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石楠花物語シリーズ - 石楠花物語高校三年生

石楠花物語高校三年生

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『石楠花物語高3時代』


○茅野中央高校・教室

   チャイム。厳格な顔をした育田勝が入ってくる。


育田「諸君おはよう。今年は諸君にとって高校生活最後の年となる。気を引き締めて学業に励むように。今年も諸君を受け持つ育田勝だ。宜しく。」

 

   クラス中を見回す


育田「今年は我がクラスに転校生がまた一人はいる事となった。」

   

   クラス、沸く。


育田「静粛に。では小口、入ってこい。」

   

   小口千里が入ってくる。


千里「京都市から来ました。小口千里です。一年間ですが宜しくお願いします。」

育田「お。ではあの空いている席に座れ。癖っ毛で目が大きい女子の隣の席だ。柳平という名札をつけている。」

小口「はい。」

   

   千里、席に座る。麻衣、千里を見て微笑む。千里、頬を染めて照れ笑い。



○同・廊下

   休み時間。麻衣と千里。ジュースを飲みながら窓辺に立っている。


麻衣「あんたがここへ来る事は知っとったけど、クラスまで同じになるなんてビックリ!」


千里「僕もだよ。改めてこれから宜しくね。」

麻衣「こちらこそ。」

   

   チャイム。


千里「チャイムだ。入らなくっちゃ。」

麻衣「えぇ。」

   

   二人、教室へ小走りで入っていく。



○同・女子トイレ

   放課後。麻衣、伊藤すみれ、佐藤加奈江、矢ヶ崎恵美子、五味田苗。個室を出て手を洗っている。


加奈江「なんかまいぴう、小口君と仲良かったね。」

すみれ「知り合い?」

麻衣「えぇ。幼稚園、小学校、中学で一緒になった事とかあって何だかんだで縁もある幼馴染みなのよ。」


恵美子「そう。私達豊平縄文小学校でも一緒だったし。」

田苗「結構問題っ子だけど、ピアノがとても上手いのよ。」

麻衣「そうそう!」


   トイレの外。千里、うろうろとしている。女子トイレに近付く。女子たち、ドアを開けて話をしながら出てくる。千里、ドアにノックアウトされて転倒。


千里「痛ったぁー!」

麻衣「大丈夫っ!」


麻衣「せんちゃん!?」

恵美子「何やってんのあんた?」

千里「それはぁ…」


   モジモジと女子のように上目遣い


千里「えーっと…」

加奈江「何よ?はっきりなさいよ!」

すみれ「まさか女子トイレに入ろうとしてたんじゃないわよね?」

女子たち「うっそぉー!」

千里「ち、ち、ち、違うよ!そんなんじゃない!」

恵美子「じゃあどんなんなのよ?」

千里「あ…の、その…」

   

   千里、目を固く閉じる。女子たち、千里に釘付け。千里、お漏らし。静かに泣き出す。麻衣、トイレからモップとバケツを持ってくる。


加奈惠「まいぴう…」

   

   麻衣、床を拭く。


麻衣「なんだ。御手洗い探しとったんならほー言ってくれりゃあ良かったに。」

千里「…」

麻衣「男子トイレはこの上の階。階段上がってすぐだに。ここは私がやっとくであんたは早く医務室行きな。」

千里「でも…」

麻衣「いいってこんよ。困った時はお互い様。」

千里「ありがとう。(者繰り上げながら足早に去る)」

   

   女子たち、千里の後ろ姿を見つめている。


田苗「トイレ行きたかったのか…」

加奈江「あんな可愛い男の子が、何か萌えー!」

すみれ「これっ、奈江!」

加奈江「ごめんなしゃーい。」

   

   麻衣、床を擦っている。女子たち、手伝い出す。



○茅野駅・西口

   駅前スーパー前のベンチ。千里、焼きそばカレーパンをかじっている。そこへ麻衣。


麻衣M「あ、せんちゃんだ。」

   

   走って近付く。


麻衣「おーい!せんちゃんー!」

   

   千里、びくりとしてベンチを立ち、スーパーの中に入ろうとする。


麻衣「待って、どいで逃げるんよ!」

千里「…」

麻衣「さっきのこん気にしとる?」

   

   麻衣、ベンチに座る。千里を無理矢理座らせる。


麻衣「大丈夫。誰もあんたを笑ったりいじめたりするやつはおらん。もしほんなやつがいたとしたら…」

   

   空手の真似


麻衣「この柳平麻衣が警官の父の名に懸けてぼっこぼこのぎったぎたにしてやるんだで。」

   

   千里、弱々しく笑う。


千里「麻衣ちゃん…ありがとう。」

麻衣「ん!」


   いたずらっぽく笑って座り直す。


麻衣「あんたは豊平だよな?」

千里「うん。君は?」

麻衣「私は湖東花蒔。」

   

   一台のバスが入る。


千里「このバスに乗るの?」

麻衣「いえ。後三十分近く待たんと来んよ。」

千里「三十分!?ならさ…」



○車内

   小口珠子の運転。


珠子「まぁ!麻衣ちゃんと一緒になれたの?」

千里「うん。」

珠子「良かったわね。麻衣ちゃんと一緒なら安心。麻衣ちゃん、これからもこんな息子だけど宜しくね。」

麻衣「おばさんはーるかぶりです。こちらこそ宜しくお願いします。」


   十数分後。


麻衣「あ!ここでいいです。下ろしてくださいな。」

珠子「麻衣ちゃんの家は今、この近くなの?」

千里「嘘ばっかり。まだずっと上だろうに!」

麻衣「でも私の家はせんちゃんの家と逆方向よ。」

千里「じゃあ君、まさかここから歩くつもりでいるの?」

麻衣「ほいこん。」

千里「バカはやめてくれよ、家まで送る。ね、ママ。」

珠子「えぇ勿論。家は何処?」

麻衣「湖東の花蒔です。花蒔団地の近く。」

珠子「分かったわ。」

千里「カーナビは?」

珠子「そうね。」


   花蒔団地を入力



○柳平家

   麻衣、車を降りて頭を下げる。


麻衣「おばさんありがとうございました。」

珠子「いえいえこちらこそ。又いつでも送るわ。家にもよってね。」

麻衣「えぇ。せんちゃんもありがとな。お休みなして。」

千里「うん、こちらこそ!」



○同・居間

   夕食中。柳平けいと、柳平紅葉、柳平紡、柳平糸織、麻衣、柳平と子、柳平あすかがいる。


紅葉「まぁ、小口君が?」

糸織「転校生ってあいつのこんだっただな。」

紡「何かこれも運命ってか?」

麻衣「こんな偶然もあるもんなのね。」

紡「でもさ、せんちゃんならあんたのいい理解者になってくれるに。」

糸織「長い付き合いだし。」

麻衣「だな。」

と子「麻衣姉はせんちゃんの事が好きなのか?」

あすか「好きなのか?」

麻衣「せんちゃんはただのお友達。」



○小口家・千里の部屋

   スッキリと片付けてられている。ベットとベーゼンドルファー、机にくまのぬいぐるみとミシン。壁にチャールダーシュ衣装とシューズが掛かっている。千里、ピアノを弾いている。


珠子の声「せんちゃんお夕食よ。降りていらっしゃい。」

千里「(弾きながら)ほーい。」

   

   数分後。珠子、部屋へ入ってくる。演奏が終わると千里、振り向く。


千里「ママ、来たんだ?僕もう行くとこだったのに。」

珠子「せんちゃんがピアノ弾いていたから聴きに来たのよ。学校から帰ったら一段とピアノ上手くなったわね。」

千里「やめろよママ。」

珠子「ご飯よ。今日はせんちゃんの大好きな焼きそばカレーよ。」

千里「やったぁ!」

珠子「それとせんちゃん?」

千里「ん?」

珠子「こんな募集があったんだけど、やってみない?」


   チラシを見せる


千里「何?


   マジマジ


千里「え?これって…」

珠子「確かせんちゃん、ずっと憧れだって言ってたわよね。」

千里「いいの?」

珠子「あなたの才能ならきっと試験に合格出来るわ。」

千里「(泣きそう)ママ…


千里「ありがとう!僕、やってみたい!」

珠子「叉、泣く。ご飯よ。」

   

   珠子、先に退室。


千里「夢みたいだ…まさか、まさか諦めかけていたのにこんな日が来るなんて!」


   千里、踊り回りながら電気を消して退室。


   数秒後。ガタンゴトン。


千里の声「痛ったぁーい!」

珠子の声「せんちゃん大丈夫!?」



○茅野中央高校・教室

   ざわついている。松葉杖をついた千里、しょんぼり登校


麻衣「(気付く)せんちゃんだ。スィア!」

千里「麻衣ちゃん…」

   

   麻衣、目を丸くする。


麻衣「どーゆーせんちゃん!?大丈夫!?」

千里「う、うん。昨日階段から落ちて捻挫しちゃった。」

麻衣「酷そうね。困った事があったら言って。私達が手分けしてお守りいたす!」

千里「ありがとう。」

麻衣「ほれじゃあ御手洗い行くのも大変よね。でも流石に私は男子トイレ…


   考える


麻衣「あ!」

   

   向山俊也、堂々と早弁中。


麻衣「なぁ向山!向山俊也くーん!」

向山「んー?」

麻衣「せんちゃんが脚を怪我しちゃったの。男子トイレは三階だら?だであんた手伝ってやって頂戴。」

向山「柳平、お前がやりゃいいだろうに。」

麻衣「あんたねぇ、私が男子トイレなんて入れるわけないらに!」

向山「分かったよ。やりゃいいんだろやりゃあ!(鼻をならす。)」


千里「あのぉ…」

麻衣「何?」

千里「僕、実は…


   向山に耳打ち


千里「…なんだ。」

向山「はぁ!?勘弁してくれよ!ほいやつはなぁ…」

   

   向山、紙おむつを千里に投げる。


向山「これでもしてろ!」

   

   千里、受けとる。


千里「オムツ…(真っ赤になる)」


○同・体育館

   バレーボールをしている。千里、つまらなそうに見学。勢いよくボールが麻衣に飛んでくる。


千里「危ない!」

   

   千里、コートに飛び出て麻衣を守る。千里、ボールにノックアウト。


千里「あいったたたたた…」

麻衣「せんちゃん大丈夫!?」

   

   麻衣、千里を助け起こす。


千里「ありがとう。君こそ大丈夫?怪我とかない?」

麻衣「えぇ。立てる?」

千里「うん…」


立とうとするが顔をしかめる


千里「痛っ!」


   お尻を擦る


千里「お尻打っちゃった…」

麻衣「バカね。」

   

