『石楠花物語小4時代』
○上川城南小学校・校門
小学四年生児童。金子一恵先生と小口千里
金子先生「それでは出発の説明をする前に、今日から新しく2部に加わる転校生を紹介致します。では小口君、自己紹介をして。」
千里「はいっ。京都の京都市から参りました小口千里です。みんな今日から仲良くしてください。宜しくお願いします。」
金子先生「はい。では小口君、君はね…」
千里に指示。千里、班に加わる。後藤秀明、小平海里、永田眞澄、北山マコ、鈴木真亜子、微笑む。
後藤「俺、後藤秀明。」
小平「僕は小平海里。仲良くしよ。」
千里「小口千里です、宜しく。」
弱々しく微笑む。
眞澄「あんた本当に男?男の癖に偉い控えめね。」
千里「君は?」
眞澄「永田眞澄ってんの。」
マコ「あんた京都から来たのよね?ならこっちの事とかまだ分からないでしょ?」
千里「うん。」
マコ「今日はこれから長野旅行だから私達が色々と教えてあげる。」
千里「ありがとう。」
マコ「私は北山マコ。」
真亜子「私は、名前似てるけど鈴木真亜子。宜しくね。」
千里「うん、こちらこそ。」
金子先生「あなたたち何よそ見してるの?今は先生の説明をちゃんとお聞きなさい。」
6人、向き直る。
○バス・車内
千里とマコ、並んで最前列。千里は窓際。
マコ「何か困った事があったらいつでも言ってよね。」
千里「うん。」
出発する。
○宮川長峰小学校
四年生児童、バスに乗る。柳平麻衣、最前列の窓際。田中磨子と並ぶ。湯田坂君惠先生
磨子「いよいよね。楽しみ!」
麻衣「えぇ!」
磨子「気持ち悪くなったりしたら言ってな。」
麻衣「ありがとう、磨子ちゃんもな。」
磨子「ありがとう、でも私は平気だと思う。あーあ…」
退屈。
磨子「つまんないの。去年までずっと一緒だったあのちびが今年はいないなんてさ。」
麻衣「チビって健司のこん?」
磨子「そいつしかおらんらに!あいつ結構苛め概があったのに。」
麻衣「こらっ!」
二人、笑う。
麻衣「でも原村だだもん、すぐに会える距離だに。いつでも遊べるし。」
磨子「そうね。ならコスモス湖岸で又会った時に思う存分弄ってやろっと!」
後ろには横井哲仁、吉岡末子
横井「ほーだほーだ!あんなやつどんどん苛めて泣かせてやれ!」
末子「そんな事言っててつ、あんた本当は健司が可愛くてしょーがないんでしょ?」
横井「うっせー!ただあいつが男の癖に弱虫で泣き虫だもんで鍛えてやるんだよ!」
(フラッシュ)
***
原村高原小学校。岩波健司、くしゃみ。
健司M「嫌だな…風邪かなぁ…?」
(戻って)
***
湯田坂先生、前に出てくる。
宮坂先生「それではみなさん、高速道路に入ります。カラオケ大会でも始めますか?」
クラスメート大盛り上がり
高速道路。上川城南小学校、宮川長峰小学校、カラオケが行われている。
千里、切なそう
千里M「この歌…」
涙が溢れる
千里M「昔よく美代ちゃんと歌った歌だ…大昔にもよく歌ったっけ…」
俯く。マコ、千里を見る。
マコ「千里くん?」
千里「…」
マコ「千里君大丈夫?どうしたの?」
手を挙げる
マコ「先生、金子先生!千里君が泣いてます。」
金子先生「千里君どうしたの?大丈夫?」
千里、泣いたまま
金子先生「千里君?」
眞澄「先生、私とマコちゃんと席を交代してもいいですか?」
マコ「私もそれがいいと思います。眞澄ちゃんは楽しくさせる達人ですから。」
金子先生「分かりました。」
マコ、眞澄と席を交代する。
眞澄「チャオッチャーオ!」
微笑む
眞澄「私、永田眞澄ってんの。君は千里君でしょ?だから今日から私、あんたのことチーちゃんって呼ぶわ。」
千里「チーちゃん?僕が…?」
眞澄「そうよ、いいでしょ?」
変顔をして笑わせようとしている
眞澄「この私のお財布、臭い嗅いでみてよ、お醤油臭いのよ。」
千里「本当だ。」
眞澄「でしょ?お弁当のちっちゃいお醤油を入れておいたら蓋閉め忘れて溢れちゃったのよ。」
千里「こんなところに何で入れるのさ!」
眞澄「良かった!チーちゃんやっと笑顔になった。」
マコ「おー、流石は眞澄。なかなかやりますなぁ。」
○姨捨サービスエリア
宮川長峰小学校と上川城南小学校のバスが止まる。
麻衣「あー、私トイレトイレ!凄いトイレ行きたかったぁ!」
照れて頭をかく
麻衣「いやぁ、水筒のお茶飲みすぎちゃって…」
水筒を降る
麻衣「お昼の分、へーないや。(笑う)」
磨子「私もトイレ行きたい。一緒に行こ。」
麻衣「えぇっ!」
二人、走っていく。
***
後藤、小平、眞澄、マコ、真亜子。バスを降りる。
眞澄「あれチーちゃんは?降りないの?」
真亜子「トイレは?」
千里「うーん、今は行きたくないからいいや。」
後藤「そうか?ここで済ましておいた方がいいぜ。」
小平「当分行かれなくなるかも。」
千里「え、そうなの?じゃあ僕も行く。」
6人、トイレへ向かう。
***
バス内。千里、にこにこ。打ち解けている。
○考古探検博物館
宮川長峰小学校、見学している。
宮坂先生「それではみなさん、自由時間なので12:30分まで好きに行動をしていてください。但し班ごとですよ。時間になったらここへ集合!いいですね?」
全員「はいっ。」
麻衣、磨子、横井、末子。
横井「よし、行こうぜ。何からやる?」
麻衣「ほーね、でもまず色々見てみんと何があるか分からなんに。」
磨子「それもそうだ。見に行きまいに!」
末子「あぁ。」
横井「でも俺、なんか腹へったな。」
麻衣「ほりゃ私もだに。」
笑いながら行動。
○動物園
上川城南小学校。お弁当。
眞澄「チーちゃん一緒に食べよ。」
千里「あんっ!」
時々もじもじ。
眞澄「どうしたの?」
千里「んんん、何でもない。」
笑ってお弁当箱を開く。
千里「うわぁ、美味しそう!」
眞澄「わぁ、チーちゃんのお弁当カレーだ!いいなぁ…」
千里「カレーじゃないんだよ、焼きそばカレー。下が焼きそばなんだ。ウインナーと目玉焼きを乗せるのがぼく風。その名も和製オリジナルグヤーシュさ。食べてみる?」
眞澄「やったぁ!なら眞澄の唐揚げも一つあげるね。」
後藤「お、俺ともなんか交換しようぜ!」
小平「僕も!僕も!」
千里、嬉しそうに食べている。
***
宮川長峰小学校。博物館を出てくる。
麻衣「はぁ、楽しかった。やっとお昼だって。」
磨子「ええ!麻衣ちゃん一緒に食べよう。」
麻衣「勿論だに!」
宮川長峰小学校。動物園でお弁当。
***
上川城南小学校
金子先生「それではみなさん、お昼は終わりましたね?では博物館の見学と自由時間となりますのでまずは整列して下さい。」
全員「はいっ。」
整列して、案内と共に先程の施設にぞろぞろと入っていく。
○考古探検博物館
金子先生「これより自由時間です。13:30になったら再びここに集合してください。それまではこの施設の中で自由に過ごしなさい。以上。」
眞澄「ねぇチーちゃん、遊ぼ。」
千里「うん、いいよ。どこ行く?」
眞澄「そーね、ならまずはぁ?」
眞澄、千里の手を引いて小走り。
小平「何か眞澄、千里がお気に入りみたいだな。」
後藤「そうだな。」
真亜子「でも良かったね。千里君元気になって。」
マコ「うん。だって今日転校してきて行きなり長野旅行って、私だってパニックしちゃうわよ。」
四人、歩いていく。
○動物園
麻衣、磨子、横井、末子。
麻衣「うーんっ!美味しい!」
磨子「健司がいれば良かったのになぁ。」
麻衣「ほーね。」
麻衣M「(食べながら)今頃あいつ、どーしとるかしら?」
○原村中央高原小学校・教室
給食時間。岩波健司、岩井木徹、西脇靖、清水千歳
岩井木「なぁタケ、お前何処の学校から来たんだっけ?」
健司「俺?茅野だよ。宮川長峰から。」
西脇「ふーん。ちんめいな。身長何??」
健司「130。」
西脇「可愛いなぁ!」
清水「で、なんでお前原村に来たんだ?」
健司「お父さんの会社がこっちにあるから。だから近くに家建てて引っ越してきたの。」
清水「ふーん、親父なんの会社?」
健司「お酒作る会社の社長さんだよ。」
清水「んじゃ、お前は社長の御曹司坊っちゃんって訳か。」
健司「坊っちゃんって、ほんな凄くはないよ。ただのお酒作りの会社だもん。古いお蔵なんだ。」
岩井木「ふーん…」
健司「ほう。」
牛乳を一気のみ
健司「ふーっ!飲んだ!俺、牛乳大嫌いだもんで先に飲んじゃう。」
西脇「タケみたいなのはチビだからな、牛乳飲まんと。」
清水「せめてあと10?くらいは伸ばさなくちゃな。」
健司「卒業までにはもっと大きくならなくちゃ。お!」
お皿を見る。
健司「やりぃ!残りはあと俺の大好きなもんだ!」
にこにこと鳥の照り焼きを箸で掴む。
健司「んー待ってました鶏ちゃん!頂きまぁーす!」
岩井木「後、ミネストローネのセルリーとセルリーのサラダが残ってるけど、お前セルリー好物なのか?」
健司、噎せ込む。
○善光寺
宮川長峰小学校、上川城南小学校。
金子先生「それではここで偶然、茅野市の宮川長峰小学校のお友達と一緒になりました。なので同時におかいだんめぐりに入ろうと思います。」
