「皆様、どうしてここに!?」
京香は、立ち上がり広い部屋に響く声を発した
「知らんわっ!!ともかく、早くワシを戻せっ!」
裕福そうな旦那がなんとも、身勝手にもが程がある発言に、蛍が氷の如く冷たい瞳を向け青筋を立てる
「戻して欲しいのは、みんな同じ!!あなただけじゃないわっ!!それに、何よっ!!その言い方!!」
「…っ…ワシに何て言うことを!!」
しゃきんーーーー
蛍の散らせた言葉に、怒りの炎を轟々と燃え上がった裕福そうな旦那は、冷たい光を放つ刃を、鞘から引き抜いた
そこに居た、全員の身が凍りつく
その刹那
無機質に光る刀の一番先端が蛍の眉間の間に軽く当たっただけで、すーっと紅い血が、鼻を伝って落ちてきた
「ひっ…!?」
「何するんだい!?」
床に、溶け込むように崩れた蛍を、今まで見たこともない怒りに染まった絢野が支える
「うるさいわっっ!!!」
激しく燃え上がる怒りは鎮火することもない
むしろ、逆だ
絢野の行動に、頭の筋か何かが切れたようで、再びしゃきんっと音を放ち、高々と刀を振り上げられ
そして
二人に目掛けて振り落とされた
「やめてっっ!!!」
鈴香が、止めに入ろうとするが、京香と護衛の武士に引き戻され、変わりに悲鳴にも似た大声が発せられた
その中に
紛れ聞こえた微かな乾いた音が響いた
『どこの商家の人で偉いかは、知りませんが、人を斬ろうとするとは、今まで生きてきた人生何してたんですか…そなたは』
少女が、その初老の男と蛍と絢野との間に滑り込み、握り締めている柄の上から片手で、止める
勢いよく止めに入ったせいか、なびいた髪が、刀の刀身に触れた瞬間、細かい藍色の髪がはらり、はらりと散った
こんな刀に斬られたら一溜まりもない
「……っ…離せっっ!!お前等に指図される筋合いはないっ!!」
『騒々しいですね。第一…そなたが、斬ったところでこの状況を変えることが…できるんですか?』
いつもよりも、少女の声の高さが低く、口調もめんどくさいものを扱うように、突き放す
その背後で
「離せって言うけど、刀を振り回してるんだから普通に無理でしょ」
絢野に借りた手ぬぐいを、ぱっくりと開いた眉間の傷に当てて止血する蛍が小さくぼやきを一つ残す
その傍らの風吹はーーーー
「…あの刀良く斬れるなぁ…まさか…蛍の石頭から血が出たとは…感激…」
「どこに反応しているんだい…っ」
そんな感性が殺られている風吹は、ひとまず置いておこう
「離せっ!!!お前も殺してやる!死んでしまえっ!」
少女の片手で、捉えられた刀を抜こうと暴れるが、か細い腕の見た目にも、解らない力があるのか。全く微動たるしない
『まだ、騒々しく口を叩きますか』
鋭い光を宿す少女の眼が、一層強くなった瞬間、髪が乱れはじめ、前髪で隠されていた包帯の全体が露わになる
「どうなっているんだ…?」
高坂英一郎が無意識に落とす言葉
その言葉は、高坂英一郎に関わらず全員が思うこと
「うるさいっ!!この…化け物!!」
きぃーーーん!!
