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石楠花物語シリーズ - 石楠花物語小学五年生

石楠花物語小学五年生

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『石楠花物語小5時代』


○豊平縄文小学校・教室

   河原輝先生、柳平麻衣、小口千里。


河原先生「今年から我がクラスに新しいお友達が入る事となりました。」


   大きな拍手。


河原先生「それでは二人とも、自己紹介をお願い。」

麻衣「はいっ。茅野市宮川長峰小学校から参りました、柳平麻衣です。」

千里「諏訪市上川城南小学校から参りました、小口千里です。」

二人「宜しくお願いしますっ!」

河原先生「はい。それではみんな仲良くしようね。麻衣さんと千里君は一番後ろのあの席に並んで座ってね。」

二人「はいっ。」


   二人、座る。


河原先生「それでは出席を取った後、一時間目の授業を始めますよ。いいですね?小口千里君…」

千里「はいっ!」

河原先生「柳平麻衣さん…」

麻衣「はいっ!」


   出席がとられる。 



○同・校庭

   休み時間。麻衣、千里、掛川十、小山タミ恵、横田知晃、矢ヶ崎恵美子、五味田苗


知晃「うちのクラスに転校生なんて入ってきたの初めてだもんで嬉しい!ワクワクしてるよ。」

恵美子「私も私も!私は矢ヶ崎恵美子よ、宜しく!」

知晃「私は横田知晃だよ。」

田苗「五味田苗です。」

掛川「僕、掛川十ってんの。」


   タミ恵、つんっとしている。


掛川「おいタミちゃん、君もなんとか言えよ。」

タミ恵「小山タミ恵。精々宜しく。」


   鼻高々に去る。


麻衣「まぁ感じ悪い!何処のお嬢様よ?」

恵美子「ふん!知るか!私もあいつ大嫌いよ。何が偉いんだか知らないが、いつもあんなんなのさ。」

知晃「お父さんは東京の人で大企業の御曹司、お母さんは京都の呉服屋の娘でかなり裕福らしいわよ。」

麻衣「まぁ?ほんな人がどいでこんな田舎村に来たずら?」

掛川「さぁね、知らない。左遷されたんじゃない?」


   全員、クスクス。


千里「僕も京都出身だよ。タミ恵ちゃんのお母さんは京都の何て言う場所なんだろ?タミ恵ちゃんも京都に住んでいたことあるのかなぁ?」

知晃「へぇ君も京都なんだ。なら聞いてみれば?」

恵美子「や、それはやめな。」

千里「どうして?」

恵美子「目に見えているさ。どうせ君がバカにされてあいつの自慢話聞かされるのが落ち。じゃああれ?まさか君も御曹司とか?」

千里「いやいやいやいや、とんでもない!僕はただの一般庶民の家の子さ。ここにはママの仕事の都合できたんだよ。なんかママが新しくこっちで仕事を見つけたみたい。」

麻衣「あんたも?実は私もだに。母さんと姉さんがこっちで仕事が決まったもんで私達も転校させられたってこん。」



○豊平オルゴール作っちゃいます有限会社

   紅葉と珠子。矢崎泉都。


泉都「それでは紹介する。今日から一年間の契約で入っていただく柳平さんと小口さんだ。では二人とも、宜しく。」

紅葉・珠子「はい。」


   二人、席につく。


珠子「宜しくお願いします、良かったですわ。私一人かと思っていましたけどもう一方いらっしゃって。」

紅葉「私も同じですわ。」


   笑い合う


珠子「ところで柳平さんはどちらに?ご家族は?」

紅葉「夫と子供と共に泉に引っ越してきましたの。一番上が17歳で下の農協でアルバイトを始めましたわ。その次が15歳で北部中学の3年生。その下が三つ子でして豊平縄文小学校の5年生。その下は豊平縄文小学校の2年生で一番下がまだ3歳です。」

珠子「まぁ、そんなにお子さんがいらっしゃるの?賑やかくていいですわね。私のところは3歳の娘と…」


   お腹を触る


珠子「今年の秋に予定の子が一人。そして豊平縄文小学校5年生の息子が一人いるんですけど、この子が甘えん坊の泣き虫で困っているんですよ。」

紅葉「まぁ!お名前は?」

珠子「小口千里と言いますわ。」

紅葉「千里君。帰ったら子供たちに聞いてみます。」

珠子「お宅のお子さんの名は?」

紅葉「家ですか?家は紡、麻衣、糸織と言います。紡と麻衣が娘で糸織は息子なんです。」

珠子「そうですの!では私も帰ったら息子に聞いてみますわ。」


   お喋りをしながら仕事を始める



○豊平縄文小学校・教室

   チャイム。生徒たち、下校。


麻衣「せんちゃんよね?こんなところであんたと一緒になれるだなんて偶然!」

千里「本当。僕もビックリだよ。」


   恥じらう


千里「君と一緒になれて安心した。ずっと不安だったんだ。」

麻衣「そんなの私もだに。」


   大きく微笑む


麻衣「私は尖り石縄文公園のすぐ下に住んどるの。折角一緒になったんに、一緒に帰ってから遊ぼう。」

千里「うん!」


   話ながら下校。



○尖り石縄文公園

   麻衣、千里、紡、糸織


紡「へー…せんちゃんと麻衣が同じクラスかぁ。」

糸織「まさかせんちゃんもここにいるなんて僕ビックリ。」

紡「私だって!」


   咳払い


紡「んじゃ改めて宜しく、つむって呼んでよ。」

糸織「僕はしおって呼ばれてる。」

千里「しおにつむ、それに麻衣ちゃん…こちらこそ改めて宜しく。」


   広場を飛び回って大きく深呼吸


千里「でもここって広くてすっごく気持ちいいね!本当に縄文時代にタイムスリップしてきちゃったみたい!」


   うっとり


千里「でもここって何で尖り石縄文公園って言うのかな?」

麻衣「ここは茅野市7000年の地だもんでじゃない?」

千里「…?」

麻衣「つまり縄文時代にはな、ここはうんと栄えてたみたいなの。土器とかあとぉ、国宝縄文のビーナスが出土されてんだに。」

紡「だもんで茅野市は国宝のある町として有名。」

糸織「なんか当時はここに大きな王国があったなんて歴史もあるみたいだぜ?」

千里「へぇー王国かぁ…」

糸織「確かアラセルバとか言ったかな?」

紡「図書館にもそんな本とかあるし、歴史の教科書にも載ってたよな。」

糸織「まぁ茅野市の5年生なら、その内歴史の調べ学習の発表会とかがあると思うでさ、色々と調べてみりゃいいんじゃないか?」

紡「ほーね。なんか面白そうだに!」

千里「茅野市の歴史かぁ。僕も調べよっと。」

麻衣「私も。」

糸織「ならみんなで今からやってみますか?」

全員「イェッサァー!せるりーぃっ!」



○原村・上里

   麻衣、健司、磨子


健司「へー。お前以外にももう一人転校生が入ったんだ。」

磨子「名前は?男の子?女の子?」

麻衣「男の子だに。しかもその名は小口千里君。」

健司「小口千里?」

磨子「ひょっとして幼稚園のチビ?」

麻衣「そう!さくら組のせんちゃん!」

磨子「やっぱり。何かあんたら気が合うね?」

健司「昔、一緒に温泉行った野郎だろ?どいで叉あいつが出てくるんだ?」


   ***


   小口家。千里、くしゃみ


千里「くしゅんっ!」



○豊平縄文小学校・帰り道

   


知晃「そういえば今年って臨海学習があるのよね?」

千里「臨海学習?何それ?」

麻衣「せんちゃん知らん?」

恵美子「臨海学習ってのは海に行って漁師のことや潮干狩りとか海の仕事を色々と学ぶ社会見学だよ。」

千里「何処に行くの?」

タミ恵「確か愛知県の日間賀島だったんじゃなかったかしら?」

田苗「南知多。」

麻衣「何処ほれ?」

知晃「んもぉー!まいぴうまでほいこん言う!」

全員「だから愛知県なのっ!」

麻衣「ふぉーん。ほーだったほーだった!」

千里「愛知県?泊まりで?」

掛川「勿論!」


   ウキウキ


掛川「臨海学習、ワクワクするなぁ。」

 

   千里、不安そうに肩を落とす。


掛川「ん?千里君どうしたの?」

麻衣「せんちゃん?」

千里「僕…僕…」


   言葉を飲む


千里「何でもない…」


   歩いて行く。


千里「じゃあ僕んちこっちだから。お先に…」

麻衣「ありゃ?せんちゃん?せんちゃんってば!せんちゃーんっ!」


   全員、顔を見合わせる。


麻衣「どうしちゃっただ彼?」

全員「さぁ…」


○小口家・台所

   珠子が戻る。千里、おやつを食べている。


珠子「せんちゃんただいま!」

千里「ママお帰り。」

珠子「ねぇせんちゃん?紡ちゃんと糸織君と麻衣ちゃんって三つ子のご兄弟と会った?」

千里「あ、知ってるよ。ついさっきまで一緒に遊んでた。麻衣ちゃんは僕と同じクラスだよ。何で?」

珠子「実はね、ママが入った職場にその子達のお母様も来ていらっしゃるのよ。」

千里「え、そうなの?」

珠子「ええ、偶然ってあるものなのね。せんちゃん良かったわね、仲良くするのよ。」

千里「うんっ!」


   俯く


珠子「どうしたの?」

千里「う、ううん。何でもないよ。いただきました。」


   退室


千里「僕、ピアノ弾いてくる。」

珠子「その前にせんちゃん…」

千里「今日は宿題はないよ。」



○同・千里の部屋

   千里、ピアノを弾いている。


千里「はぁ…」


   ***


   千里、カーペットに横になる。ため息。そこへ珠子。


珠子「せんちゃんどうしたの?まぁまぁ、そんなところで寝ていたら風邪引いちゃうわよ。」

千里「ママ…(起き上がる)」

珠子「悩み事?」

千里「ん…ちょっとね。」

珠子「あ、分かった!好きな女の子でも出来たんでしょう?」

千里「そんな子まだいないよ…」

珠子「だったらどうしたの?ママに理由を話してごらんなさい。」

千里「臨海学習の事だよ。」

珠子「臨海学習?来月よね。でもそれがどうかしたの?」

千里「僕、行きたくない…」

珠子「え?又どうして?」

千里「それは…」


   窓の外を見る。シミのできた布団が干されている。


珠子「分かった…あれね。」


   微笑む。


珠子「そんなの大丈夫よ。もしどうしても心配なら先生におトイレ起こしてもらうか…それかおむつ用意しておいてあげるわよ。」


   千里、真っ赤になる。


千里「おむつなんてやめてくれよママ!そんなの知られたら僕は笑われもんだ!」

珠子「冗談よ冗談。とにかくこの件に関しては恥ずかしいかもしれないけれど、先生にはちゃんと知っておいてもらわないといけないわね。ママが連絡帳に書いておくから安心して。」

