『石楠花物語高2時代』
○岩波家・客間の和室
岩波茂と岩波健司。向かい合って座っている。
健司「はぁー!?」
震えながら卓袱台を叩く
健司「何だよ親父ほれ?」
岩波「今言った通りだよ。ハンガリーに行く。」
健司「ハンガリーって…バカか?冷静になれよ!大体、酒・IWANAMIはどうなるんだ?それに俺だって兄貴だって学校あるんだぜ?やめろって言うのかよ?転校しろって言うのかよ?俺は絶対に嫌だよ!」
岩波「健司…」
悪戯っぽく健司を見つめる。
岩波「ハンガリーには父さん一人で行くから安心しろ。」
健司、安心のため息をつく。
岩波「しかし酒・IWANAMIが心配になる。だから健司、私が留守の間はお前に会社を任せる。」
健司「は、はぁ?」
岩波「いい機会だ。今から会社に入れば将来のいい勉強にもなるだろう。」
健司「そ、それってまさか俺が後継をするってこんか?」
岩波、頷く。
親父「(声を荒げる)勝手に決めつけんじゃねぇよ!俺は継ぐなんて嫌だからな!」
岩波幸恵がお茶を持って入ってくる。
幸恵「だったら誰が会社を継ぐと言うの?」
健司「兄貴がいるじゃねぇか!」
幸恵「悟は大学生だからダメよ。そうなるとあなたしかいないじゃないの。」
健司「だったら兄貴が卒業して帰ってくるまで待ってろよ!俺だってまだ高校生なんだぜ。大体どいで日本酒会社の社長がハンガリーなんかに行かなきゃいけねぇんだよ?」
幸恵「お父さんにもお考えがあるのでしょ。だから健司、よろしくね。」
健司「ちぇっ…」
健司、鼻を鳴らして退室
幸恵「健司、じゃあお見合いのアポもとっていいわね。」
岩波「そうだな、ご先方に連絡しておこう。」
健司「(戻ってくる)は!?見合いって…」
健司、イライラ。呼び鈴。
健司「はーいはいっ。」
○岩波家
健司「ん?」
麻衣「よっ!」
健司「麻衣じゃねぇーか。どうした?」
麻衣「どうもしないわよ。」
近付く。
麻衣「ただ何となく、遊びに来ちゃった。いけん?」
健司「いけんくないよ。」
健司「上がれよ。お袋と親父もいるけどいい?」
麻衣「勿論!」
○同・居間
健司「お袋に親父、麻衣が来たよ。」
麻衣「お邪魔します。」
岩波「おぉいらっしゃい。健司の友達だね。」
麻衣「えぇ。」
健司「幼稚園の時からの幼馴染みなんだ。」
健司「あ、ちょうどいいや。この際だから言うわ。親父、お袋、」
真剣
健司「俺、結婚を前提に柳平麻衣と付き合ってんだ。だから見合いなんて不要だよ。俺、卒業したらこいつと結婚するから。」
麻衣、真っ赤になって健司を見る
麻衣「何言い出すんよ!」
健司、麻衣を黙らす。
健司「(耳打ち)わりぃ麻衣、とりあえず事情は後で話すから俺に話を合わせてくれ。頼む。」
麻衣「え、えぇ…分かったわ。」
幸恵「麻衣ちゃん、本当に?」
麻衣「えぇ…」
幸恵「それなら安心だわ。あなたみたいな優秀で素敵な女の子がうちに来てくれるだなんて!そういう事ならお見合いの話はなしに致しましょう。」
岩波「そうだな。じゃあ麻衣さん、楽しみにしているよ。」
麻衣「えぇ…」
○同・健司の部屋
麻衣「なぁ健司、どいこん?」
健司「お袋の話聞いたろ。そいこんだよ。お袋と親父は近い内、俺に見合いさせようとしてるんだよ。」
麻衣「お見合い?」
健司「そ。若い内から後継者作るためだってさ。
(鼻で笑う)
健司「これじゃあまるで昔の殿様や天皇だよな。」
麻衣「本当。それでお見合いをおしゃんにするために私を?」
健司「悪いな麻衣。でもこうでも言わねぇと俺、マジで見合いさせられるんだよ。」
麻衣「あんたも大変ね。いいわ、私に出来る事だったら何でも言って。」
健司「ありがとう麻衣、恩に着るよ。」
麻衣「何よ、堅いわ。」
二人、笑う。
○同・庭先
数時間後。
麻衣「ほいじゃ私、帰るな。今日はありがとう。」
健司「こちらこそ。楽しかったよ。」
ニヤリ
健司「でもどうやって帰るんだ?へー最終行っちまったぜ。」
麻衣「え?」
大きく微笑む。
麻衣「ほいじゃあ歩いてく!」
健司「歩いてくって…」
目を見開いて抱いていた子猫を手放す。子猫、健司の健司の足に隠れて麻衣を見つめる。
健司「ここから駅までか?」
麻衣「そうよ。ここから駅まで。」
健司「バカかお前!一体歩いて何時間かかると思っているんだよ?」
自転車を持ってくる。
健司「乗れよ、」
麻衣「え?」
健司「すずらんの里まで送る。」
麻衣「いいわよ。」
健司「ぐずぐずしてると夜中んなるぞ!」
健司、麻衣を自転車の荷台に乗せる。
健司「しっかり捕まってろよ、15分で飛ばしてやる!」
麻衣「安全運転でな。」
健司「分かってって!」
健司、物凄いスピードで走り出す。
健司「ヘヘッ怖い?少しスピード落とそうか?」
麻衣「大丈夫よ!ほのまま飛ばしてちょうだい!」
健司「了解!」
○すずらんの里駅
待合室。
麻衣「はぁ楽しかった。」
健司「だろ。俺、飲み物買ってくるわ。」
数分後。
健司「ほいっ。」
麻衣「ありがとう!」
飲む。
麻衣「くぅっ!とっても美味しい。」
健司「な。」
時刻表を見る。
健司「お前の乗る電車までは後40分もあるな。」
微笑む。
健司「時間まで俺もここにいるよ。」
○柳平家・縁側
座ってラムネを飲んでいる。
麻衣M「健司、今夜は金星がとっても綺麗よ。今年はどんな夏になるのかしら?」
頬に手を当てる
麻衣M「今日は蒸すのね…」
○岩波家・バルコニー
健司、チョコレートセーキを飲んでいる。
健司M「麻衣、金星がとっても綺麗だよ。今年はどんなに夏になるんかな?」
チョコレートセーキに話しかける
健司「俺は世界一お前が大好きだった。でも今はお前が一番じゃないんだ。俺さ、あのバカ麻衣の事が一番大好きなんだよ。」
飲み干す。
健司「俺はどいで、あいつみたいなブスベアトリスのこんがこんねに好きになっちまったのかな?」
○柳平家・縁側
麻衣「健司…」
そこへ柳平紡、柳平糸織
二人「ただいまぁー!」
麻衣「お、戻ってきたかな?」
麻衣「お帰り。二人とも何処行っとったんよ?」
糸織「あぁ、僕はバイトの面接。」
紡「私は友達の家。あんたは?」
麻衣「私は健司んとこ。」
二人「健司君とこ?へぇ…」
ニヤリ
二人「へぇー…」
麻衣「な、何?」
糸織「君、確か健司くんと付き合ってるんだよな?」
紡「いいねぇ。」
麻衣「まな。」
立ち上がる
麻衣「夕飯何食べる?」
○同・台所
夕食。三つ子のみ。
紡「ふーん。それで健司君と諏訪湖花火大会に行く事になったのか。」
麻衣「そう言う事。」
糸織「しかももう原村祭りの約束までしてあるなんて、君達ラブラブしてるね!」
麻衣「からかわないで!」
○諏訪湖
花火大会。健司、ジュースを飲みながらキョロキョロ。そこへ麻衣が走ってくる。
麻衣「健司!」
健司「麻衣!」
麻衣「遅くなってごめんな。」
健司「遅すぎだ!」
麻衣「だでごめんなって言っとるに!」
健司、にっこり。
健司「いいよ。」
お腹がなる。
健司「じゃあまずは何か食材買おうぜ。」
麻衣「そうね。」
健司「やりぃ!」
二人、屋台通りを歩き出す。
健司、大量の食材を抱えている。麻衣、呆れる。
麻衣「あんた、ほんねに買ってどーするつもりよ?」
健司「勿論食うに決まってんじゃん。」
麻衣「ほれを全部?