ざわざわ
麻衣「おかいだんめぐりって何?」
磨子「麻衣ちゃん知らない?」
千里「ねえねえ、おかいだんめぐりって何?」
眞澄「そっか、チーちゃんまだ今日長野県に来たばかりだもんね。」
マコ「暗い地下通路を歩くのよ。」
後藤「そ。それで壁の鍵に触れたら…」
小平「ちょべりぐ!」
真亜子「や、小平…それ少し古いかも。」
後藤「そんな言葉お前、よく知ってるな。」
千里、泣きそうになる。
千里「何?暗いの?」
眞澄「うん、真っ暗闇。」
千里、引き吊って固まる。
眞澄「チーちゃん暗いの苦手?」
千里「うん…僕、怖いよ…」
小平「怖がりだなぁ。」
後藤「お化け屋敷じゃないんだからさ。」
マコ、業とらしく
マコ「でもこんな噂があるのご存じ?昔々ここの地下に閉じ込められて出られなくなったご婦人がいましたとさ。そのご婦人の白骨化した死体の怨念が今でも…」
千里「わーんっ!」
真亜子「マコ、変な作り話しして転校生泣かせるなよ。」
千里、泣き出す。
***
遠目に見る。
麻衣「見てあの子、泣いちゃった。」
磨子「何かあったのかしら?」
横井「さぁな?」
末子「よくある事じゃない?ちんまいもんでいじめられたんよ、きっと。」
***
眞澄「大丈夫よ、チーちゃん。」
羽織っていたボレロを脱ぐ。
眞澄「私がチーちゃんの面倒を見る。ほら、チーちゃん」
ボレロの片端を千里に持たす。
眞澄「絶対離さないでね。私と行こ。」
千里「眞澄ちゃん…」
涙を拭う。
千里「ありがとう。」
千里がつかむ。眞澄、もう片方を持つ。
***
二つの学校の児童たち、入っていく。
***
人々ぶつかる。声のみ。
千里「眞澄ちゃん?眞澄ちゃん?何処?僕もう嫌だよぉ。」
眞澄「大丈夫よチーちゃん。眞澄はここにいる。」
千里「ふぇーん、うえっ、うえっ…」
マコ「泣いてんの誰?叉、千里くんでしょ?」
小平「泣き虫だなぁ。こんなとこ泣くようなとこじゃねぇーだろうに!」
後藤「眞澄といりゃ大丈夫だろ?しっかり歩けよ。」
千里「うん。」
真亜子「ちょっと痛いじゃないの!誰よ?人の足ふんずけないでよね!」
横井「暗いなぁ。みんないるかぁ?」
末子「イェッサァー!」
磨子「イェッサァー!」
麻衣「イェッサァー!」
カチャカチャ
麻衣「お?」
千里もカチャカチャ
千里「あ!」
麻衣、千里「見つけたぁ!」
暗闇の中。麻衣と千里の手、重なりあう。
○バス内
宮川長峰小学校。
麻衣「でな、私が触った瞬間に誰かの手と重なりあったんよ。」
磨子「ん、私は触らなかったで違うかも。」
横井「麻衣、お前触ったのか?いいなぁ、俺は触ってないぜ。」
末子「私も。」
ニヤリ
末子「ひょっとして将来結婚する男の子だったりしてね。」
麻衣「(照れる)やめてよ!」
うっとり
麻衣「でももし本当にそうだとしたら…一体どんな子なんかしら?」
磨子「んー?麻衣ちゃんやっぱり意識しちゃってるね。」
麻衣「アミンタ様みたいな男の子だったら素敵!いえ、ティオフェル様でもいいわ!」
末子「誰それ?」
麻衣「古代の王様よ…」
うっとり
麻衣「私って紀元前に生きた男に恋しちゃう…」
磨子M「麻衣ちゃん…私はついていけんわ。」
○バス内
上川城南小学校。
千里「…」
眞澄「チーちゃん?」
不思議そう。
眞澄「どうしたの?具合悪いの?」
千里、固く口を結んでいる。
眞澄「ん?」
覗き混む。
眞澄「ひょっとしておしっこしたいの?」
千里「トイレ…(もじもじ)」
眞澄「金子先生!金子先生!」
金子先生「どうしたの?」
眞澄「チーちゃんが!千里君が!」
金子先生「千里君がどうしたの?」
千里を見る。
金子先生「千里君どうしたの?」
千里「先生…」
金子先生「具合悪い?」
千里「先生、トイレに行きたい…」
金子先生「困ったわ…今、サービスエリア過ぎちゃったから、休憩予定のサービスエリアまであと30分くらいなの。我慢出来そう?」
千里、泣きそう。
千里「おしっこ!(もじもじ)」
金子先生「(千里の様子を見る)漏れちゃいそうなの?どうして早くに言わないの?トイレ行きたかったらいつでも行って良かったのに。
運転手に
金子先生「あの、すみません・・・」
○パーキングエリア
金子先生「急遽トイレ休憩のため、予定外の場所で停車します。梓川にはもう止まらないからトイレ行きたい人、ここで済ましなさい。」
千里、椅子で固まる
金子先生「千里君、早く行っておいで。」
千里「先生…」
小平「僕が連れて行きます。千里、行くぞ。」
小平、千里を支えて向かう。
○トイレ
千里、小平、用を足す。
千里「はぁ…」
恥ずかしそうに笑う。
千里「海里君ありがとう。」
小平「バカだなぁ、いつから我慢してたんだよ?」
千里「動物園からずっと…」
小平、吹き出して目を見開く。千里をまじまじ
小平「まじで?」
千里「うん…」
小平「よくここまで我慢出来たな。」
呆れ笑い
小平「でも千里、今度からは恥ずかしがらずにちゃんと言えよな。」
千里「そうする。」
小平「(手を洗う)戻るか?」
千里「うん。」
小平「あ!」
後藤「よっす!」
千里「ひでちゃんもいたんだ。」
安心して笑う。
○バス内
千里、後藤、小平、眞澄、真亜子、マコ。
千里「でさ?僕、何かカチャカチャするもの触ったんだ。」
後藤「へぇー良かったじゃん。」
千里「その時になんか誰かと手が重なりあったような気がするんだよ。」
後藤「ほりゃあれだけ人もいるし。まぁ当たり前だよな。」
真亜子「でもそんなの人がいっぱいいたって確率としてはとても少ないわ。だって私触ってないし。」
マコ「私も。」
眞澄「残念だけど眞澄でもないわ。」
小平「じゃあ…さっきマコが話してた昔の婦人とか?」
千里「だーかーらーやーめーてーよーぅ!」
後藤「それって女の子か?」
千里「分からないよ、暗かったんだもん。」
後藤「女の子ならいいな、ひょっとして将来お前のお嫁さんになる子だったりして。」
千里、赤くなってニヤニヤ。
千里「えへっ。」
後藤「お、こいつ赤くなった!赤くなった!」
小平「やっぱりどんなに小さくてもお前も男だなぁ。」
二人、千里の肩を抱いて冷やかす。眞澄、むっつり。
○小口家
千里の声「ただいま!」
小口珠子、食事の準備。小口頼子、遊び回っている。珠子、お腹が大きい。
頼子「あ、千兄ちゃんだ。」
珠子「あら、せんちゃんお帰りなさい。新しい学校のお友達とはどうだった?」
千里「うん、とっても楽しかったよ。みんなもすごく優しいんだ。」
頼子を抱き上げる
千里「頼ちゃんただいま。お土産買ってきたよ。」
頼子「わぁー!!千兄ちゃんのお土産だぁ!!」
お土産を持って喜ぶ。
珠子「さぁ、せんちゃんも早く手を洗ってらっしゃい。おやつにしましょう。」
千里「うんっ。」
手を洗いにいく。
***
千里、おやつ。
○小口家・台所
夕食時。珠子、頼子、千里、小口懐仁が夕食をしている。
小口「千里、学校はどうだったかい?」
千里「うん、とっても楽しかったよ。転校して行きなり旅行だったからビックリしたけど凄く良かった!」
小口「良かったね。なら休み明けからはもう大丈夫だ。」
千里「うん、それと…」
もじもじ。上目で珠子と小口を見つめている。
小口「どうした千里?言いたい事があるのなら言ってみなさい。」
千里「う、うん。それがですね
、あのぉ…」
恥ずかしそう。
小口「え、ピアノとチャールダーシュをかい?」
千里、戸惑いながら頷く。
小口「珠子、どう思う?」
珠子「私はいいと思うわ。せんちゃんが少しでもこの地で楽しく過ごせるように好きなことやらしてあげましょうよ。せんちゃんだってまだ子供なんですもの。」
小口「そうだね。よし!」
頭を撫でる
小口「折角京都でやってたんだもんな。こっちでも頑張るか?」
千里「うん!」
小口に抱き付く。
千里「ありがとう!本当にありがとう!」
珠子「まぁ!あんなにはしゃいじゃって。」
小口「じゃあ教室を探さなくてはね。」
珠子「そうですね。」
***
翌日。珠子、片端から電話を掛けている。
珠子「あ!」
目が止まる。
珠子「ここがいいわ!」
○名取芳江ピアノ教室
麻衣、レッスンをしている。名取芳江
名取先生「はい、では麻衣ちゃん。今日はこの辺にしましょうね。」
珠子の声「こんにちはぁ!」
名取先生「来たかな?」
麻衣、帰りの準備をしている。
名取先生「どーぞ。」
珠子と千里が入ってくる。
珠子「こんにちは。」
麻衣に
珠子「こんにちは。」
麻衣「こんにちは。せんちゃん!」
千里「麻衣ちゃん!ひょっとして君もここでピアノ習っているの?」
麻衣「えぇそうよ。」
名取先生「まぁ、お友達?彼ね、今までもずっとピアノをやっていたから引き続きやりたいって言ってここへ来たのよ。」
麻衣「へー…」
微笑む。
麻衣「では、私はお先に。」
名取先生「はーい。」
千里に微笑む。
麻衣「せんちゃん、叉宜しくね。ほいじゃあな。」
千里「う、うん。」
緊張。