千里「うん…」



○豊平縄文小学校・教室


河原先生「と言うことで、明日から家庭訪問です。」


   話をしている。


   ***


   (休み時間)


千里「家庭訪問か。嫌だなぁ…」

麻衣「まぁどいで?」

千里「一年生の頃からずっとそうなんだ…」


   しゅんとする。


千里「僕がごたで出来が悪いから初めて会ったばかりの先生でさえ、家庭訪問で僕を叱るんだ。だから今年もきっと怒られるに決まってる。」

麻衣「せんちゃん、悪く考えすぎだに。河原先生ってそんなに怖い先生にも見えないし…」

千里「だって、1年生の頃だってとっても優しそうだなって思った先生に叱られたんだ。(ため息)」

麻衣「せんちゃんはいつ?」

千里「僕は明後日の午後1時からだよ。」

麻衣「なら、終わったら一緒に遊ぼ。」

千里「え?」

麻衣「もし怒られちゃっても、楽しく遊べば気が晴れるに。」

千里「うんっ!ありがとう。」



○柳平家・麻衣の部屋

   放課後。麻衣、健司と磨子


健司「で、今日はチビもここへ来るんだな。」

麻衣「ほーだに。もう少ししたら来るっていっとったで多分もうすぐ…」


   ベルがなる。


麻衣「あ、噂をすれば来たかな?」

千里の声「こんにちはぁ…」

麻衣「はーいどーぞ!今開けるわ!」


   千里が入ってくる。


麻衣「どーぞ。」

千里「お邪魔しまぁーす。」

 

   部屋へ入ってくる。


千里「?」


   麻衣を見る。


千里「ひょっとして健司君に磨子ちゃん?何で?」

麻衣「せんちゃんの話したら君に会いたいって言ったもんで連れてきた。」

千里「僕の事話したんだ。」

健司「お前、幼稚園のチビだろ?何で叉ここにいるんだよ?面白れぇーな。」

磨子「君、本当に可愛いね。」

千里「やめろよ。」


   笑う


千里「いつか温泉で会ったよね?改めて僕は小口千里。宜しくお願いします。」

磨子「おおっ、君って礼儀正しいんだね。」

千里「いやぁ、それ程でもぉ…」

麻衣「ほいじゃあ、何かして遊ぶか?」


   4人、わいわい。


   ***


千里「ところで…君達も臨海学習ってあるの?」

健司「臨海学習?うーん、あるよ。磨子は?」

磨子「私のところもあるわ。麻衣ちゃんの学校もあるんね。」

麻衣「えぇ。でもせんちゃん、なんか悩みとか心配事があるんだら?」

健司「心配事が?話してみろよ。」

千里「別に何もないよ、大丈夫…」

磨子「そう?私達も友達なんだからさ、何かあればちゃんといいなよ。力になるし相談に乗るからさ。」

千里「みんな…」


   涙ぐむ。


千里「ありがとう…」


   麻衣、磨子、健司、微笑む。


健司「このばーか、何泣いてんだよ。」

磨子「泣き虫野郎!」

麻衣「ほら、涙拭いて。」


   麻衣、ハンカチで千里の涙を拭う。千里、うっとり


千里M「麻衣ちゃんって可愛いなぁ…」

健司「おい千里っ!」

磨子「千里?」

麻衣「せんちゃん大丈夫?どうしただ?」


   千里、我に返ってキョロキョロ


千里「いや何でもない、ごめんごめん。」

麻衣「ほれ…」


   クッキーを出す


麻衣「クッキー焼いたのよ。みんな食べて食べて。」

健司・磨子・千里「うわぁ!」

千里「いただきまぁーすっ!」


   クッキーを食べる。


千里「ん、麻衣ちゃんの焼いたクッキーってとっても美味しい!」

健司「だろ?ブラウニーも最高なんだぜ!」

磨子「麻衣ちゃんの手料理ならなんだって最高よ!ね、麻衣ちゃんっ。」

麻衣「誉めすぎ!でも…」


   微笑む


麻衣「良かった。みんなのお口に合って。」


   麻衣、微笑んでクッキー食べる。千里、うっとりと麻衣を見つめながら千里、クッキーを夢中で食べている。千里、時々むせ混んで麻衣、健司、磨子が背を擦る。



○柳平家

   翌日。麻衣、お菓子を焼いている。


河原先生の声「こんにちはぁ。」

麻衣「あ、来た!」


   ***


   麻衣が出る。河原先生。


麻衣「先生こんにちは。」

河原先生「麻衣さんこんにちは。」

紅葉「河原先生、今年から娘がお世話になります。どうぞどうぞ!」

河原先生「お邪魔します。」

麻衣「はーいっ。」



○同・和室

   麻衣、紅葉、河原先生


麻衣「はい、先生。」


   お膳を運んでくる。


麻衣「桃とザクロの紅茶とドボシュトルタです。」

河原先生「まぁ美味しそう!ありがとう。ひょっとして…」

麻衣「えぇ、私の手作りなの。」

河原先生「麻衣さんは女の子らしくて器用なのね。では…」


   食べる。


麻衣「先生どう?」

河原先生「とっても美味しいわ、ありがとう。」


   三人、食べながら話をしている。


   ***

   

   十数分後。先生が帰っていく。



○豊平縄文小学校・校庭

   麻衣と千里。ブランコに乗っている。


千里「どうだった?」

麻衣「何のこんないに。ほれに河原先生ってとっても優しいし、怖い先生ではなさそうよ。」

千里「そう…」


   千里もじもじ


麻衣「私、お菓子焼いてお茶を入れて差し上げたの。先生とてもお慶びだったわ。だもんであんたも第一印象が大事よ。」


   小粋にウインク


麻衣「先生にお茶を入れて差し上げたら?」

千里「お茶か…」


   麻衣を見る。


千里「でももしそれでも叱られちゃったら?」

麻衣「そんな事はないと思うわよ?でも、もし万が一があったら私んとこ来な。慰めてあげる。」

千里「うんっ…」


   二人、ブランコを降りる。


千里「もうチャイム鳴るかも…遅刻したら本当に怒られちゃう!」

麻衣「ええっ!」


   二人、走る。



○小口家・台所

   千里、るんるん。お菓子を焼いている。そこへ珠子。


珠子「せんちゃん、そろそろ先生いらっしゃるわよ。あら?」


   千里を見る。


珠子「せんちゃんお菓子焼いてるの?」

千里「うん!先生に食べてもらうんだ。それと…」


   お茶葉を見せる。


千里「京都で買ってきた高いお茶、開けていいよね?」

珠子「いいわよ。きっと河原先生お慶びになるわね。」


   ***


   1時。



○同・客間

   河原先生、珠子


河原先生「こんにちは!あら、千里君は?」

千里「先生いらっしゃい。」


   お盆を持って入ってくる。


千里「どうぞ。」

河原先生「まぁありがとう。あら?これもしかして」

千里「えぇ、僕が焼きました。先生食べてみて。」

河原先生「ありがとう。昨日麻衣さんのお宅でもお菓子を焼いて下さったのよ。」


   微笑む。


河原先生「頂くわね。」


   食べる。


河原先生「とっても美味しい!千里君はお料理が上手いのね。こんな手の込んだお菓子をよく一人で作ったわね。」


   微笑む。


千里「僕、お料理が大好きなんです!それからピアノとバレエとお裁縫も好きなの。」

河原先生「そうなの!千里君、あなたにそんな趣味があるなんてビックリだわ。」


   色々と話をしている。


河原先生「それで千里君、お母様が先日連絡帳に書いてくださったんですけど、臨海学習の事…」


   千里、聞きながら涙を流して受け答え。


河原先生「あらら、千里君泣いちゃった。先生はあなたの事責めてもいないし怒ってもいないのよ。どうしたの?ほら、涙を拭いて。」



○尖り石縄文公園・遺跡前

   2時。麻衣、復元住居の前にいる。そこに千里。


麻衣「あ、せんちゃんだ!おーいっ!」


   千里、涙を拭う。


麻衣「どーゆーだ?せんちゃん泣いとるの?」


   千里、首を降る。


千里「臨海学習のお話を色々してたの。そしたら涙が出てきちゃって…」

麻衣「臨海学習に行くのが嫌なの?」


   千里、大きく首を振り続けて泣いている。


麻衣「ほっかほっか、よしよしよし…」


   千里を抱き寄せて慰める。


   ***


   千里、顔を上げる。   


千里「ありがとう、もう大丈夫。」

麻衣「落ち着いて良かった…」


   千里の手をとる。


麻衣「ちょっとお散歩しよっか?」

千里「え?」

麻衣「この公園の中を探検してみまい。」

千里「うん、行こう!」

   

