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女神と戦士と旅人と - 奥義・破邪蹴撃

📚 目次

1 第一章 (2ページ)

▶ 勇士司令部
└ 光の国
1
2

2 第二章 (6ページ)

▶ 熱砂の戦士
└ 砂の星
3
4
▶ 鋼鉄の騎馬
└ 砂の星
5
6
📍 奥義・破邪蹴撃
└ 砂の星
7

3 第三章 (2ページ)

▶ 女神と悪魔
└ 惑星バッカス
9
▶ 宇宙の奇跡
└ 惑星バッカス
10

4 第四章 (7ページ)

11
12
13
▶ 海底都市
└ 海の歌
14
▶ 歌姫
└ 海の歌
15
▶ 偽善者
└ 海の歌
16

5 第五章 (9ページ)

▶ 火の鳥
└ 光と錬金術
18
▶ 魔女と怪物
└ 光と錬金術
19
▶ 錬金術
└ 光と錬金術
20
▶ ホムンクルス
└ 光と錬金術
21
▶ 捕らわれる光
└ 光と錬金術
22
▶ 賢者の石
└ 光と錬金術
23
▶ 紅蓮の鳥
└ 光と錬金術
24
▶ 守る者
└ 光と錬金術
25
▶ 本当の賢者の石
└ 光と錬金術
26

6 第六章 (8ページ)

▶ メタルビートル
└ CORPS OF THE APES
27
▶ マンカインドとエイプノイド
└ CORPS OF THE APES
28
▶ ノルン只今参上
└ CORPS OF THE APES
29
▶ 奔放な指揮官
└ CORPS OF THE APES
30
▶ グリーンプラネット攻防戦
└ CORPS OF THE AIPS
31
▶ 最強の敵
└ CORPS OF THE APES
32
▶ 最後の命令
└ CORPS OF THE APES
33
▶ ノア
└ CORPS OF THE APES
34

7 第七章 (5ページ)

▶ 尼と女郎と浪人
└ 江戸の妖し
35
▶ 産女と姑獲鳥
└ 江戸の妖し
37
▶ 鷹御前
└ 江戸の妖し
38
▶ 月下美人
└ 江戸の妖し
39

8 第八章 (5ページ)

▶ ミラージュシティ
└ ミラーキングダム
40
▶ 王家の血
└ ミラーキングダム
41
▶ 騎士道
└ ミラーキングダム
42
▶ 鏡の魔術師
└ ミラーキングダム
43
▶ 鏡の国の騎士
└ ミラーキングダム
44

9 最終章 (7ページ)

▶ コスモテクター
└ 始まりと終焉の地
45
▶ アカシックレコード
└ 始まりと終焉の地
46
▶ スクルド
└ 始まりと終焉の地
47
▶ 難攻不落の敵
└ 始まりと終焉の地
49
▶ 世界の運命
└ 始まりと終焉の地
50
▶ エピローグ
└ 始まりと終焉の地
51

奥義・破邪蹴撃

第二章 / 砂の星
7/51 ページ

 エーシュマによって頭を踏みつけられているアータルを援護すべく、アープは革袋に手を入れ、水に濡れた手を引き抜きながら氷の槍を作り出し、エーシュマの顔に向かって投げつける。エーシュマは、全く恐れることなく手で払いのけるが、その分だけ注意が上に行き、足元にかかる体重が軽くなった。その隙をついて、ワルフがエーシュマにタックルをかけてアータルを開放し、突風で彼女の体を一旦引き離す。

「アータル、大丈夫なの」

 アープが心配してアータルに声をかけるが、彼女は無言で頭を振りながら、額に流れる血を手で拭い、再び立ち上がって戦線に復帰する。

「女だからって手加減しない所、そこだけは気に入ったよ。きっちりとお返しはしてやるけどね。ワルフ、手を貸して」

「年長者を顎で使うんじゃねえ」

 ワルフは悪態をつきながらも、素早くアータルの後ろにつき、両手を彼女の背中に添える。風の力が嵐となって、アタールの体に流れ込み、炎と一体になってうねり出す。

「手加減する余裕なんかない。火傷は覚悟しな」

 身を持ってエーシュマの力を知っているアータルは、彼が自分達の能力を加減して勝てる相手ではない事を悟っているため、攻撃に躊躇がない。下手な手加減をすれば殺されるとまで、考えている。彼女は、風に乗ってうねり出した炎をさらに強め、竜巻状になった炎をエーシュマに向けて発射した。エーシュマの体は、熱風と火炎の中に呑みこまれ、体に身につけている呪いの鎧が高熱であぶられていく。あれだけ、高温の炎にさらされれば、金属生命体も我慢できずに、鉄器から剥がれ落ちるはずである。