名取先生「じゃあ千里君、ちょっと弾いてみるか?今はどこまで進んでいるの?」
千里「はい。」
ピアノの椅子に座って弾き出す。名取先生、珠子に
驚いたように微笑む。
名取先生「かなり進んでいますね。ピアノは何歳から?」
珠子「3歳からやらせております。」
名取先生「そうなのですか。」
千里のレッスンを見ている。
○小池まゆみチャールダーシュアカデミー
麻衣、チャールダーシュ個人練習をしている。小池まゆみが講師
小池先生「はい、宜しい。麻衣ちゃん、ここだけの話だけどね、あなたは今度の発表会ではヒロイン候補なのよ。」
麻衣「えぇ?」
小池先生「頑張ってね。叉、踊りましょう。」
麻衣「はいっ!ありがとうございました。」
チャールダーシュシューズを脱いで退室。
***
麻衣、教室を出ていく。千里と珠子。
小池先生、千里、珠子。千里、レッスンを開始する。
○小口家
数週間後。
千里の声「行ってきまーす。」
珠子「はーい!行ってらっしゃい。」
珠子「さてと、せんちゃんのお部屋のお掃除しなくっちゃ。」
○同・千里の部屋
きちんと整理整頓してある。鳥かごには二匹のおかめインコが入っている。レオタードが壁にかかっている。電子ピアノと琴が置いてある
珠子「ん?」
インコのかごを覗く
珠子「これ何かしら?」
かごの下に敷かれた紙を取る
珠子「…まぁ!」
0点の答案を握りしめる
珠子「千里っ…帰ってきたらただじゃおかないわよ…」
***
夕方。
千里の声「ただいまぁ!」
珠子、玄関。
千里「ひっ…ママ?」
珠子「千里…」
答案を突きつける
珠子「ちょっと奥間においでなさい。お話があります。」
千里「はい…(しゅん)」
○同・奥間
珠子、長々とお説教。千里、泣き出す。
珠子「どうしてあなたはママに何度怒られても懲りないの?反省しないの?」
千里「だって出来ないんだもん。」
珠子「出来ないんじゃあありません!あなたがやらないんでしょう?やらないからできないんです!」
○同・お風呂
千里、体を洗っている
千里M「そもそもいい隠し場所だと思ったのに何でバレちゃったんだ?今度はもっと違う場所を考えないとな…もうルルのかごの中はまずいし、何処に隠そう?」
髪を結い上げる
千里「結構髪伸びてるな…そろそろ切らなくちゃ。ん?」
壁にゲジゲジ虫
千里「何だこれ?」
掴むと潰れる
千里「ひっ…」
しーん
千里「ママぁーっ!(大泣き)」
○千里の部屋
千里、泣き寝入り。珠子、布団をかける。
珠子「おバカさん…」
頼子に
珠子「千兄ちゃん、虫さん潰しちゃったんだって。」
頼子「虫さん?」
珠子「それで大泣きして泣きつかれて寝ちゃったの。」
頼子「あーあ。」
ゴキブリを掴む
頼子「ママ、虫さんってこういうの?」
珠子「きゃー!頼ちゃんそんなの捨ててきなさい!それはゴキブリよ!」
頼子「ゴキブリ…?(口に入れようとする)」
珠子「食べちゃあダメ!」
○上川城南小学校
地区子供会。
***
終わる
千里「この地区の夏休みはいっぱい行事があるんだね。」
小平「僕、プールはやっぱり外せないな。これなくちゃ夏じゃないっしょ。」
後藤「俺はやっぱり…」
ドロドロ
後藤「桑原城の肝試し大会だよな。」
千里「ひぃぃぃぃ!僕どっちも嫌だぁ!」
***
休み時間。千里、トイレを出てくる。
眞澄「あ、ねぇちーちゃん。」
千里「眞澄ちゃん、何?」
眞澄「ちょっと…」
千里の手を引く
○同・体育倉庫
千里、マコ、真亜子、眞澄
千里「え、夏休み?」
マコ「そう。予定とかってもう決まってる?」
千里「うーんそうだな、日にちはまだはっきりじゃないけど数日間、京都の叔母さんのところへ行くって事と、学校でのチャボと鳩の世話だけはもう決まっているよ。みんなは?」
マコ「なら千里君、7月の終わりは?」
千里「7月の終わり?」
真亜子「そう。もし君さえ暇なら諏訪よいてこ行かない?」
千里「諏訪よいてこ?何それ?」
三人の女子たち顔を見合わせる。
眞澄「あのね、諏訪よいてこってのは夏祭り。その中に躍りがあるのよ。」
千里「ふーん?」
眞澄「その踊りを私達は運動会で踊るから。」
千里「え、ええっ?」
マコ「君は全然知らないでしょ?だから焦らないように少し練習がてら躍りにいかないかって誘ったの。」
千里「そうなんだ。」
少し考える。
千里「いいよ、楽しそうだし。」
マコ「よっしゃあ!決まりね。」
眞澄「忘れるなよ。」
真亜子「その日ちゃんと開けておきなさいよ!迎えに行くからね。」
千里「分かった。忘れないようにちゃんとカレンダーに書いておくよ。」
○並木通り
諏訪よいてこが行われている。
○小口家・千里の部屋
珠子と千里。千里、浴衣の着付けをしている。
珠子「流石はせんちゃん、あの頃と全く変わらずに器用ね。」
千里「へへ、そう?ありがとう。よしっ出来た。これでいいかな?」
珠子「凄くよく似合ってるわ!」
玄関チャイム
珠子「あ、お友達が来たわよ。」
千里「はーいっ!」
出ていく。
千里「じゃあママ、行ってきまぁーす!」
珠子の声「はーい、気を付けてねぇ。」
家を飛び出ていく。
○同・庭先
眞澄、マコ、真亜子は浴衣。
千里「おまたせ。」
三人「うわぁーっ!」
うっとり。
三人「千里くん浴衣なんだぁ!」
マコ「浴衣姿の千里君ってとっても可愛いね。」
眞澄「うんうん!眞澄、千里君の事好きになっちゃーう!」
千里、照れ笑い。
真亜子「いかしてるぜ少年よ。」
時間を見る。
真亜子「じゃあ行くか?」
全員「イェッサァー!」
歩く。
○並木通り
よいてこ会場。多くの人で賑わう
眞澄、マコ、真亜子、千里。躍り連にくっついている。
マコ「難しくないからすぐに覚えられるわ。」
真亜子「途中に3回ばかし休憩も入るしね。」
眞澄「見よう見まねで踊ればいいのよ。その内に見なくても踊れるようになるわ。」
真亜子「そうそう、学校でも地区の行事や子供会とかでも踊るから諏訪にいれば嫌でも覚えるわ。」
千里「そんなに踊るんだね。よしっと、僕も頑張って踊れるようになろっと。」
心配そうに頭をかく。
千里「でも僕ってバカだからなぁ、覚えられるかな?」
マコ「大丈夫、覚えられるわよ。」
眞澄「チーちゃんはバカじゃないもの!」
真亜子「始まるわよ。」
眞澄「チーちゃん、一緒に踊ろ。」
千里「うんっ!」
流し躍りが始まる。千里、神経質に踊っているが、その内に慣れてくる。
***
休憩時間、ジュースを飲んだり食べたりしている。
千里「あ、僕ちょっとトイレ行きたくなっちゃった。」
眞澄「トイレ?そこよ。」
指差す。
眞澄「一番近くのトイレは駅の西口だよ。」
千里「分かった、ありがとう。」
小走り。
千里M「浴衣と下駄って走りずらいな。よく昔はこんなもんで毎日過ごして走ったり歩いたりしてたもんだ!とてもじゃないけど考えられないよ。」
トイレへ入っていく。
***
後半。千里、にこにこと楽しく踊っている。
真亜子「千里くん上手い!上手い!」
マコ「凄い!覚え速いのね!」
眞澄笑う。
眞澄「チーちゃんも大分馴れたね。」
千里「いやぁ、それほどでもぉ。いやはや…」
頭をかく。
千里「とっても楽しいや!みんなありがとね。」
3人の女子「どういたしまして。」
顔を見合わせて微笑む。
3人の女子「良かった。」
千里、笑う。眞澄、真亜子、マコ、千里を弄りまくる。千里、ふざけ笑いで抵抗。
***
9時。躍り終了。
マコ「千里君、折角だし蛍見に行かない?」
千里「蛍?」
眞澄「そうそう!上川にとってもいい蛍の名所があるのよ。」
真亜子「穴場なんだから!ある意味私達の秘密基地ってとこね。」
千里「へー!」
わくわく
千里「連れてって!」
マコ「よっしゃあ!」
○上川
静かな山の手。民家はない。ちいさな筏橋の上にマコ、真亜子、眞澄、千里のみ。
千里「うわぁ…」
涙ぐむ
千里「綺麗…」
沢山の蛍
マコ「でしょ?ここにいると何だか凄く懐かしい気持ちになるの…」
真亜子「本当よね…」
眞澄「癒されるぅ…」
千里「うん…(涙を拭う)」
○小口家
千里「ただいま。」
珠子「あ、せんちゃんおかえり。お祭りはどうだった?楽しかった?」
千里「うん!」
千里「(真面目に)ママ…僕、明日からもっと頑張るよ。勉強もちゃんとするし遅刻もしないようにする。」
部屋に入る
珠子「せんちゃん?」
珠子M「何かあったのかしら?」
***
7時30分。
千里の声「行ってきまーす!」
珠子「はーい、行ってらっしゃい!」
懐仁「千里、最近えらく早いな。」
珠子「こんな感じでずっと6年生まで続いてくれればいいんだけど…」
***
千里、授業を真面目に受ける
***
千里「ただいま。」
部屋に入る
珠子「おかえりなさい、せんちゃん。おやつあるわよ。」
千里「先に宿題やっちゃうよ。」
珠子、微笑む
千里、宿題をしている
***
上川城南小学校。終業式。
○小口家
千里「ただいま。」
珠子「おかえり。せんちゃん、通知表は?」
千里「あるよ…」
躊躇いながら珠子に通知表を渡す