   矢嶋太郎が飛んでくる。


矢嶋「小口、大丈夫か?」

麻衣「先生、小口君を医務室に連れていきます!」

千里「いいよ、一人で行ける…うぅっ」

麻衣「バカ…」

   

   麻衣、千里を連れて退室。生徒たち、二人をみて盛り上がり、騒ぎ出す。


矢嶋「うるせーぞお前ら!」

   

   チャイム


矢嶋「片付けてとっとと帰れ!」

生徒「やっべ、マグロ太郎に怒られた!」

生徒「恐ぇ、恐ぇ!」

生徒「さっさと片付けて戻ろうぜ!!」

矢嶋「誰がマグロ太郎だと?」

   

   生徒達、一目散に戻っていく。


全員「先生、ありがとうございました!」


   矢嶋、一人になる


矢嶋「(ボールをつきながらフッと笑う)やれやれ、なんつークラスの生徒だ。教師の事をマグロ太郎とか呼びやがって…」

   

   ボールを片付けにいく。



○同・医務室

井川るみ子、千里を手当てしている。


千里「いたたたたた…」

るみ子「少し我慢なさい。」

麻衣「彼ったらバカなんですよ。脚を捻挫して見学をしていたのに態々私を助けるために試合に入ってきて、私の代わりにボールにノックアウトされちゃったんです。」

るみ子「まぁ!」

   

   千里、罰が悪そうに笑う。


るみ子「立って歩けますか?」

千里「えぇ。」


   立ち上がる


千里「(お尻を擦る)痛ったーい!」

るみ子「今度からは気を付けなさい。お大事に。」

千里「ありがとうございました。」

  

   麻衣、千里の肩を支えて歩き出す。るみ子、微笑む。



○茅野駅・西口バス停

   千里と麻衣。ベンチに座ってパンと飲み物を食べている。


千里「麻衣ちゃんごめんよ。今日は本当にありがとう。」

麻衣「あんたは優しすぎるんよ。少しは自分の事も考えて!」

千里「そうする…」

麻衣「でも良かった、あんたにこれ以上大事なくて。心配したんよ!」

千里「麻衣ちゃん…」

麻衣「今度からは気を付けてね。」


麻衣「修学旅行までには良くなるといいわね。」

千里「うん。」


   一台のバスが来る。


千里「あ、これだな。」

麻衣「あんた、今日はバスで帰るの?そんな足で?」

千里「そう…今日はママが夜までいないんだよ。」

麻衣「そう…私の家で迎えに来てもらえればいいんだけど、私の家も両親いないのよ。」

千里「ありがとう、でも僕は大丈夫さ。」

麻衣「気を付けてね。」

千里「うん。先にごめんね、叉明日!」

   

   千里、バスに乗り込む。発車。


   車内。千里、頬を染めて俯いている。



○茅野中央高校・教室

   麻衣、すみれ、加奈江、城ヶ崎みさ、片倉キリ、向山、千里


すみれ「いよいよ来週ね。」

みさ「修学旅行!」

キリ「すっごいわくわく!!」

加奈江「他の高校じゃあ修学旅行は2年生だとか。」

麻衣「若葉は去年も一昨年もなかったに。」

加奈江「色々か。」

千里「京都かぁ…(うっとり)」

麻衣「せんちゃんは京都の子なんよね。」

千里「うん。」

麻衣「ほいじゃあ色々詳しいと思うから、私たちのガイドとして色々案内してな。」

千里「いやぁ…てへへ。(照れて頭をかく)」

向山「京都かぁ…京都っつったら八つ橋だろ?湯豆腐だろ?抹茶尽くしで、うーん最高だぜ!」

すみれ「とし、あんたはいつでも…」

みさ「食べる事ばっかりね。」

加奈江「(ふんっと鼻をならす)食べてばかりいないで少しは痩せることも考えたらどうなの?誰かどう見てもあんたはダイエットが必要なデブなんだから!鏡見たことあるの?」

向山「何だと佐藤ぉ!デブのお前に言われたかねぇよ!お前こそ女ならもっと痩せる努力したらどうなんだよ!このメス豚が!」

加奈江「はぁ?ほれがレディーに向かって言う言葉ぁ?あんたにはデリカシーってもんがないわけ?このボンレスハムが!」

向山「ふんっ!レディーにだってよ、誰がレディーだ!」

   

   二人、つんっとそっぽを向く。他の五人、呆れる。


   放課後。千里、うっとりと黒板消しを叩いている。


千里M「楽しみだなぁ。彼女と京都…何しよっかなぁ?」



○(妄想)京都・竹林

   千里と麻衣。手を繋いで歩いている。


千里N「僕は麻衣ちゃんと密林の竹林を歩くんだ。」


麻衣「せんちゃん何?」

千里「麻衣ちゃん…」

   

   千里、麻衣と向き合う。麻衣、緊張して千里を見つめている。


千里「麻衣ちゃん…」

   

   麻衣に口づけをする。

   


○(戻って)同・教室

   千里、ニヤニヤと黒板消しを叩く。後ろには複数の男子生徒。千里を見ている。


千里「なーんちってね!アハハハ!」

男子1「何だ?あいつ…」

男子2「一人でぶつぶつ言いながらニヤニヤしちまってる」

男子3「何かキモッ。」

男子4「はるうららか?」

   

   男子たち、帰っていく。



○柳平家・寝室

   三つ子が川の字で眠っている。

   

   夜が明ける。紡、糸織が目を覚ます。麻衣は眠っている。


紡「夜が明けた」

糸織「夜が明けた」

紡「へー夜が明けた」

糸織「へー夜が明けた」

二人「明けた、明けたと早起きの雀はお庭の松ノ木で」

紡「チュッチュクチュッチュク」

糸織「チュッチュクチュッチュク」

二人「唱歌のおけいこ」

   

   紡、出窓から外へ出て伸びをする。糸織、玄関口へ牛乳を取りに行く。


紡「お隣の物干しの上からお天道様が」

糸織「真っ赤なお顔をちょいと出して」

二人「麻衣さんおはよ!」

麻衣「(まだ眠りながら)ごきげんよう…」

   

   明るくなり出す


二人「蓼科山の方面からいつものお婆さんが」

   

   寒天売りのおばさん。リヤカーを引いてやって来る。


お婆さん「寒天、寒天、寒天、寒天、棒寒天!」

二人「と、やって来る。」

   

   二人、着替えて退室。



○麻衣の夢の中(回想)

   紅葉が出てくる。


紅葉「麻衣さん、麻衣さん、まだ眠っているんですか?学校が遅れますよ。麻衣さん!」

   

   麻衣、ハッと目覚めて着替えを始める。



○(戻って)同・居間

   紡と糸織、登校の支度。


麻衣「ヨーレゲールト!」

紡「遅いっ!へー四時半だに!」

麻衣「ごめんごめん。朝食はどうする?」

紡「簡単に何か作って。」

麻衣「ほいじゃあ私の荷物お願い。」

紡「分かった。」

   

   麻衣、食事の支度。紡は居間を退室。糸織、カナリアと遊んでいる。


紡「しお、あんたも手伝って!」

糸織「分かったよ。」

   

   糸織、渋々と紡に着いていく。


   十数分後。麻衣が食事を運ぶ


麻衣「みんなご飯だにぃ!」

紡・糸織「はーい!!」

   

   三人、食卓につく。


三人「戴きまぁす!!」

   


三人「お膳の上にはお茶碗とお箸、赤い箸置きと漆器のお椀。お椀の中には私たちの好きな、夕顔おつよーが入ってます。」

紡「おつよーはご飯にかけたいけれどなかなか熱くて食べられない。やっぱり別々に食べましょう。」

麻衣「おてしょうにあるんはおばりまめ」

糸織「おんなじ豆でも納豆は臭くって僕は大嫌い。」

麻衣「豆を食べたらほの次は?」

紡「味噌漬けのお香子」

糸織「お茶漬けサラサラ」

紡「お香子パリパリ」

糸織「サラサラ」

紡「パリパリ」

二人「へー沢山!!」

三つ子「皆様戴きました!!」

紡・糸織「おぉ苦しい!!」


麻衣「ちょいと二人ともぉ、おぉ苦しいだなんて一体何杯食ったんか?」

紡・糸織「四杯食ったんよ!」

麻衣「呆れた!朝から四杯も食う人おらんに。」

紡「(時計を見る)ほいじゃあまだバスも出とらんし、歩くで出まいか?」

麻衣「私の荷物は?用意してくれたか?」

糸織「全て準備したに。」

紡「ほいじゃあ…」

三人「セルリー!」



○ビーナスライン上

   5時。


三つ子「今日は時間が早いもんで、バスには乗らずに歩きます。ビーナスラインは穏やかでいいけどうっかり歩けない。時々ブッブッブッ、おお怖い(いたずらっぽく笑う)やっぱり花蒔の市場から入って近道行きましょう。おやおやカナルル着いてきた!」

糸織「お前はお帰りカナルル。」 



○新幹線の中

   修学旅行。加奈江、すみれ、麻衣が相席。加奈江の隣は空席。そこへ千里。


千里「(加奈江の隣へ座る)楽しそうだね。何話してたの?」

麻衣「あぁ、せんちゃん。」

加奈江「京都についてからの行動についてよ。」

すみれ「あんたも参加!」

千里「うんっ!」

   

   四人、喋り出す。数分後。横井哲仁、小松清聡。横井、ローメン萬を持っている。


横井「オッス!」

小松「や!」

麻衣「てっちゃんにそうちゃん!」

横井「楽しそうじゃねぇーか。」

麻衣「てっちゃんこそ…」


   ニヤリ


麻衣「うんまそうじゃねぇーか。ローメン萬ずらに。くんなや!」

   

   麻衣、ローメン萬を取り上げる。


横井「おいっ!」

  

   麻衣、食べ始める。


麻衣「んーうんめぇ。私一度これ食ってみたかっただよ。てっちゃんでかした!」

横井「でかしたじゃねぇーよ!ほりゃ俺が食おうと思って買ったんだ。返せ、柳平麻衣、返せ!」

   

   麻衣、最後の一口を入れる。


麻衣「しょーがねぇーじゃあ。へー食っちまったもんは食っちまっただだもん。」

横井「くっそ麻衣、覚えてろよ。」

   

   横井、悔しそうに戻って行く。麻衣、悪戯っぽく舌をペッと出して小粋に笑う。


○京都・京都駅


千里「数か月ぶりくらいだけど懐かしいな。」

麻衣「せんちゃんにとっては故郷ですものね。」

千里「あまりいい思い出もないけどね。」

加奈江「今日は基本自由見学よね。どこだっけ?」

すみれ「祇園だったかしら?」

向山「(鼻をクンクン)お?」

   

   近くに食べ物や。向山、ニコニコして歩いていこうとする。加奈江、向山のリュックをつかんで連れていく。


加奈江「はい、はい、はい、はい、行きましょうね。」

向山「うぉーっ、俺のご馳走がぁ!」

加奈江「お昼まで我慢なさいっ!」

   

   ホームを出ていく。



○同・祇園

   店の前。向山と千里、外のベンチに座っている。軈て、女子たちが舞妓に扮して出てくる。麻衣は十二単。


向山「うぉーっ!」

千里「わぁーっ!