呆れて
麻衣「あんたさぁ、花火大会なのよ?食べに来たんじゃないのよ。」
健司「そんなの分かってるさ。ほいだけど二時間だぜ?こんだけ食いもんもなきゃ足りんじゃん。」
麻衣「呆れた!あんた終わるまでずっと食べ続けるつもり?」
健司「ほのつもり。」
麻衣「へー私はどうなったって知らん!」
健司「知らんくていいよぉんだ。」
麻衣「私達のゲートってここ?」
健司「五番ゲート、ほーだな。入ろう!!」
麻衣「えぇ。」
二人、入っていく。
最前列。二人、食べたり飲んだり。花火始まっていない。
健司「麻衣…」
麻衣を見て微笑む。
健司「お前ってやつは、どいで今日もメガネかけてきてんだよ?」
麻衣「ほいだって花火が何にも見えんだもん。」
健司「お前は四六時中眼鏡だよな。いつメガネとってんだよ。」
麻衣「お風呂入る時だけよ。」
健司「嘘こけ!ガキの頃は寝る時だってかけてた時あんじゃんか。どいでかけてる必要があるんだよ?」
麻衣「大有りだに!夢がぼやけて見えんじゃん。」
健司「ばーか!」
麻衣「とにかく私は、あんたが思う以上にド近眼なんです!」
健司「見たいな、ブスベアトリスの素顔…」
麻衣「機会があればな。ん、始まるに。」
始まる。
終盤。水上スターマインが上がり出す。健司、麻衣を見る。麻衣、涙をためて見ている。
健司「…。」
フッと笑う。健司の足元に500のペットボトルが4本空。一本は飲んでいる。健司、目は花火に釘付けのまま飲み食い。
○柳平家・庭先
車を降りる麻衣。
麻衣「ほいじゃあな健司、今日は誘ってくれてふんとぉーにありがとう。」
健司「いや、こちらこそ」
キザっぽく小さな声で
健司「ゆっくり休めよ。」
麻衣「ありがとう、あんたもな。」
麻衣「健司のお母さん、こんなところまで送っていただいて本当にありがとうございました。」
幸恵「いえいえ、こんな息子だけどこれからもよろしくね。」
麻衣「はいっ。」
健司「次はよいしょだけど、来れるか?」
麻衣「楽しみにしとる。」
健司「ん!」
手を振って別れる。車は出ていく。
○原村役場前
一週間後。麻衣一人。キョロキョロしながら時々、時計を見て立っている。
麻衣「健司のやつ遅いわねぇ?へー1時だに。」
心配そう
麻衣「いつもならあいつ、待ち合わせより一時間も早く来て不機嫌そうに待ってるだに、何かあったんかしら?」
麻衣、歩き出す。
○岩波家
麻衣、ベルを押す。
麻衣「こんにちは。健司?健司おる?」
ゆっくりドアが開く。健司、寝巻き姿で怠そうな顔。マスクをしている。
健司「何だ、麻衣かよ。」
麻衣「あんたどうしただ?大丈夫?」
健司「お前っつー女は…」
咳をしている。
健司「相も変わらずぎゃーぎゃーうるせぇ女だなぁ。ただ風邪引いたんだよ。」
麻衣「熱もあるの?」
健司「あぁ、だで悪い。俺は行けんわ。」
健司、ドアを閉めようとするが麻衣が止める。
麻衣「ちょっと待ちなさいよ!」
健司「何だよ?」
麻衣「今日お母様は?」
健司「お袋は仕事だよ。」
麻衣「ならどうせあんた何も飲み食いしとらんだら?私が来てよかったわ。」
家に上がり込む。
麻衣「何か作る、あがるに。」
麻衣、健司を支えて寝室に行く。健司をベッドに寝かす。健司、フッと笑う。
麻衣、健司に氷枕をしたり氷嚢を作ったりしている。健司の額に手を当てる。
麻衣「かなり熱あるじゃないの!」
健司「へーいいで帰れよ。うつるぞ…」
麻衣「私が帰ったらあんたどうする気?一人じゃ何にも出来んくせに格好いい事言わんで!何か食べれる?食べたいもんある?」
健司「お前のチョコレートケーキ…」
麻衣、呆れる。
麻衣「あんたねぇ、そんな体でほんなもん食べちゃダメに決まっとるらに。消化が良くて食べやすいもん作って来てやるわ。待ってな…」
麻衣、るんるんと退室。
麻衣の声「よーしっと柳平麻衣!可愛い彼のために一肌脱ぐに!」
健司、弱くクスッと笑う。
健司M「あいつは病人目の前にして、よくもまぁあそこまで騒がしいな。いい気んなりやがって。」
麻衣、キッチンに立って冷蔵庫の中を見ている。
麻衣「お、さすがは原村!セルリーがある!ほれと梅干しも!」
健司、ギクリとして布団に顔を埋める。
数十分後。お盆を持った麻衣が入ってくる。
麻衣「お待たせ健司、ごはん出来たに。」
健司「待ってました!」
麻衣、小さな卓袱台にお盆を置く。健司、起きて卓袱台につく。健司、お盆を見て眉をしかめる。
健司「雑炊に白菜のお浸し、夕顔の味噌汁…何だよこれ?」
麻衣「何だよこれじゃないに!あんたの体を考えて作ったんよ!」
健司「えらい地味だな。」
麻衣「弱っている時にはこういうもんが一番いいんです!文句言わんで食べ!」
健司「ほーい。」
食べ始めると笑顔になる。
健司「んー旨いや!お前は何を作っても最高だな!こんな旨い病人飯なら俺、いくらだって食えるよ!」
麻衣「まぁ、ついさっきまでブーブー文句言ってたの誰だったかやぁ?」
健司「あれはへー取り消し!お代わり!」
麻衣「何を?」
健司「全部!」
麻衣「病人だによく食うこと。」
健司「俺、具合悪くても食欲だけは誰にも負けねぇーんだ。」
麻衣、微笑んで退室。
麻衣「(去り際に)あ、健司君?」
健司「何だよ、気持ち悪いなぁ…」
麻衣「後でお薬飲まなくちゃね。」
健司「薬?薬なんていいよ。」
麻衣「子供みたいなこん言わんの。あんただって早く治したいら?早く治したきゃ言う事を聞く。こいときゃ女性の言うこんは聞くもんだに。」
健司、不機嫌
健司「(小声)チエッ。誰が女性だよ、ブスベアトリス…」
麻衣「ん、今何か言った?」
健司「別になーにも…」
食後。健司、しかめっ面をして薬を飲んでいる。
麻衣「よく飲みました。ご褒美に口直し、飲んでみ。」
健司「口直し?」
健司、恐る恐るコップの匂いを嗅ぐ。
健司「何だよこれ?」
麻衣「私が幼いこんから私たちが熱を出すと必ず母さんが作ってくれた特性ドリンクよ。かりんのシロップ漬けの大根をお湯で割って生姜の絞り汁をいれたもんなの。体が暖まるし風邪によく効くんよ。」
健司「頂きます。」
健司、飲み出す。
健司「ん、こりゃ旨いや!」
麻衣「良かった。」
健司「なぁ麻衣、これ俺にも作り方教えてくれねぇーか?」
麻衣「勿論いいに。元気んなったら教えてやる。」
健司「あぁ。」
健司、全部飲み終わる。麻衣、お盆を持って立ち上がる。
麻衣「ほいじゃあ健司…」
退室しようとする。
健司「おい、へー帰っちまうのかよ?」
麻衣「帰らないわよ。おばさんが来るまでここにいてあげる。」
健司、微笑む。
健司「あぁ。」
麻衣、退室。
○同・居間
18時。麻衣、居眠りをしている。そこへ、幸恵が帰宅。
幸恵「あら、麻衣ちゃんじゃないの!」
麻衣、びくりと飛び起きる。
麻衣「あ、おばさん!ごめんなさい。」
幸恵「いいのよ。遊びに来ていたのね。健司は?」
そこへ健司。
健司「あ、お袋帰ったんだ。」
幸恵「健司どうしたの?具合悪いの?」
健司「10時頃から熱っぽくてさ…」
幸恵「嫌ね、風邪?」
麻衣を見る。
幸恵「もしかして麻衣ちゃん、この子の看病を?」
麻衣「いえ、私はただ健司にご飯を作ってあげただけです。よいしょの待ち合わせに来ないので心配になって来てしまったんです。そしたら…」
幸恵「そうだったの。ごめんなさいね、折角のあなたの貴重な時間を…」
麻衣「いいえ、私が勝手にやったこんですから。」
幸恵「(微笑む)麻衣ちゃんみたいに健司の事を心配してくださる素敵な女性がいて私も嬉しいわ。」
買い物袋を置く。
幸恵「さあ、折角ですから麻衣ちゃんもお夕食食べていらっしゃいな。」
麻衣「いいですよ、ほんな申し訳ないです。」
幸恵「遠慮しないで。麻衣ちゃんなら大歓迎よ。」
健司「ほーだよ、食べてけよ。」
麻衣「ほんならお言葉に甘えて。」
幸恵「どうぞどうぞ!」
健司、ソファーに座って本を読み出す。幸恵、健司を見る。
幸恵「健司、あんたは寝てなさい。」
麻衣「ほーよ、寝とらんくちゃダメよ。」
健司「大丈夫だよ、熱も大分下がってるし。俺だって起きれるから起きてんだよ。具合悪きゃ俺だって寝てる。」
麻衣、幸恵と共に台所に立つ。
麻衣「おばさん、私も何かやります!」
幸恵「いいわよ、お客様なんですから座ってて。」
麻衣「とんでもない!食べさせて頂くんですから私にも何かやらせてください。」
幸恵「そう?ありがとう。じゃあね…」
健司を見る。
幸恵「健司、こんな優秀な娘さんであんたも幸せ者ね。」
健司、本で顔を隠しつつ真っ赤になる。
幸恵「あんたも麻衣ちゃんをお嫁さんにするんだったらもう少しお行儀よくならなくちゃね。」
健司、吹き出して咳き込む。
麻衣「もぉ大丈夫?あんたはやっぱり寝てなさい!」
麻衣、強引に健司を部屋に連れていく。
夕食時。健司、麻衣、幸恵。
幸恵「さぁ召し上がれ!麻衣ちゃんのお陰で助かったわ、ありがとう。」
麻衣「いえいえ。」
鍋料理と煮物、和え物。
幸恵「このお煮物は麻衣ちゃんのお手製なのよ。」
健司「おー!」
煮物を食べる。
健司「最高!」
幸恵、フフっと笑う。
幸恵「あんたはお野菜いつも食べないくせに、麻衣ちゃんのお料理ならお野菜もきちんと食べるのね。」
健司「だって旨いんだもん!それに比べてお袋の手料理は…叉笠増し飯か。手抜きもいいとこだよな。」
麻衣「健司!こんなに美味しいもの作ってくれただに文句言わんの!」
幸恵「いいのよ麻衣ちゃん、この子はいつもこう言う子なんだから。」
