお前を鍛え直すからねぇ!覚悟をおしっ!」

千里「はいぃっ…」


   頭を抱える。


千里M「はぁ…来年か…」


   ため息。インコに話しかける


千里「洲子叔母さんは優しいしお小遣いくれるから大好きなんだけどな。夕子叔母さんまで一緒だなんて…夕子叔母さんは僕がまだ幼稚園の頃からうるさくて厳しくて恐いんだよ。嫌だなぁ…なぁルル、僕どうしたらいい?」

夕子の声「千里っ!今なんか言ったかい?」


   千里、びくり


千里「いえ、別に何もいっていませんっ!」


  バルコニーに出る。部屋はコーポの3階。


千里M「一か八かだ。ここから飛び降りて逃げ出してやれっ!」


   リュックサックからロープを取り出して、格子と腰にくくりつける。


千里M「行こう…」


   格子を出て、ロープに捕まる。


夕子の声「これっ千里!今何しようとしてる?逃げようとしたって無駄だよ!」

千里「うわぁっ!」


   ロープから手を離してしまう。植え込みの中に埋まってしまう。管理人が水やり中。千里、泥々になって倒れ込んでいる。



○同・奥間

   千里がしょぼんとして座らされている。珠子、夕子、洲子。


夕子「千里っ!」


   腰に手を当てる。


夕子「全くお前って言う子は!懲りずに去年と同じ事をやるとは…本当にどうしようもない子だねぇ。何で懲りずに同じ事をするんだい?えぇ!?」 

千里「それはぁ…」


   もじもじ。体は泥々。


千里「そのぉ…」

夕子「ちょっとこっちへ来な。今日という今日はあんたにお灸を据えてやんないとね。」

珠子「夕子!」

千里「叔母さん…」


   夕子、千里をキッと睨む。


   ***


   玄関前。千里、バケツを頭の上で持ち上げている。夕子、千里の脛を叩いている。


珠子「ゆ、夕子…」

洲子「姉さんちょっとやりすぎだよ。」

夕子「私だって母さんに同じ事をされて育ってきたんだよ。悪い事をしたらこれくらいお仕置きしてやるのが教育ってもんじゃないか。」


   脛叩きをやめる


夕子「千里、少しここでそのまま反省してな。」

千里「はい…(しょんぼり)」


   手が震えている。



千里「も…もうダメ。」


   バケツを溢して水を被る



○同・千里の部屋

   千里、毛布を被って震えながら泣いている。近くに頼子


頼子「千兄ちゃん大丈夫?(千里を慰める)」

千里「頼ちゃん…」

頼子「頼がついているから大丈夫よ。だから千兄ちゃん、泣かないで。」

千里「くしゅん!」



○小口家・千里の部屋

   一週間後。目覚まし時計がなる。


千里「んーっ…」


   止める


千里「うるさいなぁ…」


   二度寝


   2時間後。8:45。珠子が険しくやって来る。


珠子「千里、起きなさい!今何時だと思ってるの?」

千里「んもぉーうっさいなぁ、まだ寝かせてくれよ…」

珠子「バカな事を言うんじゃありませんっ!時計をご覧なさい。学校に遅刻です!」

千里「んー学校に?」


   寝ぼけて時計を見る。飛び起きる。


千里「う、うわぁーっ!もうこんな時間っ!」


   急いでパジャマを脱ぐ。


千里「何でママ起こしてくれなかったのさぁ?」

珠子「起こしましたよ!何度も起こしたじゃないの?」

千里「あーっ!」


   頭をかきむしる。

 

千里「もう遅刻だぁ!到底間に合わないっ!」

珠子「宿題は済ましたのでしょうねぇ?」 


   千里、青ざめて固まる。


千里「っ…」


   頭を抱えて崩れ去る。


千里「もぉおしまいだぁ…」

珠子「今日は河原先生のお別れの日でしょ?最後の最後まで先生に心配かけてどうするの?」

千里「はい…」


   洋服を着てランドセルを背負う。


千里「いってきまぁーす!」


   飛び出ていく。


珠子「教室へ入る前には必ずおトイレだけは済ませるのよ。分かった?」

千里「はーい!」

珠子「全く…」


   千里の布団をめくってため息。


珠子「やれやれ…おねしょも一体いつになったら治るのかしら?」


   布団とパジャマを片付ける。



○豊平縄文小学校・教室

   千里、ダッシュで駆け込む。児童たち、千里を見る。


千里「すみません遅刻しましたぁ!」


   河原先生の顔を見る。


千里「廊下に立ってまぁーすっ!」


   急いで廊下に出る。


河原先生「千里君、今日は廊下に出なくてよろしい。席に付きなさい。」

千里「はい…」


   しょんぼりとして席につく。


河原先生「みんな来たわね。知っての通り、先生は今日で学校の先生をやめる事となりました。みんなともお別れです。」

知晃「先生、本当にやめちゃうの?」

田苗「行かないでよ、先生がいなくなったら寂しいよ。」

河原先生「ありがとう。先生もみんなとお別れするのはとっても辛いわ。でもいつか又、何処かで大きくなったみんなに会えることを心から楽しみにしています。それでは…」


   時計を見る。


河原先生「先生からみんなへの最後の授業を始めたいと思います。」


   クラスの殆どが号泣。


河原先生「みんなまだ泣くのはお止めなさい。」


   算数の授業が始まる。


   ***


   チャイム。一時間目休み。熊井仁子先生が入ってくる。


熊井先生「ちょっとみんな?」


   千里、熊井先生を見て目を見開く。


熊井先生「明日から君達を受け持つ熊井仁子です。」


   生徒を見回す。


熊井先生「皆さんの事は大体、河原先生から聞いております。みんなよろしくね。」


   河原先生に頭を下げる。クラス、拍手。


河原先生「…と言うことですのでみなさん、これからは熊井先生と一緒に小学校最後の時を過ごしていきましょう。以上。五分休憩です。」


   千里、教室を出ていく。


千里「先生、トイレ行ってきます…」


   ***


   男子トイレ。千里、用を足しながら唇を噛んでいる。涙が溢れる。


   ***


   2時間目休み時間。千里、熊井先生の元へ行こうとする。


熊井先生「?」


   微笑む。


熊井先生「千里君!」

千里「先生…」

熊井先生「久しぶりね。元気だった?大きくなったわね。」

千里「先生っ!先生っ!」


   抱き付く。


千里「先生、どうしてここに?」

熊井先生「よしよし、君は昔から泣き虫さんね。」

知晃「先生、千里君と知り合いなの?」

熊井先生「えぇよく知ってるわ。千里君は昔の教え子なのよ。」

田苗「え?」

熊井先生「先生ね、昔は京都で先生やってたのよ。でも、結婚して長野に来たからこっちで先生を始めたの。まさかここで君と会えるなんて思わなかったわ。でも君、城南諏訪小学校へ行ったんではなかったかしら?」

千里「4年生まで諏訪にいました。ここにはママの仕事の都合で去年来たんです。」


   寂しそう


千里「でも僕、運動会が終わったら又転校するんだ。城南諏訪小学校へ戻るの。」

熊井「まぁそう…」

千里「ママの仕事が終わるし、パパも諏訪のお仕事場に戻らなくちゃいけないから…」


   麻衣も軽く微笑んで見つめている。


   (給食時)

  

   お別れ会。千里、しょんぼりと食べている。


河原先生「千里君どうした?いつもの君らしくないぞ。お代わりしないの?」

千里「先生っ!」

   

   目を潤ませて河原先生を見る。


千里「本当に?本当に学校の先生やめちゃうの?」

河原先生「千里君…」


   優しく頭を撫でる。


河原先生「泣かないの。いつか必ず何処かで会えるわ。これからは熊井先生の言う事聞いて頑張るのよ。強い子におなりなさい。」

千里「先生っ!」


   泣き付く。


千里「嫌だよ、行かないで!」

熊井先生「こらこら千里君、あまり河原先生を困らせないの。」

河原先生「そんな風に君が泣いてたら先生まで悲しくなっちゃうでしょ。だから笑顔っ!ほら笑顔!」

 