   涙ぐむ


千里「みんな美しすぎるよぉ。」

麻衣「柳平にありんす。」

すみれ「ありんす?」

みさ「それじゃあ花魁じゃん。」

麻衣「花魁ですかい?」

千里「よーしっ僕も!お願いしまぁーす!」


   中へ入っていく


向山「おえっ。」

麻衣「ちょっとせんちゃんっ!」

向山「それにしても…」


向山「伊藤も柳平もいかしてるぜ。


   すみれにベタベタ


向山「それに比べて、


   加奈江を横目で見てバカにしたように


向山「良くもお前が着れるような着物があったもんだな。」

   

   加奈江、向山をきっと睨み付ける。


向山「豚にも衣装たぁよく言ったもんだぜ!」


   加奈江、向山をノックアウト

   

   十数分後。千里、舞妓になって出てくる。女子たち、一斉に吹き出す。


向山「おぇっ…」

千里「どうん?似合う?せんちゃん似合う?」

麻衣「とっても可愛いに!」

向山「小口、その格好して女のような声出すな。気色悪い…」

   

   千里、向山に小粋なウインク。


向山「おぇっ!」


向山「でもぉ、僕ちゃんやっぱり伊藤が一番!」

   

   向山、すみれにベタベタ。すみれ、向山を笑いながら平手打ち。


向山「あんっ痛いっ!」

   

   すみれ、加奈江、クスクス。


千里「君こそかなり気色悪いよ…」

   

   一同、笑う。



○同・竹林

   麻衣と千里。キョロキョロ。


千里「あれ?みんな何処行っちゃったんだ?」

麻衣「つい今までこの辺にいただに…」

千里「困ったなぁ。まさかのこんなところではぐれたか?」

麻衣「でもこの近辺にはいる筈よ。もう少し歩いてダメなら育田に電話してみまい。」

   

   麻衣と千里、林を歩く


   林を抜ける。見晴らしのいい場所。


麻衣「わぁ!」

千里「わぁ!」

麻衣「せんちゃん見て!とっても素敵…」

千里「うん!」

麻衣「でも残念。こっちの桜はもうおしまいなのね…葉桜すらない。」

千里「そうだね。」

麻衣「見たかったわ、京都の桜…(残念そう)」


   千里、麻衣を見る


千里M「ひょっとしてヤバイ状況ではないかも。ひょっとしてまさかの?この状況は…」


千里M「もしや二人っきりというやつではないか!」

麻衣M「せんちゃん?」

千里M「どうする?どうする千里?今が絶好のチャンスだぞ。」


   意を決する

  

千里「ねぇ…


   もじもじ


千里「麻衣ちゃん?」

麻衣「何?」

千里「い、いや…あの…」

   

   もじもじ、きょろょろ


千里「その…」

麻衣「?」

千里「ぼ、僕は前から君の事が…」

向山の声「おぉ小口に柳平!こんなところにいたのか、探したんだぜ。」

   

   千里、がくり。


麻衣「良かった!私、みんなとはぐれちゃったのかと思った。」


麻衣「ところでせんちゃん、何を言いかけただ?」

千里「いや、何でもない。」

麻衣「ほう?なら、行こ。」

   

   麻衣と千里、走っていく。

千里、肩を落としてため息



○京都タワー・展望台


加奈江「うわぁー最高!」

キリ「凄い夜景ね。」

すみれ「諏訪一の元木グループマンションですらここまで凄くないわ。」

みさ「そりゃ当たり前よ。田舎と都会だもん。」

向山「伊藤ぉ!」

   

   すみれ、向山を平手打ち。向山はノックアウトされる。


麻衣「そうねぇ…ノスタルジック。」


   寂しげ


麻衣「こんな景色、あいつと一緒に見たかった…」


   麻衣、男子たちからチヤホヤ。端から追い払っている。千里、寂しげに見つめている。


   麻衣、千里に気づいて微笑む。

   

麻衣「せんちゃん!」

   

   走って近付こうとする。段差につまづいて転ぶ


麻衣「くーっ…」

千里「麻衣ちゃんっ?」

   

   千里、とんでくる。


千里「大丈夫!?」

麻衣「脚挫いたぁ…」

千里「歩ける?」

   

   麻衣、立ち上がろうとするが顔をしかめる。千里、微笑んで麻衣に背中を向ける。


麻衣「へ?」

千里「乗りな。」

麻衣「でも…」

千里「いいから。僕と井川先生のところ行こ。」

麻衣「いいに、私一人で。」

千里「バカ言うなよ。足怪我してんだろ?」

麻衣「だでい…きゃっ!」

   

   千里、微笑んで麻衣をおぶる。


千里「確りと掴まってな。」

   

   千里、歩いていく。生徒たち、千里を見る。


他5人「おぉ…」



○同・一階

   るみ子、麻衣を手当てしている。近くには千里。


るみ子「はいっ、出来たわ。小口君の次は柳平さんまで。そそっかしいわね。」

麻衣「てへへ…」

るみ子「小口君ありがとう。助かったわ。」

千里「えへへっ。」

   

   そこへ班の生徒。


向山「おい小口!」

みさ「格好良かったよ。」

加奈江「あんた一体どうしちゃった?」

キリ「そんな一面あったんだぁ!」

すみれ「紳士だったわよ。」


   千里、照れて頭をかきながら下を向く。全員、微笑む。


麻衣「せんちゃん、ふんとぉーにありがとな。」

   

   麻衣、千里に悪戯っぽい握手をする。



○宿舎・女子の大広間

   三年の女子全員。


すみれ「ねぇ麻衣、さっきのせんちゃん本当に格好良かったわね。」

みさ「ちょっと惚れちゃった?」

麻衣「嫌だ二人とも!!確かに格好良かったけど…ほーいうんはないに!」

   

   立ち上がる。


麻衣「でも嬉しかったわ。」


   うっとり


   ***


   別部屋。


   千里、赤くなって思い返している。


   ***



○京都御所


   千里、ぽわーんと心ここにあらず。北山マコとぶつかる。


千里「痛っ…」

   

   千里、尻餅をつく。マコ、驚いて振り向く。


マコ「ちょっと痛いじゃないの!何よそ見してんのよ?」

千里「よそ見って…君が僕にぶつかってきたんだろ?君こそよそ見するなよな!」

   

   マコを見上げる。マコ、胡散臭そうな目を細めて千里を見つめている。


千里「あ…」

マコ「あんた…」

   

   千里、お尻で後退り。マコ、千里に近づいていく。


千里「な…何?や、やめろって。」

   

   マコ、顔をだんだん千里に近付ける。


千里「近いってば!」

マコ「(大声)あーっ!」

千里「あーっ!って急におどかすなよな。」

マコ「あんた新学期の日に転校してきたとか言ってた小口千里ね?私にぶつかってきた小口千里よね?城南の小口千里よね?」

千里「君、誰?」

マコ「私を忘れるとは千里、いい根性してんじゃないの?」


   手を鳴らす


マコ「わーたーしーは、城南の北山マコよ!」


   鼻を鳴らす


千里「あぁ、マコだったの?だったら遠慮なくはっきり言わせてもらうけどさ、あの時も君の不注意であり先に僕の足をふんずけたのは君じゃないか!今日だってそうだろ?人のせいにするなよな。」

マコ「何ですって!?もう一度言ってみなさい!!」

千里「あぁ、何度だって言ってやるよ。あれは明らかに君のせい!レイミーテンデ?」

マコ「あんた…この北山マコちゃんを怒らすとどうなるか分かってそのでかい口叩いてんの?」

千里「生意気ででかい口叩いてるのは君の方だろうに!」

マコ「まぁ、何ですって!?」

   

   マコ、千里に掴み掛かろうとするが思いとどまる。


マコ「いいわ。とりあえずは宜しく。叉あんたと仲良くしてやる。でも…


   睨む


マコ「今度この私に口答えしたらぎったぎたのぼっこぼこにしてやんだから。覚えときなさい!」

   

   ツンッとして去る。千里、ため息。


千里「マコ、性格変わりすぎ…」

麻衣「確かに北山は随分変わったよな。」


麻衣「ほー、ぼちぼち見学らしいに。せんちゃんも行くじゃあ!」

千里「う…うん。」



○宿舎・和室

   麻衣、すみれ、みさ、加奈江、恵美子、マコ。


麻衣「でも北山、せんちゃんのあんな姿初めて見たに。」

マコ「そう?」

麻衣「えぇ、少し驚いちゃった…彼の違う一面が…」


麻衣「(座布団に座る)きゃっ!」

すみれ「どうしたの麻衣?」

麻衣「な、何かいる…」

みさ「何かいるって?