   二人、走っていく。


   ***


   公園内・森の中。二人、手を繋いで散歩をしている。掛川が一人でアイスを食べながらゲームをしている。


麻衣「あ、かけちゃんだ。こんなところでゲームしてるよ。」

千里「本当だ。」

麻衣「おーい!かけちゃーん!」

掛川「よ!」


   掛川、悪戯っぽく笑って去っていく。


千里「あーあ、逃げてっちゃった。」


   散歩続ける。


   ***


   橋の上。千里、立ち止まる。


麻衣「せんちゃん?」

千里「(もじもじ)トイレ行きたくなっちゃった…」

麻衣「えぇ?」


   キョロキョロ


麻衣「我慢出来る?」

千里「うん…」


   麻衣、キョロキョロしながら歩いている。


麻衣「まだ大丈夫?もう少しでさっきの公園だに。」

千里「うん…」


   数分後


千里「ごめんっ、もう限界!」


   ズボンを下ろす。


千里「こっち見ないでね。」


   麻衣、そっぽを向く。


千里「(用を足しながら)僕がお外でおしっこした事、誰にも言わないでね。」

麻衣「大丈夫、誰にも言わんに。」


   麻衣、赤い顔。千里、ズボンを上げる。


千里「スッキリした…もういいよ。」

麻衣「んもぉ!さっき考古館でどいで済ませんのよ?」

千里「だってさっきはまだしたくなかったんだもん。急にしたくなったんだもん。」

麻衣「あんた、子供で良かったわね。」

千里「そうだね。」


   恥ずかしそうに頭をかく。


千里「でも、絶対に内緒だよ!僕がまだおねしょしてる事も…」

麻衣「え?」


   千里、慌てて口を押さえる。麻衣、フフっと笑う。


麻衣「大丈夫よ、どちらも黙っとくわ。」

千里「ありがとう…」


   伸びをする。


千里「今日はひやひやしてたけど河原先生に怒られなくって良かったよ…」


   照れる


千里「結果泣いちゃったんだけどね…」


   二人、お喋りをしながら歩いていく。 



○豊平縄文小学校・教室

   潮干狩りの季節。


河原先生「さて、明日はいよいよ臨海学習です。今日は持ち物検査をします。」


   持ち物検査。河原先生、席を回る。


河原先生「麻衣ちゃん、これは何?」

麻衣「酔い止め薬です。私、乗り物酔いが酷いので…」

河原先生「分かりました…で?」


   千里の机を見る。


河原先生「千里君、この袋に入ったものは何?」

千里「これはぁ…」

河原先生「先生に見せれないものなの?お出しなさいっ!」


   千里、頑なに隠し持つ。顔は真っ赤。


河原先生「千里君っ!その袋は先生が没収致しますっ!こちらによこしなさいっ!」

千里「駄目です!これは僕が持っていかなければならない、どうしても必要なものなんです!」

河原先生「何?疚しくないものなら見せれるはずでしょ?」


   千里から無理矢理袋を取り上げる。


千里「あぁっ…」


   河原先生、中を見る。千里を交互に見る。


河原先生「千里君、これはひょっとして…」



○同・会議室

   河原先生と千里。話をしている。千里、しくしく。



○小口家・玄関先

   珠子と河原先生。


河原先生「お母さん、本当に申し訳ございません。又も千里君を泣かせてしまいました。」

珠子「いえいえ!悪い事をしたらどんどん叱ってやってください。今日はこそこそとしてた息子が悪いのですから。」


   話をしている。千里、壁の影に隠れて見つめている。



○同・千里の部屋

   その夜。ベッドの中の千里。


千里「明日がいよいよ臨海学習か…嫌だな…」 


   電気を消す。


千里「お休み…」


   陽が昇り出す



○豊平小学校・校門前

   5年生児童たちと担任、引率が集まっている。


河原先生「それでは全員揃いましたか?」

麻衣「先生、小口千里君がまだ来ていません。」

河原先生「えぇっ?」



○小口家・千里の部屋

   珠子、小口。千里、ベッドの中


珠子「せんちゃん!せんちゃん!起きなさい!もう時間よ、せんちゃん?」

千里「んー…」


   泣き出す。


千里「んー…」

小口「千里、遅れるぞ!早くっ!」


   千里、泣いて布団にしがみつく。小口、珠子、顔を見合わせる。


   