   笑う。千里も弱々しく微笑む。


河原先生「よしっ。今日は君の大好きなカレースープだぞ。いっぱい食べなくちゃね。」

千里「はい!」


   食べ出す。


   ***


   給食後。クラスメートたち、泣きながら歌っている。河原先生、教室から送り出される。


千里「河原先生!元気でね!いつか必ず、必ず何処かで会おうね!」


   河原先生、涙ながらに微笑んで出ていく。千里、肘で涙を隠して静かに泣き出す。麻衣、泣きながら千里を慰める。


○豊平オルゴール作っちゃいます有限会社・事務部


珠子「子供の運動会も終われば仕事の期間も終わりですわね。」

紅葉「そうですね。でも大丈夫なのですか?お子さんたちまだ小さいのでしょ?」

珠子「下が今年、生まれたばかりなんです。なので私の妹が京都から来て面倒を見てくれていますわ。」

紅葉「大変ですね。それで終了後はどうなさるの?」

珠子「もう仕事はやめて城南に戻りますわ。柳平さんは?」

紅葉「私は今度、原村の方で別の仕事があるので子供たちと共に原村へ行かなくてはならないの。」

珠子「原村ですか。又お互いに転校ですね。」

紅葉「えぇ。折角お宅の千里君とお友達になれたのに…」

珠子「千里も寂しがるわ。」


   仕事をしながら話をしている。



○豊平縄文小学校・教室

   千里、掛川、男子


掛川「千里君、いよいよスタンツの練習が始まるな。」

千里「え?」


   少し考えてから顔が曇る。


千里「はぁ…」

掛川「まぁ今年で最後だで。頑張れよ。」

千里「最後とか言うなよ。寂しくなっちゃうじゃん…」


   肩を落とす。


千里「でも組体操はやだ。もう一生やりたかない!」

掛川「僕も…。でも千里君が羨ましいよ…」

千里「どうしてさ?」

掛川「お前は落ちても怪我はしないから。」

千里「はい?」

掛川「だってバレエやってんだろ?バレエやってりゃ体は柔らかいもの。」

千里「そういう問題?」


   手足を見つめる。


千里「あ、いけない!爪切るの忘れちゃった…」

男子「俺、爪切り持ってるよ。」

掛川「うぉっ!どいでほんなもんお前がもってんだよ?」

男子「スタンツの練習が始まるから誰かの役に立つんじゃないかって思って。」

掛川「ほぉ、柄でもないね。」

男子「うっせぇーよ。ほいっ…」


   千里に渡す。


男子「使えよ。」

千里「ありがとう。」


   切り出す。


千里M「ちぇっ。折角練習サボれるかと思ったのに…」

掛川「お前今…」


   ニヤリ


掛川「練習サボろうとか考えたな?」

千里M「ギクッ!」


  爪切りを返す。


千里「ありがとう…」

掛川「とにかく行こう。」

千里「はーいっ!」


   三人、教室を出ていく。



○豊平縄文小学校・校庭

   別の日。運動会の練習。千里、一番上。ビクビクしながら立ち上がる。


熊井先生「小口君!ビクビクしないっ!顔をしっかりあげなさいっ!」

千里「はいっ…」


   怖そう。下へ降りると一息。


   ピラミッドの練習。 千里、登って行く。


千里M「あと授業どれくらいかな?何かトイレ近いかも、どうしよう…」


   時計をちらり。


熊井先生「小口君っ!だからよそ見をしないっ!」

千里「ごめんなさい…」


   笛と共に上に立ち上がる。千里、足がくがく


千里M「先生っ、早くしてぇ!」


   笛と共に下へ降りる。千里、熊井先生に駆け寄る。


熊井先生「どうしたの小口君?」

千里「先生っ、トイレ行っていい?」

熊井先生「我慢できないの?」

千里「はい…」


   熊井先生、合図。千里、頭を下げて走っていく。



○同・男子トイレ

   千里、用を足しながらため息。


千里M「どうしよう。こんなにトイレ近くちゃ練習に戻れないよ…」


   トイレを出る。


千里「しょうがない。教室で待ってよ…」



○同・教室

   千里、スピネットを弾いている。


   十数分後。麻衣、掛川が入ってくる。


掛川「お!」

千里「あ!」


   スピネットをやめる。


千里「お帰り。」

掛川「君、大丈夫か?あれから戻らんかったけど…トイレ?」

千里「う、うん…」

掛川「腹痛いか?」

千里「いや、そうじゃないけどさ…」


   恥ずかしそうに


千里「猛烈にトイレ近くなっちゃって…」

麻衣「せんちゃん大丈夫?心配したわよ。」

千里「ごめん…」


   ***


   給食時間。


タミ惠「ねぇ聞いた?あの千里君、今度はピラミッドの時に掛川くんの背中の上にお漏らししちゃったって話よ。我慢出来なかったのかしら?」

千里「してないよ!」

掛川「そうだよ!千里君はそんな事してない。誰が流した噂だか知らないけど、お前はそんな事信じるのかよ?」

タミ惠「あら、このおもらし番長さんでしたら十分にあり得ることよ。」

麻衣「ちょっとたみさん、いい加減になさいよ!」

知晃「そうだそうだ!千里君がかわいそうよ。」

恵美子「千里君、泣いちゃったじゃないの!」

田苗「彼、ちゃんとトイレに言ったぞ」


   しまったと口を押さえる。千里、泣き出す。


麻衣「ちょっと田苗、余計なこん言わんで。」

田苗「ごめん千里君、私そういうつもりじゃあ…」

タミ惠「(にやにや)じゃあトイレに行きたくなったってのは事実なのね?」


   千里、教室を飛び出る。


麻衣「せんちゃん!」


   タミ惠を鋭く睨んで千里を追いかける。


   ***


   下校中。千里、麻衣、掛川


麻衣「元気出してにせんちゃん。いちいちたみさんのいうこん真に受けちゃいけん。」

掛川「そうだよ。お前だけじゃない、あいつの被害に遭ってきたやつなんていっぱいいるんだ。僕だってそうだもん。」

千里「君も?」

掛川「あぁ。だであんまりくよくよすんなよ。」

千里「ありがとう。」

麻衣「ほれ、明日はあんたのお誕生日会なんだら?プレゼント持ってく。楽しくいきまいに。」

千里「来てくれるの?嬉しい!お料理作って待ってるね。」

麻衣「楽しみにしてる!かけちゃん、あんたも来るの?」

掛川「え、何が?」

千里「そうだ!君ももし都合よければ明日僕んち来てよ。」

麻衣「せんちゃんのお誕生日会なのよ。」

掛川「僕もいいの?なら必ず行くよ!プレゼント持ってく。」

千里「みんな、本当にありがとう。とっても楽しみにしてるよ。」

千里「わぁ、ありがとう!」

麻衣「ふふっ、楽しみ。」

千里「あ、もし都合よかったら健司君も誘ってみてね。」


   るんるん。



○源洲子宅・庭

   誕生日会。珠子、小口、千里、掛川、麻衣、健司。焼き肉の準備が行われている。


健司「よ、千里。」

千里「ん?健司君!来てくれたんだ!」

健司「あぁ。俺まで誘ってくれてありがとな。」

千里「こちらこそだよ!」

健司「千里…」


   バイオリンを取り出す


健司「俺、バイオリン弾けるんだ。だでお前の誕生日、一曲プレゼントします。」

