「み〜さちゃん、仕事、いつ終わるの?」
「…っ、さっきからそればっかだな!まだ、あと2時間はやるつもりだ!お前、厨房ももう終わったんだろ!帰っていいぞ!」
「え〜、だったら、控室で美咲ちゃんが頑張ってるかどうか思いながら、待ってるね〜。」
「もう帰れ!アホ碓氷!!」
碓氷はヒラヒラと手を振り、笑いながらスタッフルームへと姿を消した。
「ったく…」
愚痴ながらも、仕事へ戻る。
その一時間後。
スウスウという、深い呼吸の音が響く。
「…寝てる。なんだコイツ。」
10分間の休憩。あいつ、何してるんだとか考えながら来てみたらこの有様。
碓氷はスタッフルームの机に頬杖をついて寝ていた。
「珍しいな、碓氷が寝てるなんて。」
というより、初めて見るんじゃないだろうか。碓氷の寝顔は。
『まつげ、長いし。顔立ちも、やっぱり整っているほうなんだろうな、店長たちが言っているのを考えてみたあたり。』
つんつんしてそうな髪に、手を怖々のばしてみる。触った髪の感触。
『…思ったより、ふわふわして、柔らかいな。ってか、起きないな。』
まあ、それが一番ありがたいのだが。
そして気づく。
『!!何やってんだ私!早く仕事に戻ろう…。』
部屋を出ようとする。ハタ。立ち止まった。
「今日、冷えるとかいってたからな。仕方なくだ、仕方なく。」
美咲は、帰る時用のパーカーを碓氷にかけた。
「美咲ちゃーん、どこー?」
「は〜い、今行きます!」
「…ん…」
「あ、起きたか碓氷。」
「…!…うん。」
「珍しいな、疲れてたのか?」
「さあ…そうかもね」
碓氷の目の前で、美咲はノートと教科書を広げて勉強していた。
「…今、何時?会長」
「へ?え〜っと、今12時半だ。」
「…遅くない?」
「え?ああ、別に。徹夜で勉強とかしてるから、慣れっこだが…」
「じゃなくて、帰らなきゃいけないんじゃないの?」
あくまでも、美咲は女子なのだ。いくら強くても。それを以前から何回も言っているのだが。
「ああ、大丈夫だろ。お母さんには連絡したし。店長には、ちゃんと鍵閉めますから、って言っといたよ。」
そういうことじゃないんだけどなあ。
その時、碓氷は自分が美咲のパーカーを羽織っていることに気がついた。
「…会長」
「ここで会長はやめろって、いつも言ってるだろ。」
「じゃあ、美咲ちゃん」
「…何だ」
「どうして、俺を叩いてでも起こさなかったの?それに、このパーカー…」
「え?だって」
美咲が少しうつむく。
「お前、珍しく寝てたし…疲れてるんだったら、起こすのも悪いかと…。パーカーは…。まあ、最初は蹴り起こそうかと思ったが。」
「ははは、蹴るのはひどいなぁ、美咲ちゃん。それに、パーカーの説明は?」
「ああ、もういい!!早く帰るぞ!お前も起きたからな!早く仕度しろ!」
そう言って、勉強道具をガチャガチャと片付け始める。
耳元が赤くなってるのは、気のせいじゃないだろう。
『やっぱり、優しいんだよね、鮎沢は。』
自分のパーカーを、冷えるからとかぶせてくれたのだろう。
「鮎沢。」
「もう、なんだ!?」
碓氷は美咲の耳元に顔を近づけた。
『…パーカー、ありがとう。』
「…っ!!??耳元で言うなー!この変態が!!」
拳をヒョイとかわす。
「さーて、帰ろっか、美咲ちゃん。」
「あ、私のパーカーかえせー!!」
メイド・ラテを閉店して、月が輝く帰り道を、二人は言い合いながら、帰っていく。