『ティオフェルは橋の上』
ティオフェル「なぁペドロ?」
ペドロ「何ですか王様?」
ティオフェル「私はこの間面白い夢を見た…。未来のこの地の夢だ。」
ティオフェル「私は妙な建物に入り、アラセルバの宝石を眺めていたんだ。なぁペドロ、そなたは未来の世界に今では考えられぬ文明が成り立っていると言われたら信じるか…?」
○アラセルバ王室・学修堂
ティオフェル(19)、ペドロ(83)
ティオフェル、ノートを取りながらうとうと。
ペドロ「王様!王様!」
ティオフェル「んんっ…」
ペドロ「その様な態度ではなりませんといつもあれほど言っているではありませんか。」
ティオフェル「だって、こんな毎日毎日王宮の外にも出ることが許されず勉強勉強なんて息が集まりそうだ。頭だってボーッとするわけさ。」
ペドロ「あなたがまだ王子様だったときは多目に見ていましたが、あなたはもう一国の王なのですよ。即位してもう4年も経つのです。確りなさってください。」
ティオフェル「分かったよ。ちゃんとやればいいのだろう、ちゃんとやれば。」
真面目にノートを取り出す。ペドロ、授業を続ける。
暫く後。
ティオフェル「ペドロ、」
ペドロ「何でしょうか王様?」
ティオフェル「用を足したい。席を外していいか?」
ペドロ「もう少し我慢をなさってください。」
ティオフェル「もう無理だから言っているのだ!ペドロ、王に失禁をさせた罪は重いぞ。」
ペドロ「分かりました。嘘ではありませんね。」
ティオフェル「こんなことで嘘をつくか!」
ペドロ「分かりました。すぐにお戻りくださいね。」
ティオフェル「分かっているよ。」
ティフェル、退室
***
ティオフェル、小粋に舌を出す
ティオフェル「なんちゃってね。嘘に決まってらぁ!」
○同・寝室
ティオフェル、女装をする
ティオフェル「よし、これでオッケー。ではルル」
おかめインコを檻から出す
慎重に退室して走っていく
***
クレオ皇后、ティオフェル。ティオフェル、走ってくる
クレオ「王様!ティオフェル!」
ティオフェル「は、母上!」
クレオ「今は学業のお時間ではありませぬか。そんな格好で何処に行くと言うのです!?」
ティオフェル「ペドロの授業なんて息がつまりそうだよ。」
クレオ「ティオフェル!」
ティオフェル、遮る
ティオフェル「そんなに私の名をお呼びにならないでください。どうか、ペドロや他の者には私が忍びで外出したと言う事は黙っていて下さい。それでは…」
走り去る
クレオ「全く。」
○アラセルバ市街地・市場街
ティオフェル、竪琴を抱えて歩いている。複数の子供がいる
ルエデリ「あ、イェヌーファだ!」
クンドリ「本当だ、おーい!イェヌーファ!」
ティオフェル「あ!」
微笑む
ティオフェル「ごきげんよう。」
ユリ「僕らと一緒に遊ぼうよ。」
「また竪琴聴かせてよ。」
ティオフェル「(声色)いいわよ、分かったわ。」
近づく
ティオフェル、竪琴を弾いて子供たちと共に歌って遊んでいる。後ろの方、エゼルが立っている
ティオフェル「(声色)ん?」
エゼルを見る
ティオフェル「(声色)あの子はどなた?」
ルエデリ「あ、ケト村のエゼルだよ。たにし売りさ、あんな奴放っておけよ。」
ティオフェル(声色)まぁ酷いい言い方ね。お友達なら声をかけてあげるのが道理ってものでしょうに。」
クンドリ「あんなのお友達でもなんでもないよ。」
テオドル「そうそう、父親は謀反人だしな。罪人の子となんて一緒に遊びたくないよ。」
エゼル、しょんぼり
ティオフェル「(声色)罪人?」
ユリ「そうだよ。エゼルの父ちゃんはティオフェル王子様を殺して王位を乗っ取ろうとした重罪人なんだ。」
ティオフェル「え?」
テクラ「昔、今の王様がまだティオフェル王子さまだった頃、王子様にお仕えしていたお役人だったんだよ。エゼルも自慢してたでしょ。ね、エゼル。」
エゼル「…」
ティオフェル、エゼルに近寄る。エゼル、怖々後退り
ティオフェル「(声色)大丈夫よ、怖がらないで。貴方を苛めたりはしないわ。」
エゼル「本当?」
ティオフェル「声色)えぇ!」
ティオフェル「(声色)あなた、ブブ様とメデア様の子ね。」
エゼル「僕の、父さんと母さんを知っているの?」
ティオフェル「(声色)えぇ、よく知っているわ。私のパパとママも宮殿にいらっしゃるの。お二人とも交流はあったわ。」
微笑む
ティオフェル「(声色)ほらエゼル、あなたもこっちへおいでなさい。一緒に遊びましょ。」
ティオフェル「(声色)あなたたちも、もう過ぎた事よ。ブブ様ももう宮殿にお戻りになられて王様のご側近として働いておられるわ。だから、いつまでもエゼルの事を責めないの。」
子供達「はーい。」
ティオフェル「(声色)それでは、王女になった王子のお話をしましょうか。」
物語を語り出す。
ティオフェルM「エゼルか。まさかこの様なところで側近ブブの息子に会えるだなんて。しかもこの子、何処と無く」
千里を思い出して微かに笑う。
ティオフェルM「麻衣…千里…健司。」
○尖り石縄文公園・縄文の森
柳平麻衣(17)一人。小さな橋の上で歌いながらミルテで鎹を編んでいる。
麻衣「よし、出来たかしら?」
小さな笹舟にそれを乗せる
麻衣「素敵…」
小川に流す
○アラセルバ王室
クレオ、ペドロ
ペドロ「なんですと?王様がお逃げになられた?」
クレオ「そなたには言うなと言われたが、黙っておくわけにはいきません。」
ペドロ「又してもやられてしまった。」
クレオ「そなたもそなただ。一体王様と何年の付き合いがある?あの子の嘘も見破れないのですか?」
ペドロ「申し訳ございません、皇后様。」
クレオ「ティオフェルはもう王子ではないのです。一国を担うこの国の王なのですよ。」
やきもき
クレオ「もう、こんな事でどう民の信頼を得られましょう?あの子には国王としての自覚があるのだろうか?」
ペドロ「皇后様。」
○アラセルバ市街地
橋の上。ティオフェル、竪琴を弾いている。
ティオフェル「日がな一日のんびりと、政務から解放されたこの安らぎのひととき。あーあ、城下の民の様に暮らしたいな。」
遠くから音楽
ティオフェル「音楽だ。あぁ…今年もこの季節がやって来たんだな。」
解いた髪を編む
ティオフェルM「今年は、イェヌーファとしてお忍びで参加してみようかしら?ひょっとして以前の様に、隠された何かが分かるかもしれないわ。」
小粋
ティオフェル「この髪型も、私に似合うわ。」
○尖り石縄文公園・縄文の森
笹舟、流れていく。麻衣、踊りながら笹舟を追いかける
○アラセルバ市街地
橋の上。ティオフェル、竪琴をやめて遠くの音楽に合わせてステップを始める
麻衣、笹舟を追いかけてやって来る。お互いに気がつかない
ティオフェル「ん?」
笹舟を拾い上げる
ティオフェル「笹舟…に、ミルテ?」
そこへ麻衣、ティオフェルにぶつかる
ティオフェル「わぁ!」
麻衣「きゃっ!」
ティオフェル、足を滑らせる麻衣を助けようとして二人で川に落ちる
二人「あ!!」
ティオフェル、麻衣を抱いて顔を出す。
ティオフェル「大丈夫?怪我はないか?」
麻衣「えぇ、ありがとう。私は大丈夫よ。ごめんなさい。まさかこんなところに人がいて、こんな大きな川になっているだなんて思わなかったのよ。」
ティオフェルを見る
麻衣「え?」
ティオフェル「え?」
沈黙。ティオフェル、微笑む。
タイトル『ティオフェルは橋の上』
ティオフェル「麻衣、なのか?」
麻衣「え?」
麻衣「私の事を知っているの?あなたは?」
ティオフェル「私の事を分からないか?ひょっとして忘れてしまったか?」
首飾りを見せる
ティオフェル「これでも、分からない?」
麻衣「それ…」
麻衣「アラセルバの…と言うことはひょっとしてティオフェル?」
ティオフェル、そっと微笑む
麻衣「え、え、どいでどいで?だってここは?」
ティオフェル「アラセルバ王国だから。」
麻衣、キョロキョロ
ティオフェル「そなたこそ、ここへ一体どうやって来たんだ?」
空を見る
ティオフェル「今は昼間であろう?昨晩叉、あの日と同じ様に星に乗ってきたか?となると…」
頭を抱える
ティオフェル「どうしよう、アラセルバには何か叉災いが起きるのか?」
麻衣「失礼しちゃうわ。それじゃあまるで私のせいで災いが起きるみたいじゃないの。」
ティオフェル「いや、そんなつもりでは。」
麻衣「安心してよ、流星は見てないから。」
悪戯に微笑む
麻衣「私、ついさっきまで尖り石の縄文公園で遊んでいたのよ。笹舟を作って、ミルテで鎹を編んで…」
ティオフェル「これはそなたが作ったのか?」
麻衣「これもここに流れてきたのね。…そうよ。でも、」
麻衣「叉こうしてあなたに会えるだなんて夢を見ているみたい。」
ティオフェルに抱きつく
麻衣「私嬉しい。」
ティオフェル「私もだよ。今までに一時だってそなたの事を忘れた事はなかった。」
麻衣「私もよ…って言いたいけど、ごめんなさい。あなたから頂いたペンダントを手放してしまってからはもうすっかり忘れてしまっていたの。」
ティオフェル「手放した?」
麻衣「そうよ。初めは私も一生持っているつもりでいたわ。けどね、やはり私が持っているよりも地域の歴史調査に貢献をして、歴史の史実を、あなた方の事を知って貰いたいと思ったの。だから、考古館の展示資料室に寄贈したわ。」