千里「わぁーっ!」


   健司、バイオリンを弾き始める。千里、麻衣、微笑んで聞いている。


   終わる。拍手。


千里「ありがとう!ビックリしたよ、バイオリン上手いんだね。」

健司「どーも。千里、お誕生日おめでとう。はい、改めてこれがプレゼント。」


   千里、受け取る。


千里「ありがとう!開けていい?」


   健司、頷く。千里、ルンルンと開け出す。


千里「うわぁ!」


   うっとり


千里「チョコミントのCDとポスター!でも何で?」

健司「麻衣から聞いたんだ。」

麻衣「いつもせんちゃんってチョコミントの歌を口ずさんでるし、好きなのかなぁーって。」

千里「大好き!ありがとう!」

麻衣「私からも…」

千里「わぁ!」


   開ける。ピアノの楽譜とくまのぬいぐるみ


千里「ピアノだ!」


   楽譜を見る


千里「ショパンのポロネーズリストのエチュードか。」

麻衣「確かせんちゃん、去年の秋にショパンのポロネーズとリストのエチュードを弾きたいってお星様にお願いしてたら?だで…」

千里「そんなの覚えててくれたんだ!」


千里「でも僕にはまだ少し難しいかな…」


   苦笑い。


千里「もうちょっと上手くなったら弾いてみる。」

麻衣「せんちゃんならすぐ弾けるに。弾けるようになったら聴かせてな。」

千里「うんっ!それと…」


   くまをすりすり


千里「くまちゃんだ!くまちゃんのぬいぐるみ大好きなんだ。本当にありがとね、大切にする。」


   掛川もやって来る。


麻衣「あ、かけちゃん!」

掛川「麻衣ちゃん!」


   健司を見る


掛川「彼は?」

麻衣「あぁ、こいつは私の幼馴染み。原村にいるの。」

健司「岩波健司、よろしく。」


   珠子、材料を持ってくる


珠子「みんないらっしゃい。今日はありがとね。ゆっくりしていってね。」

全員「はいっ。」

小口「さぁ準備ができたぞ。みんな焼き肉だ!お昼にしよう!」

全員「やったぁ!」


   わいわいと食べ始める。


   千里がピアノを弾いたり、みんなで踊ったりしている。


   ***


   夕方。 


千里「今日はありがとう。」

麻衣「こちらこそ、また遊ぼうな。私の誕生日にも呼ぶな。」

千里「うんっ!」

健司「俺も、また遊びたいな。」

千里「勿論さ!また遊ぼう!」


   三人、手を重ね合わせて微笑む。帰っていく。


洲子「みんな帰ったね。」

珠子「えぇ。」

千里「みんなからね、こんなにたくさんプレゼント貰ったんだよ!そして健司くんはね…」


   話す千里。笑って聞く珠子、小口、洲子。


珠子「じゃあせんちゃん、夜は改めて家族だけで誕生日会やりましょうね。」

千里「うんっ!」

小口「ママからもパパからもプレゼントあるからね。」

千里「やったぁ!パパ、ママ、ありがとう!」


   二人に抱きつく。


洲子「姉さんも兄さんも今日と明日は何があっても千里ちゃんの事を叱っちゃいけないよ。この子の誕生日なんだから、笑って見守ってあげな。」

珠子「えぇ。」

小口「分かりました、そうします。」


   千里、庭で遊び回っている。


小口「千里、今度はいよいよ…」



○豊平縄文小学校・教室

   給食。


タミ惠「明日が愈々運動会ね。」


   嫌みっぽく


タミ惠「千里君、あんた出る気あるの?」

千里「はい?」

タミ惠「あんたの事だからどうせずる休みするつもりでしょ?仮病とか使って。」

千里「僕はそんな事しない!」

麻衣「そうよ。せんちゃんは休まないわ!」

掛川「そうだよ。」

タミ惠「でも本当はあんただって出たくないと思っているんでしょ?」

千里「…」

タミ惠「私は休むにかけるわ。」

麻衣「いいえ、彼は絶対に休まないわ。だって今年が最後の運動会ですもの!」

掛川「それに、千里君は音楽バンドのピアノソロだろ?千里君、ピアノ大好きなんだもん。出ないわけないよ。」


   千里、複雑そう


   ***


   運動会。朝。全校児童、校庭に集まる。


麻衣「せんちゃん…」



○小口家・千里の部屋

   

千里「嫌だ!嫌だ!僕は行くんだ!」

珠子「行けません!そんな体であなた、運動をやるといっているの?」

小口「今日はゆっくり休んでいなさい。パパもママもお前がよく頑張っている事はよく知っているから。」

千里「(泣き出す)だって悔しいんだ。やっぱり小口千里は休んだってタミさんにバカにされる。そんなの僕絶対に嫌だ!」


   珠子、小口、困って顔を見合わす



○豊平縄文小学校・校庭

   タミ惠、勝ち誇ったように笑む。麻衣、心配そう。


タミ惠「ね、だから言ったでしょう?あんな大口叩いていても所詮弱虫は弱虫なのよ。」

麻衣「きっと事情があるんだわ。」


   千里、マスクをして来る


千里「みんなおはよう…」

麻衣「せんちゃん、おはよう。」


   千里、だるそうに座る


麻衣「やだ、ちょっとどうしたのよ?」

千里「風邪引いちゃって、熱があるんだ。」

麻衣「どいでそんな辛い時に来るのよ?いいわ、熊井先生には言っておくからあんたは帰って。」


   千里、大きく首を振る


麻衣「せんちゃん!」

千里「嫌だ!僕、運動会に出るんだ。これ以上弱虫なんてバカにされたくないんだよ!」


   タミ惠、ツンっとする


掛川「おいタミさん、元はと言えばお前のせいだろう?」

タミ惠「何が?熱があるなら休めばいいのに勝手にこの子が来たんでしょう!」


   入場行進。千里は演奏隊のテケーリュ、麻衣はツィンバロン。


アナウンス「続きまして、6年生による短距離走です。」


掛川「千里君、まず一番手は君だぞ。」


   千里、びくりとして我に返る


千里「えぇ?」

掛川「僕達が初めなんだよ。」

千里「あ、そうか…」


アナウンス「位置について…よーい…」


   走り出す。大きな歓声。


珠子「せんちゃんー!頑張って!」

小口「千里、頑張れ!」


   千里、途中で転ぶ


千里「うわぁっ!」

小口「千里っ!」


   千里、立とうとするが泣きそう。千里に向けて大きな歓声。


小口「千里っ、立ち上がって走れ!泣いちゃダメだ、男だろう!」

千里M「パパ…」 

珠子「せんちゃん負けるな!」

千里M「ママ…」  


   応援するクラスメート。


千里M「みんな…」


   涙を飲む。


千里M「よしっ。」


   走り出す。


小口「偉いぞ千里、頑張れ!」

珠子「あともう少しよ!」 

 

   千里、ビリでゴール。熊井先生のテープを切る。


   大拍手。千里、泣き出す。掛川や他男子たちが千里を抱き止める。 


男子「大丈夫だったか千里?」

男子「凄いよお前、偉かったな!よく頑張ったな!」

千里「みんな…」

掛川「見直したよ千里君!」

千里「かけちゃん…」

掛川「格好良かったよ。」


   手を差し出す。

 

