『石楠花物語中2時代』
○小口家・千里の部屋
7時。小口千里、眠っている。
小口珠子の声「これっ千里っ!いつまで寝ているのっ?」
小口千里「んー…っ」
珠子、千里の部屋に入る。布団を丸めて千里を床に転げ落とす。
千里「寒いよママ、おはよう…」
珠子「寒いよじゃありませんっ!今何時だと思っているの?」
千里「んー?」
時計を見て慌てる。
千里「うわぁーっ!」
千里、急いで着替える。
○同・台所
坂上夕子、小口頼子、小口忠子、珠子、食事をしている。
珠子「せんちゃん早くしなくちゃ。」
千里「う、うん。」
レモンティーを二杯飲む。食パンをくわえて学校鞄を背負う。
千里「行ってきまぁーす。」
源夕子「おい、姉さん。」
珠子「せんちゃん体操着は?」
千里「あ、そうだ。忘れてた。」
夕子「姉さんってば!」
珠子、千里、ドタバタ。
頼子「ママ!」
忠子「千兄ちゃん!」
珠子、千里「何っ!」
夕子「時間を見な!」
珠子「見たわよ!だから急いでいるんじゃないの?」
千里「よりちゃんにただちゃん、君達も幼稚園バス来るんだろ?ぼさーっとしてるとと乗り遅れるぞ!」
夕子「二人とも冷静になって!時計を見なっていってるんだ!」
珠子、千里「ん?」
二人、時計を見る。まだ7:30
珠子、千里「え?」
夕子「何慌ててんだい?まだこんな時間じゃないか。」
千里「本当だ…」
珠子「ごめんなさい、せんちゃん。急かしちゃったわね。」
千里、気抜けして学校鞄を下ろす。食卓につく。
千里「なーんだ急いで損した。いただきまぁーす!」
食べ始める。レモンティーを何杯も飲む。
8時30分。千里、時計を見る。
千里「やばい!今度こそ遅刻する!」
幼稚園バスが来る。
頼子、忠子の声「行ってきまぁーす。」
珠子「はぁーい気を付けなさぁーい!」
千里「僕も行かなくちゃ!」
ランドセルを背負って立ち上がる。
珠子「せんちゃんも早く学校へ行きなさい。」
千里「うん。でもその前に…トイレ!」
台所を出る。
千里、ドアを叩く。
千里「叔母さん?叔母さんだろ?早く出てよ!」
夕子「うるさいねぇ、今出るよ。待ってな。」
千里「叔母さんーっ!」
珠子、洗濯かごをもって出てくる。
珠子「どうしたのせんちゃん?」
千里「叔母さんがトイレに入っているんだよ!」
珠子「だったら学校のトイレに行けばいいじゃないの。」
千里「もう漏れちゃいそうなんだもん!」
珠子「朝からレモンティーをがぶ飲みするからよ。早く学校に行って済ませなさい。」
千里「んー…」
恨めしそうに
千里「もし僕がお漏らししちゃったら叔母さんのせいだからね!」
千里、小走りに出ていく。
○諏訪城南中学校
チャイム。校門に飛び込む。
千里M「やばっ、もう始まるの?」
靴を履き替える。
千里M「トイレ行ってたらトイレには間に合うだろうけど到底授業には間に合わないよな。でももしこのまま教室に入ったら授業には間に合うかも知れないけど確実にお漏らしだ。どうしよう…」
お漏らしの情景を想像。
千里M「嫌だ!それだけは絶対に嫌だっ!いいや。お説教を覚悟でトイレ行こう。授業に遅れようがお漏らししちゃおうがどっちにしろ怒られるんだ…」
千里、苦しそうに歩く。階段を登っていく。
○同・男子用トイレ
千里、駆け込む。
千里「…」
男子便器の前。
千里M「はぁ良かった。間に合った…」
個室は七つ。一つ使用中。
千里「?」
千里M「誰かいるの?」
個室が開く音。
千里「っ…」
柳平麻衣が出てくる。千里を見る。
麻衣「あれ?」
千里「おりょ?」
麻衣「あ、あら…?ごめんなさい。私ったら男の子用のおトイレに入っちゃったの!?」
千里「(動揺)い、いや。僕は気にしてないよ。」
目を合わせない。ばつが悪そう。
麻衣「あんたせんちゃんね?私、実は今日から転校して来たの。改めて柳平麻衣。宜しくな。じゃね。」
小粋に出ていく。
千里「麻衣ちゃん…だったの?」
麻衣、去る。千里、真っ赤になる。
千里「転校生って彼女だったの!?どうしよう…彼女に僕…」
頭を抱えてヒステリック。
千里「おしっこしてるとこみられたぁーっ!」
肩を落としてトイレを出る。
廊下。歩く千里。
千里M「きっと藤森先生かんかんだろうなぁ。新学期早々、廊下に立たされるんだろうなぁ…」
しゅんとして教室に入る。
○同・教室
千里、ドアを開けてそろそろ。クラスメート、千里に注目。
藤森明美先生「小口君っ!」
千里「はいぃっ!」
藤森先生「君と言う子は、また今日も遅刻ですか!!」
千里「ごめんなさいっ…でもどうしてもトイレに…」
藤森先生「言い訳はよろしいっ。新学期早々遅刻とは何事です!?バケツをもって廊下に立っていなさいっ!」
千里「はい…」
千里、しゅんとなってバケツを二つ持って廊下に行く。クラスメート、クスクス。
千里、水のたっぷり入ったバケツを両手に持って廊下に立つ。
十数分後。藤森先生、顔を出す。
藤森先生「小口君、もう入ってきてよろしい。全員にお話があります。」
千里「はい…」
千里、教室に入る。藤森先生、一旦退室。
○同・教室内
十数分後
藤森先生「それではここで、みなさんに発表があります。今年度よりこのクラスに転校生が一人入ることとなりました。」
クラス、湧く。
藤森先生「静かに。それでは、紹介致します。入ってきて。」
麻衣が入ってくる。
千里「っ!」
藤森先生「柳平さん、自己紹介をして。」
麻衣「はい。原村高原中から参りました、柳平麻衣と言います。宜しくお願い致します。」
男子たち大盛り上がり。
藤森先生「しーずーかーにっ。それでは柳平さん、あの男の子の隣の空いている席に座ってね。小口千里って言うバッチをつけた子の隣ね。」
麻衣「はいっ。」
千里の隣に座る。麻衣、千里に優しく微笑む。千里、ドキリ。
藤森先生「はい。それでは授業始めますよ。」
休み時間。男子たち、麻衣によってたかる。千里、中に入れずおどおど。
小平海里「君、可愛いね。俺、小平海里。宜しく!」
後藤秀明「原村から来たんだ?いいところだよなぁ原村…俺、後藤秀明!たまに俺も行くぜ。」
丸山修「僕、丸山修。仲良くしよっ。」
麻衣「えぇ、こちらこそ。私、柳平麻衣。宜しくなして。」
微笑んで、隅で小さくなっている千里を見る。
麻衣「せんちゃん、何やっとるだ?」
千里「あ、あ…えぇ。」
麻衣「あんたも早くこっちに来なさいよ。」
麻衣、千里を輪の中に入れる。
○同・給食ホール
給食時。千里、後藤と小平の間に挟まれている。
後藤「千里、今日はお前の好きなかにクリームコロッケカレーと抹茶プリンだぞ。」
千里「うんっ。」
千里、牛乳を飲んでいる。
小平「あれ?千里、お前って牛乳飲めたっけ?」
千里「大っ嫌い!でも、やっぱり嫌いなもの終わらせて後で好きなもの食べたいし…それに…」
自分の体を見る。
千里「僕って小さいだろ?身長135センチしかないんだ…だからカルシウムとって大きくならなくちゃ!だから嫌いな牛乳も飲むようにしてるの。
千里「あーあ…せめて中学卒業までに160はほしいよな。」
小平「頑張れ千里っ!」
後藤「ファイトだ千里っ!」
千里「うんっ!」
カレーを掻き込む。
千里「ん、僕もう一杯お代わりもらって来よっと。」
ルンルン。
後藤「あいつはちびの癖に…」
小平「本当よく食うぜ…」
○小口家
千里「ただいま!」
台所に入る。
千里「いい薫り!おやつ何?」
夕子、コーヒーを飲んでいる。珠子、台所に立っている。
夕子「千里、帰ったのかい?」
珠子「お帰りせんちゃん。今日はせんちゃんの大好きなシュークリームよ。」
千里「わぁ、やったぁ!」
ランドセルを放り投げて手を洗いにいく。
夕子「これっ千里っ!ランドセルを放り投げるなっていつも言っているだろう!」
千里「はーい…」
千里、むっつりとしてへやに入る。
夕子の声「ランドセルをちゃんと片付けなっ!」
千里「ほーい…」
夕子の声「お茶する前に宿題も済ませな。」
千里M「うるさいなぁ…」
台所に戻る。
千里「あれ、ママ何処行くの?」
珠子「頼ちゃんと忠ちゃんのお迎えにいくのよ。」