   ***


   7時。


   ベルがなる。


珠子「はーいっ!」 


   ドアを開ける


珠子「まぁっ!」



   珠子。河原先生を中へ案内。階段を上がる。  


   河原先生、千里の部屋へ来る。


河原先生「千里君?千里君、小口千里君!」


   珠子、小口に布団を剥がされる。千里、しがみついている。


小口「こらっ!河原先生迎えに来てくれたぞ。」

珠子「具合悪いの?」

河原先生「大丈夫ですか?調子悪いの?」


  千里、泣いたまま


河原先生「分かりました…」


   河原先生「(腕時計を見る)時間もありませんので私はもう行きます。」


   千里に


河原先生「千里君、では臨海学習には行かないのね?」

千里「…」


   むくりと起き出す。


千里「先生っ…」


   急いで着替え出す。


千里「僕、やっぱり行きます!」

珠子「せんちゃん!」

小口「千里っ!」


   河原先生、笑う。


河原先生「全く…早くなさい。」

千里「(準備をしながら)でも先生…」

河原先生「分かっているわ。トイレの事が心配なんでしょ?それだったらお母さんからも聞いています。心配しなくても大丈夫よ。」


   千里、恥ずかしそうに俯く。


河原先生「準備出来ましたね?それでは先生の車で学校へ向かいましょう。」

千里「ちょっと待って!」


   駈け足


千里「先生、おしっこしてっていい?」

河原先生「早くね。」

千里「はいっ!」


   トイレに駆け込む。


○バス内

   麻衣と千里。最前列の隣同士。


麻衣「せんちゃんギリギリ。良かった、このまま来んのかと思った。」

千里「ごめんね迷惑かけて。」

麻衣「いえいえ。何かあったら遠慮なく言ってな。力になるに。」

千里「ありがとう…」

河原先生「それでは皆さん、歌でも歌いますか?」

全員「イェッサァーッ!セルリーッ!」


   河原先生、音源をかける。クラスメート、歌い出す。


   ***


   現地。児童たち、社会見学が始まる。



○ホテル・大広間

   男子児童たち。そこへ栗平捷先生。


栗平先生「小口千里君だね?」

千里「栗平先生…」

栗平先生「大丈夫?夜眠れそうか?」

千里「あの…河原先生は?」

栗平先生「河原先生は女性の先生だから女子大広間にいるよ。呼ぶか?」

千里「いえ、でも…」

栗平先生「心配するな。話は河原先生から聞いている。先生がちゃんとトイレに起こしてやるから。」

千里「…」

栗平先生「早く寝ろよ。それと寝る前に飲むな。寝る前には必ずトイレは済ませろ。」

千里「はい。」


   栗平先生、去っていく。千里の隣は掛川


掛川「なんだ君…」


   ニヤリ


掛川「ひょっとしておねしょの心配してるの?」

千里「…」


   恥ずかしそうに頷く。


千里「頼む!秘密にしてくれよ。」

掛川「分かってるよ。」


   指切りスタンプ


掛川「男同士の約束だ。指切り元万。」


   笑う。


掛川「な!」

千里「うんっ、ありがとう。」

掛川「なら僕も一回、12時くらいにトイレに起こすね。」

千里「ありがとう。」

掛川「先生は何時に来るって?」

千里「2時だって。」

掛川「ふーん。とにかく寝よう。」

千里「うんっ…」


   枕元にペットボトルの紅茶。残りは僅か。千里、飲もうとする。


掛川「だーめーだっ!」

千里「どうしてさ?後これだけだよ?」

掛川「それだけが命取りになるんだよ。」

千里「むーっ…」


   二人、布団に入る。



○同・大広間

   女子児童たち。麻衣、タミ恵、恵美子、田苗、知晃。麻衣はゲッソリ。


タミ恵「あらあら、麻衣ちゃん大丈夫かしら?」

恵美子「お言葉にお刺があるよ、タミ恵さん。」

タミ恵「ふんっ。」

恵美子「でもまいぴう、本当に大丈夫?あれからもうかなり長い時間経っているのに…」

麻衣「いつものこんよ、私乗り物酔い酷いの…」


   戻しそうになる。


田苗「吐いちゃいそうなの?大丈夫?」

麻衣「大丈夫、私は大丈夫よ。ほれより私、せんちゃんの事の方が心配だわ…」

田苗「せんちゃんって、千里君の事?何で?」

麻衣「ほいだって夕食の時も泣いてたし、元気もなかったし…」

知晃「本当に。あの子一体どうして泣いてたんだ?」

タミ恵「さぁね、私が知るもんですか!どうせまた…」

恵美子「タミ恵様…お言葉にお刺がおありの様で?」

タミ恵「だから?」


    つんっとしている。


恵美子M「嫌なやつ…」

田苗「あの子、生真面目そうだしね。不安で思い詰めてたとか?」

麻衣「ほーね、遠出のお泊まり会なんて初めてだしな。」

恵美子「ホームシックにかかっちゃったとか?」

知晃「きゃあー何か超可愛いの!」


   わいわいきゃあきゃあ。そこへ河原先生。


河原先生「静かになさい!もう消灯の時刻です。」 


   電気を消す。静かになる。



○同・大広間

   男子児童たちが寝ている。12時。掛川、起きて千里を揺する。


掛川「おい千里君、千里君!」

千里「んーっ?」


   薄目


千里「かけちゃん…何?」

掛川「もう12時だよ。トイレ行くんだろ?一緒に行こ?」

千里「トイレぇ?いいよぉ、行きたくないもん…」


   正気になる。


千里「あっ!そうか!」


   飛び起きる


千里「行くっ!」  


   二人、退室。



○同・男子トイレ

   用を足す千里、掛川。


千里「それでさ、ママが紙おむつを僕に持たせてくれたんだけど…」


   真っ赤になって下を向く。


千里「とてもじゃないけどそんなの恥ずかしくて出来っこないよ!」

掛川「でもお布団汚しちゃうよりは遥かにいいと思うけどな…」

千里「それはそうだけどさ…」


   二人、手を洗う。



○同・大広間

   千里、掛川、布団に入る。


掛川「次も、2時間後に栗平先生が起こしてくれるから、したくなくても行くようにしろよ。」

千里「分かった…お休み。」

掛川「お休み…」


   寝入る。


   ***


   2時。   


   熟睡する千里。そこに栗平先生。


栗平先生「小口君、トイレに行く時間だ。起こしに来たぞ。」

千里「んー…」

栗平先生「小口君ったら!起きなさい!」


   千里の布団を少し捲る。


栗平先生「遅かったか…」 


   慌てて揺する。


栗平先生「小口君っ!小口君っ!起きなさいっ!とりあえずは起きてまず下着を取り替えなさい!」 

千里「下着ぃ…?」


   寝ぼけているがギクリとなって体を動かす。


千里「何で…?」


   蒼白になる。泣き出しそうに栗平先生を見つめる。


千里「先生…」 

栗平先生「大丈夫だ、大丈夫だから小口君、とにかく君はまず下着を取り替えなさい。」


   千里、泣き出す。栗平先生、千里を抱いて慰める。


千里「ごめんなさい、ごめんなさい…」

栗平先生「大丈夫だよ。大丈夫、小口君。君は悪くないからね…」



○干物作り体験

   翌朝。千里、すっかり悄気ている。


麻衣「ちょいと、せんちゃん大丈夫?昨日よりも落ち込んどるじゃないの。」

恵美子「元気出しなよ。今日家に帰れるんだからさ。」

田苗「そうだよ、生の蛸足食って笑顔になろうぜ。」

知晃「アジの開きもあるよ。」

恵美子「そりゃまだ食えんじゃろ?」

知晃「あ、そっか。」


   タミ恵、つんっとしている。


タミ恵「千里君、おねしょしたんですってね?別に恥ずかしい事じゃないのに何でそんなにこそこそしているのよ?」


   千里、赤くなって俯く。泣き出しそう。


麻衣、恵美子、田苗、知晃「これっ、タミ恵!」

タミ恵「こりゃ失礼。言っちゃいけませんでした?」


   嫌みっぽく


タミ恵「(大声で)おしっこの悩みにはホップ茶と赤蛙の塩焼きがよく聞くらしいわよ。食べて飲んでみるといいわ。」


   千里、泣き出す。


恵美子「この性悪女!」

田苗「人でなしっ!」

知晃「無情女っ!」

麻衣「薄情者っ!」


   麻衣、千里を抱き寄せて慰める。


麻衣「大丈夫だにせんちゃん。タミ恵なんて気にしちゃいけんよ。よしよしよし…」


   千里、麻衣にしがみついて泣く。知晃、田苗、恵美子、千里を慰めている。



○バス内

   者繰り上げる千里。隣に麻衣。 


麻衣「せんちゃん、へー泣かんで。大丈夫よ。あんただけじゃない。」

知晃「そうだよ千里君、あまり落ち込まないで。恥ずかしい事じゃないよ、私達まだ子供だもん。」

恵美子「大人だって失敗しちゃう事あるんだからさ。」

田苗「ね、ほら。いぃーっ!」


   田苗、変な顔をする。


千里「みんな…」


   クスッと笑う。


千里「ありがとう。」

麻衣「やっと笑ってくれた。せんちゃんの笑うと出来る笑窪、とっても可愛い!」


   麻衣、千里の頬をムチムチ触る。千里、恥ずかしそうに微笑んで立ち上がる。


千里「はーいっ!次僕が歌いまぁーすっ!」

河原先生「千里君、何を歌うの?」

千里「チョコミントの“アイスクリームバケーション”」


   恥じらいながら歌い出す。クラスメート、手拍子。



○上川城南小学校・教室

   永田眞澄、気抜けしたような顔。ため息をつく。


後藤秀明「おい、眞澄どうしたんだよ?」

小平海里「最近のお前変だぜ?」

眞澄「チーちゃんがいなくて寂しいのよ…」

小平、後藤「千里が?」

小平「でも、来年の今頃にゃ帰ってくるぜ?」

眞澄「来年まで待てないもん。」

後藤「なら、会いに行くか?」

眞澄「何処に住んでるかも分からないもん。」


   後藤、小平、顔を見合わす。



○小口家


千里「ただいま!」


   ***


   千里、珠子、小口頼子


千里「ママ、お土産買ってきたんだよ。」

珠子「わぁせんちゃん!えらいわよ、ママ嬉しいわ!(抱き締める)」


   お腹を触る


珠子「せんちゃんも今年の秋にはお兄ちゃんになるの。だから今年は色々な事出来る様に頑張ろうね。」

千里「うんっ!」

珠子「さぁ頼ちゃん、千兄ちゃんのお土産なんだろうね?食べてみようか?」

頼子「頼子食べる!千兄ちゃんのお土産食べる!」


   千里、笑う。


千里「バスの中で河原先生が言ってたんだけど、今年はミニキャンプなる学校でのお泊まり会が夏休みにあるんだってさ。」

珠子「ミニキャンプ?楽しそうじゃないの!」

千里「僕、この臨海学習で自信ついたんだ。だからミニキャンプも出るよ。」

珠子「せんちゃん…」


   微笑む


珠子「えぇ!」



○尖り石縄文公園・復元住居前

   麻衣、千里、健司。


健司「何だよ…ずっと無視してたくせに急に俺のこん呼び出して。」

麻衣「無視だだんて人聞きの悪い言い方やめてやね。遊べなかっただけよ。」

健司「で?」


   キョロキョロ


健司「用件は?」

麻衣「用件って何よ!ただ遊びに誘うのに用件が必要?」


   健司、ふてくされている。


麻衣「何よ?その顔…」

健司「べーつーにー?」


麻衣「ところでさ、5年生は郷土の歴史を調べるって授業…あんたたちにもあるら?」

健司「あぁ…うん。」

麻衣「私はせんちゃんとペアで調べ学習をする事にしたのよ。」

健司「へぇ、何を調べるの?」

麻衣「茅野市7000年よ。」

健司「はぁ?」

麻衣「つまり縄文時代のこの土地についてを調べるのよ。ここにあった大きな王国、とても興味があるじゃない?だって王国の歴史については何も詳しく書かれてないのよ?ほいだもんで調べてみたいと思ってさ。」

健司「確かアラセルバとか言う王国だよな?」

麻衣「へぇ、あんたよく知っとるな。名前までは知らんかった。」

千里「僕も初めて聞いたよ。」

健司「うん、ただ俺が知ってるのはあらせる場は膨大な広さの王国で今の岡谷市から南は山梨県甲府市まで広がっていたとか言う事だな。」

麻衣・千里「へぇ…」

健司「面白そうだな。じゃあ俺もその授業やる時にはアラセルバ王国の原村地帯の事について調べよーっと。」

麻衣「いいんじゃない?ならみんなでアラセルバを調べてみまい!」

千里「ねぇ…」

麻衣「何?」

千里「だったら僕の家この近くなんだ。折角みんなで調べ学習を始めるんなら、僕んちを調査隊基地にしない?そして泊まり込み学習として、何処かで一日僕の家へ泊まりに来いよ。」

麻衣「いいだぁ?」

千里「勿論さ。ね、健司君も。」

健司「やりぃ!」

麻衣「ミニキャンプが終わってから実行を開始ってのはどう?」

健司「いいぜ!寧ろ絶好の日かも。」

麻衣「どいで?」

健司「流星群があるんだ。しかもそれは流星群と金環日食と満月が重なると言う何千年に一度のとてつもなく珍しい日なんだってさ。」 

麻衣「わぁ素敵!せんちゃんの都合は?」

千里「僕も賛成!ママに聞いてみるよ。」

麻衣「分かったら連絡してな。」

千里「OK!」

健司「と言うわけで今日はまず何するんだ?」

麻衣「この尖り森を調査なのじゃ!」

三人「せるりぃー!」


   三人、歩いていく。


○小口家

   珠子、千里。


千里「ママ、赤ちゃんまだ生まれないの?」 

珠子「まだよ。まだですから心配しないで。今日はミニキャンプでしょ?せんちゃん確か臨海学習で自信がついたからミニキャンプは一人で頑張るって張り切っていたわよね?」

千里「ママ…」


   泣きそう。


珠子「又泣きそうになってる!何?」


   千里を抱き寄せる。


珠子「いざとなったら不安で怖くなっちゃったの?」


珠子「もう5年生でしょ?しっかりなさい。来年は修学旅行なんですからね。よしよしよし…」


   千里を離す。


珠子「帰ったらあなたのお誕生日ね。何が食べたい?」

千里「うーんとそうだな、焼きそばカツカレー!」

珠子「欲張りさんね、分かりました。お友達のお布団もみんな揃えておきますからね。」


   千里を送り出す。千里、泣いて家を出ていく。


   *** 


   玄関の外。麻衣が立っている。


麻衣「せんちゃん!」

千里「麻衣ちゃん…」


   涙を拭う。


千里「迎えに来てくれたの?」

麻衣「うん、一緒に行こうと思って。でも…」


   心配そうに眉間にシワを寄せる。


麻衣「大丈夫だだ?泣いてたみたいだけど…」

千里「ごめんね、大丈夫。早く行こう!」

麻衣「えぇっ!」


   二人、走っていく。珠子、微笑んで見送る。



○豊平縄文小学校・校庭

   5年児童たち。カレーを作っている。そこに健司と磨子。


健司「よ!」

磨子「麻衣ちゃん!」

麻衣「ん?」


   顔をあげる。


麻衣「磨子ちゃんに健司!どーゆー?」

紡「私が誘ったんよ。」

糸織「友達持ち込みOK見たいだもんでさ。」

麻衣「ふーん。なら二人もやる?」

知晃「大歓迎だよ!みんなでやろ。」

タミ恵「ま、面白いんじゃない?」

恵美子「この女、相も変わらず素直じゃないの。」

田苗「今カレー作ってるんだ。二人も一緒に野菜切ろうよ。」

磨子、健司「イェッサァーッ!」


   ***   


   二人、カレー作りに加わる。


   磨子、肉の油だけをとって固めて小麦粉をつけている。


麻衣「磨子ちゃん何やってるの?」

磨子「これ健司のやつ。」


   人参を一つ二つだけ二センチもの厚さに切る。


磨子「これも健司が食べるやつ。」


   麻衣、笑いをこらえている。


健司「おいっ!」


   千里は手馴れた手つき。


健司「ん?」


   千里を見る。


健司「お前やけに上手いな。」

千里「そう?ありがとう。実は1週間に1度は僕がご飯作ってるんだ。ママが妊娠してるの。だから…」

健司「ほー…」

麻衣「いいな、せんちゃんの家ってもうすぐ赤ちゃん生まれるんだ。あんたお兄ちゃんになるんね。」

千里「これでもう2人目の妹だよ。」

麻衣「え?」

千里「まだ4歳だけど頼子って妹がいるんだ。」

麻衣「へぇーっ!」


   ***


   夕方。食事が始まる。麻衣、知晃、田苗、恵美子、タミ恵、千里、掛川、健司、磨子が食べている。


麻衣「あ!」


   巨大ニンジンを取り出す。


麻衣「これ…」


   磨子を見る。


磨子「あ、ごめん。麻衣ちゃんの所に行っちゃったんだ。」


   磨子、スプーンで脂の塊を掬い上げる


磨子「あ…」


   健司、腹を抱えてクスクス。


健司「ざまぁ見ろ!」


   スプーンを口に運ぶ。しかめっ面。


健司「おぇっ…」


   へらを出す。巨大ニンジン。


磨子「やーいやーい、引っ掛かった!引っ掛かった!大当りぃ!」

 