健司「ほ、ほいこん。」
麻衣「あんたも開き直らんの!」
健司をこずく。
幸恵「でも健司…」
健司「ん?」
幸恵「あんた分かってる?夏休みが終わったら会社へ研修に行くのよ。」
健司、ふんっと鼻を鳴らす。
健司「チエッ。親父のやつ、勝手にハンガリーなんかに行きやがって。ま、小遣いくれるってんだで行ってやるけど俺だって本当は色々やりたいこんがあるんだからな。」
箸を止めて腕を組む。
健司「大体、日本酒会社の社長がどいでワインに手を出すんだ?さっぱり分からん…」
幸恵「父さんにもきっとお考えがあるのよ。」
健司「お袋は親父に甘いんだで。俺まだ高校生だぜ?ほれなんに何で未成年の俺に会社押し付けるんだよ!意味分からねぇよ!」
健司、自棄になってご飯をかき込む。麻衣、呆れ笑い。健司を宥める。
食後。麻衣と幸恵、洗い物をしている。
幸恵「悪いわ麻衣ちゃん…こんな事までやらしちゃって、もう休んでて。」
麻衣「いえ、大丈夫です!」
健司、炬燵に入って携帯を弄っている。
健司「全くだ。ふんとぉーに麻衣はくそ真面目にやりすぎなんだよ。」
幸恵「あんたはもう少し麻衣ちゃんを見習いなさい。」
健司「又ほれかよ。」
麻衣「はい、終わりました。」
幸恵「ありがとう、とっても助かったわ。」
健司「なぁ、お袋。麻衣を家まで送ってってくれよ。このバカが又とんでもねぇーこん言い出す前に、な。」
幸恵「そのつもり。可愛い女の子を一人で帰らすなんて出来ないもの。」
麻衣「ほんなぁ、いいんですのに。」
健司「バカ!俺のこんも考えてくれよ麻衣!」
麻衣「健司…」
健司、恥ずかしそうに下を向く。
麻衣「(悪戯っぽく)はーい。」
健司、上目で麻衣を見ながら小粋に微笑む。
○同・庭先
幸恵「さぁ、麻衣ちゃん乗って。」
麻衣「ではお邪魔します。」
麻衣、乗ろうとする。そこへ健司。
麻衣「バカ、どいで出てきたんよ?戻りなさい!」
健司「お前の見送りをしに来たんじゃねぇか。」
咳き込む。麻衣、健司の背をさする。
健司「サンキュー、大丈夫大丈夫。」
麻衣「何が大丈夫よ!全然大丈夫じゃない!」
健司「今日はありがとな。嬉しかったよ。」
麻衣、健司の額に手を当てる。
麻衣「熱は大分下がったようね。今度はお医者様のお母様が着いていらっしゃるから安心。もうすぐ学校なんだでゆっくり休んで早く治すんよ。」
健司「うん、お前もな。ゆっくり休めよ。」
麻衣「又学校が始まったら元気に会お。」
健司「お。」
咳き込む。麻衣、健司の背をさする。
健司「ん、サンキュウ…」
麻衣「だでへー家ん中入ってて。私のためにも、な。」
健司「分かったよ。お前も車乗れよ、お袋も待ってんぞ。
キザっぽく
健司「女の子は体冷やしちゃいけんからな。いくら夏とは言えども…」
麻衣「高原の夜は冷えるからって言いたいんずら!私の心配よりも自分の心配して!」
麻衣、乗り込む。車は走り出し、健司、手を振って見送る。
幸恵「健司、薬飲んでちゃんと寝てるのよ。」
健司「分かってるよ。」
健司、車を見送ると咳をしながら家の中に戻っていく。
○京都デパート・サービスカウンター
千里、ギフトコーナーでサマーギフトのバイトをしている。
スタッフ「小口君、大丈夫?顔色悪いよ。」
千里「この間から少し風邪っぽくて。でも体調は何でもありませんから大丈夫です。」
数十分後。
千里「んぅっ…」
千里、口と胸を押さえる。
千里「ごめんなさい!数分休憩下さい!」
急いでカウンターを出ていく。
スタッフ「ちょ、ちょっと小口君!?」
○同・従業員男子トイレ
千里、個室に飛び込む
千里「ううっ…」
前屈みになって嘔吐。
数分後。千里、個室を出る。
手洗いに同僚。
同僚「小口君じゃないか。休憩か?」
千里「はい、何か急に…うぅっ…」
流しに嘔吐。同僚、驚いて背を擦る。
同僚「おい!?どうした?具合悪いか?」
千里「何か急に気持ち悪くなっちゃって…どうしたんだろ僕?うぅぅっ…」
同僚「大丈夫か?早退したほうがいいんじゃないか?」
千里「いえ、大…丈夫…」
千里、倒れそうになる。同僚、慌てて千里の体を支える。
同僚「おいっ、小口君!小口君!おい!」
千里の額に触れる。
同僚「熱があるじゃないか!」
千里を抱き抱えてトイレを出る。
○小口家・千里の部屋
千里、ベッドに朦朧と寝ている。近くに夕子。タオルを絞って千里の頭に乗せる。
夕子「バカだねぇあんた、熱があるのにバイトへ行ったのかい?」
千里「さっきまでは本当に何でもなかったんだ。少し風邪っぽかったのはあったけど元気だったから出勤したんだよ。」
夕子「来週はピアノの試験なんだろ?しっかり休みな。」
千里「うん、ありがとうおばさん…」
夕子「何か食べれるかい?」
千里「うん、少しなら…」
夕子「じゃあ消化にいいもの作ってきてやるからね、待ってな。」
千里「うん。」
千里、携帯を手にとってまじまじ。
千里M「麻衣ちゃん、今頃どうしているかな?会いたいな。」
***
(フラッシュ)
その頃。麻衣、縁側でスイカを食べながら満月を見ている。
○小口家・千里の部屋
十数分後。千里、雑炊を食べている。
夕子「どうだい?食べれるか?」
千里「美味しい、ありがとうおばさん。」
夕子「この子は心配ばっかりかけやがって!わたしゃ寿命が縮まるよ。」
千里、微笑んでハフハフ。
夕子「食べたら薬も飲むんだよ。」
千里「はーい。」
夕子、退室。
夕子の声「あの子まさか、食中毒じゃないだろうねぇ。」
千里、ニコニコして食べている。突然ビニール袋に嘔吐。
千里「うぅっ…」
千里、胸を擦る。
千里M「一体どうしたんだろ僕…」
翌朝。千里、目覚める。そこへ夕子。
夕子「目が覚めたか?気分はどうだい?」
千里「おばさんおはよう。お陰で昨日よりはいいよ。」
夕子「そうかい、良かった。今日もゆっくり休んでな。無理しちゃダメだよ。」
千里「分かってるよ。」
ベッドの下を見る。ポータブルトイレ。
千里「何これ?」
夕子「昔あんたのばあちゃんが使ってたやつがあったもんで出してきたんだ。外のトイレまで出るの辛いだろ?特別だよ、使いな。」
千里「おばさん…」
微笑む。
千里「でも…」
近くにすぐ窓がある。カーテンもない。窓の下は大通り。
千里「せめてカーテンとかなんかないの?」
夕子「いちいちいちいち具合が悪くてもうっさい子だねぇ!」
千里「しょうがないだろ。僕だって年頃なんだし…」
夕子「ほれなら私が盾んなってやる。ほの陰なら良いだろ。」
千里「嫌っ!絶対に嫌っ!!」
夏休み明け。千里、げっそり。登校の準備をしている。
数分後。玄関に向かう。
千里「行ってきまーす!」
夕子、居間から出てくる。
夕子「大丈夫なのかい?無理はいけないよ。」
千里「大丈夫さ。今日はどうしても行かなくちゃ。大事な留学が懸かってんだ!」
千里、飛び出していく。夕子、心配そうに見送る。
○諏訪若葉高校・教室
麻衣が入ってくる。
麻衣「はよーん!」
永田咲李、湖都、萌恵が集まって話をしている。
麻衣「何話してただ?」
咲李「あ、麻衣だ!」
湖都「待ってたのよ。」
萌恵「早くこっち来てよ。」
麻衣「?」
咲李、ニヤリ。
咲李「この休日はロマンティックに送れたかしら?」
湖都「青春ぶりっこしちゃってさ。」
麻衣「何の話?」
萌恵「とぼけたって無駄よ。彼氏がいるんでしょ?」
麻衣「えぇ!?」
湖都「デート現場目撃した人が教えてくれた。」
萌恵「だからもう学年中に広まっているわ。」
咲李「どんな子なのよ?」
萌恵「目撃した奴によれば背は麻衣より低いくらいでやせ形、でも物凄い美男子でハンサムだったって。」
湖都「へぇー!うらやましいー!」
麻衣、得意気に
麻衣「当たり前ずらに!まいぴうの選んだ男の子だだもん。ハンサムに決まってるじゃあ!」
咲李「こいつ自分で言ってるよ。」
麻衣をこずく。
咲李「で、彼は何処に住んでるの?諏訪?下諏訪?」
麻衣「原村だに。“酒・IWANAMI ”の後取り君。少々お言葉は悪いけど紳士なのよ!」
うっとり。
麻衣「いっつもちびなんに男らしさだけはいっちょ前でさ。キザな甘い台詞を連発。もう彼に告白された時は白馬の王子様が現れたんだって思ったわ。」
湖都・咲李・萌恵「きゃあーっ!」
咲李「何それ!」
湖都「そんな物語みたいな恋愛って本当にあるのね!」
萌恵「しかもなぬぅー?あの“酒・IWANAMI "?」
三人「いいなぁー!」
そこへ、宮澤達弥、高橋司、小平海里
高橋「何話してんだ?白馬村の彼氏がなんだって?」
小平「柳平の彼氏が白馬村にいるんだってよ。」
高橋「白馬村か。遠距離だな。」
湖都「ちょっと盗み聞き?」
萌恵「嫌らしいわ。」
麻衣「白馬村じゃないわ!白馬の王子様!」
宮澤「そうだよ、盗み聞きなんて良くないよ。」
咲李「だから女の子にモテないのよ!」
宮澤「って…」
申し訳なさそうに頭をかく。
宮澤「ごめん、そういう僕もそうだった。」
麻衣「あんたはいいんよ。いい子だで。」
高橋「おいっ!どいで達弥にはいい顔してんだよ?」
女子たち「あんたらとは違って達弥はずけずけしてないからよ!」
麻衣「達弥、変なのにはあまり振り回されるんじゃないに。」
咲李「本気で相手にしない方がいいよ。」
湖都・萌恵「バカがうつるから。」
女子たち、大笑い。
麻衣「ちょっとやめなさいよぉ、ほれは流石に言い過ぎだに!」
麻衣もクスクスと笑っている。
○諏訪実業高校・音楽室