   笑って見回す


みさ「何もいないじゃないの!」

   

   笑いながら座布団に座る。


みさ「…?」

   

   瞬発的に飛び上がる。


マコ「みさまでどうしたのよ?」

   

   六人、辺りを見回す。ゴキブリ。


六人「きゃあー!」

加奈江「どうすんのよこれ?」

すみれ「どうするって言ったって…誰か取るしかないでしょ?」

みさ「でも誰が!」

六人「…」

麻衣「男子を呼ぶ?」

恵美子「どうやって?こんな時間に出歩いてたら又育田が怖いよ。」

マコ「私が行くわ!」

他五人「北山…」

マコ「(指を立てる。)大丈夫さ。私がすぐにディンディーンと。」

   

   マコ、靴を履く。


麻衣「北山、気を付けてな。」

マコ「任せときなって!私を信じな。んじゃっ行ってきまぁーす!」

   

   マコ、慎重に退室。


   数分後。千里、ゴキブリをとる。


千里「取ったよ。」

加奈江「流石はせんちゃん!男だわ!」

すみれ「本当に。助かったわ。」

マコ「意外と大したもんね。」

みさ「勇敢っ!!」

恵美子「格好いい!!」

   

   千里、照れて頭をかく。


麻衣「せんちゃんありがとう。ごめんな、こんな事だけのために呼び出しちまって。」

千里「いいよ。僕に出来る事だったら何でも言って。」

マコ「って事であんたはもう用なし。帰っていいわ。」

千里「ほーい、又明日。お休み。」

六人「お休み。」

   

   千里、出ていく。


みさ「さて、私達も寝るか。」

麻衣「ほだな。」

すみれ「電気消すよぉー。」

六人「OK。」

   

   消灯。



○アーケード街・市場通り

   知晃、八千代、岩井木徹、横井、清水千歳、掛川十。横井、ぶっ長ずらして面白くもなさそう。


八千代「ちょっと何よ、あんたのその顔。もっと楽しそうに出来ないわけ?」

横井「楽しくもねぇーのに楽しそうになんか出来るかよ!」

知晃「何がそんなに楽しくないのよ?」

横井「へー飽きたんだよ!あーあ早く帰ってローメン食いてぇなぁ!」

   

   知晃、八千代、横井に蹴りを入れる。


横井「痛ってぇ!何すんだよ?」

二人「あんたは愚痴が多いのよ!」

横井「ちぇっ。(不貞腐れる)」



○博物館前


麻衣「お、何だここ?」

千里「面白そうかも。」

麻衣「入ってみよ。」

   

   班の七人、中に入る。


   数分後。見物する七人。


みさ「これ見て!アミンタ王が使ってたものなんだって!」

加奈江「これってチャンパーポットじゃね?」

すみれ「何それ?」

加奈江「王様のお、ま、る!」

   

   すみれ、加奈江をこずく。


すみれ「いやん!なえったら!」

加奈江「てへへっ。痛いっ!痛いってば!」

   

   麻衣、千里、釘付け。

 

麻衣「ねぇ、みんなこっち来てみ!」

千里「面白いものがあるよ!」


   十数分後。すみれ、加奈江、向山、みさ、キリ、古代の貴族に扮している。後から男装をした麻衣と女装した千里が出てくる。他五人、吹き出す。


麻衣「せんちゃん、とってもよく似合っとる。可愛いに。」

千里「ありがとう。君こそお似合いだよ。とても素敵。」

すみれ「よし、では記念写真でも撮りますか?」

みさ「お、いいねぇ。」

加奈江「では、」

   

   カメラスタンドを構える。


加奈江「行くよぉ、三、二、一…」

全員「セルリー!」

   

   パシャ



○同・外


千里「(腕時計を見る)ヤバイよ!もうこんな時間だ!お昼食べられなくなっちゃう。」

すみれ「本当だ、急がなくっちゃ!」

   

   六人、走り出す。


加奈江「まいぴうも早く!」

麻衣「うんっ!(立ち止まって頭を押さえる)」

みさ「どうしたの?」

麻衣「ごめんごめん、なんでもない。」

   

   麻衣、首を傾げながら走っていく。



○和食堂・味土産

   昼食。こじんまりとした老舗。


すみれ「ギリギリだったわね。」

みさ「良かったぁ間に合って。」

加奈江「ご飯お代わり!」

向山「お、俺も俺も!」

   

   千里、幸せそうに食べている。

向山、加奈江は上機嫌でご飯を何杯もお代わりしている。麻衣、食事に手を付けずにお茶だけ少しずつ啜っている。


すみれ「あれ麻衣?」

みさ「少しも手付けてないじゃん?」

麻衣「うん。何か食欲なくって…」


向山「ふーん。じゃっ食わねぇんなら俺が…」

   

   加奈江、向山をキッと睨み付けて手を叩く。


向山「何すんだよ佐藤!」

加奈江「これはまいぴうんのでしょ!」

麻衣「なえちゃん、いいんよ。」

   

   食事を向山に差し出す。


麻衣「はい向山、まだ手は付けとらんでこれでよかったら食べて。残しとっても勿体ねぇーら。」

向山「やりぃー!サンキュー柳平。遠慮なく食わしてもらうぜ。」

麻衣「どうぞどうぞ、お食べなして。」

   

   向山以外、心配そうに麻衣を見る。麻衣、相変わらずお茶のみを飲んでいる。


麻衣「お茶お代わりください…」

   

   別の席。横井、鼻を鳴らして麻衣を見る。


横井「(大声)へんだ!どーせお前、変なもんでも食ったんだろ!あん時のローメンまんの仕置きだぜ!」

麻衣「うるさいわてっちゃん!」

横井「何だ、元気じゃねぇーかよ。」



○京都市内・町中 

   向山と加奈江、腹を叩きながら大満足。すみれ、伸びをし、みさはあくび。麻衣、ボーッと遠くを見つめている。千里、女性のようなポーズ。


向山「ふぇーっ食ったぁー!まだ食い足りねぇーや。」

みさ「マジで?よく食うねぇ。」

向山「あったりまえだ!あんなの俺から見りゃ前菜に過ぎねぇーよ!」

すみれ「呆れた。成人病になったって知らないんだから。」

   

   加奈江、その場駆け足。


すみれ「どうしたのなえ、トイレ?」

加奈江「カロリー消費よ!幸いお魚でヘルシーだったから良かったけど…」

千里「でもその代わり、糖分の多く含まれたご飯を何杯も…」

   

   加奈江、千里をびんた。 


千里「ごめん…」

   

   麻衣、辛そうにくくっと笑う。



○電車内

   麻衣と千里、隣同士。千里が通路側に乗っている。


千里「麻衣ちゃん、大丈夫か?」

すみれ「どうしたのよ麻衣?」

みさ「具合悪いの?」

育田「柳平、どうした?」

麻衣「頭が痛くて…」

育田「そうか。なら宿に着いたらすぐに休め。井川先生にも伝えておく。」

麻衣「はい…」

   

   麻衣、千里の肩に凭れる。千里、どきりとして横目で麻衣を見る。


千里「いいよ、僕にうつかってきなよ。」

麻衣「ありがとう…」


   数十分後。千里、緊張して強張る。麻衣、千里にうつかったまま眠ってしまう。


千里M「うっ…」

   

   千里の左隣に育田が座っている。千里の後ろに加奈江とみさ。その左隣にすみれと向山。千里、不自然にキョロキョロ。


加奈江「ん?」

   

   乗り出して千里を見る。


加奈江「せんちゃんどーした?」

   

   千里、びくりとして振り向く。


千里「や、別に…何も。」


   長いため息をつく。


千里M「どうしよう、トイレ我慢してたの忘れてた。」


   もじもじ。車内のトイレを見る


千里M「使用中か…」

   

   自分の着ていたコートを膝にかける。


千里M「でも僕が立てば麻衣ちゃん起こしちゃうよな。」

   

   泣きそうになって震えている。育田、千里の様子に気がつく。


育田「おいっ小口。」

   

   千里、びくりと育田を見る。


育田「どうした?」

千里「え?」

育田「お前も具合悪いか?」

千里「いえ、僕は至って元気です。」

   

   千里、強く首を振る。電車、途中で止まる。


千里「え?」

   

   キョロキョロ


千里「何?」


   安全確認停車の放送   


育田「畜生、こりゃ予定外だったな。」

千里「育田先生、何が起こったんですか?」

育田「事故による安全確認停車らしい。こりゃ暫くかかるぞ。」

   

   千里、愕然。麻衣、眠ったまま。千里、汗びっしょり。荒息。


   十数分後。千里、泣き出す。加奈江、気づいて肩を叩く。


千里「おどかすなよ!」

加奈江「何で怒るのよ!」

千里「ごめん…」

加奈江「何かあった?君、やっぱり変だよ。育田先生っ!」

千里「やめろっ!」

育田「どうした、佐藤。」

加奈江「小口君が変です!」

育田「小口、どうした?」

   

   千里に近付く


育田「(小声)トイレに行きたいか?」

   

   千里、静かに頷く。車内トイレは使用中。


育田「困ったなぁ…」

   

   電車、動き始めている。


育田「駅まで後少しだが我慢できるか?」

千里「分かりません…」

   

   苦しそうに前屈みになる。


育田「どうしてもっと早くに行かんのだ?」

千里「…」

   

   麻衣、目覚める。ボーッとキョロキョロ。千里を見て状況を読む。


育田「小口…」

   

  携帯用トイレとビニール袋を差し出す。


育田「緊急用だ…」

千里「え?」

育田「漏らすよりマシだ。どうでも無理ならこれにやれ。」

   

   育田、ブランケットを一枚千里に渡す。千里、三点を受け取る。苦しい表情。


育田「小口、本当に大丈夫か?」

   

   千里、下を向いて泣いている。麻衣、おどおどして眉間にシワを寄せる。


麻衣M「大丈夫かしら?声かけた方がいいんかしら…」

   

   千里、強く目を閉じる。


育田「小口、次が俺達の降りる駅だぞ。もう少し頑張れ。」

   

   麻衣を見る。


育田「お、柳平起きたか。」

麻衣「先生。」

育田「調子はどうだ?」

麻衣「お陰さまで少し楽になりました。しかし…


   不安気


麻衣「今は小口君の方が心配です。」

   

   千里、極度に震え出す。麻衣、驚いておどおど。

 

麻衣「ちょっ、ちょっとせんちゃん!?」

千里「育田先生、もう我慢出来ません…」

   

   下車駅に到着。


育田「着いたぞ。小口、先に降りろ。ホームを出ればすぐにトイレがあったはずだ。」

千里「はい、ありがとうございます…」

   

   千里の両肩を麻衣と育田が支える。千里、ヨタヨタ降りて歩き出す。



○駅・改札

   全員が整列している。そこへ麻衣、千里、育田。


育田「(小声)小口、そこが男子トイレだ。先に行って来い。」

千里「はい…」

    

   千里、改札を出て止まる。俯いて目を固く閉じる。


育田「どうした?」

麻衣「せんちゃん?」

千里「先生…」

   

   生徒全員、千里に注目する。千里、お漏らし。千里、その場に座り込んで静かに泣き出す。育田、驚く。麻衣、頬を染めて放心状態で千里を見つめる。



○ホテル・男子トイレ

   育田、泣く千里を個室の中に入れる。


育田「何故漏らすまでトイレに行かなったんだ。」

千里「それは…」

育田「着替えろ。」

千里「何に着替えればいいって言うんですか!?」

育田「俺も他の先生方も生憎スラックスの替えもジャージの替えも持っとらん。」

千里「そんなぁ…なら僕に今夜一晩は下着で過ごせと?」

育田「そんな事は言っとらん。とりあえずは…」


   一着の浴衣を渡す


育田「これでも着てろ…やむを得ん。」

   

