漆黒の色が広がる空に、月が優しい光を放ち宿に灯す
その光に、ある一人の娘が目を開ける
「ん……?」
薄暗い部屋でも、優しい月の光が伸びる、その先に襖を往復するたった一人の女の影
「誰か…居るの…?」
ぼやける視界に、その影を入れつつ、その襖に向かっておぼつかない足取りで歩く
襖を横に引けば、長い木の床に丸い窓が1つ、と言う殺風景な景色が娘の視界を支配する
「あれ…」
あの影は、見当たらない
娘は、短く溜息を吐き、少し機嫌を斜めにしながら襖を閉めようと引き戸に手を掛ける
しかし
何かが突っかえて襖が全く動かない
「あぁ…もう…なに…」
娘は、深く眉間にシワを刻みながら振り返る
「え…あ…」
血の気が引く共に、手に走る骨の芯まで、凍てつくような冷たさの手が絡みついている
「…聞…いて……」
ざらついた軋んだ声が、冷気に包まれた空気を破る
「いやぁぁぁあああ!!!」
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灰色の厚い雲が冷たい雨を、大地に多く降り注いでいる朝、一人の娘の甲高い声が雨の音を掻き消す
「だぁから!幽霊があたしの手を掴んだの!!」
声を張り上げる娘の前に、色素の薄い髪をぼりぼり掻く男は、小さく溜息を散らす
「んじゃあ…何で人一倍、霊感の強い僕が、すぐに駆けつけないんだよ…」
「それは…」
「あと、例え…幽霊だとして…人を掴む事が出来るくらいの霊力があるなら、霊感が強くないお前でもわかるだろう。」
「それは…そうかもしれないけど…」
娘は、身を乗り出していた体を戻して肩をすくめる
「じゃあ!風吹(ふぶき)これどう思う!?」
娘が、ザッと着物の袖を捲り上げた左手の手首に、赤黒い手の形がくっきり残っていた
「…どう思うって言われても困るが…言い切れるのは、それが…幽霊ではないと言うこと」
少し笑みの色を目に浮かばさせる男に対して、娘は不安の色に目を濁らす
「幽霊じゃないなら…なに?」
男は、立ち上がり着物がシュルリと擦れる音をたてる
「?W妖?Wや?W妖嵬?Wっと言ったところだろうな…」
「よう…ぎ?」
男は、娘の痛い視線を背中に感じつつ襖を横に引けば
その景色に目を見開ける
「!」
長い廊下が続く壁に、おびただしい札が所狭しと貼り付けられている
廊下を渡る人々みんなが、足を止めてその壁を見ていた
ただ一人除いてーーーーー
少女は、その群がる人混みに気にも止めず人々を避けながら廊下を渡って行った
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