千里「うん…」


   涙笑い。


千里「ありがと…」


   退場行進。大きな拍手。


   ***


   席。千里、ボーッとして座る


麻衣「せんちゃん大丈夫?」


   近くに熊井先生。


麻衣「熊井先生、熊井先生、小口君が!」

熊井先生「え?」


   千里の額に触る


熊井先生「千里君、すごい熱じゃないの!?もういいから早く帰りなさい!」


   千里、泣いて首を振る


千里「お願い先生、僕どうしても組体操だけはやりたいんだ。もう弱虫千里っていじめられるのは嫌だ!」

熊井先生「誰もあなたをいじめないわよ。」


   千里、強く首を降る


熊井先生「こらっ!言う事を聞いてもうおかえりなさい!」

千里「僕、運動会終わったら転校しちゃうんだ!だから最後に…先生お願い!ここにいさせてよ!」


   熊井先生、困る


熊井先生「分かったわ。本当は勧めたくはないけど…


   薬を渡す


熊井先生「組体操の時はこれを飲んでやりなさい。」

千里「はい、ありがとうございます!」

熊井先生「それまではおうちの方のお席でしっかり休んでいる事。いいわね?」

千里「はい。」


   ***


   客席。


珠子「せんちゃん…」

小口「やっぱり具合悪いか?帰ろうか?」

千里「ううん、大丈夫。熊井先生に組体操に出てもいいって言われたけど、それまではここで休んでろって言われたの。」


   シートに横になる。小口、千里に毛布をかける。


   ***


   麻衣、心配そうに座っている。


麻衣「なぁかけちゃん…」

掛川「僕も心配だよ。終わったらさ、後でお見舞い行ってやろうよ。」

麻衣「えぇ。」

掛川「でも、運動会が終わったら転校しちゃうって本当なの?」


   組体操。


   ***


   千里、薬を飲んで立ち上がる。


千里「じゃあ僕、行ってくるよ。」

小口「気を付けろよ。無理はするな。」

千里「分かってる。」


   ふらふらと走っていく


   ***


アナウンス「最後の種目は6年生による組体操です。」


麻衣「せんちゃん、大丈夫なの?」

掛川「本当に無理するんじゃないぞ。」

千里「大丈夫だよ、ありがとう。」


珠子「せんちゃんは何処かしら?」

小口「あの子は小さくて軽いからみんな一番上だよ。」

珠子「いたわ!いたわ!せんちゃん頑張ってね!」


   演技が進んでいく。


   大ピラミッド。千里、一番上に上る。大拍手。


   崩れる直前。千里、転落。


珠子「せんちゃんっ!?」


   駆け寄ろうとする。小口が止める。

 