   千里、者繰り上げながら浴衣を受けとる。


千里「はい…」

育田「他の生徒も着いたらしい。故、俺はこれでエントランスホールに戻る。一人で降りてこられるな。」

千里「大丈夫です。ありがとうございました先生…」

   

   千里、個室のドアを閉めて鍵をかう。薄暗く不気味。全体的に古めかしい。


   数分後。千里のみ。千里、浴衣を着て便座の蓋の上に体操座りをして泣いている。そこへ向山、横井。個室の前で立ち止まって顔を見合わせる。すすり泣く声。


向山「小口?いんだろ?」

横井「出てこいよ。育田も心配してんぞ。」

千里「(者繰り上げたまま)」

横井「お前が来ねぇーっつってみんな心配してんぞ。」

千里「僕もうやだ…」

向山「は?」

千里「僕は京都に住んでいる時からろくな事がなかった。この修学旅行だけはいい思い出が作れると思ったのに、最悪だ…」

向山「お前…」

   

   扉に頬に接近。


向山「それでも男か?男ならもっとしゃきっとしろよ!」

千里「…」

向山「柳平に見られたこんがショックで出てこれないんだろ?」

   

   千里、泣き止んで顔をあげる。向山、扉の上からよじ登って顔を出す。


向山「好きなあいつに恥ずかしいとこ見られたのがショックなんだろ?」

   

   千里、向山に気づくと驚いて便座から落ちそうになる。向山、飛び降りてきて千里に馬乗りになる。千里、個室の床の上にうつ伏せになったまま潰されている。


   千里、向山の下から自力で這い出して立つ。涙目で向山を睨み付ける。


千里「何するんだよ?痛いじゃないか!」

向山「なぁ小口、お前みたいなくそ真面目で大人しい奴が人前であんなことになっちまったのは相当ショックだとは思うけどさ…」

千里「うるさい!放っておいてくれ!」

向山「柳平だってお前のこんすげぇ心配してるぜ。好きなんだろ?だったら心配かけんなよ。」

千里「僕は、僕は確かに彼女の事が好きだ。でも、その彼女の前で僕はこんな情けない姿を見せてしまった…」


千里「バスの中でも具合が悪くて苦しむ麻衣ちゃんに何もしてあげられなかっただけじゃなくて余計に彼女に心配をかけてしまった。その上こんな事になっちゃって…」

   

   床に蹲って女子の様に泣いている。


千里「最低だ…女の子一人守ることが出来なくてさ、逆に迷惑をかけて。もう彼女がこんな僕を相手にしてくれる訳はない。もう彼女に軽蔑されてるに決まってるよ。」


千里「だって僕は男らしいとこなんて少しもないんだもん!」  


向山「来い、戻るぞ。」

千里「放せ!放せ!」

   

   強引に千里の手を引いてトイレから連れ出す。


向山「いつまでもこんなところにいたってしょうがねぇだろ!」

   

   横井、千里の空いている手を引く。千里、振り払おうともがく。


千里「やめろ!やめろ!」



○同・非常階段

   向山、横井、千里。真っ暗で不気味。上下に階段が繋がっている。千里、不安げにキョロキョロ。二人は千里を捕まえたまま。


千里「おい、ここ何処なんだよ?」

向山「ここはもう使われていない旧非常階段さ…」

   

   千里、小さな悲鳴をあげる。向山、得意気にふんっと鼻を鳴らす。


向山「本当は使用禁止らしいんだけどさ、ここが一番フロアーへの近道なんだよ。」

横井「さ、下ろうぜ。」

千里「うん…」


   三人、階段を下りながら


向山「小口、お前の気持ちも分かるけどよぉ…いつまでもメソメソすんじゃねぇよ。その方がずっと格好悪いぞ!」

     

   千里、再び泣きそうになる。


千里「(大声)僕がどれ程辛いか君に分かるか!」

向山「もっと男らしくなれよ小口!」

   

   千里の体を揺する。


向山「お前、柳平と付き合い長いんだろ?だったらあいつがどんなやつか知ってんだろ?」

   

   まじまじと。


向山「あいつは人の恥ずかしい姿や弱味を知って嫌ったり軽蔑するような奴じゃない。」

   

   奮い立たせる。


向山「だで自信を持てよ。」

千里「としやん…」

   

   千里、涙を拭う。向山と横井、ニコリ。


横井「柳平だってそんなお前は嫌いだと思うぜ。」

千里「うん。」

   

   向山、2階出入り口のドアノブを回す。


向山「…?」

千里「としやん?」

   

   向山、階段を上に戻って別フロアーのドアをガチャガチャ。下に戻ってきてガチャガチャ。


千里「え…?」

   

   千里、蒼白になる。向山、戻ってきて深刻。千里、うるうると向山を見つめる。


向山「てつ、特に小口、落ち着いてよく聞け…」

   

   千里、唾を飲み込む。


向山「俺達、ここに閉じ込められたらしい…」

千里「えぇ!?」

   

   千里、ヘナヘナと崩れ落ちる


千里「そ、そんなぁ…」


   パニック


千里「どうするんだよぉ!」

横井「うるせぇ、黙ってろ!」

向山「どうやってここを脱出するかだな…」

横井「本当にどうする?」

向山「助けを待つのは不可能に近いしな…」

千里「なら大声で叫ぶ?それか携帯!」

横井「俺バックん中だわ。」

向山「俺もだ。お前は…」

   

   千里、浴衣姿。


向山「どう見たって持ってねぇーよな…」

千里「(大声で)おーい!誰かいませんかぁ?お願いします助けてくださぁい!」

向山「無駄だ小口…」

千里「何で?」

向山「ここは旧客室。非常階段は勿論の事、客室すら使われていないんだ。よって…」


   ***


  (フラッシュ)

   

  薄暗くて人気のない廊下。


   ***


向山「誰も来ない…」

横井「な。」

千里「じゃあさっきのトイレは?」

横井「あれはへー使用禁止。本当に育田に案内されたのかよ?」

千里「うん…」

向山「先公もお前も見えなかったのか?黄色いテープ破って中に入ってあったぜ。」

千里「だって僕、育田先生にここで着替えろって。そしてこの浴衣も渡されたんだ。」

向山「お前の着てる奴か?」

横井「でもほれ、ここのホテルんのじゃ無いぜ。ここのホテルピンクだ。」

向山「ほーいやそうだな。ならどいでそれだけ白なんだ?」

千里「(蒼白)ただ色が落ちただけだろ…」


向山「(咳払い)とにかく、ここでいくら大声出したところで体力の無駄って事…」

横井「気長にみんなが動き出してくれるのを待つしかねー見てぇだな。」

千里「そんな…(涙が流れる)」

   

   姉座りをして女子のように俯いている。


○同・各男女の大広間

   その頃。他の生徒たちが寛いでいる。


清水「ほーいやてつたちは?」

岩井木「さぁ?」

十「一部の小口と向山もいなくねぇーか?」

岩井木「確かに…


   キョロキョロ


岩井木「ま、その内に戻るだろう?」

清水「それもそうだな。」



○同・非常階段

   大の字に伸びる向山、無意味に運動する横井、気落ちして経垂れ込む千里。


向山「腹へったなぁー…」

千里「としやん、いつここを出られるんだよ?」

向山「知らねぇーやいそんなこん。」

千里「ここへ連れ込んだのは君だろうに!いくら近道だからって何でこんなところ通る必要があるんだよ?本当は入っちゃいけなかったんだろ?


入った罰なんだ…そのせいで僕ら出られなくなっちゃったんだ…


   お腹がなる


千里「お腹空いた…」

   

   階段の上り下りを何回もしていた横井、二人の元へ止まる。汗びっしょりで清々しい表情。


千里「てっちゃん、何でこんな状況なのにそんなに落ち着いていられるんだ?」

横井「じっとしていたって仕方ねぇーだろうに。何してたってどうにもなんねぇーもんはどーにもなんねぇーんだだ。少しでもこうやって時と場所を有効に使った方がいいだろ。」



○同・大広間

   2時間経過。食事。


加奈江「そーいやボンレスハムは?」

麻衣「せんちゃんもまだ戻ってこんに。」

岩井木「うちのクラスの横井もさっきからいないんだよ。」

すみれ「いつから?」

清水「小口の奴はずっと。駅で別れて以来見かけてねえーし。」

みさ「向山はせんちゃん捜しに行くっつっててつと一緒に行ったっきり。」

岩井木「じゃあ、てつととしは一緒っつー事か?」

加奈江「んじゃんじゃ、せんちゃんも二人と一緒の可能性が高いのね。」

   

   二つの班のメンバー、顔を見合わせる。


マコ「あのバカ千里…」



○同・非常階段

   千里、向山、横井。ぐったりとして伸びている。


向山「飯食いてぇ…」

横井「いい加減足つったぜ。」

千里「麻衣ちゃん…ママ…」

   

   三人、上の空で長いため息。


千里「ねぇ、このまま僕らどうなるの?ここには本当に誰も来ないの?」

横井「分かんね。でも小口、このフロアには育田に連れて来られたんだろ?」

千里「うん。」

横井「っつーこんはだぜ?お前がいねぇ事に気がついたらまずは育田もお前に使わせた便所を捜しに来るだろうさ。ほんときに足音が聞こえる筈だ。」

千里「そうか、そういえばそうだよね。」

向山「それを信じてそれまで待つっつーこんか。」

横井「そいこんだ。」



○同・廊下

   生徒全員と教師たち、三人の名を呼んで探し回っている。


すみれ「麻衣、いた?」

   

   麻衣、悲し気に首を振って泣き出しそうに下を向く。


すみれ「麻衣…」

麻衣「私のせいだに。私のせい…」

加奈江「何でそんな事考えるのよ?」

麻衣「ほいだって…


   半べそ


麻衣「彼は優しいから、私が彼に寄りかかって寝ていたせいで彼、私を起こすまいとトイレに立てれなんだのよ。そのせいで…」

すみれ、加奈江「え?」

麻衣「彼、きっと何処かで落ち込んで泣いているわ…」



○同・非常階段

   向山、横井、泣きそうな千里を慰めたり励ましたりしている。


向山「泣くな小口、大丈夫だで。」

横井「ここで死ぬような事はないで。」

千里「縁起でもない事言うなよ!」


   一階非常階段。育田、一階エントランスから二階へ上がりながら三人の名を呼んでいる。



○同・三階非常階段

   千里、向山、横井。機敏に反応して扉に目をやる。階段を上る足音。


横井「おいっ!何か足音っぽいもん聴こえねぇーか?」

向山「確かに…」

千里M「良かった…」

   

