誰も、一言も発する者など居らず、円を描いて座っていた形を崩し、あまりここに居る者達に関わらなぬように散らばって居た
?W何かしら、知っているんです…この妖嵬を成した?W理?Wの欠片を…ね?W
誰しもが、少女の透け通る声とは裏腹に謎の多く深い言の葉に、記憶で響いて離れないで居る
そんなの分かるはずがない
寧ろ見つけるほうが無理であろう
「…さっき…あの子が言ってたこと…どう思う…?」
蛍が、空気に混じり消えそうな声に、壁にもたれかかった風吹が、眠そうに目をこすりあげた
「さぁな…でも…あいつも知っているわけだ…この妖嵬について。さっきあいつが言ってた言葉に、みんなが警戒心剥き出しになってる」
「なんで…?」
がばっと体を起き上がらせた風吹は、周りに目を配り、蛍の声よりもなおさら、小さくし、蚊が鳴くように声で蛍に言い聞かせた
「考えてみ?那須川っと言う武士…それ以外にも?W肉?Wを無くし亡くなっているんだ……そんなことをする妖嵬の?W理?Wを持った奴が、その自分以外にも、周りにいる」
「…そうなのかなぁ…」
蛍と風吹の様子を横目で見た絢野が、溜めた息を短く漏らす
「…これからどうする気だい?あたしの予想なら、誰も口を聞いてくれやぁしないよ…きっと…」
『…そうですね……儂の予想では…蠢き始めるはずです…』
格子から落ちるはずのない、天高く輝く光の束を見ているかのような、柔らかい表情をした少女が、?W妖嵬がね?Wと付け加えする
「えっ…?」
『…そうなると…口を聞いてくれないとしても、嫌でも?W理?Wを吐き出せばならないことになります…』
しゃん…
『!』
じわじわと遠く遠く広がっていく一つの酷く物悲しい鈴の音に、少女は多少目を見開く
「今のは…?」
「…っ…」
京香は、折っていた足を地につけ素早く立ち上がり、よく通る声を発する
その後ろで、胸元辺りの着物を掴み、苦しさに耐えるように見える、鈴香
「退魔師…今のって…まさか」
絢野の切れ長い目の形の中に浮かんだ、揺れる青紫の瞳孔が動かされ、その瞳に射抜かれた少女が、顎を引きこくりっと頷いた
「君は何を知ってるんだ…?」
『…そうですね……もし、強い恨みだけで動いているなら、恨みに任せて次々と殺していくでしょう…しかし、少数である?W一定の人?Wが亡くなって居ます…』
少女に視線が集まる
そんな中で、問われた高坂英一郎に、一瞬でも目を合わせることもなしない少女の周りに、身の毛がよだつ異様な空気を放っている
「一定の人…ですか?」
鈴香が、聞く
『…ええ…那須川さんや…それまで亡くなった8人に?W何か?Wの共通点があったから殺されたんだと思います』
「……そう言えば…ワシの商家の友人の知り合いも、それで亡くなっておる…他にも…居たと聞いたが…」
多聞が、緊張を落ち着かせる為か,顎から伸びる真っ白な髭を撫でるように、ゆるりと触る
「……あのぉ…岡っ引きの子から聞いたことだけど…亡くなって居るの…全員?W商家の人?Wか?W武士の人?Wだそうで…す…」
風吹の後ろで、これでもかっと言うくらい身を縮こまった蛍が、集まった痛い視線に合わせないようにする
「商家と武士どう言う関係があることか…」
自分自身も武士である斎政に、不安や恐怖が、ばらばらと重く降り注ぐ
多聞も、同じ立場に置かれていることで、焦りを隠せないで居る
嫌な思いが張り付いた
次は、自分が殺されるのではーーー?