ティオフェル「そうか、よく分からないがそなたの世界にアラセルバや私たちのことは残されているんだね。史実は滅びていないんだね。」
麻衣「えぇ。」
ティオフェル「アラセルバ後世に名を残している。それだけでも私は嬉しいよ。」
ティオフェル「とりあえずは麻衣、私と一緒に宮殿においで。父上と母上に…」
青ざめる
麻衣「どうなさったの?」
ティオフェル「いや、すまない。今は無理だ。」
麻衣「ティオフェル、」
にやり
麻衣「ひょっとしてあなた、何か問題を起こしたのでしょう?」
ティオフェル、ギクリ
麻衣「図星ね。全く、もういいお年の王子様がなにやってんのよ。」
ティオフェル「無礼者!私はもう王子ではない。一国の国王だ。」
麻衣、口を押さえる。ティオフェル、笑う
ティオフェル「いいよ。王とは言えど、これこそ私自身がなりたくてなった訳じゃないし、今でも王でいる事は誇りでも自慢でもない。出来る事なら一刻でも早くこんな座降りて一人の人間として、男として平凡で幸せに暮らしたいといつも夢見ている。」
麻衣「王様。」
ティオフェル「敬遠するな、昔の様にティオフェルと呼んでいてくれ。」
ティオフェル「そして、そなたと二人で城下で平凡に暮らせたらな…」
麻衣「え?」
ティオフェル「そうだ。毎年6月になると、この地域では霧の舞踏会が開かれるんだ。」
麻衣「霧の舞踏会?」
ティオフェル「そう、今年もその時期だ。麻衣、そなたも躍りに来ないかい?」
麻衣「と、とんでもない!私なんて!」
ティオフェル「舞踏はお嫌いでして?」
麻衣、乙女らしく小粋なティオフェルをこずく。
○アラセルバ王室
麻衣とティオフェル。ティオフェル、イェヌーファのまま。
麻衣「(恐る恐る)本当にいいのかしら?」
ティオフェル「大丈夫。」
入城
ティオフェル「そっとね。」
こそこそ門を通る
○同・寝室
エステリアとメデア。寝具を整えている
ティオフェル、麻衣をつれて入室
エステリア「王様!メデア、王様がお帰りになられました。」
メデア「王様!」
駆け寄る
メデア「心配なさったんですよ、どちらにお出掛けになられていたのですか!?クレオ皇后様も大層ご立腹になられているのですよ。」
ティオフェル「母上が!?そりゃ困ったなぁ…」
エステリア「王様、クレオ様に叉お叱りをお受けですね。」
ティオフェル、複雑そうにそわそわ。エステリア、麻衣を見る
エステリア「あ!」
麻衣「エステリア!」
エステリア「麻衣様!」
微笑む
エステリア「まさかこうして叉お会いになれるだなんて、エステリアは嬉しゅうございます。」
麻衣「私もよエステリア。でも、麻衣さまはやめて。私はそんな高貴な身分じゃないわ。」
ティオフェル「エステリア、」
エステリア「王様のおっしゃりたいことは分かっておりますわ。以前からの王様がお望みだった事ですものね。」
ティオフェル「あぁ。」
麻衣「?」
ティオフェル「メデア、そなたの倅にエゼルというおのことリターと言うおなごがいるだろう?」
メデア「王様、何故にそれを?」
ティオフェル「やはりそうであったか。メデア、今すぐにここにエゼルとリターを連れて来い。それとブブを。」
メデア「畏まりました。」
メデア、退室
十数分後。
メデアの声「王様。」
ティオフェル「連れてきたか。入れ。」
エゼル、リター、入ってくる。
ティオフェル「メデア、そなたは席を外してくれ。」
エゼル、リター、ティオフェルを見て目を丸くする
ティオフェル「エゼルだね。」
エゼル「お、お、お、王様…あなた様はまさか。」
ティオフェル「そう。私は先程の少女イェヌーファ、ことアラセルバの国王ティオフェルだ。」
エゼルとリター、ひれ伏す
エゼル「ぼ、ぼぼぼ、僕達に一体何のご用でしょう?先程の件で僕らをお罰しとおっしゃるのでしたらどうか命だけはお助けくださいませ。」
リター「私達は王様とは知らずに大変なご無礼を働いてしまいました。」
ティオフェル、笑う
ティオフェル「私がそなたたちを罰す?命をとる?何故その様な事をする必要があるのだ?」
エゼル・リター「え?」
ティオフェル「安心しな、罰しもしなければ殺しもしないから。」
ティオフェル「ただ、二人に頼み事があって呼び出したのだ。聞いてくれるか?」
エゼル「はいっ!」
リター「私達に出来る事でしたら何でも!」
ティオフェル「エゼルは私の小姓に、リターは小間使いになって欲しいのだ。」
ブブ「王様!?」
ツェルナとスー
ティオフェル「で、ツェルナとスーには本日よりこの、」
麻衣を指す
ティオフェル「麻衣の小間使いと小姓になって貰う。」
ブブ「王様、一体どういう事ですか?何故にこの様な卑しき民の小間使いなど。」
ティオフェル「無礼者!卑しき民だと?麻衣は卑しき民などではない。私が后にするおなごだぞ!!」
ブブ「き、お后様にでございますか!?」
麻衣「お、王様!ご冗談はお止めになってください。私など、なぜ后になれましょう?」
ブブ「そうです王様、お考え直しください。」
ティオフェル「いや、もう私の心は5年も前から決まっているのだ。」
ブブ「王様、絶対になりませぬ。あなた様はこの国の王様なのですぞ。私利私欲の恋に振り回されてはなりませぬ。」
ティオフェル「ブブ、覚えていないのか?5年前、アラセルバを窮地から救ったのは誰だ?私とこの国のために危険んを省みずに命までかけてくれたのは誰だ?麻衣にはこの国の后となる資格がある。」
エステリア「私も、私も麻衣様は国の母として相応しいお方と思います。ブブ!」
○アラセルバ王室
ティオフェル、クレオ。
クレオ「王様!ティオフェル!」
ティオフェル「はい。」
クレオ「あなたは、もう国王なのですよ。それなのに学業もサボり、町には行く。国王としての自覚がおありなのですか?」
ティオフェル「授業を抜け出したことは私も反省しております。しかし町に出て何が悪いのです?国王としてではなくきちんと変装もしているからいいではありませんか!」
クレオ「変装。それがいけないといっているのです。あなたは変装をして民の子供たちと親しくして遊んでいるそうではありませんか?あなたはそれでも本当に国王ですか?」
ティオフェル「私は王宮では王としての政務はきちんとこなしております。外に出た時、私の休息時間くらい私の好きにさせてください。」
クレオ「そうやって、あなたはいつでも勉強をサボっては遊んでいるではありませんか。あなたは普通の男の子じゃないんです。一国の王なのですよ。それは忘れませんように。それに…」
睨む
クレオ「あなたは戴冠式の日に、自身がロミルダであることを告白し、これからはおなごの格好はしない、変装して町に繰り出さないと約束をなさったじゃないですか。」
ティオフェル「だって母上、おなごになってこそ得れるものだってあるじゃないですか。」
ティオフェル「嘗て、アラセルバで戦が起きたあの日だって、女装をして町に繰り出した時に邪馬台国のポテトと偶々出会い、ポテトが私に惚れて心を開いたゆえに勝利をすることが出来たんですから。」
クレオ「とにかくティオフェル、あなたはこれからは行動を慎みなさい。それと、あなたもいつまでも独身でいてはいけません。王族足るものいち早く世継ぎを授からなければなりません。故にティオフェル」
ティオフェル「后をとれとおっしゃるのでしょう。その事でしたらご心配なく。私にはもう心に決めたものがいるのです。」
クレオ「まことか?それは誰じゃ?この国の者か?まさか、エステリアか?」
ティオフェ「いいえ、エステリアではございません。麻衣と言うおなごです。」
クレオ「麻衣?聞いた事のない名じゃ。何処のおなごか?」
ティオフェル「忘れてしまわれたのですか?以前にこのアラセルバが窮地にたたされたときにこの国を守ってくれたおなごではありませんか。」
クレオ「封印の寝台のか?」
ティオフェル「えぇ。」
クレオ「しかしティオフェル、いくら彼女を后にしたいとてそれはもう叶わんじゃろう。彼女はあの火に包まれて命を落としたではないか。」
ティオフェル「それが彼女は生きているのです。今日、私はその者を王宮に連れて参りました。」
大声
ティオフェル「麻衣、麻衣。」
麻衣、恐る恐る
ティオフェル「ほら、彼女ですよ。」
クレオ「そなたは、何処の誰じゃ?」
ティオフェル「ですから。」
クレオ「こんな卑しき者を宮殿に連れ込み、以前のものだと母に偽り、しかも后にするだと?ティオフェル、あなたは何を考えているのじゃ。」
ティオフェル「母上!」
クレオ「もうよい。その卑しき者を摘まみ出せ!ティオフェル、夜霧祭が終了次第、正式に婚礼を挙げよう。母の許嫁はもう決まっておる。こちらの言い分に従うように。」
ティオフェル「ちょ…」
クレオ「異議はありませんね。」
クレオ、退室。
ティオフェル「…。」
麻衣「王様、私…」
ティオフェル「気にするな麻衣。私は絶対にそなたを后にとる。大丈夫、母上だってきっとその内に分かってくれるさ。」
麻衣「あなたと私はやっぱり身分の差がありすぎます。あなたは一人の男性である前に、この国の王様なんですから…クレオ様の言う通り、私ごときに関わっていてはいけないのです。」