珠子「…え?まぁ!」
涙ぐむ
珠子「せんちゃん…」
抱き締める
珠子「こんな事があるなんて…ママは夢見ているみたいだわ!」
千里「え?」
珠子、千里に見せる
珠子「ご覧なさい!あなた今までにこんな事があった!?4と5ばっかりよ!せんちゃん、本当によく頑張ったわね!」
千里「ママ…(泣きそう)」
珠子「2学期もこの調子で頑張るのよ。」
千里「はい。」
珠子、千里を抱き締める
珠子「さぁせんちゃん、おやつにしましょう。せんちゃんには頑張ったからシュークリーム作ってあげるわね。」
千里「わーい!やったぁ!」
***
珠子、ルンルンシュークリーム作り。
千里、にこにこ。おかめのルルと遊ぶ。
○上川バイパス
河川の土手。千里、マコ、眞澄、真亜子。
千里「え、何?」
マコ「だから、来週は桑原城で肝試し大会があるって。」
千里「えぇっ!?」
泣きそう
千里「僕も出ないといけないの?」
真亜子「子供会のイベントだもの。それに千里君のお母さんだってPTAの役員さんでしょ?」
千里「そんなぁ…」
眞澄「大丈夫よチーちゃん。眞澄が一緒にいるんだもの、怖くなんてないわ。」
千里「うぅ…」
眞澄「来週の日曜日よ。忘れないで来てよね。じゃないと眞澄が迎えに行っちゃうよ。」
千里「分かったよ。」
○桑原城
肝試し大会当日。上川城南地区の小学生たち。千里、震えている。
後藤「よ、千里!」
千里、びくり。
後藤「そんなに驚くなよ、俺だよ。」
千里「ひで君か。」
小平「お前、怖いんだな?」
千里「君達は?」
小平「全然ーっ!」
後藤「こんなの子供騙しだよ。毎年やってるけど子供の俺らでさえ怖くないや。」
千里「本当に?」
小平「本当、本当!」
後藤「それよりもトイレの孝助さんや北条めいの噂、オフェリー・マリー=メイとフランツ・オリバーの怪談話の方がよっぽどぞぞっとするぜ?」
千里「何だよそれ?」
小平「ん、お前まだ知らねーか?ここらに伝わる有名な話だぜ?」
千里「知らないよそんなの。でも、京都でもそう言うのなら聞いた事あるな…近藤勇の亡霊だとか坂本龍馬の呪いだとか、池田や事件のどうたらこうたらとか…」
後藤「それこそ誰だ?」
千里「えー知らないの?幕末の英雄だよ?一人は新撰組なんだよ?かの有名な池田や事件だよ?」
小平「そんなの知らないやい!とにかく…」
にやり
小平「まずはじめは恒例の…」
○同・内部の一室
子供たち。
千里「何?何がこれから始まるの?」
小平「ビデオ鑑賞だよ。」
千里「ビデオ?」
小平「今年は…チャールダーシュ屋敷のネリー婦人だって。」
後藤「去年は牡丹灯籠だったな…」
千里「何、それ?」
小平「まぁ見てりゃあ分かるって。」
始まる。低学年と千里、泣き出す。千里、小平の膝に顔を埋める。
小平「低学年と一緒になって泣くなよ。お、あのお化け女優かなり美人だぜ!」
後藤「これ小学生が見ていいのかよ?」
***
終わる。
○同・庭
千里、しくしく。
小平「ったく、低学年じゃないんだからいつまでも泣くなよ。」
千里「だって、だって…」
動き出す。
後藤「始まったみたいだぜ。」
一人ずつ城に入る。
***
千里「僕?僕?一人で行くの?」
眞澄「仕方ないわね。じゃあ君は眞澄と一緒に行こう。」
千里「でも…」
眞澄「大丈夫。」
眞澄、千里の手を繋ぐ。
眞澄「ねぇ千里君のお母さん?」
珠子「何?」
眞澄「千里君が最後なんだけど、可哀想だから一緒に行ってあげてもいい?」
珠子、笑う。
珠子「全く、うちの子は怖がりさんで仕方ないわね。いいわよ、どーぞ。」
眞澄「ありがとうございます。チーちゃんほら!」
千里、踏ん張っている。
珠子「せんちゃん、お友達が折角一緒に行ってくれるって言っているんですから待たせちゃダメでしょ?」
眞澄「ほらっ!」
泣き出しそうな千里。眞澄、手をぐ引っ張って中へ入る。
○同・城内
真っ暗。眞澄と千里、蝋燭をもって歩いている。静かで何もない。
***
天守
眞澄「着いたっと!チーちゃん、後は戻るだけよ。」
千里「僕もう嫌だよぉ!真っ暗なところ通りたくないもん!」
眞澄「でも来た道を通らないと帰れないわ。それにこの肝試しはお化けとかは出ないのよ。だからチーちゃん、怖がらないでよ。」
千里「あんなビデオ見てからじゃ、それが余計に怖いんだよ!」
外を見て腰を抜かす。
千里「高い…怖いよ。」
眞澄「何やってるのよ?だらしないわね。チーちゃん男の子でしょ?」
手を引いて立たす。
眞澄「ほら、眞澄と一緒に下ろ。」
千里「ありがとう、眞澄ちゃん。」
眞澄、千里、戻る。真っ暗闇で静か。
声「おーいおーい、」
眞澄、千里、立ち止まる。
声「こっちにおいでよ、ここに集まれ。」
眞澄「何?」
耳を済ます。人々がガヤガヤする声、子供の声、男女の声が聞こえる。
千里「眞澄ちゃん?何、あれ?」
眞澄「チーちゃんにも聞こえるのね?」
千里、泣き出す。
千里「眞澄ちゃんも、あれが何か知らないの?」
眞澄「さぁ?今まであんな仕掛けなかったから・・・眞澄も初めて。」
千里「もう行こうよ。早くみんなのところへ帰ろうよ!!」
木の床を走り回る足音。
千里「イヤだぁ!!」
眞澄、警戒してキョロキョロ
千里「眞澄ちゃん?何?」
眞澄「誰だっ!?」
人の影がフワリ。
二人「きゃあーーーーっ!!!」
眞澄と千里、階段を降りて逃げる。
○同・庭
千里、眞澄が出てくる。
小平「お帰り。千里どーだった?」
後藤「楽しかっただろ?誰もいなくてさ、解放感抜群!」
小平「余計にスリル!」
千里「何言ってるんだ!思いっきり怖いのいたじゃないか!」
小平「思いっきり怖いの?」
後藤「毎年の事だけどさ、この地区のお化け大会には誰もいないぜ。」
小平「もちろん今年も。」
千里「え?」
眞澄「あんたたち、聞こえなかったの?おーい、とかわーい、とか言う人の声。」
小平、後藤、頷く
小平「お前らマジでいってんの?」
後藤「だとしたらそりゃ、本物だぞ。」
千里、眞澄、固まる
珠子「眞澄ちゃんありがとね。せんちゃn、帰っているじゃない!どうだった?楽しかったでしょ。」
千里「何が楽しいことあるか!!怖かったよぉ、ママぁ・・・!!」
珠子に抱きついて大泣き。
珠子「やめなさい、恥ずかしいでしょう?もう四年生なのですよ。」
眞澄、小平、後藤、笑う。
珠子「ほら、眞澄ちゃんたちにも笑われているでしょう?」
眞澄「でも叔母さん、眞澄も本当に恐かった。だって本物の」
千里「思い出させないでくれよ!!」
眞澄「ごめんごめん。」
千里を慰める。
眞澄「ね、チーちゃんもう泣かないでよ、ね。」
千里「ふ、ふ、フェッ…」
者繰り上げる。
○車内
珠子の車。後部座席の千里、運転する珠子。千里、者繰り上げる。
珠子「まだ泣いているの?一体何がそんなに恐かったの?」
千里「あのね、あのね、声がしたの。それでね・・・」
泣きながら話す。固まる。
千里「う…」
目を見開いたまま。足を閉じ、動けない。
千里M「ん?」
雨が降っている。警察官が敬礼をして立っている。
千里M「(ため息)何だ、良かった。警察官のおじちゃんか。」
直後。千里、硬直
千里M「いる…これ絶対にいる…。」
振り向きたいが振り向けない
千里「ねぇママ?タバコ吸った?」
珠子「何言ってるの、ママは煙草は吸いません。」
千里「じゃあ何で?何でこの車の中、こんなにタバコの臭いがするの?」
珠子、前を向いたまま
珠子「気持ちの悪い冗談はよしてせんちゃん、そんな匂い少しもしません。」
千里「そんな…」
千里、目を閉じる。
千里M「いる…あの警察官のおじちゃんだ…絶対ここに乗ってきてる…」
○小口家
千里、泣きながら入る。
珠子「ただいまぁ、あなた帰ってる?」
小口の声「帰ったかい?」
千里「パパぁ!」
○同・和室
小口、布団を用意している
小口「千里、帰ったか。お帰り。」
千里を見る。
小口「どうしたんだ?また泣かされたか?」
千里「違うんだ、違うんだ。パパぁ、僕恐かったよぉ。」
小口に抱きつく。
小口「よしよしよし、」
そこへ珠子
小口「珠子、お帰り。」
珠子「あなた、ただいま。」
小口「千里のやつ、どうしたんだ?」
珠子「肝試し大会がとっても恐かったらしいのよ。」
小口「アハハハ、そうかそうか。」
千里を抱き上げる。
小口「お前は弱虫だなぁ。もう四年生の男の子だろう。そんなに泣き虫じゃあいかんぞ。もっと強くなれ。な。」
珠子「そうね、もっと強い男の子にならなくっちゃ。それじゃあ女の子も守ってあげられないわね。」
千里「だって、だって凄く恐かったんだもーん!!」
泣き続ける。
小口「よしよしよしよし、そうかそうか。」
千里を抱いて慰める
小口「しょうがないなぁ、じゃあ今日はパパとママと一緒に寝るかい?」
千里「いいの?」
小口、珠子、微笑む。
珠子「今夜だけですよ。」
千里、泣きながら嬉しそうに微笑む。
千里「うんっ!!」
珠子「頼子は?」
小口「さっきやっと眠ったよ。」
珠子「良かった。あの子はとってもいい子ね、泣かないし、寂しがらないし」