 しかし、エーシュマ自身がそれを拒絶する。手にした斧を振りかざすと、渾身の力を込めて不利降ろし、衝撃で発生した真空の隙間に炎の竜巻が切り裂かれていく。かまいたちは、竜巻を切り裂いたで家では勢いが衰えず、アータルとワルフの二人に襲いかかっていく。技を破られた衝撃と、襲いかかる脅威の前に死を覚悟した二人の前に、アープが身を呈して飛びこむ。そして、空気中に散った水蒸気や、地面にしみ込んだ水分を手元に凝縮し、氷の息吹で瞬間的に凝固させ、分厚い氷の盾を完成させた。

 かまいたちは、氷の盾に衝突し、それを粉砕したが、同時に勢いが分散されたため、消滅させれてしまう。それでも、すべての衝撃波を消せたわけではなく、盾を突き抜けたかまいたちがアープの体を切り裂き、鮮血が飛び散る。

「アータル、しっかり」

「無茶しやがって」

 アープの元に駆け寄り、声をかける二人であったが、アープはしっかりとした口調で返事をし、自力で立ち上がった。

「大丈夫です。かすり傷ですから。でも、氷の盾があと少し薄かったら、三人とも切り刻まれていました」

 アープもまた、その体でエーシュマの底知れない強さを思い知ることになった。超人である三人を、エーシュマは完全に上回っているのだ。もう打つ手がない三人であったが、危険を感じても恐れは感じていない。自分達に与えられた力の意味を、今この戦いではっきりと見つけたかからだ。

「あたし達は、あいつと戦って、この国を含めた、様句の民の未来をつかむために、この力を得たんだ。その意味がやっとわかった」

「ええ。そのためにも、あの人を倒さなければならない。でも、命を奪ってはならない。それは、憎しみの種をばらまく事になってしまう」

「味方とか敵とかじゃない。この砂の地で生きたいと思う連中のために戦うんだ。こいつだってその一人だと俺は考えているぜ。だが、打つ手がねえな。あるとすれば、三人同時に力を解放するくらいか」

 それを聞いたアータルとアープは、にっと笑みをワルフに向ける。三人の意思が一つになった。前に並ぶ彼女た体は、肩をぴったり密着させる。そして、ワルフが二人の肩に手を添え、渾身の力を超えんて、二人に風の力を分け与える。

「あたしに与えられた力の意味は、勇気を持って前を向き、災いを焼き払う強さ。でも、あたしには、周りを見渡す心の広さがない」

「私に与えられた力の意味は、立ち止まり、砂漠の命である水を操りながら、いきり立つ二つの魂を鎮めめること。でも、私は道に迷い、踏み出す事が出来ない」

「俺の力の意味は、風を操り、まだ小さな魂を後押しし、支えること。だが、俺には年とともに諦めの心が生まれ、可能性を見つ得られない。そんな三人だから、精霊は俺達の戦士の力を与えた。一人一人でも駄目なんだ。俺達三人で一つの魂であり、一人の戦士。そこに、俺達が戦い存在する意味がある」

 三人は、戦士つぃて存在する意味を悟り、精霊の力をすべて引き出していく。前に突き出したアータルの手には、太陽の様に真っ赤な炎が凝縮された火の玉がが出来上がる。アープの周りには、水が空中を流れ、蛇のようにうねりながら次第に氷の剣に変わっていく。これまで発動した事のない力を、三人は見事に操り、エーシュマに対峙する。