っと言う言葉が
「で、どうする気?これから」
「そんなの分からぬ」
「わては、もうこの空間に耐えれんわ……」
この歪んだ空間に疲れ来てるのだろう
風吹の声は、重苦しく、その後に続けた高坂英一郎も、久代も肩を深く落として、膨大な溜息を散らした
『……』
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『…絢野さん…この宿はいつ頃から…あるんですか?』
未だに、はっきりした動きが出ない妖嵬に、全員が精神的に限界なのか。壁にもたれかかる者も居ればどこか虚ろな瞳をした者も居た
「そうだねぇ…大女将に聞いたところ35年前からあったらしいけど、あんたが、5年前に来た後に、一回取り壊されちまっているんだよ……そして、去年の秋に、またこの宿が出来たんだよ」
『…その4年の間何があったんですか?』
外れ掛けた光り輝く真っ青な玉簪や鼈甲色の簪などの数本の簪を引き抜いた絢野は、落ちた髪を手櫛で整える
「その時、運悪く母親が病気でねぇ…
看護してたよ…その時のことは、大女将に聞いたらどうだい?」
引き抜いた簪を、手馴れた手付きで結い上げている途中で、薄く開いた瞼の下にある青紫の瞳の先を少女は追う
不覚にも、見ていた久代が絢野の瞳の先を追った少女と目が合えば、びくりっと肩を揺らした
『……一度取り壊された後の4年間に何があったんですか…?』
「………確か…大きな屋敷が…」
久代は、長い間を開けておずおずと口を割った
『…なぜその屋敷が無くなったかご存知で…?』
「………知らぬ…」
その屋敷が取り壊された理由が
?W理?Wのカケラ
だと、少女は勘付いた
「…そうですか…」
久代に礼を一つし、その足で、壁にもたれる風吹と、手のひらの中にある御守りを握り締める蛍の元へ足を進めた
「…あっ…どうしたの?」
御守りを見つめて居た蛍が、視界の隅で捉えた少女の足に顔を上げた
『…少し…風吹さんに聞きたいことが…ね』
声を発した少女に、先ほどまで自分が身につけていた羽織りを顔に被せて、隠していた顔をひょっこりと出した風吹は、重い体を起こす
「…何のよう?」
『……那須川さんが亡くなったあの時…額を押さえて居ましたが、何があったんです…?』
思いがけのない問いに、少しばかり目をぱちくりする風吹が、髪をぼりぼりとかき乱して、口を開ける
「……まぁ?Wいくつも?Wの魂が居たんだよ。しかも、負の感情が強い奴ね」
『…今…その気配は…?』
顔を左右にゆったりと振った
そのことに、少女は瞳孔を右へそろりと反らし、瞼を下ろす
長い沈黙が破られた刹那に
少女の中で、ばらばらの糸が一つに結び繋がった
『……まさか…』
「何か、分かったのか!?」
横で耳を凝らして居た多聞が、風吹と少女の間に、身を乗り出して割り込んだ
『……ええ…』
「教えてくれっ!もう、この状況耐えれのじゃっ!」
眉間にシワを寄せ、眼球に真っ赤な血管を浮き出して、ぐらぐらと少女の肩を揺らす
そんなことにも、少女は、微動も動かさぬ表情で口を開く
『…言わない方が、そなた達の身の為ですが…』
「いや、それを知らないと、わし等も自分自身の身を守ることが出来ないだろう?だから……」
先刻の多聞の大きな声に、少女の元へと集まって来た全員の中の高坂英一郎が、どこか重い口調で言葉を紡いだ
『…居るんです…この中にーーーー』
少女の唇が模った
?W妖嵬が…ね?Wっと
「…ふ…ふざけるなっ!」
「英一郎様!!落ち着いて下さい!」
少女の紡がれた言の葉に、高坂英一郎は想像範囲を超えていたようで、落ち着いた雰囲気を壊し、荒だった声を撒き散らした
斎政は、その高坂英一郎の振り上げられた拳を必死に、食い止める
「わて等は、どうなるんだい!?」
久代も、理性も降り落ちそうであって瞳の光も弱まってる
「あ…あ…」
「いや…そんなのいや…」
鈴香と京香は、もう、全身を震わせながら、涙をぼろぼろと零して理性も思考回路は、一つのカケラも取り残されてなかった
「…妖嵬が人に化けてるの…!?」
震えが、足の先から頭の先まで駆け足で、ぐるぐると蛍の体を駆け上って行くのが、他人の目から見ても分かった
『…いいえ…化けては居ません。寧ろ、妖嵬は?W同じ念い?Wを持った人間にいくつも…乗り移っているんです』
激しい負の感情を抱き
生身の人間に乗り移ってまで
肉を食い荒らす
その?W理?Wはーーーーー?
「だから、あの数珠が鳴らなかったんだねぇ…」
目を細めて、自分自身の顎を軽く持った絢野が、声を沈めて言い放つ
「まさか…僕が見たいくつもの魂って……それなのか…」
『…それに、乗り移られた本人は……それを知っているでしょう…ですが、蠢き出す妖嵬を押し殺している……言えば……』
淡々と焦りの色も何も見せない少女が、少しばかり、眉間にしわを寄せて瞳の光を強く宿した
それに、絢野が続く
「妖嵬は、乗り移ったけど、思う以上に体の自由が効かない…ってことだねぇ」
「……だから…拙者等が居てもなかなか動かなかった訳か…」
斎政が、深く吸い込んだ息を吐き出し眉を八の字に、下げる
「妖嵬を斬ったら、その乗り移られた者は、助かるのですか…?」
ひとしきり、涙を流した京香が、しゃくりあげて居る鈴香を支えたまま、少女に問った
『…さて…どうでしょうか…』
曖昧な返答をする少女に、高坂英一郎は、顔を伏せ、唇を噛んだ
されど
少女は、既に分かって居た
乗り移った妖嵬と、一体化して
手遅れだと