麻衣「私は何故、叉この世界に来てしまったのかは分かりません。ひょっとして叉あなたの御身に良からぬことがあるのかもしれません。もしあなた様をお救いするために再び私が派遣されたのであればそのときは私はこの国とあなた様を誠心誠意お守り致します。しかしそれ以外は…」
麻衣「私は、やはりここにはいれません。
ティオフェル「麻衣!」
麻衣「大丈夫、心配はいりません。一人ひっそりと城下で暮らしますから。」
出ていく。ティオフェル、引き留めようとする。
そこへスーとツェルナ
ツェルナ「王様、」
スー「よろしいのですか?」
ティオフェル「スー、ツェルナ。」
スー、ツェルナ、頷く。
麻衣、外へ出て歩き出す
スー「麻衣様!」
ツェルナ「お待ちくださいませ。」
麻衣「?」
振り返る
麻衣「あなたたちは?」
実の兄弟を思い出す
麻衣「しお!つむ!」
スー、ツェルナ、顔を見合わせる
スー「申し遅れました。」
深々
スー「僕は王様にお仕えしていました小姓のスーです。」
ツェルナ「私は同じく、王様にお仕えしていました小間使いのツェルナと申します。」
麻衣「ごめんなさい。スーにツェルナ、私に何か用?」
スー「王様からあなた様に御付きするようにと言われました」
麻衣「えぇ?」
ツェルナ「ですから本日より私どもがあなた様をお守り致します。」
麻衣「気持ちはありがたいけどそんなの困るわ。私は…」
スー「王様よりあなた様の事は伺っております。」
ツェルナ「王様はあなた様を愛しておられます。ですので私達も王様の大切なお方を心よりお守り致します。」
麻衣「しかし、クレオ様は私の事を嫌っておいでだったわ。見つかったらどうなるの?王様はクレオ様にお叱りを受けるし、たちまちあなたたちだって打ち首よ。」
スー「その時はその時です。僕たちは覚悟の上です。」
ツェルナ「とりあえずは王宮からは見つからぬ様に私たちの家へおいでください。そこでしたら私たち以外滅多に誰も来ませんし。」
悪戯っぽく微笑む
ツェルナ「王様にはあなた様がこの家にいることをお知らせしておきます。そうすればきっと王様はご変装なさってお会いに来るでしょう。」
麻衣「…。」
スー「では、参りましょう。」
○同・寝室
ティオフェル、一人。ぼんわり心ここに在らず
ティオフェル「はぁ…」
そこへエステリア
エステリア「王様、」
ティオフェル「エステリア、どうした?」
エステリア「王様こそ、お顔の色が優れません。」
エステリア「麻衣様の事をお想いになられていたのですね。」
ティオフェル「私はダメな王なのだろうか?平凡に暮らす民に恋をし、后に迎えると言うことはそんなにいけぬことか?」
エステリア「王様…」
ティオフェル「そなたはこんな私が恨めしくないのか?」
エステリア「え?」
ティオフェル「母上は幼き頃からの仲であるそなたを私の許嫁にと言っているだろう?」
エステリア「はい。」
ティオフェル「つまりそれは、そなたが王妃の座に就き、国の母となると言う事。」
ティオフェル「しかし私は、王であることを忘れ城下にいるおなごに、そなた以外のおなごに想いを馳せ、王妃の座に就かせたいと思ってる。彼女を忘れる事が出来ない…こんな私を憎まないのか?」
エステリア「王様の事を好きではないといったら嘘になります。」
エステリア「私も、王様のお側でいつまでも共に暮らせればどんなに幸せかと…幼き頃より王様のお側に仕え、そう思う様になりました。しかし、」
エステリア「私が望むのは王様がお幸せであられることです。嘗てのあの日より、私は王様が麻衣様の事をお慕いしていることはよく存じております。叉、麻衣様が王様をお慕いしておられることもよく存じております。」
エステリア「私は、王様の事も麻衣様の事もとても好きなのです。だからこそ、お二人に幸せになってもらいたいのです。」
ティオフェル「エステリア。」
エステリア「私も、王様と麻衣様が幸せになれます様応援致します。私に出来ることあらば何でもお手伝い致しますわ。」
ティオフェル「ありがとう。」
金星を見つめる
ティオフェル「今夜も星が綺麗だね。」
瞳が涙に光る
エステリア「王様、」
***
翌朝。メデア、ティオフェル、ブブ
メデア「王様、なりません!お母上様とお約束なされたではありませぬか!」
ティオフェル「放せ放せ!!」
ブブ「王子様!」
ティオフェル、寝巻きを脱いで女物のドレスを着る
ブブ「叉もその様な格好を…」
メデア「メデアめがクレオ様に怒られてしまうのですよ!」
そこへエステリア
エステリア「何事か?」
メデア「エステリア様、どうかあなた様からも言ってあげてくださいな。」
ブブ「本日、朝食後よりこれからの方針についての講義と弓術のお稽古があると言うのに、王様はお食事もなさらずにこれから城下に行くと聞かないのです。」
エステリア「王様にもきっと何かお考えがあるのでしょう。」
メデア「エステリア様!」
エステリア「クレオ様と王宮の者達には私が上手く話しておきます。」
ティオフェル「エステリア、ありがとう。」
化粧をしている
ティオフェル「よし出来た。これで完璧。」
エステリア「お髪は私が…」
ティオフェルの髪を結ってリボンで留める
エスエリア「出来ましたわ。」
ティオフェル「ん!」
ポーズをとる
ティオフェル「どん?私っておなごに見えるかしら?」
エステリア「えぇ王様。誰が見たってお美しいお嬢様そのものですわ。」
ティオフェル「そう?では、行ってくるわ。ブーチュ!」
窓から飛び降りる。エステリア、メデアは目を覆う
ティオフェル、辺りを警戒しながら走っていく
○アラセルバ市街地
ティオフェル、竪琴を抱えてスキップ。おかめインコのルルが一緒に翔んでいる
ティオフェル「♪町を抜け、山を抜け、王宮抜け出しアラセルバ!」
前方にイプスハイム
ティオフェル「ん?」
立ち止まってキョロキョロ
ティオフェル「何か匂うわね?」
イプスハイム「お嬢さん、」
ティオフェル「私?」
イプスハイム「可愛い娘さん、一人で何処に行くんだい?」
ティオフェル「えぇちょっと、お友だちの家よ。旦那様は?」
イプスハイム「私は今日、この町に来たばかりなんだ。邪馬台国からね。」
ティオフェル「まぁ邪馬台国から?」
イプスハイム「あぁ。この国の王室に用事があってね。」
ティオフェルM「王室に?何奴?」
イプスハイム「時に近々この国で霧の舞踏会が開かれると聞いたのだが?」
ティオフェル「えぇあるわ。」
イプスハイム「可愛いお嬢さん、もし先約がなければ私とご一緒しないかね?」
ティオフェルM「私が男で、私こそがこの国の王だとも知らないで。」
ティオフェルM「でもこいつ、なんか怪しいな。よしっと面白い。こいつにナンパされるふりをして、こいつの事を調べてみよう。」
ティオフェル「えぇ、分かりましたわ。旦那様。もし旦那様さえこんな小娘ごときで宜しいのなら、是非ともご一緒してくださいまし。」
去り際
ティオフェル「それでは叉、舞踏会の初日にハーロムの中央広場でお会いしましょう。その時までごきげんよう。」
イプスハイム「なんと美しいおなごだ…。」
ティオフェル、笑いをこらえながら歩いている
ティオフェルM「ポテトの次はあいつか。私って何て邪馬台国の男にモテるんだろう。」
○スーとチェルナの家
麻衣、スー、チェルナ
チェルナ「王様、今日の午後イディ(1時)に来てくださると言っていたのに一体どうしたのでしょう?」
スー「王様も直前になってペドロ様の授業をボウコットしたりクレオ様との約束を忘れてすっぽかしたりしているから、きっと…」
チェルナ「そんなことないわ。だって王様は麻衣様の事を愛しておられるもの。」
麻衣、赤くなって笑う
麻衣「仕方ないわ。王様はお忙しいお方ですもの…いちいち私ごときのためだけに時間なんて作れないわ。」
そこにティオフェル
ティオフェル「麻衣っ!」
麻衣「ティオフェル!あなた本当に来てくれたの?お仕事は?」
ティオフェル「メデアとブブに上手いこと言って抜け出してきた。」
麻衣「まぁ!お戻りなさい。」
ティオフェル「嫌だよ。」
不貞腐れる
ティオフェル「帰ってもどうせ勉強だろ。今日は王族会議もないんだ、勉強しているくらいならそなたと一緒にいた方がずっといいよ。」
麻衣「まぁ!」
ティオフェルをこずく
麻衣「でもあなた、今日は何用でここに来て?」
ティオフェル「ただそなたに会いに来たんだ。それではいけないか?それに、霧の舞踏会の事…」
麻衣「いいえ、いけなくないわ。でも、舞踏会…私の様な女が行けるようなものではないでしょう。」
ティオフェル「大丈夫さ。それにこれは王室で開くものではない。町民たちも貧しい民も裕福な民もみんな自由に集まって踊ったり食べたり飲んだり出来るカーニバルなんだ。」
麻衣「へぇ…」
ティオフェル「6月の半ば、ハーロム町の中央広場だ。夜中の12時になったらおいで。」
麻衣「夜中の12時?」
笑う
麻衣「私もう眠っちゃっているわ。」
ティオフェルも微笑む
○アラセルバ市街地・橋の上
ティオフェル、一人。竪琴を弾いている。
ティオフェルM「今年は麻衣がいる。私がおなごに対してこんな気持ちになったのは初めての事だ…。許せ、エステリア」
○アラセルバ王室
エステリア、窓辺に一人
エステリアM「王様のお気持ちは存じておりますわ。」
そこへエゼル、リター
エゼル「エステリア様!」
リター「ちょっと来てくださいまし、大変にございます!」
エステリア「何事だ!?」