健司、バイオリンを弾いている。そこへ小野。健司の肩を叩く。
小野「よ、いっちゃん。」
健司「あぁ、海里か。何?」
手を止める。
小野「お前はいつもつれねえ返事だな。」
健司「つれなくて悪うござんしたね。」
小野「んで?最近どうだ?」
健司「は?」
小野「柳平麻衣って子と付き合ってんだろ。」
健司「まあな。」
クールに
健司「あいつはふんとうに大した女でさ、そうは見つけられねぇいい女なんだぜ。」
小野「かなり自慢だな。」
健司「もちろん。」
立ち上がってチャールダーシュを踏み出す。
健司「お前にだけはたっぷり自慢してやるよ。今日、学校終わってからもデートでさ、あいつの家に行くんだ。」
小野「お呼ばれデートってやつか。」
健司「そ!それで一緒にドリンク作って飲むんだ。」
ルンルン
健司「将来もし、あいつの花婿んなりゃ俺は逆玉の輿だぜ。」
小野「どいで?」
健司「あいつはなぁ、すでにハンガリーで認められてる花形チャールダーシュプリンセスなんだぜ。だから将来は絶体ビックんなるに決まってるんだ。」
***
(フラッシュ)
麻衣「くしゅん!!くしゅん!!」
○柳平家
健司と麻衣。
健司「お邪魔しまぁーす…」
麻衣「どーぞ。」
二人、中へ入る。
健司「お前んち来るのははーるかぶりだな。」
麻衣「ほーね。」
健司「つむとしおは?」
麻衣「あぁ、つむもしおもバイト。二人とも夕方まで戻らんに。会いたかった?」
健司「いや、ただどーしとるかなーっともって。」
麻衣「分かった。ほいじゃあ後であんたが二人に会いたがっとったっつって伝えとくな。」
健司「だーでーっ!」
麻衣「はいはい、ほーやってすぐに怒らない、拗ねない。早くやるに。」
健司「あぁ!」
麻衣、材料を並べる。
麻衣「では使うものは」
健司「はいはい、」
麻衣「果林水に果林のシロップ漬け、生姜に凍み大根、梅干しだに。」
健司「おえっ!!」
麻衣「あんたは梅干し大っ嫌いよね。」
健司「俺が一番大っ嫌いなもんだ!!」
麻衣「次行くに。まずはグラスにお好みの量のシロップを入れて、三倍の量の水で割ります。冬はお湯でな!」
健司「ほいっ。」
麻衣「ほしたら下ろし金で生姜を刷って…」
健司「…ん?」
下ろし金を手にもって見つめている。
麻衣「何やっとるんよあんたはぁ!!下ろし金の使い方も知らんだけやぁ?こう使うんよ、見てて。」
麻衣、生姜をする。
麻衣「ん、やってみ。」
健司「こうか?」
麻衣「ほーほー、上手いに。」
健司、テレる。
麻衣「ほしたらすった生姜の汁をグラスに入れます。」
健司「おぉー旨そう。」
麻衣「戻した凍み大根と果林の実を食べやすく切ってからドリンクに浮かべる。お好みで梅干しも。」
健司「俺は梅干し入れんよ。」
麻衣「勿論ほれはどっちでもOK。これで出来上がり!!」
二人、ソファーに座ってジュースを飲んでいる。
二人「くはーっ!」
健司「うめっ。」
麻衣「だら。」
健司「これからもこれ、作ってね。」
麻衣「いいに。あんたもチョコレートセーキ作ってね。」
健司「お前のチョコレートケーキもね。」
二人、笑う。
麻衣「私、あんたとおれて幸せ…」
健司「何だよいきなり」
麻衣「私の側からいつまでも離れんでな。あんたみたいに素敵な男、二人といんだで…」
健司「離れねぇよ。いつでも旨いもん作ってくれる大和撫子をほー易々と手離せるかって。」
麻衣「健司…」
うっとりと。
麻衣「クラスのみんなも言っとったに。柳平麻衣は花の王子のようなハンサムボーイと付き合ってるって。」
健司「何だよお前、べらべら余計なこん喋ってんじゃねぇーよ!」
麻衣「私は何も言っとらんに。」
健司、自慢気
健司「へーバレてんなら仕方ねぇな。奴らが俺のこんほんな風にいってんなら…」
健司「だったらこれからうんと自慢してやりな。」
麻衣「は?」
健司「俺はへー、お前のこん自慢しまくったぜ。」
健司、麻衣を膝枕をさせる。麻衣、目を閉じる。
二人、そのまま眠る。
○京都芸術高校・教室
千里、敷田、藤丸。
敷田「この試験、留学勝ち取るのはもう決まってるよな。」
藤丸「そうそう、お前しかいねぇもん。」
敷田「お前がいる限りピアノ部門じゃ誰も叶わねぇーぜ。」
千里「えぇ?そんなことないよぉ?」
藤丸「嘘こけ、自分でもそう思ってるくせに。」
敷田「だってお前、1学期の中間試験でも断トツだったもんな。」
千里「やめろって二人ともぉ…」
敷田「で?今回は何を弾くんだ?」
千里「僕?ベラのチャールダーシュとミッシェルのチャールダーシュだよ。」
藤丸「又チャールダーシュかよ。お前はチャールダーシュ好きだな。」
千里「だって一番弾きやすいしそれに…」
赤くなってもじもじ
○同・奏楽堂
演奏試験中。千里、緊張に震えている。
千里M「僕だ、僕だ、次は僕だ…」
前の人が終わる。
先生の声「小口千里君。」
千里「は、はい…」
震える足。
先生の声「では演奏を始めてください。」
千里「はい…」
演奏が始める。
藤丸「流石は千里だよな…」
敷田「あいつには勝ち目ないぜ…」
千里、一曲目を終える。
先生の声「では2曲目をお願いします。」
千里「はい。」
弾き出す。生徒たち、うっとり。
千里「…?」
曲も中盤。
千里M「どうしよう…何か…」
顔色が悪くなる。
千里M「気持ち悪いかも…」
千里M「どうしよう、助けて」
千里、手を止めて手で口を押さえる。吐血。千里、意識を失っていく。
先生「(駆けつける)小口君っ!?小口千里君っ!?どうしたの!?」
女の子たち、手で顔を覆う。先生、千里を抱き抱える。
先生「試験は急遽中止です!!又改めてやることにします。教室に戻りなさいっ」
先生、千里を連れて退室。
○京都病院・病室
千里と夕子。点滴を付けた千里。ゆっくり目を覚ます。
千里「ここは…何処?」
夕子「気が付いたかい?病院だよ。」
千里「病院…?」
夕子「驚いたよ。急にあんたが試験中に倒れたって聞いてさ、しかもあんた血を吐いたって?」
千里「あぁ…」
下を向く。
千里「ねぇ試験は?僕、試験に行かなくちゃっ!」
夕子、千里を落ち着かせる。
夕子「落ち着けっ!ちょっと落ち着きなよ。」
千里「でもっ、」
千里、泣き出しそうになる。
夕子「あんたはまだ病み上がりなんだ。あれほど無理するなって言っただろう!」
千里、泣き出す。
千里「あんまりだよ…こんなのってあるか!酷すぎるよ…」
夕子「千里、」
千里「この試験が全てだったんだ。この試験のために僕は今まで頑張ってきたんだ。合格が出来ればポーランドのワルシャワへボスワニー・ロマノフ氏のピアノマスタークラスが受けに行かれる、それが僕の夢だったのに。」
ワッと布団に顔を埋める。
千里「もう僕の望みは終わりだ。これからは何を目標に希望を持てばいいの?」
夕子「千里、あんた何を言っているんだい?」
千里「(落胆)僕はもう長くはないんだろ?」
再び横になる。
千里「病名は何なの?後どれくらい生きられるの?余命は?」
夕子「余命だって?」
千里「僕、何聞いたって平気だ。だから正直に教えて。」
夕子「バカだねあんた。あんたはじいさんまで長生き出来るよ。何の病気もないんだって。」
千里「えぇ?」
夕子「ただの過労だろうってさ。体力と食欲が戻り次第退院出来ると。」
千里「そう、」
夕子「試験も改めてやらしてくれるらしいから安心おし。」
千里「本当にっ!?」
千里、嬉しさに泣き出す。
千里「良かった、本当に良かった…」
夕子「全くあんたは、男のくせに泣き虫だねぇ。」
○柳平家・麻衣の部屋
数ヵ月後。麻衣、眠っている。
麻衣の夢の中。白樺高原・コスモス湖岸の畔。磨子、健司、麻衣。
磨子「麻衣ちゃん私、あなたに謝らなくっちゃいけんことがあるの。」
麻衣「何?」
磨子「実はあなたにもらったペンダントを無くしてしまったの。ごめんね、許して。」
麻衣、笑う。
麻衣「何だ、ほんなこん。ほんなの気にしなくてもいいに。」
磨子「ありがとう。」
麻衣「うん!でもあなた今何処にいるの?元気にしているわよね?死んじゃっていないわよね?」
磨子、微笑む
磨子「暑いわね。ちょっと私泳ぐ!」
麻衣「ここで!?」
磨子、下着一枚になって白樺湖に飛び込む。
磨子「わぁー気持ちいい!二人もおいでなさいよ!」
健司「お、俺も俺も!」
パンツ一丁で飛び込む。
健司「うっへー気持ちいい!麻衣、お前も来いよ!」
麻衣「私はいいに、遠慮しとく。」
磨子「本当に?」
麻衣「ふんとぉーに。」
磨子「それじゃあいいの?来ないんなら私が健司のこん奪っちゃうわよ!」
麻衣「ええっ?」
磨子「私、本当は健司の事好きだったんだからねぇー!!」
麻衣「勝手にしろぉ!!」
健司「本気だなぁ!?ほいじゃあ本気で磨子んとこ行くぜー!」
麻衣「ほーい!とか言いながら」
脱ぎ始める。
麻衣「ほんなのダメに決まっとるじゃあ!健司は麻衣の健司なんだから!」
二人、手招きをして微笑んでいる。麻衣、飛び込む。
磨子「じゃあ麻衣ちゃんも私達と一緒に行く?」
不気味に笑う
磨子「大地の楽園に。」
麻衣、飛び起きる。
麻衣「夢…?」
窓に目をやる。紡と糸織は熟睡している。外は土砂降りの雨。遠くで救急車の音
麻衣M「変な夢…でも磨子ちゃんの居場所が大地の楽園って?」
その頃。諏訪湖ヨットハーバー付近。救急車、警察が複数いる。
○同・庭先
翌日。麻衣。柿や野菜を干している。
麻衣「♪〜」
そこへ車。幸恵、岩波悟(19)
麻衣「?」
悟「麻衣ちゃん、久しぶり。」
