少女の元へ歩くたびに、絢野の簪しゃらしゃらと涼やかな音を立てる
ピタリとその音は少女の前で消え、また陽気な姿で口を開けた
「いやぁ〜久しぶりだねぇ。最後に会ったのは、いつだったか…」
『…5年程前です…ね』
絢野は、少女の返って来た答えに、不意に額を手で軽く押さえ、おまけにやや俯き加減で眉を八の字させて、苦笑している
「もうそんな経つのかい。時と言うもんは、早もんだねぇ…つい最近に感じられるよ」
『…儂は…そう思わないですがね…』
そうかい?と口にしながら、絢野は少女の手の平を握り締め、何処かへ行くつもりなのか、階段を降りようと少女を引っ張る
『…あ…絢野さん…どこへ…?』
「ここで、立ち話するよりも、違う部屋でゆっくり話そうじゃあないか」
少女の顔は、相変わらず顔の筋肉を使うことを忘れたかのように、仏頂面で焦りの色は見れないが、絢野に問いかけた言の葉は、少し焦りの色が混じっている
しかし
絢野は、その仏頂面に負けじと、少女の記憶上では見たこともない白い歯を見せて、晴天の空に輝く太陽のような笑った
連れてこられたのは、とある趣のある一室
『……』
「ここなら良いだろう」
そして近くで帳簿を付けていた下男に茶を持って来ておくれと言い、絢野は話しを再開する
「そういえば、?Wあいつ?Wはどうしたんだい?」
そう言って、横に転がっていた置き物である黄色の塗色も一部剥がれ、首辺りに紅い布を巻いた?W狐?Wを手に取り左右に、からからと揺らして見せる
少女は、あぁ…と思い出したように口に出した
『…その人なら…絢野さんに最後に会ったあの日の…翌日に二人で旅をしていたのを辞めました…その日以来…もう会ってません…』
「……そうかい…いつもの如く世話の焼ける事をして貰うのなら、まっぴらごめんだけど、もう一度会ってみたいもんだよ」
その直後に、下男が白い湯気を立ち上る茶を少女と絢野の前に置かれて、一つ礼をした
二人になった部屋は、穏やかな静けさが充満している
『……静かです…ね』
「そりゃあそうさ」
少女は、思っていない絢野の返答に無言で首を横に倒し、傾げた
「退魔師、知らないのかい!?珍しいこともあるんだねぇ」
潜めていた声を打ち消し、絢野は身を乗り出し声を張り出す
少女を見詰める絢野の瞳は、発した言葉通りまじまじと、珍しい物を見るかのようだ
「隣町で随分、残酷な人殺しが出たんだよ。それでみんな怯えて、最低限、外を歩かないようになっちまった」
『…亡くなった方々は…どんな…?』
絢野は、襖の向こうの人影をジッと横目で確認し、指を何回か曲げて少女に手招きする
大きな声では言えないことらしい
招かれた少女は、絢野の紅色が引かれた唇が耳に近づけられ、吐息と共に言葉が散らせる
静けさが溜まっていたせいか
「亡くなった全員が……
?W肉?W
が無いんだよ」
なんの濁りもなく少女の耳に届いた
少女は、驚きの気持ちもあるが、興味本位の気持ちの方が勝ったらしく、決して笑みを顔に表さずに、変わりに瞳に含ませて
耳元から離した絢野に向ける
「この人殺しに関することは、今日初めてじゃあないんだよ。これまでに…8人が亡くなったねぇ…」
『……そうですか…』
少女は、溜め息に混じっているその言葉は小さい
「すっかり忘れるところだったよ…」
黒漆の地に黄金色で描かれている花。
そんな煌びやかな煙管を口に付けようとした絢野が、ふと何かを思い出し、眉間を掴んだ
「退魔師、あんたに客が来てるんだ」
『…儂に…?何かの間違えでは…?』
各地を転々と回る少女に客が来ることは、一度もない
むしろ、少女自体を知っている者は、妖嵬を祓う時に関わった者であろうと思うが、それも、終わればすぐに忘れるはずであろう
しかも、少女がここの宿に来ることを知っていることになる
それだけ親しい者なのかーーーー?
「間違えじゃあないさ。」
煙管から、再び独特の匂いの含んだ白い煙が立ち上った
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少女は、絢野に連れられて降りて来た階段の前を通り過ぎて、その突き当たりの長い廊下を歩いた
長い廊下の一番奥の部屋の前に、絢野と少女は止まり、絢野は上品な声で襖の向こうの者に語り掛けた
「お客様、失礼頂きます」
「…どうぞ」
襖の向こうからのせいだろう
男の声だとは、確認出来るが篭っていて、先程の言葉も聞き取りにくい
『!?』
襖が開かれた先に見えた人影に少女の冷静の顔は、崩れ去った