***
別室。メデア、ブブもいる
エステリア「メデアにブブ、どうなされたのですか?」
メデア「エステリア様、王様はまだお戻りではないのですか?」
エステリア「えぇ。」
ブブ「全く、この様な大変な時に」
エステリア「一体どうなされたか?」
ブブ「イプスハイム様がお見えになられ手いるのです。」
エスエリア「えぇ!?」
○アラセルバ市街地
ティオフェル「ん、さてと。そろそろ王宮に帰ろうか?」
歩き出す
ティオフェルM「あーあ、叉もし母上に私がいないことがバレていたらお説教喰わされるんだろうなぁ。」
○アラセルバ宮殿・正門
城中が大騒ぎ
ティオフェル「ただいま。」
兵士たち「王様のおかえりぃ。」
ティオフェル「ん。」
ティオフェル去った後
兵士たち「ん?王様のお帰り?」
青ざめる
兵士たち「王様!!」
○同・王室
メデア、ブブ、クレオ、エステリア、エゼル、リター
ティオフェル「みんなしてどうした?」
クレオを見る
ティオフェル「は、母上!?」
クレオ「王よ!メデアとブブから聞きました。一体どちらにおいでだったか!?」
ティオフェル「そ、それは…」
クレオ「もしや叉、あの卑しき者のところではあるまい?」
ティオフェル「卑しき者とは麻衣の事ですか?」
クレオ「この間ここに来たおなごだ。」
ティオフェル「麻衣は卑しきものではございません!」
クレオ「では、その者の元へ行っていたと言うのですね。」
ティオフェル「…。」
クレオ「この様な時に一体王は何をやっているのです!?王室がどれだけ大変な騒ぎになっているか、王はご存じないでしょう。」
ティオフェル「大変な騒ぎ?」
メデアとブブを見る
メデア「王様、」
ブブ「イプスハイム様がお見えになられたのです。」
ティオフェル「イプスハイム?」
ブブ「あの王様の兄上様であられるイプスハイム様です。」
ティオフェル「兄上が?かて、兄上は確か邪馬台国に…」
事を思い出す
ティオフェル「あ、」
エステリア「王様、どうなされましたか?」
ティオフェル「私…会った。」
エステリア「え?」
ティオフェル「兄上に会った。」
メデア・ブブ「え!?」
ティオフェル「そう、宮殿を出てエギ通りをハーロム街へ向けて歩いている時に。私はおなごに扮していたろ?故にナンパされたんだ。」
クレオ「ティオフェル!!」
ティオフェル、クレオを遮る
ティオフェル「何か匂って怪しかったから、そいつを調べるべく誘いに乗ったんだ。そいつはこれから王宮に向かうと言っていた。」
ティオフェル「では、あの者は私の兄上だったのか!?」
○アラセルバ王室・ティオフェルの寝室
ティオフェル、あとからエゼルとリター
ティオフェル「はぁ…」
エゼル「王様?いかがなされましたか?」
リター「叉も麻衣様の事をお考えになっていたのでしょう?」
ティオフェル「…。」
リター「やっぱり。では何故に王様がお心病まれるほどにお慕いしていらっしゃる方ですのに、この宮殿にお呼びになられないのですか?」
ティオフェル「呼ぶ事が出来るのなら私とてとっくに呼んで麻衣を私のものとして迎えているさ。しかしそれが出来ぬからこうして患っているのだろう!」
そこにエステリア
エステリア「しかし王様は昔からいつでも、クレオ様にはご容赦なしに立ち向かい意を貫いてきたお方ではありませぬか?何故この肝心な時には弱気になられるのです?今こそ…」
ティオフェル「なら私に一体どうしたらいいと言う?何かいい案でもあるか?」
寂しそう
ティオフェル「たったの数日でもよい…たったの一度だけでも私はあの者と共に身分を忘れて普通の民のようにのんびりと過ごしてみたいんだ…」
エゼル「それでしたら…」
天然っぽい
エゼル「僕の故郷のケト村にハマロ山と言う山があるんです。そこにあるジプシー邸で数日お過ごしになってはいかがでしょう?」
ティオフェル「ジプシー邸?」
エゼル「えぇ。この時期は毎年空き家になっていて誰もいないんです。だからいつもその時を狙ってここはケト村の子供の秘密基地や遊び場になっているんです。」
リター「私もそれはいい考えだと思います。とても広くて王様にも心地よくお住まい戴ける事と思いますし…」
ティオフェル「しかしそんな事、母上に知れたらどうする?ブブやメデアとて反対するに決まっているであろう?」
リター「王室の事はお任せください。」
エステリア「私とリターとで上手くやっておきます。」
エゼル「ケト村には僕が伝えておきましょう。」
ティオフェル「分かった。しかしエゼル、間違っても王が泊まるとは言うんじゃないぞ。」
エゼル「分かっています。では、スーとツェルナにもすぐに書状を…」
ティオフェル「頼む。」
○アラセルバ市内・使用人の家
麻衣「え、王様から?」
スー「はい、この書状にはそう書いて…」
麻衣「バカな人…叉無理なこと計画しちゃって。どうなったって知らないんだから。」
ツェルナ「王様はきっと麻衣様にお会いになりたいだけじゃなくて、お慶びになる顔が見たいんでしょう。私には、王様がどれだけ純粋に麻衣様を愛しておられるか見てとれますわ。」
麻衣「んもぉ、いやね!」
ツェルナ「それから…」
手紙を渡す
ツェルナ「麻衣様宛にも一通お預かりしているんです。」
麻衣「私に?」
○同・麻衣の寝室
麻衣、手紙を読み返す
麻衣《親愛なる麻衣へ。元気か?といってもつい先程あったばかりだね。会ったばかりなのに何故かもう一年も会っていないかのようにそなたが懐かしい。それで、もうスーとツェルナから聞いていると思うが一月の後、満月の日の午後2時に尖りの森の入り口で待っていて欲しい。小姓のエゼルと小間使いのリターが取り計らってくれるゆえ上手い事王宮を抜け出す。だから数日、ジプシー邸で時を過ごそう。私も今悩みがあり、そなたの助けを借りたい。ではそなたを信じて楽しみに待っているよ。ティオフェル。》
麻衣「王宮を抜け出すだなんて…あなたのご身分は王様なのよ。」
笑う
○アラセルバ宮殿・一室
ペドロ、クレオ
クレオ「…と言うわけですペドロ。」
ペドロ「そ、そそそそ、そんなクレオ様!本気でその様な事をおっしゃっているのですか?」
クレオ「私はあの子の母親です、王といえどもあのような態度では一度お灸を据えてやらねばならぬ!」
クレオ「いいですねペドロ、心を鬼にして下さい。」
ペドロ「わかりました…」
○同・学修堂
一ヶ月後。ティオフェル、ペドロ
ペドロ「さぁ王様!今日こそはしっかりと授業を受けていただきますぞ。」
ティオフェル「はーい…」
ペドロ「いいですか?これも王様のこれからのためなのです。民の信頼を得る、より良い聖君となられるためのお勉強なのです。」
ティオフェル「分かってるよ。」
授業が始まる
ペドロ「では王様、まもなく我が国もギリシャとマジャールとの貿易が始まりますが…」
ティオフェル「基本はギリシャ語とマジャール語だと言いたいのだろ?それくらい私にだって分かるさ。ペドロ、私が言語学には長けている事はそなたも知っているだろう?」
ティオフェル「(悪戯っぽく)なんてったってそなたに幼い頃…」
○(回想)同・学修堂
幼いティオフェル、ペドロ
ティオフェル「これは…?」
ペドロ「全て王子様がお勉強なさらなければならぬ言語学の教科書です。」
ティオフェル「全てか?」
ペドロ「左様です。これからのアラセルバ貿易を担っていくのは王子様、あなた様なのですからペドロめは心を鬼にしてでも王子様に覚えていただきますぞ!」
ティオフェル「しかしどう覚えろと言うのだ?私はまだ国語すらわからぬのだ!」
○同・ティオフェルの寝室
ティオフェル、布団の中でうとうと
ティオフェル「ペドロ…もう眠いよ…。」
ペドロ「王子様、もう少しご辛抱下さい。今日はここまでやってしまいましょう。」
ティオフェル「んーっ…」
○同・食堂
ティオフェル「ペドロ、食事くらいゆっくりさせてくれ。これでは味も分からない!」
ペドロ「王子様、この食材はギリシャの言葉では何といいますか?」
ティオフェル「βραστά(ブラスター)」
ペドロ「それは料理の名前ですよ王子様!」
○同・露天風呂
ティオフェル、体を洗われている
ペドロ「王子様、体の部位をそれぞれマジャール語でお言い下さい。」
ティオフェル「嫌だよそんなの!何故その様な言葉も覚える必要があるのだ?」
ペドロ「胸」
ティオフェル「Mell」
ペドロ「頭」
ティオフェル「Fej」
ペドロ「足」
ティオフェル「láb」
ペドロ「手」
ティオフェル「kéz」
ペドロ「顔」
ティオフェル「arc」
ペドロ「では…」
ティオフェルを指す
ティオフェル「…!?」
真っ赤になってペドロに水をかける
ティオフェル「無礼者!!」
○同・用便所
ティオフェル「ペドロ、放せ!放せ!」
ペドロ「いいえ王子様、お放し致しません!早く学修堂にお戻り下さいませ!」
ティオフェル「逃げないよ!逃げないから!」
ペドロ「私はそれで何度王子様に騙されて逃げられたことか…今回ばかりは騙されません!」
ティオフェル「もう漏れちゃうよぉ!」
ペドロ「いけません!王子様、あなた様がまたお逃げになるおつもりだとはペドロめは存じております!」
ティオフェル「だから違うったら!」
ティオフェル、もじもじと泣き出しそうに聞いている
ティオフェル「うぅっ…」