千里「ふーん。いってらっしゃい。」
珠子「おやつ、宿題しながら食べなさい。テーブルの上に置いてあるわ。」
千里「わぁ!ママありがとう!」
千里、おやつを乗せたプレートを持って部屋に入る。
千里、食べながらうっとり。
千里M「でも夢みたい。まさか憧れの麻衣ちゃんがこの学校に来てくれるだなんて…このまま卒業まで一緒に過ごせたらいいなぁ…」
○高橋家・果樹園
麻衣、高橋房恵と共に木の手入れ。
麻衣「くしゅんっ!くしゅんっ!」
房恵「どうしたの?風邪?」
麻衣「いえ…嫌だわ、誰かが私の噂をしているのかしら?」
房恵「二つの嚔は噂じゃなくて誰かに想われているのよ。麻衣ちゃんが好きって。」
麻衣「嫌ね、ふさ伯母様ったら!」
房恵「可愛いあなたならあり得るわね。」
麻衣「もぉ!」
房恵、笑う。
数時間後。
房恵「よしっ出来た。これでいいでしょう!ありがとう麻衣ちゃん。」
麻衣「いえ!」
房恵「ご飯にしましょうか?」
麻衣「私、へーお腹ペコペコ!」
二人、家の中へ入る。
○岩波家
夕食。岩波茂、岩波幸恵、岩波悟、岩波健司。健司、心ここに有らず。
岩波「健司、どうしたんだ?食べんのか?」
悟「今日はお前の好きなラムカツカレーだぞ。」
健司「…」
幸恵「分かった。麻衣ちゃんが転校しちゃって寂しいんだな?」
悟もニヤリ。
悟「そうか、そいこんか。ひょっとしてあの子の事が好きなのか?」
健司、真っ赤になる。
健司「ち、違っ。ほんなんじゃねぇーよ!頂きまぁーす!」
掻き込む。
健司「お代わりっ!ラムカツもちょうだい。」
幸恵「はーいはいっ。」
幸恵、替えを作り出す。健司、ぼんわり。
健司M「麻衣、どうしてるんだろ。」
幸恵「はいっ、健司。特大で作ったわよ。」
健司「サンキューお母さん!」
掻き込む。
幸恵「ゆっくり食べなさい。」
健司「ぐふっ、ぐふっ、ぐふっ!」
悟「バカだなぁ、ほれ水飲め!」
悟、笑いながら健司の背を擦る。
○諏訪城南中学校・教室
一ヶ月後。休み時間。麻衣、永田眞澄、北山マコ、鈴木真亜子。
麻衣「いよいよ今年の夏か。」
眞澄「大イベントの事?」
麻衣「もっちろん!」
眞澄「楽しみ!」
麻衣「凄くワクワク!」
マコ「私も!」
麻衣「北山の家はアールカサールだら?出店するの?」
マコ「勿論!私は店の看板ロマとしてチャールダーシュを踊るのよ。良かったら来てみてよ。」
麻衣「是非!」
真亜子「あんたのところは?」
麻衣「私のところはただのかりん農家よ。イベントの裏働き。時々伯母様が甥っ子の彦兄ちゃんと芳惠伯母様のお店を手伝いに行くくらいよ。」
マコ「その彦兄ちゃんって?」
麻衣「私の従兄のお兄ちゃん。今年23歳なの。」
真亜子「格好いい男?」
麻衣「私も大きくなってからは会ってないで小さいときの顔しか分からんけど…結構格好いいお兄ちゃんだったに。」
マコ、真亜子「いいなぁ会ってみたい!」
眞澄、興味なさそう。
マコ「あんたは?何か冷めてるわね。」
眞澄「だって私にはチーちゃんがいるんですもの。他の男には興味ないわ。」
真亜子「未だ言ってるし。あんたも物好きだねぇ、あんな男の何処がほんなにいいのよ?」
マコ「でもいくらあんたが好きでも、千里はあんたに興味なさそうだし?いい加減諦めたら?」
真亜子「そうそう、しつこい女は嫌われるよ。」
眞澄「今はダメでもきっとチーちゃんは振り向いてくれるわ。眞澄の事見てくれるんだから!」
麻衣「チーちゃんって?」
眞澄「チーちゃんはチーちゃんよ。小口千里くん!」
うっとり。
眞澄「眞澄は将来、彼のお嫁さんになるのよ!」
麻衣「あー、眞澄ちゃんってせんちゃんのこん好きだったんだぁ!フーフーッ!」
真亜子「でも、あの子の方は眞澄に興味ないみたいだからいい加減諦めなって眞澄に言ってるの。」
マコ「そうそう。」
麻衣「恋する女の子にほいこん言わんだ。眞澄ちゃん。私は応援するに。」
眞澄「麻衣ありがとう!眞澄頑張る!」
マコ、真亜子、お手上げ。
○同・男子トイレ
行列が出来ている。千里、並んでいる。
千里M「早く!早く!」
時間を気にしながら。
千里一人になる。
千里M「やっと空いた…」
チャイム。千里、ギクリ。キョロキョロ。
千里M「どうしよう!?チャイムなっちゃったよ、次は音楽か…遅刻すると先生恐いんだよなぁ…もう1時間我慢しようかな?」
後藤の声「千里いるのか?早くしろよ。先生カンカンになって待ってんぞ。」
千里「は、はーいっ…」
千里、出ていく。
○同・音楽室
千里のピアノ伴奏。合唱。
千里「…」
チャイム。千里、微笑む。
千里M「良かった、終わった…」
音楽の先生「皆さんまだ帰らないで!」
クラスメート、手を止めて先生を見る。
眞澄「何ですか先生?」
小池先生「いいからみなさん、もう一度整列して立ちなさい!」
並び直す。千里、愕然。
音楽の先生「今日の歌う態度は何です?見ていてとても情けなかったわ!」
お説教が始まる。
千里M「どうしよう…先生の話いつまで続くのかな?間に合わなくなっちゃうよ…」
先生、千里を見る。
音楽の先生「小口君っ、小口千里くんっ!」
千里、びくり。
音楽の先生「話を聞く時は確りとお聞きなさい!ほらっ、真っ直ぐ立ちなさいっ!」
千里M「正直に先生に言おうかな?」
音楽の先生「小口君っ!聞こえないのですか?」
千里「あの、あの、先生…」
音楽の先生「何です?言いたい事があるのならはっきりと言ってご覧なさい!」
千里「あの、その…」
意を決して
千里「先生、トイレに行きたいんです!行かせてください!」
先生、時計を見る。
音楽の先生「もう終わりにします。もう少しお待ちなさい。」
千里「もう我慢が出来ないんです!お願いします!」
音楽の先生「どうして授業前に済ませないのです?」
お説教が始まる。千里、泣き出しそう。目を固く綴じる。
千里M「ダメだ…もう漏れちゃう…」
直後。クラスメート、千里を見る。
千里「先生…漏れちゃいました…」
先生、イライラと鼻を鳴らす。
音楽の先生「では終わりにします。みなさんは片付けてお戻りなさい。小口君、君は床を掃除してから医務室に行きなさい。今度からはきちんとトイレは授業前に済ませる事。藤森先生にも話しておきます。」
クラスメートと先生、退室。千里、崩れ去って泣き出す。
麻衣「せんちゃん…」
麻衣、モップを持ってきて床を拭く。
千里「誰…?」
泣きながら顔を上げる。
千里「麻衣ちゃん、どうして…?」
麻衣「大丈夫?」
千里「僕、僕…」
麻衣、千里の手をとって立たせてる。
麻衣「大丈夫よ。ほれ、ここは私がやる。終わったら一緒に医務室に行こう。
ハンカチを渡す
麻衣「へー泣かんで。ほら、これで涙拭いて。」
千里「…」
○同・廊下
麻衣と千里。音楽室を出て歩く。しゃくり上げる千里。
千里「麻衣ちゃんごめんね、こんな事やらせちゃって。それとありがとう。」
麻衣「大丈夫。気にせんで、困った時はお互い様よ。」
○同・医務室
麻衣「小山先生いる?」
医務の先生「どうぞ。」
麻衣、躊躇う千里を庇いながら入る。
医務の先生「どうしたの?あら…」
千里を見る。
医務の先生「トイレに間に合わなかったのね。」
千里「はい…」
泣き出す。
医務の先生「泣かなくてもいいのよ。君下着とスラックスのサイズは?」
千里「Sです。女の子の…」
小山先生「分かったわ。ちょっと待ってて。
着替えを千里に渡す
小山先生「あのカーテンの中に入って着替えなさい。柳平さんは入ってはダメよ。」
麻衣「分かってますっ!」
麻衣、椅子に座る。千里、しゃくりあげながら入っていく。
千里、ジャージズボンを履いて出てくる。
千里「麻衣ちゃん、待っててくれたの?」
麻衣「えぇ。でもサイズ、せんちゃんそんんに小さいの?」
千里「うん。僕チビだから…(落ち込む)」
麻衣「ほんな落ち込まんでよ。男の子ならすぐに大きくなるに。」
千里「そうかなぁ?」
麻衣「ん!で、せんちゃん?」
千里「ん?」
二人、医務室を出る。
○同・廊下
麻衣、ジャージのズボンを履いている。千里、スラックスを履いている。