   ふざけて舞い踊る。健司、悔しそうにカレーを掻き込む。


   ***


   食べ終わる。


麻衣「次はいよいよ?」

知晃「肝試しね。」

健司「肝だめし?」

恵美子「うんっ。トラップは先生方。

私達は一人ずつ学校の中を廻るのよ。」

磨子「へー、楽しそうじゃん。ねぇ健司。」

健司「あぁっ!」

磨子「このばーかっ。強がっちゃって。」


   健司をこずく


磨子「低学年の頃、怖くて怖くてトイレ行けなんでお漏らしして泣いた子、何処の誰でしたっけ?」


   健司、真っ赤になる。


健司「バカ野郎っ!低学年の頃と一緒にするなっ!俺はへー5年生だぜ?」

磨子「さぁどーだか?本当に変わっていれば大したもんね。」

健司「な、何だとこの野郎!」

麻衣「まぁまぁ。」


   千里を見る。千里、震えて泣きそう。


麻衣「せんちゃん、あんたこそ大丈夫?」

千里「大丈夫じゃない…」


   者繰り上げる


千里「もうやだぁ!僕帰りたい!」

田苗「怖がりね、こんなのただの先生方よ。」

知晃「リアルな俳優さんがやってるリアルな廃病棟のお化け屋敷だったり…」

恵美子「実際に出るスポットとかだったら流石に子供の私達にはまだ刺激が強すぎるけどさ…」

磨子「わぁっ!てビックリするだけよ。」


   千里、驚いて泣き出す。


磨子「あーあ泣いちゃった…」


   麻衣と磨子、千里を慰める。


   ***


   始まる。


麻衣「後は私たち3人だけか…」

磨子「んなら私から…」


   校内に入っていく。


   ***


   涼しい顔で帰ってくる。

 

麻衣「どーだった?」

磨子「んーんー千里君、大丈夫大丈夫。みんな先生方だで優しいに。私が転んだら助け起こしてくれた。チャオチャーオっ!って言えば返してくれるに。」

麻衣「だって。ほいじゃあ次は私が…」


   千里、麻衣の腕をつかんで強く首を振る。


麻衣「え?」

千里「最後僕…1人?」

麻衣「ほーよ。大丈夫、私が行って先生達に言ってくるわ。」

千里「何て?」

麻衣「最後があんただもんで、ただでさえ恐がりだからおどかさないであげてくれって。」

千里「麻衣ちゃん…」

麻衣「ほいじゃあ、行って参ります。」


   麻衣、入っていく。千里、不安げ。麻衣を見つめる。


   ***


   麻衣、涼やかな顔で帰ってくる。


麻衣「何の何の、大丈夫。河原先生を始め、先生方に言ってきたに。みんな笑ってOKしてくれた。」

千里「本当に?良かった。麻衣ちゃんありがとね。」


   笑顔。


千里「では僕、行って参ります。」

   

   勇んで入っていく。


麻衣「河原先生は音楽室におるにぃ!」



○同・校内

   千里一人。歩いている。


千里「とは言ったもののやっぱり怖いよ…河原先生、ママぁ…」


   半泣き。


栗平先生「小口君、小口千里君!」

千里「ひぃっ!」

栗平先生「大丈夫、先生だよ。」


   千里に微笑む。


千里「栗平先生?」

栗平先生「先生方はみんないるから頑張れ。音楽室に行けば河原先生もいらっしゃるよ。」

千里「はい…」


   弱々しく微笑む。


千里「先生ありがとう…」


   先に進んで、色々な先生と話をして励まされている。


千里M「よーしっと、なんだか行けそうな気がするぞ!」


   勇んで進んでいく。



○同・音楽室

   ツィンバロンの音。千里、恐る恐る。


千里「か、河原先生っ?」


   突然激しく怪しいチャールダーシュが奏でられる


千里「ひぃーっ!」


   懐中電灯を落として逃げようとする。


河原先生「千里君っ!小口千里君っ!」

千里「いゃーっ!イヤだぁ!もういやだぁーっ!」


   転んで泣き崩れる千里。河原先生、抱き起こす。


河原先生「私ですよ。千里君、河原です。」

千里「河原先生?」


   者繰り上げながら安心して微笑む。


河原先生「大丈夫ですよ。事情は柳平さんから聞きました。あなたには特別なのよ、全くもう…」


   立たせる。


河原先生「ほら、後もう少しだから頑張りなさい。後は地下室だけですよ。」

千里「地下室…はいっ。」


   不安げ


千里「僕が一番最後なんですよね?僕一人で行くの?先生は一緒に来てくれないの?」

河原先生「あなた一人で頑張りなさい。ここまで怖がりな子は千里君、あなただけですよ。」


   優しく微笑む。


河原先生「さあっ!」

千里「はい。」


   歩いていく。


河原先生「先生は出口でみんなと一緒に待っていますからね。」


   千里は少し安心。胸を張って歩いていく。



○同・地下室

   地下廊下。千里一人。歩いてくる。


千里M「後はここだけだ。ここを乗りきれば…」


   唾を飲み込む。


千里M「よしっと…」


   頷くと先へと進み出す。


   ***   


   目の前に階段。


千里M「やったぁ!ついに出口だ!僕、頑張ったんだ!」


   嬉しそうに微笑んで小走り。前方から足音。


千里M「ん?」


   立ち止まる。


千里M「誰か来る。誰か僕を迎えに来てくれたのかな?」


   にこにこ


千里「待ってて!今、行くから!」


   シーン。千里、小走り。


千里「誰?麻衣ちゃん?磨子ちゃん?田苗ちゃん?ちきちゃん?タミ恵ちゃん?恵美ちゃん?それとも…分かった!かけちゃんだろ?それとも健司君かい?」


   シーン。


千里「返事くらいしてよ。何?みんな僕を怖がらそうとしてる気?」


   前方、古代の兵士たちが千里とすれ違う。一人、千里の方を無表情で見つめる。


千里「ん?」


   立ち止まって振り替える。


千里「今誰か通ったような…気のせい?」

 

   少年が千里の前に現れる。そして後ろへ歩いていく。


千里「君は誰?なん組の子?」

少年「…」

千里「見かけない顔だね。外国の子?」

少年「…」

千里「それとも誰かの友達?」


  少年、ゆっくりと首を振って消えて行く。


千里「え…」


   身震い。前方、古代的な少年一人、竪琴を弾きながら現れてすぐに消える。千里、固まって腰を抜かす。


千里「わ…わ…わ…」


   震える。


千里「ママ…河原先生っ…」


   涙が流れる


千里「助けて、もうやだぁ…嫌だよぉ…」



○同・校庭

   児童たちと先生たち。


麻衣「先生、せんちゃんは?」

河原先生「もう帰ってきてもいい様な気もするんですけど…大丈夫かしら?」

磨子「何かあったのかしら?」

河原先生「暗闇なのでそんな危ないものは置いてないし、最後の地下室にはお化け役の先生もいないし何の仕掛けもないからすぐに出てこられるはずなんだけど…心配だわ。」

栗平先生「では私が千里君の様子を見て参ります。」

河原先生「そうですか?では、宜しくお願いします。」

栗平先生「お任せください。」


   走って校内へ入っていく。麻衣と磨子、キョロキョロ。


磨子「あれ、そう言えば健司もいないわ。」

麻衣「ふんとぉーだわ、何処いっちまったんだら?」

磨子「きっとトイレじゃない?」

麻衣「でもトイレは校舎の中だら?こんな肝だめし最中に真っ暗な中あの子一人で行けるだけやぁ?」

磨子「や、たぶん切羽詰まってたんじゃないの?あの子、漏れそうになって必死なら何でもやる子だで。火事場のバカ力ってやつかな?うんうん…」


   一人で頷いて納得。


麻衣「いやいや磨子ちゃん…それ何か若干意味違うような気がする。」

磨子「ん?そ?」


   小粋にキョトンとする磨子を笑ってこずく麻衣。そこへ健司。


健司「おーい!」

麻衣・磨子「健司っ!」

磨子「あんた今まで何処行っていたのよ!?」

健司「わりぃわりぃ、トイレ我慢出来なくなっちゃってさ。校庭裏でやってきた。」

磨子「この…」


   健司をこずく


磨子「ばかっ!」

健司「痛ってぇ!」


   擦る


健司「それより千里は?」

麻衣「まだ帰っとらんのよ。」

健司「はぁ?」



○同・地下室

   栗平先生、懐中電灯を歩く。


栗平先生「おーい、千里君いるかぁ?」


   キョロキョロ


栗平先生「おーい!」

千里の声「先生?」

栗平先生「千里君か?」


   千里、崩れ去って泣きながら栗平先生を見る。


栗平先生「大丈夫か?」


   千里を立たす。


栗平先生「そうか、おもらししちゃったのか。」

千里「男の子のお化けが…」


   者繰り上げる


千里「いたんです…ここに男の子が…」

栗平先生「大丈夫だ、千里君大丈夫だから!」


   千里をおぶる。


栗平先生「さぁ、次はキャンプファイアだよ。大広間で着替えてから行くか。」


   電気をつけて階段を上る。後ろから竪琴少年が見つめている。



○同・校庭

   キャンプファイア。フォークダンスを踊る。


健司「うわぁっ!」


   火の粉が額に当たる。麻衣、クスクス。


健司「笑うなっ!」


   ***


  チャールダーシュ。麻衣と千里が踊る。


   ***


   スイカを食べる児童たち。


掛川「なぁなぁ千里君!」

千里「んー?」

掛川「お前ってTシャツ?パジャマ?」

千里「僕?僕は…」


   恥ずかしそう


千里「熊さんのパジャマ。」

麻衣「へぇー可愛い!」

健司「麻衣、お前は?」

麻衣「私?私なんて麻の着物だに、粗布風の寝巻き。」

磨子「へぇー何か古風で珍しい!」

麻衣「健司と磨子ちゃんも泊まるだら?」

健司、磨子「勿論っ!」

タミ恵「千里君は精々おねしょしないように気を付けなさい。」


   知晃、恵美子、田苗、麻衣、タミ恵を睨み付ける。


タミ恵「あらま、私ったらまた余計な事を?」


   つんっと笑って去る。


恵美子「嫌なやつ…」


   泣きそうな千里。


田苗「あんなやつのいうこといちいち気にしないでいいよ。」

知晃「そうそう。何が偉いんだか知らんがみんなにいつもあーなんだから。」

恵美子「根性悪なのよ。何かと人の幸せをやっかんでんだわ。」

麻衣「でもおもらしは幸せでもないに?」

磨子「まね…」

健司「俺もあんな子とはあまり付き合いたくはないな…」


   千里、スイカの3つ目を食べている。


健司「お前、ちびの癖によく食うよな。」

千里「そう?よく言われるの。」


   健司を見る。健司、4つ目に手を伸ばしている。


千里「そういう君もね。」

健司「まな。」


   二人、微笑む。


千里、健司「おいし。」



○同・大広間

   児童全員の寝袋が敷かれている。


栗平先生「千里君、今日もトイレ起こした方がいいか?」

千里「え?えぇ…」


   恥ずかしそう


千里「うん…」

掛川「僕も協力するよ。じゃあ臨海学習の日と同じく、僕は12時に起こすから必ず起きろよ。」

栗平先生「十君ありがとう。では先生はその2時間後にね。」

千里「みんな…」


   恥ずかしそうに笑う。


千里「ありがとう…」


   ***

 