直後、お漏らし。ティオフェル泣き出す
しばらく。メデア、着替えをする
メデア「あらあら王子様…」
ティオフェル「(泣きながら)ペドロが!ペドロが!あーん!」
メデア「意地悪な家庭教師です事。ペドロ、王子様にお粗相をさせた罪は重いですよ。」
ペドロ「申し訳ございません王子様…まさか今回は本当に…」
ティオフェル「(泣きながら)ペドロなんて大嫌いだ!あーん!」
○(戻って)同・学修堂
ティオフェル「ここまでやられたんだからな、覚えざるを得ないよ。」
鼻で笑う
ティオフェル「しかし、あの時の記憶は未だに残っているよ…ペドロ、そなたのせいで私は大変恥ずかしかったんだ。」
ペドロ「申し訳ありません…」
ティオフェル「もし今度、王になった私にあの時の様な事をさせたらペドロ、その時はどうなるか分かっているな?」
ペドロ「はい…」
ペドロ「ではお勉強を続けても?」
ティオフェル「宜しいよ。」
授業を続ける
ペドロ、鐘を鳴らす
ペドロ「では本日はここまで。王様、今日は本当によく頑張りになられました。」
ティオフェル「ありがとう。」
ペドロ「今日は特別に王様がよく頑張られた御褒美として」
羊皮紙の山をティオフェルに渡す
ペドロ「宿題をお出しすることにいたしましょう。」
ティオフェル「え?」
ペドロ「この次までにきちんとやっておく様に。もしおサボりになられれば…」
真剣
ペドロ「たとえ王様と言えど、こちらにも考えがあります。」
ティオフェル「…。」
○同・ティオフェルの寝室
ティオフェル、テーブルに向かう
ティオフェル「はぁ…こんな山ほど出されたって出来るわけないだろう!大体…この暦から見れば麻衣との約束の日は三日の後だろ?次のペドロの講義は一週間の後だろ?」
頭を抱える
ティオフェル「やれと言う方が無理な話ではないか!!」
エゼル、羊皮紙を覗く
ティオフェル「なんだ?」
エゼル「でしたらご心配に及びません。」
ティオフェル「何だと?」
エゼル「あなた様はただ筆を走らせてくださるだけでいいのです。」
ニヤリ
エゼル「この問題、僕にお任せください。王様は僕の言う通りの事をお書きくださればいいのです。」
ティオフェル「そなた…」
きょとん
ティオフェル「まさかこの問題が分かると言うのか?」
エゼル、自信満々に微笑む
数時間後
ティオフェル「ありがとうエゼル…」
延びをする
ティオフェル「しかし驚いたよ、そなたあがこの様な事を知っているとは…一体どこで学んだんだ?」
エゼル「昔父上からお聞きしたんです。」
ティオフェル「ブブから?」
エゼル「はい。父上は僕が幼い頃から難しい学問を教えてくださいました。ティオフェル王子様もこのお勉強をなさっているんだよって。」
エゼル、口を押さえる
ティオフェル「(笑う)構わぬ。なるほどね、ブブも大した息子を持ったものだ。」
ブブとティオフェル
ティオフェル「ブブ!」
ブブ「はい王様。」
ティオフェル「私の小姓のエゼルの事だが…」
ブブ「エゼルが…私の倅が何かご無礼でも…?」
ティオフェル「いや、誉めているのだ。」
ブブ「はい?」
ティオフェル「大層出来の良い大した息子に育てたな、感心したよ。」
ブブ「それは王様、勿体無いお言葉!」
深々とお辞儀
ティオフェル「ハハハ!本当の事だよ、エゼルにはいつも助けられている。」
ブブ「王様…」
三日後の朝。ティオフェル、目覚めて起きる
ティオフェル「っ!?」
アミンタ、メルセイヤ、ガーボル、フィス
ティオフェル「お前たち…一体何の用だ?」
ペドロ「王様、私達のご無礼をお許しください…」
4人、ティオフェルを束縛する
ティオフェル「ぶ、無礼者!何をするのだ!?」
○同・牢獄
ティオフェル、入れられて鍵をかわれる
ティオフェル「無礼者!何の真似だ!?ここから出せ!」
ペドロ「王様…」
ティオフェル「王にこの様な事をしてただで済むと思っているのか?」
ペドロ「クレオ様のお申し付けでございます…」
ティオフェル「母上の?」
そこへクレオ
ティオフェル「母上っ!?」
クレオ「ティオフェル、母を許せ。」
ティオフェル「何故私をこの様なところに閉じ込めるのです?私が一体何をしたと言うのです?」
クレオ「今日が何の日かご存じですか?」
ティオフェル「今日が…?」
クレオ「母がなにも知らないとでも思ったか?」
ティオフェルの手紙を取り出す
ティオフェル「あ…」
クレオ「これが何かお分かりですね?」
ティオフェル「…」
クレオ「一ヶ月後の満月の日の昼2時…つまり今日。あなたは宮殿を数日間抜け出し、イェヌーファと扮して城下へ繰り出し、あの卑しい女と密会して共に過ごすつもりだったのだろう?」
クレオ「あなたは一国を担う国王なのですよ!自分のしていることを見つめ直して暫くここで反省なさい!」
去る
ティオフェル「母上!母上!」
ティオフェル一人。キョロキョロ。
ティオフェルM「ここって…」
ティオフェルM「いつぞや麻衣達が入っていた獄ではないか?」
石の天井を見る
ティオフェルM「恐らく今は5つ時くらいだろうか?麻衣との約束までおよそ時は3つ…どうしよう、どうやってここを抜け出そう?」
○使用人の家
麻衣、スー、ツェルナ
スー「いよいよ今日ですね。」
麻衣「えぇ!」
笑う
麻衣M「王様ったら無理しちゃって…」
ツェルナ「私達も同行しますのでご安心を。待ち合わせは尖りの森入り口でよろしいのですね?」
麻衣「王様のお手紙にはそうありました。」
スー「場所はケト村のジプシー邸か。エゼルもなかなか物知りだよな。」
麻衣、腕時計を見る
麻衣「それでは…ここから尖りの森まではどれくらいあるの?」
ツェルナ「4刻位だと思います。」
麻衣「4刻…結構あるわね。じゃあそろそろ歩き出すわ、もし思った以上に時間がかかって王様を待たせてしまったらそれこそ失礼だもの。」
○アラセルバ王室・牢獄
ティオフェルM「反省って…一体どうすればここを出してもらえるのだ?用も足したくなってきた…何かいい手はないだろうか?」
○同・宮殿内
エゼルとリター、うろうろ
メデア「エゼルにリター、こんなところで何やっているの?」
二人、顔を見合わす
メデア「あなた達は王様の側近なんですから、お側にいないといけないでしょう?」
エゼル「その王様がいないんだ母上!」
メデア「えぇ?」
リター「ご寝室にもいらっしゃらないし、書斎にもいらっしゃらない…」
メデア「そんなバカな…ですて…」
そこへブブ
ブブ「私も王様がお起きになられたところを見ておりませんし、朝のご準備にも今朝は同行しておりません。それにご朝食にもいらっしゃっておりません。」
メデア「これは一大事だわ!早くクレオ様とメディオス様にもご報告を…」
クレオ「その必要はない。」
4人「クレオ様!」
クレオ「王はきちんとこの宮殿内にいらっしゃるゆえ案ずるな。」
メデア、胸を撫で下ろす
ブブ「しかしクレオ様、王様は一体どちらに?」
クレオ「牢の中だ。」
ブブ「ろ、牢って…何ゆえに?」
クレオ「少しあの子にはお仕置きが必要です。ですから自分の行いを反省するまで老に閉じ込めました。」
ブブ「なんと!?」
そこへペドロ
ペドロ「クレオ様から申しつかれ、わたくしペドロめが王様のご監禁を指示致しました。ブブ様、このペドロめを罰してください!」
ブブ「クレオ様…」
クレオ「何だ?」
ブブ「わたくしブブは王様にお仕えする側近にございます。故、せめて私とエゼルだけでも王様にお会いさせて下さい。」
クレオ「いいだろう。しかし、私の許可なしに王を逃がしたり脱獄を手助けするなどしたらその時はお前たちの命はないと思え!これは母として我が子のためにやっている事なんだ、良いな?」
ブブ・エゼル「は!」
○同・牢獄
ティオフェル一人。キョロキョロ
ティオフェルM「時はどれくらい経つんだろう?」
立ったり座ったり、うろうろしたり
ティオフェルM「母上もむごいお人だ、実の息子にこの様な仕打ちをお与えになられるとは…」
ティオフェルM「この様な状況下では、流石の私でも何も名案が浮かばない…」
隙間から外を見る
ティオフェルM「どうするか?」
ざわめきが聞こえる
ティオフェルM「外の音が聞こえるのは唯一の慰めだが…」
ティオフェルM「当時の麻衣達もこんなに辛い現実を味わったのか…。今頃になってあの時のしっぺ返しが私にまわってくるとは。」
ティオフェルM「しかしあの者達の味わった苦痛を思えば私も同じ苦しみに…」
そこにブブ、エゼル
ティオフェルM「ん?」
エゼル「王様!王様!」
ティオフェルM「あの声はエゼルか?」
ブブ「王様、いらっしゃるか?お返事をなさってください!」
ティオフェルM「ブブ!助かった!」
ティオフェル「ブブ!エゼル!」
ブブ・エゼル「王様!どちらに?」
ティオフェル「私はここだ!囚人ヨドムとシッラの近くにいる!」
ブブとエゼルが来る
ブブ「王様!一体どうなさったのですか?クレオ様から簡単なお話しは聞きましたが何があったのです?またクレオ様をご立腹させたのですか?」
ティオフェル「ブブ、それは後程ゆっくり話す。とりあえず今は助けてくれ!もう我慢が出来ない!」
ブブ、状況を察する
ブブ「王様、私におつかまりを…」
ティオフェルをおぶる
ブブ「もう少しお待ちください!」
ブブ、小走り
○同・用便所
十数分後。ティオフェル、出てくる