千里、拗ねる。
千里「それって僕の事貶してるの?」
珠子「違うわよ。ごめんごめん、せんちゃん。」
千里のお尻を強く叩く
珠子「ほらっ、早く寝るわよ。歯を磨いておトイレ行ってきなさい。」
千里「はい、」
退室。
***
千里、パジャマ姿。歯を磨く。口を濯いでトイレに入る。
***
トイレの中。少しの物音で過敏に反応。
***
寝室に入る。
珠子「終わった?せんちゃん、眠りましょうか?」
千里「うんっ。」
小口「千里、こっちへおいで。」
千里、珠子と小口の間に入る。隣には頼子が眠っている。
***
夜中。千里、目覚める
千里「トイレ・・・」
真っ暗。時計の秒針の音のみ。静まり返る。
千里「ううっ、」
珠子を揺する。
千里「ねぇ、ママ!ママってば!」
珠子「んー?せんちゃんどうしたの?」
千里「おしっこしたいよ、トイレに着いてきて。」
珠子「約束したでしょ。もう四年生で、お兄ちゃんにもなったんだから一人でトイレくらい行きなさいって。」
千里「だってぇ、」
おつくべ。泣きそうにもじもじ
千里「ママぁ!!」
珠子「仕方のない子。今夜だけは肝試しがあったから特別。」
千里「ありがとう。」
千里と珠子、出ていく。
○同・トイレ
千里、中に入る。ドアの隙間から顔を覗かせてもじもじ。
千里「ねぇ、僕が出るまでちゃんとここにいてよ?お部屋に戻らないでよ」
珠子「戻りません。ずっとここにいるから早く行きなさい。」
千里「絶対だよ!!」
珠子「もれちゃうわよ。」
千里「んー…」
ドアを明けて用を足し出す。珠子、笑う。
珠子「嫌ね。もう四年生なのに恥ずかしいわよ、せんちゃん。」
○上川バイパス
河川敷。千里、小平、後藤。千里、生きる屍。
小平「おい千里、いい加減元気出せよ。この間の肝試しが怖かったのはわかるけどさぁ・・・」
後藤「いつまでもくよくよしてたってしょうがねぇだろうに。」
小平「それじゃあお前、まるで生ける屍だぞ。」
千里「何それ?」
小平「お前の方がよっぽど死んだお化けみたいだってことだよ。(いじいじ)とにかく立て!!」
千里の手を取る
小平「無理にでもお前を元のお前に戻してやる。遊びに行くぞ!」
走る
○小口家
千里、しょんぼり。
千里「ただいま・・・。」
***
居間。源洲子(27)、源夕子(30)、源粗之助(89)、珠子
珠子「あら、せんちゃんおかえり。」
千里「京都のおじいちゃんに、洲おばさん、夕子おばさん・・・」
夕子「千里、久しぶり。大きくなったじゃないか!」
洲子「千里ちゃん、久しぶり。」
千里「どうしたの?」
夕子「どうしたのじゃないだろう!」
粗之助「今日からお盆じゃろう。」
千里「あ、そうか。」
夕子「で?新しい学校はどうなんだい?京都で色々あったみたいだからさ、わたしゃ心配してたんだよ。」
洲子「そうよ、千里ちゃん。おばちゃんも千里ちゃんの力になるからさ、何かあったら言うんだよ。」
千里「ありがとう・・・。勿論今の学校はとっても楽しいしこの町もとても好きだよ。でも・・・」
俯く
千里「やっぱり京都に帰りたい、京都が恋しいって時々思うんだ。雅な空気、音楽、話し方・・・」
夕子「(怒鳴る)千里っっ!!」
千里「ひぃっ!!何さおばさん、いきなり!!」
夕子「あんたは、どうしていつまでもそううじうじうじうじしてるんだい!わたしゃあんたのそういうところ、鍛え直してあげたいよ!」
千里「え、僕はただ・・・」
夕子「いいわけは結構、ちょっとおいで!」
夕子、千里の耳を引っ張って退室
珠子「ちょ、ちょっと・・・夕子・・・。」
追いかける
***
千里、夕子にお説教を食らう。千里、しゅん。
○上川城南小学校・教室
千里「って訳なんだ。僕本気で愚痴った訳じゃないのに、思いっきり夕子おばさんに絞られちゃってさ・・・。」
小平「そりゃお前、大変だな。怖いおばさんもって。」
千里「本当だよ、全く・・・これから先は怒られてばっかりいそうだな僕・・・かわいそうな千里。」
後藤「自分で言ってるなよ。」
小平「でもさ、後ちょっとで地区運動会じゃん。ぱぁーっと楽しもうぜ、運動会。」
千里「え、地区運動会?」
後藤「そうだよ?お前忘れてた?」
千里「そっかぁ!!(顔をしかめる)僕、運動会なんてだいっきらい!出ないよ!」
後藤「そうなのか、嫌いなのか。」
小平「でもお前も」
千里「やだよ。僕学校のやつだけで憂鬱なのに…地区のにも出ろなんて、拷問だ!!」
小平「おいおい、大袈裟だろ。」
後藤「でも、それがよくないんだな。」
千里「えーなんで?」
小平「上川城南付近の子供会はみんなでなくちゃいけないんだっけさ。」
千里、がっくし。そこに眞澄。
眞澄「ドンマイ、チーちゃん。」
千里「眞澄ちゃん、」
眞澄「最後によいてこ踊るんだから。よいてこは完璧でしょ?ね?」
千里「う、うん。まあね。」
後藤「へー、どこで覚えたんだ?」
マコ、真亜子もくる。
真亜子「私たちよ。」
マコ「この夏、千里君が責めてお諏訪っ子としてよいてこくらいは踊れるようになるように、私たちが諏訪よいてこ、誘ってみっちり練習させてあげたのよ。」
小平「へー、なかなかやるじゃん。」
後藤「っつーより千里、お前って前から思ってたけどさ、」
千里「ん、何?」
後藤「顔も体型も女の子っぽいし。」
小平「お前男友達といるより、女といた方が性にあってるんじゃないか?」
後藤「本当はお前、女の子だったりしてな…」
小平「ちさとちゃんか?」
二人、笑う。千里、真っ赤。下を向く。
千里「うるさぁーいっ!!僕は男だ!!」
○上川運動広場
地区運動会。多くの人々。小口、珠子、頼子、千里。千里は浮かない顔。
千里「やっぱり僕もやらなくちゃダメ?」
小口「折角なんだ、やって来なさい。お前も少しは体鍛えて強くならなくちゃダメだ。」
千里「だって僕、バレエやってるじゃん。」
小口「それでは運動のうちに入らん。私が言っているのはだなぁー」
珠子「もういいじゃないのパパ」
頼子「千兄ちゃん頑張ってね。」
千里「頼ちゃん、うんっ!!お兄ちゃん頑張ってくるね。」
ビニールの襷をかけるとルンルンと走っていく。
***
開会。セレモニー演奏が始まる。千里、うっとり
千里「いいな、来年は僕もやりたいな。音楽セレモニーの演奏・・・」
そこへ後藤、小平、眞澄、真亜子、マコ。
後藤「いぇーいボーイ、乗ってるかい?」
強く肩を叩く。千里、ビクリ。転びそうになる。
千里「わぁっ!!あぁ、後藤君にみんな!」
眞澄「チーちゃん、今日は頑張ろうね。」
マコ「君、マラソン走れるかぁ?」
真亜子「明日くたばるなよ。」
千里「マラソンか」
恨めしそう
千里「嫌だって言ってもどーせ強引にどれにも出させるんだろ。」
眞澄「ま、その通りだけど。」
千里「やっぱり…」
肩を落とす。
千里「僕、本当に走れるかなぁ?走れる自信ないよぉ。何処までぇ?」
後藤「ん、お前距離知らねぇーか?」
小平「折り返しもありで、ここから沖田のドライブインまでだぜ。」
千里「ふーん、沖田のドライブインか。」
笑う。直後、青ざめる
千里「お、お、お、お、沖田のドライブインまでだってぇ!?あんなところまで走るの!?嘘だろ・・・」
泡を吹いて倒れる。
眞澄「ち、チーちゃんっ?」
後藤「おい、おいっ!!」
小平「千里っ?千里?」
マコ「おーいっ、生きてるかぁ?」
真亜子「しっかりしろよぉ…」
千里「…っ」
***
放送がかかる。千里、肩を落とす
後藤「そう気を揉むなよ千里、大丈夫だって。」
小平「そうそう、こんなのお前のペースで走りゃいいんだでさ。なんなら走らなくてもいいんだぜ。」
眞澄「そうよチーちゃん、ファーイト!!」
マコ「こっそりドライブインでラーメン食べるのもありだったりして。」
真亜子「ずるも地区ならではの花よね。」
千里「みんな、」
微笑む
千里「よーしっ、僕頑張るぞぉ!!ラーメン食べるぞ!」
小平「千里、お前って」
後藤「本当単純なやつ」
6人、集合場所へと行く。
***
アナウンス「それでは準備はいいですか?位置について、よーいっ…」
バンっ!!一斉に走り出す。
○上川バイパス沿い
眞澄、千里。走る。
眞澄「チーちゃん大丈夫?」
千里「ありがとう。今のところまだ大丈夫だよ。」
眞澄「良かった。私もチーちゃんと一緒に行くわ。だから辛かったらいつでも言ってね。」
千里「ありがとう。君こそ辛かったらいつでも言えよ。チビだって僕も男なんだから!!」
眞澄「分かった、ありがとう。」
二人笑う。後ろから後藤、小平。
小平「何かえらいいい感じだな?」
後藤「ラブラブしちゃって。」
千里「そんなんじゃないよ。」
眞澄「ただ頼りないチーちゃんのお世話してただけ。」
千里「おいっ!!」
むくれる
千里「僕はそんなに便り無さそうに見えるか?よーしっ、見てろよぉ!!」
スピードで飛ばしていく。
眞澄「チーちゃん…」
後藤「速いな…」
小平「あいつ大丈夫か?」
○上川運動公園
全員到着。千里がへとへと戻って来る。
