夢か、それとも
初等部Bクラス
いつもザワザワと落ち着かないクラスである
しかし、この日は少し・・・いや、いつも以上に騒がしくなることを彼らはまだ知らない・・・
「ほぉ〜たぁ〜るぅ〜!!」
「暑苦しい」
バカンッ
蛍が近づいてきた蜜柑に向かってバカン砲を鳴らす
空気の弾にやられた蜜柑はどしゃっと教室の床に倒れこんだ
心読みくんは蛍の片手を持ち上げ、「Winner!!」と言葉を発した
パチパチとまばらな拍手の中、彼女・・・蜜柑は顔を持ち上げて「なんでやの!」と叫んでいる
今日も彼らはにぎやかに和やかに過ごしている
そんな教室で、彼____
棗は読んでいた本の隙間から騒がしいクラスメイト達の様子を見る
「アホらし・・・」
不意にこぼれた言葉は彼が日々思っていること
それはけなしているようで、実は感謝するべきことだと彼は知っている
ただつまらないだけだった学園生活が退屈なだけではない大切なものになったためだ
しかしながらにそのアホらしい学園生活に変えていったのは蜜柑である
その事実はなんともいいがたい、彼の心境を微妙にさせるのだ
「___なぁ、棗もそう思うやろ?」
ふいに飛んできた会話の飛び火
彼は思考していた頭を一時止め、彼女を見た
今だ地面にへばりついている彼女はより一層、間抜けに見えた
早く立てよ、そう思ったがあえて言わず「知らね」と簡潔に返した
こんなありきたりの日々が続いて・・・
いつか、この学園を出ることが出来たら____
ふと浮かぶ言葉に心の黒いモヤが広がっていく
「いつか」本当にそんな日が来るのか
「本当に」この学園を出ることが・・・
バシャッ
頭に何かをかけられた違和感
頬を伝って口の中へと広がる甘くて苦い味
ゾクッと背筋に走る悪寒
視界にほんのりと淡い色のついた水が自分の前髪から滴るのが見えた
ついでに、クラス一のアホな女の今にも泣きそうな顔も
「あぁああ!!ごめんな棗ッ!!な、棗、最近疲れてそうやったからセントラルタウンで栄養ドリンク買ってきて・・・。棗に飲んでもらおうと思ったら転んでしもうて・・!」
ぶわーっと目の前のアホからあふれ出す涙
泣きたいのはこっちだ、そう思いながら席を立つ
アホが追いかけてきたので適度に足蹴りして追い払いながら、教室を出る
歩くたびに水滴が落ちる
今何月だと思ってんだ、まだ水浴びの季節じゃねーよ
キーんコーンカーンコーン・・・
チャイムが鳴る
授業が始まるがそんなこと知ったことじゃない
俺はシャワーを浴びに行く
「棗・・・」
大丈夫?と流架が隣を歩く
「あぁ」
短く返して、一人で大丈夫だからナルに伝えておいてくれと伝えた
そうすると流架は困った顔で、そう・・・?と教室へ戻る
廊下から着替えと風呂のある寮まで10分はかかる
その道のりを考えてつい愚痴が飛び出す
「・・・・はぁ、めんどくせ・・・」
今度会ったらただじゃおかねぇからなあのアホ
そんな事を思いながら廊下を歩く
・・・ゾク、
また体に寒気が走る
この液体で体が冷えたのか?