ティオフェル「はぁ…」
ペドロを睨む
ティオフェル「つい先日、私が幼い頃のあの事、話したばかりだろ?また同じ事をさせるつもりであったか?」
ペドロ「申し訳ございません…」
ティオフェル「ここでブブとエゼルが来てくれなければ私は…」
真っ赤になって下を向く
ティオフェル「第一母上、いくらお仕置きだからって実の息子に酷すぎます!」
クレオ「ティオフェル、そなたがいけないのだ!そなたの普段の行いが悪いゆえに母はこうしているのです!あなたを反省させるにはここまでする必要がありましょう?」
クレオ「と言うことでさぁ、ご用がお済みでしたらブブ、王様を元の牢へお連れせよ!」
ティオフェル、逃げ出そうとしている
ブブ「はっ!は?」
クレオ「はよ!」
ブブ「は!王様、大変ご無礼ながら…」
逃げようとするティオフェルを捕まえる
ブブ「お戻りいたしましょう!」
ティオフェル「母上…」
連れられていく
○同・牢獄
ティオフェル、同じ部屋に戻されて鍵をかけられる
ティオフェル「母上っ!」
クレオ「さぁティオフェル、大人しくそこで反省してらっしゃい!今回は特別でしたが次に叉、この様な事があっても出してはあげませんよ!」
ティオフェル「そんなぁ…母上、私は一国の王なのですよ!そんな民を率いる国王が…」
クレオ「あなたがご自分の事を国王だとお思いになるのでしたら、国民を前にして恥をかき屈辱を味わいたくないのなら…」
クレオ「母と王室に二度とおなごに化けたり、あの卑しい者に会ったりしないとお約束なさい!そしたらすぐにでもここから出してあげましょう。」
クレオ、戻っていく
クレオ「何をしておる!?ブブ、エゼル、そなたたちも戻れ!」
ブブ・エゼル「はい…」
エゼル、ティオフェルを気にしながら去る
エゼルM「王様…」
ティオフェル「…」
小窓を見上げる
ティオフェルM「こっちにも窓がある…。先程は気がつかなかったが、何処に通じているのだ?」
エステリアの声「王様?王様?」
ティオフェル「あの声は、エステリア?」
エステリアの声「王様、どちらにいらっしゃいますか?」
エステリアの声「おい、王様をお見かけしなかったか?」
女中の声「いいえエステリア様、今朝からお姿が見えませんの。」
ティオフェル「(大声)エステリア、エスエリア聞こえるか?私はここだ!」
エステリア「王様?」
キョロキョロ
エステリア「王様?」
走り去る。ティオフェル、小窓によじ登って外を見るが力尽きて落下
ティオフェル「あぁ…」
数十分後
ティオフェルM「陽が昇る…そろそろ7つ時か。麻衣、すまない…」
ガーボル、食事を持ってくる
ティオフェル「?」
ガーボル「王様、お食事のお時間です。」
ティオフェル「ありがとう…」
受けとる
ティオフェル「食事か…」
恨めしそうに食事を眺める。お腹がなる
ティオフェルM「腹が減った…」
空腹
ティオフェルM「しかし…」
ため息
○尖りの森入り口
2時。麻衣、スー、ツェルナ
麻衣「着いたわ。ここで待っていればいいのね?」
スー「えぇ、恐らく…」
ツェルナ「ここにいれば…」
十数分後
ツェルナ「参りませんね…」
スー「全く王様ったら、お約束をすっぽかすなど」
麻衣「仕方ないわよ、ティオフェル王様もお忙しいお方ですもの。きっと何か大切な用でも出来てしまわれたのだわ。」
山を登り出す
麻衣「いいわ、スーにツェルナは帰って王様のお側に行ってあげて。」
ツェルナ「麻衣様は?」
麻衣「私は折角ここに来たんですもの、少しこの山を登ってケト村のジプシー邸に一人で行ってみるわ。」
スー「なりません麻衣様!お一人などと…」
麻衣「あら?私は今までずっと一人で危険な場所にも行っているのよ?大丈夫、私は警察官の娘なんですから!」
○アラセルバ宮殿・牢獄
ティオフェル、失望に生き倒れ状態
ティオフェル「…」
そこにエゼル
エゼル「(小声)王様!」
ティオフェル「誰だ?」
ティオフェル「エゼル!」
エゼル「しっ!」
キョロキョロ
エゼル「大きなお声で呼ばないで下さい!僕がここにいる事はほぼ秘密なのですから…」
ティオフェル「で、何をしに来た?」
エゼル「麻衣様とのお約束なのでございましょ?故にあなた様をお助けに参りました。」
ティオフェル「え?」
エゼル、鍵穴を弄り出す
ティオフェル「何をやっている?」
エゼル「ここを出たら僕とお入れ替わり下さい。」
ティオフェル「は?」
エゼル「僕の衣装と取り替えるのです。ですから王様は僕になりきってお逃げ下さい。」
ティオフェル「しかし…」
エゼル「牢獄西の門を出るとエステリア様がお待ちです。故にエステリア様と共に湖東口の門へとお行きください。そこで姉のリータが待っています。なので彼女と共に約束の場所へ…」
ティオフェル「エゼル…」
エゼル「出来ました!王様早くお着替えを!」
ティオフェル「あ、あぁ…」
着替え終わる
ティオフェル「しかしエゼル、そなたは?」
エゼル「何れバレてしまうかもしれませんが、僕はここで王様のふりを致します。少しでも時間稼ぎ程度にはなるでしょう。」
ティオフェル「エゼル、そなたと言うやつはなんと賢い小姓なんだ!」
牢を出る
ティオフェル「恩に着るよエゼル!」
エゼル「それと…」
ルルの鳥かごをティオフェルに渡す
エゼル「これ、王様の大切なインコなのでしょう?連れていって下さい。」
ティオフェル「ありがとう。では…」
辺りを警戒しながら牢を出る。エゼル、牢に入って中から器用に鍵をかう
○同・門
エステリア「王様っ!さぁこちらへ!」
ティオフェルを案内して小走り
リータ「王様!」
エステリア「リータ、王様を頼んだ。」
リータ「わかりました。王様、尖りの森へ参りましょう!」
ティオフェル「あぁ!」
リータ、ティオフェルをつれて警戒しながら門を出る。
○アラセルバ市内・エギ通り
リータとティオフェル。通りは賑わっている
リータ「王様、この辺りでエゼルに扮していてはちょっとまずいかもしれません。エゼルの知り合いが沢山います。故…」
女物のドレスをティオフェルに渡す
リータ「これにお召し換え下さい。」
ティオフェル「叉私に女装をしろと?」
リータ「お許しください王様、しかし安全にここを抜けるにはこれしかありません。おなごに扮して私の友をお演じになってください。」
ティオフェル「わかりましたわ。でも…」
キョロキョロ
ティオフェル「どこで着替えようかしら?」
リータ「あの東谷でもお借りいたしましょう。」
ティオフェル「そうね。」
二人、東谷に入る
数分後。ティオフェル、女装をしてしおらしくしなしな。
リータ「では王…」
ティオフェル「イェヌーファと呼んでちょうだい。」
リータ「では…ではイェヌーファ、参りましょう。」
ティオフェル「敬語は不自然だわ。友達同士ならタメ口で結構でしてよ?」
リータ「は、はい…」
リータM「王様、すっかり女に成りきっているよ…私よりも女らしいや。」
二人、歩き出す
○尖りの森
麻衣、登っている。ツェルナ、追いかける
ツェルナ「麻衣様!麻衣様お待ちください!」
麻衣、立ち止まって振り向く
麻衣「あら、あなたも来たの?私一人でもよかったのに…」
ツェルナ「そんなわけには行きません!お伴致します。」
麻衣「スーは?」
ツェルナ「先程の入り口にて王様をお待ちになられています。」
麻衣「王様を…」
○同・入り口
スー、ティオフェル、リータ
スー「!!」
ティオフェル「スー!」
スー「王様!」
ティオフェル「遅くなってすまなかった。麻衣は?」
スー「麻衣様でしたら…先にお登りになられました。」
ティオフェル「なんだって!?」
スー「王様がなかなかお見えになられないものですから“王様はお忙しいお方ですので私ごときのために来られないのよ。いいわ、私一人で登る”とお言いになり…」
ティオフェル、登り出す
スー「王様!?」
ティオフェル「私は麻衣の後を追う!スー、リータ、お前たちは先に帰れ!」
スー「何をおっしゃいます?僕も共に行きます!」
リータ「私もです!」
ティオフェル「バカを申せ!ダメだ!」
リータ「いいえ王様、いくら王様のご命令と言え、それにお従いする事は出来ません。」
スー「王様をお守りするのが僕らの役目ですから。」
三キロ先
麻衣「ちょっとツェルナ!」
ツェルナ「麻衣様、もう少しゆっくりお歩き下さい…ツェルナはもうダメにございます。」
麻衣「使用人なのにだらしないわね。それじゃあとても王様をお守りすることなんてできないわよ?」
ツェルナ「申し訳ございません…」
ティオフェルの声「麻衣ーっ!麻衣ーっ!」
○尖りの森
麻衣、立ち止まる。
ツェルナ「麻衣様、どうなされましたか?」
麻衣「今、誰かが私を呼ぶ様な声が聞こえたのよ…」
笑う
麻衣「気のせいね。先を急ぎましょ!」
ツェルナ「麻衣様、それより少し休憩を…」
麻衣「んもぉっ!ほら!」
背中を向ける
麻衣「乗りな。」
ツェルナ「え?」
麻衣「こう見えても私、かなりの力もちなんだで!」
ツェルナ「しかし…」
麻衣「ぐずぐずしてると日が暮れるに!ケト村はまだまだ先なんずら?」
ツェルナをおぶる
麻衣「さぁ、行くに!」
ツェルナ「忝ない…」
数十キロ前。ティオフェル、へとへとしながら歩いている
ティオフェル「はぁ…はぁ…」
崩れ去る