千里「でも麻衣ちゃん…」
麻衣「いいってこんよ。実はね、去年も同じこんがあったの。去年までは健司と同じ学校でさ、クラスも一緒だったわけ。で、その健司が中一の初めにおもらししちゃったの。健司はチビだもんで、やっぱりズボンのサイズが私と同じ。だもんで今日と全く同じこんをしたのよ。」
千里「そうだったんだ…」
微笑む。
千里「麻衣ちゃん、本当にありがとね。この恩は忘れない。」
麻衣「何よ、大袈裟ね…」
千里「だって僕、君ほど優しくて親切で思いやりのある子に出会ったの初めてなんだもん。だからとっても嬉しいんだ。」
麻衣「(微笑む)困ったこんがあったらいつでも言ってな。今日みたいな事があったとしてもいつでも力になるし、あんたを支える。」
千里「ありがとう。僕も、頼りないかもしれないけど君の力になるよ。」
二人、握手をする。
○帰り道
麻衣と千里。
麻衣「なぁせんちゃん?」
千里「何?」
麻衣「あんた、後で私んちに遊びに来ない?」
千里「いいの?」
麻衣「勿論!友達だもん。私な、今は叔母ちゃんの家に居候しとるんよ。ほれ、今年諏訪市内の大イベントがあるら?ほの為になんか私を呼んだみたいで…花梨の紅茶が美味しいのよ。ご馳走するわ。」
千里「わぁー!ありがとう!でも…」
しゅんとなる。
千里「僕のママも叔母さんもとっても厳しいんだ…遊びに行くんなら勉強やってからじゃないと怒られる…しかも今日なんて…」
麻衣「宿題は沢山。だったら二人でやらまい!一緒にやりゃあすぐ終わるわよ!」
千里「ありがとう!だったら先に僕んちへおいでよ、近くだからさ。」
麻衣「分かった。」
○小口家
千里「ただいまぁ。」
麻衣「お邪魔します…」
珠子と夕子、飛び出てくる。
珠子「せんちゃんっ!」
夕子「一体どうしたんだ?」
千里「え、え?」
珠子「藤森先生から今日、せんちゃんが音楽の時間にお漏らししちゃったって電話がかかってきたのよ。先生も心配してらしたわよ。」
千里、俯く。
千里「う…うん…」
夕子「どうしたんだい?小学校低学年じゃあるまいし、どいでそんなになるまで我慢したんだ?」
千里「ごめんなさい…」
珠子「だからママがいつも言っていたでしょう?何かの前にはトイレは済ませなさいって。言うこと聞かないとこう言うことになるのよ!」
千里「ごめんなさい…」
俯いて泣きそう。
麻衣「彼を責めないであげてください!」
珠子、夕子、麻衣をまじまじ。
夕子「おや、あんたは?」
珠子「もしかしてあなたは、柳平麻衣ちゃん?」
麻衣「はい。この春から転校してきました。」
珠子「あらまぁ!又あなたと一緒になれるだなんて!いいわ、ゆっくりして行ってね。お見苦しいところを見せてしまってごめんなさい。」
麻衣「いえ、でも今日の事は彼が悪いんじゃないんです。だからおばさん、叱らないであげて。今日はふざけていたクラスメートがいて、そのせいで授業が通常よりも長引いてしまったんです。だから…」
わけを話す
珠子「そうだったの…」
にっこり
珠子「あなたが千里を庇ってくれた事も聞きました。麻衣ちゃんは昔からとっても優しい子ね。こんな息子のためにありがとう。」
麻衣「いえいえ。」
珠子「千里、麻衣ちゃんと一緒になれて良かったわね。麻衣ちゃん…」
微笑む。
珠子「こんなだらしなくて頼りない息子だけど、これからもせんちゃんを宜しくね。」
麻衣「こちらこそ!」
千里「じゃあ、僕これから彼女と勉強やるんだ。」
麻衣「では、お邪魔しまぁーす。」
千里「どーぞどーぞ。」
珠子、夕子、微笑む。
珠子「せんちゃんったら、あんなにはしゃいじゃって。」
夕子「千里もついに初恋か。」
珠子「初恋だなんて…」
夕子「千里はもう13歳。そろそろ初恋してもおかしくないんじゃないか?」
珠子「そうかしら?」
夕子「そういうもんさ。」
夕子、笑う。
○同・千里の部屋
千里と麻衣、勉強をしている。
千里「麻衣ちゃん、この計算の解き方分からないんだけど?」
麻衣「あぁこれ?これはここをこうしてこうして…」
千里、真剣に聞いている。
麻衣「どう、分かった?」
千里「なるほど。麻衣ちゃん流石!ありがとう。」
麻衣「えっへん、どういたしまして!」
おかめのルル、二人を見つめている。
ノック。 珠子が入ってくる。
珠子「進んでる?お茶よ。」
麻衣「ありがとうございます。」
珠子「せんちゃん、ほとんど麻衣さんにやってもらってるんじゃないでしょうね?」
千里「そ、そんな事…」
麻衣「ほんなこんありませんよ。寧ろ私が彼に教えて貰っています。」
珠子「そう?あまり麻衣さんに頼りすぎちゃダメよ。」
千里「はい。」
麻衣「おばさん、私から一ついいですか?」
珠子「何?」
数十分後。麻衣と千里、伸びをして寝転がる。
千里「やっと終わった!」
麻衣「ごしてぇ。」
千里「でもありがとう…」
麻衣「ん?」
千里「ママにあんなこと言ってくれて…」
麻衣「ほいだって、私もあんたと遊びたいし、あんただって遊びたいら?」
千里「う、うん。」
麻衣「学校終わって折角授業から解放されただに家帰ってすぐに宿題なんて、ほんなの私だって嫌よ。束の間の休息の時間がなくちゃ、気が滅入って変になっちゃうわ。」
千里「そうだよな、確かに君の言う通りだよ。」
18時。
千里「もうこんな時間になっちゃったね。」
麻衣「本当。んなら、明日時間ある?」
千里「明日かぁ…ごめん、明日はピアノのレッスンなんだ。」
麻衣「ほっか、あんたってピアノ弾けるんだっけ?又暇なときに改めてうちに遊びに来てよ。ピアノもあるでさ、是非あんたの演奏聴かせてよ。」
千里「え、えぇ、それはご勘弁を。」
麻衣「今更なに言っとるんよ。小学校の時にあんなに上手に弾いてくれたじゃないの?恥ずかしがるこんねぇに。今、何処まで進んどるの?」
千里「僕?僕はねぇ…」
二人、お茶を飲んでいる。
○高橋家・果樹園
房恵、木の手入れをしている。
麻衣「伯母様、ただいま。」
房恵「麻衣ちゃん、お帰り。」
麻衣「又、花梨の木の手入れ?」
房恵「そうなのよ。今年は特に忙しいの。なんてったって大イベントがあるだろう?」
麻衣「そうね。伯母様は今年も彦兄ちゃんのお店を手伝いに?」
房恵「あぁ。実はね、今年はあんたにも手伝って貰いたいんだよ。」
麻衣「え?」
房恵、微笑む。
十数分後。
麻衣「私が?」
房恵「あぁ。あんたは確かチャールダーシュが踊れるんだろ?」
麻衣「えぇ。」
房惠「隆彦の店アールカサールだからさ、お前のチャールダーシュとジプシーの歌声はピッタリなんだよ。」
麻衣「はぁ…」
房恵「考えてみておくれ。可愛い娘と素敵な見世物がありゃお客さんも喜ぶだろさ。」
麻衣「ほーですね。でも急にそんなこと…困ったわ。」
房惠「頼むよ麻衣ちゃん。このイベントでの優勝が懸かっているんだ。」
麻衣「優勝が?何故?」
房惠「実ははぽねさも赤字でね、隆彦のやつ、これでグランプリがとれなければ店を閉めるとか言い出したんだよ。」
麻衣「何でそこまで?」
房惠「何百も諏訪中の店が出る中、絶対にグランプリなんて無理だって。閉める気満々なんだよ。」
麻衣「そんな…」
房惠「だからさ、あの子のためにも麻衣ちゃん、あんたしかいないんだ。」
麻衣、悩む。
○諏訪城南中学校・教室
鈴木真亜子、眞澄、北山マコ、麻衣、千里。
真亜子、眞澄、マコ「えーっ!?」
麻衣「ほこを何とかっ!お願いします!」
真亜子「ごめん、私はそういう柄じゃないわ。お断りします。」
マコ「私はもう自宅の応援が決まっちゃっているから、ごめん。」
麻衣「ほっかぁ…」
眞澄「私の味噌屋も出店するみたいで、お手伝いしなくちゃだから、無理。ごめん。」
麻衣「ほうよね…」
眞澄「落ち込まないでよ麻衣、もう一人いるんじゃない?適任の美少女が!」
麻衣「誰?」
眞澄、千里を見る。麻衣、マコ、真亜子、千里をまじまじ。千里、ギクリと後退り。
千里「何だよ、みんなしてぇ…」
真亜子「確かに。この子が花形ロマをやればひょっとして女子以上に女子になったりするかも。」
マコ「面白そ。」