   12時。掛川、千里を揺すり起こす。


掛川「千里君、千里君!一緒にトイレ行こうよ。ねぇってば!」

千里「うーん…」

掛川「千里君、又おもらししちゃうよ!」


   千里、寝入っている。


掛川「おいっ!」

千里「んーっ…トイレぇ…おしっこぉ…むにゃむにゃむにゃ…」

掛川「っ…?」

千里「トイレ行きたいよぉ…」

掛川「千里君ったらっ!」


   千里を強く揺る。


千里「んー?」


   目を覚ます。


掛川「千里君トイレは?」

千里「あっ!忘れてた。ありがとう!」


   寝袋を出る。


千里「あーおしっこ!スイカ食べ過ぎたぁ…」

掛川「あんなに食べるバカいるかっ!」


   二人、退室。



○同・トイレ

   男女共同


掛川「この階って男女共同しかないんだよなぁ…」

千里「えーっ!?」


   2人、用を足し出す。個室から麻衣。


麻衣「あ…」


   悪戯っぽくクスクス。


麻衣「いやん!男の子と一緒になっちゃった…お休みぃ!」


   手を洗って出ていく。千里、顔を真っ赤にして下を向く。


掛川「こんなのよくある事だよ。」

千里「えぇ…」



○同・大広間

   掛川、千里。寝入る


   ***

  

   2時。千里、目を固く閉じる。熟睡。


栗平先生「千里君、千里君、起きなさい。トイレに行こう。」

千里「んー…日本狼…」


   寝言。


栗平先生「え?」

千里「もうやだ…原始人…むにゃむにゃむにゃ、もう帰りたい…」

栗平先生「千里君!」

千里「トイレに行きたいんだよぉ…」

栗平先生「おいっ!」

千里「もう漏れちゃいそう…」


   栗平先生、ギクリ。


栗平先生「千里君っ!千里君っ!」


   千里、眠りながらしかめ面。


千里「もうこんなところいやだ…」


   栗平先生、千里の寝袋の中を覗く


栗平先生M「あー…間に合わなかったか…」


栗平先生「(小声)千里君、千里君!風邪引いちゃうよ、起きて着替えよう。」

千里「んー何ですかぁ?誰ぇ?」


   うっすら目を開ける。


千里「栗平先生?ここは?」


   キョロキョロとしてギクリ。


千里「先生…」


   蒼白。千里、体を動かす。栗平先生の顔を見る


千里「僕…」


   泣きそうになる。


千里「叉お漏らししちゃいました…ごめんなさい。」


   座って泣き出す。


栗平先生「千里君大丈夫だよ。大丈夫だから泣かないで。とにかく着替えよう。冷たいままじゃ風邪引いちゃうよ。着替えは持ってるか?」


   千里、泣きながら首を降る。


千里「パンツない…」

栗平先生「なら医務室へ行こう。先生から医務の戸ノ内先生には言っておくから。」


   泣く千里の手を引いて退室。



○同・マルチ広間

   朝食。千里、気落ちしている。


健司「おい千里、あまり落ち込むなよ。」

麻衣「ほーだに。大丈夫!私の兄貴なんて去年までお布団濡らしてたもん。」

健司「俺の兄貴だって!」

磨子「嘘こけ!」

麻衣「悟ちゃんはもっとしっかりしてるわ。」

磨子「あんたじゃないの?」


  健司、真っ赤になって俯く。千里、笑う。


千里「みんなありがとう。」


   焼きそばカレーロールをかじる。


千里「おいしい。」

麻衣「何のパン?」

千里「焼きそばカレーパン。僕これが大好きなんだ。」

健司「俺はお母さんのカツサンドとオレンジジュース。」

磨子「朝からよくそんなしつこいもん食べれるわね。」

健司「いいのっ!お前らは?」 

磨子「あ、私はキフリ!茅野駅前フォルトゥーナの。」 

麻衣「私は、味噌漬けのおにぎりと出汁卵とお竹煮。」

健司「くれっ!」

麻衣「だーめーよー!私の分しか…」


   健司、箸でつかんで口にいれる。


麻衣「あーあ…」


   千里も微笑んでお竹煮を食べる。


麻衣「仕方ない殿方たち。ほいじゃあ食いな。せんちゃんも磨子ちゃんも。」

磨子「やったぁーっ!」

千里「やりぃ!」

健司「ほいじゃあ遠慮なく…」


   磨子、健司の手を叩く。


磨子「あんたは少し遠慮なさい!」

健司「ちぇっ。」


   わいわい。

 

   ***


   解散。


○小口家・居間

   8月10日。珠子が繕い物をしている。


千里「ねぇママ、明後日だよ!」

珠子「分かっているわよ。きちんと準備しておきます。お料理はせんちゃん出来るわよね?」

千里「うんっ。」

珠子「ならみんなに卵クリームシチューを作ってあげるのよ。」

千里「はい。」

珠子「作り方分かるわね?」

千里「はいっ。」


   珠子、微笑んで千里の頭を撫でる。


珠子「せんちゃんはそう言うところは聞き分けがよくてとってもいい子ね…」

千里「そう言うところ?」



○柳平家・居間


糸織、紡「いいなぁ…」

紡「麻衣だけ先に大人になってく感じ…」

糸織「ふんとふんと、僕らにはほんなこん出来る友達まだおらんもん。」

麻衣「ほんならあんたたちもせんちゃんちに来る?」


   二人、不貞腐れる。


紡「ほいだって私達…」

糸織「招待されてないもん。」


   そこへ紅葉と八重子


紅葉「こらこら、今度はまた何の喧嘩?」

八重子「どうせまた下らないことでしょ?」

糸織、紡「下らないとは失敬なっ!」 

麻衣「私だけがせんちゃんちに招待されたって意地やいてんの。」

八重子「ふーん。」

紅葉「これからそんな事いくらだってあるわよ。」


   紡、糸織、鼻を鳴らす



○小口家

   翌日。千里、頼子、珠子、小口


珠子「じゃあ懐仁さん、私は行ってきます。せんちゃんを宜しくね。」

小口「珠子、本当に一人で大丈夫なのか?」

珠子「大丈夫よ。頼子の面倒もしっかりと頼んだわよ。」

小口「分かった。千里も頼子もママが退院するまでいい子にしてような。」

頼子「うんっ!」

千里「ママ…」


   不安そう


千里「ママ、本当に行っちゃうの?」

珠子「ママは病気じゃないんだからすぐに戻ってくるわよ。」


   泣きそうになる千里を抱き締める。


珠子「ほらほら、また泣きそうになってる。またお兄ちゃんになるんですから泣いちゃダメ。明日はお友達がくるのでしょ?そんな風に泣いてたらお友達に笑われちゃうわ。」

千里「ふっ、ふっ…」


   珠子、笑って千里放す。


珠子「もう行かないと。行って参ります。」


   出ていく。


千里「ママっ!ママっ!」


   飛び出て追いかけようとする。小口、千里を引き留めて抱き上げる。


小口「千里、ママは病気じゃないから大丈夫だよ。千里はもうお兄ちゃんだもんな。パパと頼子と二人でいられるもんな。」


   千里、泣き出す。小口、千里を抱いたまま慰める。


頼子「千兄ちゃん大丈夫ですよ。頼子がいますからね。」

小口「おやおや?お兄ちゃん恥ずかしいぞ?妹に慰められちゃった。」


   小口、頼子、笑う。


   ***


   翌日の夕方。千里、料理をしている。そこへベル。


千里「あ、はーいっ!」 

健司と麻衣の声「こんにちはぁ!」

千里「どーぞ。」


   ドアを開ける。


千里「いらっしゃい!」

麻衣「今日はありがとね。お邪魔しますつ!」

健司「今晩宜しくな。」

千里「うんっ。どーぞどーぞ、上がって。」

麻衣、健司「お邪魔しますっ。」


   奥へと案内される。



○同・台所


千里「さぁ座って。良かったらご飯食べてよ。」


   シチュー、サラダを出す。


千里「有り合わせで悪いけどさ、今日はママがいないから僕がご飯作ったんだ。」


   そこへ頼子が来て席へつく。


千里「あ、これ僕の妹の頼子。」

頼子「頼子です!宜しくお願い致します。」

麻衣、健司「かっわいいっ!」


   頼子、はにかみわらい。


麻衣「これみんなせんちゃんの手作りだだ?すごーい!」

千里「いや、手作りっていっても余り物を混ぜて簡単に作っただけだよ。」

麻衣「ほれが凄いって!なぁ!」

健司「あぁ!」

頼子「うんっ!千兄ちゃんは何でも出来て凄いです。」

千里「い、いやぁ、それほどでもぉ…」 


   照れてくねくね。麻衣、健司、笑う。


   食べる


千里「それじゃあ食べたら行くか?例のもの…」

健司「ほーだな…」

麻衣「そして明日は?」

麻衣、健司、千里「尖り石縄文祭り。」

健司「よーしっと。博物館や祭りで7000年の茅野市とやらを詳しく調べて纏めるぞぉ!」

3人「おーっ!」

麻衣「てか、あんたは本当は原村よね?」


   健司、吹き出す。



○同・玄関先

   麻衣、千里、健司。


健司「食った食った!さぁ行こうか?」

千里「そうだね。頼ちゃん寝たし、多分パパももうすぐ帰ってくると思う。」

麻衣「えぇっ。」


   ドアを開ける。


麻衣「でも真っ暗。道分かるかやぁ?」

千里「うん、いつも歩く道だから大丈夫だと思うよ。」

健司「なら信用するぜ。もし迷ったらお前のせいだからな。」

千里「えぇ?そんなぁ…」


   家を出る。行き違いに小口が帰宅。


小口の声「ただいま、もうお兄ちゃんたちは出掛けたかな?」



○豊平縄文小学校・教室

   夏休み明け。


河原先生「と言うわけで、皆さんには茅野市縄文の里研究と言うものをやっていただきます。」


   黒板を書く。


河原先生「茅野市縄文の里研究とは、この茅野市のいいところ、知らなかった事、何でもいいんですよ。食べ物、文化。とにかく何か一つをテーマに地域の事を研究をするんです。そして3学期の始めに発表をしていただきます。分かりましたね?」