珠子「でもあなた…」

小口「やめなさい、千里は大丈夫だ。見ててごらん…」


   千里、しばらく動けず。熊井先生が駆けつける。千里、ゆっくり立ち上がる。


小口「ほらね。」

珠子「せんちゃん…」


   熊井先生に寄り添って泣く。


熊井先生「千里君、大丈夫ですか?」

千里「僕は大丈夫…」


   擦りむけた膝を見る


千里「血…」


   真っ青になって倒れる。


金子先生「千里君っ?ちょっと千里君?」


   抱き抱えて医務部に連れていく。



○同・医務部

   千里、ベッドに横たわっている。


医務医「血を見たショックで貧血を起こしちゃったのね…」


   千里が目覚める。


医務医「目が覚めた?大丈夫?」

千里「先生…僕は…」

医務医「良かった大事なくて。痛いところは他にはない?」

千里「脚が…」

医務医「脚痛いわね…こんなに酷く擦りむいちゃってる。でももう大丈夫、血も止まりましたからね。」

千里「良かった…」

医務医「あなた血を見て気持ちが悪くなっちゃったんでしょ?」

千里「はい…」


   立ち上がる


千里「もう大丈夫です。ありがとうございました!」

医務医「歩ける?」

千里「はい大丈夫です…」


   戻っていく。


千里「先生たち、ありがとうございました。お世話かけました。」


   少々足を引き釣りぎみ。


   大運動会終了。千里、小口におぶられて帰っていく。



○小口家・千里の部屋

   千里、ベッドに横たわっている。


珠子「せんちゃん大丈夫?」

千里「うん…ごめんよ。カッコ悪いとこ見せちゃったね…」


   ぼんわり


千里「今日は本当にありがとう。」

小口「辛い中良く頑張ったね千里…」

千里「うん。」

珠子「(千里の額を触る)あらあら、またお熱が上がってきちゃったわね。」


   千里、朦朧。呼び鈴。


千里「?」

珠子「誰か来たわ。ちょっと待っててね…」


   出ていく。


珠子の声「はい。あらまぁ十君に麻衣ちゃん、いらっしゃい。」


珠子「(大声)千里、十君と麻衣ちゃんがお見舞いに来てくださったわよ。」

千里「え?」


   千里、上体を起こす 


小口「千里、大丈夫なのか?」

千里「うん…」


   そこへ珠子


珠子「せんちゃん、十君と麻衣ちゃんが来てくれたわよ。」

千里「本当に?」


   まもなく。麻衣、十。


千里「みんな…」

掛川「千里君、大丈夫か?」

千里「ありがとう。なんとか…」

麻衣「何が大丈夫よ!お熱高いんだらに?」

千里「まぁね…」


   朦朧。


掛川「インフルエンザじゃないよね?」


   千里、首を降る。


千里「まさか!ただの風邪だよ。この間水被っちゃったからそのせいかも…」

麻衣「もぉ心配させないでよ!ピラミッドの頂上から転落した時もものすごい心配だったのよ!」

千里「ごめんよ、みんなに心配かけたね。」

麻衣「これ…」


   包みを渡す。


掛川「僕らからのお見舞い。早く元気になれよ。」


   微笑む。


掛川「ドングリのお餅なんだけど食べれるか?」

千里「ドングリの?」


   満面の笑み


千里「わぁ美味しそう!早速食べていい?」

掛川「もちの…」

麻衣「ろんだに。」


   千里、ルンルンとあけだす。


千里「うわぁ!頂きまぁーす!」


   小口、微笑んで退室。そこへ珠子。


珠子「みんなお茶よ。どーぞ。」

麻衣、掛川「あ、おばさんありがとうございます!」


   三人、お茶をする。


掛川「千里君、食欲とかはあるんだよね?」

千里「うん。」

麻衣「良かった。それより今日の短距離走のあんたは格好良かったに。1位の男子よりも素敵だった。」

掛川「本当に。弱虫の君が転んでも最後まで走った…見直したよ。」

麻衣「せんちゃんはもっと自信持っていいに。」


   千里、泣き出して笑う。 


千里「麻衣ちゃんにかけちゃん…ありがとう。」

麻衣「(慰めながら)泣き虫さんね。泣かないでよ。」


   麻衣と掛川、笑う



○尖り石縄文公園

   麻衣と千里


麻衣「あんたは又、城南へ行っちゃうんよね?」

千里「うん…」


   俯く。


千里「折角君とまた会えたのにお別れだ。寂しいよ…」

麻衣「私もよ。」

千里「君は何処へ行くの?」

麻衣「原村。母さんが原村で仕事があるんだって。ほいだもんで…」

千里「そうか…」


   二人、寂しそうに園内を歩く


麻衣「遂に明日か。思えばこの場所で色々あったな。」

千里「うん…」

麻衣「せんちゃん、私達同じ諏訪にいるんですもの、絶対に又会えるよな?」

千里「うん!」


   指切りスタンプ


千里「絶対に又遊ぼうね、約束だよ。」

麻衣「えぇ勿論…」


   二人、笑う。



○豊平縄文小学校・教室

   数日後。麻衣と千里、黒板の前にたっている。


熊井先生「と言う事で、柳平麻衣さんと小口千里君は、本日をもってみんなとお別れすることになりました。」


   ざわざわ。


熊井先生「千里君は諏訪市の上川城南小学校へ、麻衣さんは原村の原村高原小学校の方へ転校してしまいます。なので今日はこれからお別れ会をしましょう。」


   お菓子を食べたり、ゲームをしたり、歌ったりしている。


熊井先生「では最後に…」

タミ惠「ちょっと待ってよ!」


   立ち上がる


タミ惠「私に一言言わせて。」

千里「タミさん?」

タミ惠「千里君、運動会の時のあんた、見直したわ。悔しいけどかっこよかった…」


   近寄る


タミ惠「今までごめんなさいね。でも私、あんたが嫌いでいじめてた訳じゃないから…(千里にキス)」

熊井先生「ちょっ、ちょっと小山さん!」

タミ惠「こう言う事だから…元気で。」


   席に戻る


掛川「うお…タミのやつ、大胆だな。」

麻衣「人は見かけによらないのね…」



○同・図書室

   麻衣と千里、図書委員当番。


麻衣「何か寂しくなるな、これが最後の図書当番か…」

千里「あぁ…」


   千里、閉館の札を会館にする。児童たち、入ってくる。


千里「あ、おはよう。」

直介「おはよう。」

せり「おはよう。」

陽一「おはよう。」

直介「ねぇーピアノのお姉ちゃん、転校しちゃうって本当?」

麻衣「よく知ってるな、誰に聞いた?」

陽一「ちき姉ちゃん。」

麻衣「ちきちゃんか!あのお喋りちきちゃんめが!」

せな「もうピアノ聞けんの?せりたち寂しいよ!行っちゃわなんで!ねぇお姉ちゃんっ!」


   麻衣と千里、目が潤む。


千里「僕もみんなと別れたくないよ。でもね、どうしても行かなくちゃいけないんだ!」

麻衣「必ず何処かで会えるに。ほしたら又遊ぼうな。」

直介「うんっ!」

陽一「約束だよ!」

せり「せりたちの事、忘れないでね。」


   千里、カウンターから出て3人を抱き締める。


千里「誰が忘れるもんかっ!」

麻衣「お姉ちゃん、みんなの事は忘れんに。」


   チャイム。


せり「うんっ。」

直介「僕も!」

陽一「僕も!」


   3人、かけていく。千里、涙を拭う。



○同・校門

   麻衣と紅葉、千里と珠子、熊井先生


熊井先生「それでは二人とも、新しい学校でも頑張ってね。」

珠子「熊井先生、本当にありがとうございました。まさか先生にこちらで再び教えて頂く事が出来るなんて…」

熊井先生「私も驚きました。元気に大きくなった千里君に会えてとても嬉しいです。」

紅葉「小口さんと千里君は熊井先生とお知り合いなのですか?」

熊井先生「えぇ。千里君は京都の学校にいた時の教え子なんです。」

紅葉「まぁ!」

熊井先生「私も元々は京都出身なんです。でも千里君が2年生になる年にこっちへ嫁いだもので、今は長野県内で教師をしているんですよ。」

紅葉「そうだったのですか!」

熊井先生「えぇ。千里君、覚えているかしら?あなた先生のお別れ会の時に行かないでって大泣きしたのよ。」


   千里、恥ずかしそうに下を向く。


熊井先生「泣き虫で涙脆いところはあの時と少しも変わってないようね。」

千里「やめてよ先生…」

熊井先生「誉めているのよ。涙を流せるって言うのはとても良い事よ。優しさの印…」


   千里の頭を撫でる。


熊井先生「千里君、又お別れになっちゃうけど向こうへ行っても頑張ってね。応援しているわ。」

千里「はい…」


   泣き出す。


千里「先生、ありがとうございました。河原先生にも僕、ちゃんとお別れを言いたかった。」

熊井先生「そうね、ずっと一緒にいたものね。いいわ、じゃあ先生から河原先生に千里君と麻衣さんの気持ち、伝えておくわね。じゃあね…」

紅葉「ありがとうございました、お世話になりました。」



○小口家・庭先

   車に荷物を積んでいる。


小口「さあ乗って。そろそろ行くぞ。」 

珠子「そうね、ほらせんちゃんもね。」

千里「はい…」


   車に乗る。車、動き出す。千里、悲しそうに窓の外を見ている。


麻衣の声「せんちゃんっ!待って!」


   走ってくる。


麻衣「せんちゃんってば!」

千里「ん?」


   キョロキョロ


千里M「麻衣ちゃんっ!?」

 

   窓の外を見る。


千里「パパ、車を止めて。」

小口「どうしたんだ、千里?」

千里「いいからっ!」

夕子「何だ、どうしたんだい?忘れ物かい?」

洲子「おトイレ?」


   千里、飛び降りる。麻衣、息を切らして車に追い付く。


千里「麻衣ちゃんどうして?」

麻衣「出発前に君のところへ行きたいってお願いして出てきたの。」

千里「麻衣ちゃん…」


   麻衣、千里に小箱を渡す。


千里「?」

麻衣「マコロン焼いたの。食べてみて。」

千里「僕の為に?」


   麻衣、強く頷く。


千里「ありがとう。でも僕は君にあげるもの何もないよ…」

麻衣「いいの、これは私の気持ち。ほれと…」


   ミルテのブローチを千里の胸につける


麻衣「これもあんたにあげる。」

千里「で、でも…」

麻衣「あんたに持っててもらいたいの、な。」


   麻衣、微笑む。

 