眞澄「なら決まり。君が…」
ズバリ。
眞澄「女装をして女の子になりきればいいのよっ!」
千里「え…えぇー?嫌だよぉ、僕女装なんてしたくない!」
麻衣、マコ、真亜子、眞澄、笑う。
千里、心配そうに麻衣を見る。
***
下校時刻。麻衣と千里、帰り道。
麻衣「せんちゃん、今日は私の家においでなさいよ。」
千里「いいの?」
麻衣「勿論!」
千里「うん!是非行くよ!」
○高橋家
麻衣「ただいま伯母様!」
房恵の声「麻衣ちゃん帰ったのね。お帰り。」
麻衣「せんちゃんいいに、入って。」
千里「ではお邪魔しまぁーす…」
○同・寝室
麻衣と千里。
麻衣「ここが私のお部屋。とりあえず座ってて。」
千里「へぇー…」
固くなってキョロキョロ。
麻衣「私、伯母様呼んでくる。」
麻衣、退室。千里、キョロキョロ。
千里M「ここが彼女のお部屋か。流石はアールかサールの一室…日本にいながらハンガリーだよ。」
部屋を歩き回る。
千里M「麻衣ちゃん、こういうお家で生まれ育ったんだろうなあ…文学も沢山ある。凄いな…」
麻衣と房恵、入ってくる。
麻衣「お待たせ。伯母様、紹介するわ。友達の小口千里君。」
房恵「あらあら、いらっしゃい。ゆっくりしてらしてね。」
千里「麻衣ちゃんのご親戚?」
麻衣「えぇ。父方の叔父の奥さんなの。かりん農家なんよ。」
千里「かりんかぁ…」
麻衣「あんたのところは?ご両親やご親戚、何かやってるの?」
千里「僕のパパは君も知っての通り、消防士だった。死んじゃったけどね…」
泣きそうになる。
麻衣「ごめんな…」
千里、涙を拭って微笑む。
千里「大丈夫。ママは昔、公務員だったけど、今は普通の専業主婦さ。ほら、幼稚園卒園してから京都に行ったろ?」
麻衣「えぇ。」
千里「僕の生まれは京都。ママが京都の人なんだ。だからママ、昔は京都市役所で働いてた。パパは諏訪の人。だから僕は諏訪と京都のハーフなの。」
麻衣「まぁ!(笑う)」
房恵「お前さんは京都出身なんだね。どおりで穏やかで優しそうな顔な訳だ。」
お茶を出す。
房恵「よかったら後でかりん畑を見においで。それと、これはかりんの紅茶だよ。口に合うか分からないけど飲んでごらん。」
千里「わぁ、珍しい!ありがとうございます。いただきます!」
啜る。
千里「んー美味しい!紅茶大好きなんだ!」
麻衣「良かった。」
麻衣と房恵、微笑む。
○高橋家・果樹園
麻衣と千里、房恵
千里「うわぁ、凄いや!」
麻衣「いい香りだら?これの私もいつも折檻を手伝ってるんよ。」
千里「いいな、僕もやってみたいな…」
房恵「なら、やってみるかい?」
千里「いいんですかぁ?やったぁ!何すればいいの?」
房恵「えーとねぇ…」
麻衣と千里、房恵の指示を受けながら動いている。
○高橋家・客間
千里と麻衣、伸びている。
房恵「ご苦労様。麻衣ちゃんに小口君。りがとう、助かったよ。」
麻衣・千里「いえいえ!」
房恵「それと麻衣ちゃん…」
麻衣「ん?」
房恵「あの話、どうかしら?適任の女の子があなたしかいないのよ…考えてくれた?」
麻衣「えぇ…」
申し訳なさそう
麻衣「叔母さんのお気持ちにお応えしたいのは山々なのよ。でも私…」
房恵「やはり無理かしら?」
麻衣「条件は?このお店と関わりのある人や、親戚でなければならないの?」
房恵「いえ、ただ13歳〜20歳で諏訪地域に住んでる女の子なら誰でもいいんだけどね。やっぱりはぽねさももう潮時なのかねぇ…」
千里M「(悲しそう)麻衣ちゃん、おばさん…」
麻衣「伯母様、許して…」
房恵「いいんだよ。麻衣ちゃんにだって都合があるんだ。」
麻衣、申し訳なさそうにうつむく。千里、心配そうに麻衣を見る。
千里M「よしっ。」
○諏訪城南中学校・男子トイレ
放課後。千里、個室に入る。
千里M「僕なんかでももし役に立つのなら…これも麻衣ちゃんのためだ。」
女性制服に着替える。
千里M「うわぁ恥ずかしい…」
髪を結う
千里M「出来た。」
個室を出る、洗面の鏡を見る
千里「うふっ!なんだか私、ちょっと可愛かったりするかも。」
トイレを出ようとする。
千里M「うっ…」
もじもじ
千里「トイレ行きたくなっちゃったよ…どうしよう?
キョロキョロ
千里「いいや…」
男子便器の前に立つ
男子生徒が入ってくる。
男子生徒「うおっ!」
千里「(花魁っぽく)ごめんなんし。」
千里、出ていく
男子生徒「今のってまさか…小口?」
○同・昇降口
麻衣、待っている
麻衣M「せんちゃん遅いわね。叉、藤森先生に雷喰らっているのかしら?」
女装をした千里
千里「ごめん、待ったぁ?」
麻衣「誰?」
千里「いやね、分からない?千里よ。」
麻衣「せんちゃん?」
まじまじ
麻衣「うぷっ!」
大笑い
麻衣「何よその格好!どうしただ?」
千里「(真剣)麻衣ちゃん、僕ずっと考えてたんだけど…あの時のお礼をまだしてなくってその…」
もじもじ
千里「僕が困った時に君は僕を助けてくれただろ?だから今度は僕が君の力になりたいんだ!花形ロマの件で…」
麻衣「え?」
千里「もしも、もしも僕でいいのなら僕にやらせてください!君と、君の親戚を、そしてお店を守りたいんだ!助けたいんだ!」
土下座
千里「この間の紅茶とベイグリ、お店でも出してるって言ってたよね?とても美味しかったんだ!あんなに美味しいのになんでお店を閉めなくちゃいけないの?そんなのダメだよ!」
麻衣「ちょっとせんちゃん!」
千里「だからダメもとでも僕に力にならせてください!お願いします!」
麻衣「せんちゃん…」
涙に微笑む
麻衣「笑ったりしてごめんなさい。ありがとう、是非伯母様に紹介させてください。お願いします!」
千里「はい!」
○高橋家
麻衣と女装千里。
麻衣「ただいまぁ!」
房恵の声「あ、麻衣ちゃんお帰りなさい。ちょうど芳惠が来ているのよ。」
麻衣M「芳惠おば様が?ナイスタイミングね。」
ニヤニヤ。
麻衣「せんちゃん、あんたはちょっと私が呼ぶまでここにいて。」
千里「う、うん…」
麻衣、走って入っていく。
○同・縁側
房恵と芳惠。そこへ麻衣。
麻衣「伯母様っ!」
芳惠「麻衣ちゃん!大きくなって!」
麻衣、悪戯っぽく笑う。
麻衣「ほれより伯母様、今日はお二人に紹介したい子がいるのよ。」
房恵「紹介したい子?」
芳惠「誰かしら?お友達?」
麻衣「えぇ、とっても可愛い女の子なの。花形ロマに如何かしら?彼女の了解もとってあるわ。」
房恵「本当にかい?やってくれるってかい?そりゃ嬉しいよ。」
麻衣「(大声)入って!」
千里、神経質に入ってくる。
麻衣「ね!」
房恵「あらっ!」
芳惠「まぁ!なんて可愛らしい娘さんなの?何処の子?」
麻衣「城南よ。昨日来たせんちゃんの親戚の子。」
房恵「そう!お名前は?」
千里、激しく動揺。
房恵「どうしたの?」
芳惠「きっと緊張してるのよ。」
千里「私は、私は…」
口ごもる。
千里「み、源チサと言います。宜しくお願い致します。」
麻衣M「せんちゃん、ナイス!」
房恵「チサちゃん宜しく。この度は引き受けてくれてありがとう。あなたみたいな子なら間違いなくお店の花形になれるわ!」
千里「ありがとう。何をすればいいの?」
芳惠「簡単よ。あなたの得意な事でお客様を楽しませてくれればいいのよ。後は簡単なお給事をお願いするわ。」
千里「分かりました。」
悩む
千里「でも私の得意な事、ピアノくらいしかないわ。」
房恵「なんだっていいのよ。素敵な特技じゃないの!」
芳惠「あなたはピアノが出来るのね?素晴らしいわ!」
千里「麻衣ちゃんからはハンガリー様式のアールカサールだと聞きました。私、少しだけならチャールダーシュっが踊れます。」
芳惠「まぁ、それは本当かい?」
房恵「それじゃあ早速チサちゃん、はぽねさを見に行ってみるかい?」
千里「え?」
房恵「隆彦もきっとこんな可愛い娘さんが来てくれりゃあ大喜びだよ。」
麻衣「いいじゃないの、チサちゃん。」
千里「んー…」
○はぽねさ
前景の四人と須山隆彦。須山、カウンターに立って皿を拭いている。
芳惠「隆彦!」
須山「あ、母さんお帰り!