麻衣「悟ちゃん!!」
近づく
麻衣「はーるかぶりです。どうしたんですか?」
幸恵「麻衣ちゃん、」
二人とも深刻そうな顔。
悟「麻衣ちゃん…僕たちと一緒に行こう。君も一緒に来た方がいい…」
麻衣「え…?」
悟、後部座席のドアを開ける。麻衣、乗り込む。走り出す。
○諏訪湖かりんの里病院
麻衣M「病院…?」
不安げに悟と幸恵を見る。
麻衣「ま、まさか健司に何かあったんですか?」
悟「今ね、父さんも来ているんだけど昨日の夜23時に田中さんから電話がかかって来たんだよ。」
麻衣「田中さんからって?」
幸恵「磨子ちゃんのお父様よ。健司と会ったらしいんだけど、話をしていたら健司が用水路の濁流に流されたって…」
麻衣、青ざめて走り出す。
悟「麻衣ちゃんっ!!」
二人、麻衣を追いかける。
○同・病室
麻衣、駆け込む。岩波、椅子に座っている。カーテンは閉まっている。
麻衣「おじさんっ!!」
岩波「おぉ、麻衣ちゃん!」
麻衣「健司は!?一体健司に何があったんです!?」
岩波、手招き。麻衣、恐る恐るカーテンの中へ入る。
カーテンの中。呼吸器と点滴、心臓のやつを付けられた健司が眠っている。麻衣、息を飲む。
麻衣「健司っ!!」
麻衣、駆け寄る。
麻衣「健司っ!一体どいで?」
幸恵「きっとこれを…」
幸恵、目をやる。テレビ台に手提げ袋。
幸恵「多分あなたへの誕生日プレゼントを選びに行っていたのよ。でもあの子、18時に出てなかなか戻らないから心配し出した頃」
麻衣「…。」
幸恵「田中磨子ちゃんのお父様から突然連絡があったの。用水路に健司が流されたって…」
麻衣、震え出す。悟が体を支える。
麻衣「ほんな、健司…」
泣き出しそうになりながら健司の体を抱き締める。
麻衣「バカね、ほんなの良かっただに。昨日なんて諏訪六中に警報が鳴り響く大雨だったんよ。出歩くなんてあんた大バカよ!」
泣き出す。
麻衣「お願い目を覚まして…。」
悟、幸恵、岩波も悲しそうに麻衣を見ている。
○柳平家
居間。紡、糸織。そこへ麻衣。
紡「お、麻衣お帰り。」
糸織「何処行っとっただ?」
麻衣「…。」
泣きそうな顔で二人を見つめている。
糸織「…?」
紡「麻衣?どうしただ…?」
麻衣「つむ…しお…」
麻衣、静かに泣きながら糸織に泣きつく。糸織、おどおど。
糸織「な、なんだよ麻衣…」
麻衣「どうしよう…健司が、健司が…」
紡「健司君がどうかしただ?」
麻衣、しゃくりあげながら事情を話す。二人とも深刻な顔をして聞いている。
紡「嘘っ…」
糸織「健司君が?」
麻衣、取り乱している
紡「落ち着きな麻衣。大丈夫だで、健司君は絶対に大丈夫だで。」
糸織「健司君もよく言ってたろ。変なこと考えてたらふんとぉーにほの変なこんが起きちまうぞって。」
麻衣「ほうよね…」
落ち着いて立ち上がる。
麻衣「私、へぇ寝る…ごしたい。」
よろよろと退室。二人、顔を見合わす。
紡「寝るってまだ七時半だに…。」
糸織「あぁ。でもありゃ…」
紡「相当落ち込んでるよな…」
麻衣、泣く。
その頃。病室のベッド。健司の指が微かに動く。
○諏訪湖かりんの里病院・病室
三日後。窶れきった麻衣、悲しそうに健司の手を握っている。
麻衣「なぁ健司、あれから三日も経ったんよ。どいで目覚めんの?私、毎日来とるんよ。ほれなんにあんたは無視なの?」
泣く。
麻衣「私のこん、ブスベアトリスって呼んでよ!麻衣って呼んでよ!憎らしいほど得意気な顔して微笑んでよ!なぁ!」
涙が健司の唇に落ちる。健司、麻衣を見つめる。
健司「麻衣…か?」
麻衣「健司っ?」
泣くのをやめて健司を見る。
麻衣「健司っ!?私が分かるっ?麻衣よ、柳平麻衣だに!!」
健司、弱々しく微笑む。
健司「お前は…相も変わらずぎゃーぎゃーうるせぇ女だなぁ。分かるから名前呼んでんだろうに。」
手提げを指差す。
健司「あれ、お前に…。」
麻衣「話は全ておばさんから聞いた。何バカなこんしとるんよ!昨日なんて…」
健司「始まった…又説教か…?」
麻衣「やめて、へー何にも喋らんで。」
健司の口を遮る。
麻衣「待ってて、先生んとこ行って呼んでくるっ!」
慌てて退室しようとする。
健司「(小声で)愛してるよ麻衣…」
麻衣、立ち止まって振り返る。健司、恥ずかしそうにしている。
麻衣「た、健司…今、何て?」
健司、赤くなりながら麻衣を見る。
健司「バカ、二度も言わすんじゃねぇーよ。愛してるよ麻衣…。」
麻衣「健司っ!!」
戻ってきて、健司にバグ。
麻衣「ほの言葉、私ずっと待ってた!私も愛しとる!」
健司、フッと笑って目を閉じる。麻衣、青ざめる。
麻衣「なぁ健司っ?健司どーゆー?健司、ねぇったら!」
健司「ったくお前ってやつはぁ…ただ眠いんだよ。お前がいたんじゃ安心して眠れもしねぇーな。」
呆れたように笑う。
健司「ほら、はーく行けよ…」
麻衣、心配そうに出ていく。
数分後。看護婦、血圧などを計っている。
看護婦「正常です。良かったですね岩波くん。他に何処も悪いところはないようですので様子を見て順調ならば9日までには退院出来るでしょう。」
健司「あったりまえだろ!!俺は健康さ。」
麻衣を抱き寄せる。
健司「ほれ、見てくれよ。こいつ俺の彼女なんだ。へへーん、いいだろ!俺のハニーは何だって出来る大した女なんだぜ!この三日間もずっと来てくれてたんだ。優しい女だろ!」
○岩波家
庭先。健司、子猫と遊んでいる。近くに悟。そこへ麻衣。
悟「タケ、タケ!」
健司、顔を上げて微笑む。
健司「麻衣、いらっしゃい。」
麻衣「健司…」
腰に手を当てる。
麻衣「又ベティニャンコと遊んでただ?病み上がりなんだであんまり外には出とっちゃだめだに。」
健司「っせーなぁ、又説教かよ。俺は病人ではありません!」
悟「でもタケ、麻衣ちゃんの言う事も一理あるぞ。家に入って安静にしてろ。」
健司「兄貴まで…ま、いっか。」
玄関を開ける。
健司「麻衣、上がれよ。」
麻衣「ありがとう。ほいじゃあお言葉に甘えて。」
麻衣、悟、健司、入る。
健司「(大声で)お袋、麻衣が来たよ!」
幸恵「麻衣ちゃん?」
幸恵、ニコニコと出てくる。
幸恵「いらっしゃい。ゆっくりしていってね。」
麻衣「ありがとうございます。」
健司に手提げを渡す。
麻衣「はい、退院祝いと誕生日プレゼントだに。」
健司「サンキュウ!まさか…」
麻衣「開けてみ。」
健司、ビリビリ破く。ワンホールの巨大チョコレートケーキとバイオリンの弓。
健司「おお!バイオリンの弓だ!ちょうど古くなってたんだ。ほれと…」
黄色い雄叫び。
健司「何より俺が嬉しいもん!お前の手作りチョコレートケーキだ!ありがとな麻衣!」
健司、睨みながら悟を見る。
健司「兄貴には絶対やんねぇからな。」
幸恵「良かったわね健司。あ、そうそう、田中さんのお家からも美味しいお菓子を頂いているのよ。」
健司「やりぃ!」
幸恵「今お茶の準備してますから待ってなさい。」
奥へと入っていく。
健司「麻衣!」
麻衣「えぇ!」
悟、麻衣、健司、中へ入る。
○同・居間。
小さな卓袱台。幸恵がお茶を運んでくる。
健司「お、待ってました!」
幸恵「これが田中さんのお家から頂いたお菓子よ。麻衣ちゃんも食べてみて。」
健司「わお、スペキュロスじゃん!やりぃ!頂きまぁーす!!」
一度に何枚も口に入れる。
幸恵「これこれ、あまり急がないの。そしてこれが…」
チョコレートケーキを切ってくる。
幸恵「麻衣ちゃんから頂いたチョコレートケーキよ。健司、みんなで食べるのよ。」
健司「ちぇっ、折角独り占めしようと思っただに…」
改めてチョコレートケーキをまじまじ
健司「すげー…」
目を輝かせる。
健司「うまそぉ、お前一人で作ったのかよ?」
麻衣「勿論ほーだに。私じゃなかったら誰が作るだ?」
健司「いただきまぁーす!」
健司、チョコレートケーキを手で持って口に入れる。
健司「んー、やっぱりうめぇや!お前のチョコレートケーキは世界一!最高だよ!」
麻衣「ほりゃどーも。ほれより健司」
健司「んー?」
麻衣「あんた、平安期からのお家柄のお坊っちゃんずらに。ほいなら御曹司らしく…」
健司「あのなぁ、御曹司、御曹司って俺は貴族のお坊っちゃんとか金持ちの家の子とかじゃねぇーんだぜ?不愉快だ。俺は原村の一般家庭の子。ただ、親父が社長ってだけだろうに。ショボい田舎の酒造会社だしさ。」
麻衣「ほれでも御曹司は御曹司じゃないのよ!」
健司「ヅァヨーシュ!」
得意気にケーキを食べながら
健司「とにかくチョコレートケーキはこう食べた方が倍も美味しいんだよ。」
悟「麻衣ちゃん、もうこいつにマナーの事を言ったって無駄だよ。こいつはこういう奴なんだから。」
健司「ほーほー、だでへー俺にマナー正させるのは諦めろよ。」
麻衣「ほーやって開き直ってるんじゃないわよ。」
悟も食べる。
悟「ん、でも本当に美味しいよ麻衣ちゃん!」
麻衣「ほーですか?」
少し照れる。
麻衣「悟ちゃんに言われると照れるなぁ…ありがとうございます!」
健司、悟と麻衣を睨む。
健司「おいっ、てっめぇーら!」
悟のケーキを取り上げて食べる。
健司「兄貴、俺の麻衣に惚れたら承知しねぇーぞ!このケーキは麻衣の愛情込め込めチョコレートケーキなんだ!ほんなもんを易々と兄貴の口に入れられてたまるか!」
悟、呆れて麻衣と顔を見合わせてやれやれと笑う。
○同・健司の部屋
健司、バイオリンを弾いている。麻衣、竪琴を弾きながらチャールダーシュを踊る。
終る。