麻衣「あんたにとってもよく似合う。別々の学校になったって私のこん忘れないでな。又、遊ぼうな。」

千里「うんっ!約束だよ。君も元気で…」


小口「千里、そろそろ行くぞ。いいか?」

千里「はーいっ。」


   涙を浮かべて微笑む。


千里「じゃあね。さようなら!」


   麻衣、千里を抱いてキッス。千里、紅くなってキョトンとする。


麻衣「せんちゃん大好き。又な。」

千里「うん!」


   車に乗って手を振る。麻衣も千里もいつまでも手を振っている。



○小口家・庭先

   諏訪市城南。荷を解いている。千里、泣いている。


珠子「せんちゃん、いつまで泣いているの?」

千里「ごめん…」


   涙を拭う。


千里「叉、ここで暮らせるんだね。」 


   にこにこ


千里「僕、とっても嬉しいや。みんなとも又会えるんだ。」


   そこへ後藤秀明、小平海里


後藤、小平「千里っ!」

千里「みんな!」


   かけよって抱きつく。


千里「どうして?」

後藤「たまたま遊びに行こうとしてここを通ったらお前が見えたからさ。」

小平「おかえり千里。」

千里「うんっ!」


   満面の笑み


千里「明日から又、上川城南小学校へ戻るんだ。みんな宜しくね。」

後藤「あぁ!」

小平「こちらこそ!」

千里「じゃあママにパパ。僕…」


珠子「どうぞ。久しぶりだもんね、遊んできなさい。」

千里「やったぁ!行こっ!」


   後藤、小平とともにかけていく。



○上川バイパス

   千里、後藤、小平


小平「こうやってお前といんの、はーるかぶりだな。」

千里「そうだね。僕もみんなと又会えて嬉しいよ。」


   3人、笑う。


千里「僕さ、豊平小学校へ転校した時、僕と一緒に同じクラスに転校してきて入った子がいるんだ。」

小平「ほぉ?」

後藤「どんな子だ?」

千里「女の子…」


   うっとり


千里「とっても可愛いし優しい子なんだ…」


   紅くなってもじもじ  


後藤「お前その子の事が好きなのか?」

千里「まさか!いや…そんなんじゃないけど…」


   真っ赤になる。


後藤「まぁ明日から改めて宜しくな。」

小平「金子先生だから怒らすと怖いぞ。遅刻するなよ。」

千里「うんっ!」 


   3人、手を重ね合わせて微笑む。


○原村高原小学校・教室

   真道茶和子先生、麻衣。岩波健司は下を向いて消ゴムで遊んでいる。


真道先生「それでは今日はこのクラスに転校生を紹介します。」


   健司、顔をあげ目を丸くして麻衣を2度見。


麻衣「みなさん、柳平麻衣と言います。これから原村でお世話になります。小学校では一年だけだけど宜しくお願いします。」


   健司に気が付いて悪戯に目配せ。


真道先生「はい、ありがとう。それでは柳平さんは…」



   麻衣、健司の隣へ座る。瞬きしながら見つめる健司。微笑む麻衣。


   2時間目休み


健司「麻衣じゃん。どうしてここへ来たんだ?」

麻衣「今度母さんが原村で働くことになったもんで。」

健司「ふーん。いつから分かってたの?」

麻衣「ずいぶん前。」

健司「何だよお前!ほれなら俺に一言話してくれりゃあ良かっただに。」

麻衣「ごめんごめん。でもあんたをびっくりさせたかったんよ。」 


   そこへ、岩井木徹、西脇靖、清水千歳、田島茶目子、矢部川野々子


健司「とにかく、俺たちこうやって叉学校で一緒に勉強したりして過ごせるんだね。宜しく。」

麻衣「こちらこそ。」

清水「何々いっちゃん。偉く親しげだなぁ?」

健司「あぁチーちゃん。こいつ俺の幼馴染みなんだ。ひばりヶ丘幼稚園のこんからの友達。」

岩井木「ふーん。かっわいいなぁ君!こんなかわいい子、今まで原村で見たことないや。」

西脇「僕もだよ。」


   髪をかき揚げてウインク。茶目子と野々子、岩井木、西脇に蹴り。二人、茶目子、野々子に小粋なウインク。茶目子と野々子、おえっと去っていく。


西脇「僕、西脇靖ってんだ。」

岩井木「僕は岩井木徹。」

清水「僕は清水千歳。」


   男子たち、麻衣にベタベタ。


清水「おい、茶目に野々、お前らも何か言えよ。名乗るのは礼儀だろうに!」


   茶目子と野々子、戻ってくる。


茶目子「私は田島茶目子。」

野々子「私は矢部川野々子。」

麻衣「私は柳平麻衣。まいぴうってよく呼ばれる。」

野々子「ならまいぴう、宜しくな!」

麻衣「えぇ!」


   児童たち、がやがや



○上川城南小学校・教室

   千里、机で書き物をしている。


千里M「まず僕は高校を卒業したら大学に行ってピアノを学ぶの…」


 

   妄想しながら書いている。


千里M「そして僕が大学を出たら麻衣ちゃんと再会するんだ。僕はプロのピアニスト!そしてそして遂に30才になったら僕は麻衣ちゃんに…」

後藤「何やってんだ?」 

千里「うわぁ!」


   あわてて隠す。


千里「後藤君かぁ。おどかさないでくれよ…」

後藤「わりぃわりぃ。で?」


   にやにや


後藤「何をぶつぶつ言いながら書いてたんだ?見せてみろよ。」

千里「嫌だよぉ!」

後藤「そんな事言うなって!」

千里「嫌だってばぁ!」


   二人、教室内を飛び回る。



○同・千里の部屋

  千里、ピアノを弾いている。


千里N「そして何じゃかんじゃで音楽会の楽器選考会があり、めでたくも僕が多数決で音楽会のピアノソロに選ばれました。」


   うっとりと弾いている。



○同・台所

   珠子、夕子。お茶を飲んでいる。


夕子「叉、ピアノかい?勉強もやらずにあんなもんばかりして。いっそやめさしちまいなよ。」

珠子「そんなのせんちゃんが可哀想よ!あの子折角あんなに好きでピアノやっているんですもの!」

夕子「そうは言うけどねぇ…」

珠子「とにかく、やめろなんて絶対せんちゃんの目の前で言わないでちょうだい。」

夕子「はいはい、分かってるよ。私もそこまで意地悪じゃないさ。」



○同・玄関

   翌週。珠子、千里の身なりを直している。


珠子「よしっ、出来たわ。ママも後から行きますからね。」


   笑って千里の背中を押す。


珠子「頑張るのよ、ほれっ!行ってこい!」

千里「行ってきます。」


   勇んで出掛けていく。



○上川城南小学校・教室

   朝の時間。


後藤「いよいよだな千里。」

小平「良かったな、最後の年に…」


   ピアノを弾くジェスチャー


小平「晴れ舞台飾れて。」

後藤「ピアノの上手いお前だからやらせてもらえたんだろうな…」 

千里「いやぁ、それほどでもぉ…」


   照れる。


後藤「俺達の合唱の全てはお前のピアノにかかってんだ。しっかりやってくれよ。」

小平「期待してるよ。」

千里「おいおい、そんなにみんなで僕にプレッシャーかけないでくれよ…」


   三人、笑ったりしてふざけている。



○同・体育館

   音楽会が行われている。千里、プログラムを見る。


千里M「クラスの発表の前に吹奏楽と音楽クラブがあるか…」


   演目はどんどん進んでいく。


   千里、音楽部でピアノソロを演奏。


   終わる。


金子先生「さて、次がいよいよ6年生の発表ですよ。休憩を五分挟んだ後なのでその間にポジションを整えなさい。トイレに行きたい人はすぐに行ってくること!」


   千里を見る。


金子先生「小口君、君は行っておいた方がいいわよ。」

千里「はい…」


   真っ赤になって下を向く。


金子先生「以上、一同解散。」



   休憩。児童たち動き出す。



○同・男子トイレ

   千里が駆け込む。


千里「トイレ!トイレ!」


   丸山がいる。


千里「あ!」

丸山「千里君。」

千里「修君。」


   用を足しながら


千里「どうしよ、僕すごく緊張してきちゃったよ。」

丸山「僕も。千里君は特にピアノ伴奏で合奏でもピアノのソロだもんね。」

千里「それが一番プレッシャーなんだ…」

丸山「いいなぁ…僕もピアノやってるけど候補にさえならなかった。合奏ではアコーディオンだよ。君、ピアノ上手いもんね。」

千里「君もピアノやってるんだ!何の曲?」

丸山「バイエルの90番。それとブルグミューラー。君は?」

千里「僕はぁ…」


   照れてもじもじとしながら


千里「ツェルニー50番の36とラフマニノフソナタだよ。」  


   丸山、目を丸くする。


丸山「わぁを…」 



○同・体育館

   音楽会後半。


アナウンス「それでは続いて、6年生全員による合唱と合奏劇です。6年生は小学校最後の音楽会になります。」


   拍手。演奏が始まる。



○同・教室

   お昼。千里、後藤、小平、眞澄、マコ、真亜子。お昼を食べている。


後藤「それにしても千里、お前すごかったよ。やっぱりピアノ上手いな。」

千里「え?」

小平「あぁ本当に。どいであんねに上手いんだ?」

千里「どいでって言われても…」


   困る


千里「僕そんなに上手くないよ。」

小平「嘘ばっかり、自分でも本当は上手いと思っているんだろ?」

千里「そんなぁ…思ってないよぉ!」


   クラスメート、困る千里をからかっている。


眞澄「でもチーちゃんって…」


   お弁当を見る。


眞澄「お弁当とっても可愛いね。」

千里「あ、これ?」


   首を横に降る。


千里「美代ちゃんの似顔絵なんだ。」


   眞澄、表情が曇る。


眞澄「美代ちゃん?誰よそれ?」

千里「話した事なかったっけ?京都の幼馴染みだよ。その子のお母さんがお弁当作りがとっても上手だったんだ。だからみんな美代ちゃんのお母さんにお弁当作りを習ってたの。僕のママもその一人。それで、美代ちゃんが何処行くにも必ず持ってきたのがこの美代ちゃん弁当。すごく美味しくて僕も大好きになっちゃったから美代ちゃんに作り方聞いたんだ。」


