間もなく見えてくるであろうキプロス島に向かって
(向かったつもりで)わたしは深呼吸をした。潮風は
やや弱くなり、船はただ東へ進む。
「ロバート、インドのどこに鉱山があるんだい?」
「さあな、まずデリーの役所へ行かなきゃあな、
でも英国証人地区じゃないからな」
「-----役所に申し出たら警察が出て来ないか、
そうしたら俺のすることはないだろうよ」
わたしはまだ警察に世話になったことはない。インドの
警察は当然英国人だ。わたしの容姿も知っているだろう
”悪評高いトーマス・キッド!”
「警察は別のことで忙しいだろうよ」
ロバートは落ち着いていた。
そういえばアヘン戦争が終結(?)してからまだ二十数年
しかたっていない。わたしの祖国は-----わたしの祖国は
あの戦争でひどいめにあったのだ。もしかしたら両親も
アヘンで亡くなったのかもしれない。
わたしは体が硬直していた。インド人はパンを食べる代わりに
アヘンを吸っているのかもしれない、そんな気がしてきた。
太陽が二人を照らし、潮風はないに等しくなった。それでも
ほのかに空中を流れる海の蒼い香りが船にやってくる。
わたしはようやくアヘンの怖さから解放された。アヘンから
極東の金の山へわたしの空想は移っていった。
「中国の次はジパングだな」
これはわたしのひとり言。
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アンソニー注釈:
私たち二人は、実際多くの国に渡った経験があるが
どこの国に入る時も、トーマスは非常に警戒していた。
それは警察に捕まることはもちろん、その国が持つ
悪しき社会事情に自身が巻き込まれないことへの
警戒感だった。