千里M「やっと…ゴール…」
大きな拍手。珠子、恥ずかしそう。頼子、笑って拍手。小口、微笑む。
○上川城南小学校・教室
金子先生。千里、マスク着用。怠そうに入室。
千里「おはようございます。」
金子先生「あ、小口君おはよう。」
千里、席につく
金子先生「君、どうかしたの?」
千里「何でもありません、大丈夫です。」
金子先生「そう?」
心配そう。
金子先生「まぁいいわ、それでは出席をとります。」
金子先生「後藤秀明くん、」
後藤「はいっ、」
金子先生「小平海里くん」
小平「はい、」
金子先生「永田眞澄さん、」
眞澄「はい、」
金子先生「北山マコさん、」
マコ「はいっ、」
金子先生「鈴木真亜子さん、」
真亜子「はいっ、」
金子先生「小口千里君、」
千里「…」
金子先生「小口千里、」
千里「…」
金子先生「聞こえていますか?小口千里君?」
千里、ハッとしてキョロキョロ
千里「は?はい、はいっ!?」
クラスメート、クスクス
***
1時間目。授業開始。
千里、心ここにあらず。
○同・体育館
3時間目。跳び箱。
金子先生「それでは次、後藤君っ。」
後藤「はいっ。」
跳び箱を飛ぶ。
金子先生「宜しいっ。では次、小口君っ。」
千里「…」
金子先生「小口千里君っ!!」
千里「はいっ!!」
笛の音。千里、走り出す。跳び箱の前で倒れる。
千里「…」
金子先生「小口君っ?小口千里君、どうしたの?ちょっとっ!!」
金子先生、駆けつける。千里を抱く。
金子先生「?」
額に触り、脈を図る。
金子先生「ちょっと千里君、熱があるじゃないの!!」
千里、朦朧と目を開ける。
金子先生「いつからなの?朝から?」
千里「登校前から頭は痛かったんです。」
金子先生「具合の悪いときは無理して登校なんてしなくていいのよ!!どうして学校に来たの?」
千里「大丈夫だと思ったんです。」
ぐったりと眠る。
金子先生「君は今日はこれでもう帰りなさい。」
千里を抱いて退場。
○小口家・千里の部屋
千里、苦しそうに横たわる。近くに珠子。
珠子「せんちゃん、どうして我慢なんかしたの?去年も言ったでしょ?具合が悪いのなら休みなさいって!」
千里「だって、ふぅぅぅっ…」
珠子「しょうがない子ね。昨日マラソンなで無理するからです。何か食べたいものある?」
千里「今は何もいらない…」
珠子「何か少しでも食べなくちゃ行けません。じゃあ雑炊か何か作ってくるわね。」
珠子、退室。千里、寂しそうに布団に潜る。
千里M「退屈だな…暇だな…頭痛いな」
近くにCDデッキ
千里「何か聞こうかな…ん!」
近くにCD。
千里「チョコミント!!」
赤くなってウキウキ。CDをセット。流れ出す。
千里M「上手いよな、この人たちって。その上」
にやにや
千里M「可愛いよなぁ…」
そこへ珠子
珠子「せんちゃん、お素麺煮てきたわよ。」
千里「あ、」
急いでCDを消す。珠子、お膳をつくって土鍋を置く。
珠子「はい。せんちゃんどーぞ。」
千里「ありがとう…」
珠子「何?」
ニッコリ
珠子「又、チョコミント聴いていたの?」
千里「う、うん…」
珠子「せんちゃんはチョコミントが好きねぇ。」
笑う。
珠子「あなたもやっぱり現代を生きる男の子なのね。食べれるだけお上がりなさい。」
千里「うん…」
怠そうに起き上がる。
千里「頂きます。…」
素麺を啜る。
千里「美味しい…」
珠子「ゆっくり食べなさい。」
笑って退室。
***
夕方。眞澄、呼び鈴を押す
珠子の声「はいっ。」
開ける。
珠子「あらっ、眞澄ちゃん。」
眞澄「千里君、今日早退しちゃったので連絡袋と、それから給食で出たソフト麺と牛乳プリンを届けに来ました。」
珠子「わざわざありがとう。ちょっと待ってね。」
***
袋を持って戻ってくる。
珠子「何もないけどこれ、良かったら食べてね。」
眞澄「わぁ、ありがとうございます!!」
にこにこ
眞澄「千里君に早く元気になるようにって伝えてください。それでは。」
頭を下げて出ていく。珠子、微笑んで戻る。
***
珠子の声「せんちゃん、せんちゃん、今ね、眞澄ちゃん連絡袋と一緒にソフト麺と牛乳プリンを持ってきてくれたわよ。」
千里の部屋へ入っていく。
○同・千里の部屋
千里、目を閉じている。
珠子「せんちゃん、プリン食べる?」
千里「今は何もいらない。頭痛いよぉ…」
泣き出しそう。珠子、封筒の中身を見ている。
珠子「っ!?」
プリントと千里をまじまじ。
珠子「せんちゃん?」
千里「何?」
珠子「ママ、今はせんちゃん具合が悪いから怒りませんけど?」
千里、薄っすらと目を開けてギクリ。珠子、テストの答案を千里に突きつける。
珠子「何をママが言おうとしてるか分かったわね。さぁ治ったらみっちりお説教ですよ。覚悟なさい。」
千里「ひぃーっ!!!」
咳き込む。
千里「ごほっ、ごほっ、ごほっ、」
珠子、背を擦る。
千里「ママ、」
飛び起きる
千里「僕、なんか気持ち悪い」
嘔吐。珠子、驚いて背を摩る
***
千里、落ち着く。
珠子「せんちゃん、急にビックリしたわ。大丈夫?」
千里「もう平気。ありがとうママ。」
珠子「なら良かったわ。でも大丈夫かしら?」
キョロキョロ
珠子「インフルエンザや食中毒じゃないわよね?一度お医者様に行きましょうか?」
千里「大丈夫だよママ。いつもの事だろ。」
ベッドに横になる。
珠子「ゆっくり休んでね。せんちゃん、さっきからずっと行ってないけどおトイレは?」
千里「今は行きたくないや。」
珠子「しっかり布団かけて汗かくことね。ストーブもつけていくから、何かあったら又呼びなさい。」
出ていく。
千里「ママっ?」
珠子「何?」
千里「あのさ?」
恥ずかしそうに手招き。千里、珠子に耳打ち。
千里「お願い。」
珠子「んまぁ!!」
微笑む。
珠子「でも、今は具合が悪いから。特別ですよ。ちょっと待ってね。」
部屋を出ていく。千里、心配そう。
千里M「でも、困っちゃった。どうしよう?もうすぐ音楽会の楽器選考会なのに・・・ピアノの競争率は激しいんだよ。僕、ピアノやりたいよ…」
布団に顔を埋める。
千里M「僕、ピアノが出来ないんなら音楽会なんて出ないから!!」
そこへ珠子。尿瓶を持っている。
珠子「はい、あったわよ。昔おじいちゃんが使っていたの。これでいいのね。」
千里、真っ赤
珠子「何、恥ずかしがっているのよ。」
千里「ありがとう・・・もういいよ、ママ。」
珠子、退室。千里、カーテンを閉める
○上川城南小学校・教室
千里、マスクをして登校。
小平「千里!」
後藤「千里!」
駆け寄る
小平「元気になったんだな。」
千里「うん、ありがとう」
後藤「お前、今朝から音楽部に入ったんだって?」
小平「朝練見学したんだってな。」
千里「え、どうして知ってるの?」
後藤「そりゃ人の噂くらい、」
マコ、眞澄を見る
後藤「あのおしゃべり女たちがいりゃ嫌な事でも耳に入ってくるさ。」
千里「そうなんだ・・・。(悔しそう)でもピアノに先着がいたんだ!」
マコ、眞澄
マコ「で、千里君は琴をやることになったんだけどさ、」
小平「琴?」
眞澄「チーちゃん、お琴も竪琴もとても上手いんだから!」
後藤「お琴に、竪琴!?」
千里、困って頭をかく
千里「でも結局。音楽会の演奏で改めて楽器を決めることになって、」
マコ「そこで千里君、ピアノを勝ち取ったのよ。」
眞澄「チーちゃんの演奏はまだ聞いていないけどね。」
小平「へーよかったじゃん。」
後藤「つーかお前、ピアノ弾けるんだ。」
千里「うん・・・まあね。」
***
2時間目。
金子先生「はいみんな、席について。これから音楽会の楽器選考会を始めたいと思います。今年の音楽会の曲目は、」
黒板に書く
金子先生「合奏はドイツ舞曲と合唱は甲斐の澤に決まりました。では」
楽器の候補者が手をあげる。どんどんと決まっていく。
金子先生「それでは次、ピアノを希望する人、」
眞澄と千里、他五人の女子が手をあげる。
金子先生「ではじゃんけんね。みんな前へ出てきて!!」
七人、黒板の前へ出る。
千里M「ピアノをやりたいよ。でもどうしよう、僕じゃんけんに弱いんだ…」
そっと手の皮をつねる。
千里M「パーか、よしっ。最初はグーかな?」
七人「グーとパーで別れましょ。」
千里M「そっちかぁ!!」
千里はパー。他はみんなグー
千里M「ん?」
全員「別れたよ!!」
金子先生「それでは、ピアノは小口君に決まりね。」
千里M「ぼ…僕?僕…僕、僕だ!!」
涙があふれる
千里「やったぁ!!」
金子先生「小口君、嬉しいのは分かるけどとりあえずは落ち着きなさい。」
千里「はい、ごめんなさい。」
席についてるんるん。
千里M「やったぁ、僕がじゃんけんに勝っちゃったなんて。なんか夢のようだ…嬉しいな!嬉しいな。」
○同・廊下
給食時間。千里、後藤、小平。給食当番で運んでいる。
後藤「でも千里、お前ってじゃんけん強いな。一抜けだぜ?」
千里「まぐれだよ。普段はじゃんけんって弱くて負けてばかりなんだ。でも、今日は何故か勝っちゃった。」
