目が覚めると窓から漏れる木漏れ日、昨日着たジャンパーがかけられた椅子、若干煤けたソファーとクッションが視界に広がった。いつもの光景だ。そして、いつもどおりベッドを出てポットに水を居れ火にかける。その間煤けたソファーに座り込み眠い目を擦りながらテレビリモコンのスイッチを入れる。本当にいつもどおりの光景、行動、今日もいつもどおり特になにもなく終わるのだろう。そう思っていた。
「すいません。アストさんはご在宅でしょうか」
唐突に訪れたこの瞬間、まさかいつもの日常との別れを告げる瞬間だったとはこのとき全く予想だにしていなかった。
「だれだろうこんな朝早くに…しかも僕に用があるようだし」
若干考え結局答えの見つからぬままとりあえず木で作られた若干これもまた煤けた扉を開けた。
「ルーイさんの息子さんのアストさんですか?」
「はい、そうですがなにか?」
そういいつつアストはすばやく目を走らせた。
40代だと思われる体格のいい男はすこし年季の入ったスーツを着込み一見ただのサラリーマン風だったが目の奥に宿る意思の強そうな眼光がただのサラリーマンでないことを伝えていた。
「ガイア関係ならば父か兄のレアに…」
とりあえずガイア特別防衛省か調査庁の人間だろうと思ったのでそう言ってみた。
「いえ、ルーイさんでもレアさんでもなくアストさんに用があるのです」
男は抑揚の効いた声でそう言った。どうやら本当にアストに用があるようだった。
「軍隊か調査隊に強制入隊ですか?」
相手の出方を伺おうとわざと核心を突いた一言を言い放った。
どうやら満更はずれでもないらしく男の眼光に揺らぎが生じたのを見て取れた。
「お噂どおりの鋭い洞察力ですな。そのとおり私はガイア調査庁の人間です。ご名答」
「調査庁がなぜよりにもよって僕に用なんですか?」
「貴方の父であるルーイさん、兄であるレアさんにはオリマーさんやそのご子息であるコメットさんとともに今、臨時でガイア調査庁の指揮下に入っていただきガイアで活動していただいています」
「はい、身内なのでそれくらいは知っています」
「ですがそこは希望の森を中心としたサーフェイスワールド。所謂表世界と呼ばれるエリアに限られているんです。そこで…アストさんにはバックワールドで活動していただきたいのです」
「…裏世界」
「聞こえは悪いですが名称だけで見た目は表世界と同じです。ただ、未確認現住生物が大半を占めており資料が全くといっていいほどないのですが…」
「それこそベテランの父やオリマーさんの仕事じゃないですか?」
「新天地に行けば玄人も素人も大差ありません。逆に知識のある玄人はギャップや今までの常識の覆りで苦しみやすい。そこでまだ全くガイアへ言ったことのないアストさんに裏世界での第一人者になっていただこうという訳です。勿論、空気ボンベやロケットの手配は勿論のこと帰還後は謝礼金などをお渡しします」
「ですが…僕はロケット操縦ができないんですよ。まだ免許持ってなくて…」
「そうなんですか…それは少し困りましたね…」
「なんならあたしが操縦するよ」
不意に二人の会話に別の声が入り込んできた。少し驚きつつも二人はその声の許へ視線を向けた。
「こんにちは。じゃなくておはようございます」
そこにはコートを着た一人の少女が立っていた。