だがこの液体自体は冷たくはなく、かえって発熱作用があるのではないかというぐらいに熱く感じる
いや、おかしい・・・
この液体は栄養ドリンクだと言っていた
まさか______
『媚薬ーッ!!!?』
クラスメイト達から驚きの声が教室で響き渡る
瓶をまじまじと見つめながら蛍は「そうみたいね」とうなづいた
「ところで、ビヤクってなんやの?」
きょとん、と蜜柑が訊ねる
買った本人がそんな調子なのだからとんでもない
スミレは半ばキレつつ、蜜柑に「アホかー!」と飛び蹴りをかました
べしょ、と床に倒れこんだ蜜柑にクラスメイト達が次々と
「危ない薬だよ!」
「人体に被害が・・・!」
「熱が出るんだったような・・・?」
「棗くんが死んでしまうんじゃ・・・!?」
彼らは正直あまり知らない薬だったが、あまり良くないものという知識はあったらしく、
それを聞いた蜜柑は自分のしてしまったことに酷く後悔をした
「なんでそんなものを買ったの?みかんちゃん・・・・」
アンナがおろおろと蜜柑に訊ねる
すると蜜柑は涙を流しながら、こう答えた
「う、うち・・・『超強力☆元気いっぱいになる』って買いとったから、栄養ドリンクやと思って・・・」
「ここに『注意:媚薬です。』って書いてるじゃない」
「あ、あんな・・・?うち・・・その・・・」
発言を渋る蜜柑にクラスメイト達はまさか、と冷や汗を流す
「『媚薬』って文字が読めなかったんだって〜!」
『やっぱり!!』
心読みの言葉に彼らは思っていた通りだったと声をそろえて言った
「たっ、大変だ!棗が・・・!」
流架が席を立ち、廊下へ出ようとする
しかしその時ちょうど鳴海先生が来てしまい、廊下へ出ようとした流架の肩を持った
「みんなおはよー、流架くんどうしたのかな?授業を始めるよー?」
「え、あ、あの・・・!先生!」
「んー?」
先生に棗に媚薬をかけてしまった、なんて言ったら佐倉はどうなるんだろ
罰を受けてしまうんじゃないんだろうか
ふいにそんな気持ちが流架の心の中で渦巻いた
その視線の先には泣き止まない蜜柑の姿
親友と、大切な子と、二人の間で揺れる
流架は一つ、決断をした
「先生!さ、佐倉が具合悪いみたいなんで保健室に連れて行きますッ」
「え」
目を大きく見開き、鳴海は蜜柑を見る
蜜柑は大きな瞳からぼろぼろと涙を流している
クラスを見渡せば、棗がいない・・・
もしかして自分が来る前に彼らの間に何かがあったのかもしれない
ならば、自分が介入するよりも彼らに任せていたほうがいいだろう
そう考え、鳴海は「いいよ、いってらっしゃい」と優しく返した
「佐倉、行こう?」
流架が蜜柑の手を引く
「え、でも・・・うち・・・」
「いいから早く行きなさい」
バカンッと蛍に再びバカン砲で背中を押された蜜柑は流架に手を引かれて教室から出て行った
その様子を見送ると鳴海は「さて、」と前を向く
「・・・・なにがあったのか、教えてもらってもいいかな?」
そう言った鳴海の笑顔にクラスメイト達は滝のような汗を流したという
「・・・・ふ、・・・っ」
シャワーを浴び、服を着替えた棗は自分の体の調子の悪さに気がついていた
体が熱く、汗が止まらない
気だるい。
頭も乾かさず、自分のベッドへと倒れこむ
これはけして風邪とかじゃない
さっきあのバカにかけられた薬だ
すぐに吐き出せばよかったんだろうが・・・
「・・・今日は・・・誰にも会わないほうがいい、な」
はぁ、とこぼれる吐息が熱い
やってらんねー・・・とベッドの上で半回転する
その時、ドアをノックする音が聞こえた
「・・・・あ?」
虚ろな視界でドアを見る
入ってきたのは流架と・・・蜜柑だ
「棗、大丈夫か?
あのさ、佐倉が棗にかけちゃった薬・・・」
流架が経緯を説明する
その発言を遮って奴は「うちが間違って買ったんや・・・!ごめんなッ」と頭を下げる
別に俺は謝ってほしいわけじゃない
大体、今誰かに会ったらマズイ気がする
「・・・教室に帰れ」
「棗・・・」
困った表情をする流架
もう一人は泣きそうな目で俺を見ている
やめろ、今その顔するな
「な、棗・・・あ、あんな・・・・?」
「早く教室に行けッ」
言葉を遮って俺が声を荒げる
頭がぐわんと揺れた
流架が「わかった、」とドアを開ける
「行こう、佐倉・・・また後で来よう」
「・・・・・、」
何かを言いたげな二人は部屋から出て行った
残された俺は荒い整わない呼吸を繰り返して天井を見る
「・・・・んだよ、あの顔」
「・・・・流架ぴょん、うち・・・」
「棗はきっと今いらだってるんだよ、もう少し時間を置いたらきっと話を聞いて・・・」
「・・・違うんや・・・なんか、」
え?と流架が首をかしげる
その様子も見ずに蜜柑は来た道を走り出した
「え、ちょっと佐倉!?」