「二人とも撃て」

 ワルフは叫び声とともに、風の地からすべてを二人の体に送り込んだ。それによって増幅された歩のと水の力を完全に手の内に入れたアータルとアープは、エーシュマに向かって火炎弾と氷の剣を放った。氷の剣は、エーシュマの足を貫通し、地面に突き刺さることで彼の体を固定する。そして、回避できないエーシュマにアータルの火炎弾が胸元に炸裂し、その炎が上半身を覆っていく。

 すべての力を出し切った三人は、エーシュマの姿を見つめながらその場に座り込んでしまった。さすがに疲労の色は隠せないが、相手から目を逸らす事だけはしていない。戦いはまだ終わっていないと感じているからだ。

「まだ、戦えるわけ……」

 アータルは目を見張った。氷の槍を折り、自由を取り戻したエーシュマは、胸に火炎弾をめり込ませながら、一歩ずつ三人に向かって近づいてくる。三人には、相手は人の形はしているが、もはや本当に人ではなく魔物としか思えない。動けない三人に一歩ずつ近づくエーシュマは、手にした斧を振りかざした。それを見たアータルは必死に立ち上がり、最後の力を振り絞って炎を全身に纏い、自分の両腕で相手の斧を受け止める構えを見せる。

「やめなさい、アータル」

「馬鹿野郎。お前の両腕と引き換えに助かるぐらいなら、俺の命をくれてやる。どけ」

 二人はアータルを止めようとするが、エーシュマは構わず斧を振り下ろした。アータルは次の瞬間に襲いかかる激痛、或は死を覚悟した。だが、彼女の身に起こったのは、どちらでもなかった。

 閃光が頭上を通過し、エーシュマの斧に命中し、その衝撃で彼は後ろに大きくよろめく。そして、アータルの後ろから、聞き覚えのある声が聞こえてくる。

「二人をかばうだけの馬力と覚悟があるなら、二人を連れて攻撃を回避するっていう発想ができないの」

「ノルン……」

 アータルの目には、右手に槍を、左手にシャインブラスターを構えているノルンの姿が映った。ノルンは三人の元に駆け寄り、

「みんな、自分達の力の意味がわかったみたいね」

と、語りかけた。アータルは、あれだけノルンに噛みついていたにも拘らず、彼女の姿を見た瞬間、目に涙を浮かべている。自分のしてきた事の間違い、死の恐怖、そして自分も彼女の様になれるかもしれないというかすかな憧れが、心の中で複雑に絡み合い、不思議な感情が涙をあふれさせているのだ。ノルンも、アータルの様子に気がつき、変わらず優しい口調で語りかける。

「戦士が簡単に泣いちゃいけないわね。でも、よく頑張ったね、アータル。あなたの勇気、しっかり見届けたから」

「うん……」

 意地を張って噛みつき、好戦的ないつものアータルからは想像もつかない素直な態度に、本当尾の気質を知っているアープとワルフは、笑いながら彼女を抱きよせた。その様子を見届けたノルンは、彼らに変わってエーシュマと対峙する。

「さあ、次は私が相手になる。シャインブラスター一発で伸びる程、柔なあなたじゃないでしょ。もっとも、それだけでも十分に化け物じみた状態になんだけど」 

 不意打ちに我を失っていたエーシュマだが、再び戦意を取り戻すと、斧を肩に担ぎながらノルンに接近していく。

「次に殺されたいのはお前か。なかなか面白い真似をするようだな」

「まあね。とりあえず、あなたのその物騒な武器を破壊する。話はそれからよ」

 ノルンは、ツインランサーを振り回し、遠心力を加えながら相手の出方を待つ。エーシュマも、ノルンに戦闘技術があるのを察したのか、間合いを必要以上に狭めず、慎重な姿勢を取る。そして、少しずつ接近する二人が互いの間合いに踏み込んだ瞬間、ノルンは飛び上がり、エーシュマは横から斧を繰り出し、二人の武器がぶつかり合った。

 守り刀の力を発し、金属生命体が付着した斧を粉砕したノルンだったが、武器がぶつかり合った衝撃を受け止めきれず、小柄な体は弾き飛ばされ、外壁に叩きつけられ、倒れた彼女の上に、土壁の破片が降り注ぐ。エーシュマもまた、ノルンのツインランサーの力が体に流れ込み、予想以上の剣圧に転倒する。