健司「なぁ麻衣、」
麻衣「ん?」
健司「改めて…」
大きな包みを麻衣に渡す。
健司「お前への誕生日プレゼントだよ。遅ればせまして、誕生日おめでとう麻衣。」
麻衣「わぁー!ありがとう健司!」
開ける。
麻衣「フフっ。バカなあんたが命懸けで買ってきてくれたパリーヌのマコロン!ん、まだ何かあるんかしら?まぁ!」
ワンピースドレスと赤い靴。
健司「どうかな?お前に似合うと思って作ったんだけど。」
麻衣「これあんたの手作り?」
健司、照れて頷く
麻衣「素敵!健司って最高!」
健司「へへっ、どういたしまして。気に入ってもらえて嬉しいよ。」
麻衣「今度会う時、早速着るな。」
健司「是非!俺も見てみたい。」
二人、微笑む。麻衣、有頂天になって歌い舞う
○同・ダイニング
麻衣、健司、岩波、悟、幸恵。机の上にはすき焼き鍋と具材、調味料がある。5人、グラスを掲げている。
岩波「それでは、我が岩波家の次男・健司の退院と遅くはなったが17歳の誕生日を祝して乾杯っ!」
全員「乾杯っ!」
全員、食べ始める。
岩波「さぁさぁ健司に麻衣さん、遠慮せずに食べなさい。悟が豊平までいって良質は蓼科牛を買ってきてくれたんだよ。」
麻衣「美味しさそう!」
悟「どんどん食べてよ。君には健司がいつもお世話になっているからね。」
健司「やりーっ!!ありがとう兄貴!」
悟「お前は食べすぎるなよ」
健司「分かってるって!!」
健司、肉ばかりとっている、
悟「肉ばかり、食べすぎるなよ。」
健司「うっせーなぁ兄貴はぁ!別にいいじゃねぇーか。ほして…」
ニコニコとして赤いソースをお皿にとる。
健司「これ一度食べて見たかったんだよな。」
麻衣「何ほれ?ケチャップ?」
健司「ジョロキアソースさ。」
麻衣「ジョロキアソース?何ほれ?」
健司「ジョロキアってさ、ここらじゃ売ってねぇーんだ。でも兄貴が俺のために京都から買ってきてくれたんだよ。兄貴って最高!」
麻衣「だでそのジョロキアって一体何なんよ!?」
健司「俺も知らね。」
麻衣「は?」
健司、あっけらかん。
健司「ま、食べてみてからのお楽しみっつーもんよ。麻衣、お前もつけてみな。」
麻衣「ほーね。何か珍しいわ。楽しみ!」
悟、呆れ顔で食べている。健司、ルンルンとジョロキアソースをたっぷりとつけて肉を口に入れる。
健司「ぐふっ!」
噎せて咳き込む。
麻衣「!?」
慌てて健司の背をさする。
麻衣「ちょっ、ちょっと健司?どーしただ?大丈夫?」
健司、涙目で水を飲む。
健司「大丈夫、大丈夫。辛い!」
麻衣「辛いだぁ?」
健司「うん。でも…」
再びジョロキアをつけて口に入れる。
健司「ウマ辛!」
麻衣「ほう?では私も話の種に…」
ジョロキアをたっぷりとつけて口に入れる。
麻衣「うっ!」
咳き込む。
麻衣「何がウマ辛よ!激辛じゃないの!健司のバカ!」
健司を何度もこずく。
麻衣「痛い…」
○坂上家
千里、幸せそうに踊り回っている。
夕子「千里、ピアノの試験合格なんだってね。良かったじゃないか!」
千里「うんっ!」
夕子「頑張りな。来年の留学は私も援助してやるからね。」
千里「本当に!?ありがとう!」
千里、夕子に抱きつく。
夕子「これこれやめなよ。気持ち悪いじゃないか!」
数分後。夕子の胸から口を押さえて離れる。
夕子「どうしたんだい千里?」
千里、急いで流しに吐血。千里、震えている。
夕子「千里っ!」
急いで千里の元へかけて行き、背を擦る。
夕子「お前っ、吐血…」
千里「おばさん…」
倒れる千里の体を慌てて支える夕子。千里、意識を失っている。
夕子「凄い熱があるじゃないか!待ってな、今病院に連れてってやるからね。」
夕子、ぐったりする千里を抱いて急いで家を飛び出す。
○京都病院・病室
ベッドに横たわる千里。近くに夕子。千里、少しずつ目を覚ます。
夕子「気が付いたかい?心配したんだよ!」
千里「ここは?」
夕子「病院だよ。お前ったら突然血を吐いたと思ったら高熱を出して意識失っちまったんだよ!覚えているか?」
そこへ、主治医。
主治医「小口千里君ですね。」
千里「はい。」
主治医「調べてみましたが特にこれと言う異常は見当たりませんでした。ご親族様からお話聞きましたところ、恐らく疲れとストレス等から来ているものだと思います。暫くは静かなところやご両親の元で療養して見てください。」
千里、ショックを受けた顔。
主治医「君は数ヵ月前から同じ様な症状が何度も出ているね。相当酷くなっている。でも君がリラックスできる場所で落ち着けば元気になるでしょう。」
主治医、出ていく。
夕子と千里
夕子「千里、先生の言う通り私もそれがいいと思う。」
千里「それって僕に、諏訪に戻れって言う事?音楽の高校も辞めるって事?」
夕子「辛いと思うけど、お前を救うにはそれしかないだろう。私は体を壊してまで頑張れとはいわないよ。だから…」
千里「嫌だよ!」
泣き出す。
千里「そんなの嫌だよ!折角試験に合格出来たのに…僕の夢なのに…ポーランドに行ってロマノフ氏に一流のレッスン受けたいんだ!ねぇ、おばさんっ!」
夕子、千里を抱き締める。
夕子「私もお前の望みだったって言う事はよく分かっているよ。初めは反対してたが今はお前の才能を心から応援したいと思っている。」
夕子「でもねぇ、このままもっとおかしくなっちまったらどうするんだ!そしたら音楽どころじゃないだろ?千里、だから今は私たちの言う事をちゃんと聞きな。」
千里、夕子の胸で泣き出す。
夕子「お前の母さんに連絡するから、少し症状が落ち着いたら電車乗って戻るんだよ。」
数分後。千里一人。電話で話ながら涙をこぼしている。
○特急電車の中
一週間後。千里、手紙を読んでいる。
敷田の手紙《千里へ。本当に行っちまうのか?折角合格しただに残念だったな。お前あんなに楽しみにしてなのに。でも諏訪に戻っても決して諦めるんじゃねぇぞ。又遊びに来い。》
藤丸の手紙《千里へ。辛いときはいつでも俺たちを頼れよ。何処にいたって俺たちは友達だよ。俺たちも又、諏訪に遊びにいく、お前も絶対にピアノ諦めずに続けろよ。お前の才能ならいつか必ず夢は叶うからさ。いつしか音楽業界で再会できるのを楽しみにしてるぜ。お前が一流のピアニストになって幸せになれますように。》
千里、震えながら涙を流して目を閉じる。
千里M「敷田くん…藤丸君…ありがとう。」
泣いている。突然目眩い。
千里「やばっ気持ち悪い。」
バッグをがさごそ。
千里「♪乗り物酔いには水無し1錠、酔ってからでもすぐに効くムッ…うぅっ。」
千里、背凭れに凭れる。
千里「くそ…こりゃダメだ。もう寝てく。」
具合悪そうに目を閉じる。
○普通電車の中
千里、キャリーバッグを持ってヨロヨロ。そこへ清水克子。
克子「おいお兄さん大丈夫かい?早く座りなよ。」
千里「ありがとうございます…」
克子、千里を座らす。
千里「酔ったんですよ…」
克子「まぁまぁ。どっから来たんだい?旅行の方?」
千里「京都からきたの。これから実家に帰るんです。」
克子「そうかいそうかい。で、何処まで?」
千里「茅野ですよ。おばさんは?」
克子「あたいかい?あたいは富士見…」
千里をまじまじ。
克子「ん?あんたどっかで会った事ないかい?」
千里「へ?」
克子、少し考える。
克子「あぁ、分かったよ!あんた千里じゃないかい!結婚式に来ていた春助の親戚の子だろ?大きくなったねぇ。元気だったかい?」
千里「え?」
考えて、ハッとする。
千里「克子さんだぁ!」
克子「おや、克子さんなんて他人行儀だねぇ、おばさんでいいよ。」
千里「僕をよく見てください!ほら、僕ですよ!」
克子「だであんたは…」
千里「違います、そうじゃなくて!僕、千吉!嘗ての千吉こと千里なんですよ!」
克子「千吉?」
キョトンとするが目を丸くして千里を見る。
克子「千吉ってあんた、あん時の!?」
千里「はいっ!」
克子「まぁまぁ…」
懐かしそうに。
克子「相も変わらず賢そうな顔してぇ、まさかお前が私の遠い親戚だなんてねぇ。今はいくつなんだい?」
千里「高校2年生だよ。」
克子「そうかい!あんたに言われるまで分からなかったよ、あの千吉がこんなにも背が高く立派な男んなっちまって。あんたひょっとしてモデルかなんかやっているのかい?」
千里「まさか!冗談言わないでください。僕は普通の17歳ですよ!」
克子「じゃああんたがいるっつーこんは、夕子さん達もいるんだね。」
千里「えぇ。夕子は僕の叔母さんで、あの時と同じく頼子と忠子って言う二人の妹がいるよ。」
克子「一度会ってみたいもんだ。んじゃマコは?」
千里「マコ?北山マコの事ですかい?」
克子「そうだ。その子しかいないだろうに。」
千里「北山マコは小学校と中学校時代の僕のクラスメートだった。」
ぽわーっとする。
千里「卒業してからはもう会ってないけどね。」
克子「そうか。もし叉、マコと会ったら知らせておくれ。あたいらが会いたいってたって。茅野なら近いし会おうと思えばすぐに会えるだろう。」
十数分後。放送がかかって電車が止まる。
○茅野駅・普通電車の中
千里、降りようとする。
克子「ちょっとお待ちよ。ここでは15分止まっているからね、もう少しここで休んでな。」
千里「はい…」
千里、座り直して時計を見る。
克子「あたいの旦那の春さんと来たら仕事はリストラされるわ、職も探さずにぶらぶらとアールカサールで飲み歩くわ、パチンコばかりだわ、これじゃあ家庭が破綻だよ。今度一発ひっぱたいてやろうかね。」