   うっとりと


千里「その美代ちゃんもお料理がとっても上手かったの。でも彼女…」


   しんみりと言いかける


眞澄「ばかっ!」


   千里をこずいて、千里のお弁当を取り上げる。


千里「あぁっ!やめろよ!ちょっと何するんだよぉ!」

眞澄「昔の女の子のお友達の話なんかしたらだめっ!このお弁当は私が食べてやるんだから。」


   千里、泣きそう。


千里「僕のお昼…」

眞澄「チーちゃんは私のと交換ね」


   まだ手を付けていない自分のお弁当を千里にあげて、美代ちゃん弁当を掻き込む眞澄。


千里「ママのお弁当…美代ちゃんのお弁当が…」


   泣き出す。


マコ「男の子なのにそれくらいで泣かないでよ!だらしがないよ!」

真亜子「そうよ、眞澄ちゃんは女の子なんだもん。許してあげな。」

千里「美代ちゃんがぁ…」


   小平、後藤、千里を慰めて眞澄を睨む。


小平「おい眞澄、それってちょっとあんまりじゃねぇーか?」

眞澄「何が?」

後藤「そうだそうだ!人の弁当とるなんて苛めや窃盗だろう!」

眞澄「何よ?何で私を攻めるのよ?悪いのはチーちゃんじゃないの?私の前で…」

後藤「千里がなんだってんだ!?ただ昔の友達の話をしただけじゃねぇーか!」

小平「大体、彼女でもねぇーのにやきもちやいてんじゃねぇーよ!」

後藤「例えそうだとしても、相手の事考えるのが友達ってもんだろうに?」

眞澄「何よみんなして…」


   お茶を飲み干す。


眞澄「そうね、はいはい分かりましたよ。どーせ私が悪いんでしょ?」


   机を叩いてつんっと出ていく。


後藤「先生に言ったって先生も味方してくれねぇーと思うけどな。」

小平「僕も。」


   マコ、真亜子も悪態をついて教室を出ていく。千里は泣いている。


後藤「元気出せよ千里、な。」

小平「そうだよ、弁当の事はどーしたってあいつが悪いんだから。」


   千里、首を振る


千里「違うんだ…」

後藤「え?」

千里「あれはただのお弁当じゃないんだ…美代ちゃんとの思い出がいっぱい詰まったお弁当なの…僕ね、あのお弁当を食べる度に美代ちゃんの事を思い出すんだ…」

後藤「その美代ちゃんとよっぽど仲良かったんだな、お前…」

小平「じゃあその子、今も京都にいるんだろ?まだ連絡とったりしてるのか?」


   千里、悲しそうに首を振る


千里「出来っこないよ…」


千里「だってもう、美代ちゃんは死んじゃったんだもん…」

後藤・小平「え?」



○同・職員室

   金子先生、眞澄


金子先生「そう…」

眞澄「だから私、千里君のお弁当取り上げて食べたんです。私悪い事してます?千里君が私を不快にさせたから私も仕返しをしたのよ…」

金子先生「でもね眞澄ちゃん、それはあなたが悪いと先生も思うわよ?」

眞澄「どうしてですか?だって昔、習ったわ!他人を不快にさせる様な事はしちゃいけないって!」

金子先生「でも今回は眞澄ちゃん、千里君のお昼とっちゃったのよね?」

眞澄「そうよ。でも私のお弁当はまだ手を付けてなかったので千里君には私のお弁当をあげたわ。交換っ子したんです!」

金子先生「千里君は賛成してた?快くお弁当の交換をしてくれたの?違うわよね?千里君の承諾も得ていないんだから、お友達の物を勝手に盗む事と同じなのよ。ほら、戻って千里君に謝りなさい。」

眞澄「何よ、先生まで…」


   眞澄、つんっとして職員室を飛び出ていく。



○小口家

   千里、泣きながら帰宅。


珠子「せんちゃん?帰ったの?」


   台所


珠子「せんちゃん?あらまぁ…」

千里「ママ…」

珠子「せんちゃんどうしたの?又泣かされたの?」

千里「眞澄が…眞澄が…」


   しゃくりあげながら話している。


珠子「なんだ、そういう事…」  


   千里を抱き寄せる。


珠子「男の子なんですからそんな事で泣いててどうするの?そんなの小学校や中学校いってればある事よ。もっと強くおなりなさい。」

千里「だって、だって…ママがせっかく作ってくれた美代ちゃん弁当…僕の美代ちゃんが…」

珠子「いつでも作れるんですから、又作ってあげるわ。眞澄ちゃんがくれたお弁当は全部きちんと食べたの?」


   千里、黙って頷く。



○永田家

   眞澄と母


母「眞澄、どうしてそんな事をしたの?あなたがお友達を泣かすような子だったなんてお母さん知りませんでした。」

眞澄「だって…」

母「だってはありません!眞澄、いくら千里君にやきもちやいたからってそれはしてはいけないわよ。」

眞澄「チーちゃんが悪いのよ!チーちゃんは眞澄の旦那さんになるの!それなのに私の前で嬉しそうに美代ちゃんの話なんてしちゃってさ…」

母「千里君だってそんなやきもちやきで意地悪でわがままな子をお嫁になんて貰ってはくれませんよ。」

眞澄「お母さんまでチーちゃんの肩を持つの?」

母「今回は仕方がないわね?眞澄の味方は出来ないわよ。お母さんだってあなたにはいい子に育ってほしいし、悪い事は悪いってきちんと分かる子になってほしいの。」

眞澄「バカ…」

母「さぁ眞澄、今から千里君のお家へ行きますよ。」

眞澄「何しに?」

母「何しにって、勿論千里君に謝りに行くに決まっているでしょう。」

眞澄「眞澄は悪くないもんっ…」

母「眞澄っ!」


   強引に手を引いて連れ出す。


眞澄「嫌だっ!嫌、嫌だってばぁ!お母さん!眞澄、謝る必要なんてないもん!悪くなんてないもん!」

母「早く、行くんですっ!」


    駄々をこねて踏ん張る眞澄を強引に引っ張って家を出る。



○小口家・台所

   千里、泣き止み出す。ベル。


千里「あ、誰か来たよママ。」

珠子「誰かしら?いいわ、ママが出てくるわね。」


   玄関にかけていく。 


珠子「はいどうぞ?」


   眞澄、母


珠子「あら、眞澄ちゃんに永田さんの奥様。こんばんは。」

母「眞澄から聞きました、家の子がお宅の千里君のお弁当をとってしまって千里君を泣かしたって…本当に申し訳ございませんでした。」

珠子「いえいえ、大丈夫ですよ。又いつでも作れるんですから。」


   千里、壁の影から様子を伺う。


珠子「せんちゃん、眞澄ちゃんが来たわよ、おいでなさい。」

千里「…」

珠子「ほらっ。」

母「眞澄!ほらあなたも!」


   千里、恐る恐るやって来る。


母「早く千里君に謝りなさい。」

眞澄「嫌だっ!」

母「眞澄っ!」

眞澄「だって私は悪くないもん。」

珠子「いいですよ、眞澄ちゃん…」

母「そんなわけには行きません!悪い事をしたのは家の子なんですから!こらっ眞澄!」

千里「眞澄…」

眞澄「ふんっ、チーちゃんが悪いのよ…」


   母、頭を下げさせる。


眞澄「全く、分かったわよ!謝りゃいいんでしょ、謝りゃ!ごめんなさい…」

母「これっ眞澄!きちんと千里君に謝りなさい!」

千里「もういいよ。」


   にっこり


千里「僕もう怒ってないよ。せっかく来たんだし遊ぼうよ。」

眞澄「チーちゃん…うんっ。」


   二人、部屋の奥へと入っていく。


眞澄「お邪魔しまぁーす!」

珠子「はーい、どうぞ。」 


   珠子、母、微笑む。


珠子「奥様もどうぞ、お茶でも一杯…」

母「いいのですか?それでは遠慮なく…」



○同・台所

   珠子と母


母「え…」


   ショック


母「そうとも知らず本当に今回は申し訳ありませんでした!」

珠子「いいえ、ただ千里も未だに忘れる事が出来なんで傷ついているので、どうかそこのところはご理解下さい…」

母「まぁそんな事が!?眞澄にもよく話しておきます…本当に申し訳ありませんでした!」



○同・千里の部屋

   二人で電子ピアノを弾いている。


眞澄「ねぇチーちゃん…」 


   恥ずかしそうにもじもじと


眞澄「さっきは…本当にごめんね。」

千里「だからもういいんだって!」

眞澄「眞澄の事…もう嫌いになった?」

千里「まさか!」


   微笑む。


千里「嫌いじゃないよ。」

眞澄「よかった。」


   にっこり


眞澄「チーちゃんって、本当にピアノ上手いわね。」

千里「いや…そんな事ないよ。」


   二人、再びピアノを弾き出す。


   台所でお茶をする珠子と母、微笑む。


 