ティオフェル「もうダメだ…。麻衣のやつ、こんなに歩いても行き合えぬとは…
ティオフェル「おなごゆえこの険しい道をそう速くは歩けるはずがないと思うんだが、一体何処に行ってしまったのだ?ん?」
振り返る
ティオフェル「リータ?スー!?」
リータ「王様、お待ちくださいませ…」
スー「もう少しごゆっくりとお登り下さいませ…」
ティオフェル「そなたら、こんなところまで着いてきたのか?帰れといったはずだろう?」
リータ「あなた様は王様にございます。帰れと言われあっさりとのこのこ私達だけ帰るわけにはいきません!」
スー「お供させてください!」
ティオフェル「もし私に着いてきたらお前達がどうなるか分かっているのか?私は母上に逆らって、この様に王室を無視するような行動をとっているのだ。もしこの私と共にそなたらも着いてきたら?それが母上に知れたら?」
スー「僕らは王室に背いたものとしてばつは間逃れないでしょう…」
リータ「最悪の結果打ち首になると言うことも覚悟の上です。」
ティオフェル「わかっているのなら早く宮殿に戻れ!私は、私のせいでお前達が傷付き、犠牲になるのを見たくない!」
泣きそう
ティオフェル「頼む!私は一人でも大丈夫だから…」
声を荒げる
ティオフェル「これは王命である!はよ!」
スー・リータ「王様…」
深々とお辞儀
スー・リータ「王様、申し訳ございません!」
スーとリータ、申し訳なさそうに山を降りていく
ティオフェル、再びよろよろと歩き出す
○ケト村
十数時間後。山を抜ける
麻衣「山を抜けたわ、ここは…?」
ツェルナ「ここはもうケト村にございます。」
麻衣「ケト村…」
麻衣M「現代で言うのならば今のどの辺りなのかしら?」
ツェルナ「そして目の前数キロ先に見えますのがハマロ山なんです。ジプシー邸はあの頂上ですわ。」
麻衣「分かったわ、行きましょう!」
ツェルナ「えぇ!?麻衣様…」
麻衣「少しも休まないわよ。」
勇んで歩き出す
○アラセルバ宮殿・牢獄
エゼル、王の格好をして食事をとっている。人が通る度に顔を隠す
エゼル「王様…無事麻衣様にお会いになれたかな?」
食べ終わる
エゼル「いただきました。ふぅ…」
うとうと
エゼル「お腹一杯になったらなんだか眠くなっちゃった…」
外を見る
エゼル「当たり前だよな、もう夜だもの…おやすみ。お休みなさいませ、王様…」
石の床に横たわって目を閉じる
○同・クレオの書斎
クレオ「メデア、ブブ、王からまだ連絡は入らんのか?」
メデア「えぇ何も…」
ブブ「先ほどご様子を見に行きましたところ、お食事を終えられ冷たい床の上でお休みになっておいででした。」
ブブ「クレオ様、いくらお仕置きと言えどティオフェル様は王様にあられますぞ?もしお体でもお壊しになられたらどうなさるおつもりですか?」
メデア「そうでございますよ。王様にはまだお世継ぎもおられませぬゆえ、もし王様に何かおありなら一体どなたが…」
クレオ「縁起でもない事を申すな!ティオフェルはそれほど柔ではないわ!」
メデア「しかし…」
ブブ「しかしクレオ様、王様は大層お強がりで意地っ張りなところがございますぞ。」
そこへエステリア
ブブ「エステリア様…」
クレオ「そなた、まだ起きていたのか?」
エステリア「お話の途中立ち入ってしまい申し訳ございません。しかしクレオ様、私もブブの言う通りだと…」
クレオ「なんだと?」
エステリア「王様は麻衣様の事を心より愛しておられます。ですからどうか、王様と麻衣様の事をお許しいただけないでしょうか?」
クレオ「麻衣様だと?」
エステリア「きっと王様はご自分のプライドをお捨てになってでも麻衣様との事をお守りになると思うのです…故に…」
赤くなって口ごもる
クレオ「なるほど…」
クレオ「王よ、そなたがそこまで頑固になるのならこちらにも考えがあるわ!」
クレオ一人
クレオ「それにしても本当にエステリアの言う通り、頑固な子だ…。」
(フラッシュ)
牢獄。エゼル、ぐっすり眠っている
○ハマロ山・ジプシー邸
翌朝。麻衣、ツェルナ
麻衣「わぁ…ここなのね?」
きょろきょろ
麻衣「あら?」
(フラッシュ)
現代の世界、入笠山。
麻衣「ここって…」
麻衣、微笑む。ツェルナ、へとへと
ツェルナ「麻衣様、夜中も一睡もお休みにならず歩き続けるだなんて酷いですよ…」
麻衣「お疲れ様…流石に私もごしたいわ。」
延びをして邸に入る
麻衣「少し休みましょう。」
ツェルナ「はい!」
○ジプシー邸・邸内
麻衣「見た目以上に広いのね…」
歩き回る
ツェルナ「麻衣様?」
麻衣「何?」
ツェルナ「私は王様がこちらにおいでになられるまでここにおります。」
麻衣「どう言う事?」
ツェルナ「つまり、こちらに王様がおいでになられたら私は王宮に戻りますゆえ…」
麻衣「王様がおいでにって…」
笑う
麻衣「王様はお忙しいお方なのですものきっとお見えになどなりませんわ。」
ツェルナ「いいえ、王様はなんの言伝てもなしに約束を無視されるようなお方ではございません。それに今回は愛する麻衣様とのお約束なのですものどれ程忙しくとも無視する筈がございませんわ!」
麻衣「まぁ…」
ツェルナ「きっと小姓のエゼルと小間使いのリータと共に参りますわ。」
麻衣「本当においでくだされば嬉しいわ…あ!」
藁が積まれている。
麻衣「素敵…」
藁の中へ入る
ツェルナ「ちょ、ちょっと麻衣様!?一体何を…?」
麻衣「暖かくてとっても気持ちがいいのよ。私、ここで眠るわ。」
ツェルナ「そんな…」
麻衣「お休み…ツェルナもおいでなさいよ!」
ツェルナ「ん…」
数時間後。麻衣とツェルナ、藁の中で寝静まる。そこへティオフェル
ティオフェル「やっと着いた。」
ときめく
ティオフェル「麻衣はもういるかな?」
邸内を散策
ティオフェル「なかなか広いもんだね…アラセルバでは見ない建物だ。」
ティオフェル「なるほど…」
一部屋ずつ覗く
ティオフェル「キッチン…温泉にトイレか。エゼルはこんな村で育ったんだ。」
笑う
ティオフェル「通りで品が言いわけだ。なんでアラセルバなんかに来たんだろ?この村にいても何不自由内生活が出来たろうに…」
一周回ってくる
ティオフェル「これで終わりか…誰もいなかった。」
寂しげ
ティオフェル「麻衣はここまで繰る事なく帰ってしまったのか?私のせいで…」
近くに藁
ティオフェル「藁の布団か…内装には似合わずだな…」
微笑む
ティオフェル「もうくたくただよ…今晩はここで寝かしてもらおう。夜が明けたら帰ればいい…」
藁の中に入る
ティオフェル「私一人でこんなところにいたって仕方ないしね。お休み…」
麻衣の足にぶつかる
ティオフェル「!?」
***
翌朝。麻衣とティオフェル、顔を向け合って隣同士で眠っている。
ティオフェル「ん…うぅ、もう朝か?」
目を開けてびくり
ティオフェル「うおっ!」
飛び起きる。麻衣も驚いて飛び起きる
麻衣「何っ!?」
ツェルナも飛び起きる
ツェルナ「麻衣様、如何なさいましたか?」
麻衣とティオフェル、顔を見合わせている
ティオフェル「麻衣なのか?」
麻衣「あなた様は…王様?」
ティオフェル、微笑んで麻衣を軽くハグ
麻衣「王様…」
ティオフェル「良かった、そなたが無事で本当に良かった。」
ティオフェル「麻衣、約束の時間に来れず本当にすまなかった…」
麻衣「いえ…王様はお忙しいお方ですもの仕方ありませんわ。なぜに私ごときのためにおいでになったの?お忙しいのならご無理はなさらずに…」
ティオフェル「いや、違うんだ麻衣。」
恥ずかしそう
ティオフェル「私は政務に忙しくて遅れてしまった訳じゃない…」
麻衣「え?」
ティオフェル「母上に監禁されていた…」
麻衣「監禁ですって!?」
ティオフェル「そう、なかなか母上は私の行いに大層ご立腹で、遂に堪忍袋の緒もお切れになったらしい…」
麻衣「でもあなた様はここにいらっしゃる…母上様にお許しをもらえて出してもらえたのね!」
ティオフェル「まさか!」
笑う
ティオフェル「母上は母上から折れる様なお方ではない。かといって私とて偽りの契りをたててお許し願うなんてそれこそ出来ない!」
麻衣「と言うことは?」
ティオフェル「脱走してきた。」
麻衣「えぇ!?」
呆れ驚く
麻衣「あなた様は王様なのですよ!?何を考えておいでなのですか?早く王宮へお戻り下さい!」
ティオフェル「それではなんのためにここにいるのか分からないではないか!それにこれで戻ればエゼルにも申し訳ない…」
麻衣「エゼル?」
ティオフェル「ほら、私の小姓だよ。実はこの計画はエゼルが考えてくれたんだ。」
麻衣「エゼルが?」
ティオフェル「そう…政務を忘れ、王である事も忘れて城下の民の様にひとときだけでもそなたと二人でゆったりした時間を過ごしてみたかった。」
ティオフェル「そなたからすれば平凡かもしれぬがこれは長年の私の夢なんだ…。そんな時にエゼルがこの提案をしてくれた。だからあいつの犠牲と行為も無駄にはしたくない…」
ティオフェル「あいつは私の身代わりになって今頃、牢獄の中にいるよ…」
麻衣「まぁ…」
ティオフェル「ツェルナ、いるのだろう?出てこい!」
ツェルナ、藁の中から出てくる
ツェルナ「バレてしまいましたか。」
ティオフェル「ツェルナ、お前はもう王宮に戻れ。」
ツェルナ「ただいま王様からエゼルは王宮にいるとお伺い致しました。では、ここには?スーとリータは…」