二人、笑う。
千里「そこも昔と変わらずですね。おやっさんらしいですや!」
克子「まぁね。変なとこばっかりそのままなんだよ。」
ため息。
克子「でもね、あんたが元気でいい青年で立派になってたなんて知りゃああいつもうんと喜ぶよ。」
千里、立ち上がる。克子、メモを渡す。
克子「行くんだね。これ、私の携帯番号だよ。いつでも連絡しな。」
千里「えぇ、是非!」
千里、電車を降りる。発車する。二人、手を振って別れる。
千里、携帯をかける。
千里「もしもしママ?千里だけど…」
○同・西口
千里、震え上がる。
千里「流石は長野県だな。京都とは空気が全然違う。」
歩き出す。
千里「暫くここに入っていよ…」
駅前デパートに入っていく。
十数分後。携帯がなる。
千里「あ、ママだ!」
外に出てキョロキョロ。小口珠子が運転している車。
珠子「せんちゃん!」
千里「ママっ!」
珠子、降りてきて千里を抱き締める。千里も珠子に抱き付く。
千里「ママっ!ママ!会いたかったよママ!」
珠子「せんちゃん、お帰りなさい。」
千里「ただいま、ママ。」
珠子「あら?」
千里の顔を見る。窶れて青白い。
珠子「せんちゃん大丈夫?何かあったの?」
千里「電車に酔ったんだよ。」
珠子「まぁ…」
まじまじ。
珠子「事情は夕子おばさんから全て聞いたわ。だからママ、せんちゃんの為なら何でもしてあげる。せんちゃんの事全力で応援するし支えてあげるからね。」
千里「ママ…」
ワッと泣き出す。珠子、優しく慰める。
珠子「泣き虫さんね。男の子でしょ、もっと強くおなりなさい。ほら涙を拭いて。せんちゃんの為にプレゼントも用意してあるのよ。」
千里「プレゼントを?僕に?」
泣き笑い。
千里「へへっ何かな?」
二人、車に乗り込む。
珠子「せんちゃんもきっと喜ぶものよ。楽しみにしていてね。」
千里「うんっ。」
車、茅野駅を出る。
○小口家
珠子、玄関を開ける。
珠子「さぁ。」
千里「お邪魔しまぁーす…」
珠子「お邪魔しまぁーすってここはせんちゃんのお家なのよ。」
千里「あ、そうか。」
千里、悪戯っぽく舌を出す。
珠子「そして…」
一つの部屋の扉を開ける。
珠子「ここがせんちゃんのお部屋よ。」
千里「へぇー…」
中へ入る。目が釘付けになり固まる。グランドピアノが一台ある。
千里「これは…」
珠子、微笑む。
珠子「そうよ。驚いた?これがあなたへのプレゼントよ。」
千里、恐る恐るピアノへ近付く。メーカーの表記を見る。
千里「べ…ベーゼンドルファー?どうして…」
珠子「偶々クイズのプレゼントにこのピアノがあったから応募したら見事当たっちゃったの。」
千里、震えながら目に沢山涙をためて今にも泣きそう。
珠子「きっとあなたのためのものだったのね。」
千里、涙を肘で拭っている。
珠子「あなたずっとこのピアノ欲しがっていたわよね。だから諦めないで。せんちゃんの才能なら何だって出来ちゃう!ママも応援するからね。」
千里「ママ、ありがとう…」
珠子、千里を抱き締める。
珠子「こらこら又泣いて。妹達に笑われてしまいますよ。」
珠子、衣装とシューズを千里に手渡す。
千里「これは?」
珠子「チャールダーシュ用品よ。チャールダーシュの小口先生にもピアノの名取先生にも再び連絡しておいたわ。又、是非来てとおっしゃってくれたからチャールダーシュもピアノもおやりなさい。」
千里「本当に?ありがとうママ。僕、凄く嬉しいよ!」
恥ずかしそう。
千里「でも僕、まだ踊れるかな?体動くかな?京都では全くスポーツ関連のことはやってなかったんだ。」
珠子「大丈夫よ。せんちゃんなら出来るわ!だって5歳の頃からずっとやっている事ですもの。しかもあなたには天才的な才能がある。そう簡単に体が忘れる負けないし固くなる筈もないわ。」
肩を叩く。
珠子「だからせんちゃん、自信を持ちなさい。」
千里「うん…」
千里「ねぇママ?」
珠子「なぁに?」
千里「ピアノ、少し今弾いてみても…いいかな?」
珠子「何言ってるの!勿論よ。ママにも聴かせてちょうだい。」
千里「うん!何がいい?」
珠子「何でもいいわよ。せんちゃんの得意な曲で。」
千里「分かった。ならこの間の試験で合格したときの曲を弾くね。」
千里、椅子に座って恐る恐る弾き出す。珠子、目を閉じてうっとり。
千里、泣きながらピアノを弾いている。
23時。麻衣、紡、糸織、布団で熟睡。
健司、ベッド。ヘッドホンを耳に当てたまま熟睡。
千里、ベッド。くまの縫いぐるみを抱き締めて熟睡。珠子、様子を伺うと微笑んで扉を閉める。
○諏訪若葉高校・教室
萌恵、湖都、咲李。そこへ麻衣。
三人「麻衣っ!」
麻衣「おはよう。」
咲李「大変だったわね。辛かったわよね。」
湖都「あの日のあなた、本当に辛そうだったもの。」
萌恵「あれからどう?」
麻衣「健司?」
満面の笑み。
麻衣「彼、もうすっかり元通り!」
三人「わぁー!!」
咲李「良かったじゃない!」
麻衣「うんっ!」
そこへ、宮澤。
宮澤「柳平さん、おはよう。」
麻衣「あ、達弥!達弥!」
宮澤に思いっきり抱きつく。達弥、紅くなる。
麻衣「なぁ達弥聞いて!健司が元気になったんよ!」
そこへ高橋、小平
高橋「おー達弥のやつ赤くなってやんの。」
小平「お前柳平に惚れてんだろ。」
宮澤、更に紅くなる。
宮澤「ち、違うよ!ぼ、僕はただ…」
手で顔をあおぐ。
宮澤「今日は何か晴れてて暑いからさ。やっぱり夏だよね。僕、暑がりなんだ、アハハハハ…」
全員、顔を見合わせる。
麻衣「夏って、今は真冬だけど…」
萌恵「しかも今日は曇ってて天気も悪いし…」
湖都「雪降りそうで」
咲李「かなり寒い…」
全員、にやっとして宮澤を見る。宮澤、困ってもじもじ俯く。
○柳平家・バルコニー
大晦日。麻衣、ぼんわり月を眺めている。序夜の鐘が鳴る。
軈て全員いなくなり、部屋は真っ暗になる。
柳平紅葉の声「麻衣さん、早くお眠りなさい。風邪引きますよ。」
紅葉、退室。
麻衣「はーい…」
物思いに更ける、
麻衣「健司、あんたの大晦日はどうお過ごしかしら?」
麻衣、身震いして家の中に入ろうとする。
健司の声「麻ー衣っ!麻ー衣っ!」
麻衣「?」
立ち止まる。
麻衣「健司っ?」
フッと笑う。
麻衣「ほんな、まさかな…」
入ろうとする。
健司の声「おーい麻ー衣!聞こえてねぇーのかよ?へー眠っちまったのかぁ?」
麻衣、急いで戻る。
麻衣「やっぱり聞こえる…」
バルコニーの下を見る。健司が見上げて大きく手を降る。
麻衣「健司っ!?」
健司「降りてこいよ!」
麻衣「ちょっと待って。」
急いで戻る。
○柳平家・庭
健司、そこへ麻衣。
麻衣「健司、どいで?」
健司「いくら呼んでも出てこねぇーもんで諦めて帰ろうと思ったんだぜ。」
麻衣は寝巻き姿。健司、麻衣の姿を見る。
健司「着替えてこいよ、ほれじゃあ寒いぜ。」
麻衣「何?」
健司「忘れたのかよ?年に一度の初日の出。」
麻衣「あ!」
麻衣、急いで家の中に入っていく。健司、フッと微笑む。
健司「可愛いやつ…」
十数分後。二人、バスに乗っている。
徐々に明るくなる。
○車山高原・頂上
大勢の人々と健司、麻衣。
健司「寒くない?」
麻衣「平気。」
健司、ポンチョを脱いで麻衣にかける。麻衣、驚いて健司を見る。
健司「嘘こけ!風邪引くよ。」
麻衣「あんたこそ風邪引くに。」
健司「レディーファースト、な。男が女の子労るのは当然だろ。俺は大丈夫だでさ。」
麻衣「まぁ、叉生意気な事言って!」
健司をこずく。
麻衣「とってもあったかい…」
健司、麻衣の肩を抱き寄せる。
健司「見てろよ麻衣、もうすぐだぜ。」
陽が昇り始める。
全員「うわぁー!」
麻衣「綺麗…」
健司を見る。
麻衣「なぁ健司、こんな夕日をあんたと共に見られるだなんて私、幸せ…」
健司「バカ野郎、こりゃ夕日じゃなくて朝陽だろうが。幸せの初日の出。」
麻衣「幸せの初日の出?」
健司「そう。去年も話したろ?初日の出を一緒に見たカップルは永遠に結ばれるって…」
健司、良縁の鐘を何回でも鐘を鳴らす。
健司「麻ー衣、麻ー衣!俺はお前のこん大好きだぁー!俺、お前と幸せになれるまで何度でも鐘をならして叫び続けてやるからなぁー!」
麻衣「ちょっ、ちょっと健司やめてっ。恥ずかしいに。」
健司「やめねぇーよ!お前と幸せになる日まで毎年何度でも鳴らしてやるんだぁ!ブスベアトリスー!愛してるー!」
麻衣、赤くなって下を向く。観客、歓声をあげて二人に拍手を贈る。
○バスの中
満員。麻衣と健司は最前列。
健司「麻衣、気分は?」
麻衣「大丈夫だに、ありがとう。」
健司、微笑んで、麻衣の体を膝の上に倒す。
健司「へへっ。」
麻衣「っ!?」
麻衣、微笑んで目を閉じる
別の日。農道、麻衣が走っている。
○岩波家・健司の部屋
健司、ベッドに横たわっている。近くに麻衣、幸恵、悟
麻衣「健司っ!」
健司「麻衣、来たのかよ…」
麻衣「どうしただ?悟ちゃんから連絡受けてとんできたんよ。」
幸恵「この子、二日くらいから具合が悪くてね、ずっと熱が下がらないのよ。」
健司「きっとあれだ、インフルエンザとかじゃね?」
麻衣「インフルエンザ!?」
健司「ほーだよ。だで麻衣、お前にもうつるで早く帰れよ…」
麻衣、涙をためる。
麻衣「バカっ!あんたがこんねに辛そうにしてるだに帰れるわけないじゃない!私は大丈夫…」
健司の手を握る。
麻衣「お願い、あんたの側にいさせて…」
健司、弱々しくフッと笑う。