   三人、助けを求める。


千里M「お願い!お願い!誰でもいいから気がついてよ!」

   

   必死に扉を叩く三人。カチャッ。


三人「!?」

   

   向山、恐る恐るドアノブに手をかけて回す。開く。三人、微笑んで外へ出る。


向山「開いたぜ!」

横井「おぉ!早く戻ろう。」

千里「う、うん。」

   

   3時間半経過。薄暗く湿っぽい廊下。


千里「誰が開けてくれたのかな?」

横井「さぁーな。何処行ったそいつ?」

向山「足速いな。もう人の気配すらしねぇ。」

横井「どいで人がここにいるってこんが分かったんだ?」

   

  千里、足踏み。


横井「小口、どうした?」

千里「体が冷えて叉トイレ行きたくなっちゃった!」

向山「少し我慢しろよ。ここのは使用禁止!」

千里「そんなこといってられるか!」

   

   ヨロヨロ走っていく。横井と向山、千里の後を追う。



○同・三階男子トイレ

   褐色の赤い色の灯り。古い造りでこじんまり。男子便器三つと個室一つ。千里、用を足す。後ろに横井と向山が見つめている。


千里「(振り返る)二人とも、悪いけど見ないでくれるかな?」

二人「わりぃわりぃ、ごゆっくり。」

   

   千里、恥ずかしそう。



○同・三階の廊下



向山「へー22時だぜ。」

横井「先公カンカンだろうな。」

千里「ひぃぃ!」

向山「これと言うのもお前のせいで…」

千里「もう僕をいじめるのはよそうよ。」


横井「で、どう戻る?」

向山「階段か?」

千里「嫌だよ。又閉じ込められちゃうかもしれないじゃん。」

横井「んじゃ、エレベーターか。」

千里「もっと嫌だよ!もし閉じ込められちゃったら…」

   

   向山、思いっきり千里をこずく。


千里「痛いよぉ!」

向山「バカかお前は!だったらどうやって戻んだよ?」

千里「だってぇ…」

向山「だってもすってもねぇやい!」

横井「まぁな。非常階段は俺もへー嫌だし、やっぱエレベーターっつーもんだな。」

千里「うぇー!?」

   

   二人、いやがる千里を強引に引っ張ってエレベーターの前に行く。ボタンを押すと直ぐに開く。二人、千里を放り込んでから乗り込む。



○同・エレベーター内

   二人は俯せに倒れている千里の両手を引っ張って起こす。


向山「ほーいや小口?」

   

   ニヤリとして千里を悪戯っぽく覗き込む。


向山「エレベーター怪談の噂知ってるか?あのな…」

   

   千里、両耳を押さえ込んで首を左右に大きく振る。


千里「嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、聞こえない!わぁーわぁーわぁーわぁー何にも聞こえなーい!」

   

   横井、千里をこずく。


横井「静にしろっ!」


   千里、両手で頭を抱える。


千里「痛ったたたた…頭ばっかりみんなで叩かないでくれよ。バカになっちゃうじゃん!」

   

   扉が開く。


千里「あ!


   表情が曇って目を見開く


千里「え?」


   三人、エレベーターから出る。真っ暗闇。三人、暗闇の底に落ちていく。


三人「うあーっ!」

   

   

○暗闇の中。

   千里一人、目覚める。


千里「何処ここ?僕どうしちゃったんだろ。としやん?てっちゃん?」

   

   キョロキョロ


千里「二人とも何処?出てきてよ。(泣きそうになる)」

男子の声「(ばか笑い)見ろよ、あいつ!」

千里「誰っ!?」

男子の声2「バカじゃねぇの?あいつ本当にもらしやがった!」

男子の声「高校生になって恥ずかしいな!」

千里「嫌だ…」

   

   笑い声、消えていく。


   小口が出てくる。ぐったり横たわっている。


千里「パパ!?」

   

   軈て担架で運ばれていく。顔に白いベール


千里「パパ、死んじゃ嫌だ!パパ!」

   

   情景消える。千里、泣き崩れる。


千里「パパ…」

   

   青白い顔の麻衣。弱々しく千里に微笑む。


千里「麻衣ちゃん!?」

麻衣「せんちゃん、今までありがとな。」

千里「麻衣ちゃん?」

麻衣「本当にありがとう…」

   

   麻衣、ミルテの花の上に横たわり目を閉じる。そのまま光る川に流されていく。


千里「麻衣ちゃん!何処行くんだ?待って!」

   

   麻衣見えなくなる。


   バスの中の情景。麻衣、青白い顔でぐったりと凭れて目を開けている。麻衣、千里を心配している。千里、麻衣を気にする余裕も無いほど切羽詰まっている。


千里「僕のせいなんだ…僕が具合の悪い彼女に余計に負担をかけさせちゃったのがいけないんだ。」

   

   千里、頭を抱える。


千里「!」

   

  千里、ハッと立ち上がる。


千里「麻衣ちゃん?麻衣ちゃんが!」



○ホテル・客室

   千里、魘されている。布団の中。近くに向山、横井、育田。


育田「小口、おいっ小口!」

   

   千里、育田に揺すられて目を覚ます。


育田「小口、気が付いたか。心配したんだぞ!」

千里「先生にみんな、どうして?」

向山「全くおどかすなよな。あの後エレベーターで気絶しちまったんだぜ?」

千里「エレベーター?」

横井「あーそうだ。お前、駅で派手にやっちまったろ?あの後男子トイレで着替えるようにって育田に案内されたのは覚えてんだろ?」

千里「う、うん。」

向山「でもお前が便所入ったっきり出てこんもんで心配した俺たちが見に来た。」

千里「で、としやんが近道だって言って使用禁止の非常階段に案内して…」

向山「何いってんのお前?」

横井「あの後、お前と三人でエレベーターに乗ったろ?」

向山「お前はそのエレベーターの中で倒れたんだぜ。」

千里「え…」


   千里、ぼわーっとしている。


千里M「じゃあ、あれは…夢?」


   ホッと微笑む


千里「そうだ!


   パッと起き上がる


千里「先生、麻衣ちゃんは?」

育田「あいつは…」

千里「えぇ…?まさか…」

育田「相当具合が悪いみたいで体も持ちそうもなかった故、茅野に戻った。諏訪石楠花平病院に入っているそうだ。」

千里「病院に…?」

向山「あいつも最後の最後まで相当お前の事心配してたぞ。」

千里「え?」

横井「あぁ。私のせいだとかなんとか言ってたな。」

千里M「麻衣ちゃん。ごめんね…」


   泣き出す


横井「千里?泣いてんのか?」


   千里、横井に泣きつく


横井「おいおい、どうしたんだよ?」

千里「麻衣ちゃんが、麻衣ちゃんが…僕のせいで…あーん!」


   横井と向山、笑いながら千里を慰める


向山「お前すごく魘されてたんだぞ。恐い夢でも見てたんだろ?」

千里「とっても怖かった、悲しかった…」


千里M「まさか…まさか、どうかこれが正夢ではありませんように…」



○バスの中

   翌日。カラオケ大会が行われている。千里、最前列。隣は空席。千里、空席を横目で見て外を見つめている。後ろから加奈江の手が伸びる。手には紙コップ。


加奈江「はいよっ。」

千里「?」

加奈江「ミルテンのレモンティー。君、これ好きだろ。」

千里「(受け取りながら)僕はミルテンよりもティティーズのレモンティーの方が好きだもん…」

加奈江「何だって一緒だろ。ほれと…」

   

   2リットルペットボトルとタオルケットを千里に投げる。


千里「な…何だよこれ?」

加奈江「でも君は


   小粋に


加奈江「飲みすぎんなよ!いざというときはこいつにね。」

千里「うるさい!余計なお世話だ!」

   

   加奈江にペットボトルとタオルケットを投げ返す。千里、鼻をならして窓に顔を戻す。



○茅野駅・西口

   バス停。バスが停まる。生徒逹、バスから降りる。


すみれ「(大きく伸びをする)んーっ気持ちいい!やっぱり茅野ね。」

みさ「本当。でも私はこれからそうちゃんと一緒に松本まで帰らないと。」

マコ「そうか。」

   

   そこへ松竹美輝


美輝「私はこれから長野まで。」

他七人「うぇー!?」


横井「っつー訳で俺も帰るわ。」

向山「じゃな。」

すみれ「私も帰る。てつ、途中まで一緒にいくわ。」

横井「(目を丸くする)お前、確か金沢だろ?あんなとこまで歩くつもりかよ?青柳まで電車乗りゃいいだろうに!」

すみれ「何よ、いいじゃないの?あの花蒔の三つ子ちゃんですら健康な時には歩きか自転車で高校まで来んのよ?」

横井「マジか?」

すみれ「マジよ。」

   

   横井、呆れたようにすみれを見つめる。


   向山、加奈江、千里のみ。


向山「あぁ、なんか俺腹減ったわ。帰り道でラーメンでも食ってくかな。」

加奈江「お、ラーメン!いいなぁ…」

向山「佐藤も来るか?」

加奈江「いいの?勿論行く行く!行くに決まってんじゃん!


