静寂に飲み込まれる夜、宿の玄関からは宿に止まっていた客人が賑わいの声が、溢れている
その様子を少女は二階から眺めていた
がやがやっと騒ぐ客人の壁の中に、蛍と風吹の姿もある
その客人達が、目を集めている先には瞳に鋭い光を宿らせる武士と、少し太り気味の武士が見える
「ここの宿で、私達にしたら雲の上のお方の京香(きょうか)様と鈴香(すずか)様に会えるなんて奇遇だわ!」
「お美しい方なんでしょうね!」
そんな声も客人の間から飛ぶ
京香様と鈴香様という二人は姿はないが
『…京香様と鈴香様…か…』
将軍に直接仕え、一万石以上の「知行」と言われる所領(土地)をもつ武士を?W大名?Wと言われる
そのような大名の中でも、多くの所領を持っていることで有名な?W高坂英一郎?Wの娘が、京香様と鈴香様らしい
なんでも
大名屋敷に将軍が訪ねた時に使う専用の門?W御成門?Wと呼ばれる非常に華美な装飾を施した門が、設けられる
その高坂英一郎の大名屋敷の御成門を見た将軍は、一番胸を撃たれたとか
そのような、風の噂をふわりと聞いた
「また、来て下さり誠に、ありがとうございます。」
絢野の声の先に引きつられた先には
天女が舞い降り立ったように、二人の回りには神々しい輝きに満ちているような光を放っていた
その艶麗さに、声を上げる者はいない
「いいえ…ここに来たらこの宿にするって決めているのよ…ね?鈴香?」
「はい。姉上様」
その声に客人は声を出すのかを忘れたように静まり返り、誰もが心を奪われている
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「退魔師、まだ居たのかい?」
京香様と鈴香様を部屋へ案内し終わった絢野が、未だに玄関の方を眺める形で居る少女に声を掛けた
『…少し…聞きたいことが…ね…』
「なんだい?」
『…京香様と鈴香様の回りに居た…あの武士は…?』
「あの武士達は、高坂英一郎様が一番信用している大名さ。そして、ここに居るのは京香様と鈴香様の護衛のためだよ。護衛っと言ったら必ずあの二人を選ぶんだよ…」
『…随分と…詳しい…』
「まぁ、長いこと来てくれてるから、仲良くなったんだよ」
『…成る程…そうですか…ありがとうございます…』
軽く頭を下げ、絢野の横を通り過ぎこの場を去る少女に絢野は、今にも消えそうな声を発した
「……あんた…笑わなくなったねぇ」
突如のことに、少女は歩みの音は静かにに止まる
「五年程前までは、ちゃんと笑って居たじゃないか…何かあったのかい?」
少女は、ふと短く瞼を閉じる
瞼を押し上げたその先に覗かせる瞳は一瞬、今にも、少女自身が壊れてしまいそうな深い哀しみに浸ったていた
『………五年の月日も流れば…変わることもありますよ…』
「……でも」
『…大丈夫ですよ…たいしたことは…ありませんから』
少女は、絢野の言葉を遮って言い切る言の葉は強い
そのことに、無理するんじゃあないよ…と力ない言の葉を散らせた絢野は階段を踏みしめ下って行く
一人になれば、針を落としても響きそうな位、静けさが満ちた廊下には、格子から漏れる優しい光は、少女に降り注ぎ落とす
熟れた果実より尚、柔らかく、かぐわしい香りが漂ってきそうな愛らしい唇から
『……』
口を開けて、何かを発した
しかし、格子の隙間に入って来た風に持って行かれた少女の肉声は、虚空に溺れ消える
その瞳にいつもの光はない
少女は、冷たい空気を肺に息を溜めて吐き出し夜の色も深くなったのを、確認し、自分の部屋へと体を向けた