麻衣に気がつく
須山「麻衣ちゃん!」
麻衣「彦兄ぃ、はーるかね。」
須山「大きくなったね!で、みんな揃ってどうしたの?」
芳惠「イベントの件さ。」
須山「イベント?」
須山「もしかして花形ロマを置くとか言う話?」
笑う
須山「よせよ母さん、こんな店どうせグランプリなんて無理なんだから要らないっていってるだろ!それにうちは死活問題で来てもらってもお給料も払えない。だから…」
千里「お給料なんて要らないわ!要らないからやらせてよ!私、このお店にもお兄さんにも明るくなってほしいのよ。伯母様から聞いたわ、閉めるんですって?」
須山「あぁ…」
千里「そんな事言わないでよ!閉めるなんて嫌!私どんな事でもするから!お店のためにしっかりお勤めするから!どうかやめるだなんて言わないで!」
須山「ひょっとして…君が?」
芳惠「どうだい可愛いだろう?」
須山「あぁ、まぁ…」
芳惠を見る。
房恵「彼女ねぇ、ピアノが弾けてチャールダーシュも踊れるんだってさ。」
須山「ほぉ…」
房恵「チサちゃん、折角なんだ。一回私達にピアノとチャールダーシュ、見せてくれないか?」
千里「え?今、ここで?」
房恵「あそこにピアノがあるからさ。」
千里「はい…」
麻衣、千里の肩を叩く。
麻衣「チサちゃん、私も聴きたいに。」
千里「そう?なら…」
遠慮気味にピアノにスタンバイ。
千里「簡単な曲しか弾けないわよ?」
麻衣「大丈夫よ、君らしく。」
千里「うん、分かった…」
弾き出す。麻衣、房恵、芳惠、須山、目を丸くして聞き入る。
四人「おぉっ…」
麻衣「凄い…上手すぎる…」
千里、弾きながら幸せそう。
千里M「このピアノ、何ていい音なんだろ?一瞬で虜になってしまう、僕の心を蕩けさせるこの不思議な音色は一体何なんだろう…」
終わる。千里、固くお辞儀。大拍手。
麻衣「凄いにチサちゃん!ビックリしちゃった。あんなにピアノ上手いだなんて!いつから習ってるの?」
千里「3歳…」
房恵「んま!そんなに小さい時から?早速明日から入って貰いましょう!もうあなたしかいないわ!」
芳惠「お給事は少しずつやりながら覚えていけばいいわ。一緒に頑張りましょ、よろしく。チサちゃん。」
千里「え…えぇ…」
麻衣、無言で微笑んで千里の肩を叩く。
○小口家
千里の声「ただいま…」
玄関先に珠子と夕子。仁王立ちをして千里を睨み付けている。
千里「ママ…叔母さん…」
珠子「せんちゃん、今何時だと思ってるの?約束の門限は?一体何時でしたっけ?」
夕子「今までどこほっつき歩いてたんだいっ!」
千里「そ、それはぁ…」
夕子、千里の靴を無理矢理脱がせて手を引く。
夕子「ちょっとこっちへ来な。あんたのために床はもう準備できてるんだよ!」
珠子「千里っ、これからたっぷりお説教よ。反省なさいっ!」
二人、千里の手をぐいぐい引いて奥の和室に連れていく。
千里「ちょっ、ちょっと待ってよぉ!その前にトイレ行かせてよ!僕、凄くトイレ行きたいんだよ!」
珠子「いけませんっ!ママ達のお話が終わってからになさいっ!」
夕子「それまでは何処へも行かせないからねぇ!」
千里「これには色々と訳があ…」
夕子「言い訳はなし。言いたいことがあるんなら後にしなっ!」
珠子「ママたちは今、本気であなたの事を怒っているのですからね!」
千里「ふぅー…」
トイレへ行こうとする。夕子、千里を奥間に連れ込んで、凄い勢いで障子を閉める。
○同・奥間
夕子と珠子。千里、おつくべをさせられている。夕子と珠子を恐々、震えながら見つめている。
夕子「千里っ!お前が中学に上がったばかりの時に母さんと父さんと約束しただろ?どうして守れないんだい?」
珠子「ママはねぇ、門限過ぎた事を怒っているんじゃないんです。せんちゃん、あなたは約束を破るような子ではないと思っていたのに…ママ悲しいわ、どうして?」
千里に説教をする珠子と夕子。千里、おつくべをしたまま俯いている。
千里M「トイレ、トイレ…」
もじもじ。
1時間後
珠子「さて、ママと叔母さんからのお話は以上よ。次はあなたの番です、何で遅くなったのか正直に理由を言ってごらんなさい。」
夕子「聞くよ。」
千里「それはぁ…あのぉ…」
口ごもる。目を見開いて立ち上がる。
千里「ごめんっ、その前にトイレ行かせてくださいっ!もう我慢できないよ!」
ママ「いいわよ、行きなさい。」
千里、和室を飛び出ていく。
○同・トイレ
用を足す千里、長いため息をつく。
千里M「よかった、間に合った…」
流して出る。
○同・奥間
千里、戻る。
珠子「せんちゃん、お勝手に行きなさい。ご飯にしましょう。」
千里「え…?」
珠子「もういいわ。ママも怒っていません。」
千里「ママ…」
夕子を見る。
夕子「仕方ないね、もういいよ。今度からはちゃんとしな。食べたら勉強するんだよ。」
微笑む。
夕子「もうすぐテストだろ?じゃないと又、今日の倍お説教だからね。覚悟をおし。」
千里「はいっ。」
三人、お勝手に入っていく。
珠子「頼ちゃんと忠ちゃんも、お夕食よ。」
頼子と忠子の声「はーい。」
○高橋家・果樹園
翌日。麻衣と房恵と芳惠。果樹園の管理をしている。
麻衣「このかりんがジュースになったり砂糖付けになったりするのね。いい香り…楽しみだわ。」
房恵「そうよ。終わったらあなたにもお礼にかりん水とかあげるからね。」
麻衣「わぁやったぁ!ありがとうございます!ほいじゃあ頑張らなくっちゃ!」
張り切る。房恵、芳惠、微笑んで顔を見合わす。
房恵「そう言えば、チサちゃん今日からなのよね。どう?来てる?やれそう?」
芳惠「えぇ、私がちょうど出てくる時に来ましたよ。ちゃんと挨拶も出来て、とても礼儀の正しい子よ。あの子ならきっといい看板ロマになれるわ。今頃きっと隆彦に色々と教わってるでしょう。」
○はぽねさ・フロア
須山と千里。
須山「開店までに全て終わらせないといけないんだよ。お客様が来たらさっき僕が教えたようにやってね。」
千里「はい、分かりました…」
須山「宜しく。後、従業員専用のトイレがないからトイレに行きたくなったらお客様用を使って大丈夫だから。入って左手が女の子だよ。」
千里「男の子は?」
須山「男の子?」
キョトンとする。
須山「男の子は右だけど、まさか男の子に入るつもりじゃないよね?」
千里「え…」
我に返る。
千里「いえいえまさか!ちょっと聞いてみただけですよ!」
動揺。
千里M「僕、男の子なのに女子トイレなんて入れるかってんだ!しかもそんなところをお客様に見られたら大変だ!」
千里、テーブル拭きをしている。
数十分後。
千里「終わりました、須山さん!」
須山「お疲れ様。少し休んでいいよ。開店まで30分ある。」
千里「はいっ。」
千里、エプロンを脱いで椅子に腰かける。そこへ麻衣。
麻衣「彦兄ぃ、こんにちは!」
須山「お、麻衣ちゃんこんにちは。」
麻衣「チサちゃんは?どう?」
須山「あぁ、彼女はとても優秀で覚えも早いしよくやってくれるんだよ。大助かりだ。」
麻衣「へぇ…」
千里に近寄る。
千里「あ!」
麻衣「(小声)せんちゃんどう?」
千里「うん、ありがとう。なんとか順調だよ。僕が男の子ってこともバレてないし。でも…」
麻衣「でも?」
千里、とても困った様子。
千里「ちょっと来て…」
麻衣を店の外に連れ出す。
***
店の外。千里と麻衣。
麻衣「どうしたのよ?」
千里「問題はトイレなんだよ。僕どうすればいいんだ?」
麻衣「ほりゃ勿論、女子トイレに入るしかないんじゃない?」
千里、真っ赤になって動揺。
千里「バカ言うな、入れるわけないだろ!女装は外見だけで中身はバッチリ男なんだ!それこそ変態だよ!」
麻衣「あら?」
悪戯っぽく。
麻衣「私は今のあんたなら男子トイレに入った方がよっぽど変態扱いされると思うに。」
千里「そんなぁ…そんなとこまで考えてなかったよ…」
もじもじ
千里「そんなこと言ってたら本当にトイレ行きたくなってきた…ごめん!
走る
千里「僕ちょっと公園の公衆トイレ行ってくる!」
麻衣「ちょ、ちょっとぉ!」
***
十数分後。千里、店内に戻る。
須山の声「チサちゃん、そろそろ開店だよ。」
千里「は、はーいっ…」
夕方過ぎ。満員で賑わい出す。
客「おい、オーナー!この店に新しい女の子が入ったって聞いて来たんだが、本当か?」
須山「えぇ。これから彼女のショ―が始まりますよ。」
客「へぇー、そりゃ楽しみだ。」
千里、ステージに登場。ピアノを弾く。客、釘付け。
終わる。大拍手。
千里「皆さん、ありがとう。私が今日からここの専属ダンサーとピアニストをさせていただく、ロマの源チサと申します。イベント期間限定になるとは思いますがよろしくお願いします。」
歓声。
千里「では続いてチャールダーシュをお目にかけましょうか?」
踊り出す。
終わる。千里、客のお給事をする
客「チサちゃん、可愛いね。後、数年したら俺んとこへ嫁に来ねぇか?」
千里「よ、嫁?」
客「あんたみたいな可愛いの、このド田舎そうはいないぜ。美人を見つけたら早いもん勝ちよ!俺、もらった!」
客「狡いぞ!俺だってまだ独身なんだ!お前みたいなじいさんにこんな若い娘が嫁ぐわけないだろうに!」
客「へっ、お前こそ冴えねぇ面してよくも言えたもんだぜ。」
客「僕、今日から君のファンになるよ!」
客「そうだそうだ、俺もだ!」