「うち、棗がいつもと違う気がするんや・・・!流架ぴょん、ごめんなッ」
「あ、俺も行くよ・・・!」
蜜柑の後を流架が追いかける
親友の自分でさえも気付けなかった棗の変化に気がついた蜜柑
二人はやっぱり、心のどこかでそんな声が聞こえて
足を止める
「・・・・・・。」
「・・・あれ?流架くん?」
教室に帰ってきたのは、流架一人
クラスメイト達は口々に蜜柑は?と口にする
「えーと、保健室」
そう言って流架はにこ、と笑う
『・・・蜜柑(佐倉)もしや棗くんのところに・・・!?』
その時間、みんなの冷や汗が止まることはなかったという
コンコン、
再びノックの音が部屋に響く
「・・・またか・・・」
ドアを開けて顔を見せたのは蜜柑
棗は呆れ顔で「出てけ」と口にした
「でも・・・うち、」
蜜柑が部屋に入る
そして棗のベッドの前に立った
ばたん、とドアが閉まる音がする
「・・・棗、ごめんな・・・」
「・・・・・・。」
「棗、ツラいんやない・・・?」
そう言って、顔を覗き込む
どくん、と心臓が鼓動を打つ
「近づくな」
そう言いながらベッドから体を起こす
はぁ、と息が漏れた
「!棗、やっぱどこか悪いん?顔真っ赤や・・・!うちのせいや・・・ごめんな・・・?」
蜜柑は瞳を潤ませると棗のベッドの上に座る
蜜柑の行動が、瞳が、唇が
彼を誘惑する
「・・・ッ!どけっ」
彼の周りを炎が包む
彼を守るためではない
彼女を守るため、アリスを使用した
自分から彼女を遠ざけるために
「棗・・・っ」
火の中を、彼女は通り抜ける
そして彼をぎゅう、と抱きしめた
アリスが暴走した、とでも思ったのだろうか
彼女は無効化のアリスを発動させ、周りの火は一瞬で消えた
そして彼に抱きついたまま、彼女は
「部屋で火出したら危ないやろ!」
そう言ってぷんすこと怒り出した
その姿は何だかとても愛おしくて
すべてコイツのせいだとわかっているのに、
「それにな、うちだって悪気があったわけやなくって・・・ただ最近棗元気ないなーって思って・・・」
あーだこーだ、言い訳をする蜜柑
その言い訳を聞きながら、
棗は苦痛に眉をしかめて、ぐっと手を硬く閉じる
その様子に蜜柑は発言をやめ、棗を心配そうに見つめる
「・・・やっぱり辛いん?熱があるんやない・・・?」
ふいに伸びてきた手が棗の頬にそえられる
その行動は、棗の何かに火をつけた
「・・・バカ、」
「!ばかって何な・・・んぅ・・・ッ」
熱い、熱い、あつい、
欲望が脳を支配して
もうどうでも良くなる
「・・・ん〜〜〜!!っぷは・・・な、何するんや!」
涙目で頬を染める
目の前に愛おしい女がいて
止められる、わけがない
手を伸ばして、引き寄せて
抱きしめて、再び唇を奪う
「っえ、ちょ・・・棗ぇ・・・・!んっ」
「・・・悪い、止められねぇ」
「や、っそんなとこ・・・ッひゃぁあ・・・!」
「_______なんてコトがあったりして!」
はははは!と心読みが笑う
それに対し、クラスメイト達は引きつった笑みを浮かべた
なぜなら、教室の後ろのドアから棗が蜜柑を担いで現れていたからであった
「・・・あ、おかえりなさい!じゃあ僕はこれで!」
すたたたーっと教室から早足で逃げ出した心読み
それに便乗してか、クラスメイト達が棗から数歩離れる
「お、おかえり棗・・・あの・・・佐倉どうしたの?」
「・・・・・・。」
棗が帰ってきたことに気がついた流架がおどおどと、担いでる蜜柑について聞く
棗は無表情のまま、「うるせえから黙らせた」と隣の席に蜜柑を置く
『・・・・・。(一体二人に何が・・・!?』
ごくり、と彼らは唾を飲み込んだ
数時間後
ガバッ
蜜柑が突っ伏していた机から顔をあげる
「はっ!!?ココは教室!!?うちなにしてたんやったっけ!?」
棗はそんな蜜柑をちら見すると、また漫画に目線を戻して
「授業中に寝るなバカ」と罵る
「棗がおる・・・?・・・・?・・・・!!?」
「・・・・・。」
先ほどのことを思い出したのか、蜜柑の顔が赤く染まる
「あ、あれ・・・?うち・・・・で、でも教室に・・・き、気のせいやな!あっあははっ」
嘘じゃねぇよ、
そう言いたかったが、面倒だったので棗は何も言わなかった
外の景色をぼーっと眺めながら「天気がええなぁ」なんてつぶやくバカで愛おしい彼女を見ながら
「バカでよかった」と棗は自分のしたことを思い出すのであった
「・・・・結構あたってたみたいだよ?」
心読みがそう仲間に告げるのは、これから5分後のことであった
END
>コメント
神小説
2019/4/4(木) 午後 3:58 [ ロー ]
顔アイコン たった三文字なのにこんなに嬉しいコメントを…!
ありがとうございます!
2019/4/14(日) 午後 10:27 みかん