 アータル達は、少ない体力で何とか立ち上がり、ノルンの元に駆け寄った。ノルンはせき込みながら、口から少量の血を吐いている。宇宙人ではあっても、人間の様にタンパク質ベースの体に擬態しているため、ダメージの蓄積の仕方も負傷の仕方も、閾値が違うだけで生身の人間と同じ法則になるため、今の衝撃はノルンの体に相当な負荷がかかっていた。

「大丈夫、ノルン。血を吐いているけど……」

「心配しないで、アータル。一応、これでも頑丈にできているから。でも、この状態じゃ話にならないかもね。変身したいところだけど……」

「できないの」

「あと少しよ。だけど、ヤバい状況なのに、コスモブレスがもう使えない」

 ノルンは、手にしたツインランサーを持ち上げるが、先程の衝撃がまだそこに残っており、細かい振動をしている。やがて、ランサーは形状を保っていられなくなり、ブレスレットとなってノルンの左腕に戻っていった。

「御覧の通り、今は手の打ちようがない。本当にあと少しなんだけど」

「どうするの」

「死ぬことを前提で戦った事がないから。こういう時は、一旦退く。さあ、相手が起き上がったわ。みんな、走れるわね」

 ノルンの問いに無言でうなずいた三人は、エーシュマとの距離を置くべく、城の中庭に向かって逃走を始める。それを見たエーシュマは、粉砕された斧から金属生命体を呼び出し、己の鎧に生命体を加え、四人を追跡し始める。

 一旦狭い廊下に入った四人だが、エーシュマは廊下の壁や天井の土や石を崩しながら執拗に追いかける。ノルンは、その姿に恐怖は覚えないが、呆れると言うか、うんざりする気持ちになる。

「別に逃げるわけじゃないのに。しつこい奴って面倒ね」

 普段愚痴をこぼさない彼女がそのような台詞を言うのだから、どれだけ異常な事態かがわかると言うものだ。ノルンは、シィ安ブラスターを手にし、振り返らずに後ろへ発砲した。光弾は、エーシュマの足に命中したが、ノルンは当たればどこでもいいと思っているので、確認せずに走り続ける。

 必死で走り続けた三人は、中庭に出た。だが、エーシュマもすぐに追いつき中庭に到着し、ノルンに狙いを定めて襲いかかる。ノルンは銃を構えるが、憐社ができないため発射できない。エーシュマの拳がかの地に迫るが、アータル達がノルンを助けるために必死にエーシュマにしがみついていくが、ほとんどの力を使い果たした彼らでは、もはやエーシュマを押さえつけることはできず、一人ずつなぎ倒されていく。邪魔を追い払ったエーシュマはノルンに蹴りを放つ。彼女は、いつもの流れるような構えで、エーシュマの攻撃を受け流そうとするが、軌道を少しだけ変えるのが精一杯で、打撃をまともに食らってしまう。彼女の小さな体は、叩きつけられ、地面の上を滑っていく。

 エーシュマは、ノルンに対し、そこ知れない力を持っていると、理解している。そのため、相手が実力を発揮する前に仕留めようと考え、ノルンめがけて走り出す。そこに、アープが彼の足にしがみつき、最後の革袋の中の水を相手にかけると、力を振り絞って水を氷に変えて、少しでも進行を押さえようとする。だが、腰のあたりまで凍結が進んだところで、エーシュマは金属生命体が膨れ上がったことで氷を砕き、自由になった足でアープを蹴り飛ばした。そして、再びノルンにとどめを刺そうと走り出す。

 しかし、ノルンは跳ね起きると、右腕をかざし指輪を正面に向け、自身の意思を伝える。

「お待たせ。今度はお互いにまともな戦いができるわよ」

 不敵な言葉を放ちながらもシリアスな表情を浮かべるノルンの周りに光の魔法陣が現われ、彼女の姿を光の戦士に変える。そして、怒涛の勢いで突進するエーシュマの体を触れるか触れないかの間合いで体勢を入れ替え、彼の体を裏返しにして投げ飛ばした。変身と、不思議な構えから繰り出された投げに、エーシュマも地面の上に横たわりながら、多少の戸惑いを感じているようだ。

