ガラスの破片を振り撒いたような、星空が格子の外から広がっているが、その部屋からは、がたがたとした震える嗄れた声が虚しく響く
「…ど…うし…よう…」
その言葉と同時に、全身を震わせ泣いている女の人は手の平を握り締め、長い黒髪でわからない顔から落とす涙と
力を込めた指の間から赤々した液が床で混ざり合う
「…いや…だよ…」
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『……』
暗闇が、ぼんやり晴れた視界には、目の前に墨が付いた筆と硯(すずり)が真横になって居るのが映る
ばさばさーーーーー
文机(ふづくえ)もたれ掛かっていた体をゆっくり起こすと、文(ふみ)が少女の上へとずり落ちた
『…また…あの夢…』
少女は、ずり落ちた文を拾う気配を表さず虫の音の如く小さい声を漏らした
まだ、思考が少ししか働いていない頭の中で、目の前で起こったような、はっきりした夢を繰り返す
あの女の人は…一体誰だろう…
そう、思考を張り巡らせてみる
もし、7歳以降に会った人であれば、薄っすらでも覚えているであろう
しかし、残念ながら7歳より前であれば、例え会って居たとしても、7歳より前の記憶がない少女にとっては、赤の他人同然
でも
あの夢が記憶の欠片だとしたら……?
あれは
ーーーーーダレ?
考えても、無駄と分かっていても思考がぐるぐると早々に回っている
必死に考えても、思い出すことも出来ないのも
辛い、苦しいーーーーー
『…っ…』
負の念いを脳に刻まれた瞬間
包帯が巻かれている右眼に声に出来ない痛みが、右眼から徐々に脳全体に駆け巡る
包帯の上から手を抑え付けて、痛みに耐えることに、息が上がっていく
『はぁ…はぁ....』
ぽとりと少女の手が包帯の上から弱々しく落ちた
広い窓の外であの夢と同じ空の向こうから吹く、夏に向けての若葉の香りの風が少女の体を包み込む
ーーーーなぜ
この
?W人間のようで、また違う?W
右眼が痛むーーーーー?
『…まさか…念いに応えるとは…』
そのまま、畳の上に横向き倒れる少女は重くなる瞼を閉じ
意識を深い闇に預けた
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目が覚めると、一番先に入ったのは、天井
じゃなかった
何かが覆いかぶさってるのは分かるだけで、瞳孔を動かす限りは、辺り一体白く、ところどころ黒い斑点のようなモノが朝日でよく見える
少女は、その斑点を目を凝らして見れば自分の文字だと分かった
ぐしゃり
少女は、自らの顔に被さっているものを手を掴むと乾いた音が耳元のせいで
とても大きく、眠気も消える
『……』
手で掴んだ紙を広げると、文机から落ちた文が無惨にも、字が読むことが難しい程、ぐしゃりとシワがいっている
風に飛ばされたのか
少女は、はぁっと短く息を吐き、再び文机に文を今度は飛ばされないように文の上に、重みのある昨夜使っていた湯呑みを置いた
ふと立ち上がると
先ほどまで、感じれなかった鉄のような重みが少女の右眼の眼球に襲う
『昨日のが…まだ残ってるのか…ね』
少女は、部屋にぼやきを一つ置いて、今の季節に似つかわしく描かれた襖を横に開け、静穏の長い廊下を渡る
宿なのだが、静寂の空気が張り詰めて人が居るようには思えない
少女が、静寂が張り詰めている空気の膜を廊下を歩く足音で取り去った
その足音とは違う足音が聞こえた刹那
「退魔師…?ああっ!!やっぱり、退魔師じゃないか!」
はんなりとしてそれでいて自信の溢れる口調が、少女の淡く残っていた記憶が鮮やかに色付いた記憶へ
『…あ…絢野(あやの)さん…』