ごおぉぉぉ…と風が吹き荒らした
何か、硬いものが耐えれる限度を超えて弾き折れた劈く音が、そこに居た全員の鼓膜を刺す
「あ…う…あ…どう…して…だ」
初老の男が、ぐしゃりと座り込んだ
少女の手の中と初老の男の手の中によって、強く握り絞められていた柄がするりっと手の中から消え落ちて、鈍く重い音を響かせた
『……』
ぐさり
何かに突き刺さる音がどこからか響く
「きゃあっ!!」
突如のことで、状況が掴めない状態だったが、ある一点を凝視した京香の短い悲鳴によって視線が集った
そこは、本当は刀の柄から上ある必ず有っておくべき物?W刀身?Wが、なぜそこにあるかが分からない
刃の先が、畳にのめり込んでいる
そして、刀身全体が、無機質な光を打ち放つと共に、右眼を隠して居る包帯の上を、手を翳す少女の姿をくっきりと映し出していた
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格子から覗く光景は、街も空も、そして音や声もなく、この黄金に輝く屋敷だけが忘れられたように、暗闇に飲まれたとこに、ぽつりとあるだけだった
「皆様方の名をお聞かせ願いたい。そして、職業を」
集められた者全員が、ぐるりと円を描く形で座っている
厚い沈黙の壁が、長々と続いた為、大体の人が、酷く不安の雰囲気を醸し出していた
その壁を、潰したのは、見た目からは不安の色のない高坂英一郎だ
「ワシは、多聞(たもん)と言う。商家の者だ」
つい先程まで、刀を振り回し、声を張り上げていた初老の男が、厳しい表情で言い放つ
多聞の視線が隣に居る人に向けられる
「あっ…僕は、風吹と言います。霊媒師をしています」
軽く、頭を下げる
その前に、座っている絢野が、何かを分かったのか。頭を小さく上下に振り頷き、独り言を溢す
「…なるほど、霊媒師だから、感性が殺られているんだねぇ…可哀想に…」
『…絢野さん、霊媒師っと言うのは全く関係ないと思います』
少女が、小言をすっぱりと入れた
絢野が、なぜ?W霊媒師?Wすなわち、感性が殺られているっと意味を捉えたのかは、定かではない
「えっ…あ…あたしは、蛍っと言います。あたしも霊媒師になる為、風吹と旅をしています」
「わては、久代(ひさよ)と申します。この宿の大女将をしております」
髪を結い上げて、少し浅黒い肌をしている40歳後半か、50歳前半の女性が紅色の唇が開かれた
「あたしは、絢野と申します。ここの宿の若女将をしています」
『…儂は…名を持ち合わせていません……各地を転々と回り旅をしています…』
名を持ち合わせていないっと言うことに絢野以外の誰しもが、戸惑いそのことに問おうとする
しかし
絢野が、手に取るように分かるわざとした咳払い何回すれば、いやな予感を感じ取った全員は、直ぐ喉の上まで来ていた声を飲み込んだ
「拙者は、柊・斎政(ひいらぎ・ときまさ)と申す…京香様や鈴香様と高坂英一郎殿の護衛をしておる」
那須川っと言う武士の横に鋭い光を宿らせて居た、柊のことの記憶が少女の中で巡った
「そこの三人の方々は、言わなくても分かるよ。有名だからね」
そこの三人っとは、高坂英一郎とその娘でもある、京香と鈴香のことである
それを指した風吹は、くしゃりと笑う
「……あの…何でこうなったのでしょうか?」
京香の凛とした輝く瞳は、怯えの色に塗り潰されて、微かに震える小さな声で、問う
「…妖嵬が居るんだよ。那須川さんが亡くなっただろう?あれも妖嵬の仕業だよ」
「妖嵬っと言うのは…?」
京香の問われたことに、風吹は、答えるがその返事に、高坂英一郎の問いの声が飛んだ
風吹は、瞳孔が逸らされた先には、少女が映し出されている。どうやら、その答えは、この子に聞け。と言うことを指しているらしい
『……感情を抱く全てのモノ…人間や動物など。そういう者達が、激しい負の感情を抱くと、怪舛っと言うモノが寄生します…そうすると…この世の者では…なくなる…そのことです』
風吹の視線が感じ取った少女が言った
「では、拙者や…いや…この世に集う皆々がなってしまうことがあるのか」
「惨い…」
多聞が、しわのある顔を歪め、さらに眉間の深いシワをたくさん刻み込んだ顔を左右に振る
『…妖嵬になるかは…いつでも背中合わせです…一歩踏み間違えると…ね』
「……っ…そんな…」
鈴香は、唇をグッと噛み締め、目が少しばかり、泪(なみだ)で潤んでいる
そのことの悲しみを抱いているのか
「……この前のように、この鏡に映せば分かるんだよね??W理?Wと?W心?W」
『…それは…無理です…』
少女の首から垂れ下がる鏡を見つめながら、蛍が散らせた言の葉を切り裂いた少女の肉声
「えっ…?」
『…この鏡を映すのは、妖嵬の?W念い?Wです…それが、出来るのはその妖嵬の?Wカタチ?Wがあるからなんです』
「まさか…」
『…ええ…この妖嵬は……まだ姿一つも見せていません…ですから…念いを見つけることも、心も見ることも出来ません…言えば…この鏡はただの…役立たずっと言うことです…』
「じゃあ…どうしーーーー」
蛍が、少し身を乗り出し、次を聞こうとすることが、先に読み取ったように途中で話の糸を切った
『…蛍さん…この宿に泊まっている方は大勢居るのに…なぜ…ここに居る人達だけ集められたか分かりますか?』
蛍のやや俯き加減で、瞳で一つ一つ、ここに居る顔を確認する
何の共通点があるんだろう?
「……わからない…」
ふと、声がどこからか吹いた風にのって聞こえた
『…何かしら、知っているんです…この妖嵬を成した?W理?Wの欠片を…ね』