   休み時間。


知晃「だって。みんな何にする?」

田苗「私はもう決めたわ。」

知晃「何々?」 

田苗「恵美子と茅野市の郷土料理について調べるのよ。」

知晃「へぇー渋っ。」

田苗「何よ?じゃあちきは何なの?」

知晃「私?私はタミさんと一緒に茅野市の観光地と自然の歴史について調べるの。ね、タミさん。」

タミ惠「ツンっ!」

恵美子「何よ、感じ悪。どうしてちき、こんなのと組んだのよ!」

タミ恵「仕方なくってよ。他の方はもう決まってらしたから。」

恵美子「ふんっ。誰もあんたとなんてやりたがらないのよ!」

タミ惠「なんですって!?」


   張り合う二人。


麻衣「私は以前から決めてもう始めているのよ。」

知晃「なになに?」

麻衣「せんちゃんと二人で組む事にしたの。」

千里「う、うん…」


   恥ずかしそうにもじもじ


千里「茅野市7000年…」

知晃「茅野市7000年?」 

恵美子「そういえばまいぴう、考古学好きなのよね。」

麻衣「えぇ!だからアラセルバについて調べたいと思って。」

知晃・田苗・恵美子「アラセルバ?」



○尖り石縄文公園

   森の中。麻衣と千里、散歩をする。


麻衣「当時はここに大きな王国が広がってたって言うのね。一体どうなっていたのかしら?気になるわ…」

千里「タイムスリップでもしてみないと分からないかもね。」

麻衣「タイムスリップ?どうやってするの?」

千里「知らない…」


   桟橋の上


千里「でもこれだけは何か聞いたことある。」

麻衣「何?」

千里「当時はここで戦争ばかり行われていたんだって。それで…」


   橋を見る


千里「この橋が当時はもっと大きくて…」


   麻衣、期待


千里「高かったんだって。それは…」

麻衣「それは?」

千里「王族様の用便所として使われていたみたいだよ。」


   麻衣、がくり。千里をこずく。


麻衣「何よ!もっと真面目な事を言うかと思っていたのに!」

千里「これだって十分真面目だよ!だってそのトイレの事も気になるじゃん。王様や王子様だって一人の人間だよ?トイレだってしたろ?」

麻衣「まぁ、そりゃそうだろうけど…」

千里「それを調べて僕、自信を持ちたいんだ。だってもし、凛とした勇ましい王子様でもおねしょしてたりお漏らししちゃってたり、そんな事が分かれば同じ時代の人ではなくてもこんな高貴で僕よりもずっといい身分の男の子でも僕と同じなんだなって。この研究を通して僕も自信も持てて強くもなりたいって思ったの。」

麻衣「そうだったの。確かに…それはちょっと気になるわね。」


   ニヤリ


麻衣「お漏らしやおねしょ、そんな記述どんな歴史書にも書かれていないもの。」


   足元、ミルテとエリカのあしらわれた勲章


麻衣「これ何かしら?」

千里「え?」

麻衣「綺麗…きっと誰かの落とし物なのね。」


   千里の胸元につける


麻衣「わぁ!あんたにとってもよく似合っているわ。まるでアラセルバの王子様ね。」

千里「君、アラセルバの王子様を知っているの?」

麻衣「知らない。」


   うっとり


麻衣「でも想像はいくらだって出来るわ。きっと、あんたの様に器量由で美しく鮮明なお方だったのよ…」


   千里、赤くなる。


麻衣「本当にタイムスリップでも出来ないかしら?お会いしてみたいわ…」


   麻衣うっとりと千里に喋りながら去る。



○市立図書館

   別の日。麻衣、千里。調べものをして資料を纏めている。


麻衣「よし、大分纏まってきたわね。第1部の発表で使うのは完璧!」

千里「うん!」


   強い風


千里「あぁ!」


   資料が舞う。二人、追う。


   ***


   泉に落ちる


麻衣「資料が!」

千里「(泣き出す)ごめん、本当にごめんよ麻衣ちゃん!」

麻衣「どいであんたが謝るんよ。あんたは悪くないに!」

千里「僕がしっかり押さえていなかったから行けないんだ!」


   噴水の中に入る


麻衣「せんちゃんっ!」


   千里、溺れる


麻衣「せんちゃん!?」


   入って助ける


麻衣「バカね…」


   千里、資料を渡す


千里「ごめんね、こんなにしちゃって。僕、書き直すから。発表までに間に合わせるから。」

麻衣「せんちゃん、だからあんたのせいじゃないわよ!大丈夫、私も手伝う。」

千里「麻衣ちゃん…」



○豊平縄文小学校・教室

   翌日。


河原先生「今日は小口千里君が風邪を引いてしまったのでお休みです。」

麻衣「え?」


   隣を見る。誰もいない



○同・図書館

   麻衣、調べものをしながらノートをとっている。


   ***


   チャイム。そこへ河原先生。


河原先生「あら、麻衣さん?もうとっくに下校時間は過ぎているのよ。何をやっているの?」

麻衣「先生…!」


   河原先生、ノートを見る


河原先生「まぁ、ひょっとして?」

麻衣「はい、研究発表の資料を纏めていたんです。実はこの間、纏めたものを噴水に落としてしまったの。小口君、それを拾ってくれたから…そのせいで風邪引いちゃったんです。」

河原先生「そうだったの。二人ともちゃんとやっているのね、偉いわ。」


   微笑む


河原先生「でも今日はもう遅いので帰りなさい。」

麻衣「はーい…先生さようなら。」


   退室


河原先生「はい、さようなら。」 



○小口家

   麻衣、ベルを押す

   

珠子「はい?」


珠子「あ、麻衣さん。」

麻衣「千里君のお見舞いに来ました。大丈夫ですか?」

珠子「まぁありがとう。どうぞ。」

麻衣「お邪魔します。」


   千里の部屋。千里、横になっている。


麻衣「せんちゃん、具合どう?」

千里「ごめんね麻衣ちゃん、わざわざ来てくれたの?」

麻衣「当たり前ずらに。」

千里「ありがとう。」

麻衣「それより…」


   資料を見せる


麻衣「見て!復元したわ。」

千里「これを?君一人で?」

麻衣「大変だったんだで!」

千里「麻衣ちゃん…」


   涙ぐむ


千里「本当にありがとう。ごめんね、僕のせいで君の大切な時間を…」

麻衣「だであんたのせいじゃないっつうこん!」


   タオルを絞る


麻衣「あんたは、今は何も考えずにしっかり休むこと。まだ熱あるだら?」


   千里の額にタオルをのせる


麻衣「じゃあ私はもう行く。連絡袋はここに置いておくな。しっかり治して早く学校に来てね。」


   手を振って退室。千里、涙で微笑む。目を閉じる。



○豊平縄文小学校・教室

   3日後。


河原先生「それでは、第一次研究結果の発表会を始めたいと思います。ではまずは…」


   発表、始まる。千里、緊張ぎみ。隣を見る。麻衣の席は欠席。


河原先生「はいありがとう。それでは次、小口千里君と柳平麻衣さんのグループお願いします。」


   千里を見る


河原先生「千里君、今日はあなた一人で大丈夫?発表出来る?」

千里「は…はい。」

河原先生「それでは前に出てきて。」

千里「はい…」


    千里、黒板前に来る。手足・体が震えている。


河原先生「それでは、お願いします。」

千里「あの…えーと、僕たちは茅野市7000年の歴史について調べています。主に古代、縄文時代にこの地域に存在したと言われているアラセルバ王国の歴史についてです。」


   千里、硬直。静まり返っている。


千里「それで…あの…えーと(何度も唾を飲む)」

河原先生「千里君大丈夫?」

千里「え?は…大丈夫です。」


   もじもじ


千里「僕たちが今までに分かったのはアラセルバ王国が当時、今の岡谷市から山梨県甲府市までを支配する巨大王国だという事と、この豊平地区にも当時は都市が広がっていてアラセルバの宮殿が湖東地区の中学校周辺から横谷峡付近にあったと思われるという…あぁ…」