   千里を見る


加奈江「せんちゃんは?」

千里「いいなぁ…でも食べたいけど今回はいいや。もうすぐママの迎えが来る事になってんだ。」

   

   加奈江、向山、ニヤニヤ


加奈江「ママだって。」

向山「せんちゃんはマザコンでちか?」

千里「(真っ赤になる)」

向山「せんちゃんはラーメンなんかよりも」

加奈江「ママのカレーライスの方が大好きなんでちゅよねぇ!」

千里「僕はマザコンじゃないっ!」

   

   そこへ珠子の車。


千里「あ、ママだ。」

   

   車に乗り込む。


千里「じゃあね。又学校で(恥ずかしそうに手を降る)」

加奈江、向山「(ニヤニヤしながら手を降る)はーい又学校で。」

   

   車、駅を出る。



○車内

   運転する珠子。千里、助手席。


珠子「お帰りせんちゃん。修学旅行はどうだった?京都懐かしかったでしょ。」

千里「うん、それよりママ…」

珠子「ん?」

   

   千里、俯いて顔を曇らす。



○諏訪中央病院

   四人病室。一番奥の窓際。麻衣、読書中。


麻衣M「メール?誰から?」

   

   メールを開いて微笑む。


千里のメール『麻衣ちゃんへ。入院したって聞いてとても心配です。僕、君が一番苦しいときに何もしてあげられなかった。ごめんなさい。千里。』

   

   ベッドのカーテンは閉まっている。千里、病室の外で携帯を握って中の様子を伺っている。


麻衣(小声)「(フフっと笑う)バカね、あんたのせいじゃないのに…」

   

   千里、恐る恐る入室。ミルテとエリカとエーデルワイスの花束を抱えている。麻衣、顔を上げる。


麻衣「せんちゃん!わざわざ来てくれたんの?おかえり。」

千里「麻衣ちゃん…(泣き出す)」

麻衣「せ、せんちゃん?ちょっとどうしたの?」

千里「良かった。君が、君が生きててくれて…」

麻衣「はぁ?」

千里「僕、君が遠い世界に行っちゃう夢見たんだ。だからずっと怖かったの、悲しかったの。僕を頼ってくれた君を蔑ろにしてしまった事を後悔してた。でも、でも、う、う…」


   麻衣、千里をなだめる。

   


麻衣「泣き虫さん。大丈夫よ、私はここにおるに。修学旅行の日、あんたがいてくれたお陰でとても助かった。ありがとう。」

千里「僕なんて…お礼を言われる様な事は何もしてない…それどころか君に迷惑をかけた。何もしてあげられなかった…本当にごめんね…」

麻衣「何いっとるんよ、やめて。


   悪戯っぽく


麻衣「あんた、私が死んだかと思っとったの?失礼ね。私の体はほー簡単には死にゃせん。ただの過労よ、すぐ良くなるわ。」


   千里の涙をぬぐう。


麻衣「だでへー泣かないで。元気になったら又遊ぼ。」

千里「麻衣ちゃん…うん。ありがとう。」


   花束を花瓶に飾る。


千里「君の好きな花…だよね」

麻衣「わぁ!ミルテにエーデルワイスにエリカ!せんちゃんありがとう!」

千里「それと…」


   小さな包みを麻衣に渡す。


麻衣「何これ…私に?」

千里「う、うん…」


   恥ずかしそうにもじもじ。


千里「実は…あまりにも可愛いから君にプレゼントするために京都で買ったんだ。良かったら使ってくれないかな?」

麻衣「私に?ふんとぉーにくれるだ?開けていい?」

千里「あぁ…」


   ちりめんの財布と髪飾り。


麻衣「わぁ素敵!せんちゃん大好き!」


   千里に軽くバグ。千里、赤くなっておどおど。


   2時間経過。


千里「じゃあ僕、そろそろ行くね。」

麻衣「ありがとう。来てくれてとても嬉しかった。」

千里「お休み。早く元気になれよ。」

麻衣「ほーする。」


   千里、退室。麻衣、髪飾りを髪に飾る。


  

○茅野中央高校・教室

   一週間後。始業。麻衣、机に突っ伏せて眠っている。


育田「では次、この問題が溶けるもの。誰かいないか?」

   

   数名が手を挙げる。育田の視線は麻衣。


育田「おい、柳平!柳平麻衣!」

麻衣「んーっ…」

育田「聞こえんのか?柳平!」

麻衣「(むくりと起き上がって不機嫌そうに育田を睨む)んー?」

育田「なんだその目は?言いたい事があるんならはっきりと言ってみろ!」

麻衣「ほいじゃあ言う。うっさいなぁ育田はぁ、人が折角寝てんじゃんかぁ!」

育田「ふざけるなっ!お前と言うやつは…今年の初めにここへ転校してきて以来、俺は一度としてお前がまともに授業を受けている姿を見たことがない。最後の年くらいきちんとしたらどうなんだ!?よくそれで進学できたものだ。」

麻衣「ここへ来てからじゃないに。若葉の頃からずっとだに!」

育田「…っ


   黒板消しを握りしめる


育田「柳平…」

   

   クラスメイト息を飲む。すみれ、麻衣の後ろの席。寝入る麻衣の肩を叩く。


すみれ「麻衣、麻衣、起きなさいよ!育田先生かんかんよ。」

麻衣「んーっ…放っておいて。」

すみれ「んもぉ!私へー知らないっ!」

育田「(黒板消しを戻す)分かった、いいだろう。柳平、この問題を解いてみろ!もし全問正解したならば今日のところは水に流してやる。」

   

   麻衣、起き上がってニヤリ。


麻衣「ふーん、面白そうじゃあ。受けて立つに!」

   

   黒板の前に立つ。


麻衣「要はこれを解きゃいいっつーこんだずら?」


   ニヤリ


麻衣「解けんきゃいつも通り廊下に立ってりゃいいんだら?」

育田「左様。」

麻衣「んなら、もし私が全問解ければ育田が廊下に立つっつのはどうです?」

育田「柳平っ!」

麻衣「戯れにありんす。」


  問題を解き出す


麻衣「んで、んで、これでこうでこうなって。(チョークを置く)よし、でーきたっと。育田、これでいいだら?」

   

   麻衣、席へ戻る。育田、答え合わせをしている。


育田「正解…正解…正解。全問正解だ。(微笑む)なんだ柳平、お前きちんと出来るじゃないか。仕方がない、今日のところは…」

   

   麻衣を見る。麻衣、熟睡。


育田「柳平、お前って奴は…」

   

   黒板消しを構える。クラスメイト、息を飲んだり、顔を覆ったり。


育田「いい加減に…


   振り上げる


育田「しろっ!」

   

   黒板消し、麻衣めがけて飛ぶ。


すみれ「麻衣っ!危なっ…」


千里「え?」


すみれ「え?」

   

   麻衣、突っ伏せたまま黒板消しをキャッチ。クラスメイト、麻衣を見る。


麻衣「(ゲラゲラ笑って起き上がる)育田勝先生、柳平の娘をなめてもらっちゃあ困ります。忘れたんですか?私の父は茅野警の部長。ほんな父の下、娘の私だって幼い頃から護身を習っとるんですもの。こんくれぇよこれんくちゃどーするでぇっつーこん。アハハ!!」

   

   チャイム。


麻衣「とかいっとる間に授業が終わっちゃいましたね。育田勝先生。」

育田「…っ。」

   

   育田、呆れてため息。本を纏める。


育田「それでは本日の数学はこれにて終了。」

   

   育田、疲れたように退室。クラスメイト、ポカーンとして麻衣を見つめている。



○玉川運動公園

   麻衣、すみれ、千里、紡、糸織。草へ座って昼食。


すみれ「って事なの。呆れた人でしょ?」

   

   紡、糸織、大笑いを始める。


すみれ「えぇっ?」

紡「ほいだって麻衣が授業中居眠りしたり、」

糸織「授業崩壊させるだなんて…」

二人「ほー珍しいこんじゃねぇーらに!」

すみれ「今年は私たち卒業生なのよ!恥ずかしいと思わないの?」

麻衣「人聞きが悪いなぁ、授業崩壊だとか言って!」

すみれ「だってそうじゃないの!」

   

   千里、草へ寝転ぶ。


千里「もうそんな話はよせよ。それよりも…」


千里「みんなも寝てみろよ。気持ちいいよ!」

   

   他四人、草へ寝転ぶ。


すみれ「本当ねぇ…」

糸織「このまま寝ちゃいそう…」

紡「ふんとぉーに麻衣じゃねぇーけど午後の授業ボイコットしちまいたくなるわ。」

麻衣「あら、私はボイコットはしねぇーに。一応は出席して嫌なら堂々と寝る。


   あくび


麻衣「こんな日は誰か好きな男の子と共に歌って踊って過ごしたいわ。」

   

   千里、ドキッとして麻衣を見る。麻衣、起きる。千里を起こして手をとる。


麻衣「踊ろうか?せんちゃん…」

千里「え?」

紡、糸織、すみれ「おおっ」

   

   麻衣と千里、チャールダーシュを踊り出す

   

○同・音楽室

   放課後。千里、ピアノを弾いている。そこへ麻衣。扉の隙間から覗く。


麻衣M「せんちゃん?」


   微笑んで入る。千里、麻衣には気が付かずに弾いている。


終わる。麻衣、拍手。千里、びくりとして麻衣を見る。


麻衣「せんちゃん!」

千里「あ、麻衣ちゃん!」

麻衣「いつもここでピアノを弾いてんの?」

千里「聴かれちゃったか。いや、今日が初めて。部活休みだったから…」

麻衣「でも流石はあんただわ。プロみたいな演奏、うっとりしちゃう…」

千里「そんな事ないよ。」

麻衣「やっぱり専門学校行っただけあるわね。」

千里「中退だろ。(苦笑い)」


千里「ところで、君はここに何を?」

麻衣「帰ろうとしたらピアノが聴こえたから、ひょっとしてと思って覗いてみたのよ。」


   優しく微笑む。


麻衣「だからもしあんたなら一緒に帰ろうと思って。」

千里「そうだったんだ、ありがとう。一緒に帰ろう!」

麻衣「えぇ!でも…」


   悪戯っぽく


麻衣「折角ここにいるんだし、もう一曲くらい何か聴きたいわ。何か弾きなさいよ。」

千里「えぇ?」

麻衣「お願い!」

千里「分かったよ。その代わり、君が踊れよ。」

麻衣「何を弾いてくれるの?」

千里「君が踊れるやつさ。」


   千里の演奏。麻衣、チャールダーシュを踏み出す。



○小口家


千里「ただいまぁ!」


   階段を上がる。


珠子の声「せんちゃんお帰り。あなた宛のお手紙届いていたわよ。」

千里「え、僕に?」



○同・千里の部屋

   机の上に大きな封筒


千里「何だろ?」


   開ける


千里「っ!」


   震える


千里M「こ、こここ…これって…」



○同・台所

   珠子、頼子、忠子、千里、坂上夕子


珠子「せんちゃんおめでとう!あなた凄いわ。」

夕子「こりゃ去年、お前が行きたいって言ってた奴だろ?良かったじゃないか!」

千里「(嬉し泣き)うんっ!」

珠子「じゃあせんちゃん、申し込んでもいいのね?行くのね?」

千里「うん!」

珠子「分かったわ。じゃあママ、手続きするわね。」

夕子「去年の約束だ。私が援助するからね。」

千里「叔母さん…ママ…」


頼子「千兄ちゃん、外国行っちゃうの?」

忠子「もう戻らんの?」

千里「まさか。お勉強終わったら叉直ぐに戻ってくるさ。ご馳走さま。」


   立ち上がって退室



○同・千里の部屋

   千里、ベッドに仰向け。


千里M「何かこんなに幸せ続きでいいのかな…」


   飛び起きる


千里「麻衣ちゃん!」


   胸を痛む


千里M「僕が外国行くとなると、彼女と暫し別れなくちゃいけないんだよな…」


○茅野中央高校・屋上

   向山、千里。

千里、向山に連れて来られる


千里「な、な、何だよ!放せったら!」

向山「お前、あれから柳平とどうなった?」

千里「え、どうって?」

向山「あいつに気持ちを伝えたかって聞いてるんだよ。」

千里「で、出来るわけないよ!」

向山「情けねぇなぁ、お前男だろ!男ならビシッと決めたらどうなんだ?」

千里「仕方ないだろぉ…君だって僕の性格知ってるだろうに。」


   もじもじ


千里「勿論、麻衣ちゃんは友達としては僕に今で通り接してくれてるよ。でも僕は、今まで彼女に迷惑かけてばっかりだし、少しも男らしいところを見せた事ないんだ。当然男としてなんて想ってくれるわけないだろ!」