健司「どうなったって知らねぇーぞ。」
麻衣「ご飯は?食べれてる?」
幸恵「それが全く食べれないのよ…」
麻衣「え…」
更に不安気
麻衣「ほんな…あんたいつもどんなに高熱でも食欲だけはあったんに…」
幸恵「吐き気と下痢が酷くて止まらないの…」
幸恵、氷枕を取り替えに出ていく。麻衣と健司のみ。
麻衣「健司、早く元気になってよ。」
健司、起き上がって口を押さえる。麻衣、フィンガーボールを健司に渡し、背を擦る。
健司「わりぃ麻衣、ありがとう…」
麻衣、健司を寝かす。麻衣、泣きそうな顔。
麻衣「どうしちまっただ?つい数日前まではあんねに元気だったじゃない!ほのあんたが…」
震え出す。
健司「麻衣…」
弱々しく微笑む。
健司「お前は…メガネブスのくせに相変わらず美人だな。どいでかな。俺さ、普段は言えねぇーけど、メガネのお前が大好きなんだ。どいでこんねに好きなんかな?」
麻衣「健司…」
健司「どいで俺、お前に出会っちまったんだろ。お前と出会わなければお前にこんな辛い思いさせなんだだにな…お前に悲しい涙、流させなかっただにな…」
麻衣、手で顔を覆う。
健司「バカだな、泣くんじゃねぇよ。ブスが泣いたら余計にブスんなるぞ…」
麻衣「笑わんでよ。ほんな風に笑われると私、とても辛い…」
健司、起き上がっては嘔吐。麻衣、背を擦る。
麻衣、健司を寝かす。
健司「あと数日で三学期だな…」
目を閉じながら苦しそう。
健司「俺、学校始まるまでには起きれるかな…」
麻衣「決まってるじゃないの!ほいだってあんたは水泳してるで体も心も強い筈だずら?大丈夫だに!」
健司、フッと微笑む。
麻衣「あんたが元気になるように特製のチョコレートケーキを焼いてくる。学校が始まる日に必ず焼いてくる。だで早く元気になってよ。ね。」
健司「約束だぞ。俺、食欲なくてもお前のチョコレートケーキなら食べれるような気がするんだ。お前の作るチョコレートケーキを食べりゃ、どんな病気もたちまちふっとんで治っちまうな…」
午後8時。健司、容態が悪化。健司、朦朧と苦しそうに息をして眠っている。近くに悟と麻衣。
悟「おいっタケ、タケ、分かるか?」
健司「うぅ…」
麻衣「健司っ!」
健司「なぁ兄貴に麻衣…」
悟「何だタケ?」
麻衣「何?何か欲しいものがあるの?」
健司、弱く首を降る。
健司「いや…何も欲しいものはない。」
目を閉じながら
健司「二人とも…冷静に聞いてくれるか?」
悟「どうした?言ってみろ…」
健司「俺はもしかしたらへー長くないのかもしれねぇ。」
麻衣「え、な、長くないのかもって?何言ってんのよあんた…」
麻衣、蒼白になって震え出す。
健司「ほしたらさ…もし、もしも俺が死んだら兄貴…」
悟「おいっ、正気かタケ!?バカな事言うな!熱出て気が変になったのか?」
健司「なーに、」
笑う。
健司「熱があったって無くたって俺はいつも正気さ。もしほうなったならの話。兄貴、麻衣は俺の大切な女なんだ。確り者の兄貴ならこいつを守ってやれるだろ?だで、もし俺がいなくなったらこいつのこんを頼む。」
健司、目を閉じて落ち着く。
麻衣「健司?健司っ!嫌、逝っちゃ嫌っ!冗談だら?私を一人ぼっちにしないで!私を置いてきぼりにして一人で逝かんでよ!」
健司、微笑む。
健司「ぎゃーぎゃー枕元でうっせえーよ。お前は病人前にしても口煩せぇ女だなぁ。死なねぇーよ。俺だってほー簡単には逝かねーさ。」
薄目で麻衣を見る。麻衣、泣いている。
健司「もし仮に死ぬとしてもあと数週間か数日は死ねずにこのまま生きてるだろうさ…」
麻衣「いやよ健司、どいでほんなこん言うんよ?約束したじゃない!私が歌とチャールダーシュで、磨子ちゃんがツィンバロンを奏でるからあんたがジプシーバイオリンをやって三人でロマのバンドをやるんだって!」
麻衣「私、あんたがいないんだったらチャールダーシュなんてやめるから!歌う事もやめるから!こんな夢、あんたがいなくちゃ持ってたってなんの意味もないんだから!」
悟に抱きついてワッと泣き出す。悟、黙って麻衣を慰める。健司、微笑んで目を閉じている。
健司M「もし俺がいなくなっても幸せんなれよ麻衣…そして夢は決して諦めるんじゃねぇよ。例え死んでも俺は…お前の事を愛しているよ…」
○上諏訪駅前
麻衣、買い物かごを提げて歩く。
麻衣M「明日から三学期か。あいつ元気になってるかしら?よしっ!」
麻衣「(張り切る)あいつのために特製チョコレートケーキ、特大で作ってやるんだで!」
前方から千里、焼きそばパンをかじりながら携帯を弄って歩いてくる。二人とも気が付いていない。
二人「うわっ!」
ぶつかって転ぶ。麻衣の買い物が散らばる。
麻衣「あいたたた、ごめんなさい。大丈夫でしたか?」
千里「いえ、僕こそごめんなさい…」
千里、買い物を片付ける。麻衣も片付ける。
麻衣「ありがとうございます。」
千里「いえいえ、僕が悪いんですから…」
麻衣を見て、赤くなる。
千里「君は、麻衣ちゃん?」
麻衣も千里を見る。
麻衣「せんちゃん?どーゆー?」
二人、歩き出す。
麻衣「どーゆーの?今はお休み?」
千里「いや…」
罰が悪そう
千里「実は僕、京都で色々とトラブルあったからこっちへ戻ってきてるんだ。」
麻衣「トラブル?大丈夫?」
千里「うん、大したことじゃないから大丈夫だよ。君は?買い物?」
麻衣「えぇ。まぁそんなとこ。」
千里「重そうだね、手伝うよ。」
麻衣「いいにほんな、あんたもお疲れずら?ほれにお家が…」
千里「君、茅野だろ?」
麻衣「えぇ。」
千里「実は僕も茅野。」
麻衣「え、どいで?どいで?ほいだってあんた…」
千里「城南にいたけどママが豊平に一軒家を建てたんだって。」
麻衣「へぇ!ではお言葉に甘えて…」
千里、微笑んで手提げを二つ持つ。麻衣は一つ。二人、駅舎に入る。
○電車の中
麻衣、悲しそう
麻衣「…」
千里「何かあった?」
麻衣「せんちゃん…」
千里「話聞くよ。よかったら話してくれよ。」
麻衣、戸惑うが口を開く。
千里、話を聞く。
千里「そんな事が…話してくれてありがとう。」
麻衣「私、毎日彼のお見舞いに行ってるの。でも彼、全然元気にならない…」
千里、肩を落とす麻衣を慰める
千里「大丈夫だよ。健司君もきっと元気になる。僕も久しぶりに彼に会いたいし、明日一緒にお見舞いに行こ。」
麻衣「せんちゃん…ありがとう。」
○柳平家
紡、糸織、畳に寝転んでいる。
紡「んもぉーお腹空いたぁ!」
糸織「麻衣のやつ遅いな。何処ほっつき歩いてるんだ?」
紡「さぁー…」
二人、ため息。
○小口家
麻衣、千里。
千里「入れよ。今日、ママいないんだ。」
麻衣「何処かへお出掛け?」
千里「うん、二人の妹を連れて夕子叔母さんのところ。」
麻衣「あんたは行かなんだの?」
千里「僕は暫く叔母さんには合わせる顔もないからね。」
苦笑い。
千里「どっか適当に腰下ろしてよ。僕、夕飯作る。何食べたい?」
麻衣「素敵、あんたが作ってくれるの?あんたの手料理なら何でもいいに。」
居間と隣接したキッチン。千里、台所に立って料理を作っている。麻衣、居間で読書。
麻衣「あんたも色々と本を読むんね。みんな私の好きな名作ばかり。」
千里「うん、小さい頃から本が好きなんだ。一度は詩人になりたいと思った事もあったんだ。」
麻衣「へぇ…でもあんた、こんなのも読むだ?樋口一葉たけくらべなんて、乙女チックね。」
千里「いけない?僕、そういうのが好きなんです。」
麻衣「ごめんごめん、そう怒らないで。」
千里「怒ってないよ。」
悪戯っぽく笑う
千里「さぁ出来た。食べよ。」
麻衣「お夕食は何?」
千里「僕の大好きなもの。」
麻衣「あんたの好きなもの?なんだら?」
千里「焼きそばカレーとクムオップウンセンさ。」
麻衣「クム、クム、クムオップ?」
千里「(笑う)クムオップウンセンだよ。タイのおばんざいなんだけど今、京都ではすごくポピュラーで人気なんだよ。」
麻衣「楽しみ。(ニッコリ)あんたの手料理なら何だって美味しいわね。」
千里「いやぁ…(照れる)」
食後。麻衣と千里、ソファーに座って二人で一つの小説を読んでいる。
麻衣「はぁとっても美味しかった。せんちゃん、ごちそうさま。」
千里「喜んでくれれば僕も嬉しい。」
千里「ところで麻衣ちゃん、良かったらお風呂どうぞ。」
麻衣「ありがとう。いいだ?」
千里「勿論だよ、君さえ大丈夫なら。」
麻衣「ではそれも、お言葉に甘えて。
恥ずかしげ
麻衣「あんたって優しいのね。」
千里、照れて俯く。
麻衣、入浴中。
麻衣M「あぁ、彼のピアノが聴こえるわ。何て心地がいいの?」
十数分後。麻衣、お湯から上がる。千里、ピアノを弾いている。間もなく、そこへ麻衣。
千里M「あ、麻衣ちゃんかな?」
千里、手を止める。
千里「麻衣ちゃんお帰り。」
麻衣「せんちゃんありがとう。とっても気持ちが良かった。」
千里「良かった。じゃあ次、僕が入ってきていいかな?」
麻衣「勿論どうぞ。一番風呂、失礼しました。」
千里「いやいや。」
○同・浴室
千里、シャワーを浴びている。
千里M「でも僕、どうしよう。女の子と夜に二人っきりで過ごすなんて、いいのかなぁ?」
○同・居間
麻衣、一人で本を読んでいる。そこへ千里。髪を拭きながら入ってくる。千里は裸にハンドタオルを巻いている。麻衣、本を読んだまま。
麻衣「あ、せんちゃんお帰り。あんた、シャンプーすごくいい臭いの使っとるんね。」
にこにこしながら顔をあげる。千里を見て?