   お漏らし。クラスメート、千里に注目。


千里「先生…」


   泣き出す


千里「漏れちゃった…」

河原先生「あらら、千里君…こっちへいらっしゃい。みんなは暫く待っていなさい。」


   千里の手を引いて退室。ざわざわ。


知晃「私、クラスメートのお漏らしなんて初めて見た。」

恵美子「私も。」

田苗「しかも千里君ってめちゃくちゃ可愛いじゃん?千里君には悪いけどきゅんとしちゃった。」

タミ惠「へ!やっぱりあの子ならいつかはすると思ったわ。」

恵美子「いい加減にしろよ、タミさん!」

タミ惠「ふんっ!」

田苗「てかさ、あんた本当は千里君の事好きなんじゃないの?だから冷たく当たるんじゃないの?」

タミ惠「バカ言わないで!」


   ***


   給食。千里、しょんぼり。


掛川「千里君、気にするなよ。お漏らしくらいで笑うやついないからさ。ほら、僕だって時々学校でお漏らししちゃいそうになる時あるし…」

田苗「え、そうなの?」

掛川「な、何だよ?」

田苗「あんた、そんな素振り見せた事ないから全然知らなかった。」

掛川「ありありと見せるわけないだろ!」

恵美子「でもさっきのは千里君が悪いんじゃないわよ。ほら、だって君ものすごく緊張してたでしょう?」

千里「うん…」

恵美子「緊張したから突然トイレ行きたくなっちゃったのね。あるある、そういう事。」


   千里、真っ赤になって俯く


   ***


   放課後。千里、しょんぼり帰る。


   麻衣の家の前。



○柳平家・麻衣の部屋

   千里と麻衣。麻衣、畳の布団に寝ている。


麻衣「せんちゃん。ごめんな…今度は私がダウンしちまった。」

千里「これ連絡袋。具合どう?」

麻衣「熱が少しあるだけよ、大丈夫。」

千里「僕のお見舞いに来てくれた時に僕の風邪がうつったんでしょ?ごめん…いつも僕、君に迷惑かけてる…」

麻衣「そんな事ないに。」


   にっこり


麻衣「君が今日、こうして来てくれてとっても嬉しい。ありがとう。」

千里「麻衣ちゃん…(泣き出す)」


   麻衣、驚いて飛び起きる


麻衣「ちょ、ちょいとせんちゃん?大丈夫?」

千里「うん、うん…」

麻衣「(察す)今日学校で辛いこんがあったんね?」


   微笑む


麻衣「話して。私で良ければ力になる。」


   千里、大泣き。麻衣、膝で千里を慰める。


   ***


   数日後。麻衣、起床。


麻衣「おはよう。」


   家族全員。朝食中。


紅葉「あら麻衣さん、もう大丈夫なの?」

麻衣「お陰さまで。」

けいと「(にっこり)今、凄いニュースがやっていたんだよ。」

麻衣「凄いニュース?」

紡「あぁ。何だか縄文時代前期の幻の遺跡が見つかったんだって。」

麻衣「幻の遺跡?」

糸織「あぁ。今まで歴史書には書かれなかった大発見らしいよ。」



○豊平縄文小学校・教室

   話で持ちきり


掛川「みんな今朝のニュース見たか?」

田苗「見た見た!縄文時代の遺跡が見つかったってやつでしょ?」

恵美子「いつ頃のものかしら?」


   そこへタミ惠


タミ惠「紀元前約5000年よ。」

麻衣「ほー、タミさん詳しい!なるほど。」

タミ惠「これには結構深い話もあるそうよ。私は良くは知らないけどね。」

麻衣「深い話?」


   興味深げ


   ***


   放課後



○尖り石縄文公園

   千里と麻衣。


麻衣「なんだって。」

千里「へぇ。」

麻衣「なんとなく調べ学習の参考になると思わない?」

千里「そうだね。なら僕らも見に行ってみようよ、その遺跡!」

麻衣「そうね、健司も誘ってさ。」


 ○小口家

   麻衣、千里。レポートを纏めている。健司も手伝っている。


健司「どいで俺までお前たちの宿題手伝わなくちゃいけんだよ!俺は関係ねぇだろうに!」

麻衣「今、手伝っておけばあんたの調べ物にも役に立つでしょ!」

健司「ちぇ…」

千里「そういえば…」


   ぼんわり


千里「昨日僕、とっても不思議な夢を見ていたんだ。少し怖かったけどとっても楽しい夢。」

健司「そういや。俺も何か見てたかも…」

麻衣「私も…」


   三人、顔を見合わせる。


麻衣「とってもリアルで…」

千里「臨場感あふるる…」

健司「今まで見たこんもねぇような夢…」

3人「これが本当なら、これをレポートに出来るかも!」


   3人、書き進める。


   ***


   3人、横になっている


麻衣「はぁ…終わった!」

健司「結局書いちまったな。」

千里「まあいいよ。どうせ誰も真実なんて知らないんだし、嘘っぱちでも。」

麻衣「調べた事に意味があるのよね。」


麻衣「発表の日って学芸会の日よね?」

千里「あ、そうだ!」


   頭をかきむしる


千里「どうしよう!劇の題材もまとめないと!わぁぁぁ」

麻衣「それなら大丈夫、ちゃんと纏めたわ。あとは河原先生に見てもらうだけ。」

千里「麻衣ちゃん…君って凄い。」


   麻衣、照れ笑い


千里「で?何にしたの?」

麻衣「ん?」



○豊平縄文小学校・教室

  

河原先生「それでは、今日はいよいよ学芸会です。調べ学習はちゃんと纏まっていますね?劇の準備もきちんと出来ていますね?」


   千里、緊張。泣きそう。


麻衣「(小声)せんちゃん大丈夫?」

千里「麻衣ちゃんどうしよう…僕、緊張するとトイレ行きたくなっちゃって仕方ないんだ。今度は体育館で発表なんでしょ?お漏らししちゃったらどうしよう…」

麻衣「モーマンタイン!あんたなら大丈夫。今日は私も一緒なんだし、フォローするわ。一緒に頑張りましょ。」



○同・体育館

   全校児童と保護者、教師が集まっている。


アナウンス「それでは続きまして、5年生の研究発表です。」


   拍手。1組ずつ始まる。


アナウンス「ありがとうございました。では…」


   麻衣、千里、ステージに立つ。千里、震えている。


麻衣「(小声)せんちゃん大丈夫!」

千里「うん。」


麻衣「私たちは茅野市7000年について調べました。特に私達が一生懸命に調べたのは、紀元前5000年にこの地にあったと言われるアラセルバという王国についてです。」

千里「アラセルバは今の岡谷市から山梨県甲府市までを占領する巨大王国だったという事が分かりました。そしてアラセルバ第12代国王の時代まで建国からずっと戦もなく平和だったという事も分かりました。」

麻衣「でも、13代目国王となる王子ティオフェルの時代になると治安は急変し、戦が起こるようになりました。12代目国王メディオスと后アッディーリャが邪馬台国という国に捕らわれるという邪馬台国の変がありました。」


   発表を続ける。観客、興味津々。


   ***


   終わる。拍手。


   千里、ステージを降りて腰を抜かす。麻衣、千里を支える。


麻衣「せんちゃんありがとう。ね、大丈夫だったら?」

千里「うん…(放心状態)」


   ***


   翌日。午前中。演劇発表が始まる。


アナウンス「続いては、5年2組による演劇、柳平麻衣さん台本の“アラセルバ王国のティオフェル”です。それでは宜しくお願い致します、どうぞ。」 


   ***


   フィナーレのカーテンコール。大拍手。千里、泣き出す。麻衣、微笑みながら千里を慰める。


   客席に中年の男と若い古代風の少年。



○小口家


千里「ただいまぁ!」


   千里、玄関を上がる。玄関には豹柄の細くて高いハイヒールと白のスニーカー。


千里M「ん、誰かお客さんが来ているのかなぁ?」


   鞄を部屋に放り投げる。


   ***


千里「ママ、ただいま。」

珠子「おかえりなさい。」


   微笑む


珠子「今日はとっても格好よかったわよ。」

千里「ありがとう。」

珠子「おやつがあるわよ、どうぞ。」

千里「わーい!」


   源夕子、源洲子がいる。千里、固まる。


千里「お、お、お…叔母さんっ…」

夕子「千里、久しぶりだね。今日は学芸会だったんだって?あんたきちんと出来たんだってね。えらいじゃないか。」

千里「どうしてここにいるの?」

珠子「(にっこり)来年諏訪へ戻ったら暫く夕子叔母さんと洲子叔母さんが一緒に住む事になったのよ。賑やかになっていいわね。」

洲子「千里ちゃんね。」


   微笑む。


洲子「大きくなったわねぇ。叔母さんの事覚えてる?」

千里「はい、ご無沙汰しております。千里です。」


   丁寧にペコリと頭を下げる。


千里「洲子叔母さんと夕子叔母さんでしょ?」

夕子「千里、どうして私の事だけちょっと嫌そうに言うんだい?」

千里「そんな事ないよ!あ、ママ…」


   珠子を廊下に連れ出して


千里「叔母さんたちに何か変な事話してないだろうねぇ?」

珠子「変な事?何も話してないわよ。」


   千里、胸を撫で下ろす。


珠子「ただちょっとせんちゃんに関して心配な事を色々と相談してただけよ。ほら、夕子叔母さんは塾の先生で洲子叔母さんは看護婦さんでしょう?」


   千里、青くなる。


千里「ま、まさか…」

珠子「せんちゃんのおねしょが今でもなかなか止まらない事と、最近はお家にいてもお漏らししちゃう事、勉強をちっともやらなくて点数が上がらない事よ。」

千里「んがぁーっ…!」


   愕然として頭を抱え、とぼとぼと退室。


夕子の声「これっ千里!あんたって子は、遊びに行く前にきちんと宿題をおやりって前も言ったろう!?もうすぐテストだって言うじゃないか!私のいる限りはビシバシお前をしごいて鍛え直すからねぇっ!覚悟をおしっ!」

千里「はいぃっ…」

夕子「母さんも身重なんだ。あんまり心配かけるんじゃないよ。」

千里「はい…」


   頭を抱える。


千里M「はぁっ…来年か…。」


   ため息。


千里「(廊下を歩きながらぶつぶつ)洲子叔母さんは大好きなんだけどな。夕子叔母さんまで一緒だなんて。嫌だなぁ…」

夕子の声「これっ千里っ!今なんか言ったかい?」


   千里、びくり


千里「別に何もいっていませんっ!」


   自分の部屋に入る。カーテンを開けてバルコニーに出る。コーポの3階。


千里M「勉強なんて今は嫌だよ。よしっと、一か八かだ。ここから逃げ出してやれっ!」

   

   リュックからロープを取り出して、格子と腰にくくりつける。


千里M「行こう。」


   格子を出て、ロープに捕まる。


夕子の声「これっ千里っ!今何しようとしてる?逃げようとしたって無駄だよつ!」

千里「うわぁっ!」


   手を離してしまい、植え込み花壇の中に埋る。管理人が水やりをしている。千里、水がかかる。泥々グショグショで倒れ込んでいる。



○同・奥間

   千里がしょぼん座布団に座る。珠子、夕子、洲子がいる。


夕子「千里っ!」


   腰に手を当てる。


夕子「全くお前って言う子は!私が来て早々ごたやらかしてっ!どうしようもない子だねぇ。何であんな3階の窓から逃げようとした?えぇっ?言ってみな!」 

千里「それはぁ…」


   口ごもってもじもじ。体はまだ泥々。


千里「そのぉ…」

洲子「姉さん、千里ちゃんが少しかわいそうじゃないか?子供なんだから遊びたいのは当然だよ、多目に見て…」

夕子「クニは黙ってなっ!姉さんといいクニといい千里を甘やかせ過ぎなんだよ!」

珠子「だってせんちゃんは私の可愛い…」

夕子「だからこそ厳しくするべきなんだ!私にとっても千里は息子のように可愛い甥なんだ。私はこの子にちゃんとした立派な男らしい男になってほしい。それで厳しくてしてるんだよ。」

千里「叔母さん…」


   夕子、千里を睨む。


夕子「?