客「よーし、これからは楽しみと生き甲斐が出来たぞ。俺は仕事帰りに毎日でもここへ来るよ。」
大騒ぎになる。千里、男性客に囲まれて、押し潰されている。
千里M「嫁って…おえっ…僕は男だぁ!誰が男になんか嫁ぐものか!おえっ…」
千里、抜け出す。須山の元へ行く。
千里「須山さん、助けてよ…」
須山「ありがとう、お疲れ様。君、モテモテだね。ほら、少し休んでていいよ。ごしたいだろ?」
千里「ありがとうございます。そうさせて貰います…」
奥へとヨロヨロ。
千里M「ここはキャバクラですかって…」
○同・休憩室
千里、座布団の上に体操座り。ペットボトルのレモンティーを飲んでいる。フーッと長いため息。
千里M「本当にこんな僕にちゃんと続けられるのかな?」
***
(フラッシュ)
千里のお漏らし。
***
千里、身震い。
千里M「トイレにも行けない身分…叉お漏らししちゃったらどうしようって、そればかりを考えちゃう。」
○上川バイパス
千里、後藤、小平、眞澄、真亜子、マコ
眞澄「って事はもしかしてチーちゃんがやってるって事?」
後藤「ほー?」
ニヤニヤ
後藤「っつーこんは何?お前女装か?」
千里「そうだよ…」
俯いている。
千里「言っておくけど僕がやりたくて、僕の趣味でやってる訳じゃないんだからね…」
小平「でも一度女装したらお前、中毒んなったりしてな。」
演技
小平「スカートが履きたい!女の子になりたい!ってな。」
千里「やめろよ、そんな事ないっ!」
後藤「でも俺は何か羨ましいな…」
千里「何がだよ?」
後藤「お前みたいな可愛い顔なら女装したところでへー女にしか見えんからさ、堂々と女子トイレにも入れるじゃん。」
千里「それが一番の苦痛なんだよ!」
小平「何でだよ?いいじゃん。だって普段は絶対に入れない女子トイレに入れるんだぜ?」
千里「僕は男だよ?男なのに女子トイレに入るだなんてそんな罪な事出来るか!」
真亜子「私もいいと思うわ。女装してる時なんて男捨ててるようなもんでしょ?ってよりもあんたの場合、もう普段から男捨ててるようなもんだけど?」
千里、真亜子に食って掛かろうとする。
千里「でも外見は女の子でも中身は男だもの。女子トイレに入るって事は、他の女の子を騙すって事だろ?」
泣きそうになる。
千里「そんなこと僕には出来ないよ!」
興奮し出す
千里「僕は心も体も正真正銘の男の子だ!なのになんで僕は女装をしていなくても男の子に見られないの?温泉に行ったって証拠見せるまでは女子学生と間違われて叔父さんから嫌らしい目で見られるし、男子のところに入ったって変態扱いされるし…」
後藤「そこまでか…」
小平「凄いな…お前…」
眞澄「じゃあチーちゃんって本当は…」
千里「僕は男だっ!」
全員を睨み付ける。
千里「でも最後までやらなくちゃ…麻衣ちゃんと須山さんやおばさんたちの為にも。だから頼む!」
嘆願。
千里「僕が源チサだって言う事は誰にも言わないでほしいんだ!終わるまでは黙っててくれ!」
全員、顔を見合わせる。千里、腕時計を見る。
千里「マズイッ!お家に帰らないと叉、ママたちに叱られる。じゃあね…」
帰っていく。
眞澄「チーちゃんも毎日毎日大変ね。」
真亜子「気の毒って感じ。お家に縛られてて…」
後藤「でもあいつ今、源チサっつったな。」
小平「そういう名前でやってんのか…」
後藤「実は以外にもやる気ノリノリだったりして?」
全員、ニヤリ。
○小口家・千里の部屋
千里一人。勉強をしている。
千里M「忘れろ…忘れろ…勉強に集中しよう…」
ハンガーを見る。女性用チャールダーシュ衣装が中学の制服で隠されている。
千里M「はぁ…何やってるんだろ僕って。ママと叔母さんだけには見つからないようにしなくっちゃな。絶対に叱られる…」
震える。
千里「んーっトイレっ!」
急いで部屋を退室。
入れ違い。珠子と夕子。
珠子「そうなのよ、最近のせんちゃんを見ているとどうも何かを私に隠しているみたいなの…」
夕子「あの子が隠しているっていったら私には大体見当がつくね。点数の低い答案用紙か、或いは学校でお漏らししちまったか。」
二人、千里の部屋を物色。中学の制服が落ちる。ドレスが剥き出しになる。
珠子・夕子「っ!?」
夕子、ドレスを手に取る。
夕子「これは一体何なんだい?」
珠子「私のものではないわ…」
夕子「あの子こんなもんを隠し持って、一体何しようとしてたんだ!何て子だ!」
珠子「全くだわ!」
千里、トイレから出て戻ってくる。
千里「?」
珠子「せんちゃんっ!」
ドレスを見せる。
珠子「これは何ですっ!?」
千里「そ、そ、そ、それはですねぇ…」
夕子「こっちへおいでっ!」
千里の耳を引っ張って連れていく。
○同・奥間
千里、珠子、夕子。
珠子「あなたって子は!こんなものを隠し持って一体何をしていたの!」
夕子「あんたがルーズでどうしょうもない男って事は私も知ってたさ。それでもあんたは男として生きる道はきちんとしてるかと信じていたんだが、私ゃ見損なったよ!」
珠子「ママはせんちゃんがこんな事をする子だなんて思っていませんでした。ママ、とっても悲しいわ。これはママが処分しますっ!」
千里「ダメだよっ!お願い、捨てないで!」
夕子「千里!あんたって子は!この期に及んで未まだやる気かい?」
千里「違うよ、違うんだってば!僕の話もちゃんと聞いてくれよ。」
夕子「あぁ、なら聞いてやろうじゃないか。何なんだい?」
千里「そのドレスは…僕が自分で買ったものじゃない…」
珠子「じゃあ誰かのなの?」
千里「それはぁ…麻衣ちゃんのものです。」
夕子「千里っ!」
千里、泣きそうになりながら話し出す。
千里「って訳なんだ。麻衣ちゃんと須山さんやおばさんの為なんだよ!麻衣ちゃんや伯母さんのとっても悲しい顔見てたらどうしても助けてあげたかった。」
千里「僕がお漏らししちゃった時、他の友達が僕の周りから逃げて行く中、麻衣ちゃんだけは僕の事を助けてくれたの。だから今度は僕が困っている彼女を助けてあげたかったんだよ!ママだっていつも僕に言ってるじゃん!誰かが困っていたら見て見ぬふりをするなって!」
千里、泣きながら真剣に二人を見つめる。
○城南諏訪中学校・教室
千里と麻衣。
千里「だからあの日から夕子叔母さんもママも僕と口も聞いてくれないんだ。」
麻衣「可哀想なせんちゃん…」
千里「いつもガミガミ言われてたから煩くなくていいけどさ、やっぱり寂しいよ。」
麻衣「そりゃそうよ。」
千里「それで無理と点数の悪いテストを見せたり、寝坊や悪い事をして見たんだけど怒りもしない。(落ち込む)」
麻衣「ごめんな、私のせいでせんちゃんに辛い思いさせて。」
千里「何言ってるんだよ!君は悪くないだろ?そもそも僕が勝手にやらしてくれって頼んだんだもの。」
麻衣「もしどうしても辛かったら言って。私のために苦しまないでね。」
千里「ありがとう、でも丈夫さ。はぽねさのみんなは優しいし、お仕事もとっても楽しいもの。」
○はぽねさ
麻衣、千里、須山、房恵、芳惠。
麻衣「ほいじゃあチサちゃん、いよいよ今日からイベントね。頑張って!」
千里「えぇ!」
麻衣「では伯母様、彦兄ちゃん、私も用事に行ってきます。チサちゃんをよろしく。」
房恵「分かったわ、気を付けて。」
麻衣、店を出ていく。千里、不安げに見送る。
須山「それじゃあチサちゃん!」
千里「はい!」
芳惠「頑張りな!グランプリのこんは考えなくていいから、今まで通りやっておくれ。」
千里「いいえ、私はお店のためにもグランプリ目指して精一杯頑張ります。こんな素敵なお店、辞めて欲しくなんてないもの!」
芳惠「チサちゃん…」
千里、不貞腐れる。
芳惠「ありがとう、あんたは優しいんだね。」
須山「君の気持ちだけで十分だよ。終わったらうんとお礼しなくっちゃね。」
昼時。混んでいる。千里、接客をしている。
客「チサちゃんチサちゃん!パラチンタ一つ。」
客「俺にはトカイ白ね。」
千里「はーい、分かりましたぁ!」
忙しそうに動いている。
千里M「なんかトイレ行きたくなっちゃった。でもお店が閉まってからにしないと入りにくいよな…」
客「チサちゃんちょっと!」
千里「はーい今、行きます!須山さん、パラチンタ一つとトカイ白を宜しくお願いします!」
芳惠、須山「畏まりましたぁ!」
千里M「フーッ…」
数時間後。
客「ん、チサちゃんどうした?具合悪いか?」
客「顔色悪いぞ。」
千里「いえ大丈夫です。」
客「そうか?だが…」
客「須山君、チサちゃん具合悪そうだぞ。」
千里「だから大丈夫っ!何でもないんですって!」
足早にカウンターへ戻る。須山、芳惠、心配そうに千里を見る。
須山「チサちゃん、調子が悪いのなら無理はしないでいいよ。」
芳惠「そうよ、少しお休みなさい。」
千里「大丈夫です…私、本番に弱いので緊張しちゃってるだけなんです…本当に…」
そこへ麻衣。
麻衣「こんにちはぁ…」
千里に気がつく。
麻衣「チサちゃん!」
千里「麻衣ちゃん!」
嬉しそうに微笑む。
麻衣、千里に近づく。
麻衣「チサちゃん順調?」
千里「麻衣ちゃん!良かった来てくれて!」
麻衣「え?何よいきなり…」
千里「麻衣ちゃん…」
千里、麻衣の手を引いて店の外へ。
○同・店の外
麻衣「どうしたの?」
千里、駆け足。
千里「ふぅーっ…」
麻衣「どーしただ?」