小平「ふーん。お前の“やりたぁーいっ!!”って思う強いプライドが勝ったんじゃね?」
千里「へへっ。」
鼻をクンクン
千里「今日の給食はなんだっけ?とてもいい臭い…」
小平「今日はナポリタンミートソースとメンチカツ、フルーツ酢の物だよ。」
千里「へぇー海里君、全部メニュー覚えてるんだね。」
小平「給食の事ならみんなチェック済みさ。」
千里、咳をする。
小平「お前まだ咳出るな。」
千里「うん。風邪なかなか治らないの…」
咳をしている
後藤「大丈夫か?」
千里「うん大丈夫。熱ももうないし、お腹もペコペコ。」
後藤「又ぶり返すなよ。」
千里「気を付けるよ。ありがとう。」
給食当番、教室に入っていく。
○小口家
千里「ただいま!!」
珠子「あら、せんちゃんお帰り。どうだった?音楽会の楽器選考会。」
千里「うんっ!!」
嬉しそう。
千里「僕、ピアノに決まったよ!」
珠子「まぁ!!」
千里を抱き締める。
珠子「せんちゃん良かったわね!おめでとう!!曲は何やるの?」
千里「これだよ。」
楽譜を見せる。
千里「ドイツ舞曲の中から四曲やるんだけどさ、」
肩を落とす
千里「これじゃあ少し簡単に書きすぎなんだ。僕のレッスンで習った楽譜で弾いてもいいかな?これじゃあ物足りなくてつまらないんだ。」
部屋に入る
珠子「せんちゃんおやつは?」
千里「鞄置いたら又来るよ。何?」
珠子「卵ドーナッツ作ったのよ。食べる?」
千里「わぁ、やったぁ!!」
急に行動が早くなる手荒い嗽をして台所に飛び込む。
千里「うわぁ、美味しさそう!!頂きまぁーす!!」
食べる。
千里「んー、おいし!」
千里、にこにこ
珠子のお腹を見る
千里「僕、叉お兄ちゃんになるんだね。」
珠子「そうよせんちゃん。あなたも又々お兄ちゃんになるの。」
そこに頼子。
頼子「千兄ちゃん。」
千里「頼ちゃん!!」
頼子を抱き上げる。
千里「頼ちゃんも大きくなったなぁ、お兄ちゃんもう重くて抱っこ出来なくなっちゃうよ。」
千里と頼子、じゃれ会う。珠子、笑う。
***
千里「じゃあ僕、ピアノの練習してくるね。」
退室。
ピアノの音。
珠子「あ、お兄ちゃんがピアノ弾いてるわ。お兄ちゃん上手ね。」
頼子「うん!!」
○上川城南小学校・教室
眞澄「今日はいよいよ音楽会ね。」
千里「うん。」
眞澄「チーちゃん、ピアノ頑張ってね。」
千里「眞澄ちゃんもオルガン、宜しくね。」
眞澄「任せといて!!」
千里「僕本番には弱いんだよなぁ・・・緊張しちゃったらどうしよう。」
眞澄「チーちゃんなら大丈夫よ。」
***
8時10分
眞澄「あ、チーちゃんもうこんな時間よ。今日は放送当番でしょ?行かなくちゃ!!」
千里「あ、そうか!!」
飛び出していく。
***
5分後。放送がかかる。
千里の声「皆さまおはようございます。あと五分で朝礼が始まります。今日も一日元気に過ごしましょう。」
○同・放送室
千里、一人。
千里「よしっと、」
電源を切って電気を消す。
千里「さぁーてと僕もトイレ行って、早く教室に戻らなくっちゃ。遅れたら又、金子先生に怒られちゃうよ。」
退室。小走り。
金子先生の声「こらっ小口君っ!!廊下は走らないっ!!」
千里の声「ごめんなさぁーいっ!!」
千里、走る
金子先生の声「小口君っ!何度言ったらわかるのっ?廊下は走っては行けません!!」
千里の声「はいっはぁーいっ!!ごめんなさぁーいっ!!」
***
チャイム。学校内がシーンと静まる。
○同・体育館
音楽会。クラス毎の演奏が始まる。
アナウンス「続きまして、音楽部の発表です。」
音楽部、整列している。千里、緊張。
千里M「あぁ緊張する、めちゃくちゃトイレ行きたくなってきた。」
全員、ステージに上がる。
演奏が始まる。小口、ビデオを構えている。珠子は写真を撮る。珠子、興奮状態。
珠子「あなた、せんちゃんは?せんちゃんは何処かしら?」
小口「あそこにいるだろう?ほら、ピアノを弾いている子だよ。」
珠子「まぁ、あの子!!」
嬉しそう。
珠子「良かったわ!音楽部でもピアノをやらせてもらえたのね。」
演奏が終わる。
拍手。
アナウンス「ありがとうございました。それではこれより、10分間の休憩に入ります。」
音楽部、ステージを降りる。
金子先生の声「それでは、休憩終わったらすぐに皆さんですので準備をしてください。」
千里「先生っ、先生っ!!」
金子先生「何、小口君?君も少し練習をしなさい。」
千里「その前にトイレ行かせてくださいっ!!」
金子先生「分かりました。なるべく早く戻ること。他にトイレ行きたい子いる?今の内に済ませておきなさいっ!!途中退場は許しませんよっ。」
千里「ありがとうございますっ!!」
小走りで退室。
金子先生「小口君っ!走らないっ。さっきも言ったでしょ。ゆっくりとお行きなさいっ!!」
千里「はーいっ。ごめんなさぁーいっ!!」
他数名、体育館を出る。
○同・男子トイレ
千里、小平、後藤が並んで用を足す。そこへ丸山修(10)
後藤「お、一部のハンサムボーイだ。」
千里「ハンサムボーイ?」
小平「あ、お前会うの初めてだっけ?こいつ、一部の丸山修くん。女の子からモテモテなんだぜ。」
千里「へー。」
丸山「宜しく。」
爽やかに笑う
丸山「君は、転校生の小口ちさとちゃんだろ?僕、丸山修。」
千里「小口千里です。」
少し不機嫌
千里「宜しく。」
丸山「君、ピアノ上手いね。仲良くしよう。」
握手を求める。
丸山「でも何で君、男子トイレにいるの?」
千里「いちゃ悪いかっ!!」
向きになって大声
千里「僕は男だ!!」
千里、用を足し始める。丸山、まじまじ
千里「あんまり見るなよ。」
丸山「本当だ、悪い悪い。とにかく宜しくね。」
出ていく。
後藤「あいつ幼稚園の頃から人気だよな。」
小平「そうそう。憎たらしいのに何故か憎めないキザなやつ。」
千里「二人はあの子と幼稚園の頃から一緒なの?」
小平「あぁそうだよ。」
千里。小平、後藤、トイレを出る。
小平「昔からあいつは自惚れやというか、なんと言うか…な。」
後藤「ハンサムさにゃ負けるぜ。」
千里「ふーん。丸山修君か…。」
微笑む。
チャイムが鳴る
後藤「やばっ、さぁ千里急げ!!」
千里「うんっ!!」
三人、走る。
○同・体育館
合唱。千里、礼儀正しく歌う。
合唱。千里、ピアノ。緊張して弾いている。
終わる。珠子と小口、微笑んで拍手。
○同・教室
給食時。児童たち。
千里「はぁ、良かった。無事に終わった。」
後藤「あぁ千里、お前もよく頑張ったな。」
小平「お前、あんなにピアノ上手かったんだ。ビックリしたよ。」
千里「いやぁ・・・」
眞澄「チーちゃん、」
まじまじ
眞澄「チーちゃん、あなた違う楽譜で弾いたね。」
千里「え、えぇっ?」
ドキリ。
千里「なんで?分かったの?」
眞澄「だってもらった楽譜よりもチーちゃん、難しく弾いてたもん。」
千里「あ…」
眞澄「何の楽譜で弾いたの?」
千里、もじもじ
千里「実はぁ…」
机から取り出す。
千里「これ…」
マコ、眞澄、真亜子、小平、後藤、目を丸くする。
千里「実は僕、この曲ピアノでレッスンしたんだ。だから音楽会の楽譜じゃ簡単すぎて物足りなかったからの。それで…」
5人「へぇーすげぇ…」
マコ「君、いつからピアノ習ってるの?」
千里「ピアノは3歳から。バレエは5歳からだよ。」
真亜子「わをっ、君バレエまでやってるんだ。すげっ。」
眞澄「眞澄、何だかチーちゃんに恋しちゃいそう。」
うっとり
眞澄「そんな格好いい男の子見たの、初めてだもん。」
千里「ありがとう。」
笑って食べる。
千里「もっと僕、みんなに責められちゃうかと思ったよ。」
かにクリームコロッケパンにかぶりつく。
千里「んー、かにクリームコロッケパンってとっても美味しい!!僕これ大好き!」
○同・保健室
千里、後藤、小平、マコ、真亜子、眞澄。掃除をしている。
眞澄「でも本当に眞澄、なんか尊敬しちゃう。」
真亜子「眞澄ちゃん、」
マコ「シーっ。無言清掃!!」
眞澄、口を押さえる。
千里「…。」
後藤「千里、お前はくそ真面目もいいとこだぜ?一言も喋らないだなんて…」
千里「だって無言清掃っ」
口を押さえる。
小平「大丈夫、大丈夫!!少しくらい喋っても手がちゃんと動いてりゃいいんだよ。」
千里「そ?」
掃き掃除をしている。
小平「しかしなぁ、参るぜ・・・。」
千里「何が?」
小平「だって楽しい楽しい音楽会の後は?五時間目、テストだぜ。」
千里、固まる。
千里「え?」
もじもじ
千里「あぁっ、なんか僕急におしっこしたくなっちゃった。」
後藤「はぁ?」
小平「そんなの掃除時間が終わってからにしろよ。」
千里「だって、集中出来ないじゃん!!」
泣きそうにもじもじ。
千里「ごめん、行っていい?」
後藤「仕方ないやつ…。」
小平「どうぞ。その代わりトイレも今は掃除中だぜ。」
後藤「一言声かけろよ。」
千里「うんっ。」
走っていく。
真亜子「あれ?千里君、何処行くの?」