 ノルンは、構えを崩さずに、横たわったまま動かない敵に対して警戒を崩さずにいる。相手を見下ろしながら、ノルンは意味深な言葉を吐いた。

「そんな金属生命体に蝕まれるほど、あなたの意思も覚悟も柔な物なの。あなたなら、自分の意思でその鎧を脱げるはず」

 ノルンは、あくまで穏やかに、静かな声でエーシュマに語りかける。彼女の優しさも加わり、言葉は祈りの様にさえ、アータル達三人の耳にも聞こえた。静寂が辺りを包んでいるが、肝心のエーシュマにその声が届いているかがわからない。ノルンはじっと、相手の出方を待っている。

 だが、ノルンの言葉は彼に通じることはなかった。けだもののような声をあげながら起きあがると、全身の筋肉をより隆起させ、体躯が膨張し巨大になっていく。狂った様な唸り声を上げる彼の姿はもう人間のものではない。ノルンは、エーシュマが金属生命体によって脳にまで干渉され、人間らしい理性が吹き飛ばされたと認めざるを得なかった。

「やっぱり、戦うしかないわけね」

 ノルンは、覚悟を決め、攻撃に備えて流れる構えをとる。逆にエーシュマは、野獣の如き猛々しさと、暴力的な力で拳を繰り出してきた。パワーだけでなく、スピードも増加もノルンの予想を超え、受け流す事ができず、正面から両手で受け止めることになってしまう。すべての衝撃や重さが、ノルンの小柄な体に突き刺さり、腕は踏ん張りきれてものの、足が重さに耐えきれず地面にめり込んでいく。そして、エーシュマは片手で力比べの体勢に持ち込むと、両腕を塞がれ動く事ができないノルンに対し、空いている腕で腰に差していた剣を抜き、ノルンの体を薙ぎ払おうとしてくる。危険を察したノルンは、剣が背食する直前でブリッジを聞かせて回避する。そして、その勢いを利用して後方に身を翻して、体勢を立て直す。だが、エーシュマも武人であるため、ノルンの動きについていき、今度は剣を頭上から降りおろしてきた。ノルンは、決して相手から目を話していなかったので、相手の動きも剣の起動も完ぺきにとらえ、頭上に迫る刃を、真剣白刃取りの様な形で受け止めた。

 切り裂かれる事を逃れたノルンだったが、エーシュマはそれに構わず剣を押し込み、ノルンの頭に剣を叩き込むか、そのまま押し潰そうとしている。だが、ノルンも超人を超える力を持つ存在だ。エーシュマに負けじと押し返していき、両者は膠着状態になる。動けなくなり、ひたすら押し合う二人だったが、突然彼らの視界に火の玉が高速で飛びこんできた。全身を炎で包んだアータルだ。驚いたノルンが目をやると、ワルフがアータルの体を投げ飛ばし、その際に送り込んだ風をアータルの体の周りに纏わせ、アータルはその風に炎を乗せながら、エーシュマの剣に体当たりをかけた。熱と衝撃に剣が耐えきれず、ちょうど真ん中でたたき折られた格好になる。その隙にノルンは、側転して体勢を入れ替え、アータルの近くに着地する。

「ありがとう、アータル。でも、無理し過ぎよ」

「助けてもらったお礼だもの」

「過ぎるくらいのお礼よ。もう大丈夫だから」

 ノルンは静かな口調でアータルにその場でじっとしているように指で示すと、ゆっくりとエーシュマに近づいていく。そこに漂う空気は先程までとは一変し、時が止まった様な張り詰めた空気になり、アータル達三人には、息苦しさを覚える程の緊張感が漂う。そして、ノルンの声も、冷徹さが顔を表し、より戦士らしい口調と声色に変わっていく。