千里「トイレ行きたくなっちゃったんだよ!」
麻衣「だったら行きなさいよ、お仕事中でも行っていいのよ?」
千里「お店にはお客さん用おトイレしかないんだってば!だから従業員もお客さん用を使わなくちゃいけないんだ…」
麻衣「まぁ…」
千里「お客さんの手前、堂々と入れるわけないだろ?しかも女子トイレなんて…」
麻衣「でもほれじゃあ男子トイレも入れんし、その方が余計に怪しまれるわよ?」
千里「だから、うぅぅ…」
時計を見る。
千里「後2時間でランチが終わって休憩になるんだ。大丈夫かな…」
千里、店の中に入る。
麻衣「無理しちゃいけんに。どうしてもダメなら行きな。」
麻衣、店に入る。
○同・店の中
千里、仕事に戻る。
麻衣「チサちゃん、キフリ1つに桃とザクロの紅茶をお願い。」
千里「畏まりました。」
カウンターへ戻っていく。
客「チサちゃん、俺にコーヒーお代わりちょうだい!」
千里「は、はい!」
客「チサちゃん、こっちにはパラチンタを追加で。それとグヤーシュとテルテットを。」
千里「畏まりました…」
カウンターへ戻ろうとする。立ち止まる。
千里「ううっ…」
須山M「チサちゃん?」
芳惠「チサちゃんどうしたの?」
千里「(泣き声)女将さぁーん…」
芳惠、千里に近付く。客達も心配そうに千里を見る。
芳惠「大丈夫?具合悪いの?」
芳惠、千里を支える。千里、強く首を降る。
千里「女将さんっ…もう限界です…トイレに…」
泣きそう。激しくもじもじ
千里「あぁ…」
千里、お漏らし。客たち、千里を見る。
麻衣M「せんちゃん…」
芳惠「まぁまぁチサちゃん…」
千里の体を隠して連れていく。
須山「…!?」
須山、驚いて千里を見送る。
○同・休憩室
芳惠と千里。
芳惠「チサちゃん…」
千里、堪えているが泣き出す。
芳惠「ずっとトイレに行きたいのを我慢してたのね。」
千里「ごめんなさい、ごめんなさい…」
芳惠「女の子だもんね。初めてだもんね。言いにくかったのね。」
千里「私、私…」
芳惠「トイレに行きたくなったら仕事中でも行ってくれてよかったのよ。」
泣く千里を抱き締める。
芳惠「よしよしよしよし。もう泣かないの。ほら!」
千里の背を叩く。
芳惠「今日はもう帰っていいわ。帰ったらすぐに体を温めるのよ。」
千里「はい…ありがとうございます…」
芳惠「早く着替えてね。驚いたわよ、さっきからずっとチサちゃん様子がおかしかったもの…」
○同・店の外
千里、裏庭から外に出る。
千里「ありがとうございました…」
芳惠「今度からは仕事中でも我慢しないでね。」
千里、歩き出す。
○上諏訪駅前通り
麻衣、立っている。そこへ千里。
千里「麻衣ちゃん…」
麻衣「せんちゃん!」
二人、歩き出す。
麻衣「あんた、どいで漏らしちゃう前にトイレ行かんのよ!無理しちゃいけんっつったに。」
千里「行こうと思ったけどやっぱりタイミングなくて、女将さんが心配してきてくれた時にトイレ行かせてくださいって言おうと思ったけど…でももう我慢出来なくなっちゃって…」
麻衣「そう…」
千里を庇って歩いている。千里、泣き出す。
麻衣「大丈夫、へー泣いちゃいけん。私の家がここからならあんたんちより近いら?だでおいで。」
千里「ありがとう。でも…」
恥ずかしそうに俯く
千里「パンツが…」
麻衣「大丈夫だに。ご安心を」
笑う。
○高橋家
健司がいる。そこに麻衣、千里。
健司「よっ。」
麻衣「あぁ…健司ありがとう。急に呼び出したりしてごめんな。」
健司「や、俺はいいけどさ。でも何だよ、俺のパンツと下着持ってこいとかいって…」
千里、真っ赤で俯いている。
健司「まさか?」
千里、泣きそう。
健司「分かった分かった、言わなくていいで泣くな。」
麻衣「お風呂に入った方がいいわ。沸かして来るわね。」
千里「麻衣ちゃんいいよ!そんな事しないでよ!」
麻衣「モーマンタイン。今はあんたの体が大事だに。」
ウインクして部屋を退室。千里、頬を染める。
○同・浴室
千里、湯船に入っている。
麻衣の声「せんちゃん湯加減どーずら?」
千里「とっても気持ちがいい、ありがとう。」
麻衣の声「良かった。着替えここへ置いておくわね。」
千里「ありがとう…」
顔を濡らして恥ずかしそうに目を閉じる。
○同・居間
健司と麻衣。そこへ千里。ピンク色の古代風の布服とオレンジ色のセーラーズボンを履いている。
麻衣「せんちゃんお帰り。お茶どーぞ。」
千里「二人ともありがとう。お世話になりました。」
席につく。
麻衣「なぁせんちゃん?」
千里「え?」
麻衣、遠くで悲しそう。
麻衣「私、もうあんたが悲しんだり辛そうな姿見たくないの。泣いてるあんた見てると私も辛いの。」
千里「麻衣ちゃん…」
麻衣「でもあんたは優しいからみんな我慢しちゃって溜め込んじゃう。だから一人で苦しんでいるんでしょ?」
千里「そんな事はないよ。」
麻衣「ほら叉!だもんで私はあんたが心配なんよ。だからどんな些細な事でも辛かったり苦しかったら私達に言ってよ。」
健司「そうだよ。俺達友達だろ。」
麻衣、健司、頷く。
千里「みんな…」
麻衣「だからもしもせんちゃん、この仕事が辛かったら言って。」
千里「僕は…」
麻衣「今回だって、私のせいであんたに辛い思いさせちまったんですもの。」
千里「だからそれは!」
麻衣「この仕事をやっていなければあんた、こんな恥ずかしくて辛い思いしなくて済んだだに…」
目を伏せる
麻衣「だでもう無理しないで。」
千里「麻衣ちゃん!」
麻衣を見る
千里「僕は大丈夫だよ。辛くなんてない!」
涙を拭う
千里「嘘じゃない。だから心配しないで。これからも源チサとしてのお勤め、しかと全う致します!」
麻衣「ありがとうせんちゃん。」
微笑む
麻衣「あんたが帰るまでに下着、綺麗に洗っとくな。」
千里「そんなのいいよ、汚いから」
麻衣「モーマンタイン。困った時はお互い様っていったら?」
笑って千里の肩を叩く。
麻衣「困ったこんや辛いこん、悲しいこんがあったらいつでも力んなるで遠慮なく言ってな。我慢しちゃダメ。私達はいつでもあんたの味方だで、な。」
千里「麻衣ちゃん…」
健司も微笑んで頷く。
千里「健司君も麻衣ちゃんもありがとう、本当にありがとう。僕、君達みたいな友達が持ててとても幸せです。」
千里、嬉し泣き。涙をぬぐう。麻衣と健司、笑って千里の肩を抱く。
健司「ほれ又泣く、お前男だろ?」
麻衣「全く泣き虫さんね、せんちゃんって。」
○小口家
千里、肩を落として帰宅。
千里「ただいま…」
夕子「千里、帰ったのかい?又、卑しいふしだらなことやってたんだろ?」
珠子「お帰り、千里。」
二人、微笑む
千里「え?」
珠子「電話で麻衣ちゃんから色々話を聞いたわ。やるからには逃げないで最後までしっかりとおやりなさい。麻衣ちゃんのためにも。」
千里「ママ…」
夕子「(微笑む)泣き言は許さないよ。」
千里「叔母さん…」
泣き笑い
千里「はいっ!」
○同・千里の部屋
千里、机の整理。そこへ夕子と珠子。
珠子「どうしたの?」
千里「え、何が?」
珠子「麻衣ちゃん、あなたがとても傷ついて辛いんじゃないかってとても心配してたの。だからママたちにせんちゃんを支えてあげてって。何かあったの?」
千里、唇を噛んで俯く
珠子「話してみなさい。」
千里「実は…」
躊躇う
千里「仕事中にお客さん全員の前で…トイレが我慢できなくなっちゃって、それで…」
夕子「漏らしたのかい?」
千里、躊躇い勝ちに頷く。
夕子「どいで早くに行かないんだ!この間学校で漏らしちまった時に懲りてるだろう!あんたもう14なんだよ?」
千里「トイレはフロアにあるんだ。従業員専用がないんだって。だから僕、開店中はトイレには立たないようにしてたんだよ。」
夕子「だけど、オーナーや女将さんだって使ってるんだろ?」
千里「うん…でも女将さんはちゃんと女性だし、オーナーも男性だもん。」
夕子「だったらあんたも堂々と使えばいいじゃないか!」
千里「それが出来ないからこうなっちゃったんじゃないか!」
顔を真っ赤にして泣き出す。
千里「仕事中の僕はもはや男でもなければ女でもない、中性の人間なんだ。」
口ごもる。
千里「だから…」
珠子「分かったわ。」
千里を抱き寄せる。
珠子「汚しちゃった下着と制服は?ある?」
千里「うん…でも麻衣ちゃんが洗ってくれた。」
鞄の中からビニール袋を取り出して恥ずかしそうに珠子に渡す。
千里「ごめんなさい…」
珠子「麻衣ちゃんが?」
千里、無言で頷いて話し出す
千里「って訳なの。」
珠子「そうだったの…麻衣ちゃんは本当に優しい子ね。」
千里「ごめんなさい…ごめんなさい…」
珠子「せんちゃん、もう泣かないで。せんちゃんが悪いんじゃないんだから。」
ビニール袋を持って立ち上がる。
珠子「大丈夫、ママ怒ってないわ。でも…」
悪戯っぽく千里を睨む。
珠子「今度からはなるべく早くトイレに行きなさいね。」
千里「うん…」
千里、立ち上がる。
珠子「せんちゃんはご飯になるまでに勉強やっちゃいなさい。ピアノの宿題も出ているんでしょ?」
千里「はい…」
珠子、退室。千里、鞄の中からクリアファイルを取り出す。ため息。
千里「はぁ、今日も大量に出してくれたなぁ…」
肩を落として勉強を始める。
○同・キッチン
食卓。千里、頼子、忠子、珠子、夕子が食事をしている。千里、肩を落としている。