千里「トイレっ!!」
マコ「トイレ?掃除中なのに?」
○同・男子トイレ
女子たちが掃除している。女子たち、千里に注目。千里、真っ赤になる。
千里「あの…、」
女子「2部の千里君?」
女子「トイレ使いたいの?」
女子「どうぞ。」
千里「ありがとう。」
便器前。女子たちを気にしてもじもじ。
千里「…。」
恥ずかしそうに個室に入る。
***
和便器。
千里M「はぁ…。みんなに知れたらからかわれるのかな。」
流して出る。
千里「みんなありがとう。でも…」
口に指を当てる
千里「絶対誰にも言うなよ、頼む。」
女子「分かってる」
女子「安心しな」
女子「当たり前じゃん。黙っててあげる。」
千里、出る。女子三人、声を潜めて盛り上がっている。
***
女子「転校してきた千里君って可愛いよね。」
女子「うんうん!!しかも間近でおトイレだなんて」
女子「ビックリぃー!」
ヒソヒソ騒ぐ。
***
チャイム
後藤「お、終わりだな。」
小平「片付けて帰るぞ千里。」
千里「うん。さっきは」
丁寧にお辞儀。
千里「おトイレタイム、どうもありがとうございました。」
後藤「なーに、いいってこんよ。でも掃除は?」
小平「女の子だったろ?女子の前で堂々とおしっこしたのか?」
千里、紅くなる。
千里「1部の翠ちゃんと彩音ちゃんとくみちゃんだった。でも、まさかっ!!流石にそれは出来ないから、」
もじもじ
千里「個室に入りました。でも、でも、」
慌てて
千里「絶対誰にも言うなよ!!お願いだから黙ってて!!」
後藤「あぁ。」
きょとんとする。
小平「勿論、そんなこと誰にも言わねぇよ?」
6人、固まって歩いていく。
○同・二階廊下
トイレ前。前景の6人。千里、立ち止まる。
後藤「ん?」
小平「どうした?」
千里「みんな先行っててっ。僕、又トイレっ!!」
後藤「ん、なら俺も。」
小平「俺もしてこっと。」
眞澄「なら私たちも。」
マコ「そうね。」
真亜子「じゃあ6人、又ここで待ち合わせ。」
6人、トイレへ入っていく。
○同・教室
五時間目。千里、もぞもぞ。金子先生、まだいない。
千里M「嫌だなぁ、又トイレ行きたくなっちゃったよ…どうしよう、テストなのに。我慢出来るかな・・・。」
隣に眞澄、後ろに小平。前に後藤。
眞澄「チーちゃんどうした?」
小声。
眞澄「大丈夫?」
千里「(もじもじ)トイレトイレ・・・」
小平「は、又トイレ?」
後藤「ついさっきしたばっかじゃん。」
千里「そうなんだけど…」
貧乏ゆすり
千里「何かさっきからやたらとトイレ近くてさ…」
マコ「だったら今の内に行ってきなさいよ。」
千里「先生が先に来ちゃったらまた怒られちゃうもん…」
真亜子「我慢出来るの?おもらししたって知らないよ?」
千里「終わるまで我慢するよ。」
***
テスト開始。
千里「…。」
真剣に解いている。
千里M「こんなもんでいいかな?とにかく一刻でも早く終わらせて・・・トイレ行きたい。」
千里M「トイレっ、トイレっ!!」
時計をチラチラ。集中できない。
千里M「んぬー、問題が難しくて分からないし集中できないし・・・(泣きそう)」
千里「あともう少しだ。早く終われ、終わらせてぇ、先生っ!!」
***
チャイム
千里M「チャイムだ!!」
金子先生「はい、終了。それでは一番後ろの子、答案を集めて持っておいでなさい。テストは採点をし、明日返します。以上。では小口くん、よろしく。」
千里、答案を集めて金子先生に渡す。
千里「は、はい・・・」
千里「起立、礼、着席。」
帰りの準備。千里、教室を飛び出る。
金子先生「小口君っ、ちょっと何処行くの?」
千里「先生っ、トイレ行かせてください!!もう我慢できないの!!」
出ていく。金子先生、鼻をならす。
○帰り道
千里、後藤、小平
千里「んもぉ、今日は僕どうしちゃったのかなぁ?もうもれちゃうとこだったよ。」
小平「でもよくテストに集中できたよな。」
千里「出来るわけないだろ!トイレのせいで最悪だよ。」
小平「そういう日もあるさ。俺だって時々あるもん。飲みすぎたときや、寒い日とか特に。」
後藤「授業中でも我慢できなくなる前に立てよ。」
千里「…。」
小平「とは言っても、お前シャイだもんなぁ。ま、」
肩を抱く。
小平「もらしても落ち込むなよ。しょーがないさ。」
千里、小平を恨めしそうに見つめる。
千里「それって慰めてるの?余計に落ち込ませたいの?」
小平「いや、ごめんごめん。」
3人、別れる。
○小口家
千里「ただいまぁ。」
珠子の声「おかえりなさい。せんちゃん、テストお見せなさい。」
千里「ないよ。」
珠子「なんですって?」
千里「今日はまださ。明日返してもらうんだよ。ってことで僕、遊びにいってくるから。」
すぐに出ていく。
珠子「(鼻を鳴らす)んもぉ。」
○上川バイパス
千里、一人。河川敷に寝転がる。
千里「はぁ・・・」
インコと遊ぶ
千里「おいで、ルル・・・。お前はいいよなぁ。怒られることがなくて。」
○上川城南小学校・廊下
千里、後藤、小平。
後藤「千里、どうだった?」
千里「多分又最悪さ。」
肩を落とす。
千里「一応は全部埋めては見たけどきっと間違いだらけだよ…集中できなかったんだもん。」
後藤「どんまい。元気出せよ、俺も全然だった。」
小平「俺も。」
千里「僕のママとパパは点数が悪いとすぐに怒るんだ。普段はとっても優しいのに怒るとすごく怖くての。」
小平「でも、今回は仕方ないんじゃね?トイレの事を話せばきっと・・・」
千里「そしたら今度は何で授業前にトイレを済ませないのとか、授業中でもトイレに行って、勉強には集中しろってことで。どっちにしろ怒られるんだもん。」
そこに丸山
千里「あ、」
丸山「何、テストの話?君たちはテストだったんだ?」
千里「そうなの。でも、全然出来なかったよ。」
丸山「そうか、何の?」
千里「算数だよ。」
丸山「算数かぁ。君、苦手?」
千里「苦手だから出来なかったんだよ。」
ため息。
千里「君は?」
丸山「僕だって得意ではないさ。なら、今度一緒に勉強でもやろうか。」
千里「本当に?ありがとう!」
丸山「うん。二人でやりゃあ苦手も克服・・・ってね。」
小粋に走っていく
千里「丸山くんって何か格好いい。」
後藤「あの爽やかハンサムさに女子たちは一ころって訳よ。何処がいいんだか。」
小平「本当、本当。」
千里「へぇ。」
***
チャイム。
千里「あ。」
小平「チャイムだ。」
後藤「ヤベっ、早く戻るぞ。」
三人、小走りに出ていく。
○同・教室
放課後。帰りの会。
金子先生「それでは最後に、昨日のテストを返します。名前を呼ばれたら前へ出てきなさい。小口千里君っ。」
千里「はいっ。」
取りに行く。
金子先生「小口君、君って子は!!どうしてこうも(呆れて鼻を鳴らす)毎回懲りずにこんな点数がとれるものですね!!」
千里「僕だって…とりたくてとってる訳じゃないもん。」
金子先生「お黙りなさいっ。もう戻ってよしい。次、後藤秀明君。」
後藤「はいっ、」
取りに行く。
○小口家
家の前。千里一人。
千里M「はぁ、どうしよう。ママ怒るだろうなぁ…」
しょんぼり。
***
玄関
千里「ただいま…」
珠子「あら、せんちゃんお帰り。」
奥から出てくる。
珠子「昨日の音楽会はとっても良かったわよ!!せんちゃんにはピアノがとっても似合う、凄くかっこよかったわ。流石はママの王子様!!」
千里「(笑う)昨日も誉めてくれたろ。」
珠子「それで?」
千里「それで?」
珠子「算数のテスト、今日返ってきたんじゃないの?」
千里「や…」
珠子の顔を見る。
千里「はい…」
珠子「お見せなさいっ。」
千里「はい…」
答案を見せる。
千里「ママ?」
珠子「せんちゃん?」
顔つきが変わる。
珠子「ちょっと奥間へおいでなさい。」
千里「はい…」
しゅんとして珠子についていく。
○同・奥間
珠子と千里
珠子「そこへお座りなさいっ。」
千里、座布団の上に座る。
珠子「昨日のテストもそうですが…」
答案用紙の束を見せつける。
珠子「これが何だか分かりますね?」
千里「は…そ…れは…」
固まってびくびく。
千里「あ…」
珠子「あなたの勉強机の引き出しの奥から出てきました。」
ガミガミ
珠子「どうしてママに隠しているのっ?昨日のテストの点数もそうですが?あなたはどうしてこうも毎回毎回懲りずにこんな同じ点数がとれるの?それは何故?あなたがきちんとお勉強や宿題をやらないからでしょうに!!」
お説教が続く。千里、しょんぼりと聞いている。
珠子「あなたが悪いのです。だからママにこうして怒られているのよ。」
***
30分後
珠子「ママからは以上です。パパが帰ってきたらパパからもみっちりお叱りを受けて戴きますからね。」
珠子、出ていく。頼子の泣き声。
珠子「あらあらあら、ごめんなちゃいねぇ。頼ちゃん起きちゃったわねぇ…」
走っていく。千里、しょんぼり立ち上がる。
***
奥間。夜。千里、一人座っている。
小口の声「ただいまぁ。」
千里、ビクビク。
珠