「できれば、平和に解決したかったけど、戦いでしかわかり合えない、もうそこまであなたは魔道に引き込まれた。なら、あなたを救うのは、戦士としての私」

 ノルンは言葉と共に身構えていくが、先程までの流れる様な、柔の型ではない。キレがあり、力強さを感じさせる、闘志を体現するものに変化している。エーシュマもまた、その変化に気がつき、警戒心を抱き、足を止めた。そして、ノルンの構えを見た彼は、もう人の声とは言えないしわがれた声でノルンに問いかける。

「何だ、その構えは」

 怪訝そうな響のある口調で質問するエーシュマに、ノルンは静かに力強く答えた。

「獅子座の戦士より伝えられし、宇宙拳法。これは、その流れを汲む私だけの傍流」

 ノルンの答えに利いたエーシュマは、狂気に満ちた先程までの唸り声などがなりを潜め、整然とした態度が次第に色濃くなっていく。さらに、驚くべき事に、彼もまた格闘術で応戦する意思を見せ、ノルンと同じ土俵で戦う構えすら見せている。

「獅子座、宇宙拳法……。面白い。その強さ、神髄、そして、お前がいかほどのものか、味合わせて貰おう」

「それでいい。全力であなたに立ち向かう」

「がっかりさせるなよ。名を聞いていなかったな。貴様の名は、何と言う」

「ノルンか。さあ、お前の強さを見せてみろ」

「いいわよ。その代わり、先手はそっちでいいわ」

 ノルンは余裕と言うより、終始感情を全く出さず、落ち着いている。エーシュマも、何故か先程までの野獣の様な様子はなりを潜め、挑発にも乗らず、少しずつ間合いを狭めていく慎重さを見せる。対して、ノルンは一歩も動かず、ただ相手との距離だけを目と体で測るのみだ。ゆっくりと二人の間が狭くなり、やがて互いの射程距離に入る。

 エーシュマは左足を軸足にして、逆足でノルンの体を根こそぎ薙ぎ払うかの様な蹴りを繰り出す。対してノルンは、微動だにせずギリギリまで引き付けると、開脚して体を沈め、頭上を足が通りすぎる瞬間右手を伸ばしてフックする。彼女の体に遠心力が加わり、子を描きながら宙を舞う。そして、狙いを定め、自分の力と体にかかる遠心力を利用して、エーシュマの即頭部を蹴り抜いた。一点に力を集中し、相手の力の運動も利用した蹴りは、金属生命体によって強化された鎧を、粉々に打ち砕く。驚きとノルンのけりの衝撃で体がぐらついたエーシュマの方にノルンは倒立して着地し、バネを利かせて回転真ながら、背後に回り込み、気合の声と共に背中に肘を打ちこんだ。鎧に亀裂が入り、ばらばらになって崩れ落ち、エーシュマも前のめりになって、倒れ込む。

 ノルンは確かに宇宙拳法を学んでいる。だが、そのまま受け継ぐには、体格も体力もノルンはあまりにも不足していた。それ故に、技もほとんど教えられておらず、教えられたのは基本技と型のみである。しかし、ノルンはそこに工夫を加えた。以前に習得したパルクールをそこに組み込むことにより、空間すべてを使って相手と戦い、彼女が持つセンスや経験を注ぎこみ、独自のスタイルを築き上げた。感所は傍流と謙遜するが、道は違えど、独自の方法で宇宙拳法の神髄に近づいたことは、誰もが認めており、今やその型は、誰も真似ができないノルンだけのものになっている。

 一回りどころか二回りも小さいノルンに手玉に取られた事に戸惑いを見せていたエーシュマだが、立ち上がると再び闘志を前面に出し、今度は右腕で拳を繰り出してきた。ノルンは、その拳を両腕で受け止める。だが、ただ相手に抵抗して止めるのではなく、相手の力を利用して今度は腕に飛びつき、関節を極めていく。ノルンが腕をねじり上げるごとに、エーシュマの骨と鎧がきしんでいく。そして、さらに力を加えることで、力に耐えきれなくなった鎧が崩れ去り、肩の関節も外れてしまう。

