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肉吸い - 肉吸い 伍

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📍 肉吸い 伍
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光も届かぬような黒色の闇の中



「…ど…うし…よう…」



その暗闇に、立ち尽くしていた少女は何度も聞いたことがある女の声に、重い瞼を上げた


夜空に散るほんのりと光るおびただしい星々や、軋む床に縮こまり座る女



透け通る塩辛い水



共に



緋の雫が滴り混じる



少女は、目の前で繰り広げられるいつも通りの?Wあの夢?Wになぜか、ざらりとした違和感を覚える




違和感ーーーーーーー




少女の視界は、低く、よくわからないが、何処から覗いていることはわかる



いつも、こんな視点だった……?




『…っっ!!』



突き刺すような劈く甲高い耳鳴りの中粉雪の如く?Wあの夢?Wは散って闇に飲まれる姿を目の端で捉える



少女は、声にならない痛みの悲鳴を上げ、耳を塞ぎ込む



迫り来る身を切る恐怖



頭が硬い石に殴られたように痛い




?Wどうして…??W



?W人の形をした魔物めっ!!?W



『…違う…違う違う違うっっ!!』


確信はすることは出来ないが、何処か聞いた事のある男の声や女の声が脳裏を横切ったことに、少女は頭を左右に荒く振る





?Wあなたは逃げられないよ??W




嫌だ





思い出したくない





?W死ぬまで?W




ぽちゃんーー


耳鳴りが少女を包み込むなか、水面に石を投げ込んだかのような音が,じわじわと広がった




みぃーつけたぁーーーー



女の沈んだ声が響き、かろうじて理性が残る少女は水が滴り落ちる方へ目を向ける




『…い…っっ!!』



少女は、微動も身動きしない




いや、出来なかった




女は、地の底の如く光が一点たりともない闇の右眼が少女を射抜いており、瞳と同じ暗闇の涙が流れている


痛いほどの渇きった喉から息が漏れる




その刹那




暖かくもなく冷たくもない手のひらが少女の手首を素早く捉えて笑った





捕まえたぁぁーーーー




____________________________



『いやぁぁぁっ!!!』



裂ける悲鳴を上げる



夢と現の間を彷徨っているせいか、焦点が合わない瞳は、天井を移し、窓から遠くで波打つ海の塩の匂いが、部屋に漂わせている


少女は、この変哲もない部屋が心の臓を捻り潰されるような恐怖を感じた



久々に感じた凍える恐怖



『…あ…ぁ…』



まだぐらり揺れる理性を整える少女は、再び意識を闇に預けることはもうないだろう。と思い、布団から這い出て寝間着から、いつもの黒い袴に袖を通した




「起きてる?少し聞きたい事があるんだけど…」



襟元を正す少女の後ろから投げかけられた風吹の声にゆっくりと襖を開ける



「蛍を見なかった?姿がないんだよ」



眠いのだろうか


いつもなら、強い光を宿しているのだが、その光も弱くなり瞼も落ちてきている



『…見てません…ね』



少女は視線を風吹が向ける視線の糸に絡ませた



風吹は違和感を感じ取る



少女と会ってほぼ何も知らないのと等しいのだが、風吹は、表情に喜怒哀楽を表さない人形のような少女の瞳から



もう、這い上がることも出来ぬ穴に堕ちてしまったように沈んでいた




「…何かあったのか?」


しゅるりっと衣同士が擦れる音を足首まで、届く長い羽織りから落ちると同時に風吹は腰を軽く曲げ、少女の顔を覗き込む



『…いいえ…何も…』


いつも風が通り抜けるように、涼しい顔で風吹に向けた


視線を絡ませた糸を解き、廊下の遠くを見つめ、口を割る



『…儂も…探してみます…広いこの宿を一人で探すのは大変でしょう…』



______________________________



風吹と別れて、少女は辺りを長く薄暗い廊下をぐるぐると見渡していた先に広い窓から落ちる月明かりに照らされた鈴香と目が合った



「誰かお探しですか?」



『…ええ…少し……』



「どんな子なの?もしかしたら、見たかもしれないから…話してくれる?」



『……肩より少し上ぐらいの茶色の髪で…柿色の着物を着た17歳くらいの女性です…』


鈴香は、口角を弧に描き月明かりに負けぬ輝かしい笑みをこぼす



「蛍ちゃんのことね?」



少女に問うが、その顔には確信の色を濃く滲ませている



『…ほぉ…ご存知でしたか…』



「ええ。だって、さっきまで、わたくしのお部屋でお話していましたから」




ーーー??




思わず、風に流したまま先に進めようとするほどに、さらりと口走った鈴香の言葉は、少女の考えていた範囲をはるかに超えている



『…それはそれは…』



これが、青天の霹靂(へきれき)っと言うものか



「きっと今も、蛍ちゃんお部屋で姉上様とお話しているわ」



『…ありがとうございます…』



「わたくしは、これで」



再度、微笑みを少女に向けて鈴香は横切る



海の匂いーーーー?



鈴香が、横切ったと同時に少女の鼻に匂いが通り抜けた



確かにここの宿は海に近いため、着物に匂いが染み付くのも可笑しくはない



それとは、違う



鈴香からは長い年月経て、体の奥の芯から海の水が流れているように、海の水の匂いが濃い






あ゙ぁああぁああぁ!!!





冷気は切り裂かれ、劈く絶叫の断末魔が宿に包まれた