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📚 目次

1 第一章 逮捕 (1ページ)

📍 無題
1

2 第二章 留置場 (1ページ)

3 第三章 拘置所 (1ページ)

4 第四章 裁判 (1ページ)

5 第五章 矯正施設 (1ページ)

6 第六章 脱獄 (1ページ)

7 第七章 再会 (1ページ)

8 第八章 準備 (1ページ)

9 第九章 実行 (1ページ)

10 第十章 手紙 (1ページ)

11 第十一章 最後の審議 (1ページ)

12 *[楽R天 ICHIBA] Shopping (1ページ)

13 *レンタルサーバー「heteml」 (1ページ)

無題

第一章 逮捕
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出会い



<逮捕>




 楠木圭一は突然逮捕された。


 中央線、阿佐ヶ谷駅から乗車し四谷駅で下車、一度地上に上がり新宿通りを渡ると地下鉄丸の内線の改札口がある。


 次の赤坂見附駅で銀座線に乗り換へ、一駅目の港区虎ノ門駅に圭一の勤める(株)瑞穂スポーツがある。


 赤坂見附から浅草方面へ向かう銀座線は、虎ノ門駅の改札口が最後方にある為、通勤時間帯は最後尾の車両が特に混雑していた。


 圭一はその混雑を避けるため、後ろから二両目に乗る事が日常となっていた。


 そして圭一の乗った銀座線が虎ノ門駅に到着した。


 扉が開いた瞬間、最後尾車両に乗っていた人々が、一気に早足で改札口へと向うが、後方から二両目に乗っていた圭一が下車する時には、流れは完全にスローになり、改札渋滞にはまってしまう。


 出社時間にはまだ余裕があるが(この混雑から少しでも早く抜け出したい)と心の中で常に思う瞬間だ。


 圭一は前を歩いている者との間隔が一瞬開いた時、目の前の通路に何か黒い物が落ちている事に気が付いた。


 軽く腰を屈めよく見ると、それが財布だと分かったので、後ろの人に押されないよう”さっと”一瞬のうちに拾い上げ(改札口を抜けてから駅員室に持って行けば良いだろうと)考え、予め持っていた週刊誌と一緒に左手に持ち、自動改札を抜けようとしていた。


 次の瞬間、それは突然の出来事だった。


 短髪でネクタイは着けていない料理人風の男が、人込みをかき分け、何時の間にか圭一の前に現れた。その男は圭一を睨み付け、次に視線を左手に持っている週刊誌へと移し、間髪入れずに圭一の左手を翻してきたのだ。


 圭一が財布を持っている事を、予め分かっていたかの様に。


 その料理人風の男は、圭一が”自分の財布”を持っている事を発見すると、わざとらしく大声で「スリだ!」と大袈裟に何度も叫んだのだ。


 地下のホームは通勤者達の足音が響き合う雑踏の中、突然の叫び声に皆が圭一達を注目した。


 すぐに拾っただけだと説明しようとしたのも束の間、急いで駆けつけてきた駅員数名にあっという間に取り囲まれ、言い分を聞いてもらえぬまま圭一は、力ずくで駅員室に連れて行かれてしまった。


 一切の自由を奪われ、その場から逃げ出さないようにか部屋の一番奥に入れさせられ、話を聞こうとするものは居らず、短髪の男とは別室状態で警察の到着を待たされた。


 数分後、所轄の刑事が5人もやって来た。


 先頭にいる一人の刑事が「お前がスリの犯人か!」と初めから決め付けた様子で、ここでも言い訳出来ぬまま手錠を掛けられ刑事達に囲まれた状態で、駅の出口階段から地上に出され、待機していたパトカーに乗せられ”新橋警察”へと連行された。


 それは一つの冤罪事件が作られた瞬間で、偽証してまでも有罪判決に持ち込もうとする刑事達の手によって『無実の人間が、被告人として裁かれようとするまで』に発展していく第一歩でもあった。


 そして、何が起きたのか理解出来ない放心状態のまま圭一は自由を奪われていたのであった。




  東京の下町で生まれ育った楠木圭一は、幼少の頃は体が弱く喘息や湿疹等で悩まされていた。そして、健康に良いと言われているスイミングスクールに通い始めた。


 小学校に入学してからは喘息も徐々に良くなり、泳ぎの実力にも自信がつき始めていた。   


 小学校のプールの授業では、同級生の殆どがバタ足を練習している頃、25メートルをバタフライ以外の泳ぎなら完璧に泳げるようになっており、高学年になってからは毎年行われる”近隣小学校対抗水泳大会”で好タイムを出し、2年連続で優勝した。


 6年生の時叩き出した平泳ぎ50メートルの記録は、未だに抜かれておらず大会記録として残っている。


 中学に入学してからも水泳部に入り活躍した。


 同級生達も、目指す進路高校を具体的に絞り始める中学3年の2学期のある日、圭一は顧問の島田先生から職員室に呼ばれた。


 それは高校進学の話だった。


 高校インターハイで優勝経験のある、全国に名だたる都内の水泳の名門私立高校から、水泳部顧問の牧野先生自らがスカウトに来てくれ、圭一は迷い無くそこの高校でお世話になる事にした。