 ノルンは地面に飛び降り、一旦間合いを取る。エーシュマは痛みに顔をゆがめながらも、自力で関節を戻し、今度は左腕で殴りかかる。ノルンは、背中を反らしながらそれをギリギリでかわし、振り上げた足を相手の腕に当てる。ただ一点に最大の力を注ぎ、それ以外は流れる動作で力を浪費せずコントロールすると言う宇宙拳法の神髄そのままに、それを独創的な動きで繰り出すノルンの技をよけることは、砂漠の中でしか戦闘経験のないエーシュマには不可能なことだった。

 両腕の鎧を失い、さすがにひるみだしたエーシュマだが、その心が折れるのをノルンは見逃さない。腕を地面に突き立て、水面蹴りを繰り出しまずは左足を、腕を切り替え回転を逆にして、右足を攻撃し、両足の足当てを砕いた。

「さあ、残るは胴体だけよ。次はどう出るの」

 その口調は、奢りではなく厳しいもので、ノルンはまだ相手が戦う意思を捨てていない事を見抜いている。事実、エーシュマは、姿勢を立て直し、じっとノルンを見据えており、まだ戦闘をやめる気配はない。じっと見つめ合う二人の間に沈黙が流れる。息苦しさを感じる程の沈黙に、そばで戦いを見つめていたアータル達も、顔に汗を浮かべていた。

「すごい。ノルンってあんなに強かったんだ……」

「違うわ、アータル。相手が強いからこそ、ノルンさんも力を出さざるを得ない。こんなに張り詰めた空気、どちらも余裕はそれ程ないはず」

「これだけ離れていても、緊張感が伝わってくる。俺達まで息をするのを躊躇ってしまうくらい、張りつめた空気だ。恐らく次で決まるな……」

 三人の言う通り、ノルンの力は今初めて解放されたのだが、、それはエーシュマの強さがあればこそである。そして、ノルンも相手の実体が人間であるが故に集中して戦わざるを得ないため、精神面ですりへっていく事を避けられず、お互いの消耗度はほぼ互角である。ノルンもエーシュマも、これ以上の戦闘の長期化は望んでいない。

 構えを崩さず、微動だにしないノルンの足元を、何かがかすった。ノルンはそれを見ずとも正体の見当は付いている。それは、金属生命体が移動していくものだった。砕け散った鎧の破片から離れた彼らは、素早い動きで合流度移動を繰り返し、エーシュマに残されら胴の部分の鎧に付着していく。それと共に、エーシュマの体はさらに筋肉が隆起し、肌の色も青黒くなり、人間からかけ離れていった。恐らく、人間として存在できる限界点だろうとノルンは、冷静に見極めている。

「さあ、決着をつけるわよ、エーシュマ」

 ノルンは地を蹴って、高速でエーシュマに接近する。彼もまた、腕を前に突き出してノルンの攻撃を阻みに行く。ノルンは、拳を突き出し、渾身の力で最後の鎧を粉砕しようとする。だが、狙いが一点しか存在しないために、エーシュマもノルンの攻撃の狙いを定めやすい。ノルンの腕をがっちりと捕らえ、そのまま体を持ち上げる。そして、小柄な彼女の体を放り投げると、究極まで強化された脚で蹴りあげた。ノルンの体はものすごい勢いで打ち上げられ、回転も加わっている。その高家を目にしたアータル達の脳裏に、ノルンの敗北と言う状況が頭をよぎった。

 だが、当のノルンは冷静だった。拳を体力面で完全に止められたのは驚きだったが、それで仕留められるかどうかは五分五分と予測していたからだ。その後のエーシュマの攻撃も、ある程度は前もって頭の中で想像できたため、下手に抵抗せず体の力を抜くことで衝撃を受け流した。そして、体に加えられた回転をノルンは自分のものにした。

 回転しながら上昇していくノルンの体は、やがて最高到達点に達する。すると、そこで宙返りをして、力の向かう方向を下方に修正し、エーシュマに狙いを定める。そして、ノルンは低く小さな声で、