向山「本当に情けねぇ男だぜ。」


   呆れる


向山「お前こそ柳平の性格よく知ってるだろうに!」

千里「えぇ?」

向山「男だろうが友達だろうが、あいつは簡単に人の事嫌うやつじゃねぇーんだって。」

千里「でもぉ…」

向山「男ならでもはなし!」

千里「だってぇ…」

向山「だってもなし!この意気地無し野郎!他がダメなら別のところで男らしさを見せればいいだろうに!」

千里「…」

向山「ならこうしよう。もうすぐゴールデンウィークだろ?だでゴールデンウィークの日に…


   千里に耳打ち


向山「な。」

   

   千里、不安げに聞いている。


向山「(肩をポーンと叩く)な、俺の言う通りにしろよ。当たって砕ける覚悟で当たれ!いいな。」

千里「え…う…うん。」

向山「頑張れよ。早くしねぇと、あいつモテるから他の男にとられるぜ。」

千里「分かったよ…」

   

   教室。授業中。心なしに授業を受ける千里。


  休み時間。千里、立ち上がって麻衣の手を引く。


麻衣「ん、んー?ちょっ、ちょっとぉ!」

千里「ごめん、僕と一緒に来てくれるか?」

麻衣「何よぉー…」



○同・校庭

   誰もいない。千里、麻衣を向き合わせ両肩に手を置く。


千里「ねぇ…麻衣ちゃん?」

麻衣「何?真剣な顔しちゃって。」

千里「もうすぐゴールデンウィークだね。君の予定は?」

麻衣「予定?ちょっと待って。」


   ポケットからスケジュール帳を取り出す


麻衣「まず、29、30、1、2はミシュコルツへレッスンを受けに行く。3、4、5は何もなし。あんたは?」

千里「僕は29から5までずっとママが京都へ行くんだけど僕は行かない。」


   しかめ面


千里「ゴールデンウィーク明けから正式に僕んちに叔母さんが来るんだ…そのために行くの。」

麻衣「叔母さんが?でもどいであんたは行かんの?」

千里「ただ行きたくないだけ。そんなことより麻衣ちゃん…」

   

   ドキドキとしながら真剣に麻衣を見つめる。


千里「このゴールデンウィークの何処かで一日、僕と会ってくれませんか?」

麻衣「せんちゃんと?」

千里「嫌ならいいんだ。ごめんね。」

麻衣「いいに決まっとるに。(微笑む)何処連れてってくれるだ?」

千里「やったぁ!本当にいいの?」

麻衣「勿論。」

千里「なら車山のヒュッテなんてどうかな?」

麻衣「お、いいねぇ。行きまい!」

千里「やったぁー!やったぁー!ありがとう!麻衣ちゃん本当にありがとう!」

   

   千里、有頂天になってチャールダーシュのステップを踏みながら戻っていく。麻衣、くくっと笑う。


麻衣「変なせんちゃん。」


   千里、下駄箱で向山と顔面衝突。

   

向山「痛ってぇ!危ねぇじゃねぇーか!ちゃんと前見て歩けっ!」

千里「としやーん!(向山に抱きつく)」

向山「なんだよ気持ちわりぃなぁ…」

千里「ありがとう君のお陰だ!麻衣ちゃんに嫌われてなかったよ。僕、麻衣ちゃんをデートに誘うことに成功しました!」

向山「ふーん。


   微笑む


向山「良かったな。なら後はお前次第だ、応援してるぜ。」

   

   千里の肩を叩いて校門を出る。


向山「次は音楽だぜ。伴奏頼むな。」

   

    鼻唄混じりに出ていく。千里、笑って向山を見送る。そして小走りで入っていく。



○小口家・千里の部屋


   千里、ピアノを弾いている。


千里M「麻衣ちゃんとデート!麻衣ちゃんとデート!はぁ…」


   手を止めて落ち込む


千里M「でも告白か…僕にそんな勇気ないよ…」


   ***


   (フラッシュ)


向山「男だろうが!男ならビシッと決めたらどうなんだ?」


   ***


千里「男でも無理なもんは無理なんだよ!」


   部屋の隅に竪琴。千里、目をやる



○蓼科湖

   湖岸。

麻衣、座っている。厚めの長袖シャツをタンクトップの上に羽織り、もんぺ。


   駐車場では千里。半袖のパーカーにセーラーのキュロット。

自転車を降りて湖岸に向かってくる。


千里「麻衣ちゃんだ。」


   近付く。


千里「よしっ。」


   微笑んで携帯を取り出し電話を掛けながら歩く。


   麻衣の携帯がなる。


麻衣「ん、誰からだら?」


   出る。


   千里、麻衣の近くまで来て肩を叩く。


千里「麻衣ちゃん!」


   麻衣、びくりと振り向く。


麻衣「せんちゃん!」

千里「ごめん、遅くなっちゃった。」

麻衣「(腕時計を見る)ん、大丈夫だに。私もつい今さっき来たとこ。」

千里「良かった。今日はどうやってここまで来たの?まさか徒歩とかじゃないよね?」

麻衣「徒歩じゃないに。自転車だに。」

千里「じ、自転車ぁ?」

麻衣「えぇ。ほーは言ったって私んちはすぐ湖東の内だだもん。ほーいうあんたは?」

千里「あぁ僕?君と同じ。」

麻衣「自転車ぁ?ほいだってあんた豊平ずらに!あんなとこから?」

千里「そうだよ。大した距離じゃないさ。それに僕は男だから大丈夫。」

麻衣「行き先は車山でいいのよね。」

千里「うん。」


   麻衣、バス停の時刻表を見る


麻衣「あらら。後、一時間待たんと来んわ。」

千里「そっかぁ…どうする?」

麻衣「暫くここにいるしかない

わね。」

千里「湖岸でもブラブラする?」

麻衣「ほれもほーね。」


   二人、湖岸をブラブラする。


麻衣「ところでせんちゃん?」

千里「んー?」

麻衣「修学旅行ん時、3部の北山にえらいなつかれてたな。」

千里「えぇ?」


   思い出したように。


千里「あぁ。あいつが勝手に僕に突っ掛かって来るんだ。新学期の始まる日に校門でぶつかったんだけど、その事を根に持ってるみたいでさ。」


   ため息。


千里「小学校と中学の頃はもっと可愛かったのにな。いつからあんな性格なの?」

麻衣「私も分からん。」

千里「これからマコと付き合いがあると思うと先が思いやられるな。何か取り扱い説明書でもないかなぁ…」

麻衣「残念ながらほー言ったもんはないだだよねぇ。ほの内に北山の取り扱いにもなれると思うで、初めは苦労すると思うけど頑張って。」

千里「うぇーんっ…」

   


○バスの中

   一時間後。満員。二人、最前列に座り麻衣は窓際。千里、落ち着かずにもじもじしたり掌に何かを書いては飲み込んでを繰り返す。


麻衣「せんちゃん大丈夫?具合悪い?降りようか…」

千里「(ハッと我に返って麻衣を見る)い、いや。大丈夫。僕は大丈夫。案ずるな、至って問題ない…」

   

   麻衣、クスクス


千里「え?」

麻衣「ごめんごめん。ほいだってせんちゃん、時々親父臭かったり女の子みたいだったりするだだもん。おっかしくて…」

千里「え、あ、いや…へへへ。」

   

   千里、落ち着く。



○車山高原・展望

   バス下車。大展望。

千里「レーリホー!」

麻衣「レーリホー…!」

千里「(拍手)麻衣ちゃんナイスサーイブグ!」

麻衣「コソノム。」

千里「んじゃさ…」

麻衣「分かってる。


   指差す


麻衣「あっこだら?」

千里「どうして分かったの?」

麻衣「車山高原ったらやっぱあっこに行かんくちゃな。だら?」

千里「うん。」

麻衣「行きまい!」

千里「はい!」

   

   二人、走っていく。



○同・リフトの上

   麻衣と千里。


麻衣「ふんとぉーは私、リフトって苦手なんよ。」

千里「え、そうなの?なんで?」

麻衣「酔いそうになるもの。」

千里「ごめん、知らなくて…大丈夫?」

麻衣「大丈夫大丈夫。ほれなんに私、あの場所が好きでな、よくつむとしおにも言われるんよ。酔ってまで上まで行くなぁーってな。」

千里「(笑う)そりゃきっと柏木君だって同じ事言うと思うよ。」

麻衣「柏木君?誰それ?」

千里「んー何て言うかなぁ…僕のぉ、京都にいた頃のぉ…」

麻衣「幼馴染み?」

千里「じゃなくてぇ…」

麻衣「ならご親戚?」

千里「じゃなくてぇ…」

麻衣「学年メイト?」

千里「まぁそんな感じかな。」

麻衣「お友達とか?」

千里「まぁそんな感じかな。」

麻衣「彼氏だったりして!」

千里「まぁそんな感じ…って


   咳き込む


千里「何言わすんだよ!んなわけないだろ!二人とも男の子なんだもん。」

麻衣「あ、ほっか。ごめん。」

千里「んもぉー、カラスまで笑ってんじゃんかぁ…」

   

   麻衣、クスクス。


千里「クシュンっ!


   体をちぢこめて震える


千里「ふーっ寒っ。バカだ僕。」

麻衣「寒いの?」


   千里をまじまじ


麻衣「ちょっと何考えてんよあんた!?ここは?