○同・台所

   大晦日。千里の家族。


小口「さぁ千里、今年はいいもの買ってきたぞ。」

千里「何?」

小口「諏訪の丸上に売っていたんだ。お前の大好物だよ。」

千里「僕の大好物?何だろ?」


   ワクワクと袋を開ける。


千里「わぁ!」

小口「いいだろ?マグロのオードブルセットと刺身と魚介のフライセットだよ。お前はマグロと魚介が大好きなんだよな。」

千里「うん!ありがとうパパ!」


   席につく。


珠子「それでは準備もできたわ。お年取りの席を始めましょうか。あなた…」

小口「あぁ。それでは今年一年、家族みんな無事に過ごせた。来年も又健康に過ごそう。乾杯!」

小口家全員「乾杯!」


   食べ始める。


千里「んーおいしいっ!」

夕子「なぁ、ところで千里?」

千里「んー?」


   食べながら


夕子「千里っ!」

千里「はいっ!」

夕子「人の話を聞くときはちゃんと箸を置いて目を見るもんだよ。」

千里「はい…」


   手を止める。


千里「何?」

夕子「来年はいよいよお前も中学生だね。」

千里「う、うん。」

夕子「もうすぐ中学校の説明会もあるんだろ?中学校の先生たちの恥にならないようにしっかりするんだよ。」

千里「でもおばさん…」

夕子「まだ先だが、今からしっかり言っておかなくてはね。お前は普通の子よりも出来が悪いんだから。勿論それは卒業式の日だってそうだ。親や先生、在校生に恥をさらすんじゃないよ。」

千里「そんなの分かってるさ。」


   千里、むくれる。 


夕子「いいかい?もう一回言うが、説明会と卒業式の始まる前には必ずトイレは行くんだよ?」

千里「うるさいなぁ、今は楽しい大晦日なんだよ。頼むからお説教はやめてくれよ。」

洲子「そうですよ姉さん。」

珠子「夕子、今日はせんちゃんも楽しい気分で過ごしたいのよ。」

夕子「分かったよ、もう言いません。千里、じゃあジュースいるかい?」

千里「うん欲しい!僕レモン!」


   夕子、レモンのジュースを千里につぐ。小口、笑う。


小口「ハハハ!寝小便するぞ!」

千里「もぉ!僕はもうおねしょなんてしないもんっ!ちゃんと起きれるもん!」

珠子「あら?でも一人でトイレ入るの怖くてママをいつも起こす人誰でしたっけ?」

千里「んもぉーっ!」


   頼子笑う。


頼子「千兄ちゃん、まだおねしょするの?」

千里「しーまーせーん!」


   つんっとして食べ出す。


○小口家・玄関

   珠子と千里。


珠子「さぁ、せんちゃん早く行きますよ。」


   千里、泣いている。


千里「嫌だよ…卒業式なんて出たくない。」


   珠子に泣きつく。珠子、千里を宥める。


珠子「そんな事言うんじゃありません。卒業が寂しいのはみんな一緒よ。」


   微笑む。


珠子「ほら、泣いちゃっていいから式に出ようね。ママも立派になったせんちゃんの晴れ姿が見たいわ。」

千里「うっ、うっ…」


   泣いている。



○原村高原小学校・体育館

   卒業式。


   麻衣、泣く。他にも泣いている生徒はいる。


   卒業証書授与。健司、取りに行く。


   健司、戻ってくる。


麻衣M「健司?健司が泣いてる…」


   健司を見る。


健司「何見てんだよ?」


   手払いをする。


 

○上川城南小学校・体育館

   卒業式。千里は、涙をこらえている。


   卒業証書授与。千里、我慢するが号泣。



   千里のピアノ伴奏。6年生児童、歌う。



○同・教室

   金子先生と児童。


金子先生「小口千里君。」

千里「はい…」


   教壇の前に出る。


金子先生「小口千里君。君は、4年生の時に転校をして来てから色々とありましたが初めに比べて強く男の子らしくなりましたね。優しさと思い遣りは君のとても良いところです。中学校へ入ってこれから大人になってもその柔らかい心を忘れずに生きてくださいね。それと君はとてもピアノが上手い。中学校に行っても頑張ってね。卒業おめでとう。」

千里「ありがとうございます…」


   泣きながら席につく。後藤、小平笑って千里をこずく。


後藤「この、泣き虫千里!」

小平「でも、今日の涙だけは許す。」


   二人も泣きながら千里を慰める。



○原村高原小学校・校門

   下校。麻衣と健司。


麻衣「健司…」


   健司、強がって涙を拭う。


麻衣「あんたが泣くなんて…」

健司「いけねぇーかよ?俺だって人なんだ!涙だって出るに決まってんだろ!」


   涙を隠す。


麻衣「ほんなむきにならんでよ。私はあんたを責めてる訳じゃないし笑ってもないわ。」


   健司の頭を撫でて微笑む。


麻衣「ほらほら、もうじき中学校に入るんよ。だでへー泣かんだ。」


   そっと涙を拭う。


健司「お前だって泣いてんじゃんか!」

麻衣「女の子はいいの。」

健司「ちぇっ。狡いな女の子って…」


   二人、歩いていく。



○小口家・台所

   千里、泣いている。


珠子「泣き虫さん。もう泣くのはお止めなさい。ほら!」


   お茶とお菓子を出す。


珠子「菊花茶と桜餅よ。お食べなさい。」

千里「ありがとう…」


   食べ出す。


千里「美味しい…」


   食べ終わる。


千里「ごちそうさま。僕、遊んでくるね。」

珠子「いってらっしゃい。鐘が鳴ったら帰るのよ。」

千里「分かってるよ。」


   千里、笑って退室。珠子、笑う。


   ***


   麻衣、森の中。石台に腰掛けている。



○小口家・千里の部屋

   別の日。千里一人。インコと戯れている。


千里M「麻衣ちゃん、叉会えるかな?遊びたいな…」


珠子の声「せんちゃん?」


   珠子、入室


珠子「春休みのお勉強は?」

千里「もうやりました。」

珠子「あら、叉ルルとお話をしていたの?」

千里「うん。」

珠子「せんちゃんは本当にインコが好きね。」

千里「うん!」


   うっとり


千里「こいつ、いつも受け身なんだ。一言も喋ってくれない。たまには僕に何か喋ってくれないかしら?」

珠子「そうね…せんちゃんはルルとどんなお話がしたいの?」


   にっこり。


珠子「あー分かった。ママやパパに怒られた時の愚痴を聞いて貰いたいんだな?」

千里「(慌てて)ち、違うよ!」


   夢見心地


千里「麻衣ちゃんと叉会いたいなぁってルルに話していたの。あの子と叉遊びたいなぁって。」

珠子「麻衣ちゃん?」


   少し考える 


珠子「あぁ、柳平さんのご息女の!


   笑う


珠子「せんちゃんも男の子なのね。」

千里「え?」

珠子「その子の事が好きなんでしょ?」


   千里、紅くなって下を向く。


珠子「図星ね。」

千里「ち、違うったら!僕はまだそんな…」

珠子「(笑いながら)まぁいいわ。降りていらっしゃい、ご飯よ。」

千里「はーい!」


   千里と珠子、部屋を出る。