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サイは投げられた -

📚 目次

1 その他 (6ページ)

無題
└ プロローグ
1
無題
└ 第1話
2
無題
└ 第2話
3
無題
└ 第3話
4
📍 無題
└ 第4話
5
無題
└ エピローグ
6
5/6 ページ

 それからは、順調と言えば順調だった。


 山火事を鎮め、要人の暗殺を阻止し、自然災害には掲示板で危険を知らせた。


 どこかの会社の社長の逮捕を容認したら、次の日に世界規模で株価が大暴落してえらい事になったりしたけど、それは…まぁ、私にはどうしようもない事ではないかと思う事にした。


 勿論ちゃんと仕事もしてるし、友人たちとの飲み会にも参加してる。


 そんなこんなで。


 最初に私の部屋に天使が現れてから、二ヶ月がたとうとしていた。


 そして信じられないことに、私自身がこの状況に、ある意味慣れていた。


 そんな時だった。


 いつものメール着信音が響き、ケータイを取り出す。




from 不条理


sub 『予言の書』


『20××年 5月2日


 シンガポールの某ホテルがテロリストに攻撃される』




 ちょっとちょっと、今度はGWの観光地ですか?


 不条理ちゃんは、相変わらずやることが陰険だなぁ。


 そして、「攻撃される」とはっきり書いてあると言うことは、攻撃は必ずあることを私は知っている。


 それにしても、シンガポールにもテロリストとか居るんだ。全然知らなかった。


 今まで、そんな事に興味を持った事はなかったので、改めてそんなことを考えてみたり。


 と、いけないいけない。


 遠くの外国の事とか思っていたら、また痛い目に会うんだから。


 先ずはこの『予言の書』を何とかしないと。


 「天使」を名乗って「この日はこのホテルはテロリストに攻撃を受ける」と書こうとも思ったけど、その反響を考えるとちょっとためらわれる。


 それほどに「天使」を名乗る「予言者」の予言は話題になっていた。


 シーズン的に観光客が多いから、どうしても宿泊客が居るだろうし…ホテル側の都合で、宿泊客を断っている事にしたらどうだろう。従業員もかなり少なくして。


 それで、被害はかなり小さくなるんじゃないかな。




 私はメールを送信した。


 後になって何度も思った。疑問に思った事は、その場で調べるべきだと。




 その臨時ニュースに、私はただただ立ちつくしていた。


 それは、シンガポールの○○ホテルに滞在中の某国の皇太子がテロリストの攻撃に会ったというものだ。


 皇太子滞在の為、ホテルでは宿泊客の規制をしており、一般人の被害はほとんどなかった。


 ニュースを繰り返し聞きながら、私は血の気が引くのを意識した。


 「やられた」。そう思った。


 体から力が抜け、立ってられない。


 その場にしゃがみ込み、左手で額を抑える。


 額を支える腕が、震えていた。


 知っていた筈だ。不条理ちゃん――いや、天使達が、私たちを滅ぼそうとしているのだと言うことは。


 知っていたのに、まんまとしてやられた。


 天使達は、戦争を起こす気なのだ。そして私は、そのきっかけを作る手伝いをさせられた。


 私に、選ばせた。




 私は震える手で、ケータイを握りしめる。


 賽は投げられた。


 不条理ちゃんは言っていた。


 確かに今、また賽は投げられた。


 でも。


 このまま、戦争の火が点るのを待つ前に、何かができないか。何かは出来るのではないか。


 そう思った。




宛先 不条理


件名 『予言の書』


本文 天使により……




 次の朝起きると、何故か不条理ちゃんがいた。


 久し振りに見るこの天使は、相も変わらず不機嫌そうな薄紫の瞳を私に向けていた。


 でも、以前と違って――まぶしい。


 何がまぶしいのかと目を細めてみると、天使の頭上に光の輪が見えた。


 これが、前に彼女が言っていた「光輪」とかいうものなのだろう。


 でもなんで、今まで見えなかったものが見えるようになったのかな。邪念がなくなったって事?


「上木田奈津美さん」


 と、初めてこの部屋を訪れた時と同じように、天使がフルネームで私に言う。


「引導を、渡しに来ました」


 はい?


 凄みのある声と、ぶっそうな内容に、いきなり目が覚めた。


「この期に及んで、ケアレスミスですか?」


 天使はにっこりと笑いながら、私にケータイを見せる。


 そこには、私が昨日送信したメールが表示されていた。




flom 希望


sub『予言の書』


『天使の手より、今、再び犀は投げられた。しかし人間は、天使の思惑に踊らされる程に馬鹿だろうか?


 自ら、滅びの道を選ぶ程に愚かだろうか?


 ひとりひとりが未来を見据え、賢明な決断が出来る世界の到来を、私は予言する』




 別に、変な文章じゃないよね?


 これでも、必死になって知恵を絞って書いたつもりなんですけど。


 ちらりと天使を見ると、彼女は笑っていた。いや、違う。目が笑っていない。というか、真剣に怒っている。


「ケアレスミス?」


 もう一度、自分が書いた文章を読む。


 天使の手より、今、再びサイは投げられた…。


 あ……


「この予言の書に書かれた事は、全て真実になるって、知っていました?」


 ええ、嫌と言うほどに。


「またご丁寧に、天使の手によりとか書いてるし」


 と、不条理ちゃんは両腕を胸の前で組み、大きく息をつく。


「ものすごく悩んだのですが、修正不可能です」


 あの、投げるんですか? というか、持ってるんですか?


「予言通りに、受け取りなさい」


 天使の手が頭上に上げられた。


 そこには、彼女の数倍はあろうかという大きさの犀が抱え上げられていた。




 かくして、犀は投げられた。


 それが私の、最後の記憶となった。