悪魔(デビル)。
おとぎ話やオカルト映画などでよく登場する存在。
私は中でもたった一人で魔界の軍勢に立ち向かい、そして退けた魔剣士の話が好きだった。
その魔剣士の名は……
――SPARDA(スパーダ)――
当時、子どもだった私にとってヒーローのような存在だった。
だけど、年を重ねるにつれて関心は無くなっていった。
当然のことだ。
時を経て学び、覚えていくものがあれば忘れていくものもある。
第一、『悪魔』なんてフィクションの中の住人だし存在しないと思っていた。
それが普通だ。
本気で『悪魔』の存在を信じている人がいるなら、私は否定どころか関知すらしないだろう。
しょせん『悪魔』は空想の域を出ないのだ。
そう思っていた……
でも、違った。
『悪魔』は実在する――
◇
私は今、混乱の極みだった。
警察になりたくて、警察学校への入学もほぼ決まり、後はハイスクールの卒業を待つだけの私は、いつも遊んでる友達はまだ受験を控えているので、しばらく放課後は時間を持て余している日々を送っていた。
退屈な身分だが、警察になる手前、体力作りのためスクールが終わったあとは、もっぱら近くにあるモールの中のスポーツジムに通っている。
一通り汗を流したあとは、疲れた身体を労うためにアイスクリーム店によって大好物のバニラアイスを食べるのだ。
アイスクリームの冷たさと甘さが疲れた身体に染み渡り、幸福の余韻に浸りながら自転車で人里から少し離れた自宅に戻る。
だいたい夕食前の十九時頃には家に着く。
私は母親と二人暮らしをしている。
父親はいない。
何故かって?
母はレイプされて、その結果として私が生まれた。
これが私が警察になろうとした理由だ。
母は一人の性犯罪者の餌食となったのだ。
小さい頃、父親が何故いないのかと当然の疑問を母に聞いたら、その時は話を濁されたが、私が十五歳になったある日、母が――
『もうフィルは覚えてないと思うけど、あの時の答えを言うね……』
信じられなかった。
私がそんな過程で生まれた子供だったなんて。
あまりの話に私は自覚なく泣いた。
そんな私に、母は、
『ほら泣かないの。いい? たとえどんな過程で生まれたとはいえ、あなたは私の子ども。世界で誰より愛してる。フィルは私の大事な娘よ……』
そう言って微笑みながら抱きしめてくれた。
愛してるわけでもない男との間にできた子供である私を愛してると言ってくれた……
嬉しかった。ただ嬉しかった。
泣きやむつもりだったのに止まらなかった。
母は泣きやむまで抱きしめていてくれた。そんな母が待っている我が家にいつものように帰り、いつも通り幸せなファミリータイムを過ごすはずだった。
しかし、私を待っていたのは母ではなく――
視界いっぱいに広がる、血……
見慣れた部屋の中の見慣れない光景。
次に映ったのは、母の綺麗な金髪。娘である私にも受け継がれた、宝石めいたストレートのプラチナブロンド。
そして、母――だった誰か――の顔。
向こう側をみているので、その血まみれの表情はわからない。
しかし問題はそこじゃない。最悪なのは、どこを探しても首から下が見つからないことだ。
わケがわかラなイ。
ナ故?
ナンで?
どうシテ?
母が『死んで』いるの?
私の思考回路がグチャグチャに絶賛オーバーヒートしている時、背後から足音がした。
頭が真っ白な状態でただ足音に反応したかのように振り返ると、人のような『なにか』が冗談のように大きい鎌を振りかぶっていた。
その人のようにも見える黒い『なにか』は、おとぎ話に出てくる『悪魔』そのものだった―――。