 この頃から本気でオリンピックに出る事を目標とし、真剣に泳ぎに取り組み始めていた。


 朝練から始まり、授業が終わると直ぐに夕方の部活。夜は筋肉を付ける為のトレーニング。


 正直これ程まできついとは思っていなかったが、先輩達からこき使われる一年間を何とか我慢し、競技に集中出来る立場となった。


 だが、高校の3年間ではあと少しのところで不運もあったが、予選大会で好タイムを出すことが出来ず、満足の行く結果は出せなかった。


 しかし、部活動を3年間一生懸命行った事を認めてもらい進路先に困ることは無かった。


 牧野先生からは、大学にいって水泳を続けるように進められ、推薦で入学できる話まで頂いていたが、就職することを望んだ。


 そして現在、一部上場されているスポーツメーカーの企業に就職し、充実した生活を送っていたのであった。


 この日は特に暑い夏だった。


 学生の頃だったら夏休みも終盤を向かえ、そろそろ憂鬱になってくる八月最後の週の出来事だった。


 最近は重要な仕事も任されるようになり上司の信頼を受け、後輩からも自分では頼りにされていると感じ、気力も体力も充実し順調に暮らしていた。そんな矢先の逮捕劇だった。




 警察署に連れて行かれた圭一は、「直ぐに疑いが晴れ職場には多少遅刻をするにしても、昼過ぎには戻れるだろう」とこの時点では安易に考えていた。


 しかし、この事件が切っかけで二度と職場に復帰する事が出来なくなるとは、この時は知る由もなかった。


「今回の事件を担当する山森だ!」


 五人いた刑事の中でも一番目付きが鋭く、神経質で頭の切れそうな人物が向かいの椅子に座り話始めた。


「話をする前に説明をしておくが、お前には黙秘権が有るので喋りたくない事は喋らなくても良い。しかし、嘘は付くな」


 (別に悪いことはやっていないのだから、何で嘘なんか付く必要があるんだ!)と呟いた。


「まずは言い分を聞こう、状況を説明しなさい」


 (随分この刑事は横柄な喋り方をするな)と感じていたが、ようやく自分の疑いを晴らすべき機会を与えられたので事の顛末を包み隠さず話し始めた。


「改札口を抜ける手前で財布が落ちている事に気が付き、自動改札を抜けてから駅員室に持って行こうと考え、その財布を拾い手で持っていました。すると前に居た先ほどの男が突然近寄ってきて、私が持っていた財布が自分の物だと分かると、突然大きい声で”スリだ”と叫んだのです。当然それはあの男の勘違いなんです。」


「被害者はズボンから財布を抜き取られる感触に気が付き、後ろのポケットを右手で確認し財布が無いことを知った。すぐに後ろを振り向いたらお前がいたと言っているんだ。だから、被害者の勘違いなどではなく、実際に被害にあっているんだ」


「そんな事はありません。俺はスリなんてやってない」


 山森刑事は楠木の言い分など初めから信用していなかった。


「被害者が証言しているんだぞ!”掏られた”と。誰でも最初は言い訳や嘘をつくもんだ。まあ良い、時間はたっぷりと有る。当分此処に泊まっていってもらうからな!」


「ちょっと待って下さい、泊まるってどう言う事です?犯罪を犯していない人間を警察は留置させるのですか?早く出して下さい」


「それは、裁判官が後日決める事だ。今日は釈放できないと言っているんだ」


「それなら早く調べて下さい。直ぐに疑いは晴れるはずだ」


「調べはこれから行うが、お前は現行犯で逮捕されているんだ。自分でよく思いだしてみる事だな」


「納得行かない。せめて職場に連絡させてください」


「それは駄目だ!」


「なぜ駄目なんですか?」


「どうしてもと言うのなら、警察の方から連絡しておいてやる」


「いえ、自分で電話出来ないのであれば結構です」


疑いが晴れ職場に戻れるはずと考えていたので、警察に逮捕された事は伏せておきたかった。


 だけど何故だ?


 拾った物を持っていただけだろう。


 拾わなければ良かったのか?


 善意の気持ちで、落とし主が助かればと思ってやった行動が、犯罪になるとは、圭一は警察の強引なやり方に憤りを感じていた。




 新橋警察署三課係長山森は、電車内や駅ホームでのすり事件が多発していることから、特に警戒している真最中であった。


「楠木には余罪も考えられる。駅ホームなどに、中身を抜き取った状態で捨ててある財布に残っている指紋と、楠木のが一致するか、まずは調べろ」


 山森は、部下の刑事に指示した。


 そして、山森自身楠木には共犯者がいる可能性も今後の取調べで追求していくつもりだ。


「現在、留置する手続きを取っていますので、指紋も採取します」