身を知る雨が、ぱたりっと少女の袴に見た蛍は、グッと奥歯に力を込めて浸透させた
「…どう…しーーー?」
『…っ…聞かないで下さい…お願い…します』
多聞の問いを少女は、素早く斬り離す
されど
少し詰まらせた後に続く言葉には、確実に、誰も寄せ付けぬ鋭さがあり、それと共に凍てつく空気を生み出した
誰だって、その右眼がそうなって居るか、聞きたかった
『…聞かないで…』
でも、少女の震える肉声と肩が、やめてくれっと訴えかけていて、誰の言葉でも遮っていた
ばちん
遠くの方で、伸縮性のあるモノが引きちぎれたような小さな音だったが、確実に、波として押し寄せる
『……結界が一つ破られました…』
目の前の者を一点も逸らさない、森に深い泉があるような緑の瞳と、濃紺の髪から見える、雪に血が落ちたような温かみのない瞳
それに添える無感情な言の葉
「…?!」
京香が恐怖に顔を歪めた
少女は、そんな表情に眼にも止めずにいつもと変わりない涼しい顔付きで、声を発した
『…少し整理をしましょう……鈴香さんや取り憑いて居るタマシイ達は、?W海乙女?Wで、大金を稼げると言う理由で…不老不死の肉……海乙女の肉を、商売として扱われた…そのため、商家の人が殺された。と言うところですか…ね』
「那須川さんや、武士はなんで…?」
蛍は、平然を纏っているつもりであろうと思われるが、そこに醸し出される雰囲気は、普段と変わらない蛍とは対象的に、恐怖の影があることは、手に取るようにわかる
『………?W海乙女を殺す?W役割だったのではないか。と思います....』
カッと高坂が目を見開かせる
それと共に、飛び散らせる消えそうもない怒りの火の粉
「なにを根拠に!!那須川がそんなことはやらぬっ!」
「高坂様…落ち着いて下さい!」
そんな火の粉に少女は、気も止めずに細く乳白色の手を顎にやり、声の高さを低くく落として口を開いた
『…高坂さんが疑うのも無理はありません。信頼が厚かったようですから……しかし…』
「明らかにならないことが、あるのかい?」
蚊の鳴くように質問をする絢野の瞳を少女は見つめたまま顎を引いた
『……ええ…2つ…』
『1つ目、この宿は35年前からあり、儂が、5年前に行った後に取り壊されているんです…その後に、建てられたのは?W大きな屋敷?W…ですが、それも取り潰された。屋敷が取り潰された理由です』
『2つ目、なぜ、いくつもの海乙女のタマシイが鈴香さんに取り憑く必要があったのか…』
二つ目のことに、わずかだったが蛍が反応の色を見せる
「それは、同じ念いを抱いているからってあなたが……」
『…確かにそうです…しかし…鈴香さんの体には、鈴香さん本人のタマシイがあります…』
「…なるほどねぇ…」
少女の傍らで手を組んだ絢野が、何かに気付いたらしく、微かに、真紅の紅が引かれた口に笑みが出ていた
今にも問いが飛びそうな空気には、なにもないように、絢野は、ちらりっと青紫の瞳玉を少女に向け、口を開ける
「…良く考えてみな。鈴香さんに取り憑いてまで自分達を殺して行った?W商家の人?Wと?W武士?Wに対して負の感情を祓うよりも……
?Wタマシイが死体に入り込み妖嵬を成して、負の感情を祓う?W
その方が、楽じゃあないか…そうすれば、好きな時に蠢き、負の感情を祓うことが出来るだろう?だから、なぜ、取り憑く必要があったのかっと言うことだよ」
そういうことかい?聞けば、少女は、どこか寂しそうな瞳を泳がした。
『…同じ念いにも、2つあるんだと思います…?W殺された怨みや憎しみ?Wそれと……なにか…』
ばちん
はち切れた音を響いた方向、その襖に一斉に、視線を集める。その瞬間に、背中に冷や汗が滲む
『……さて、時間がなくなって来ましたね。
高坂さん
?W本当?Wのこと教えててくれませかね?』
「…っ…!」
『…単刀直入に、言いますと、大きな屋敷が取り潰しされた理由を知っているのではないか?っと思うんです…』
「どうしてだ?」
多聞が問う声が聞こえた少女は、間髪開けずに答えた
『あくまでも儂の予想ですが…今、儂達が居る、?Wこの屋敷?Wが4年間あった屋敷で、その所有者が高坂さんではないかっと…』
少女の瞳が高坂へとそろりと向けられる。そのことに、高坂は長い沈黙が流れる空間を吹っ切れたように、張り上げた大声で、切り裂いた
「……ああ!そうだ!君の言っていることは、合ってる!しかし、そこには何もない!!」
くつり
誰かの口角が上がったのは気のせいか
『……儂は、取り潰しされた理由を聞いてるだけで
?Wそこに何かある?W
とは一言も言ってませんよ…?』
高坂は、カッと目を見開く
隠して居た尻尾を出した高坂に、逃がさんと言わんばかりに、絢野が続く
「口が滑ってちまったら、最後まで…ねぇ…?」
「鈴香…」
京香は、ぽつりと静かに名を読んだ
その横顔には、はらはらと目から流れる水が、頬を濡らしていた
ばちん
と
遠くのほうで
悲哀とともに
響き渡って居た