ティオフェル「二人も王宮だ。」
ツェルナ、青ざめる
ツェルナ「…と言うことは?」
ティオフェル「ここには私一人だ。」
ツェルナ、小さな悲鳴をあげる。ティオフェル、笑う
ティオフェル「何だその顔は?」
ツェルナ「でしたら王様、私は王宮に戻るなど出来ませぬ!」
ティオフェル「戻れ!」
ツェルナ「いいえ、ツェルナめもここにおりお二人の護衛を致します!」
ティオフェル「ダメだツェルナ!もしお前が私と一緒にいると母上に知れたらどうなるか分かっているのか?王宮に背いた罪で、王の脱走を手助けした罪で罰せられるのだよ?最悪な場合そなたは打ち首だ…」
ツェルナ「そんなの覚悟の上です。」
ティオフェル「何だと?」
ツェルナ「そんな事を恐れて誰が王様のお側にお遣いできましょう?もしも王様がお苦しみになるのでしたら私も共にどの様な苦しみでも受けます!」
ティオフェル、寂しげ
ティオフェル「ツェルナ…」
涙を飲む
ティオフェル「そなたの気持ちは嬉しい…しかし私はそなたたちの苦しむ姿を見たくはない!ましてや目の前で拷問を受け死に行く姿など…」
声を詰まらして俯く
麻衣「王様…」
ツェルナを見る
麻衣「ツェルナ、王様をお助けしたいのであればここは王様の言う通り王宮に戻って。」
ツェルナ「でも…」
麻衣「大丈夫。王様はこの私がしかとお守りするわ。お願いツェルナ、そうして。」
ツェルナ「はい、分かりました…。」
涙ながらに去る
ツェルナ「王様、このツェルナめをお許しくださいまし…」
***
しばらく
ティオフェル「麻衣、やっと二人っきりだね。」
麻衣「はい…」
ティオフェル「私はここ数日王ではない、普通の民だ。」
麻衣「王様…」
ティオフェル「王様と呼ぶなと前から言っているだろ?ティオフェルでいいよ。」
麻衣「はい、ティオフェル…」
ティオフェル「それから畏まった言葉も使わないで、タメグチで。」
麻衣「そんな…」
ティオフェル「頼む…今はどうか普通の男でいさせてほしい。」
麻衣「わ、分かったわ。」
ティオフェルと麻衣、恥じらって微笑む
ティオフェル「では麻衣、ちょっとケト村へ降りて町を見物してみようか?」
麻衣「はいっ!」
ティオフェル、麻衣を睨む
麻衣「えぇ!」
ティオフェル、麻衣の手をとって邸を出る
○アラセルバ王宮・クレオの書斎
クレオ「あれから一日…ティオフェルはまだ降参しないのか?王の様子は?」
ブブ「はい…王様はまだ眠っておいでです。」
クレオ「まだ?」
立ち上がる
クレオ「私が様子を見に行こう。ブブ!」
ブブ「は!」
○同・牢獄
エゼル、眠っている。そこへブブとクレオ
クレオ「王よ!ティオフェル!いい加減に起きなさい!」
エゼル「ん…」
クレオ「ティオフェル!」
エゼル「王様…」
目を覚ます
エゼル「お父上に…クレオ様?」
クレオ、ブブ、顔を見合わせる
クレオ「お父上に、クレオ様だと?」
エゼル、口を押さえる
エゼル「す、すまない…つい小姓のエゼルの言い方がうつってしまった。」
クレオ、胡散臭そう
エゼル「ところで何の用ですか?」
クレオ「そなたの心は固まったか?私にもう二度とおなごに扮して城下には行かない、叉あの卑しきおなごに人目忍んで密会はしないと約束できるか?」
エゼル「いいえ、それは出来ません!」
クレオ「ティオフェル!」
エゼル、頑固にクレオを睨む
クレオ「その目は何だ?」
エゼル「母上は、何故にそこまで麻衣を拒むのですか?麻衣を憎むのですか?」
クレオ「そなたはこの国の王なのです!王足るべきもの王妃の座に相応しきものを后に選ばなければならぬと母はいっているのです!その様なおなごの事など忘れなさい!」
エゼル「嫌です!」
クレオ「全く頑固な王じゃ!もう少しそこで頭を冷やすがよいわ!」
エゼル「(小声)クレオ様…」
お漏らし。涙を流す
ブブ「王様…」
クレオ「どうした?」
ブブ「王様が…」
クレオ「そう言う事になるのだ。どうだティオフェル、観念か?」
エゼルM「もしこのまま僕が王様のふりをしていたら、王様がお漏らしをしてしまったと言う事になるよな?そしてこの事が城の者に知られれば王様はお心傷つけられる事になってしまう…かといって本当の事を言ってしまえば王様とのお約束を…あぁ、どうすればいいの?」
クレオ「ティオフェル!」
他の囚人や使用人、エゼルを見てヒソヒソ
エゼルM「王様、お許しください!」
エゼル「お許しくださいませクレオ様!」
クレオ「クレオ様だと?」
エゼル「僕は王様ではございません!僕は小姓のエゼルです!」
クレオ「エゼル?」
エゼルを睨む
クレオ「ティオフェル!いくらこの様な事になってしまったといい、恥ずかしいゆえにエゼルに罪を被せ、エゼルを名乗り嘘をつくなど怪しからん!」
エゼル「違うんです!僕は本当に小姓のエゼルなんです!」
ポニーテールをとってほどき、洋服を脱ぐ
クレオ「エゼル?まことにエゼルか?」
エゼル「はい…」
クレオ「何ゆえだ?だったらティオフェルは何処に行った?」
閃く
クレオ「ひょっとして…」
エゼルを睨む
クレオ「ケト村のジプシー邸か?」
エゼル、目を白黒
クレオ「今すぐに使用人と兵をケト村に派遣しろ!王を宮殿に連れ戻すのじゃ!」
ブブを見る
クレオ「ブブとメデアも同行するように…」
ブブ・メデア「はい。」
クレオ「それからエゼル…」
エゼル「はい…」
クレオ「王が宮殿に戻られたら次はそなたの処罰じゃ。」
エゼル「ひぃっ…」
クレオ「とにかく、今はそなたもケト村に行く様に。場所は恐らくそなたが一番知っておろう、案内しろ。」
エゼル「はい…」
エゼル、俯いたまま。影からエステリア、リータ、ツェルナが見ている
エステリア「王様と麻衣様、どうなってしまわれるのでしょうか?」
リータ「分からないですけど、クレオ様は相当ご立腹だ…こりゃヤバイね。」
ツェルナ「そんな…」
走る
リータ「ツェルナ、何処に行くんだ?」
ツェルナ「王様と麻衣様に宮殿でのこの状況をお知らせに上がるのです!そうしないとお二人が!」
リータ「頼む!」
ツェルナ「はいっ!」
エステリア、不安げ。
リータ「エステリア様、おきを強くお持ちに。きっと大丈夫です。」
エステリア「はい…」
○ケト村・蚤の市
賑わっている。麻衣とティオフェル、歩く。
ティオフェル「素顔の私のままでこんなにのんびりできたのは生まれて初めてだ!」
麻衣「まぁ!王子様の時はのんびり出来なかったって言うの?」
ティオフェル「とんでもない!物心着いた時には既に兄上はいらっしゃらなかったから弟の私が王位後継だと決めつけられ、毎日勉強勉強、食事のマナーに竪琴と躍りの稽古、時たま外に出られたとしても猟や弓術…私が一人になれる時なんてありゃしない!」
麻衣「でも流石にお風呂やお手洗いなんて…」
ティオフェル「それが、一人じゃないんだよ…」
麻衣「そこまで?」
ティオフェル「風呂にはメデアがついてきていつも体を洗われている…一人でやるって言うのに。この年になってもだぞ!?恥ずかしいったらない!」
恥ずかしそうに咳払い
ティオフェル「私とて悩みや辛い事もある…一人になって泣きたい時だってあるのに、そんな事出来る隙ないよ!」
ため息をついて下を向く
麻衣「でもティオフェル、確かにどれも私だって嫌だけど…」
麻衣も赤くなる
麻衣「その年でおねしょをしている方を先に治すべきよ。」
ティオフェル、真っ赤になって吹き出す
ティオフェル「ぶ、無礼者!何を申すか!?」
麻衣「もう流石に治った?」
ティオフェル「…。」
麻衣「だったらお酒を控えた方がいいわね。」
ティオフェル「え?」
麻衣「だってあなた、数年前の宴の席やお食事の席でもグイグイ飲んではグテングテンになっては席を外してばかりだったじゃないの!」
ティオフェル「ま、麻衣…それは…」
麻衣「要は、おねしょしちゃうのもご用が近くなるのもお酒の飲みすぎって事よ。」
ティオフェル「そなたはっ…よくも王の前で堂々とその様な恥ずかしい言葉を…」
麻衣「あら、だって今は王様ではないのでしょ?ただのティオフェルなのでしょう?だったら何言ったって無礼講よ!」
ティオフェル「そなた、王に戻ったら覚えてろよ…」
麻衣「えぇ、覚悟の上よ。」
ティオフェル、口負け
麻衣「機嫌直してよ、今夜は私がなんか美味しいもの作るわ。」
ティオフェル「だったら私もやるよ。二人で作ろう!」
麻衣「あら?あなたは王族育ちですのにお料理出来るの?」
ティオフェル「バカにするな!こう見えても私とて料理と繕いはお手のものでね。」
麻衣「まぁ意外!期待してるわ、王様レシピ…」
ティオフェル「王様レシピ?」
麻衣「なんでもないわ。」
二人、買い物をしている。
***
(フラッシュ)
宮殿一行とクレオとエゼル、ケト村に向けて行列を作っている
○ケト村・ハマロ山
麻衣、ティオフェル、たっぷり買い込んで歩いている
麻衣「ティオフェルったらいくら安いからってこんなに買い込んで…あなた本当に王族なの?」
ティオフェル「人から聞いた。民はこうして安い日に安いものを狙っては数日分買い込むのだろ?」
麻衣「よく調べる事…」
笑う
麻衣「これがあなたの一週間分のバカンス材料って訳か。」
ティオフェル「私ではない。」
麻衣「え?」
ティオフェル「私とそなたのだ。」
麻