「宇宙拳法奥義、破邪蹴撃」

と、はっきりした口調で呟いた。ノルン自身の力とエーシュマに加えられた力が合わさり、彼女の体は矢のようにエーシュマに向かって飛来する。彼は、そのスピードにノルンの攻撃を避け切れないと判断し、両腕で防御体制に入る。それと同時に、ノルンの蹴り足が到達する。エーシュマの体に衝撃が走り、足が後方に滑っていくが、完全にノルンの蹴りは防御され、受けきった。エーシュマ自身はそう確信したが、ノルンの攻撃は終わっていない。インパクトの瞬間、ノルンの足は速射砲尾のように蹴りを連打していく。その連続蹴りは目には見えない速さで繰り出され、次第にエーシュマの両腕の防御を崩し、こじ開けていく。

 ノルンが独自に、そして宇宙拳法の神髄に触れて、己の肉体と精神で到達し、会得した技がこの「破邪蹴撃」である。体が小さく、体力でも見劣りするノルンが自分にしかできない型として選んだのが、スピードを生かして一点に連することで、攻撃の威力を上げるこの技だった。攻撃の精度と、本当に田尾差なけれならない邪悪なものを見抜く目を得たノルンだからこそなし得る、傍流の奥義と言える。

 破邪蹴撃を正面から受けたことで、その速射砲から逃れられないエーシュマは、次第に防御の両腕が開かれていき、胴体の鎧がさらけ出されていく。体を避けることもできず、防御を立て直すことのできないエーシュマに、もはやなす術がない。彼が断末魔の絶叫を上げるとともに、両腕が弾かれ、ノルンの体は相手の懐に飛び込んだ。そして、目に見えない連続の蹴りが鎧に連打され、エーシュマの肉体は後方に吹き飛ばされ、呪いの鎧は、その場にバラバラになって崩れ落ちた。実を翻した着地したノルンは、その鎧に向けて腕をL字に組み、タキオンストリームを放射し、金属生命体を焼き払っていく。熱線により、ボコボコと泡立ち始め、やがて蒸発していた。

――終わった……

 ノルンはそう確信したが、やがて足から力が抜け、光線が消滅した。いつの間にかカラータイマーの点滅が危険域に達している。戦闘と、エネルギーの消費、ダークエネルギーの干渉、そして激しいタキオンストリームの発射のため、激しい消耗にさらされたためだ。熱線を中断したため、金属生命体の一部が生き残ってしまう。それらは一つの集合すると浮遊し、敵から逃れるべく猛スピードで上昇し、空に消えてしまった。ノルンは変身を解き、生命体が消えた空を見つめている。

「逃がしたか……。でも、やっぱり宇宙へ。自分で偶然ここに来たのならいいけど、意図的に送り込まれたのなら、この旅は生半可なものじゃなくなりそうね」

 この後の旅に不穏なものを感じながらも、砂漠の民の災いの種を取り払えただけでも良しとしようと考え、ノルンは立ち上がると、倒れているエーシュマの許に歩み寄った。彼の体は普通の人間の大きさに戻っており、日に焼けた筋骨隆々とした、たくましい武人の体を持つ人間エーシュマがそこにいる。ノルンは、駆け寄ってくるアータル達と合流し、彼らと勝利を喜び合う。

「ノルン、すごいよ。あんな技、初めて見た」

「それはそうよ。あれは私だけの技だから」

「アータルの言う通りすごいですよ。鎧だけを砕いて、このエーシュマと言う人の体は一切傷つけないなんて」

「まったくだ。俺達は戦士なんて、今後名乗れないな。未熟さが身に染みて良くわかった」

「みんなが、私が戦う前に、頑張ってくれたからよ。それに、私には、王から託された願いがあるから」

 ノルンは、エーシュマのそばに膝をつき、まだ朦朧としている彼に、静かに呼びかける。

「起きなさい、エーシュマ。あなたには訊きたい事があるし、王からの伝言がある」

 ノルンの言葉に、エーシュマは再世は苦悶の声を上げていたが、やがて眼を開き、顔色も戻ってきた。そして、目を動かしながらノルン達を見渡すと、口を開き、はっきりした口調で、

「情けなき姿をさらし、面目ない。礼を言います。そして、陛下からの言葉を聞かずには、死ぬ事ができません」

と、口にした。これだけ消耗した体で、礼節も失わず、しっかりした口調で喋るエーシュマの姿勢に、ノルンはもちろん、アータル達も彼に対する敬意がすぐに芽生えていた。