頼子「千兄ちゃんどうしたの?」
忠子「お顔の色悪いねぇ…」
珠子「千兄ちゃん悩み事があるのよ。だからそっとしてあげようね…」
千里「…」
珠子「せんちゃんお代わりは?」
千里「もういらない…」
珠子「そう…」
夕子「千里、勉強したか?」
千里「さっきもう終わったよ…」
夕子「確かあんた、このイベント期間が終わったらすぐテストだって言ってたね?落第点とらんように確りしな。」
珠子「夕子!」
言葉を遮る。千里、立ち上がる。
千里「ご馳走さま…」
出ていく。
珠子「ピアノの練習はきちんとするのよ。」
千里「分かってる…」
○はぽねさ
数日後。麻衣、健司、千里。千里、中に入れずしくじっている。
健司「何やってんだよ、大丈夫だって。」
千里「でもぉ…」
麻衣「誰もあんたのこん怒らんし笑わんに。だで堂々と、な。私も一緒に入るから…」
健司「俺も。」
千里「健司君、麻衣ちゃん…」
健司「お!」
千里、恐る恐る中に入る。麻衣、健司も続く。
須山「お、チサちゃん!心配してたんだよ。お帰り。」
芳惠「体は大丈夫?」
健司、千里に小粋な目配せ。
千里「はい…」
芳惠「仕事は出来そう?」
千里「大丈夫です。」
芳惠「良かった。なら又、宜しくね。頑張って。」
耳打ち
芳惠「トイレに行きたくなったら我慢しないで行きなさい。」
千里「は…はい…」
千里、恥ずかしそうに微笑む。
健司「女将さん!」
麻衣「伯母様!」
芳惠「おや麻衣ちゃんに、君は?」
健司「俺はチサの友達。今日は護衛でここへ来たんだ。どっかこの辺座っててい?」
芳惠「どうぞご自由に。チサちゃん、この子にドリンク出してあげて。」
千里「はいっ!」
カウンターでドリンクを作る千里。須山、笑って耳打ち。
須山「彼なかなかの好青年だね。何?彼氏かい?」
千里、思いっきり吹き出す。
千里「まさか!何言ってるんですか須山さん!やめてくださいよ!決してそんなんではありません!」
健司「何?」
須山「君、チサちゃんの彼氏?」
健司も椅子から落ちる。
健司「オーナー!変な冗談はよしてください!」
千里、健司「僕たちは決してそんなんではないんですっ!」
須山、芳惠、顔を見合わせる。
千里、オープン札をかける。客、少しずつ入ってくる。
客「お、やっとチサちゃんの復帰だ!」
客「やぁ、良かった良かった!俺たち心配してたんだよ。」
客「調子はどうだい?良くなったか?」
客「あんまり無理するなよな。」
客「ここにはチサちゃんに会うのが楽しみでくるんだでさぁ、君がいなきゃ寂しいぜ。」
客「そうそう、仕事の疲れを癒せるのは君の笑顔と躍りなんだからさ。」
千里「みんな…」
うるうる。
千里「ありがとう…ご心配お掛け致しましたっ!」
思いっきりにっこり。
千里「ご注文お伺いいたします。何に致しましょうか?」
客「えーとそうだねぇ、俺はまずはぁえーとっ…」
千里「はいっ!」
注文をとっている。時々スカートを捲られたりお尻を触られたりしてお客の手を軽く平手打ち。健司と麻衣、微笑んで千里を見つめている。
○諏訪市役所・駐車場
市長「今年も無事イベントを終えました。多くの方が諏訪の地に足を運んでくださり…」
市長「ということで諏訪商業会飲食店、本年度最も輝いた店のグランプリを発表致します。」
会場を見回す。
須山「チサちゃんは本当によくやってくれたよ。ありがとう。」
千里「ねぇ、本当に優勝しなかったらお店閉めちゃうの?」
須山「あぁ、僕にも夢があるしね。そっちに懸けてみようと思うんだ。」
千里「なら女将さんにぽねさを続けてもらう事も出来るじゃん!」
須山「まぁね。」
千里「考え直してよ!」
須山「グランプリをもらったらその時は店を続けるよ。でも…」
笑う
須山「どんどん新しい店も建って、アールカサールのライバル店だってある現代、うちみたいな地味な店が優勝できっこないよ。」
市長「ではグランプリを発表します。諏訪市上川城南地区、アールカサール“はぽねさ”です。おめでとうございます。」
須山、あり得ないという顔。
須山「嘘だろ!?」
千里、涙ながら笑顔で拍手。
市長「それでは、はぽねさオーナーの須山さんに色々とお話をお聞きしたいと思いますので須山さん、ステージの方へ上がってきてくれますか?」
須山、ステージへ登る
市長「ありがとうございます。それでは須山さん、今のお気持ちを…」
須山「はい、まさかはぽねさがこの様な賞を貰えるとは思ってもいなかったので、嬉しいとか嬉しくないとかより、正直驚いています。」
須山「はぽねさは古く地味な店ですので最近はめっきり客足も減り、経営も困難でした。なので私は近々店じまいをするつもりでいましたが、そんな時にこのイベントがあり、私はダメ元でもこのイベントに懸けてみようと思いました。そしてもしも賞を獲れたのなら店を続けようと…」
泣きそう
須山「はぽねさが今回優勝できたのは私が頑張ったからでは決してありません。あの…」
千里を見る
須山「源チサと言う少女の力あってこそです。」
一斉に千里に注目。千里、動揺
須山「あの子はうちの花形ロマです。期間前から毎日店に来てチャールダーシュを踊り、ピアノを弾いてはお客さんを楽しませてくれ、彼女が来てからと言うもの店はとても賑わうようになりました。
須山「チサちゃん!」
手招き。千里、おどおど。
千里、ステージに上がってくる
須山「彼女が源チサちゃんです。」
市長「では折角ですので君にもお話を。」
千里「私?はい…」
マイクを握る
千里「須山さん、おめでとう。私もとっても嬉しいわ。」
須山「チサちゃん、ありがとう。」
千里「約束よ。これでお店は閉めないって約束して。」
声「そうだよ!はぽねさにやめられたら俺は今度どこに行きゃいいんだ?」
声「諏訪の顔、諏訪の老舗にやめられちゃあ困るんだな。」
千里「ね。」
須山「みんな、ありがとう。チサちゃんもありがとう。約束するよ、はぽねさは続ける。」
千里、微笑む
千里「それと須山さん、私は一つあなたに言わなければならないことがあるの。」
須山「え?」
会場ざわざわ、注目
千里「実は私、私…」
千里、もじもじ。須山、どきどき。会場も息を飲んで二人に注目
千里「源チサじゃないの。」
須山「え?」
ポカーンと千里を見つめる
須山「何いってるの?」
千里「私は源チサなんて名前じゃない。それどころか女の子でもないんです。」
須山、動揺
千里「騙しててごめんなさい。でも僕、どうにかして女将さんと麻衣ちゃん、そしてこの店を守ってあげたかった。助けてあげたかった。そのためには何をしたらいいか考えたけど分からなくて…もうこの方法しか僕には思い付かなかった。お店や皆さんを助けられるんなら恥ずかしさやプライドなんかどうでもよかったの。誰に笑われたっていい…軽蔑されたっていい…でもこんな僕みたいなのでも誰かの役に立てるならって…」
須山「チサちゃん…」
千里「お客さんもみんなごめんなさい。きっと許してもらえないでしょう…」
須山「じゃあ、君の本当の名前は?」
千里「小口千里。」
房恵M「小口千里君?」
少し考える
房恵M「まぁ!あの子!」
千里「本当にごめんなさい!」
泣きながら深々頭を下げる。大きな拍手。
千里「え?」
声「チサちゃん、打ち明けてくれてありがとう。」
声「許すも許さないもないよ!」
声「俺達はいつまでも君のファンだ!嫌いになんかなるもんか!」
声「男の子だって女の子だって源チサちゃんには変わりないんだしさ!」
千里「みんな…」
うるうる
千里「ありがとう、本当にありがとう!」
市長「千里君…」
微笑む
市長「君、本当に男の子?いやぁ、私には君は女の子にしか見えないな。」
大歓声。
市長「では、須山さんに千里君おめでとう。優勝店舗には賞金200万円と店舗の各メディアPRを贈呈致します。」
千里「ありがとうございます!」
須山「ありがとうございます!」
大拍手
○はぽねさ
千里、須山、麻衣、芳惠、房惠
麻衣「彦兄ちゃんに伯母様!本当におめでとう!良かった!」
房惠「これで肩の荷が下りたよ。隆彦、もう店閉めるなんて言わないでおくれ。」
隆彦「分かってるよ。」
芳惠「それにしても驚いたよ。あんたがまさか男の子だったなんてねぇ。」
房惠「麻衣ちゃんは知っていたのかい?」
麻衣「えぇ勿論。」
房惠「それなら私達にだけでも教えてくれれば良かったじゃないか!そうすればもっと…」
千里を抱く
房惠「この子を支えてあげられたのに。あの時だってこの事のせいであんな辛い目に遭ってしまったんだろ?」
千里「いえ…」
涙を流す
千里「大丈夫です。」
須山「君のお陰でこの店を続ける事が出来るんだ。感謝するよ。」
千里に賞金の袋を渡す
須山「これは君のだ。使って。」
千里「そ、そんなの僕いただけません!お店のために使ってください。」
須山「いや、あれだけ頑張ってくれたのに君にはお給料の少しもあげれなかったからね。この賞は君がいてくれたから獲れたんだ。だからこれは君のものだ。」
房惠、芳惠、微笑んで頷く
千里「ありがとうございます!」
千里、嬉し泣き。
麻衣「よかった、せんちゃんお疲れさま。ありがとう。」
房惠「よし、じゃあ今日は打ち上げだよ。隆彦!」
隆彦「あぁ。麻衣ちゃんとチサちゃんも今夜はここで食べてけよ。」
麻衣、千里「はいっ!」
五人、準備をし出す